エネルギー・地球環境問題には,いかなる処方箋があるのであろうか.政策,技術,市場の面から議論する.
廃棄物処理の社会的費用削減の観点から,著者がこれまで行ってきた経済分析の概要を紹介する.まず経済的手法に注目し,ごみ処理有料化が焼却・埋立量および排出量の削減に寄与しているのに対し,産業廃棄物税導入は最終処分量の削減にはほとんど寄与していないことを示す.次に廃棄物処理施設設置に関する住民選好に注目し,処分場設置に伴う外部費用を推計する.廃棄物の受入範囲が広がるにつれて住民の抵抗感は増すが,そうした抵抗感を緩和するには,必ずしも金銭的補償では解決されず,行政から住民への情報提供や両者のコミュニケーションが有効であることを示す.以上の結果を踏まえ,廃棄物処理に関する政策課題について議論する.
IS014001は企業の組織に大きな影響を与えるにもかかわらず,既存の研究ではこの経営的な側面を説明し,実証することが十分ではなかった.この論文ではIS014001と戦略・組織の関係を理論的・実証的に理解することを試みる.IS014001はその導入の達成にもかかわらず,組織に内部化させるという戦略的指向性がなければその組織へ効果を発揮するものではないことがわかった.また,環境マネジメントと組織マネジメントが一体化した状態,すなわち環境方針が組織に浸透した状態が無ければ,企業から環境配慮行動の積極性を十分に引き出すことはできない.環境配慮型企業の内部分析がより多く求められる.
2011年3月の福島第一原子力発電所の事故に伴う社会経済的損失のうち,東京都中央卸売市場における野菜の“風評”被害を推定した.ここで“風評”被害とは,放射能の検出量が国の基準値を下回り,流通・販売が認められている野菜であるにもかかわらず,消費者がそれを買い控えることで生じる間接的な経済的被害である.被害を受けた産地を,福島,茨城,栃木,群馬,千葉,並びに埼玉の6県とし,生シイタケとタラの芽を除いた野菜全品目の出荷量と単価の動きから“風評"被害額を推計した.その結果,2011年3月から2012年2月までの1年間の“風評”被害額は,期待値が200億6700万円で,それは,平年の販売額の14.1%に相当することがわかった.
再生可能エネルギーは,発電コストが高く市場競争力が低い.そのため各国が様々な導入補助政策を実施している.ドイツを中心として発展した固定価格買取の導入について日本でも検討が始まった.同制度は買取価格設計を誤ると大量導入が発生したり,逆に導入がほとんど進まなくなる欠点がある.本稿では,国民負担である補助総額に着目し,設備導入限界費用曲線を土地や気象のデータから求め,設備コスト習熟効果を織り込み,動的計画法を用いて,補助総額を最小化する買取価格の年度展開を得た.その結果,買取価格を太陽光発電は5%程度ずつ低下,風力発電はほぼ一定(漸増)にすることにより目的導入量を最小国民負担で実現できることが分かった.
2030年頃には,様々な環境制約によって現在のライフスタイルを維持できない可能性が高く,結果として環境制約下では,優先度の低いライフスタイルが切り捨てられ,それに関わる消費財やサービスの市場は縮小していくことが考えられる.本研究では,ニーズと環境負荷を軸に様々な消費財の分布を明らかにし,消費財の市場縮小の相対的な危険度を判断するライフスタイル・ハザードマップというツールを考案した.また,ライフスタイル・ハザードマップの評価では,環境制約の認識の有無によって消費財の市場縮小の相対的な危険度に大きな変化はなく,生活者が環境制約を意識してもライフスタイルを大きく変えることができない可能性が示唆された.
本論文では,主要な再生可能エネルギー普及促進政策であるFIT制度とRPS制度間で再生可能エネルギーの発電促進効果を理論的な側面から比較した.まず,両制度下で政策変数が再生可能エネルギー発電量に与える影響を調べた結果,FIT制度の下で固定買取価格を引き上げると再生可能エネルギー発電量が増加する一方,RPS制度下で導入義務割合を引き上げても必ずしも増加せず,一定の条件下では減少することがあることがわかった.次に,両制度で同一の政策目標(再生可能エネルギー導入割合)を達成する場合の再生可能エネルギー発電量を比較した結果,FIT制度の方がRPS制度より再生可能エネルギー発電量が多くなることがわかった.
環境政策の成立・展開を歴史的に考察する分野である環境政策史研究は,端緒についたばかりである.本稿では,まず,環境政策に関する歴史的研究の動向を検討し,環境政策史が必要とされる背景を確認する.そして,環境政策の性格変容の解明をはじめとし,これまでの環境政策の実態を詳細に把握する環境政策史は,これからの環境政策を構想するうえでも有用であることを示す.さらに,発展した一方で分断化も進んだ環境経済学,環境政治学,環境法学,環境社会学といった環境政策に関わる諸学問を,環境政策史が架橋する可能性についても検討する.また,環境政策史は,日本の公害研究の成果を再発見し,発展させるものでもあることを示す.
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