鋼製構造物において, 金属材料の耐食性, 防錆性を向上させるため, 腐食に強い材料がクラッドとして表面に肉盛溶接されて使われる. このようなクラッド鋼材からなる構造物の健全性を維持するため, き裂の進展を予測する必要があるが, クラッド鋼材は異種材界面を含むので, き裂評価において界面き裂, アンダークラッドき裂や異種材界面を跨ぐき裂などを扱う必要がある. また, 接合の方法および組み合わせ材料の機械的性質の差異によりき裂の進展挙動を解明することが困難である. Nagai らは加圧水型原子炉の底部計装筒の J溶接部や沸騰水型原子炉の制御棒駆動ハウジングの肉盛溶接部での疲労き裂進展評価に資するため, ASTM 基準に基づくクラッド付き CT 試験片による疲労き裂進展試験を実施している. その結果, き裂の進展挙動が母材とクラッドのそれぞれの疲労き裂進展特性に依存し, 進展き裂の前縁形状が非対称となることを明らかにしている.
本論文では, クラッド付き CT 試験片の疲労き裂進展試験を対象として, ヘビサイド関数だけを拡充した 3 次元レベルセット XFEM を用いたき裂進展解析手法およびその結果を示す.
本論文における解析においては, まず, 要素と独立にモデル化されるき裂前縁形状に対して, 領域積分法を用いて J 積分を評価し, 応力拡大係数範囲 ΔKI に変換する. パリス則に基づいて異種材界面をまたぐき裂の形状を更新し, それぞれの領域における前縁形状を 3 次のベジェ曲線によって平滑化する. なお, クラッドを横等方性材料として扱い, き裂前縁における応力拡大係数範囲 ΔKI を, 漸近解を利用した M 積分を用いずに J 積分から直接評価する方法を用いる.
疲労き裂進展解析の結果として, 試験片の幅方向の ΔKI の分布が, クラッド側と母材側におおいてそれぞれ均一となり, き裂がほぼ平坦な前縁形状で進展することを示した.
また, 実験結果のように試験片の幅方向に非対称なき裂進展挙動が模擬できた. さらに, クラッドを等方性材料として扱う場合のき裂進展解析も実施し, クラッドの材料物性の変化がき裂全体の形状およびき裂進展速度に与える影響を考察している.
今後は, 進展き裂の形状や, き裂さと荷重サイクル数との関係について, 解析と実験との詳細比較をする予定である.
抄録全体を表示