認知神経科学
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11 巻, 1 号
March
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
巻頭インタビュー
  • 杉下 守弘
    2009 年 11 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/07/14
    ジャーナル フリー
     堀田善衛の作品に「めぐりあいし人びと」という対談本があります。東西の作家や思想家、哲学者らとの出会い、長年にわたる交流を自由に語り下ろしたもので、そこには国内外の様々な領域の人達が登場します。例えば、ジャン・ポール・サルトルやパブロ・ネルーダが、まるで「隣のおじさん」のように描かれているのが、とても印象的です。
     さて、杉下守弘先生との永年にわたる会話のなかに、文献でしかお目にかかれないような人達が、ふいに顔を出し「あの人は、・・・でねえ」という話題に弾んでいくことがよくありました。これは、単に先生の交流の広さだけでなく、個々の出来事の正確な記憶と、とりわけ人間に対する興味、ひいては人物造形の力によるものではなかったかと思います。
     この会話の妙を、いつか聞き語りの形で一文にまとめてみたいと考えていました。そこで、去る2008年12月14日に行った対談の記録を編集したのが、この企画です。これは、1960年代末から現在までの神経心理学研究の現場報告であり、学術的な歴史の証言です。と同時に、杉下先生の学問的odysseyでもあります。当初、初期の研究から現在、将来展望そして若い研究者へのメッセージまで含めたものを考えていました。しかし談論風発、話が弾んで大変な量になりました。そこで年代的に、英国への留学までの話を中心にまとめました。Sperryの研究室、神経研、東大での仕事、そして神経心理学のこれから、という話題は他日を期したいと考えております。
     読者の皆様には、この神経心理学における「めぐりあいし人びと」に、時代背景とともに研究の臨場感を体感して頂ければ幸いです。
第13回認知神経科学会(平成20年7月12日・13日開催、そのII)
特別講演
シンポジウム 『多言語使用―脳科学、言語学、教育学からの多面的アプローチ―』
シンポジウム 『小児の高次脳機能障害臨床のトピックス』
  • 相原 正男
    2009 年 11 巻 1 号 p. 44-47
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/10
    ジャーナル フリー
     前頭葉機能を理解する神経心理学的理論として、行動抑制(behavior inhibition)とワーキングメモリ(working memory)、そして実行機能(executive function)が提唱されている。このような前頭葉機能を簡便で短時間に試行可能な検査法としてfrontal assessment battery at bedside (FAB)、cognitive bias task(CBT)が成人を対象に報告されている。我々は、健常小児とADHD児を対象にFAB、CBTを小児用に修正し施行した。FAB総合点数は、健常児において年齢依存性に増加し、10歳以降で急激な上昇を認めた。ADHD児では有意に低かった。CBTは、健常児において15歳頃成人レベルに達した。年齢に伴い右前頭葉機能である文脈非依存性理論から左前頭葉機能である文脈依存性理論へシフトしていくものと考えられる。ADHD児は健常児の同年齢に比して文脈非依存性論理であった。長期的報酬予測における情動の影響を検討するため、強化学習課題であるMarkov decision task施行中の交感神経皮膚反応(SSR)を測定したところ、適切な行動選択を学習するためには事象に伴う情動表出が不可欠であることが確認された。
  • 中村 みほ
    2009 年 11 巻 1 号 p. 48-53
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/10
    ジャーナル フリー
     ウィリアムズ症候群は7番染色体に欠失を持つ隣接遺伝子症候群であるが、認知能力のばらつきが大変に大きいことがその特徴のひとつとして挙げられ注目されている。特に視覚認知の腹側経路に関わる機能に比して、背側経路にかかわる機能、中でも視空間認知機能の障害が強いことが特徴とされ、さまざまな臨床症状を呈している。本症候群において病態解明を試みることはより科学的に適切な療育アプローチを探す上から重要であるとともに、ヒトの脳機能の解明にも寄与しうると考える。本稿ではウィリアムズ症候群の認知機能におけるこれまでの研究を概説するとともに、自験例についても紹介したい。
  • 関 あゆみ
    2009 年 11 巻 1 号 p. 54-58
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/10
    ジャーナル フリー
     アルファベット言語圏においては発達性読字障害の主たる原因は音韻認識・処理障害であると考えられ、機能的MRIなどの脳機能画像研究により、音韻処理に関わる左頭頂側頭部と文字形態認識に関わる左下後頭側頭回の活動不良が共通する所見として報告されている。この2つの領域の読みの習熟に伴う変化や言語による違いが注目されており、縦断的な機能的MRI研究や言語間比較研究が開始されている。
     日本語においても仮名の習得に困難を認めた発達性ディスレクシア児では音韻認識障害が認められた。さらに仮名の母音比較課題を用いた機能的MRI研究では、日本語の発達性ディスレクシア児にも同様の障害メカニズムが存在することが示唆された。
シンポジウム 『認知リハビリテーションの現在と将来』
  • 小嶋 知幸
    2009 年 11 巻 1 号 p. 59-67
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/10
    ジャーナル フリー
     認知リハビリテーションという観点から、失語症セラピーについて、筆者の臨床経験にもとづいて概説した。まず、失語症セラピーに関する歴史的変遷を概観した後に、失語セラピーにおけるシュールの刺激法の位置付けについて述べた。続いて、認知神経心理学的モデルに基づく言語情報処理過程の障害について、臨床例との対応という観点から概説した。最後に、100年以上前の大脳病理学時代に提唱された失語図式の今日的意義について考察した。局在ベースの大脳病理学と機能ベースの認知神経心理学は相反する考え方ではなく、登頂ルートが異なるものの、最終的には失語症という同じ山の頂に通じているはずであると述べた。
  • 種村 留美
    2009 年 11 巻 1 号 p. 68-72
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/10
    ジャーナル フリー
  • 網本 和
    2009 年 11 巻 1 号 p. 73-77
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/10
    ジャーナル フリー
     半側空間無視の評価方法、メカニズム、治療的接近について多くの報告がされているが、どのように対処するかという点については必ずしも十分ではないのが現状である。Rossettiら(1998)は、プリズムアダプテーション法によって半側空間無視例の右偏倚した主観的正中定位が左側にシフトすることを報告した。この効果は長期的な無視症状の改善にも寄与するという。Ramachandranら(1997)は、左半側空間無視症例において「鏡失認mirror agnosia」を報告した。この症候は、症例の右側に置かれた鏡に対して、左空間(無視空間)に目標物を呈示すると、実際のものではなく鏡像に対して把握しようとしてしまう現象である。このような症例に対して目標物を徐々に無視空間へと誘導する方法をサイドミラーアプローチと呼ぶ。筆者らはこの方法によって右向きを呈する重症な半側空間無視症状の改善を認めている。このアプローチの効果の適用と限界について若干の考察を加えた。
  • 渡邉 修
    2009 年 11 巻 1 号 p. 78-86
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/10
    ジャーナル フリー
     東京都の高次脳機能障害者実態調査(2007年;対象は通院患者899人)によると、高次脳機能障害者が呈する症状として、行動と感情の障害、記憶障害、注意障害、失語症、遂行機能障害が上位を占めた。これらの障害のなかで、特に行動と感情の障害、注意障害、遂行機能障害の責任病巣として前頭葉の占める比率は高く、社会参加を阻害する大きな要因となることから、リハビリテーションを進める上でターゲットとなる障害である。リハビリテーションは急性期には要素的訓練を、慢性期には代償的訓練が主体となり、いずれの時期でも、行動障害に対する行動変容療法や、人、構造物、制度からなる環境調整に配慮する。認知障害や行動と感情の障害は身体障害に比べ回復に時間を要することから長期的訓練と支援が重要である。認知リハビリテーションによって脳神経活動は、損傷範囲を避け、健常者と異なる多様な賦活パターンを示すようになる。
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