本件は2024年1月17日の英国最高裁判所の最新共同海損判例である。2010年10月30日に中東を東航中の船舶がAden湾で海賊に強取され,船主が身代金US$7,700,000を支払い,10ヶ月後に船舶と貨物そして乗組員は解放された。船主は受荷主に共同海損分担金を請求したが,荷主側は,出荷主が締結した航海傭船契約に基付き当該航海の戦争危険割増保険料を支払ったので,身代金はその保険金で対応すべきであるとして,共同海損の分担を拒否した。仲裁に付託され2020年1月8日に荷主有利の判断が出されたが,上訴され,高等法院,控訴院,最高裁判所で何れも船主が勝訴した。本件では海賊に支払われた身代金の処理が航海傭船契約と船荷証券との合体問題に絡めて俎上に上ったが,本稿では「共同海損と身代金の支払い」について特記する。共同海損は船舶と貨物に加え「人命救助も成立要件の一つである」ことを明らかにし,更に英国裁判所での「公判」と「判例公開」についても解説して,この二つに関する我が国のあり方に関する私案を提示したい。
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