本論は、環境保全、特に資源の利用と管理、保全を考える上で所有関係がどのようなかかわりをもっているのか、精神文化、社会制度、生態システムというプロセスを考える生活環境主義の立場から理念型モデルを提示し、日本やアフリカの環境問題への応用例をしめす。
最初に、所有論と環境保全のかかわりに関して本誌上での「池田・井上」論争を、「物認識」「人間社会認識」「歴史認識」という切り口から検討し、このような認識過程を問題にする意味を、「自然のとらえ方」をめぐる3つの立場、「管理主義」「保護主義」「共同体主義」の違いのなかから浮かび上がらせる。その上で、これまで「公私」二元論、あるいは「公共私」三元論でとらえられていた所有体制問題を、4種の理念型として提起する。既存の「公私」区分の軸に、主体区分としての「法人体」と「生活体」とを弁別し、「生活体私有」「法人体私有」「生活体公有」=「共有」、「法人体公有」=「公有」の4種とし、それぞれに精神文化、社会制度、生態システムの特色を提示する。
このような理念的検討の上に、所有論からみた開発問題を日本国内の事例によって提示し、所有関係だけをとりだし、環境保全に順機能するか、逆機能するか、という見方を排除し、いかに地域社会独自の環境認識、社会的意思決定、地域経営の主体性の確立プロセス、生態系保全のかかわりを視野にいれた総合的な研究と政策提言が重要であるかを提起する。
最後に、開発途上国での所有論の現れ方の事例として、アフリカ・マラウィ湖での漁業資源をめぐる生物多様性保全と住民の生活保全の葛藤という問題をとりあげ、自然の認識や資源利用規制、体制的権力などの研究の重要性を問題提起する。
そして、全体として、ともすれば別個のレベルの問題と考えられがちな地球環境問題と地域環境問題を相互補完的に理解するための枠組みを提示する。
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