保険学雑誌
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2008 巻, 602 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
【査読済み論文】
  • ―真宗信徒生命を中心に―
    深見 泰孝
    2008 年2008 巻602 号 p. 602_1-602_30
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    明治20年代に,各宗仏教団体を中心とするか又は宗教団体を背景とする生命保険会社が続々と設立されたことは,わが国の生命保険業史上における特徴の一つに挙げられている。わが国で仏教教団が生命保険事業へ進出した理由を解明するには,個別の仏教系生命保険会社の内部史料を用いて分析することが必要となる。本稿では,真宗信徒生命に関与した本願寺の『定期集会筆記』という議会議事速記録を用いて,真宗信徒生命の設立理由を検討した。その結果,キリスト教に対する危機感を幕末・維新期から醸成していた本願寺教団が,外国人の内地雑居を目前に控え,キリスト教対策の慈善事業費を調達することを目的として設立された会社であることを明らかにした。そして,その中心には,赤松連城や島地黙雷といった留学経験のある役僧がいたことが明らかとなった。
  • 諏澤 吉彦
    2008 年2008 巻602 号 p. 602_31-602_49
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    近年,衛星通信技術を利用して収集した被保険自動車の走行距離・場所・時間帯に関する情報に基づいて保険料が決定されるPAYD 自動車保険が導入されている。この保険は,契約当事者間の情報不均衡によって生じる保険契約者の逆選択およびモラルハザードの問題を縮小し,自動車保険の市場効率性を高める効果があると期待できる。いっぽうで,その運営にかかるコストはいまだ十分に低いとは言えず,このことが保険会社,保険契約者双方の負担をかえって重くするおそれがある。さらに深刻な問題として,保険会社間の競争圧力の存在が,コストを省みない過度のリスク細分化へとつながる可能性もある。PAYD 自動車保険をはじめとするリスク細分化に際しては,過大な運営コストにより市場効率性が損なわれることがないよう,公的規制の整備または保険会社間の調整など,なんらかの対策が必要であると考えられる。
  • ―大正期中央生命の濫用的買収未遂事件を中心として―
    小川 功
    2008 年2008 巻602 号 p. 602_51-602_67
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    第一生命など現代相互保険会社が目指す株式会社化・上場の先には当然に敵対的買収のリスクが潜む。平成12年に自称「投資ファンド主宰者」がホワイト・ナイトを装って資本参加した直後に,社金を詐取し破綻させた大正生命事件は記憶に新しい。株式会社が主流であった戦前期生保業界では二・三流以下の“虚業家”的資本家による濫用的買収・乗取りが横行,契約者持分収奪の弊害も少なくなかった。本稿では相互組織の中央生命で,基金を大量に肩代りし乗込んできた買収者を役員に受入れるも,「万事に抜目なき」社長が「それとなく警戒し,社の印などは絶対に渡さず,有名無実の専務取締役として置」き,本人の醜聞暴露を機に徹底的に排除したというリスク管理の成功例を紹介する。同様に高官との人脈等を誇示して新進実業家を気取る“虚業家”を「助言のプロと思い,パートナーとして信頼」し切って一任した大正生命の脇の甘さと好対照をなす。
  • 亀井 克之
    2008 年2008 巻602 号 p. 602_69-602_88
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    フランス保険市場では,1960年代に直販相互保険会社(MSI)がリスク細分型自動車保険を開発して以来,さまざまなマーケティング上のイノベーションが導入されてきた。既存サービスとの差異化に基づくイノベーションはやがて業界標準となり,結果として市場における顧客の利便性を大きく向上してきた。これを「マーケティング・イノベーションの市場貢献モデル」と呼ぶ。2006年から2007年のフランス保険企業の動きからも引き続き同様の傾向が確認された。一方,フランス版の内部統制規範に準拠して,フランス保険企業はリスクマネジメント体制を構築している。英米独とは異なる独自性を発揮するフランス保険企業の動きは,我が国に示唆を与えうる。
  • ―累積的な保険加入を伴う不正入院の事案との関係を中心として―
    宮根 宏一
    2008 年2008 巻602 号 p. 602_89-602_108
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    不正入院等のモラルリスク事案への対応のために用いられている各種の法的手段については,要件解釈上の不明点があるが,広義及び狭義の不労利得の目的,不正請求等の目的,広義の利得禁止原則,保険金額の過度の累積,等の各概念の相互の関係を整理することや,各法的手段の性格(瑕疵ある意思表示を行った当事者保護のための一般法理か,公益的な見地からの法規整か,保険独特の問題状況への対応のために政策的判断によって設けられた制度か)を意識した検討を行うことによって,それらの不明点をある程度解消することができる。
  • ―会社法,金融商品取引法および保険業法の交錯と実務対応―
    中出 哲
    2008 年2008 巻602 号 p. 602_109-602_128
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    保険会社は,保険業法に基づく監督行政のもとで内部統制の仕組を構築してきたが,加えて会社法と金融商品取引法上の内部統制対応が求められた。保険会社では,これまでコンプライアンス,リスク管理,CSR,顧客保護対応などの取組を実施してきたが重複も生じつつある。会社法は,内部統制関連の各種取組を再整理するうえで有益な枠組を与え,金融商品取引法の内部統制は,実務プロセスを変革する有効な手段となる。新たな要請を前向きに受け止め,企業経営に積極的に活かしていくことが重要である。
  • ―新保険法の構造分析の視点―
    村田 敏一
    2008 年2008 巻602 号 p. 602_129-602_148
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    本年5月に成立した新保険法では,一定類型の保険契約につき,多くの片面的強行規定が導入されるとともに,全契約類型に適用される任意規定と絶対的強行規定に関しては,その仕分けが解釈に委ねられた。本稿では当該仕分けにつき,幾つかの手法を併用しながら確定作業を行うとともに,三つの規律の相互関係を包括的に分析することにより,保険法の構造を解明する手掛りを得ることとしたい。
  • 羽原 敬二
    2008 年2008 巻602 号 p. 602_149-602_168
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    9.11の米国同時多発テロリズムでは,保険市場の引受け能力不十分と再保険処理能力の縮小によって,保険市場は機能不全に陥った。テロリズムリスクの処理については,リスクファイナンシング手法として,保険市場だけでなく,資本市場にリスクを転嫁するAlternative Risk Transfer(ART:代替的リスク転嫁手法)を用いた対応が考えられ,特に間接被害に対しては有効な手段となる。具体的には,保険デリヴァティヴ,Catastrophe Bonds(大規模災害債権),キャプティヴ,大規模災害リスクスワップ(Catastrophe Risk Swaps/Swaption),大規模人的災害債権(Mortality Bonds)などの利用が検討されるが,政府の一定の関与を必要とすることも認識されているため,テロリズムリスクの特質に基づき,新しく開発されたリスク処理手段を提供する可能性と問題点について考察した。
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