1971年より栃木県が足尾製錬所から排出される「いおう酸化物1)」を測定した結果,環境基準値を超える測定地点があった.それ以前から大気汚染が発生していたと考えられる中,1968年,足尾町内の住民団体が煙害の補償を求める請願書を町議会に提出し,その後アンケート調査を実施して健康被害等を可視化させた.しかし,町行政は住民団体に被害の「証拠」の提出を求めるのみであった.その「証拠」となる疫学調査は「壁」となって調査されず,被害は潜在化した.これは,企業城下町において母体となる企業の経営悪化が,住民の健康を守るという町行政の役割の放棄を招き,住民も個人を特定されるような調査を回避したからである.
気候変動緩和策を巡る国内外の交渉では,対策の効果や影響を定量的に評価することが求められ,そのためのモデル分析・予測の役割がこの30年余りで大きくなってきた.そこで本稿では,地球規模の緩和策評価モデルが解明した科学的知見をIPCC/AR6から再整理するとともに,日本での緩和策評価モデルの開発状況をレビューし,国レベルの削減目標・政策検討や地方レベルでの計画策定への貢献を総括した.今後の研究課題として,緩和策評価モデルがこれまで積極的には取り込んでこなかった社会・文化・制度・行動変容といった側面を考慮することや部門別の理論・実証研究の成果を取り込む必要性を指摘した.
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