認知神経科学
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8 巻, 3 号
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  • 渡辺 茂
    2006 年 8 巻 3 号 p. 161-164
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】本稿では、美の比較認知科学的考察をおこなった。まず、美がヒト以外の動物でも感覚カテゴリーとして成立するかどうかをハトの弁別実験で検討した。その結果、絵画の「上手」「下手」の弁別が可能で且つ、訓練されなかった絵画でも、ある程度その弁別が維持されることがわかった。ついで、感性強化としての美を音楽と絵画についてブンチョウで検討したところ、個体差は見られるものの一定に選好が認められた。ただし、ハト、ラット、キンギョでは音楽に対する選好は認められなかった。もし、ヒト以外の動物でもカテゴリーとしての美の弁別ができ、またそれが強化効果をもつなら、美を作成する運動技能が加われば美の想像が可能であると考えられる。
  • 小林 祥泰
    2006 年 8 巻 3 号 p. 165-168
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】Luriaの脳機能の3つの単位系で戦略など最高次機能を司るのが前頭前野である。血管性痴呆(VD)ではアルツハイマー型老年期痴呆(SDAT)に比してこの機能低下が目立つのが特徴である。VDではうつ状態が多いと云われるが実際にはアパシーの合併頻度が高い。アパシーとうつ状態は明らかに異なるものである。血管性うつ状態の定義からもそのことが示唆される。筆者らのやる気スコアはアパシーの評価に有用である。脳梗塞でアパシーを呈する群では前頭前野脳血流が有意に低い。また、尾状核周辺の病変がアパシーに関与している。脳卒中では初回から痴呆になることは稀であり、アパシーが廃用症候群を介してVDを促進していると考えるのが妥当である。
  • 投石 保広
    2006 年 8 巻 3 号 p. 169-176
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    MMNは、同じ音(標準刺激)が続いた後に、異なった音を呈示すると、その音(逸脱刺激)によって、引き出される脳電位である。MMNが生じる条件や、その動態から、聴覚野内で行われる初期的な認知プロセスに関して、以下のように推定できる(Näätänen)。(1) 標準刺激が繰り返し呈示されると、その音についてのメモリートレース(神経表現neural representation)が形成されて、MMNは、それと逸脱刺激とのミスマッチによって生じる。(2) メモリートレースとして、その音の物理的な全体像が保持されるが、抽象的、予期的な特性も保持されうる。そして、(3) 両刺激間の差が、弁別閾を越えている、つまり、各個人の刺激弁別能力以上の差がなければ、正確なメモリートレースは形成できない。(4)(始めは区別/同定できないような複雑な音(言語の音韻も含む)の場合、練習・経験によって弁別/同定できるようになって始めて、MMNが出現する)。そのため、複雑な音に関しては、その音の長期的神経表現(longterm neural representation)が獲得されて始めて、その音の呈示でその神経表現が活性化されて、メモリートレースとして機能するのであろう。(5) 以上の(1) から(4) は、MMNの出現が注意とは無関連なので、呈示された音の入力が聴覚野内に達すると、本人の意識や注意に関係なく実行されると、推定される。
  • 福山 秀直, Denis Le Bihan
    2006 年 8 巻 3 号 p. 177-179
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    拡散強調画像を用いた脳機能画像について、これまでの歴史的発展と今後の展望についてまとめた。脳機能画像は、脳機能の局在を画像として捉え、その機能局在と脳機能発現の機序について解明研究するものである。したがって、できるだけ正確な機能局在画像がえられることが大切で、酸素15で標識した水を用いたポジトロンCTから、BOLDを利用したMRI画像へと発展してきた。我々が開発した拡散強調画像によるMRIの機能画像は、BOLDが血流の影響を受けるのに対し、神経活動そのものを反映している可能性があり、今後の発展が期待されるものである。
  • 山崎 貴男, 吉川 宏起, 飛松 省三, 杉下 守弘
    2006 年 8 巻 3 号 p. 180-183
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】機能的脳画像法(PET, fMRI)の進歩により、音楽の脳内処理基盤はかなり解明されてきたが、受容面に比べ表出面に関する研究は非常に少なく、未だ不明な点が多い。本稿では表出性失音楽に関する先行研究の結果をまとめた後、我々が行ったfMRIの成績を紹介する。最後に研究上の問題点、今後の課題について述べた。
  • 川畑 秀明
    2006 年 8 巻 3 号 p. 184-189
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】我々は、絵画を見るときに様々な印象評価を行う。特に、芸術における美しさの問題は、哲学史上、重要な問題であり、その脳メカニズムが明らかになることは哲学や美学と脳科学とをつなげる知見となる。本論文では、筆者らの研究において、美しさの脳内基盤として眼窩前頭葉の活動を見出し、また美しさの対極にある醜さが左感覚運動野の活動を引き起こすことを示した研究を紹介するとともに、絵画を含めた画像認知における印象評価研究について紹介する。特に美的判断は、顔に魅力を感じることとの一貫性のみならず経済的判断などの脳メカニズムとも重なり合い、その報酬系と呼ばれる神経システムに位置づけられることが明らかになっている。同時に、違和感という絵画認知における印象評価に関する脳内基盤についても紹介する。
  • 板東 充秋
    2006 年 8 巻 3 号 p. 190-194
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
  • ―発達障害を理解するために―
    相原 正男
    2006 年 8 巻 3 号 p. 195-198
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】発達障害は、自閉性障害、学習障害(Learning Disorders; LD)、注意欠陥/多動性障害(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder; ADHD)などが対象として挙げられる。発達障害は神経心理学的に前頭葉の機能障害であることが近年明らかになるにつれて、行動抑制やworking memoryモデルに基づく認知心理学的解析が最近活発に行われてきている。さらに、高次脳機能を非侵襲的に測定する脳科学の進歩とともに認知神経科学(cognitive neuroscience)という学際的な研究分野が発展して、発達障害児の脳内メカニズムが急速に解明されてきた。前頭葉の成長、成熟は神経放射線学的検討が、心の発達と前頭葉機能については神経心理学的立場から脳科学よる解析が進展している。
  • ―失語学入門―
    波多 野和夫
    2006 年 8 巻 3 号 p. 199-203
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】(1)Wernicke-Lichtheimの図式は失語理解のために有力かつ含蓄に富むモデルである。(2)特異な復唱障害を呈する深層失語は認知神経心理学的思考に依拠した症候群であるが、この図式により連合主義的にも理解可能である。(3)復唱が保存された混合型超皮質性失語には、この図式での説明が可能な言語野孤立例と、不可能な言語野病変例が共に存在する。(4)我々が記載した同時発話は同時的復唱として特殊な復唱保存例と言える。しかしその背景は全失語であり、この図式では説明不能である。(5)言語野が全面的に崩壊した全失語で、反響言語または同時発話を呈する例が確実に存在する。この現象を説明するためには、皮質下レベルで感覚系と運動系を媒介する経路が存在しなければならない。以上を根拠にしてこの図式の修正を試みた。
  • ―核医学的手法による認知症の臨床診断にむけて―
    河嶋 秀和
    2006 年 8 巻 3 号 p. 204-209
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】アルツハイマー型認知症(AD)の臨床診断に向け、本疾患に特徴的な神経病理学的変化である老人斑(βアミロイド)に対する高い親和性を有し、かつ脳内動態に優れた化合物:[11C]5-hydroxy-2-(4-methylaminophenyl)benzofuran([11C]HMBZF)を新規に設計、合成し、そのPETプローブとしての有効性を基礎的に検討した。HMBZFは老人斑のインビトロ染色試薬であるthioflavin Tを母体とし、これに分子修飾を施すことで導いた。AD患者剖検脳の灰白質ホモジネートを用いた[125I]IMPYラジオアッセイにおいて、HMBZFはβアミロイドへの高い親和性を示した(Ki=0.7nM)。また、ddYマウス(6週齢)に[11C]HMBZFを投与し、その脳内動態を検討したところ、脳移行率は投与2分後で4.8%ID/gと高い値を示したが、60分後では0.2%ID/gとなり、正常脳組織からの速やかな消失を認めた。さらに[11C]HMBZFをヒトスウェーデン変異型アミロイド前駆タンパク(APP)トランスジェニックマウス(110週齢)に投与し、作製した脳のARGイメージから、本化合物が大脳皮質および海馬領域のβアミロイドを明瞭に描出できることが示唆された。以上より、[11C]HMBZFがAD患者脳の老人斑を非侵襲的に描出する、PETプローブとなる可能性が示された。
  • ―自己ペース運動と外的ペース運動の脳内基盤―
    谷脇 考恭
    2006 年 8 巻 3 号 p. 210-215
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】サルの研究より、大脳基底核運動回路と小脳-大脳運動回路は、自己ペースと外的ペースとで活性が異なると予想されるが、ヒトの機能画像では証明されていないので、検証した。若年健常人を対象とし、課題は左手指の複雑連続運動を自己ペースと外的ペースで各々5段階の速度で行い、ブロックデザインでfMRIを記録した。解析はSPM2を用いて、大脳皮質を含む回路内の活動部位をマッピングし、その部位の信号変化率を測定後、部位同士の相互相関を算出し、径路係数によるネットワーク解析を行った。その結果、自己ペース運動では大脳基底核運動回路が、外的ペース運動では小脳-大脳運動回路が重要な役割を果たしていることが示唆された。次に老化の影響を検討した。若年者に比し老年者では、大脳基底核運動回路や小脳-大脳運動回路での機能連関が低下していたが、両側大脳皮質運動関連野間の機能連関は亢進していた。さらに基底核疾患における変化を検討した。パーキンソン病患者を対象に解析したところ、大脳基底核運動回路では機能連関が低下していたが、小脳-大脳運動回路での機能連関は亢進していた。以上の機能的MRIおよびネットワーク解析を用いた運動発現の脳イメージングにより、自己ペース運動と外的ペース運動の脳内基盤の解明、加齢変化および疾患における運動回路の機能連関の解析が可能となった。
  • 卜蔵 浩和
    2006 年 8 巻 3 号 p. 216-221
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】脳波を用いた大脳の機能研究では、空間分解能に劣るものの、時間分解能に優れているという特徴がある。我々は人の前頭葉抑制機能について、Go/NoGo課題とStop signal課題における事象関連電位を用いて検討した。LORETA法による電位源推定で、Go/NoGo課題のNoGo-P3は左前頭葉眼窩面から外側に、NoGo-N2は右前頭葉眼下面に電位源が推定された。また、パーキンソン病、PSP患者と健常人について比較検討を行った結果、パーキンソン病群では抑制性の事象関連電位が低下、PSP群では実行、抑制ともに低下していた。また抑制性事象関連電位の潜時、振幅は前頭葉機能検査とよく相関した。アルコールによる影響を検討した結果では、飲酒の前後でNoGo-P3の潜時、振幅が有意に変化した。Stop signal課題におけるsuccessful stop trial(SST)と、unsuccessful stop trial(USST)のP3成分は、Go-P3と比較して有意に潜時の延長、振幅の増加を認めた。SSTとUSSTでは差がなかった。LORETA法のよる電位源推定では、(SST-Go)-P3が右前頭葉眼窩面に、(USST-Go)-P3は右上前頭回に電位源が推定された。
  • 羽生 春夫
    2006 年 8 巻 3 号 p. 222-226
    発行日: 2006年
    公開日: 2011/07/05
    ジャーナル フリー
    【要旨】老年期の代表的な認知症といわれるアルツハイマー病(AD)、レビー小体型認知症(DLB)、血管性認知症(VaD)の早期診断と鑑別における画像検査の役割について概説する。MRIは脳の微細構造を含む形態学的変化の描出に優れ、ADの主病変となる海馬や海馬傍回(内嗅野皮質)を明瞭に識別できる。視覚的にも萎縮の評価は可能であるが、voxel-based morphometryによって客観的な形態学的変化の評価が容易となってきた。最近登場したVSRADという解析ソフトを用いると、早期ADやMCI患者で内嗅野皮質を含む側頭葉内側部の萎縮が検出でき、その他の認知症と比べてより高度な萎縮を確認できることからADの早期診断や鑑別に期待される。SPECT画像を3D-SSPなどから統計学的に解析すると、ADの病初期やMCIのrapid converter群では後部帯状回や楔前部の有意な血流低下が認められ、早期診断に活用できる。また、DLBでは後頭葉内側の血流低下が、VaDでは前頭葉や帯状回前部の血流低下がみられるなど、それぞれ特徴的な脳血流低下パターンを示すことから鑑別診断にも役立つ。形態画像や機能画像の統計学的解析によって、ADを代表とした認知症の早期診断や鑑別がいっそう容易となり、今後の薬物治療にも大きな貢献をもたらすものと期待される。
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