MMNは、同じ音(標準刺激)が続いた後に、異なった音を呈示すると、その音(逸脱刺激)によって、引き出される脳電位である。MMNが生じる条件や、その動態から、聴覚野内で行われる初期的な認知プロセスに関して、以下のように推定できる(Näätänen)。(1) 標準刺激が繰り返し呈示されると、その音についてのメモリートレース(神経表現neural representation)が形成されて、MMNは、それと逸脱刺激とのミスマッチによって生じる。(2) メモリートレースとして、その音の物理的な全体像が保持されるが、抽象的、予期的な特性も保持されうる。そして、(3) 両刺激間の差が、弁別閾を越えている、つまり、各個人の刺激弁別能力以上の差がなければ、正確なメモリートレースは形成できない。(4)(始めは区別/同定できないような複雑な音(言語の音韻も含む)の場合、練習・経験によって弁別/同定できるようになって始めて、MMNが出現する)。そのため、複雑な音に関しては、その音の長期的神経表現(longterm neural representation)が獲得されて始めて、その音の呈示でその神経表現が活性化されて、メモリートレースとして機能するのであろう。(5) 以上の(1) から(4) は、MMNの出現が注意とは無関連なので、呈示された音の入力が聴覚野内に達すると、本人の意識や注意に関係なく実行されると、推定される。
抄録全体を表示