本稿の目的は,米国の高等教育機関で環境学の教育制度が直面してきた課題の分析を通じて,そこに映し出されたアメリカ社会の環境問題解決への取り組み方を探ることである。アメリカの大学や大学院における環境学プログラムは,決して発展の一途を辿ってきたわけではなく,予算の制約や流行の衰退などで様々な変化を強いられてきた。そうした中で,現在も生き長らえているプログラムが具体的に,どのような特徴を備えているかを分析することは,これから環境学を活性化させようとする日本にとって有益である。
本稿では,8つの代表的な環境プログラムを訪問して,プログラムの生存に深く関係していると仮定された次の三つの問いに,それぞれの組織がどのように対応してきたのかを検討した。(1)諸学の融合や交流を促すような具体的なメカニズムには,どのようなものがあり,これまでどう機能してきたか,(2)様々な分野の教官が同居するプログラムにおいて,「コア」となる知識や技能はどのように定義され,学生に教授されてきたか,(3)既存ディシプリンとの緊張関係をどのように克服してきたか。
大学における環境学の制度化の歴史を学ぶことは,その時々の社会的背景を学ぶことでもある。アメリカで環境学が辿って来た道を検証すると,環境問題の分析と解決に貢献できる英知を学際的に結集するには,学問それ自体の洗練だけでなく,それを制度的に可能にするメカニズムと社会的風土が不可欠であることが理解される。
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