本論文は,2期間プリンシパル・エージェントモデルにもとづき,資産除去債務会計の導入が経営者業績評価にもたらす影響とその環境コストヘの効果を分析する.資産取得活動と当該資産を利用した生産・販売活動にたずさわる経営者と企業所有者の契約に焦点を当て,契約が報告利益に依存して設計される場合に,資産除去債務会計が利益測定プロセスの変更を通じて,経営者の資産取得活動とそれにともなう環境コストをどのように変化させるかを考察した.分析から,資産除去債務会計の導入が,経営者業績評価における資産取得活動のインセンティブを増大させ,資産除去時に環境修復を要する環境コストを増大させる可能性があるという結果を得た.
本研究は,廃棄物処理の競争市場において,逆選択やモラルハザードを防止する,社会的に望ましい廃棄物処理を実現させる環境汚染賠償責任法を分析した.具体的には,汚染被害の不確実性を導入し,廃棄物排出企業である生産者と廃棄物処理業者の間の市場取引を割り当てゲームとして記述した.そして,過失責任,無過失責任,拡大排出者責任,罰金制度によって根拠づけられた複数の責任法のもとでの市場の社会厚生の比較を行った.この分析により,拡大責任や罰金制度の利点が示され,無過失責任や過失責任によって社会厚生が高められる条件が明らかにされた.
本論では,総汚染排出量を目標上限以内に抑える環境政策にともなう社会的費用の最小化について,被規制企業の違法排出を考慮して分析している研究を紹介する.まず,Sandmo (2002)の不完全遵守モデルを再検討し,「経済的手法」の集計的汚染削減費用を最小化するという特性が不遵守に対して頑健でないこと,および,環境政策の社会的費用をより広くとらえる必要があることを確認する.次に,環境税のモニタリング問題を取り扱いすべての企業が完全脱税する状態が社会的に望ましいという主張をするMacho-Stadler and Pérez-Castrillo (2006)を再吟味し,主要命題の精緻化を行う.最後に,排出量取引制度の社会的費用を包括的にとらえすべての企業が完全遵守することが望ましいという結果を持つStrunland (2007)を取り上げ,罰則ルールの比較に関する命題を拡張する.
トラベルコスト法は,レクリエーションに参加するために費やした旅行費用に基づいて,レクリエーションや環境の価値を評価する手法である.50年以上にわたる研究を通してモデルの改良が進められてきており,現在では環境評価手法の中でも最も洗練された手法の1つとなっている.本稿では,トラベルコスト法の研究動向について;特にモデルの発展を中心に解説を行い,現在の到達点と今後の課題を明らかにする.
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