本稿は、岐阜県X町の長良川河口堰建設反対運動を担う地域住民の意志決定システムがどのようなものであるのかを、明らかにするものである。
近年、自然環境保護への関心の高まりから、環境問題が噴出する地域に様々な人々がともに協調して環境運動を担っている。その際に、当該地域に住む住民は、そこに住まない人々とともに意志決定しながら運動を展開していく。しかし、このような場合、地域住民固有の意志決定は、絶えずゆらいでくる。そこで本稿では、X町の河口堰建設反対派を対象にしたフィールドワークから、そこに住む住民が意志決定のゆらぎを修復し、より明確な意志決定を可能にした事例を考察する。
その意志決定システムは、町のなかで「町衆」と呼ばれる人物たちと、若手の実行委員たちとのやりとりによって恒常的に意志決定を可能にする。その際、両者は地元住民との「近接」によって知り得た「住民の総意」に基づいて提案・再提案を繰り返す。そして、両者のやりとりの密度は、意志決定以後の運動成員にふりかかる生活へのインパクトの度合いによって決まる。このような意志決定システムを、本稿では「町衆システム」と呼ぶ。
「町衆システム」は、一見すると一般に「根回し」的な意志決定だと受け取られやすいが、実はそうではない。なぜなら、このシステムは、若手と「町衆」だけで閉鎖されたものではなく、地元住民との「近接」を通じて地域社会に開かれているからである。そこには、直接民主制を反映した意志決定とは異なった、地域社会に固有の合理性がある。
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