保険学雑誌
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2008 巻, 601 号
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「保険金等の支払いをめぐる再検証問題」―平成19年度大会シンポジウム―
  • ―平成19年度大会シンポジウム―
    藤田 楯彦
    2008 年 2008 巻 601 号 p. 601_7-601_12
    発行日: 2008/06/30
    公開日: 2010/10/05
    ジャーナル フリー
    保険業の保険金未払い問題に関するシンポジウムの原則は,この問題が歴史的に繰り返され,世界の各地で類似事件が生じている可能性を念頭に置きながら,報告者が各自の立場から分析することである。とくに保険商品は前受け金によって成り立つ商品で価値循環が転倒している。この保険の特殊性を踏まえながら再発防止への取り組みや提案が必要になる。また,価値循環転倒商品ほど品質保証やコンプライアンスが重視され,このような産業では不祥事の有無とは無関係に,コンプライアンスを疑われること自体が経営危機を招きかねないので,保険業経営者の組織全体への目配りのできるガバナンスと顧客サービスの再吟味が必要である。
  • 岩瀬 泰弘
    2008 年 2008 巻 601 号 p. 601_13-601_32
    発行日: 2008/06/30
    公開日: 2010/10/05
    ジャーナル フリー
    保険金支払漏れは保険事業が自由化以降抱える本質的な問題が表面化したものである。第一は保険特性の問題である。独占的競争市場における安易な類似商品の開発は,業界全体の商品ブランド価値を低下させ消費者利益を置き去りにする。第二は過度の株主重視経営の問題である。経営目標として過度にROEを追うことは,利益優先による人員削減がもたらすコーポレートガバナンス機能の低下や募集態勢の脆弱化のみならず,縮小均衡経営による純率精度の低下を引き起こす。第三は経営者の意識改革の問題である。金融の自由化が進む中,今後保険業界が健全なる発展を遂げるには,資産が抱えるリスク量の適正な把握と,それに対する負債と資本の適切な管理および効率的な運用を図ることが求められる。
    これらの課題を克服するには,「資本コストを意識した経営管理指標の導入」と,それを支える「料率秩序の再構築」が急がれる。
  • 宮地 朋果
    2008 年 2008 巻 601 号 p. 601_33-601_52
    発行日: 2008/06/30
    公開日: 2010/10/05
    ジャーナル フリー
    保険金等の支払い問題は,件数の多寡や性質の相違等はあるものの,損害保険業,生命保険業を問わず,また,保険会社や共済など団体を問わずして発生した構造的問題であることが指摘される。本稿は不払い等の問題が特に顕著であった医療保険に焦点を当て,その商品開発および販売体制における問題点を検討する。そのうえで,契約者保護に必要な視点として,消費者の意識改革の重要性を論じる。
  • 出口 正義
    2008 年 2008 巻 601 号 p. 601_53-601_69
    発行日: 2008/06/30
    公開日: 2010/10/05
    ジャーナル フリー
    監督当局のオフサイト・モニタリングの課題は,保険会社でなく保険契約者等の生の声に耳を傾け,そこから保険会社の業務運営の問題点を早期に発見し,早期に是正することが重要である。すなわち監督当局が直接苦情対応を行なう必要がある。先進各国で行なわれており,日本でそれを妨げる事由はない。この苦情対応による問題の早期発見が監督当局の手腕(苦情分析能力)の見せどころであるともいえる。
    保険商品はいわば法的商品であるがゆえに一般大衆には分かりにくいものである。また,保険契約が長期のものであるがゆえに一般大衆はその内容を忘れがちとなる。請求漏れを防止するには,保険契約者,被保険者だけでなく,保険金等を受け取るべき者,すなわち一般大衆にとって,保険の内容はできるかぎり明確かつ平易で,簡素なものである必要がある。監督当局の商品審査のあり方を見直す必要がある。
  • ―平成19年度大会シンポジウム―
    2008 年 2008 巻 601 号 p. 601_71-601_94
    発行日: 2008/06/30
    公開日: 2010/10/05
    ジャーナル フリー
  • ―募集教育の再考―
    濱田 裕介
    2008 年 2008 巻 601 号 p. 601_95-601_108
    発行日: 2008/06/30
    公開日: 2010/10/05
    ジャーナル フリー
    損害保険会社の「保険料の過徴収問題」は,特定の損害保険会社でたまたま発生した問題ではなく,「保険自由化」から始まった保険商品の多様化,複雑化,そして過当な効率化競争や販売競争が引き起こした損害保険業界全体が関係する事態として社会に受け取られ,その結果,各社は,抜本的な募集業務の改善および保険商品の改定,簡素化に取り組むことになった。
    しかし,損害保険契約の入口で発生した「保険料の過徴収問題」については,その要因としてあげられる募集態勢や保険商品の問題の発生源が,損害保険会社が,その保険事業者としての特性ゆえに,保険の募集に携わる者に対して実施してきたこれまでの募集教育にあるのではないかと考えられる。
    本稿では,損害保険会社の「保険料の過徴収問題」の要因発生源としての募集教育について再考し,本来そこから培われるべき募集倫理と,そのあるべき姿について考える。
  • 小林 篤
    2008 年 2008 巻 601 号 p. 601_109-601_127
    発行日: 2008/06/30
    公開日: 2010/10/05
    ジャーナル フリー
    米国で発展した,慢性疾患の患者・患者予備軍の集団に対し,合理的統合的継続的なアプローチによって集団の疾病リスクを低減させる疾病予防支援サービス事業について,保険事業の保険技術の観点から検討した。合理的統合的継続的なプロセスとして,対象とする患者集団を特定する「患者集団の特定」,患者集団に属する者のリスクの程度を判断し,リスクの大きさに応じてグループに分ける「階層化」,階層化したグループ別に患者と医療プロバイダーへ「働きかけ」を行い,どのような効果をあげたか測定する「効果測定」,再アセスメントして継続するプロセスがある。これらのプロセスには,保険事業で形成された保険技術と同じ機能を有する技術が使われている。保険事業の事業形態に関し,保険事業において蓄積された保険技術が応用可能な領域が存在している,リスクの引受分散を行う事業とリスク低減を行う事業を統合する事業形態の可能性があるなどの示唆が得られる。
  • ―規制緩和後の日本の保険グループの生産性評価―
    久保 英也
    2008 年 2008 巻 601 号 p. 601_129-601_148
    発行日: 2008/06/30
    公開日: 2010/10/05
    ジャーナル フリー
    保険業法の改正を受け誕生した日本の保険グループは,横並びで形成されたものが多く,規制緩和の効果を生かしきれていない。生命保険会社は子会社による生損保兼営より本業特化による縮小均衡を,損害保険会社は個人年金シフトなど利益効率より売上重視の経営を選択したものの,確率的フロンティア生産関数が示す生産性の推移は芳しくない。
    同時期にEU 統合など日本以上に規制緩和と国際競争にさらされた欧州の保険会社は,グループ化を軸に明確な経営戦略を打ち出すことにより高い成長性を確保している。日本の保険会社は約10年の遅れを背負うものの,幸いにも競争体力は有しており,新たな保険グループ戦略を再構築すれば,再び成長性を確保できる。
  • 梅田 篤史
    2008 年 2008 巻 601 号 p. 601_149-601_168
    発行日: 2008/06/30
    公開日: 2010/10/05
    ジャーナル フリー
    本稿では社会科学的ジェロントロジーの定義の明確化と問題解決の指針・手段といった実践科学としてジェロントロジーが利用されるための可能性、そしてこれらと保険との関連についての考察を行っている。
    前者について社会科学的ジェロントロジーは,「老いにより発生する問題に継続的に対処するための理論(研究)である」と定義付けをおこなった。また老いにより発生する様々な現象(出来事)の多くはリスクを伴うということと,これらに対して継続的な対処が必要とされることから,社会科学的ジェロントロジーはリスクマネジメントの手法を採用することがより適当であると考える。
    後者のジェロントロジーと保険との関連については,今後の保険契約者への経済面と心身の健康の維持を促進するためのカウンセリング・サービスの実施や既存契約の保険金給付から現物給付への見直しだけではなく,民間主導の新たな高齢者向け保険の開発などの必要性がある。
  • 山崎 尚志
    2008 年 2008 巻 601 号 p. 601_169-601_186
    発行日: 2008/06/30
    公開日: 2010/10/05
    ジャーナル フリー
    本研究では,わが国における損害保険会社の株主資本コストの推計を行っている。1990年以降の損害保険会社の株主資本コストについて,CAPMおよびFama and French3ファクター・モデルを使って推計を行った結果,以下のことが明らかとなった。(1)CAPMによる推計資本コストは検証期間で一貫して低下していく傾向にある一方で,FF3Fによる推計資本コストは計測初期を除いて5~6%で安定していた。(2)保険業法が改正された1996年前後に注目すると,規模要因およびBPR要因の感応度に大きな変化が見られた。業法改正等による規制緩和の影響が,損保業のリスク要因に大きな変化を及ぼしていたことが推測される。
  • ―政治的誘因か経済的誘因か―
    曽 耀鋒
    2008 年 2008 巻 601 号 p. 601_187-601_206
    発行日: 2008/06/30
    公開日: 2010/10/05
    ジャーナル フリー
    日本統治時代の台湾において生保はかなり普及していた。その理由について,多くの台湾人研究者は,総督府が政策的に台湾人の生保加入を奨励したこと,すなわち,政治的誘因が強く働いたことを主張している。このような主張に対して,本稿は,戦時体制期以前(1905年~1937年)の台湾生保の成長について,市場メカニズムが働いた結果として生じたことを,当時の新聞,日記,統計データなどの一次史料を駆使して明らかにした。この時期の台湾人の生保加入の動機は多様であり,義理,人情による場合,高額な冠婚葬祭費用を用意するためという場合,さらに特殊な文化要因と称すべき場合などが存在した。このように多様な加入動機が見られる一方,激しい契約獲得競争が繰り広げられたこの時期の台湾生保市場は,総督府の指導による政府主導型ではなく,自由経済のメカニズムが働いていたと言えるのである。
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