本稿は車椅子バスケットボールを対象として、そのスポーツとしての「固有性」と「面白さ」がどのように達成されているかを、クラス分けというルールに焦点を当て論じたものである。ルールに関心を向ける理由としては、当事者の実践を支えているのがルールであること、またルールによって個々の行為が実践として意味あるものになるためである。
個々のスポーツの「面白さ」は、課せられた条件を戦略的に克服していく過程にある。そしてその「条件を課す」のがルールである。そのためクラス分けのルールが車椅子バスケットにおいて、どのように構成されているのかを考えることで、車椅子バスケットの「面白さ」・「固有性」も見えてくる。
車椅子バスケットボールのクラス分けは「各人のインペアメントを持ち点とみなす」という構成的ルールである。日常において「できない」とされるものを、持ち点という形で車椅子バスケットにおける「できること」へと変換する。試合中の5人の持ち点の合計が14点を超えてはならないというクラス分けの規定は、試合において持ち点の違いという形ではあるが、コート上にいる選手の身体の平等を達成してはいないといえるのである。だがこれこそチームの持ち点構成や他のルール、さらには車椅子という「固定的な幅」をも視野に入れた車椅子バスケットの戦術性を生み出し、それに伴う面白さを作りだす。
クラス分けはこの意味で、車椅子バスケット独自の「面白さ」を生むための構成的な要件であり、車椅子バスケットの「固有性」の前提を生み出しているといえることを論じる。それには、スポーツのもつ「勝ち/負け」のコード、競争という要素の存在が重要であることを指摘した。
最終的には、本稿は、記録の達成や競争での勝敗を単純に否定してしまわない、つまりスポーツのもつ「勝ち/負け」というコードを中心に据えた adapted sports の可能性を指摘する。
抄録全体を表示