堀田善衛の作品に「めぐりあいし人びと」という対談本があります。東西の作家や思想家、哲学者らとの出会い、長年にわたる交流を自由に語り下ろしたもので、そこには国内外の様々な領域の人達が登場します。例えば、ジャン・ポール・サルトルやパブロ・ネルーダが、まるで「隣のおじさん」のように描かれているのが、とても印象的です。
さて、杉下守弘先生との永年にわたる会話のなかに、文献でしかお目にかかれないような人達が、ふいに顔を出し「あの人は、・・・でねえ」という話題に弾んでいくことがよくありました。これは、単に先生の交流の広さだけでなく、個々の出来事の正確な記憶と、とりわけ人間に対する興味、ひいては人物造形の力によるものではなかったかと思います。
この会話の妙を、いつか聞き語りの形で一文にまとめてみたいと考えていました。そこで、去る2008年12月14日に行った対談の記録を編集したのが、この企画です。これは、1960年代末から現在までの神経心理学研究の現場報告であり、学術的な歴史の証言です。と同時に、杉下先生の学問的odysseyでもあります。当初、初期の研究から現在、将来展望そして若い研究者へのメッセージまで含めたものを考えていました。しかし談論風発、話が弾んで大変な量になりました。そこで年代的に、英国への留学までの話を中心にまとめました。Sperryの研究室、神経研、東大での仕事、そして神経心理学のこれから、という話題は他日を期したいと考えております。
読者の皆様には、この神経心理学における「めぐりあいし人びと」に、時代背景とともに研究の臨場感を体感して頂ければ幸いです。
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