環境政策統合(EPI)は,環境目的を全ての政策分野に反映させることを確保する戦略・プロセスを指す.本稿では,EPIの意義を認識し,日本の気候変動分野におけるEPIについて,先行研究を踏まえ制度的・政治的・認識的な観点から事例分析を行った.その結果,日本にも原則や組織体制,計画にEPIの概念が見出せ,課題の重点化が一部で図られていたが,調整・調和や政策効果の担保を図るような制度・組織上のEPIの実践は限られ,省庁が強い独自性を維持していることが明らかとなった.また,分析の結果,政治的関与やアクターの認識向上等の政治的・認識的観点からのEPIが,制度的観点からのEPIを促進する上で重要な役割を果たしうることが明らかとなった.
本論文では環境保全型農業に関する情報提供により,消費者の選好がどのように変化するのかを明らかにするため,滋賀県の琵琶湖を対象地域として,滋賀県,京都府,大阪府の消費者を対象に選択実験を行い,WTP spaceによるランダムパラメータロジットモデルを用いた分析を行った.分析からは情報提供が消費者の選好に影響を及ぼしたが,情報の種類により,その効果は均等に現れるのではなく,影響が及ぶ消費者層が異なることが明らかとなった.環境保全型農産物を普及させるためには,どのような選好を持つ消費者に影響を及ぼしたいかを明確にした上で,その消費者に応じた情報を提供することが適切であると考えられた.
持続可能な自然と社会を将来世代に引き継ぐために,どのような社会制度をデザインすればよいのかを課題とするのが「フューチャー・デザイン」である.その手法の1つである「仮想将来世代」を中心に,理論的背景,ラボラトリ実験やフィールド実験の結果および幾つかの自治体との実践の様子を展望する.
社会の福祉を決める要因として,人工資本・人的資本・自然資本を重みづけして集計した新国富(IW: Inclusive Wealth; 包括的富)指数が,持続可能性の指標の1つとして注目されている.これまで,厚生経済理論に基づいた理論分析と国レベルでの計測が主に進められてきたが,今後は国や地域レベルでの持続可能な発展に向けた政策決定プロセスへの活用も期待される.本稿では,理論と計測に関する最新の研究を簡単に紹介した上で,そうした政策決定プロセスへの国・地域における活用の試みとして,災害からの復興の評価,自治体における政策意思決定,インフラの整備や維持管理等に関する費用便益分析と政策評価を紹介する.今後は,地域の社会関係資本が福祉に影響する経路の解明や,富指標を用いた事前の政策評価の積み重ねが期待される.
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