環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
17 巻
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巻頭エッセイ
特集 循環型社会の形成と環境社会学
  • 金沢 謙太郎
    2011 年 17 巻 p. 4
    発行日: 2011/11/20
    公開日: 2018/11/20
    ジャーナル フリー
  • 湯浅 陽一
    2011 年 17 巻 p. 5-18
    発行日: 2011/11/20
    公開日: 2018/11/20
    ジャーナル フリー

    1990年以降,政府は循環型社会形成推進基本法や容器包装リサイクル法などの制度を整備し,「循環型社会の形成」を主要な政策課題としてきた。環境経済学などではこれに呼応し,循環型社会の形成方法やリサイクル・システムを主題とした研究が積極的に展開されてきたが,環境社会学では,このテーマを正面から取り上げた研究は少なかった。これは,環境社会学における廃棄物問題研究が,有害物質による環境や人体への悪影響や都市と地方の格差など,被格差・被支配問題の視点から展開されることが多かったのに対し,政府による「循環型社会の形成」という課題設定が,経営問題としての側面をもっていたためである。本稿では,環境社会学においてもこの課題に対する研究を積極的に行うべきであるという立場から,環境社会学の視点から可能となるアプローチについての検討を行う。そのために,まず,容器包装類のリサイクル・システムと,このシステムに組み込まれている拡大生産者責任(EPR)を取り上げ,これらの特徴や課題について環境経済学的な視点をふまえながら把握する。次いで,こうして把握された諸点と対比しながら,社会システム論と社会的合理性という2つの視点を軸に,環境社会学によるアプローチの有効性を示していく。

  • 篠木 幹子, 阿部 晃士, 小松 洋
    2011 年 17 巻 p. 19-34
    発行日: 2011/11/20
    公開日: 2018/11/20
    ジャーナル フリー

    本稿では,自治体レベルの社会的合理性(マクロな社会的合理性)を追求した結果として現れるごみ分別制度と,個人レベルの社会的合理性(ミクロな社会的合理性)の結果として現れるごみ分別行動に焦点をあてる。そして,ごみ分別制度の特徴と都市規模という2つの視点から特徴的なごみの分別制度をもつ宮城県仙台市,岩手県釜石市,愛知県名古屋市,熊本県水俣市の4都市において実施した調査データを使用し,自治体レベルの社会的合理性と個人の合理性は一致しうるのかどうかについて検討する。分析の結果,コスト感や無効感,フリーライド志向など,社会的ジレンマ状況を導くような価値観をもつ人ほど,ごみ分別の協力度が低い傾向がみられたが,環境問題に対する関心や規範意識がこれらの価値観を抑制する可能性をもつことも明らかになった。また,住民に手間をかけさせるような制度設計は,はじめから否定されるものではなく,施行時に工夫を凝らせば一定の効果をもつ可能性が示唆された。ただし,そこで必要なのは,「社会全体」といったよりマクロな視点において当該制度によって「よい」環境が維持できる,あるいは当該市(社会)にとって望ましい状況が達成できるといった環境の向上を含めた社会的合理性であり,それが住民に理解されれば,自治体の社会的合理性と住民の社会的合理性が合致し,問題の解決につながる可能性があると考えられる。

  • 織 朱實
    2011 年 17 巻 p. 35-52
    発行日: 2011/11/20
    公開日: 2018/11/20
    ジャーナル フリー

    1999年に制定された「容器包装リサイクル法」も施行から10年を迎え,2回目の改正に向けての検討に入った。容器包装リサイクル法については,自治体が担わされている現在の収集費用負担が過度であるとの指摘と同時に,自治体回収の非効率性の問題も指摘されている。また,自治体の負担が増大する中で,PETボトルのように資源市場の変動により有償化が進んでいる素材もあり,再商品化に関わる事業者の負担が減少するという状況も生じている。容器包装リサイクル法のもとでの家庭から排出される廃棄物と事業系廃棄物の分類の困難さや,取り扱いの差異も問題とされている。さらに,国内において再生品の市場の成長が不十分であること,リサイクル市場を支えるリサイクル業界自体が安定性を欠いていること等,法施行後10年でリサイクルをめぐりさまざまな問題が表面化している。こうした問題については,まずは,①発生抑制を促進するための方策,②リサイクルに関して,a. より高度なリサイクルを促進するための方策,b. より効率的なリサイクルを促進していくための方策,③現在あるリサイクルシステムを安定的に運営していくための方策に整理したうえで対策を検討する必要がある。本稿は今回の改正にあたって従来の容器包装リサイクル法の枠組みを超えた本質的な改正議論が行われなければ,その本来の目的である「廃棄物の発生抑制」が達成されないという認識のもとで,わが国に先駆けて容器包装リサイクル制度を構築してきた欧州の政策動向をここ数年の現地調査の結果を踏まえて整理し,わが国の今後のあるべき容器包装リサイクルシステムの検討に資することを目的としたものである。

  • 金 太宇
    2011 年 17 巻 p. 53-66
    発行日: 2011/11/20
    公開日: 2018/11/20
    ジャーナル フリー

    中国では,廃棄物の処理問題が急速に表面化するとともに,将来的な鉱物資源の枯渇に対する懸念のため,再生資源への依存が高まっている。そうしたなか,中国政府は再生資源の有効利用を促進するために,再生資源回収業の市場管理を重点とした,リサイクルシステムの構築を進めている。中国政府による再生資源回収業への支援や奨励政策の拡充によって,再生資源回収業が発展するための基盤が整えつつあるが,具体的なリサイクルシステムの構築においては,さまざまな矛盾や対立を抱えている。本稿では,瀋陽市の再生資源回収業者に対する実証的研究を行い,廃棄物回収者における二分化現象,ならびに,再生資源の流通ルートにおける国家主導のリサイクルシステムと業界主導のサブ・リサイクルシステムという2つの異なる系統の存在を明らかにした。このような矛盾や対立を生じさせたのは,地域間格差による貧困問題やリサイクル政策におけるシステム設計の不十分さと深く関連がある。今後,中国が効率的なリサイクルシステムの構築を実現するためには,廃棄物管理システムの改善にとどまらず,貧困構造からの脱却へ向け,都市と農村を分割する戸籍制度の廃止,出稼ぎ労働者の就業支援の拡充,産業構造の転換などが不可欠である。

  • 西谷内 博美
    2011 年 17 巻 p. 67-80
    発行日: 2011/11/20
    公開日: 2018/11/20
    ジャーナル フリー

    インドでは集めたゴミをどう処理するのかということ以前に,各家庭からいかにゴミを集めるのかということが難題である。ところが,この難題を克服している住民の自治活動が一部の富裕住区に見られる。行政はこれに注目し普及を試みるが,その優良モデルの汎用性は実際の現象としても,理論的に類推しても限定的である。本稿では,その優良モデルと,ゴミが散らかっている一般的なゴミ処理実践を比較して,前者が成立する条件を明らかにする。そのことにより,優良モデルの即効性ある特効薬としての限界を指摘し,同時にこのモデルがインドの家庭ごみ収集問題に与えるより実践的な意義を探究する。

  • 土屋 雄一郎
    2011 年 17 巻 p. 81-95
    発行日: 2011/11/20
    公開日: 2018/11/20
    ジャーナル フリー

    多様な利害関係者による討論フォーラムをつくる政治を実現すれば,リスクをめぐる紛争が暫定的に解決するというたいへん説得力をもった見方がある。理性的な対話を保証するための手続きは,各地での環境紛争を経験するなかで,社会的に制度化され洗練されてきた。

    本稿が考察の対象とした,企業誘致的な発想で候補地を公募し合理的な手続きによって適地を選定する手法は,コミュニケーションの形式にもとづいて,実践的な討議を経て意思決定を実現する可能性を開いたといえる。それらの制度的洗練からは,環境リスクの配分にかかわる社会的決定の仕組みの定着を読み取れるかもしれない。しかしながら,制度はプロセスによって実現する。したがって,そのプロセスにおいて,紛争に向き合わざるをえない人びとが抱える多様なバックグランドやノイズが均質化され,彼らの抗いの意味が合理的に脱色されてきたとすれば,規範化された制度の正当性がいかに称揚されようとも,それは,地域社会の現実に開かれた実践解とはならない。コミュニケーションの形式は,廃棄物処理をめぐる環境紛争の解決を図る対抗的分業のなかで「正義の強者」となって地域社会のまえに現れるだろう。公募形式をめぐっては,迷惑を「地域振興」に読み替え,地域社会の「自己決定権」を鼓舞したとしても,それらを必要とする側が向き合わなければならない責任を低めることにほかならないとすれば,政治的な審級の及ばない討議の空間を作り出し,個別の地域社会と全体社会との連帯を困難にするだろう。

  • 谷口 吉光
    2011 年 17 巻 p. 96-110
    発行日: 2011/11/20
    公開日: 2018/11/20
    ジャーナル フリー

    今日「循環型社会の形成」というと廃棄物問題の文脈で語られることが多いが,もともと循環型社会論は大量生産大量消費経済によって停滞・分断されてしまった地球の物質循環を復旧し,多種多様な生物の生存を可能にする安定した生態系を創出しようという文明論的な意味をもったテーマである。本稿の目的は循環型社会論の本来の文脈を再確認し,そこで得られた環境社会学への示唆を検討することである。

    原義の循環型社会論をもっとも体系的に展開したのはエントロピー理論である。エントロピー理論による循環型社会論の特徴は①物質循環と生態系を一体として理解していること,②地球の健全な物質循環を破壊する人間活動を制限する必要性を明言していること,③大量生産・大量消費社会を推進する市場経済を徹底的に批判し,それに代わるものとして「非市場的な人間活動」「生命系の経済」の重要性を主張していること等である。

    原義の循環型社会論は一部の有機農業研究を除いて環境社会学ではほとんど展開されてこなかったが,環境社会学に対して次のような新たな研究フロンティアを示唆している。①「物質」と「循環」に関する認識の大幅な拡大による新たな研究テーマの発見,②物質の移動に関わる社会関係の連鎖を記述することによって,別々に扱われていた諸問題の連続的・包括的な認識を可能にする研究,③循環させてはいけないものの研究,④未来社会への転換に関する研究である。

論文
  • 池田 恵子
    2011 年 17 巻 p. 111-125
    発行日: 2011/11/20
    公開日: 2018/11/20
    ジャーナル フリー

    近年注目されるようになった防災の課題の1つに,災害における被害のジェンダー格差がある。男女は,災害への備え,被災直後の対応や復興などの各場面で異なる経験をし,異なる防災ニーズをもち,時として被害の程度にも男女差が見られる。それは,災害脆弱性と復元=回復力がジェンダー化されて構築されるからである。

    本稿では,今日とりわけ発展途上国・地域において防災施策の中心をなす住民参加型の地域防災が,災害脆弱性のジェンダー格差を克服する可能性を検討する。地域防災とは,地域の災害リスクを軽減し災害に強い地域社会をつくることをめざし,地域住民が地方行政などとともに地域の災害脆弱性と復元=回復力を特定してこれを改善または強化する多様な活動をさす。

    バングラデシュ東南部のサイクロン常襲地チョコリア郡で実施された5種類の地域防災事業に関し,①女性が地域防災の主体として関わることへの地域社会による承認,②男女の異なる災害経験や防災ニーズについての地域社会の認知,③災害脆弱性のジェンダー格差解消という課題が地域防災事業にどのように取り込まれているかについて明らかにした。調査結果に基づき,防災が地域の開発から切り離されて地域社会に持ち込まれるのではなく,暮らしや日常の開発事業に関連づけられて導入されるとき,ジェンダー化された災害脆弱性が地域防災の重要な課題として認識され取り組まれる可能性が高いという結論を得た。

  • 茅野 恒秀
    2011 年 17 巻 p. 126-140
    発行日: 2011/11/20
    公開日: 2018/11/20
    ジャーナル フリー

    1997年の河川法改正は,河川管理の目的に河川環境の整備と保全を加え,河川整備計画への住民意見の反映プロセスを導入した点で画期的な転換と期待されたが,各地の河川事業の現場で問題の解決をもたらしているとは言い難い。本稿は,河川法改正は河川行政の転換をもたらしたのかという問題設定に基づき,長良川河口堰をめぐる社会紛争に端を発した1997年の河川法改正の政策過程を研究対象とし,課題設定に影響を与える問題状況や課題意識などに着目して分析を行った。法改正の焦点となった河川環境保全と河川事業実施プロセスの透明化は,河川行政と自然保護運動が相互作用を行うアリーナの中で政策議題設定され,法改正に結びついた。一方で,河川技術官僚の課題意識には,「安全」が規範の核として位置づいており,河川行政における環境政策と事業実施プロセスの透明化は,従来からある「安全」を至上命令とした課題群の序列構造に矛盾しない形態での選択的内部化が行われている。このような構造のもとでは,流域の安全にかかわるメタ政策レベルでの変革を行わなければ,河川行政の転換には結びつかない。

  • 金城 達也
    2011 年 17 巻 p. 141-155
    発行日: 2011/11/20
    公開日: 2018/11/20
    ジャーナル フリー

    本稿は,地域社会の環境管理における主体の正統性が,自然とのかかわりによって形成された規範意識によって保証されていく過程を考察するものである。

    事例地となる沖縄県国頭村楚洲集落では2008年から地域おこし事業が展開された。

    事業では,サンゴ礁漁業によって形成された規範意識が現在における正統性を保証する要因のひとつとして利用されていることが明らかになってきた。

    本稿では,自然とのかかわりにおいて形成された規範意識がなぜ現在の地域環境管理における主体の正統性を保証するものになり得たのかという問題関心に対し,自然-社会の関係性の曖昧さという観点から考察するものである。

    その結果,楚洲集落のサンゴ礁漁業におけるメンバーシップや収穫物の分配方法の曖昧さが,規範意識や集落内外の社会関係を築くために重要な役割を担っていたことが明らかになった。また,その関係性の曖昧さゆえに,現在における地域おこしにおいても主体の正統性を保証するものとして有効性をもっていることが明らかになった。

    正統性の議論では,他者排除性の軽減や試行錯誤を保証するしくみの重要性が課題とされる場合がある。本稿で扱う事例のような関係性から生み出される正統性には,他者排除性を軽減するしくみや,試行錯誤を保証するしくみが備わっている可能性がある。

  • 保坂 稔
    2011 年 17 巻 p. 156-170
    発行日: 2011/11/20
    公開日: 2018/11/20
    ジャーナル フリー

    ベルリンやハンブルクなどが革新的な都市といった評価を受けるのに対し,バーデン・ヴュルテンベルク州は保守的な州とされる。なかでも州都シュツットガルトを中心とした地域はシュヴァーベン地方とされる。大規模駅開発「シュツットガルト21」(以下,S21と略)が発表されて以降,同地方において初めて大規模で継続的な反対運動が生じた。本稿は,インタビューの際に聞かれた「根気よく取り組み発明する」(Tüftler und Erfinder)という地域的精神を手がかりにし,多くの団体が参加し継続的になされているという特徴をもつS21反対運動の背景を考察することを目的とする。シュヴァーベンのフレームに基づいた衣装,笛吹きや技術的講演などの工夫は,非シュヴァーベン出身者が反対運動に参加することを容易にしている。

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