環境政策統合の実現に際しては,ある政策領域における既存の政策目的と新たに追加される環境目的との調整過程が重要になる.本研究では,他の政策領域で環境目的が追加された事例として1997 年に行われた河川法改正に着目し,政策パラダイム転換に関する先行研究を手がかりとして,情報公開請求にて入手した公文書などにより環境政策統合の政策過程を分析した.その結果,(1)河川環境に関する2 つの異なるアイディアが存在したこと,(2)主要アクターが推進したアイディアは治水・利水を主目的とする既存政策パラダイムとより整合的なもので,政策パラダイム転換が生じていたとは言い難いことなどを明らかにした.
本研究では,拡大生産者責任(EPR)政策の理論的根拠について,主な既往文献のレビューを踏まえて考察した.本研究ではEPR政策が生産者に課す責任内容を分類した上で,効率性の観点からそれぞれの責任を課す根拠を検討するとともに,汚染者負担原則・公平性との関係,さらに分断型社会の克服との関係について考察した.その結果,多様な根拠が認められたが,それらは互いに補完的なものであった.個々の状況に応じた適用が可能ではあるが,諸条件を勘案するとしばしば財務的責任と物理的責任の両方を課すことが望ましく,あわせて情報的責任も適切に課すことが重要であると考えられた.
廃棄物とリサイクルの経済学は植田和弘先生の初期の研究課題であり,それをまとめたものが植田(1992)である.本稿は植田(1992)を簡潔に解説し,その後の四半世紀のこの分野の進展と今後の展望を論じる.これから望まれる研究としては,第一に発展途上国の廃棄物問題とそれに対する政策を課題とすることである.第二に行動経済学の理論に基づいて廃棄物管理・リサイクル政策の手法を研究することである.第三に開発された政策の評価を経済学的なフィールド実験を用いて行うことである.本稿を通じて,植田先生の先見の明が確かめられ,取り組まれるべき課題が整理される.
本稿は,2017年3月に行われた植田和弘教授の退職記念公開シンポジウムにおける筆者の報告内容をもとに,植田教授のデポジット制度に関する言及を踏まえた上で,デポジット制度についての研究の現状と課題を,環境経済・政策学,特にインセンティブの観点から主体別に論じたものである.消費者については,購入時・返却時における様々なアプローチによる定量的な研究がある.生産者については,制度運営主体の負担緩和の観点を中心に,デポジット制度と飲料容器税を合わせたポリシーミックスで捉えることの有用性などを述べている.行政については,供給者サイドや回収拠点のモニタリングの検討などを提起している.
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