伊勢湾における1970–2020年の漁獲資料から平均栄養段階(MTL)と多様度指数(H′)により生態系構造を把握した.また,各水産資源の生物特性を考慮した生物生産力を漁業生物生産指数(FPI)として用い,これらの変動要因として基礎生産力と水温を検討した.総漁獲量は長期的に減少し,2010年頃からシャコやマアナゴ等の減少とマダイやヒラメ等の増加により漁獲物組成が変化した.H′に傾向は見られなかったが,MTLは長期的に上昇し,FPIは2014年頃から低下した.相関分析よりMTLとFPIには基礎生産の指標とした全リン(TP)の減少,MTLには水温上昇も含めた影響が示唆された.FPIを応答変数としたGLMでは1年前と3年前のTPが説明変数として選択された.近年ではボトムアップ効果により内湾依存種の減少と餌料環境の変化から大型魚類の分布域が変化し,生態系構造が変化していると考えられた.また,生産効率の高い種から低い種への転換により,伊勢湾の生物生産力は低下していると考えられた.
大阪湾における底生魚類群集構造とその変動要因を明らかにすることを目的に,2014年から2016年の2, 5, 8, 11月に大阪湾内の20定点において小型底びき網(石げた網)による採集調査を実施した.各定点における魚種組成を基にクラスター分析した結果,定点は5グループに区分され,湾東部から湾西南部にかけて漸次的に魚種組成が変化していた.最も湾東部のグループでは個体数密度と溶存酸素量との間に正の相関,水温および酸揮発性硫化物との間に負の相関がみられた.湾西南部のグループでは個体数密度の変化に季節性や環境要因との関係がみられなかった.1990年代に同様の方法で実施した調査結果と比較すると,優占種の構成種はほぼ同じであったが,構成比には変化がみられ,1990年代に採集されたにもかかわらず,2010年代にはほとんど採集されなかった魚種もみられた.内湾域の底生魚類群集は底質環境に適応して構成されていると考えられる.