本稿は、アジア地域の環境問題のフィールド調査において得られた知見を一般化するためには、コンテクストとしての世界システムにおける歴史的、空間的な位置を考慮にいれる必要があることを、主としてフィリピン・レイテ工業団地というフィールドでの知見を利用しつつ、論証するものである。
工業団地の立地は、地域を資本主義世界経済に巻き込み、環境破壊とあいまって、実体的な経済部分を縮小させ、農漁民層を貧困へと追い込む。それは、大衆社会的消費様式の世界的普及という事態によって昂進され、被害住民の職業移動、地域移動を促す。
次に、工業団地の中核をなす銅精練所の事例からみると、アジアの産業公害において日本企業の関与は間接化しつつある。また、銅の輸出先は、日本から他のアジア諸国へとシフトしており、環境問題の受益‐受苦関係が、先進国と途上国の間だけでなく、途上国間にも広がっていることが読みとれる。
さらに、世界システムの急速な拡大は、途上国において、種々の環境問題を同時多発的に引き起こすことになった。これに対して、システムの周辺に位置していたことも一因として成立した権威主義的な政治体制が、地方自治、運動を抑圧してきたため、政府、自治体、運動といった解決主体の対処能力の成熟が遅れている。
このように、現代アジアの環境問題においては、加害構造、被害構造、解決主体、いずれの面においても、コンテクストとしての世界システムによる規定性が存在しており、それを無視した知見の一般化は問題が多いのである。
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