九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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  • 長ヶ原 真奈美, 榊間 春利, 長谷場 純仁, 宮崎 雅司, 中尾 周平, 木村 宏市, 野島 丈史, 井尻 幸成, 小宮 節郎, 米 和徳 ...
    セッションID: 51
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    腰部脊柱管狭窄症(Lumbar Canal Stenosis: LCS)は脊椎、椎間板の変性を主体とする高齢者に多い疾患である。治療には保存療法あるいは手術療法が行われ、臨床現場でも関わりの多い疾患の一つである。手術による背筋損傷、外固定などにより、傍脊柱筋の筋萎縮が生じやすく、術後の背筋力の低下はADLと密接に関係しており、できる限り手術による侵襲を少なくして術後の傍脊柱筋の萎縮を起こさずに、ADL能力を向上させることが大切である。そこで今回、腰椎低侵襲手術を施行されたLCS患者の術前・術後の多裂筋線維断面積を計測し、筋萎縮の程度を評価した。また、筋線維横断面積が疼痛とADLに及ぼす影響を検討した。
    【対象】
    LCSと診断され、筋肉温存型腰椎椎弓除圧術(Muscle-preserved interlamina lumbar decompression: MILD)を施行され、学会等の発表に承諾を得た11例(男性:10例、女性1例、平均年齢70.8±9.3歳)を対象とした。術前と術後3週のCTあるいはMRI画像より、病変部位の多裂筋横断面積をScion image softwareを使用して計測した。疼痛やADL scoreはカルテ情報収集と問診により評価した。またADL scoreは日本整形外科学会腰痛疾患治療成績判定基準(JOA score)の日常生活動作項目を使用し点数化した。統計学的検定には対応のあるt検定、スピアマンの順位相関係数を用いて行い、危険率5%未満を有意とした。
    【結果】
    術後は全例疼痛が減少した。多裂筋横断面積は術前と比較して有意な減少を認めなかった。術前の多裂筋横断面積は、8症例において、疼痛優位側の多裂筋横断面積が反対側と比較して有意に減少していた。また、両側の多裂筋には脂肪様組織の増加による筋萎縮が観察され、特に疼痛優位側で著明だった。多裂筋横断面積の小さい症例ではADL scoreが低い傾向にあった。
    【考察】
    術後早期の多裂筋の萎縮はなく、手術による影響は認めなかった。しかし、術前のLCS患者の多裂筋の萎縮は左右差を生じ、特に、疼痛優位側の萎縮が著明であった。これは、老化による廃用性筋萎縮だけでなく、疼痛抑制や反射抑制による筋萎縮が示唆された。また、多裂筋の萎縮はADLの低下と関係していることが示唆された。今回、術後早期に多裂筋断面積を計測しており、今後は症例数を増やし長期的に観察していきたい。
  • 鈴木 佑介
    セッションID: 52
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
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    【はじめに】
    近年、コアコンディショニングの道具としてストレッチポール(以下SP)が広く取り扱われている。そこで今回はSPをリハビリの1つとして捉え、それに加えて股関節外転位下肢伸展挙上(以下外転位SLR)を用いることで歩行改善を目的に評価からアプローチを行い良好な成績が得られたのでここに報告する。
    【事例紹介】
    70代、女性。診断名:腰椎分離辷症、腰部脊柱管狭窄症(L3-4椎弓切除+固定術)、現病歴:H19年1月頃から右>左の腰・殿部痛、下肢の痺れと間欠性跛行出現。8月頃他院受診し手術適応となる。
    【評価】
    1.外転位SLR(屈曲45°外転30°):左側は体幹の不安定感もなく、右骨盤の挙上左回旋も軽度。右側では左骨盤の挙上左回旋が見られ、体幹の不安定感あり。
    2.SP上SLR:左側は体幹をSP上で安定させスムーズに挙上を行うが、右側は挙上初期より股関節内転し、右側に骨盤より転倒。
    3.歩行[右遊脚終期(以下TSw)⇒右初期接地(以下IC)]:左側に比べ右側では振り出し時の骨盤左回旋が少なく、歩幅も狭い。また、重心も後方に残存。
    【アプローチ】
    1.体幹回旋訓練
    2.SP上体幹回旋訓練
    3.SP上SLR
    【結果】
    1.SP上右SLR:若干股関節内転は残存するが、胸郭~骨盤を安定させ下肢挙上可能。
    2.歩行[右(TSw)⇒(IC)]:振り出し時の骨盤回旋、歩幅ともに訓練前より大きくなり、体幹も安定し重心前方移動可能。
    【考察】
    本症例は、術後に大きな機能低下がないにもかかわらず歩行時、右TSw⇒ICにかけて不安定感が見られた症例である。この周期での体幹筋の役割として、鈴木らは『上肢の後方への振り出しに伴い、胸郭は骨盤の回旋方向とは反対側に回旋する。この時、同側の外腹斜筋は胸郭の回旋に対するブレーキング作用として働く。』と報告している。今回は歩行時のこの働きを評価する方法として、股関節外転位SLRとSP上SLRを考えた。股関節外転位SLRでは、まず股関節外転挙上により挙上側下肢の位置エネルギーが上昇し、それに伴い下肢挙上側方向へ骨盤回旋運動が生じる。その回旋運動を抑制するために挙上側内腹斜筋・非挙上側外腹斜筋は等尺性収縮により拮抗する。それに対して挙上側外腹斜筋・非挙上側内腹斜筋は床面に接している非挙上側下肢・骨盤・体幹を介して逆方向に運動を制御することで胸郭~骨盤の安定化を図っているのではないかと考えられる。この時の体幹の働きが歩行におけるTSw~IC時の体幹の働きと類似しているのではないかと考えた。さらにSP上でSLRを行い、支持基底面を脊柱のみに制限することで、床面でのSLR以上に腹斜筋群制御による体幹安定化が必要となり、より実際の歩行に近づいた評価からアプローチへ繋がるのではないかと考え、その結果、今回良好な成績が得られた。
    今後の課題としては症例の予後やSP使用による術側脊椎への負担等の課題があると考えている。
  • 松木田 康太, 山下 導人
    セッションID: 53
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
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    【はじめに】
    高齢者の転倒は脊柱、四肢の骨折、特に大腿骨頚部骨折等、歩行、生命予後に関して負の因子をもたらすことが多い。
    転倒要因として外的・内的因子がとりだたされるが、内的因子である脊柱変形、特に円背に注目し重心の位置、移動との関連性を検討したので報告する。
    【対象】
    当院通所リハ利用者の円背群7名、平均83.1±5.1歳。対象群10名、平均27.2±19.8歳。
    【方法】
    項目:円背指標、Functional Reach Test(FRT)、重心動揺(総軌跡長、95%信頼区間での算出された楕円面積、前後成分、左右成分)、重心位置、重心移動(95%信頼区間での算出された楕円の長さ)
    方法:円背指標はX-P上で1.第7頚椎椎体の中心と2.仙骨上面の中心、3.頂椎の中心3点を決定。1.2.間の距離をIとし、3.からIへの垂直線をHとする。直線1.3.とHのなす角をα、直線2.3.とHのなす角をβとし、α+βを円背指標とした。FRTは利き手上肢、前方のみ計測した。重心動揺はZebirs社製Foot Printを用いて60秒間の静止立位を保持し、両踵部を付け計測。重心位置は静止立位時で接地足底面の前後の最長から百分率により算出した。重心移動はFRT時にFoot Printを用いて計測。
     分析:1)円背群と対象群における各々の有意差を検討した。2)すべての各項目間においてPeasonの相関関係を危険率5%で行った。
    【結果】
    1)すべての検査項目において有意差はみられた(P<0.05)
    2)円背群、対象群ともに有意に相関
    ・円背群
    円背指標:左右成分(r=-0.76)
    ・対象群
    円背指標:左右成分(r=-0.68)
    円背群のみ有意に相関
    円背指標:総軌跡長(r=-0.89)、総軌跡長:左右成分(r=0.82)
    FRT:左右成分(r=-0.77)
    【考察】
    脊柱後弯における重心は健常人よりも前方にあり、歩行、移動時には不安定性をもたらすことが予測される。円背指標、FRT、重心移動、重心位置の比較・検討を行った。重心位置において円背群は対象群に比べ重心位置が後方に存在した。円背指標とFRT、楕円の長さ、前後成分との相関関係はみられなかったが、円背群、対象群ともに円背指標と左右成分との間に有意な相関関係がみられた。円背群では静止立位時にて左右への重心移動が強くみられ、重心安定性の股関節による代償と推測される。
     長谷によると、足関節には背屈モーメントが作用し、下腿三頭筋により身体が前方へ倒れることを防ぎ保持している。これらより円背群は重心位置が後方にあり、後方へ転倒する傾向にあり、歩行時では後方にある重心を前方に移動させ歩行し、下腿三頭筋により重心を保持できないと前方へ転倒すると示唆される。
     今回、姿勢保持筋である下腿三頭筋、股関節内・外転筋等の検討はしなかったが、次回測定とともに筋群に対する転倒へのアプローチを行っていきたい。
  • 三川 浩太郎, 本田 俊介, 加島 真理, 尾崎 淳子, 藤本 春菜, 井田 貴之, 村上 史八, 大田 八重美, 木村 和也
    セッションID: 54
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
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    【はじめに】
    椎体変形を有する高齢者では、椎体にかかる荷重バランスが増大し、続発性の骨折が生じやすくなることやQuality of Life(QOL)が低下すること、そして死亡率が高まることが報告されている。しかし、無症候性の場合が多い椎体変形は、その存在を認識されにくいこともあり、姿勢、運動機能への影響に関しての報告は少ない。そこで、本研究は、椎体変形を有する数により筋力、バランス機能、歩行速度、脊柱可動性、脊椎後弯角、脊柱の傾斜、過去の転倒歴の有無に差があるかどうかを検討した。
    【対象と方法】
    腰背部痛を有する患者103名(75.2±8.2歳)を対象とした。椎体変形を有する数により椎体変形が無い群を正常群、椎体変形が1~3個存在する群を椎体変形少数群(少数群)、4つ以上存在する群を椎体変形多数群(多数群)とし、正常群、少数群、多数群の3群に分類し比較検討した。筋力は、握力計を用い利き手の握力を測定した。バランス機能の指標として片脚立位保持時間を測定した。歩行速度は、10m全力歩行時間を測定した。胸椎後弯角、腰椎前弯角、脊柱の傾斜、脊柱可動性の測定は、スパイナルマウス(Index社製)を用いて測定した。また、脊柱の傾斜は、スパイナルマウスで測定できる立位中間位での鉛直線に対する全脊柱の傾きとした。転倒歴は、過去の1年間における転倒の有無を対象者より聴取した。椎体変形の数は、単純レントゲン写真を読影し形態計測法で椎体の前方(A)、中央(C)、後方(P)を計測し、今回は、Genantらの分類に従い、A/P比およびC/P比が0.8以下の椎体を椎体変形有りとした。なお、単純レントゲン写真の撮影は、診療および治療目的で医師の指示のもと放射線技師によって撮影された。統計解析は、椎体変形の数を要因とする一元配置分散分析と多重比較にて解析した。
    【結果】
    正常群(22名)、少数群(54名)、多数群(27名)の3群間を比較し、有意差を認めた項目は、
    1.正常群と少数群との間においては、胸椎後弯角、脊柱可動性だった(p<0.05)。
    2.少数群と多数群との間においては、身長、胸椎後弯角だった(p<0.05)。
    3.正常群と多数群との間においては、身長、胸椎後弯角、歩行速度、片脚立位保持時間、脊柱可動性、脊柱の傾斜だった(p<0.05)。
    4.転倒歴に関して、正常群は9%、
    本研究の結果において、正常群に比べ多数群は、身長低下、胸椎の後弯増強、歩行速度、バランス機能および脊柱可動性の低下、重心が前方変位していることと、椎体変形を有する数が増加すると、より身長の低下、胸椎の後弯増強、そして転倒リスク増加につながることが推測された。椎体変形が姿勢、運動機能に及ぼす影響を理解し、適切に対処することが転倒予防につながる可能性が示唆された。
  • 山崎 博喜, 古田 幸一
    セッションID: 55
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
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    【はじめに】
    頚椎症は退行変性疾患であり、整形外科領域の中でも頻度の高い疾患である。症状緩和と慢性疼痛の二次的障害に着目し、保存的理学療法を施行した。
    【症例紹介】
    年齢:68歳 性別:女性 5年前に頚椎症と診断される。疼痛増強の為、リハビリ処方となる。一日二回痛み止めを服用。画像所見:C5,6 C6,7 C7,8に狭窄。骨棘の変性、椎間板狭小化が見られる。
    【評価】
    疼痛テスト
    安静時痛:前鋸筋部、棘上筋部、斜角筋部にピリピリする痛みや違和感 VAS6/10
    運動時痛:屈曲40°右側屈・回旋30° 左側屈・回旋約40°で斜角筋部に違和感 VAS6/10
    姿勢観察:矢状面:頚椎下部と上部の屈曲後彎  ASISとPSISの高さ:3横指
    整形外科テスト:Adsonテスト・Edenテスト・ROOSテスト:陽性
    腱反射:減弱 握力:左15kg SPO2:94% 表在感覚:皮節でC3~TH1部位に鈍麻
    ROMテスト:屈曲40°伸展35°側屈40°回旋50°
    【経過及び考察】
    痛みの原因は、神経根症状が混在しているものの、慢性痛で再現性に欠ける事などから、神経変性や循環障害が関与していると考察し、二つの要因に対しアプローチを行った。
    一つ目の要因は、神経内外におこる浮腫や浸出液などの循環障害である。頚椎症により骨の退行変性みられ、神経内外に対し機械的ストレスとなる。よって周辺組織に炎症、循環障害が出現する為、神経系の運動性・伸張性の低下や神経伝導障害より痛みが生じる。これらに関与する可逆的な病的メカニカルインターフェイスに対して、相反神経による頚部伸筋活動を促す為に、頚部屈筋群に対してのStretchとプロテクトPNF(ALPHA TRINITY社)で深層筋収縮を促した。結果、斜角筋部の違和感はVAS3/10に減少した。
    二つ目の要因は、腕神経叢部の絞扼性神経障害である。整形外科テストより斜角筋症候群や肋鎖症候群が疑われた事から、腕神経叢の絞扼により神経変性が起り、循環障害を生じていると推察した。頚椎後彎姿勢で神経根症状を回避した結果、腰椎を過剰に前彎し頚部の運動を代償している。また、下位頚椎の可動性低下に伴い斜角筋群は短縮し、安静時呼吸からも頚部屈筋群が強く収縮する。それが絞扼性神経障害を助長する為に、疼痛自制内で頚椎の生理的前彎の再獲得を行なう。座位より踵骨でstretch Poleを下肢長軸方向へ押し、頭部は体幹長軸への運動を骨盤中間位保持で行う事でコア・ユニット機能獲得より代償動作軽減を図った。その後、頚椎の伸展運動を行ない、頚部前方筋群のSelf Stretchや頚部伸筋と肩甲骨周囲の神経筋再教育を施行した。結果運動時痛はVAS3/10となり、握力18kg、SPO2は98%と改善された。
    【まとめ】
    疼痛軽減は図れたものの痛みや痺れは残存しており、今後も慢性疼痛に対する保存的理学療法の有効性を検討していきたい。
  • -呼吸機能改善と離床に向けて取り組んだ急性期理学療法の一例-
    長谷場 純仁, 池田 聡
    セッションID: 56
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    今回当院に救急搬送され、頸髄腫瘍により四肢麻痺、人工呼吸器管理となった一症例に対し、呼吸機能改善と離床に向けて実施した理学療法とその経過について報告する。なお、報告については本人および家族に同意を得た。
    【症例紹介】
    30歳代、女性。診断名は頸髄硬膜外髄内腫瘍(C2-C5)。立位困難と呼吸困難から救急搬送され入院となった。手術は椎弓切除術、後方固定術が施行された。術後自発呼吸困難で気管切開され人工呼吸器管理となった。術後3日から理学療法開始となった。
    【呼吸療法】
    理学療法開始時、意識レベルは清明、呼吸管理はSIMV+PSで呼吸回数14回/min、PEEP 3cmH2O、PS 12cmH2O、FiO2 0.35と設定された。呼吸筋に対する促通運動、胸郭のモビライゼーション、排痰を中心に行った。しかし、自発呼吸が少なくほとんどが人工呼吸器の強制換気でなされ、呼吸苦を強く訴えることがしばしばみられた。呼吸苦の強い時は、呼吸介助を行うことで呼吸苦が緩和され、看護師にも呼吸介助法を指導し適宜実施してもらった。術後2週で、意識すれば自発呼吸が可能となり、術後30日から理学療法施行中のみ呼吸回数の設定を変更し、自発呼吸の回数を促す練習を行った。また、日中空いている時間を利用して、人工呼吸器のモニタを自分で見ながらVt値を指標に自主呼吸練習を実施した。術後75日より理学療法施行中のみPSをPEEPと同じ値まで下げて呼吸練習を行った。転院時術後119日ではほとんどが自発呼吸となったが、設定はSIMV+PS呼吸回数8回/min、PEEP 5cmH2O、PS 10cmH2O、FiO2 0.21であった。
    【運動療法】
    術直後は完全四肢麻痺の状態となり、四肢の関節可動域運動と促通運動を行った。術後1ヶ月ごろ手指と下肢をわずかに随意的に動かすことが可能となった。頚椎装具を作製し離床を勧めようとしたが、頚部痛が強く実施できなかったため、徐々にギャッジアップした。固定術による頚部の骨癒合が十分得られたと判断された術後3ヶ月から、ベッド端での介助下端座位練習を10分から開始した。術後99日にポータブル人工呼吸器を使用しリクライニング車椅子に乗車した。術後113日にリハビリテーション室にて理学療法を実施した。
    【考察】
    本症例の早期に離床することが困難だった原因として、呼吸苦と頚部疼痛による装具の装着困難によるものが大きかったと考える。理学療法実施中における人工呼吸器の設定については医師と相談しながら行い、呼吸介助を看護師にも実施してもらったこと、また、リハビリテーション室で理学療法を行う際、人工呼吸器管理のため臨床工学技師と吸引操作の必要から看護師につきそってもらったことなどから、本症例のようなケースでは、多職種にわたっての連携と協力が極めて重要であると考えられた。
  • 徳田 清一, 諏訪 健司, 榊間 春利, 林 協司, 川村 英俊
    セッションID: 57
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    外傷性脊髄不全損傷の多くは、時間の経過とともに回復がみられるが、歩行能力の獲得は脊髄の損傷程度により決定され、重度の障害を呈する症例も多い。今回、受傷6日後に脊椎固定術が行われたが、麻痺の回復を認めなかったため、約2ヶ月後に脊椎再固定術が施行された外傷性胸髄損傷患者の理学療法を経験した。再手術後のリハビリテーションにより、歩行が可能となったので若干の考察を加え報告する。症例には本件に関し十分説明し同意を得た。
    【症例紹介】
    33歳女性、診断名は、第7胸髄不全損傷。平成19年6月に交通事故により受傷し、胸椎破裂骨折に対し脊椎固定術、左肘関節骨折に対し骨接合術施行が施行された。しかし麻痺の改善が認められなかったため、同年8月にK病院入院し、9月に胸椎再固定術、肘関節骨接合術が施行された。同月にリハビリ目的にて当院入院となった。
    【理学療法経過】
    受傷3ヶ月後の評価では、フレンケルの分類C、坐位バランスは、ストーク・マンデビル方式でTraceであった。筋力は左右ともに0~3レベル、表在感覚は鈍麻、深部感覚は脱失、痙縮により足関節背屈制限が生じていた。基本動作はすべて介助を要し、ADLは車椅子レベルであった。左肘関節は偽関節を形成していた。治療は、深部体幹筋の再教育や下肢の分離運動を促し、起居動作が獲得された。起立訓練においては重心移動と下肢の分節的な動きを指示した。受傷4ヶ月後には平行棒内介助にて歩行可能となり、6ヶ月後には歩行器歩行が監視で可能となった。筋力も両下肢4レベルまで改善した。その後、歩行時の視覚による代償、座位や立位での足関節底背屈運動や不安定板を使用した足部のコントロール、歩行時の膝関節のコントロール、立位でのバランス反応の誘発などを施行した結果、受傷8ヶ月後には足部の痙性が軽減し、監視レベルで片松葉杖歩行や階段昇降が可能になった。歩行速度も向上し、フレンケルの分類D、坐位バランスはストーク・マンデビル方式でNormalに改善し退院となった。
    【考察】
    再手術後に下肢運動麻痺の改善を認め、歩行能力が向上した症例を経験した。本症例は、痙縮による随意運動困難、感覚鈍麻、姿勢反射障害などの要因により歩行困難であった。痙縮は立位や歩行における支持性向上や廃用性筋萎縮の予防に働くが、多くの場合、随意運動、坐位や立位バランスなどを障害し、拘縮や痛みの原因になる。そこで今回、深部体幹筋の再教育や下肢の分離運動を促した。また、動作時の視覚による代償を強調したことにより、筋力向上、足部の痙縮軽減、動作時の注意力向上が認められ、歩行能力が向上したと考えられた。また、回復が遅れた原因として、初回手術では脊椎固定が不十分であり、再手術後に可逆的病変の改善が認められたと考えられた。
  • クリニカルパスと比較して
    辻 朋美, 植田 尊善, 椎野 達
    セッションID: 58
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当センターでは脊髄損傷・脊椎変性疾患に対して、早期離床・退院、合併症予防を目指し術後の早期リハを積極的に行っている。今回仙骨部褥瘡により訓練に長期間を要した症例に対しアプローチを実施し、クリニカルパスとの比較・検討することで若干の知見を得たので報告する。
    【症例紹介】
    第1腰髄損傷の70歳男性。仕事中高所からの転落にて第1腰椎破裂骨折し、3週間後後方固定術を施術。受傷3ヶ月後当センター入院となる。入院時Frankel分類Aで、SLR70度、上肢筋力は肩関節3・肘関節4・手指3~4・下肢0で、仙骨部にはステージ3の褥瘡、ポケットの大きさは10×20cmであり、背臥位・座位禁止となった。
    【理学療法アプローチおよび経過】
    入院翌日よりベッド搬送にて午前・午後リハビリ開始。初期時は下肢ROM制限、上肢筋力低下がみられた。また尿路感染による発熱と、手指機能低下により薬の袋を開けることが出来ないなどの訴え、精神的落ち込み・感情失禁があり、長時間の訓練は出来ない状態であった。入院1・2・4ヶ月後に計4回褥瘡の掻爬・縫合術が行われ、この間は背臥位・座位禁止のため、ベッド上側臥位にて下肢ROM・上肢筋力増強を中心にアプローチを進めた。入院2ヶ月半後より褥瘡に負担をかけない程度での起立訓練が許可となり、起立移動器にて全身状態の向上と立位でのPush up訓練を行った。入院5ヶ月後に座位が許可され車椅子乗車となるが、脊柱・下肢のROM低下や上肢筋力の不足により訓練台上動作、移乗は困難であった。積極的に筋力増強・動作訓練を行い、6ヶ月経過した時点で、前方移乗・更衣自立、起き上がり軽介助、側方移乗中等度介助。未だ褥瘡ポケットは5×3cmで存在し排泄・入浴はアプローチ出来ていない。
    【考察】
    クリニカルパスによると、受傷1週間後車椅子乗車しマット上座位・Push up動作訓練を開始し、ほぼ3ヶ月でADLが自立する。本症例においては褥瘡治療により長期臥床を強いられ車椅子乗車に8ヶ月を要した。その後の訓練においては、前方移乗の自立はクリニカルパス通り進み2週間で獲得できたが、起き上がり・側方移乗はクリニカルパスと比較して2週間ほど遅れている。これは長期臥床による脊椎の可動性の低下や上肢筋力低下の影響によるものと思われる。本症例は元より力仕事をしていたこともあり早期より積極的に開始出来ていれば筋力低下の問題もなくアプローチが進められたのではないかと考える。
    【おわりに】
    褥瘡の発生は関節拘縮や筋力・体力低下などの2次的合併症を引き起こし訓練の阻害因子となるだけでなく、自立可能な動作も獲得できなくなることがあり、患者・家族の負担も大きい。早期より積極的なリハを実施し、起こりうる合併症を予防することが必要である。
  • 村井 和弘, 佐藤 剛, 江崎 龍馬, 椋野 良一
    セッションID: 59
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院は226の病床数を有し、そのうち2病棟あわせ112床が回復期リハビリテーション病棟(以下回復期病棟)である。今回、高齢者が比較的多く入院する当院回復期病棟を疾患別に分類し、退院状況を比較検討したのでここに報告する。
    【対象と方法】
     対象は2007年4月から2008年2月の当院回復期病棟1病棟(56床)を退院した症例128名(うち後期高齢者89名)とした。方法は、脳血管疾患、運動器疾患グループに分類し、74歳未満群と75歳以上群(以下後期高齢者群)でそれぞれ、年齢、認知障害、退院時のFunctional Independence Measure(以下FIM)、入院日数、移動能力について統計解析を行い比較検討した。
    【結果】
     全体の在宅復帰者は128名中85名で、66%であった。そのうち後期高齢者群は、57%、それ以外は74%と後期高齢者の復帰率は低かった。疾患別内訳として、脳血管疾患74歳未満退院群:13名、平均年齢65歳、平均入院日数100日、FIM平均102点、認知、意識障害者はいなかった。74歳未満非退院群:10名、年齢63歳、入院日数135日、FIM51点、意識障害4名、認知障害4名であった。後期高齢者退院群:15名、年齢83歳、入院日数103日、FIM109点、認知障害5名であった。後期高齢者非退院群:21名、年齢83歳、入院日数129日、FIM39点、認知障害12名、意識障害、高次脳機能障害8名であった。運動器疾患74歳未満退院群:16名、年齢60歳、入院日数61日、FIM123点、認知障害1名であった。後期高齢者退院群:23名、年齢85歳、入院日数90日、FIM104点、認知障害8名であった。後期高齢者非退院群:5名、年齢92歳、入院日数71日、FIM68点、認知障害4名であった。退院群、非退院群、各疾患共に退院時FIMに有意差(p<0.05)を認め、移動能力が変化なく認知障害、遷延性意識障害がある患者様の退院状況、入院日数にも有意差(p<0.01)が認められた。
    【考察】
     今回当院回復期病棟では年齢に比例し入院日数が長い傾向になった。その要因としては、重度の認知障害や意識障害、移動能力低下、ADL能力の低下が示唆された。また重症度の高い症例の入院日数も長かった。
     自発動作が無く指示理解が困難な症例に対しどのようにアプローチしていくか憂慮すべきところである。僅かな機能、能力の改善をいかにして日常生活に反映していくか。家に帰りたいと願う症例を程度が重い軽いでなく、病院スタッフが専門性を発揮し、チームとして症例とその家族を導き社会に復帰できるか。社会資源を最大限活用しながら生活環境を整える過程に改善の余地があると考える
  • ~FIM、移動能力との検討~
    岡原 香, 佐藤 剛, 徳丸 桂介
    セッションID: 60
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     患者の高齢化が急速に進行している昨今、当院に於ても例外ではない。当院は56床の回復期リハビリテーション病棟(以下、リハ病棟)を2棟有し、いずれも多くの高齢者が入院対象となっている。しかし、既往疾患や合併症が多く重症化も進み自宅退院が困難な方も多い。今回当院リハ1病棟での退棟状況と入院時の日常生活動作能力(以下、ADL)、移動能力などを調査し比較検討を行ったので報告する。
    【対象・方法】
     平成19年4月から平成20年2月までの期間に当院リハ1病棟に入院した184例を対象とした。調査項目は年齢、性別、認知症、入院時と退院時のFIM合計点と移動能力、退院先とした。年齢項目は60歳未満(以下、一般群)、60歳以上75歳未満(以下、前期高齢者群)、75歳以上(以下、後期高齢者群)の3群に分類し、更に自宅退院した群(以下、退院群)と転院・悪化した群(以下、転院群)へ分類した。認知症については認知症老人の日常生活自立度判定基準を元に5群に分類、移動能力については車椅子介助、歩行介助、歩行補助具使用にて自立、屋内実用歩行、屋外実用歩行の5段階へ分類した。
     各群における入院時および退院時のADLをFunctional Independence Measures(以下、FIM)にて評価し、その他の項目と比較・分析を行った。統計的分析はt-検定を用い、危険率1%未満を有意水準とした。
    【結果】
     184例の内訳としては一般19例(全員退院群)、前期高齢者31例(うち退院群21例、転院群10例)、後期高齢者134例(うち退院群83例、転院群51例)であった。
     各群における入院時・退院時のFIM合計点を比較すると、全ての年齢層において転院群では有意差は認められなかったが、退院群においては著明な有意差を認めた(p<0.001)。また、入院時および退院時における退院群・転院群のFIM合計点についても全群において著明な有意差を認めた(p<0.001)。
     移動能力においては、退院群では能力向上を認めた症例の割合が多く各群に対し80%以上、歩行自立となった症例も60%以上、一方転院群では移動能力に変化が見られなかった症例が各群に対し60%以上であった。
    全症例を退院群と転院群で分類し比較すると年齢にも有意差を認めた。
    【まとめ】
     今回の結果より、自宅退院が可能か否かには年齢による影響も見られるが、やはり退院時のADL・移動手段が入院時と比較し向上が見られることや歩行獲得可能か否かが影響していることが示唆された。
     近年、独居老人や高齢化による老々介護の世帯が急増し、これにより自宅退院が困難となる原因は更に増えていくと考えられる。これらに対し介護保険サービスの有効活用や家屋環境などの環境整備が今後益々重要になると考える。
  • 佐藤 麻美, 新垣 盛宏, 貞松 徹
    セッションID: 61
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院では訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)を開始する際に本人・家族のニーズを基に具体的な目標・期間の設定を行い,目標達成へ向けアプローチを行っている。目標達成により終了とするが,獲得した生活のその後の状態や経過について把握出来ていないことが多い。
     そこで今回,訪問リハ終了者の追跡調査を行い,生活の維持・向上における因子について検討したので報告する。
    【対象・方法】
     H19年1月~H20年2月の間に当院訪問リハ(介護保険)を終了した36名を対象として年齢,介護度,実施期間,終了日からの日数,終了後からの経過について調査,担当ケアマネージャへのアンケートを基に訪問リハ終了時の生活と比較し向上群(以下A群),維持群(以下B群),低下群(以下C群)の3群に分類し比較・検討行った。統計はKruskal-Wallisの検定を用いた。
    【結果】
     アンケート回収率94.4%,A群5名,B群18名,C群8名,施設入所・死亡例3名であった。3群を比較すると,上記全ての項目において有意差は認められなかった(p<0.05)。A群のアンケート結果では,要因として家族の協力が得られている(80.0%)が最も多く,次いでサービス調整が適切に行えている(60.0%),家屋調整が適切に行えている(60.0%)という順であった。B群は家屋調整が適切に行えている(55.6%),サービス調整が適切に行えている(50.0%),家族の協力が得られている(38.9%)の順であった。C群では体調不良・病状悪化が最も多く(36.4%),次いで介護力の低下(27.3%),家屋調整が適切でない(18.2%)という結果であった。デイケアやデイサービスなどを利用している割合はA群100%,B群88.9%,C群62.5%であった。
    【考察】
     結果より,身体機能や能力維持としてサービス利用の重要性が再認識された。それに加え終了後の生活の向上・維持の重要な要因としてA群では家族の協力が挙げられており,家屋調整やサービス調整などのハード面の他に,生活を共にする家族というソフト面への介入が活動範囲の拡大に関与すると考えられた。B群では家屋調整,サービス調整,家族の協力が重要であることが示唆された。C群では体調不良や病状悪化が影響している傾向がみられた。次いで介護力の低下では家族が持つ介助に対する不安や必要性の認識不足より利用者の活動を狭めている例がみられた。介護力の低下する因子で考えられるものとして,利用者自身の問題か家族の問題なのかを明らかにし,それに対する訪問リハの必要性について再度検討していく必要があると考えられる。
     今回の調査を通して訪問リハ終了時の生活を維持・向上していくためには,定期的に利用者・家族・環境の再評価を行なっていく必要があると考える。
  • ~退院患者の声からVol I~
    田場 辰典, 藤本 雅子, 上地 安寛
    セッションID: 62
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院は平均在院日数10.1日(平成20年3月期)の急性期病院である.病床稼働率の向上は課題のひとつではあるが、その中で十分な支援がなされないまま退院となり、自宅での転倒や病状再燃にて再入院となるケースも少なくない.今回自宅退院者への訪問追跡調査を実施し、退院支援の現状把握と今後の課題について検証したので報告する.
    【対象】
    入院中にリハビリテーション(以下リハビリ)介入し、平成19年11月~1月の間に自宅退院した患者74名(内科43名,整形外科20名,脳外科11名)
    【方法】
    退院一週間後、自宅訪問にて家族・本人へ退院時の状況確認と退院後のFIM評価実施
    【結果】
    (1)「退院時の対応に不満があった」26%、「退院時に不安を感じた」48%、「介助量が増えた」35%、「体力が低下している」22%、「身の回りの事が出来なくなっている」17%、「歩行不安定」15%、「退院時に医療者より動作指導・介助方法・サービスの説明を受けた」46%、「退院前訪問指導実施」12%、入院中の要望について「リハビリをもっと多く・早めに」41%(2)退院時FIMと退院後FIMの比較にて、向上した群52%、低下した群30%、低下率が大きい順に整形47%、内科25%、脳外科・外科20%であった.最も低下したADLは順に入浴33%、歩行19%,更衣18%であった.
    【考察】
    急性期リハビリ最大の目的は、廃用を最小限に防止し残存能力を最大限に引き出す事であるが、今回対象者のリハビリ待機日数は、理学療法5.7日、作業療法7.2日、言語聴覚療法2.8日となっており、リハ待機中の廃用症候群が懸念される.退院時の状況として、約半数の患者が不安を感じており、ほぼ全員が退院後の生活に何らかの問題を訴えている.当院作業療法の現状では、退院直前または病棟内ADLが低下してからの依頼箋が多く、退院時指導の予定中に急に退院となり、退院直後自宅内で転倒した患者も数名いた.家族や患者本人に在宅生活を想定したADL指導や退院時動作指導、訪問指導など入院当初から実施し、入院中獲得したADLを在宅で十分に活かせるような退院支援のあり方を構築していくべきではないかと考える.
    入院中、入浴動作の直接的介入を頻繁に実施しているものの、退院後最も低下しているADLとなっている結果に対しても同様に前述した対策が必要と考える.
    経過および調査結果を踏まえ早期ADL介入および退院支援の見直し、病棟との連携強化を図り、在院日数短縮化に対応した計画を現在実施中である.
  • 3ヵ年を経過して
    田中 政敏, 土井 英樹
    セッションID: 63
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    当院では平成16年度より院内活動の一環としてクリニカルパス(以下、パス)委員会を発足し、看護職を中心としたパス表の作成・運用に取り組んできた。これまでにも、パス表に対する分析は様々な施設などで行われているが、パス全体を通じた分析は僅かに留まっている。この為、過去3年間の当院でのパス使用状況とバリアンス結果を通じて、急性期病院でのパス運用の傾向について若干の知見を得たので報告する。
    【方法】
    対象は平成17年1月1日より平成19年12月31日(3年間)に当院に入院した26,364名の内、全17診療科に於いてパス表を使用した6,303名について分析を加えた。調査項目として1.患者属性2.パス表3.バリアンス表を用いて分析を行った。
    【結果】
    入院患者に対するパス使用対象者は、6,303名(使用率:23.9%)、平均年齢64.2歳、平均入院日数10.8日であった。使用率は19.4%から27.9%と年々増加している。診療科別使用率は、眼科(76.9%)が最も高く、循環器科・産婦人科の順となっている。パス表別の使用状況は、心臓カテーテル検査(使用率:17%)、白内障・経皮的冠動脈形成術の順であった。バリアンスの出現者は、2,605名(出現率:41.3%)・平均年齢66.0歳・平均入院日数14.2日・入院日からの出現日数7.4日であった。診療科別の出現率では心臓血管外科(81.4%)・外科・皮膚科の順で高く見られた。逆に、眼科(8.8%)・耳鼻科・産婦人科では低い傾向が見られた。パス表別の出現率では、経尿道的膀胱腫瘍切除術(69%)・抜釘術・経皮的冠動脈形成術と高くなった。バリアンスの出現要因では、患者要因(71%)が最も多く、医療者要因・社会的要因・病院システム要因の順となった。患者要因の原因として、患者の意思による入院期間の変更や病状の変化によるパス表の変更等が多く見られた。医療者要因の原因としては患者病状の変化による指示の変更や不足によるものが見られた。社会的要因としては、在宅環境や家族関係の調整不足や施設の事情等が見られる様になった。パス表に於けるバリアンス出現項目は検査(29.0%)・治療・診療報酬に関する項目に多く見られた。
    【考察】
    パス表の使用傾向やバリアンスの出現傾向より、急性期病院では、急性期に出現しやすい合併症が少なく、入院期間が短い内科系疾患の患者を対象とした運用が良好な適応になると思われる。また、バリアンスの分析結果から、パスの運用には患者・家族の意思が強く影響を及ぼす為、入院時には検査や治療に関する十分な患者への説明・同意を得る必要性が大切であると再考させられる。
  • 杜若 竜司
    セッションID: 64
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院リハビリテーション科では、病棟担当制と称し、回復期病棟・神経難病病棟・療養病棟の各病棟に専属のPT・OTを配置している。この研究の目的はリハビリテーション科(PT・OT・ST)と病棟各スタッフ(Ns・CW)にアンケートを実施し、病棟担当制に対する印象、病棟単位での取り組み等の現状を分析し、問題点や今後の取り組みについて検討する事である。
    【対象および方法】
     リハビリテーション科スタッフ36名、病棟スタッフ27名にアンケートを依頼し、回答を得た57名を調査対象とした。アンケート用紙を直接配布し、目的と内容に説明を加えた上で記入をしてもらい、後日回収した。質問項目は、1.病棟担当制になってよかったか2.1の理由3.病棟と取り組んでいる事、今後取り組みたい事の記載とした。
    【結果】
    1.病棟担当制になって良かったですか?
    リハ :はい28名,いいえ0名
     どちらでもない8名
    病棟:はい21名,いいえ0名
     どちらでもない0名
    2.良かった理由
    リハ :情報共有化の改善45件,
    業務の効率化12件,その他5件
    病棟:情報共有化の改善39件,その他5件
    3.どちらでもない理由
    リハ :新人,STなので分からない。病棟担
     当スタッフ以外との情報交換が減少,担当患
     者の疾患に偏りがある等の欠点もある。
    4.病棟での取り組み
    回復期:症例検討会(2回/月),入浴指導,
     集団起立練習,スタッフカンファレンス,
     ADL確認表
    神経難病:集団体操(パーキンソン病体操)
    療養病棟:集団起立練習,
          離床・ROM指導
    5.取り組みを強化したい事
    褥瘡対策,ADL介助方法の統一
    【考察】
     今回の調査で情報共有化の改善と業務の効率化が利点として挙げられた。これは病棟での生活状況や訓練内容をリハ・病棟スタッフが同じ視点で確認する機会が増え、効果的にADL評価・指導、訓練内容・時間調整等に反映できるといった情報共有化と業務の効率化との相乗効果をもたらしたと考える。問題点は神経難病や整形疾患の知識・経験不足から難病・回復期病棟での勤務に多くの新人が不安を抱えている事である。現在、症例検討会・勉強会・病棟ローテーションにより、知識、技術、経験値の向上を図り、新人教育ではプリセプター制度、評価セットの作成・提出を導入している。
     褥瘡対策、ADL介助方法の統一は以前から実施していたが、全ての病棟スタッフに指導内容が伝わっていない事があった。現在は入院時からの実技指導を行い、一定期間継続して行う事で病棟からの支持を得ている。
    【結論】
     病棟担当制は高い支持を得ており、利点は情報共有化の改善、業務の効率化で問題点は病棟担当以外でのコミュニケーション不足、担当疾患の偏りが挙げられた。各病棟で特色ある取り組みが実施されており今後、取り組みたい事はリハビリ、看護、介護スタッフ共通で褥瘡対策、ADL介助方法の統一が挙げられた。
  • 簡易アンケート調査と基本的QOL評価尺度(BAQL)による検討
    田中 睦英, 福本 安甫, 小川 敬之, 押川 武志
    セッションID: 65
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    在宅高齢者の生活機能とQOLとの関連性については,客観的な活動能力や社会参加状況との関連が報告されているが,「老い」の捉え方や価値観など主観的側面との対比や,これらの加齢変化についても検討する必要があると考える.本研究は,在宅生活の自立している高齢者の主観的健康(老化)観および生活機能とQOLとの関連性を統計解析によって明らかにすることを目的としている.
    【対象と方法】
    調査は,本学主催の講演会に参加したN市在住の高齢者265名を対象に,自記式質問紙調査(留置法)にて実施した.調査内容は,基本的属性,主観的健康観(老化観),健康状態,社会参加の状況等の計15項目とし,基本的属性を除く各項目の回答を5件法で求めた.活動能力についてはBarthel Indexと老研式活動能力指標を使用した.QOLの指標は福本らの基本的QOL評価尺度(以下BAQL)を採用した.分析は,因子分析によって因子抽出を行ない,抽出された因子とBAQL下位項目について,性別・年齢階級別に相関係数を算出した.またBAQL下位項目を従属変数,基本属性と各因子を説明変数とする重回帰分析を行った.有意水準は5%とした.
    【結果】
    回収数202(回収率76.2%),有効回答数139(有効回答率68.8%)であった.調査項目について,因子数5として因子分析を行った結果,第1因子「主観的な心身の老化」,第2因子「老化に対する自己認識」,第3因子「疾患と機能障害」,第4因子「社会参加」,第5因子「高次生活機能」を抽出した.各因子とBAQL下位項目との相関を算出した結果,男女とも第1~3因子とBAQLとの間に有意な正の相関を認め,第4因子,第5因子との有意な相関はほとんどみられなかった.対象者を年齢階級(60歳代,70歳代,80歳代以上)に分類し同様の分析を行った結果,60歳代では第1因子と第3因子とに有意な正の相関を示す項目が多く,70歳代では第1因子と第2因子に有意な正の相関を示す項目が集中した.80歳代以上では第3因子は無相関となり,第4因子が4項目と有意な正の相関を示した.BAQL下位項目を従属変数とした重回帰分析の結果,第1因子と10項目(β=.24~.39),第2因子と3項目(β=.18~.31),第3因子と1項目(β=.28),第5因子と4項目(β=.18~.24)との間に関係を認めた.
    【考察と結論】
    在宅生活の自立している高齢者においては,60歳代から強く老化を意識し始め,70歳代で主観的な老化および客観的健康状態とQOLとの関連性がピークに達するが,80歳代を越えると客観的健康状態よりも活動能力の維持・向上がQOLに重要となる傾向が示唆された.また実年齢に依存しない主観的な「老い」がQOLに関与するという結果から,「老い」の価値観に影響する個人因子等について,より検討する必要性が示された.
  • 井手 絵理子, 濱田 暁子, 清永 陽子, 古賀 恵一郎, 大石 佳代子
    セッションID: 66
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    近年、わが国の少子高齢化・核家族化は急速に進み、社会的な理由による長期入院が大きな問題となっている。維持期高齢患者は、身体機能の回復による大幅なADL改善は望めない場合があり、QOLの向上を目標にしたアプローチを行うことが多くなる。そこで今回我々は、環境の異なる患者の主観的QOLの実態把握を目的に、日常生活満足度(以下SDL)を用いて調査を行ったのでここに報告する。
    【対象・方法】
    対象は、入院25名(男性5名、女性20名、平均年齢77.8±8.6歳)、外来25名(男性11名、女性14名、平均年齢75.8±7.8歳)、介護老人保健施設(以下老健)入所者25名(男性3名、女性22名、平均年齢84.8±6.8歳)とし、意思疎通に問題なく、アンケートの趣旨説明に理解を得た者とした。実施期間は1ヶ月で、調査は担当療法士が聞き取りにて行った。SDLの総得点及び各項目について、3群を多重検定により比較検討した。
    【結果】
    1.総得点は、入院13.80点、外来18.12点、老健17.92点で、外来・入院間、老健・入院間に有意な差が認められた(P<0.05)。2. 身体機能は、入院0.96点、外来1.88点、老健2.40点で、外来・入院間、老健・入院間に有意な差が認められた(P<0.05)。3. 社会生活は、入院1.84点、外来3.12点、老健2.24点で、外来・入院間に有意な差が認められた(P<0.05)。4. 自己啓発は、入院1.56点、外来2.76点、老健2.84点で、外来・入院間、老健・入院間に有意な差が認められた(P<0.05)。
    【考察】
    結果より、「社会生活」に関して、入院生活は社会的な交流が少なく、また閉鎖された空間における単調な生活が社会と隔離された孤独感や不安となり、満足度に影響しているものと考えられる。「自己啓発」に関して、病院は“入院=治療”という意識が定着しており、食事や入浴、リハビリテーション等の画一化された最低限の活動に限られること、空間や種類が限られることが満足度に影響しているものと考えられる。このような状況に対して、今後作業療法士が活動を通して社会的交流を促すことで、患者が互いに刺激し合い“自己啓発”へ結びつくきっかけ作りになるのではないだろうか。そして活動を提供する際に患者個人の意思を尊重し、何を望んでいるかを再度見直す必要があると考える。
    【まとめ】
    今回SDLを用いて主観的QOLの実態把握をしたことにより、今後の維持期における作業療法の方針を検討する上でとても興味深い調査となった。今後調査を継続し、より詳細に現状を把握することで具体的な作業療法プログラムにつなげていきたいと考える。
  • ~外来リハビリテーション患者の心理的側面~
    岩本  英介, 吉田  康雄, 遠藤   由紀, 黒瀬  未来, 佐溝   良美, 長田  逸子
    セッションID: 67
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院では外来リハビリ(以下、外来リハと略す)を実施しているが、通院患者の中には発症から長期の者も少なくなく、維持的なリハビリテーションの対象者も多い。外来リハにおいては、身体機能面に対応することがほとんどであるが、日々患者と接する中で、患者の抱える心理的問題への対応は十分とは言えないのではないかと感じる。そこで今回、患者の抱える心理面に着目し、うつの有無、生活満足度から患者の抱える心理的問題を分析したのでここに報告する。
    【対象と方法】
     平成19年8月31日時点で当院外来リハに通院しており、協力可能であった患者50名にZUNG、QOL26を実施(男性21名 女性29名、脳リハ14名 整形36名、平均年齢66.6±12.7歳、平均外来継続期間1450±1110日、日常生活自立度Jランク45名 Aランク5名、Barthel Index平均96.5点)
    【結果】
     ZUNGの結果、うつの者は全体では28名(56%)、男性10名(35.7%)、女性18名(64.3%)であった。疾患別では脳リハ8名(28.6%)、整形20名(71.4%)であった。
     QOL26の結果、QOL平均値は標準偏差(以下S.Dと略す)範囲以上2名(4%)、S.D範囲内34名(68%)、S.D範囲以下14名(28%)であり、男女別・疾患別においての有意差は認めなかった。項目別にみると、身体機能面ではS.D範囲以下21名(42%)、心理面ではS.D範囲以下18名(36%)と高い割合を示すが、社会面、環境面においては、社会面3名(6%)、環境面7名(14%)とS.D範囲以下の割合は低かった。また、身体機能面のS.D範囲以下は男性6名(28.6%)に対し、女性15名(71.4%)であり、女性の満足度が低く、疾患別にみると脳リハ7名(33.3%)に対し整形14名(66.7%)と、整形疾患の満足度が低い結果となった。心理面のS.D範囲以下は男性7名(38.9%)に対し、女性11名(61.1%)であり、女性の満足度が低く、疾患別にみると脳リハ7名(38.9%)、整形11名(61.1%)と、整形疾患の満足度が低い結果となった。
     ZUNGとQOL26の関係については、うつの者は社会・環境面に比べ、身体機能・心理面で満足度が低いという結果であった。
    【考察】
     ZUNGとQOL26の結果から、日常生活は自立レベルであっても、身体機能面と心理面において各個人の価値観からQOLに不満を持ち、その大半はうつ傾向にあるとわかった。これらの要因には、身体の不自由や痛み、疲労からくる日常生活動作への支障、仕事などの活動制限による不満があるのではないかと考える。また、障害からくる自分の容姿の受け入れができないこと、病気・障害の治癒や今後の生活・人生の不安、絶望、落ち込みなどの否定的感情も要因のひとつではないかと考える。外来リハには、日常生活のリズム作り、地域との繋がり、心理面の共有を図る場としての役割がある。そしてセラピストには患者のニードに応えた身体機能・能力面に対してのアプローチだけでなく、患者と共にできることや役割を模索し、前向きな考え方ができるように支持的にサポートすることが、心理的問題の軽減に繋がるのではないかと考える。
  • ~アンケート調査を通して~
    加治 怜子, 白澤 奈津紀, 岡野 レイ子, 伊達 智美, 山崎 奈緒美
    セッションID: 68
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     昨今の医療及び介護保険・診療報酬の改定は厳しく、リハビリテーションにおいても入院期間の短縮・自宅復帰が要求される。当院においても、急性期から在宅復帰に向けてのアプローチとして家屋調査の実施・病棟ADL練習、自宅への外出・外泊を展開してきた。しかし、直接自宅へ帰ることができず、施設を経由するケースも見られる。過去、当院においても在宅復帰する際に介護者にとって、できるADLがどこまで影響しているかを示した報告がない。
     そこで今回は、一つの判断材料として在宅復帰におけるキーパーソンが求める条件について介護者にアンケートを実施し、その結果をもとに条件をまとめ、またなぜ在宅復帰ができなかったのかを検討したので報告する。
     【方法】
     今回は脳卒中患者を対象とし、H20年4月現在、当院に入院している患者の介護者13名(以下A群)、過去当院に入院し現在外来通院している患者の介護者10名(以下B群)、当院から他施設に転院となった患者の介護者7名(以下C群)に在宅復帰する際のニードをアンケートにて抽出し、その結果と退院時の日常生活動作能力を比較・検討した。
     【結果】
     アンケートの結果、家族の求める一番のニードとしては(1)A群(排泄動作9名 69.2%、食事動作4名30.8%)(2)B群(排泄動作6名 60%、食事動作3名 30%)(3)C群(排泄動作5名 71.4%、食事動作2名28.6%)となった。
     退院時FIM(排泄動作5項目)を各群ともに比較・検討したところ、A・B群>C群となり、排泄動作において退院時FIMの点数が高いほど在宅復帰率が高いことが明らかとなった。
     【考察】
     結果より排泄動作の自立が上位を占め、在宅復帰率の向上に繋がると考えられる。しかし、排泄動作が自立しても他施設へ転院となるケースもあり、これらは患者の高次脳機能障害の有無、介助者の心身状態・家族の理解・地域性などの環境因子が大きく左右していると考えられる。
    当院での現在の取り組みは、ADLへの介入はあるものの早期からの家族との関わりが少ない。今後、早期の段階より段階的に排泄動作へのアプローチを積極的に進めていく必要がある。そのため、家族の協力・病棟スタッフとの連携が必要不可欠であり、そのことが早期の排泄動作自立へ繋がると考える。
    【まとめ】
     今回の研究により、在宅復帰に向けての判断材料の一つとなった。しかし、高次脳機能障害の有無や家族環境などのその他の阻害因子を考慮していないため、今後、それらを踏まえて調査等を行う必要がある。
  • 不安を起因とした外出願望、徘徊を呈した症例を通して
    河野 賢吾
    セッションID: 69
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    今回、重度認知症デイケアにおいて家庭内での外出願望及び、徘徊を強く呈した症例を経験した。この徘徊、外出願望といった周辺症状は症例の発言、行動、環境を考えると根本に不安が大きく影響していると考えられた。この不安に着目し個別的にアプローチを行い役割という責任行動を通して良好な変化が見られたので報告する。
    【症例紹介】
    60代後半女性。診断名アルツハイマー型認知症。MMSE、HDS-R評価拒否、日常生活自立度判定基準ランクMである。ADL、IADLにおいて動作は手続き記憶として残存しているが状況判断力の低下により見守りが必要となる。中核症状に失語、記憶障害、見当識障害、実行機能障害が見られる。これらの障害により「もう何もできなくなった」「自分は外に出て歩くしかできない」という悲観的な発言が多く、強迫的な外出願望、徘徊を呈し多動的である。スタッフ、他利用者が行動を止めようとすると興奮し、叫ぶなどの行動も見られ、他者との交流や活動に対して拒否的な状態であった。
    【方法】
    スタッフが声かけし、湯飲みを洗う→拭く→片付けを一緒に行うことを朝、昼食、間食後に計3回実施し、デイケア内での役割を作った。
    【経過】
    導入時、スタッフが声かけ誘導しスタッフと共同で作業を行う。徐々にスタッフが声掛けを行うと自発的に洗い場へ移動し行うという変化が見られる。同時に周囲、スタッフに対しての過剰な興奮が少なくなる。さらに導入より2ヶ月目には自発的にテーブルを回り、置いてある湯飲みを回収し、役割動作としての定着が見られる。また、拒否的であった集団などの他者と交流を持つ活動への参加が見られ意思疎通はできていないが他利用者への自発的な発言が多くなった。現在では湯のみ洗いだけではなく簡単なテーブル拭きなどの家事動作に対してもスタッフと共同で行うようになる。
    【考察】
    本症例は、以前出来ていたことが出来なくなる、家族内での自分の役割を他者が行う、といった役割の喪失や周囲の人間関係の崩壊により「自分は何のために生きているのだろう」という自己存在の不安が周辺症状に強く影響しているのではないかと考えた。
    今回、症例が湯飲み洗いという行動を通し自分の仕事、自分に役割があるということを認識し、実施することで「自分は必要とされている」「役に立っている」という感情や責任感が芽生え、成功体験、他利用者やスタッフから感謝され認められる愛他的体験となった。これが、自信の向上、人間関係の再構築に繋がり不安の軽減がなされたと考える。家族に対してもデイケア内での様子を説明し、家庭での役割を持たせてもらうように指導している。今後も本症例に対しては継続して行い、症例の在宅生活が長く続けられるように援助していきたい。
  • 賀来 斉夫, 瀬戸島 毅, 井ノ口 美穂子
    セッションID: 70
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    希の里デイケアでは、認知症対策の一環として学習活動を行っている。今回デイケアにおける活動方法での活動の効果・課題などについて報告する。
    【対象と方法】
    1.対象者:デイケア利用人数88名、一日平均30名、平均HDS-R 20.4点 2.調査期間:6ヶ月間 3.活動方法:昼食後トータル活動時間は30分程で、会議室にてパラレルな関係で1人10~15分程度、簡単な計算を行う。スタッフ数は2~3人で対応し、基本的には自発的参加を促す。 4.データの集計と解析 月別活動参加率の推移を調査する。 介入群・非介入群のHDS-Rの推移を調査し、介入前の介入群・非介入群との関連を検討するために、スチューデントのT検定を用い、両群の介入前・介入後の関連を検討するために、対応のあるT検定を用いる。また有意水準は5%とする。 ※教材として「川島隆太教授の脳を鍛える大人の計算ドリル」を中心に使用することとする。
    【結果】
    6ヶ月間の学習活動参加率は、開始当初は46%であったが、参加者も増え58.5%に上昇する。 6ヶ月間のHDS-Rの推移は、非介入群19.5点⇒19.2点に対し、介入群20.9点⇒22.0点に向上する。 介入群・非介入群の介入前の有意差(スチューデントのT検定):P値0.325>0.05 両群の介入前・介入後の有意差(対応のあるT検定):介入群 P値 0.010<0.05 非介入群 P値 0.290>0.05であり、介入群に有意な差が認められ、学習の効果があったことが確認できる。
    【考察】
    学習活動は、認知症の予防・維持・改善に有効であり、楽しみの活動になり得る。しかし、学習は脳の機能を維持するための一つの手段であり、認知症の予防・維持・改善には学習が一番だという考えは禁物である。そして、機能が改善しても生活に反映されなければ意味のないものになり、活動で引き出された能力を日常生活で、いかに行動変容させていくかが大切である。
    【今後の課題】
    認知症に対するアプローチ方法の多様化が必要である。 対象者に合った教材選びや個別対応も必要。 対象者に飽きさせない工夫の必要性がある。 今回は、計算のみの使用であったが、音読についても検討していく。
  • 回復期リハビリテーション病棟にて
    磯 直樹, 内村 ふみ子, 鶴田 明穂
    セッションID: 71
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【緒言】
     回復期リハ病棟におけるADLへの効果や自宅退院率については先行研究にて効果が報告されているものの、一方で退院後の生活において抑うつ傾向が見られることや、ADL向上が必ずしもQOLの向上に影響する訳ではないことも報告されている。また、回復期リハ病棟において精神・心理機能への影響については言及されておらず、社会的活動を有する集団的な活動も診療報酬上、認められていないのが現状である。
     また、高齢化に伴い、認知症を有する対象者が増加する中で、認知症者に対しては、精神・心理機能への影響については集団的な活動が有用とされている。特に、身体機能の向上を図ることに加え、作業活動を通して親しみや人との関わりの回復などを目的とした集団を利用することが効果的ともある。しかし、作業課題の具体的な設定に関する検討はなく、作業種目や作業形態の相違によって精神・心理機能への影響も異なるのではないかと考えられる。
    【目的】
     本研究では集団の作業形態に違いが認知症者の精神・心理機能に及ぼす影響を検討するものである。さらに、回復期リハ病棟において集団活動を実施することの意義を考察する。
    【対象と方法】
     対象は、回復期リハ病棟入院規定に基づき、当院回復期リハ病棟に入院し、認知症と診断されHDS‐R:20点以下であった9名とした。集団構造は3-7名程度の小集団とし、A・B群の2集団を設定した。1つの作品を全員で作成するが、A群は、全対象者が全工程の作業を遂行する、それに対しB群は作業工程を分割し、各対象者で役割を分担して作業を遂行する、とした。実施頻度は毎日1時間とし、助言や介助量は両群で統制した。
    評価は、HDS‐R、NMスケール、うつスケール短縮版(GDS‐15)、一般性自己効力感評価尺度(GSES)、痴呆性老人の生活の質評価尺度(QOL‐D)、FIM第3版の6種とし、入院時と退院時で比較した。また、入退院時の得点差を算出し両群で比較した。
    【結果】
     入退院時の比較において両群共にGSES以外は有意に効果を認めた(P<.05)。得点差の比較においては、QOL‐DのみA群が有意に大きく(P<.05)QOLの向上を示した。しかし、他の評価は差を認めなかった。
    【考察】
     両群ともに退院時に改善を認め、小集団作業活動の精神心理機能の効果が示された。特に、QOLについてはA群でより効果が大きかった。このことは、各対象者が全工程を一人で実施すること、さらには全員で一つの作品を完成させることから、自律心・達成感・有能感等を得ることができ、その感情を全員で共有できたことが、QOL評価に反映した一因と考えた。
  • 坂本 雄基, 酒井 俊彦
    セッションID: 72
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当認知症治療病棟ではスタッフからの声掛けが少ない環境下にあり、また会話やコミュニケーションの取れない患者にはその機会が激減してしまう傾向にある。そこで一症例に着眼し、反応の良かった赤ちゃん人形を媒介とし、スタッフからの声掛け、コミュニケーションの場を増やすことを目的にスタッフの行動観察を行った。
    【症例紹介】
     アルツハイマー型認知症の80歳代の女性。HDS-Rは測定不可能。食事、入浴等全介助。日中は車椅子乗車、ベッド臥床で過ごしている。
    コミュニケーションは人と関わりを持ちたそうにスタッフを目で追い、声掛けに対して笑顔での反応や発語が見られるものの、独語や辻褄の合わない返答が多く見受けられる。
    【観察・介入方法】
     症例に対するスタッフのコミュニケーション量を観察した。昼食、夕食前の各20分間、スタッフがホールで過ごす症例へ声掛けした回数を計測する。
    介入前の1週間は赤ちゃん人を所有しない状態で、介入期の3週間は赤ちゃん人形を抱いた状態で観察を行い、その介入期では毎日30分間、スタッフからも確認できるようにホールで赤ちゃん人形を介した個別活動を行う。その後、再び赤ちゃん人形を所有しない状態に戻し、スタッフからの声掛けの回数を計測する。
    【経過】
     スタッフからの声掛けの回数は介入前の1週間の観察時間(200分)に4回という結果であったのに対し、介入期の1週目は28回と7倍に増加した。2週目では20回と声掛けの回数が低下した為、3週目では人形を介した個別活動の症例の様子などスタッフに伝える目的で朝の申し送り時に報告することによって37回に増加した。しかし、再び介入前の状態に戻すと8回と声掛けの数が激減する結果となった。
    【考察】
     介入期に入り、人形を所有している症例への物珍しさや関心が集まり、コミュニケーションが増えたのは当然であり、また介入期2週目に入るとその状況に慣れてしまうことで、声掛けの回数が低下したことも容易に想像することができる。その中での3週目のコミュニケーション量の増加は、スタッフが症例と人形との関係に関心を持ってもらうために個別活動で得られた新しい情報をスタッフの共通認識になるよう伝え続けた結果である。そのような事が重度認知症患者とのコミュニケーションを維持する為に必要であると改めて感じさせられた。
    【まとめ】
     会話が出来ず、何を話していいのか分からない症例に対し、赤ちゃん人形を媒介にすることによって、スタッフが症例に対し話しやすい環境を作ることが出来た。また、症例は赤ちゃん人形をあやしたり、スタッフから「笑顔が増えた」「言葉が聞き取りやすくなった」などの声からも症例にとっても良い環境を作ることが出来たと感じる。
  • RTマシンを用いた取り組み
    川畑 智
    セッションID: 73
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    あそびRe(リ)パークは、環境省国立水俣病総合研究センターの介護予防等在宅支援モデル事業を受託し、平成18年度より「ゲーム機」を用いた取り組みを展開している。今回、その事業運営の中で身体反応速度と認知機能との関係性を研究し、一定の知見を得たのでここに報告する。
    【方法】
    芦北町のグループホーム入所者(認知症群)13名(男2名、女11名平均年齢84.2±6.3歳)と、同町内に在住する一般高齢者56名(男性11名、女性45名、平均年齢76.9±6.2歳)を対象とした。
    認知機能評価として、一般高齢者には、かなひろいテストを実施し、年齢別認知症境界域数値から、健常群51名と認知症疑い群5名の2群に分類した。
    また、認知症群には、改訂版長谷川式簡易知能評価スケール(以下、HDS-R)を用いた(HDS-R平均4.7±4.2点)。
    これらの3群において、身体反応速度を簡易に点数化できる、株式会社ナムコのリハビリテーションマシン「ワニワニパニックRT」(以下、ワニ叩き)に取り組んでもらい、ゲーム得点と認知機能を比較した。
    統計処理は、Bartlett検定で分散の均一性を確認し、一元配置分散分析、多重比較検定(Scheffe法)を用い、各群間の有意差を判定した。なお、全ての統計手法とも、有意水準は1%未満とした。
    【結果】
    ワニ叩きゲームの得点は、健常群で70.2±11.3点、認知症疑い群で26.8±5.8点、認知症群で22.8±15.1点であった。統計処理の結果、健常群と比べ認知症群ではワニ叩きの得点が有意に低かった(p<0.01)。
    また、認知症疑い群においても健常群と比べ、ワニ叩きの得点が有意に低かった(p<0.01)。
    これに対し、認知症群と認知症疑い群の比較では、ワニ叩きの得点に有意な差は認められなかった。
    【考察】
    ワニ叩きは、制限時間内に可能な限り出てくるワニを叩くゲームであり、ワニ出現を瞬時に認知・判断し、叩打反応として適応する動作の反復作業である。
    健常群と比べ、認知症群や認知症疑い群において有意に得点が低い結果となったが、この理由として「動作の不活発性」や「注意の集中力減退」などが考えられる。また、ワニ叩きの得点で40点未満の場合、HDS-Rや、かなひろいテストなどのスクリーニングで認知症と疑われる可能性があることも考えられる。
    【まとめ】
    今回の研究で、身体反応速度と認知機能との関係が明らかとなった。今後は、症例数を増やし、認知症スクリーニングとの関係性や身体反応速度を高めるリハビリテーション手法が認知機能にどれほどの効果を及ぼすかを検証していきたい。
  • 田中 裕子, 上江洲 聖, 上城 憲司
    セッションID: 74
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    認知症高齢者の在宅生活を支援するためには,高齢者の認知症症状のコントロールや環境調整に加えて,効率的で効果的な家族支援が重要なポイントとなる.当デイサービスにおいても,認知症高齢者を介護する家族はそうでない家族に比べ介護による負担感が高い印象を受けるため,特に家族支援は重要視している.しかしながら,その家族支援は訴えの多い家族に集中することが多く,一様ではないため,予期しない在宅破たんケースも存在している.今回,これらの問題点を改善するために,認知症高齢者を在宅介護する家族を対象とした家族教室を試み,若干の知見を得たので以下に報告する.
    【対象】
    当デイサービスおよび隣接するデイケアで,認知症の診断を受けた29名の主介護者に介護負担アンケートを送付した.回収したアンケートおよび家族教室への参加を希望する家族の中で,本研究に同意の得られた,7名(男性1名,女性6名),平均年齢59.0±19.9歳を対象者とした.
    【方法】
    平成20年2月に家族に対して介護負担アンケート調査(Zarit介護負担尺度・介護肯定感尺度など)を実施した.同年3月に家族教室を開催し,終了直後にもアンケート調査を実施した.家族教室は,1)認知症の病気を理解するためのミニ講義,2)グループワークを実施した.グループワークでは,自己紹介を行った後に,情報交換や上手な介護のコツなどをテーマに話し,介護者同士の交流を促した.本研究では,家族教室前後のアンケート結果の比較,家族のアンケート結果と認知症高齢者の評価結果を比較し検討することとした.
    【結果】
    1)家族教室前後のアンケート調査結果を比較すると,Zarit介護負担尺度の得点が平均25.6±23.3点から平均18.7±7.5点,介護肯定感尺度の得点が平均19.6±17.3点から平均23.4±11.6点へと改善した. 2)Zarit介護負担尺度の下位項目では,認知症高齢者の行動に対する「困惑」や「頼られ感」が改善したが,「がんばって介護する」「もっと上手く介護できる」などの項では,得点が低下していた.一方,介護肯定感尺度では,「介護のおかげで難しい状況に対処する自信がついた」の項で目立った改善があった.3)家族教室の感想としては,「気持ちが楽になった。すごくパワーをもらった」「辛いのは自分達だけではないことがわかりホッとした」などの声があった.
    【考察】
    今回,認知症高齢者を在宅介護する家族を対象とし,アンケート調査や家族教室の取り組みを通して家族支援のあり方について検討していった.アンケート調査の結果から,家族教室が介護者の介護負担感を下げ,介護肯定感を上げることに影響を与えたと考えられる.しかし,1回の家族教室開催による効果が継続するとは考えにくいため,今後も定期的に家族教室を含めた家族支援を実施していく必要があると感じた.また,チーム内の情報共有や連携調整などの課題が明確になったので,今後も検討したい.
  • ~地域における安全な施設について~
    宇都 卓也
    セッションID: 75
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    現在の医療・福祉現場では、早期退院・退所を進めている。また、退院・退所を進めるものの、受け皿となる病院・施設が少なく、入院・入所が困難となっている。そこで本人の社会復帰を推進し、家族の介護負担を軽減する為に、デイケア・デイサービス・小規模多機能ホーム等の利用が必要不可欠となる。その施設で利用者が安全に過ごせ、家族は安心して利用者を送り出す為に、施設の内装は重要な決め手となる。その中で今回、当院施設の事故等のあった「玄関」を改修し、事故を軽減することが出来たので、ここに報告する。
    【対象】
    1.場所:当院小規模多機能ホーム 
    2.平均利用者数:13~15名 
    3.平均介護度 :要介護2.4 
    4.平均年齢 :87歳 
    5.平均HDS-R :10点/30点 
    6.利用者歩行能力:独歩・杖・車椅子
    【方法・結果】
    当院施設利用者の利用者データを平均し、重度の利用者と軽度な利用者の状況を参考とし、椅子高さ・腰壁・スロープ・手すり等の設計を行う。その際、同施設スタッフと意見交換を実施。
    結果については、改修前年度(H18年度)と改修後年度(H19年度)の事故状況・件数を比較。18年度では手関節等のアクシデント1件・転倒・転落に及ばないインシデント3件であったものの、H19年度では1件もインシデント・アクシデントは起こっていない。
    【まとめ】
    近年、医療費削減を目的に、入院・入所期間の短縮や、リハビリテーションの期限などが設定されており、高齢者や家族の負担が増加している。その中で高齢者のQOLを向上し、家族の介護負担を軽減する為に、諸サービスや小規模多機能ホーム等を利用する必要がある。その施設で利用者が怪我をしたら家族はどう思うでしょうか。そこで利用者が安全で、家族も安心して送り出せるように施設の「バリアフリー化」「ユニバーサルデザイン化」を図る必要があり、今回は「玄関」の小さな改修でしたが、それだけでインシデント・アクシデントを減少させるに至りました。この事から、インシデント・アクシデントは、スタッフ数等のマンパワーだけでなく、施設の構造や内装など、身近な所に原因はあり、そこに少し改修を行うことで、事故を未然に防ぐ事は可能だと考えます。
    PT・OTは利用者を自宅復帰させる事も大切な役割だが、積極的に自宅や施設などの社会環境にも関わる事が必要なのではと考えられた。
  • ―顕在性不安検査、Zarit介護負担尺度日本語版を用いて―
    中野 真実, 佐藤 亮, 南 留美子, 福田 圭祐, 冨田 伸
    セッションID: 76
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    理学療法士が行なう要介護者とその家族の在宅支援の一つに住環境整備が挙げられる。しかし実践の場においては住環境整備の成果を客観的調査に基づいて検討したものは少なく、対象者の主観的感想でその効果を判断している場合が多い。そこで今回住環境整備の有効性に関して顕在性不安検査(MAS)とZarit介護負担尺度(JZ)を用い調査検討したので報告する。
    【対象】
    対象は住環境整備として玄関スロープ設置と居室位置変更を予定している70歳代夫婦。糖尿病、神経病性膝関節症を呈した要介護度3の認定を受けている妻と主介護者である一般高齢者の夫とした。
    【方法】
    妻の在宅生活時から調査を開始、途中尿路感染にて入院を要したが住環境整備後に再度在宅復帰。その間妻にはADLテスト(BI)、MASを各5回、夫にはJZを4回実施した。住環境整備後に夫婦から感想を聴取し、それぞれの結果を比較検討した。
    【結果】
    1)在宅生活時BI70点、MAS23点、JZ50点。2)入院時BI55点、MAS26点、JZ42点。3)住環境整備後の外泊訓練後BI85点、MAS26点、JZ49点。4)退院前外出訓練後BI85点、MAS25点。5)在宅復帰後BI80点、MAS18点、JZ43点。夫婦からは心身ストレスも軽減し以前より快適な生活であるとの感想を得た。
    【考察】
    1)MASは疼痛と歩行時の膝関節不安定感増加等により身体能力低下を感じながら生活されており、住環境整備に対しても具体的効果をイメージする事が出来なかった為かなり高い不安感を、JZは要介護者の身体能力低下に伴い介護量が増加し高い介護負担感を示したと考える。2)MASは安静に伴う廃用によりADL能力が低下した為高度の不安感を、JZは直接的介護から開放された為介護負担感の減少を示したと考える。3)MASは外泊訓練により医療の充実した環境から急変する在宅生活が具体化された為高度の不安感を、JZは直接的な介護の再開を実感した為介護負担感の増加を示したと考える。4)MASは住環境整備とリハビリテーションにより円滑に外出や室内移動が可能となり、心身面への負担が軽減した為かなり高い不安感であるが低下を示したと考える。5)MASは新しい住環境に適応し身体的負担が軽減した為不安感は概ね正常域を、JZも介護量が軽減したことで介護負担感の減少を示したと考える。BIは住宅環境では歩行器で移動するには困難な箇所もあり移動能力に関し入院時に比べ低下している。
    今回の住環境整備に関しては、住環境整備前後の在宅生活時を比較すると妻の不安感と夫の介護負担感の減少という各心理テストの結果と夫婦の主観的感想は一致しており、住環境整備は成果を得られたと考える。
    【まとめ】
    理学療法士として今後有効な住環境整備を実践するためには、客観的な調査によりその効果を検証し、データを蓄積し新たな提案が出来るよう努力することが重要である
  • 恒松 裕介, 源島 修二, 澤村 一豊, 中村 弘, 壇 順司
    セッションID: 77
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院では平成15年より転倒予防教室を毎年開催し、その中で転倒危険性のある参加者に対しフォローアップ教室(以下教室)を展開している。平成19年度の教室参加者に対し、屋内のわずかな段差・マット・動線上の障害物等(以下危険箇所)を特定するための家屋調査とその場所を認識して貰うために視覚的フィードバック(以下FB)を行った。その結果、危険箇所への意識変化がみられたので、ここに報告する。
    【対象】
    参加者は19名(男性2名、女性17名)、年齢は76.4±5.6才であった。
    【方法】
    アンケート調査は、平成20年2月7日(1)と平成20年4月9日(2)に行った。アンケート内容は、家屋の「最小段差の場所と高さ」「危険と感じている場所」「以前(過去一年)、転倒しそうになったことがある」「転倒しそうになった後の対策」の4項目を実施した。(1)後に家屋調査を実施し、それをもとに各家屋の危険箇所を詳細に示した写真、注意点を添付した用紙を用い、個別にFBを行った。
    【結果】
    「最小段差の場所と高さ」では(1)玄関(土間・勝手口も含む)11名、風呂4名、居間1名、台所0名から(2)台所8名、玄関・廊下6名、風呂5名、居間4名になった。また、最小段差の高さは(1)14.89±0.57cmから(2)7.68±1.63cmとなり、0~5cm未満と答えた方は(1)4名から(2)11名になった。「危険と感じている場所」では(1)玄関10名、無6名、風呂5名、台所0名から(2)玄関14名、風呂5名、台所・無3名となった。「以前(過去一年)、転倒しそうになった事がある」では(1)2名から(2)5名に増え、「転倒しそうになった後の対策」では(1)片づけた1名、特に何もしていない1名から(2)片づけた3名、気をつけるようになった2名となった。
    【考察】
    参加者の多くは、地域的に農家であり家屋も古く、仕切りや高い土間・勝手口などのバリアが存在している。また、夜間冷える為マットや絨毯などが敷いてあり,転倒のリスクは家屋内のあらゆる場所に潜んでいると考えられる。
    まず、「最小段差の場所と高さ」「危険と感じている場所」で高さの意識が危険箇所へ向いたのは、佐藤らが視覚的媒体は講話に対する理解度も増す傾向にあり、知識の経時的な低下も少なかったと報告しており、家屋状況を視覚的に説明したことで危険箇所を認識できたからと推察される。特に台所の段差へ同じ意識づけが出来たのは参加者の多くが女性であり、台所への動線上の動きが多かった為と考えられる。
    次に「転倒しそうになった事がある」方が増えたのは、これまで危険箇所に躓く事やぶつかる事が転倒の原因であると認識しておらず、FBによって転倒へつながると認識したからと考えられる。
    今後、長期的に今回の結果を維持・発展させるためには、定期的な教室の開催と意識づけが必要であり、参加者との継続的な関係の構築が重要であることがわかった。
  • 事例から学んだ就労支援の輪
    膳所 紘
    セッションID: 78
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     メディア等を通じ世間に徐々に浸透しつつある高次脳機能障害だが、地域での認知度が低いのもこの見えにくい障がいの特徴といえる。今回、高次脳機能障害を呈し、家族・事業所・地域障害者支援センターと連携を図り復職に結び付いた事例を担当する機会を得たため、若干の考察を加え報告する。
    【症例紹介】
     30歳男性。平成16年1月仕事中7~8mの高さから転落。右側頭葉脳挫傷、急性硬膜下血腫、右小脳梗塞の診断受ける。その後意識レベル改善しY病院へ転院、同年10月当施設入所となる。
    【経過】
     入所時は他利用者の残食を集めて食べる。場の空気が読めず自己中心的な発言。一つの事に拘るとそこから抜け出せない等の問題行動あり。平成18年7月実施のWAIS-RではFIQ:63点(VIQ:77点、PIQ:51点)。同年12月の事業所との話し合いの結果復職の可能性が示唆される。職場実習を経験し、復職に向けて具体的な取り組みを開始。PIQの低下に対し本人用の作業補助器具を製作する事で何とか実用レベルの作業が可能となる。平成19年4月実施のWAIS-RではFIQ:78点(VIQ:93点、PIQ:63点)と改善認めるものの残存する問題行動に不安残す。地域障害者職業センターへ相談し、職業能力評価を受ける。復職は難しいレベルと判断されるが事業所側の前向きな受け入れもあり、症例の復職先である県の障害者職業センターとも連携を取りスケジュールや職場環境の調整を進める。最終的にはジョブコーチ2名が配属され、同年10月に復職の運びとなる。
    【考察】
     本症例は復職できたものの就労を継続していくためには、長期にわたる支援が必要であった。家族・事業所側にも高次脳機能障害についての理解が得られた事は復職の大きな要因となった。今回の事例を通して得た各機関との関わりは今後も就労を支援していく上で貴重な財産となったことは言うまでもない。しかし最近では県の高次脳機能障がい支援拠点施設に認定された事も影響し、復職以外に新たに職に就く事を目標とした施設利用者は増加傾向にある。どれだけ多くの企業と連携が取れるかが今後の課題であると感じている。本症例に対しては現在新たな問題も生じてきており、今後も連携を深めながら断続して支援を行っていきたい。
  • ~低酸素脳症の1症例を通して~
    小川 彰, 小泉 幸毅, 敷田 佳代, 宮岡 秀子
    セッションID: 79
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    若年者のリハビリテーション(以下リハ)では、機能・活動水準の改善に長期間を要すことも多く、かつ社会復帰においては他機関との連携が不可欠であると感じる。今回、回復期リハ病棟、障害者施設等一般(以下障害者)病棟、外来でのリハを実施しながら、養護学校へ入学し、更に就労を目指している症例のリハ経過と養護学校との連携について整理し、若年者の社会復帰への支援について考察する。なお演題として発表することに関して事前に保護者より了承を頂いた。
    【入院時評価】
    17歳男性(当時15歳)、低酸素脳症後遺症。当院入院時(発症後2.5ヵ月)四肢麻痺、構音障害、嚥下障害、高次脳機能障害を認めた。簡単な指示理解は可能だが、表出は単語レベルで聞き取りづらく発話は少ない。基本動作は寝返りは見守りで可能だが頚部・体幹のコントロールが不十分で、起き上がり以降は介助。ADLでは食事は軟飯・軟菜の刻み食にトロミをつけ全介助、他のADLも全介助。尿便意もなかった。
    【経過】
    1)回復期リハ病棟では、頸部・体幹へのアプローチと起居動作獲得を主目的に実施。リハ量は1日PT・OT・ST各2単位(障害者病棟、外来リハでも同単位)を週6日実施。約4.5ヵ月後、起居動作は寝返りが自立、起き上がり・立位・移乗が見守りとなった。普通型車椅子で、ADLは食事が口頭指示、更衣が見守りまで改善した。2)障害者病棟では、基本動作とADLの向上を目的に同量の同頻度を継続。約6ヵ月後に寝返りと座位が自立し、後方介助歩行が可能となった。この時期に「自宅退院と養護学校進学」という方針が決まり、退院前訪問指導を実施。3)外来リハ導入後、入学前に養護学校へ訪問し、車椅子の調整や動作能力を伝達したり、入学後は直接担任に動作介助の実演を行った。入学4ヵ月後には、担任が来院され、お互いに現状の報告と今後の役割分担について話し合った。外来リハでは、移動能力とADLへのアプローチを継続し、作業能力の拡大を目指した。頻度は入学までの3ヵ月間は週5日、入学後は週2日。約1年3ヵ月後の現在、寝返りから座位までが自立、立ち上がりと移乗が見守り、移動は片手での側方介助歩行へと改善した。なお養護学校では、勉学に加え、運動、社会活動(作業活動、屋外活動等)を実施している。
    【考察】
    この症例から、若年者の社会復帰への支援には、回復期以降にも1)回復の可能性があれば十分なリハ量を提供して、機能・活動水準を社会復帰に必要なレベルに高めること。活動水準や心理面の伝達、生活状況や家族の希望も含めた方針の共有等で2)相互連携を図ること。またリハでは主に機能・活動水準を、養護学校では社会参加に繋がるかかわりなど、3)各々の立場で役割分担を確実に行うこと等が有効であったことを学んだ。今後は、セルフケアや作業能力の向上を図り、学校等と連携をとりながら、卒業後の就労を目指していきたい。
  • 40歳代の症例を通して
    長田 真由美, 森 勉, 佐藤 孝臣
    セッションID: 80
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当施設は平成19年2月にICFの理念を取り入れた通所介護を開始し、自立支援へ向けた取り組みを行なっている。利用者は比較的年齢層が若く日々ニーズも多様化している中、今回主婦業の獲得・就労に向けて支援し、目標の達成に近づいた症例を担当したので報告する。
    【症例紹介】
    40歳代女性  診断名:クモ膜下出血  障害名:右上下肢麻痺・体幹失調
    介護度:要介護度2   前職業:事務職  主目標:就労及び主婦・母親としての役割の獲得
    【初期評価】 FIM:107/126
    ADL:主に入浴に介助を要し、移動は屋内外手引き歩行。
    IADL:家事は殆ど実施せず、外出は通院程度。
    【経過】
    <1~2ヶ月>ストレッチや筋力訓練、トイレ動作、玄関の出入り、車の昇降、歩行訓練を実施。伝い歩きでの移動のレベルから室内自立歩行へと変化した。
    <2~5ヶ月>屋外歩行訓練、家事訓練を実施。盛り付け・配膳・調理・食器洗い等実施。屋外歩行は一本杖で見守りとなり、傘をさしての歩行など応用歩行訓練も行なった。
    <5~7ヶ月>自動車運転練習を開始。広い駐車場を利用し安全な条件から始めた。また、就労に向けて前職業から選択したパソコン操作・電卓での計算・伝票整理など実施した。
    【7ヶ月後評価】 FIM:122/126
    ADL:入浴の自立。移動は屋内独歩で自立、屋外は一本杖で見守りとなる。
    IADL:家事は全般的に実施。買い物や観光に限らず、子供の卒業式に出席するなど参加機会が増えた。自動車運転では、安全確認に視野が慣れず若干課題は残ったが運転操作は問題無くスムーズに行なえた。就労面ではやや時間はかかるが、事務作業遂行が可能となり、某会社での就職も現在進行中である。
    【考察】
     今回、主婦業の獲得及び就労に向けた事務作業の獲得という結果が得られた。理由として、適切な運動負荷で運動プログラムを行い、同時に活動度を上げて行ったことが大きく関係した。また、主婦業及び就労を介して症例の持つ潜在能力を引き出しながら活動へと結びつけた事、獲得した動作を自宅で繰り返し実施できた事が家事動作獲得に至ったと考える。自動車運転・就労訓練では、ニーズが高い事が今後への不安を助長する危険性もあったが、チーム内で目標を共有し、情報交換が行なえたことで精神面もフォローできた。また、段階付けをしながら導入した事・症例の学習能力が高かった事も、動作獲得に繋がったと考える。今回、症例を通じて通所介護においても活動を見据えた作業療法を実施すれば高いレベルの目標が達成でき、地域分野でも十分効果が出せ利用者の自立支援に繋げることが出来ることを実感した。 
  • 浮腫と血圧の関係
    石井 徳久, 木下 信博
    セッションID: 81
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     療養型病床群では、下腿に浮腫を有する患者は大変多い。運動療法を行う中で、浮腫を有する患者は関節の拘縮や皮膚の萎縮や高血圧を散見する機会が多い。そこで今回我々は、浮腫の軽減に対して行われている薬物療法の他に運動療法により浮腫の軽減に寄与できればと思い運動療法を実施し、その臨床結果を報告する機会を得た。
    【対象及び方法】
     対象は96歳、女性。方法として両下腿を理学療法士により徒手によるミルキング(末梢より中枢に向かいマッサージを実施)を行い、血圧を測定し、下腿の周計を測定した。
    【結果及び考察】
     結果より、最高血圧及び最低血圧で、ミルキング療法開始時より血圧の低下傾向にあり有意に差が認められた。下腿の周径は左右ともに、時間を追う事に浮腫の縮小が見られた。運動療法の効果として、ポアズイユの法則により抹消血管からの血流量が、中枢に向かうに従い血流量の増加と抵抗の低下により、還流がより促されその結果として、1回の心拍出量の低下が促されたと考える。また、静脈血流量の減少により、動静脈血流量の均衡が図られ、血圧の下降が生じたと考え、運動療法が血圧の安定に作用し、体内の恒常性の維持が図られたと考える。運動療法の施行後、「気持ちが良い」といった返答や、穏やかな表情が観られた。この事から、中枢に還流した血液の増加により、脳への循環血流量も増加し、それが自律神経に作用し、精神の安寧に作用したと考える。
  • ~原因不明の拘束性換気障害の患者を通して~
    兒玉 吏弘, 砂川 善洋, 徳村 哲, 山内 直美, 下地 浩之, 喜名 みゆき, 仲地 聡
    セッションID: 82
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     呼吸理学療法を安全に実施し、より効果的な治療手段の選択や介入効果の判定を行うためには、患者を注意深く観察し病態を詳細に把握する必要がある。今回、原因不明の拘束性換気障害を呈した患者の確定診断前後に渡る理学療法を経験したので、症例を提示し経過を供覧する。
    【症例紹介】
     73歳男性。主訴:1ヶ月持続する呼吸困難。現病歴:来院1ヶ月前より、頚部と腰部を突き出し歩くようになっていた。来院1~2ヶ月前より労作時呼吸困難出現。呼吸困難のため歩行も困難となり、ベッドに横になることが多くなった。2日前より呼吸困難が増強し我慢できなくなってきたため、当院救急受診となった。既往歴:完全房室ブロックに対してペースメーカー挿入(03’他院にて)高血圧、生活歴:Ex-smoker:2PPD×30years、アルコール:泡盛2~3合/日、職業:無線の修理、渡航歴:なし、飼育歴:なし、家族歴:特記事項なし
    【身体所見】
     身長157cm、体重59kg、BMI 24、バイタルサイン(外来受診時):BP 148/80、HR76、RR28、SpO2 94%(RA)、BT37.0℃。頭頸部:胸鎖乳突筋および中斜角筋の肥大あり、気管短縮なし、頚動脈怒脹なし、頚部の前弯著明。胸部:胸式呼吸パターン、横隔膜の動き弱い、胸郭運動左右差なし。打診にて鼓音、左右差なし。呼吸音:両肺野にて正常肺胞呼吸音、喘鳴・ラ音は認めない。四肢:浮腫なし、ばち指なし。神経学的所見:舌萎縮なし、三角筋・上腕三頭筋の筋萎縮あり、骨間筋・母指球筋の筋萎縮あり、下肢の萎縮は目立たない。深部腱反射、温痛覚左右差なし。ABG:pH:7.387、PCO2:52.3、PO2:72.5、HCO3-:30.7(外来受診時)、肺機能:VC:2.10L、%VC:69.3%、FEV1.0:1.18L、FEV1.0%:79.0%。頚部レントゲン:C4,5,6頚椎に強い変形性変化あり。胸部レントゲン:両肺野において異常所見なし。ADL:呼吸困難のため歩行困難。ベッドからの起き上がりに妻の介助を要していたが、入院中徐々にADL低下し、端坐位保持も困難となった。
    【リハビリテーション経過】
     Phase1:原因不明の拘束性換気障害に対してのアプローチとして、症状軽減目的の呼吸法指導・安楽姿勢の検討を行った。Phase2:入院18日目にバイタル変化あり、敗血症疑いにて急遽ICUへ。呼吸器合併症の予防とウィーニングに向けて呼吸理学療法介入するも抜管困難で気管切開、レスピレーター管理となる。Phase3:確定診断がついた後、在宅へ向けての連携を図り、在宅レスピレーター導入し自宅退院となった。
    【まとめ】
     今回の抄録において鍵となる確定診断名は伏せてある。本症例の経過から、フィジカルアセスメントによる病態把握の重要性を再認識した。
  • 大平 高正, 木村 浩三, 弓 早苗, 薬師寺 里江, 井上 博文, 山田 卓史, 高井 秀明, 松丸 一朗
    セッションID: 83
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    2006年に心大血管疾患としての疾患分類が定義されてから、全国で心臓リハビリテーション(以下、心リハ)は、積極的に実施されている。心リハは大きく分けて、内科領域の冠動脈インターベンション後、慢性心不全と外科領域の開心術後に分けられる。ADLの拡大および運動療法を実施するうえでの阻害要因として、(1)不整脈の出現、(2)運動耐用能の低下である。開心術後は、これらの要因に加えて術後疼痛の出現があげられる。術後疼痛の出現は外科領域の特徴であり、我々理学療法士がアプローチできる部分も大きい。しかし、術後疼痛の発生要因について考察した報告は少ない。今回、術後疼痛に関する調査を行ったので報告する。
    【方法】
    対象は、2006年1月から2007年9月に、当院心臓血管外科にて行われた開心術患者65例。術式は、CABG23例、AVR19例、MVR10例、AVR+MVR5例、CABG+AVR1例、CABG+MVR1例、CABG+MVR+AVR1例、その他4例であった。調査方法は、カルテによる後方視的調査とした。疼痛部位は患者の訴えおよびセラピストのアセスメントにより判断した。また、疼痛の有無で群分けし統計学的検討を行った。
    【結果】
    術後疼痛の訴えた患者は31例(48%)であった。疼痛の発生部位(重複あり)は、肋椎関節部23例、胸肋関節部8例、術創部(正中創)7例、頚部3例であった。疼痛の有無による2群間には、年齢、性別、術式による差はなかった。
    【考察】
    開心術後の疼痛発生の主な部位が、肋椎関節および胸肋関節であることから、肋骨が何らかの原因になっていると推察される。特に上位肋骨の運動方向は開胸器の運動方向と異なるため、手術時に上位肋骨に関連する軟部組織が障害されたことで疼痛が出現している可能性がある。加えて、術中体位も術後疼痛の発生に影響している可能性がある。開心術の体位は、術野を確保するために頚部伸展および胸椎を伸展させる。胸椎を伸展させるために胸椎部に肩枕を挿入する。肋椎関節部に疼痛を訴えた患者は、肩枕の設置場所と同部位の胸椎が扁平になっていた。胸椎の扁平化が、肋骨の可動性を低下させ、その結果、疼痛が出現していると推察した。今回、調査していないが、手術時の肋骨に関連する軟部組織の障害に起因した疼痛では術後早期から疼痛が出現する。胸椎の扁平化による肋骨可動域の低下に起因する疼痛では上肢の使用頻度が増えてから、つまりADL拡大時に疼痛が出現する。疼痛出現時期との関連性については今後の課題とした。また、少数ではあるが、術創部や上位肋骨の関与が考えにくい部位にも疼痛の訴えがあった。変形性頚椎症などの頚椎疾患が既往として存在すれば、長時間の頚部伸展位によって神経症状が出現する可能性も否定できないため、術前に評価しておくことも重要である。
  • 永野 幸四郎, 柚木 純二
    セッションID: 84
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院の心臓血管外科(以下心外)では、年間100件を超える開心術が行われ、術後のリハビリテーション(以下リハ)に理学療法士(以下PT)が介入してきた。しかし、他職種との連携において不十分な点もあり、我々はチームでの共通認識が最も重要と考え、定期的な心外カンファレンスを開催した。医師の指示の元に、医師の直接監視無しでの安全な術後リハの提供を行い、術後の早期離床、200m歩行獲得への取り組みを行っている。
    【対象】
    平成19年10月より、平成20年3月までの6ヶ月間で、定期手術として実施された開心術32例(大血管症例は除く)。内訳は冠動脈バイパス術18例、弁置換術14例、性別は男性19名、女性13名、平均年齢は71±8.5歳である。既往歴は、糖尿病12例(37.5%)、高血圧8例(25%)、脳梗塞4例(12.5%)、人工透析2例(6.2%)、下腿切断1例(3.1%)であった。周術期因子として、手術時間平均326±88分、体外循環平均135±31分である。
    【方法】
    平成19年10月より、心外医師を中心に、術前、術後カンファレンスを行った。内容は、カンファレンスシートに記録しカルテに掲示することで、スタッフ全員が閲覧できるようにした。
    ICUにて、術後リハ介入時の明確な基準が無かった為、心外医師と相談し基準を設定することで、医師、看護師、PT間での共通認識向上に努めた。さらに、心外医師の協力により、メラサキュームMS-008(泉工医科工業)等への持続ドレーンは早期に抜去し、携帯型のJ-VAC(Johnson & Johnson株式会社)システムにより吸引を実施した。
    循環器病棟にて、申し送りにPT、MSWが参加して他職種間の連携の強化を行った。
    【結果】
    術後抜管時間平均527±701分、ドレーン抜去平均1.3±0.7日、術後立位平均1.7±0.9日、ICU退室平均3.8±1.2日、200m歩行平均6.2±2.5日、術後リハを遅延させる合併症は、心房細動1例であったが、術後の重篤な合併症の発生は0例であり、手術死亡数は0例であった。
    【まとめ】
     開心術の術後リハにおいて、医師の直接監視無しでも安全にリハを施行し得た。しかし、その為には、PTのレベルアップは当然であるが、職種間での共通した認識を持つことが重要である。今回の取り組みで、患者様へ提供される情報、リハ内容に統一性が生まれ、安全にかつ安心感を与えながらリハを行うことが可能となった。さらに、術後のリハ介入への他職種の意識向上が得られた事と、J-VACシステム導入による工夫が、術後リハに大きな効果を与えたのではないかと考える。
    今後の課題として、他職種との連携を深めながら、他職種参加型のクリニカルパス作成を行い、効率的でスムーズな術後管理の確立を行っていきたいと考える。
  • 小森 博人, 福島 慎吾, 内田 学
    セッションID: 85
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    2004年4月より肺血栓塞栓症予防管理料が保険適応となり、理学療法分野においても早期離床や積極的な運動、弾性ストッキングまたは間欠的空気圧迫法による深部静脈血栓症の予防が推奨されている。しかし、過去の先行研究においては血栓塞栓予防の効果について見解がまちまちである。当院においても各診療科間での予防法が様々であり、統一的な方法が確立していないのが現状である。本研究は、当院にて実施されている血栓予防法の中で最も効果的な手法について検討することを目的とした。
    【方法】
    対象は健常男性16名、平均年齢27±6.4歳(平均身長168.6±4.0、平均体重62.8±7.4)であり過去に血管病変などの既往のない者を対象とした。測定機器は超音波診断装置(PHILIPS社HD11)を用い、安静時、弾性ストッキング(TORAY社FineSupport)着用時、間欠的空気圧迫装置(TERUMO社VenoStream)装着時、自動運動時、深呼吸時の右大腿静脈の血流速度をパルスドプラにて測定した。自動運動は背臥位にて膝関節を伸展位とした状態での足関節底背屈で運動速度は40回/分(以下自動運動40)、80回/分(以下自動運動80)とした。対象には本研究の主旨を説明し同意を得た後に測定を行った。統計解析は一元配置分散分析を行い、得られた主効果について多重比較(Bonferroni)を用いて検討を行った。なお有意水準は5%とした。
    【結果】
    大腿静脈の血流速度は、安静時30.7±5.2cm/s、弾性ストッキング着用時29.1±6.6 cm/s、間欠的空気圧迫式装置装着時50.4±19.3 cm/s、自動運動40で 50.7±21.7 cm/s、自動運動80で 59.3±38.4 cm/s、深呼吸時45.3±15.3 cm/sであった。安静時-自動運動80(p=0.03)、及び弾性ストッキング-自動運動80(p=0.01)間において有意差を認めた。他の測定条件間には有意差は認められなかった。
    【考察】
    本研究の結果から、受動的方法おいては有意差が認められなかった。静脈系は容量血管といわれているように含有血液量が大きい。また下腿の静脈血貯留の大部分は筋の深部静脈であり、周辺の筋組織からの圧力により制御されている。このことから受動的方法では深部静脈に対する圧迫力が不十分であったのではないかと考えられた。また自動運動40においては他の条件と比較して高い傾向を示したものの有意差を認めなかった。一方、自動運動80においては有意差を認めた。これは筋収縮回数が血管の収縮に影響したものと考えられた。これらの事から血栓予防の為の血流速度の上昇にはなるべく速い筋収縮の必要性が示唆された。
  • 当院における糖尿病教室の取り組み
    田代 靖知
    セッションID: 86
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院では昨年9月より糖尿病患者の療養指導を目的に糖尿病教室を開始した。当院では脳血管障害による片麻痺患者の割合が多く一般的に行われているエアロビクス・エクササイズの様な有酸素運動を中心とした糖尿病運動療法は困難となることが多い。そのためレジスタンス運動を中心とした運動を紹介している。
    【方法】
    糖尿病療養指導士の資格を取得したコメディカルを中心に、当院外来ロビーにて外来・入院患者またその家族を対象に毎週1回「糖尿病について」、「栄養療法」、「薬物療法」、「運動療法」等をテーマに糖尿病教室を開催している。そのうちの「運動療法」についての講義ならびに実技を理学療法士が担当している。
    【内容】
    運動の目的、効果、頻度、負荷量や脈拍の目安、禁忌等について10分程度の講義を行い、その後20分程度運動実技を行っている。当院では脳血管障害による片麻痺、車椅子レベルで立位困難な患者が多く立位で行う一般的なエアロビクス・エクササイズを行うことが困難である。そのため坐位にて安全に行える有酸素運動やレジスタンス運動を中心とした運動を紹介している。有酸素運動ではリズムに合わせ上肢・下肢を動かし更に足踏み運動を行う。また糖尿病患者には有酸素運動以外にも基礎代謝を維持・向上させるために筋肉量を増やすことが必要である。そのためダンベル、ゴムバンドなどを使用したレジスタンス運動も指導している。
    【結果】
    糖尿病教室開始当初は15名程度の参加者であったが主治医・病棟スタッフに呼び掛けを依頼したことや、院内にポスター掲示を行ったことにより現在では毎回30名前後の参加となっている。
    【考察】
    糖尿病の治療は栄養療法・運動療法・薬物療法が三つの柱である。運動療法はエネルギーの消費量と基礎代謝を向上させ、脂質代謝を改善しインスリンを効率よく利用させることが目的となる。しかし片麻痺患者は運動を制限されることが多く、一般的に糖尿病患者へ指導されるウォーキング、ジョギング、自転車、水泳などの持続的な有酸素運動でエネルギーを消費することは困難である。そのためレジスタンス運動で筋肉量を増やし基礎代謝を向上させることが有効であると考える。しかし現在糖尿病教室に参加する患者の血糖値や体重等の推移の観察までには至っておらず、今後は患者の検査値やアンケート等から運動の効果を検討していくことが必要であると考える。
  • 高次脳機能障害による混乱と不安をもつ症例を通して
    立石 絵理子, 矢野 高正, 佐藤 浩二, 安部 隆子, 衛藤 宏
    セッションID: 87
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    多彩な高次脳機能障害による混乱や不安が強い症例に対し,活動面へのアプローチを積極的に行った。結果,ADLの自立に加え心身機能の改善へも波及し,自宅復帰が実現した。症例を通し活動面を重視したアプローチの重要性について考察する。
    【症例紹介】
    60歳代,男性,脳梗塞。利き手は左手で箸操作と書字のみ右手に矯正。麻痺側ステージ上肢VI・手指VI・下肢VIで,ROM制限,感覚障害はないが,ゲルストマン症状(右上肢に著名),視空間失認,観念運動失行,構成失行,感覚性失語を認めた。発症前は妻と2人暮らしで畑仕事やTVを観て過ごす。
    【目標】
    チーム目標は3ヶ月で独歩・両手動作でADLが自立し,妻と畑仕事をしながらの自宅生活とした。OTでは1ヶ月で院内のADLを自立させ,その後,屋外活動や試験外泊を導入し,3ヶ月で屋外活動が妻と共に可能となる事とした。なお,症例は特に失敗体験や新規学習での混乱が強かった為,1ヶ月間は成功体験を積み,ADLが自立し混乱が軽減した頃より失敗体験を交え問題解決能力を高める指導へと発展させることとした。
    【経過】
    ADL場面では成功体験を積む為,自宅の物品を使用し以前と同様に行なうよう指導し,1週間で円滑に可能となった。また,代償方法の指導により3週目には目的地までの移動が自立した。併せて,右上肢の自己訓練を導入し,実生活での箸の使用が可能となった。4週目からは問題解決能力を高める為,自宅生活を想定した畑仕事を導入し,自宅での方法と刃物の使用の注意点を指導した結果,1週間で見守りにて可能となった。5週目から家族指導を含めた試験外泊を繰り返し,9週目には妻と畑仕事が可能となった。併せて,手指の全般的な巧緻動作訓練を導入し,ネクタイ締めや署名が可能となり,3ヶ月で自宅退院となった。最終時には自宅環境でのADLが自立し,屋外活動は妻同伴で可能となった。高次脳機能は書字や動作の模倣が可能となり,ゲルストマン症状と観念運動失行のスクリーニング検査上での改善を認めた。視空間失認と構成失行は慣れた環境での影響は無くなった。
    【考察】
    多彩な高次脳機能障害を呈した症例が3ヶ月で目標達成に至った背景として,症例自身に症状の自覚を促し活動面を中心にアプローチしたことが挙げられる。また,成功体験を積む関わりから問題解決能力を高める関わりへと段階付けた事で,ADL,IADLの更なる向上へ結びついたと考える。加えて,適切な右上肢の使用と実用性を高める自己訓練を行った事が心身機能の改善へと発展したのではないかと考える。このことは、上田の高次脳機能障害の症状に対する「心身機能面の改善のためにもADLに重点を置いたアプローチの方が有効である」との考え方とも合致している。
  • ~改良・環境設定への関わりを通して~
    渡邊 誠司, 梅田 理絵, 佐藤 暁
    セッションID: 88
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     脳血管障害者に対し、短下肢装具(以下SLB)の使用は歩行だけでなくADLへも影響を及ぼしており、中でも装具着脱自立の可否によって介助量や自立度が変化するケースは少なくない。今回、するADLを見据えた上でSLBの改良、環境設定に注目して装具の着脱自立を目指した結果、ADLへの変化が見られたため以下に報告する。
    【症例紹介】
     70代男性 診断名:脳出血(右被殻)発症日:H19年9月 既往歴:後縦靭帯骨化症(約20年前より)片麻痺グレード:上肢3手指4下肢7 ROM;頸部・体幹に重度の可動域制限、頸部から仙骨までの強直も見られる。左肩に中等度の制限あり。FIM:初期時86点→最終時93/126点 主目標:入浴以外の日常生活動作自立し、妻とともに安全な生活を送る。4点杖・SLB使用し、サービスの利用や外出を行っていく。
    【経過】
     SLBの作成にあたって、従来の装具では頸部、体幹の可動域制限により着脱不可能となっていた。そのため、装具の作成にあたり改良、環境設定が必要だった。そこで 1)右手で引っ張りやすいようにベルクロの向きの変更 2)ベルトを通しやすいように長くし、先端にリングをつける 3)足関節のストラップの幅を大きくし固定する。以上の改良を加えた。環境設定では、足背部のベルト装着の際に、頸部、体幹の可動域制限により左下肢を地面に接地したままではリーチでも届かず、視覚的にも殆ど見えない状態であったため、環境設定として20cm台の使用、手すり付き椅子の使用、装具を開く型付けを行った。
    【結果】
     装具の改良により 1)骨盤の前傾、右上肢のリーチ動作により足背部のベルトに手が届くようになり 2)足背部のベルトの装着可能 3)足関節のストラップの装着可能となった。自宅での装具着脱については、環境設定により昇降座椅子と20cm台を使用して行った結果、自己にて行うことが可能となった。
    【考察】
     今回、装具作成時から装具本来の特徴を見失わず、症例の心身機能面の特徴を踏まえた上で装具の改良、環境設定を行ったことで着脱自立に至った。また、装具作成時から着脱自立を見据えた関わりをしたことで、活動向上訓練へとスムーズに移行でき、自宅内歩行、ADL自立へと繋がった。
     装具の着脱について石鳥らは、装具をベッド上ではなく、車椅子にて着用するのは、身体機能が低下しているゆえに、車椅子のバックレスト、スカートガード、フットレストを利用して装着する特徴があるためと述べており、今回自宅では車椅子を利用しないため、手すり付き椅子、20cm台を用いた事により、車椅子の特徴を環境設定として代用でき、自己にて行えるようになったと考える。
  • 茶碗把持に着目して
    上川 真吾, 鈴東 佳子, 松下 兼一, 渡 裕一
    セッションID: 89
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    近年、若い年齢で脳卒中を発症し、その後のADLに支障をきたす例も少なくない。今回、脳梗塞後左片麻痺により、家事動作における茶碗洗い動作が困難となった症例に対し介入した結果に若干の考察を加え報告する。
    【症例紹介】
    60代女性、H18.11脳梗塞発症(右頭頂葉・内包)、左片麻痺。現在週3回当院外来リハ利用。Br.stage:V-IV-VI。感覚:手掌面表在・深部中等度鈍麻、BI:95点(減点:入浴)、STEF:Rt96・Lt15、高次脳機能障害:(-)
    【茶碗洗い動作場面の特徴】
    開始時の立位姿勢は、頚部・体幹が屈曲位にて過剰に固定しており、重心は右側へ偏位。麻痺側上肢は屈曲パターンをとり肘・手関節・手指ともに軽度屈曲。肩甲帯挙上後退位。両側上肢活動時、麻痺側上肢は連合反応が出現し、茶碗の形状に対して、適切な手の形状付けが行えない。
    【経過】
    把持動作時の立位バランス不十分で、上肢に連合反応が出現していた。また把持動作中は徐々に屈筋痙性が亢進し、安定した茶碗把持の持続が困難な状態であった。
    まず立位での重心移動を行う中で体幹筋の同時収縮性を高め抗重力伸展活動を促した。更に体幹の支持性が向上し、立位が安定した時点で、上肢の連合反応を減弱しつつ、更にリーチ方向への重心移動を伴う多方向へのリーチを促通し、そのなかで流しでの茶碗への把持につなげた。また、タオルを用いて手掌面への体性感覚入力を行った後、茶碗を用いた実際場面での把持の調節・学習を繰り返し行った。
    また視覚情報を確認しながら、動作を定型的に行うことで、患者自身の茶碗把持に対する内的動機付けを図った。
    開始3ヶ月後茶碗の把持及び適切な手の形状付け及び自己修正が可能となり、安定した茶碗洗い動作を獲得した。
    【考察及びまとめ】
    今回、立位での両上肢活動に着目し、茶碗洗い動作に対する介入を行った。
    動作を行うための適切な身体環境を整えることで、立位という不安定な環境下での両手動作の獲得を目指した。
    特に高次脳機能、視蓋脊髄路に大きな問題がなく、動作に対する理解は良好であったため、視覚からのfeedbackを促し頭頂連合野による動作理解遂行というSensory motor systemによる脳の賦活も期待した。
    立位バランスの改善から介入し、同時に連合反応の抑制、適切な上肢操作の学習を繰り返し、患者自身の内的動機付けを十分に定着することが出来たため、最終的に動作獲得につながったと考える。
  • ~維持期に新たな福祉用具を導入~
    小西 久美子
    セッションID: 90
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
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    【はじめに】
    今回、治療経験があり生活機能が安定していた維持期の方へ新たに福祉用具を導入し、ADLに質的な変化をもたらすことができた。福祉用具に対する専門性について考察を加えて報告する。
    【機器について】
    把持しやすいように配慮されたク゛リッフ゜が2本の箸と一体になったク゛リッフ゜付き箸(箸蔵くんストレート左手用、ウィント゛~風~社製。以下、介助箸とする)を使用した。
    【症例紹介】
    右片麻痺の70歳半ば女性。200X年(70歳)、脳出血発症。200X+4年、介護療養型病棟を経て当園入所。フ゛ローカ失語だが、明るく前向きな人柄。要介護 4。障害老人の日常生活自立度 B1。痴呆老人の日常生活自立度 I。Barthel Index 55点。食事は、肩関節外転・前腕回内位でスフ゜ーン把持し、すくい上げや口へ運ぶ時に食物を落としエフ゜ロン使用。Brunnstrom stage 下肢-III、上肢-II、指-II。立位は、右下肢に屈曲ハ゜ターン優位の共同運動出現し左片足立ちとなる。右上肢は、廃用手。左手指は、指尖つまみやシャツの第一ホ゛タンのかけはずし可能。
    【導入までの経過】
    両手の巧緻性の高さを期待できる洋裁や弁当屋の職歴を持つ。前施設でハ゜チンコ玉を並べて文字作り施行。入所時評価と経験知より介助箸使用を提案する。試用で活動遂行はぎこちないが、副食はほぼ食べこぼさなかった。米飯は箸先を閉じてしまうため取りこぼし、かきこむように食べた。使用感は良く、3日間の試用期間を経て日常使用になった。
    【方法】
    毎食、スフ゜ーンと介助箸を併用。経過観察し、3ヶ月後に再評価した。
    【結果】
    箸先を数ミリ開けて米飯の塊を箸にのせることが可能になった。食物に対する箸の構えが改善し、介助箸使用の効率性が向上した。エフ゜ロンなく、介助箸でほぼ全量食べる。主観的評価は、遂行度9/10、満足度9/10だった。左手指で一般の箸を構えることが可能なのを確認でき、箸操作獲得に向けた治療案を受け入れた。
    【考察】
    福祉用具が街中で簡単に安価に誰でも手にすることができるようになり、福祉用具に対する専門性が問われると思う。今回、作業療法の立場から(1)経験知を踏まえて食事動作に改善の可能性があるかもしれないと漠然としたニース゛を発見し、(2)情報を収集・整理して社会歴や治療歴からも左手指の潜在能力を推察し、(3)介助箸の食事という新しい活動の機会を作り、その活動遂行を支援して実際的に福祉用具を導入したと思う。また、環境因子のひとつである福祉用具が、生活機能に及ぼす影響力を再認識した。福祉用具が生活機能に対して促通因子であるよう導入する者の技量に、専門性が問われると思う。
  • -褥瘡を招く生活因子の見直しから多角的に関わった2事例-
    川田 隆士
    セッションID: 91
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
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    【はじめに】
    車椅子使用関連での褥瘡発生は臥床時間を延長させる。早期治癒に至らなければ、臥床による2次障害を招く。しかし、褥瘡発生の裏には単に車椅子上の不良肢位だけでなく、離床時間、臥床中の体位、移乗の仕方等、褥瘡を招く生活背景が必ず存在する。今回、褥瘡を招く生活因子の見直しから多角的に関わり、治癒に至った5事例中2事例を報告する
    【事例1】
    86歳男性、胸髄梗塞、両下肢不全麻痺、肥満。長谷川11点。仙骨部2~3度褥瘡。普通型車椅子使用。常時仙骨座り。移乗全介助。移乗~着座介助にて衣服の摩擦あり。離床拒否が多く、移乗時の恐怖感と肥満により介助者共に負担増加。ベッド生活を助長。昼夜問わず、仰臥位背上げ姿勢でのテレビ鑑賞及び摂食
    【アプローチ】
    1,食事時間を中心に離床時間を統一(7時~9時、12時~15時、17時~19時)。2,アダプトコンチェア及びシーポスクッション併用にて坐骨支持にし、創部を無圧化3,移乗負担、創部摩擦減の目的で移乗ボードによる坐骨支持での移乗とし、着座までの介助方法を統一4,臥床中は事前にベッド高を高め、背上げ姿勢でのテレビ鑑賞を制御。同時に創部に寝具が当たらない体位設定とチェック法を統一
    【事例2】
    88歳男性、パーキンソン病、Yahr5。長谷川測定不可。左仙骨部2深度褥瘡。再発を繰り返す。普通型車椅子使用。食事は椅子上。仙骨座位及び左傾き。移乗は中等度介助であるが、介助時の衣服摩擦が目立つ。覚醒状態が悪く、摂食は姿勢崩壊状態の中等介助~全介助。褥瘡治療優先の為臥床時間が長く、昼夜逆転傾向。臥床時は30度側臥位の設定だが、枕の挿入法に不備不統一があり、創部が寝具に触れている状態
    【アプローチ】
    1,離床時間は事例1と同様。離床中はマイチルト車椅子及びデユオジエルクッションにて仙骨座り及び傾き防止すると共に創部を無圧化2,食事は創と覚醒状態の改善を優先し、本調整車椅子乗車での食事設定とした。3,移乗~着座まで、創部の摩擦を避ける介助法を統一4,臥床時、創部に寝具が当たらない体位設定とチェック法を統一。 なお、1,~4,は実技と写真掲示を併用。早期定着を図った。処置はイソジン、ガーゼ。
    【経過】
    2事例とも褥瘡は約1ヶ月で完治。事例1は離床拒否なく、自走行動拡大。積極的に軽作業参加。事例2は昼夜逆転改善され、食事は椅子上で最小介助にて可能。
    【考察】
    2事例とも褥瘡改善する為には車椅子上の除圧確保だけでなく、生活全般の見直しが必要であった。創の部位、処置によっても差があると思われるが、褥瘡を有する、他類似3事例に対し、同様の取り組みを行った所、2次障害を併発させる事なく、全て約10日で治癒している。褥瘡発生の裏には不良肢位だけでなく、これを招く生活背景が必ず存在する。故にここを見直すことは単に褥瘡治療に留まらず、個々人の生活改善へと直結していくものと考える
  • 南野 大佑, 丸山 倫司
    セッションID: 92
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    臨床の場面において膝関節の腫脹や筋萎縮を測定するために大腿周径が測定される。一般的には、膝蓋骨直上・上縁、膝蓋骨から5cm・10cm・15cmの周径を計測するが、その測定部位により測定される筋肉、筋群は明確にされていない。そこで今回、MRIを用いて大腿部の各部位を計測し、その横断面積における各筋の構成比率を検討した。
    【方法】
    男女1名(年齢24歳)に対してMRIを用いて、スライス厚0.5cmスライス幅1.0cm T2:TE80msec STIR:TE24msecの条件下にて撮影した。
    測定部位は、左大腿とし、膝裂隙からの距離(cm)/大腿長(cm)×100で計測した。
    測定部位10%、30%、50%、70%の横断面積における各筋の構成比率を測定した。
    筋の面積は、画像解析ソフトscion image beta 4.02を使用した。
    【結果】※単位全て%
    □10%(男性4.2cm:女性3.8cm)
    内側広筋12:14.5外側広筋1.64:1.55縫工筋3.2:0.9薄筋0:0.98大腿二頭筋4.65:1.94半腱様筋0.12:0.2半膜様筋6.24:1.82
    □30%(男性12.6cm:女性:11.4cm)
    大腿直筋2.68:2.52内側広筋16.4:9.03中間広筋16.4:8.37外側広筋8.45:9.84大腿四頭筋43.98:29.76縫工筋2.3:1薄筋1.48:0.77長内転筋0.75:1.65大腿二頭筋12.8:7.59半腱様筋3.49:3.44半膜様筋8.6:7.93
    □50%(男性21cm:女性19cm)
    大腿直筋5.83:4内側広筋10:2.1中間広筋18:9.45外側広筋12.66:6.58大腿四頭筋46.49:32.1縫工筋1.75:1.13薄筋2.27:1.09大内転筋12.9長内転筋3.36:1.82大腿二頭筋2:5.45半腱様筋6.21:4.09半膜様筋6.38:3.84
    □70%(男性29.4cm:女性26.6cm)
    大腿四頭筋22.91:22.5縫工筋1:0.86薄筋1.12:1.06大内転筋9.04:10.58長内転筋4.8:4.57短内転筋2.26:1.12大腿二頭筋1.1:0.84半腱様筋0.57:0.54半膜様筋1.72:2.86
    【考察】
    10%(男性4.2cm女性3.8cm)では、内側広筋の割合が多く、これは筋の停止位置・筋腹大きさからも推測できるように、内側広筋の割合が多くなる事が分かる。30%、50%(男性21cm女性19cm)では大腿に存在する筋がみられ、その中でも、50%では大腿四頭筋の割合が多い。浅井らによると、この部位は大腿四頭筋全体の断面積を忠実反映できるとしており、それを裏付ける結果となった。70%(男性29.4cm女性26.6cm)では、内転筋群の割合が多くなり、これは筋の構造・停止位置からも割合が多くなっていると考えられる。
  • 変形性膝関節症の女性高齢患者における検討
    中村 定明, 村田 伸, 前田 雄一, 松本 嘉美, 井上 芳典, 藤野 英己, 大田尾 浩, 三宮 貴彦
    セッションID: 93
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    変形性膝関節症(以下、膝OA)は、膝関節疼痛、関節可動域制限、膝周囲の筋力低下を主症状とする高齢期に多い疾患である。特に、大腿四頭筋は早期より筋力低下を引き起こし、膝OAを進行させる。そのため運動療法では、膝関節に作用する力学的負荷を軽減させるため、大腿四頭筋筋力の再獲得が重要とされる。筋の評価は、徒手筋力検査(以下、MMT)が器具を使用せず簡便な方法として実施されるが、検査の客観性については疑問視されるところもある。また、CTや超音波画像を用いた筋断面積と筋活動の研究が多く散見されるが、臨床場面では、画像を用いて評価することは困難なことが多い。そのため、身体組成計で測定した筋肉量が大腿四頭筋筋力と相関を認めるならば、膝OA患者の大腿四頭筋筋力を簡便な方法にて推測できると考える。そこで今回、膝OA高齢者の大腿四頭筋筋力と筋肥厚および身体組成計での筋肉量との関係について検討した。
    【対象と方法】
    対象は、当院に通院加療中の膝OA患者のうち、65歳以上の女性高齢者で、研究に協力が得られた32名(平均年齢73.9±5.7歳)である。調査は、大腿四頭筋筋力および筋肥厚と筋肉量を測定した。大腿四頭筋筋力は、ハンドヘルドダイナモメーター(ANIMA社製μTasF1)を用いて端座位、膝関節90°屈曲位で左右の等尺性収縮筋力を測定した。大腿四頭筋の筋肥厚は、超音波皮下脂肪計(ビジファットEU2002B)を用いた。測定肢位は、長座位、膝伸展位での大腿四頭筋収縮時に、上前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結んだ線上の1/2(大腿直筋と中間広筋)の部位における左右の筋厚を測定した。身体組成計による筋肉量の測定は、デュアル周波数体組成計(TANITA社製 DC-320)を用いて測定した。統計処理は大腿四頭筋筋力、筋肥厚、筋肉量の測定値の関連性についてピアソンの相関係数を用いて検討した。
    【結果】
    左右の大腿四頭筋筋力、左右の筋肥厚ならびに筋肉量の相関分析の結果、有意な相関が認められたのは、左右の大腿四頭筋筋力と筋肥厚との相関(右側r=0.58,p<0.01;左側r=0.61,p<0.01)および左側の筋肥厚と筋肉量との相関(r=0.35,p<0.05)であった。右側の筋肥厚と筋肉量(r=0.28)および左右の大腿四頭筋筋力と筋肉量(右側r=0.06;左側r=0.13)との間には有意な相関は認められなかった。
    【考察】
    筋断面積は筋力と高い相関があり、筋肉厚は筋断面積と相関が高いため筋力と高い相関を示すとされる。今回の結果も、大腿四頭筋筋力と筋肥厚とは有意な相関が認められた。一方、身体組成計により計測された筋肉量は大腿四頭筋筋力を反映していなかった。これらの結果から、膝OAの女性患者の筋力を測定するには、身体組成計で計測した筋肉量に比べ、超音波画像での筋肥厚の評価の方が有効であることが示唆された。
  • 吉村 和代, 高畑 哲郎, 江頭 拓磨, 矢倉 千昭
    セッションID: 94
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    筋硬度は,筋の過緊張,筋硬結を評価するための評価方法のひとつであり,近年,筋硬度計を用いた報告が散見されるようになっている.しかし,筋硬度計の測定方法は報告によってさまざまであり,筋硬度の評価を一般化するためには測定基準を検討する必要がある.我々は,第29回九州理学療法士・作業療法士合同学会において,下肢筋群の筋硬度測定の信頼性について報告し,筋硬度計の押圧方向,筋の形状などによって筋硬度値の信頼性が低下することを示した.今回,我々は,筋硬度の測定方法について検討し,下肢筋群の筋硬度測定における測定者間の測定値の信頼性について検討した.
    【方法】
    対象者は,健常成人10名(男性5名,女性5名),平均年齢26.1±4.4歳であった.筋硬度を測定した下肢は利き足(右足9名,左足1名)とし,大腿直筋,大腿二頭筋および半腱様筋の50%,25%部位,前脛骨筋および外側腓腹筋の計8ヵ所を測定した.測定肢位は,安楽肢位を原則とし,股関節の回旋角度を調節して筋硬度計を真上から押圧できるように被検者の肢位を設定した.筋硬度は,筋硬度計NEUTONE TDM-NA1(TRY-ALL社)を用いて測定した.筋硬度計の押圧測定は,筋ごとに測定者Aが筋硬度を測定し,その後に測定者Bが同じ筋を測定した.なお,測定した筋硬度値は測定者A,Bに見せないようにし,記録者が読み取って記録した.測定者A,B間の筋硬度値の比較はt検定を用い,相関はピアソン積率相関,絶対一致および一致性は級内相関係数を用いて分析した.
    【結果】
    測定者A,B間における筋硬度値の比較では,大腿直筋50%,大腿直筋25%部位,前脛骨筋および外側腓腹筋に有意差があり,測定者Bの筋硬度値は測定者Aに比べて低い値を示した.測定者A,B間における筋硬度値の相関は,大腿二頭筋50%部位,半腱様筋25%部位を除いたすべての部位で有意な正の相関があった.測定者A,B間における級内相関では,大腿二頭筋25%部位,半腱様筋50%部位,前脛骨筋および外側腓腹筋は絶対一致および一致性の級内相関係数がともに0.6以上で,大腿直筋50%部位および大腿直筋25%部位は一致性の級内相関係数が0.6以上であった.
    【考察】
    本研究において,大腿直筋および下腿筋群の筋硬度値に有意差があった.筋硬度値は,筋の形状,筋硬度計の押圧方向,押圧するときの力の加減などに影響されると考えられる.今回,筋の形状を考慮した肢位の設定を行い,押圧方向について工夫したが,筋硬度計の持ち方やそれに影響される力の加減などの検討はしていない.今後,筋硬度値をより安定させるため,筋硬度値に影響しうる肢位以外の因子や測定方法の基準作成などについて検討していく必要がある.
  • 峰岡 哲哉, 崎田 正博, 松木 直人, 大中 寛子, 熊田 理奈, 高橋 精一郎, 甲斐 悟
    セッションID: 95
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    脊柱の安定性を高める手段として、腹横筋が着目されている。腹横筋は腹部引き込み動作で有効な収縮を得られる。しかし、動作理解が乏しい患者では腹横筋の有効な収縮に至らない例もあり、腹横筋収縮を促す代用手段が必要となっている。腹横筋は呼吸運動にも関与しており、呼吸にて収縮を促す手段が考えられる。先行研究では安静呼吸での腹横筋活動は見られないとしている。また、超音波画像診断装置を用いた研究では、努力性の呼気終末にて腹横筋の肥厚が高まる報告がある。しかし、呼気終末では他の腹壁筋群の筋肥厚も認められており、腹横筋の分離収縮については明らかにされていない。本研究の目的は超音波画像診断装置を用いて一定流量の呼気活動における腹壁筋群の継時的変化を筋肥厚より明らかにし、呼気での腹横筋の有効な活動を検討することである。
    【方法】
    対象は運動歴の少ない健常成人女性8名(平均年齢24.2歳)
    測定条件は最大吸気位から10秒後に呼気終末に至る一定流量の呼出1条件。
    測定肢位は安楽な直立座位姿勢とし、超音波診断装置 (ALOKA製 PROSOUND SSD-5500)のプローブを右腸骨稜の上部、腹直筋外側縁の外側にて、腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋の3層が確認できる位置にセットし筋肥厚を計測した。一定呼気の確認はスパイロメータ(日本光電社製:マイクロスパイロHI701)にて計測を行なった。超音波画像診断装置の記録は動画とし、PCに取り込んだ後1秒間30フレームに分割。各秒15フレーム目の静止画像を採用し、0-10秒間の10コマの記録とした。筋肥厚の計測は画像解析ソフト(Scion Image)を用いて腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋それぞれの肥厚を0.1mm単位にて計測を行なった。
    検定は各筋の肥厚開始時の値を100とし、各秒での変化率(%コントロール)で算出した値を、Kruskal-Wallis 検定を用いて行なった。有意水準は5%未満とした。
    【結果】
    呼気肥厚変化:腹横筋、内腹斜筋が有意に増加した(P<0.01)。また、腹横筋は内腹斜筋よりも増加率が高かった。外腹斜筋は有意に減少した(P<0.05)。肥厚経過:持続呼気中盤より後半において腹横筋、内腹斜筋が増加し外腹斜筋が減少する傾向が見られた。
    【考察】
    今回、一定持続呼気活動における腹壁筋群の継時的肥厚変化を超音波画像診断装置を用いて確認した。10秒間の一定持続呼気において呼気中盤より終末にかけ腹横筋、内腹斜筋の肥厚が増加し、外腹斜筋では減少する傾向が見られた。先行研究では安静呼吸中での腹横筋の活動はなく、努力性の呼気終末において腹横筋の活動が高まることが報告されている。今回の結果、一定持続呼気では終末のみでなく持続呼気中盤からの腹横筋の増加が見られた。呼気を用いた腹横筋活動を促す条件として短時間の呼吸ではなく、一定の持続呼気が有効であることが示唆された。
  • 渡利 一生, 吉本 龍司, 山下 小百合, 後藤 剛, 中原 雅美, 村上 茂雄, 漆川 沙弥香, 甲斐 悟
    セッションID: 96
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    Schmidtらによると、運動学習における結果の知識Knowledge of Result(以下KR)の付与頻度は、1試行ごとよりも数試行ごとのほうが効果的であると報告されている。
    今回、筋力調節課題を用いてKR付与頻度を変えた場合に、筋活動量においても運動学習の効果に相違がみられるかを検証した。
    【対象と方法】
    健常男性10名(平均年齢21.6±4.0歳)を被験者とし、KRを5回付与する群(5回KR群5名)と毎回付与する群(毎回KR群5名)に分けた。
    課題はアナログ背筋力計を用い、最大筋力の20%の力で筋力調節することとした。はじめに練習相としてKR付与を行わず5回試行し、運動学習前の基準値とした。その後、学習相としてKR付与を行いながら30回試行し、運動学習を実施した。5分後に想起相としてKR付与を行わず5回試行し、運動学習後の保持能力を示す値とした。KRは直前の背筋力計の測定値をkgで口頭にて伝えた。
    筋電図の導出筋は左側の広背筋、傍脊柱起立筋、大殿筋、大腿直筋、大腿二頭筋、下腿三頭筋、前脛骨筋の7筋とした。筋活動電位測定には表面筋電計を用い、1試行ごとの最大筋活動電位peak electromyography(以下peak EMG)を算出し、5試行分の平均peak EMGを求めた。
    【結果】
    背筋力計の測定値と平均peak EMGの相関は、5回KR群が広背筋、傍脊柱起立筋、大殿筋、大腿二頭筋、腓腹筋にみられ、毎回KR群が広背筋、傍脊柱起立筋、大腿二頭筋、腓腹筋にみられた。
    背筋力計の測定値は、5回KR群、毎回KR群とも、練習相と学習相および練習相と想起相に有意差がみられた。
    平均peak EMGは、5回KR群では広背筋、傍脊柱起立筋、大殿筋、大腿二頭筋、腓腹筋が練習相と学習相、練習相と想起相に有意差がみられた。毎回KR群では広背筋、傍脊柱起立筋、大腿二頭筋、腓腹筋が練習相と学習相、練習相と想起相に有意差がみられた。
    【まとめ】
    背筋力計を用いた筋力調節課題での運動学習は、KR付与頻度にかかわらず短期間のうちに学習効果が現れ、5分後にも保持されていた。筋電計の結果から、5回KR群では運動学習に参加する筋が多かった。
    また、背筋力の筋力調節課題時には、脊柱起立筋だけでなく、多くの共同筋が関わっていることが明らかになった。このことは、運動学習を行う上で各筋が協調した制御を行っていることを示し、各部の障害が運動のパフォーマンスに影響を与えることを示唆すると思われた。
  • ~仙腸関節と梨状筋の関係に着目して~
    上村 龍輝, 新谷 大輔, 山道 和美, 山田 浩二
    セッションID: 97
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
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    【目的】
     仙腸関節の安定性のメカニズムとして種々の報告がなされているが、仙腸関節前方要素の直接的な動的安定化についての報告は散見されない。そこで、今回仙腸関節前面を肉眼的に解剖し安定性について検討したので報告する。
    【対象】
     熊本大学医学部形態構築学分野で教育・研究に使用された遺体3体6肢(男性1体、女性2体)を用いた。遺体はすでに腹腔・骨盤内臓器は摘出されていた。寛骨は仙腸関節よりやや遠位部で切断されており、仙棘靭帯、仙結節靭帯遠位および梨状筋の大転子停止部は切離されていた。また大腰筋は完全に切除されていた。
    【方法】
     まず剖出を容易にするため、腰部体幹から下肢へ向かう神経および血管を切断した。仙腸関節前面に付着する腸腰靱帯、前仙腸靭帯を耳状面に沿ってピンセットおよびはさみにて切離した。その際、すでに停止部の大転子付着部で切離されている梨状筋を中枢側の仙骨起始部へ翻しながら行った。腸腰靱帯、前仙腸靭帯を切離後、仙腸関節耳状面および後方の骨間仙腸靭帯を引き剥がして視野を広げ、仙腸関節前面および梨状筋起始部を観察し写真撮影を行った。さらに仙骨の梨状筋起始部の最上部と耳状面下端の直線距離、垂直距離および耳状面全体の距離を測定した。
    【結果】
     梨状筋上方の筋線維は、仙腸関節耳状面の前面下方に重なり横断するように走行していた。梨状筋起始部の最上部と仙腸関節耳状面下端の直線距離は18.8mm±6.7mm、垂直距離は10.8±3.1mm、垂直距離/耳状面の全体距離×100(%)は20.7%±6.2%であった。
    【考察】
     梨状筋は股関節外旋六筋の中で唯一仙骨に起始をもち、尾骨筋の上方に位置する。梨状筋の一部が仙腸関節耳状面の前面下方に重なって横断するように走行することから、仙腸関節に可動性がある場合、閉鎖運動連鎖のような停止部が固定している状況下では、梨状筋の収縮により仙腸関節前面下方が閉じる方向に作用すると考えられる。したがって、梨状筋は仙腸関節前方の安定性に一部貢献する可能性が考えられる。
     仙腸関節近傍に疼痛を訴える場合や仙腸関節の安定性低下が疑われる場合は、梨状筋の機能評価が必要であることが示唆された。
  • 柚木 佑次郎, 山下 導人
    セッションID: 98
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
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    【はじめに】
    足部は前足部・中足部・後足部の3つに分けられ、立位や歩行の移動支持機能に関与しており、その機能破綻は重大な障害を惹起しやすい。今回、前足部・後足部障害が移動支持に影響をおよぼす要因を検討したので報告する。
    【対象】
    足関節果部骨折10名(以下PO群)、平均年齢58.6歳:男性6、女性4名。関節リウマチによる三角扁平変形足、女性10名(以下AO群)、平均年齢64.6歳。対象群として健常人女性10名、平均年齢26.4歳。
    【方法】
    項目:筋力(足関節底屈筋力)、関節可動域(足関節底背屈)、10m歩行速度、重心動揺、重心位置を測定。方法:足関節底屈筋力は市販の体重計を用い等尺性収縮で左右2回行い平均値を採用。重心動揺はZebirs社製Foot Printにて足圧中心点の総軌跡長(SPL)、95%信頼区間で算出された楕円の長さ(AoE)を計測。又、重心位置は接地足底面の前後・左右の最長から百分率により各々の位置を測定。統計処理はPO群・AO群・対象群を一元配置の分散分析にて多重比較を行い、各々をTukey検定にて比較。PO群はマン・ホイットニ検定にて、患側と健側の比較も行った。測定項目間における各々の相関係数はPeasonの相関係数を用い、すべて有意水準5%未満とした。
    【結果】
    PO群:患側背屈可動域が対象群に比べ有意に低下。健側との比較では底屈筋力が有意に低く、背屈可動域は有意に制限。AO群:底屈筋力、10m歩行速度が有意に低下。重心動揺はSPLがAO群、PO群、健常群の順に有意に長かった(p>0.01)。重心位置は健常群に比してPO・AO群とも前方へ、PO群は健側へ変位する傾向にあった。3群すべてにおいて筋力とSPL・AoEに相関は認めなかった。
    【考察】
    今回、足部障害を前足部と後足部に分け重心動揺計による測定を行い、両者とも前足部での荷重支持がみられた。AO群では前足部へ過度の荷重が加わることで滑液嚢炎、胼胝の形成が悪化していると思われる。PO群において、後足部の安定にヒラメ筋が作用し、両脚立位保持には主に下腿三頭筋の筋活動が作用すると言われており、これら足関節底屈筋の弱化は重心位置が前方へ偏位する因子になり得る。重心動揺に関して、井上らは健常人13名の下腿三頭筋を最大等尺性筋力の50%になるまで疲労させる前後と重心動揺(総軌跡長cm)において有意差を認め、下腿三頭筋の筋力低下が立位重心動揺に影響することを報告しているが、今回の検討では重心動揺に関与する因子はつかめなかった。しかし両群とも足関節底屈筋力は有意に低下しており、それがもたらす足部アーチの低下は歩行における足圧の荷重経路、円滑な体重移動に影響をおよぼすと予測される。それらに対する足趾の背屈運動、足底パッドの挿入、足関節底屈筋力の再教育といった運動療法の重要性が伺える。
  • 前方ステップ・側方ステップとの比較
    大田 瑞穂
    セッションID: 99
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
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    【目的】
    脳血管障害片麻痺患者や下肢運動器疾患患者において、移乗場面での立位方向転換動作の問題点として、過剰なステップ速度やステップ数の増加、またそれに伴う動作効率(回旋量)の低下や転倒リスクの増加などが挙げられる。そこで本研究の目的は効率良く方向転換ステップを迎えるために必要と考えられる、動作開始時の力学的課題を解明することとし、前方ステップ・側方ステップ・方向転換ステップの3種類の動作開始時における姿勢制御を比較した。
    【方法】
    対象は健常男性7名(平均年齢23.1±0.8歳、平均身長167.0±1.2cm、平均体重63.4±4.9kg)とした。被験者には測定前に本研究の内容を説明し承諾を得た。計測は3次元動作解析装置VICON MX13(VICON社製・サンプリング周波数100Hz)と床反力計(AMTI社製)4枚を使用し、マーカーは両側の肩峰、股関節、膝関節、足関節外果、第5中足骨頭、右上後腸骨棘11箇所に貼付した。課題は静止立位(足関節内果間距離10cm)の状態から前方ステップ、側方ステップ、方向転換ステップの3種類(ステップ距離は20cm)を、3秒間の静止立位を行なった後に合図とともに動作を開始した。また、予測的な重心の移動を避ける為に課題の種類は無作為に行った。算出データは各動作で身体重心(以下、COG)・床反力作用点(以下、COP)の初期位置、さらに以下を足底離地以前の区間で算出した。1.COGの支持脚への移動距離(以下、G-stance)、2.COGの前方への移動距離(以下、G-front)、3.COPのステップ側への移動距離(以下、P-step)、4.COPの支持脚への移動距離(以下、P-stance)、5.支持脚方向への重心速度(以下、G-speed)。移動距離は被検者の外果間距離にて正規化し、一元配置分散分析後、多重比較検定(Bonferroni法)により群間比較を行った。
    【結果】
    G-stance:方向転換ステップは他の2群に対して高値を示し、側方ステップに対して有意に大きかったが(P<0.05)、前方ステップとの有意差はなかった。G-front:方向転換ステップは他の2群と有意差がなかったが、前方ステップが側方ステップに対して有意に大きかった(P<0.05)。P-step・stance:3群間で有意差はみとめられなかった。G-speed:方向転換ステップ・側方ステップは前方ステップに対して有意に遅く(P<0.05)、方向転換ステップと側方ステップでは有意差がみられなかった。
    【考察】
    3群間での動作開始時におけるCOPの移動には有意差は認められないものの、方向転換ステップでは側方ステップよりも大きく支持脚へCOGが移動し、さらに前方ステップより、遅い速度で支持脚へ移動していることが示唆された。一般的に移動という課題を踏まえるならば、移動方向と逆向きに大きく重心を移動させることは非効率的に考えられるが、支持脚へ大きく・遅く移動することは、回旋運動を行うための軸形成および回旋運動時間を確保するためには重要であると考えられ、この回旋に対する準備段階的課題が方向転換ステップ動作の開始時における大きな特徴であると言える。
  • 井上 芳典, 村田 伸, 前田 雄一, 中村 定明, 松本 嘉美, 三宮 貴彦
    セッションID: 100
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    胸椎後彎角の増大は女性高齢者に多く見られる姿勢変化であり、高齢期における特徴的な身体機能障害との関連性から、胸椎後彎角の増大予防に対する理学療法の重要性が報告されている。しかし、胸椎後彎角を定量的に評価し、その加齢変化について検討された報告は少ない。そこで本研究は、脊柱の彎曲角を定量的に測定できるスパイナルマウスを用いて女性高齢者の胸椎後彎角を測定し、年代別に比較検討したので報告する。
    【対象と方法】
    被検者は、当院通院加療中の女性高齢者63名(年齢平均75.2±6.27歳)である。被検者には、事前に本研究の主旨と内容について説明し、同意を得て研究を開始した。胸椎後彎角の測定は、被検者に安静立位をとらせ、第7頸椎から第3仙椎までをセンサー部を移動して測定した。今回分析に使用したのは、第1胸椎から第12胸椎までの上下椎体間がなす角度の総和である胸椎後彎角であるが、3回の測定から得られた平均値を胸椎後彎角(度)とした。統計処理は、各年代を60歳代、70~74歳(以下70歳前半)、75~80歳(以下70歳後半)、80歳代の4群に分類し、胸椎後彎角について一元配置分散分析ならびにSheffeの多重比較検定を用いて比較した。なお、統計学的有意水準は5%とした。
    【結果】
    胸椎後彎角は、60歳代(12名)が平均31.4±5.9°、70~74歳(15名)が平均37.4±12.2°、75~79歳(20名)が平均43.0±13.6°、80歳代(14名)が平均42.8±13.3°であった。これらの測定値には有意な群間差(p<0.05)が認められ、多重比較検定によって60歳代と70歳後半、60歳代と80歳代の測定値に有意差(p<0.05)が認められた。
    【考察】
    本研究結果によると、女性高齢者の胸椎後彎角は70歳前半と60歳代を比較して有意差は認められなかったが、70歳後半と80歳代は60歳代と比較して胸椎後彎角の値が有意に高い値を示した。これらのことから、胸椎後彎角は前期高齢者から後期高齢者の移行期にかけて著明に増大していることが示唆された。
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