東日本大震災は日常生活や経済活動のみならず,社会制度のあり方にまで急激な変化を迫っている.(1)特異な非定常(災害という非日常)の状態で人々の生活の安定を確保し安全を担保すること,(2)特異な非定常(災害という非日常)の状態から定常状態(日常の状態),望むらくは持続可能な発展の状態に経済社会を誘導すること,(3)特異な非定常の状態(災害という非日常の状態)から見て,従来あった定常状態(日常の状態)のシステム上の問題点を明らかにし,問題点を克服すること,の3つの点で環境経済学は貢献しなければならない.そのためには,研究者が立場,視点,手法の相違を超えて連携し,研究を融合させる必要がある.そうしてこそ環境経済学は復興・復旧のための現実的施策に役立つことができるのである.
わが国は3R原則に基づき容器包装リサイクルを推進してきた.しかしこれまで自治体のリサイクル動機に関して定量的な分析は行われていない.そこで本研究は,容リ法における分別収集開始の要因を,全国の市町村自治体の容器包装別データを用いたパネルプロビットにより明らかにする.推定結果より,埋立処分場の保有形態が自治体単独保有である場合は,保有しない場合や,一部事務組合等で共有する場合よりも,それぞれの容器包装の分別・選別を行う確率が高いことがわかった.また逆に焼却炉の燃焼効率を高めるためにプラスチック製容器包装,紙製容器包装の分別を行わない傾向にあることがわかった.
大気環境改善を目指し,2001年に自動車NOx・PM法が施行された.同規制は旧型車両の使用禁止を行うため,利用不可能になった車両が規制対象地域外ヘと流出した可能性がある.そこで,本研究は,規制導入前後で域外の中古車市場価格が低下したかどうかを検証した.分析の結果,規制が域外中古車市場の価格を下落させたことは確認できなかった.一方,海外への中古車輸出は増加傾向にあることがわかった.このことは,国内の環境規制強化が海外の低公害車普及を阻害する可能性を示している.これは汚染逃避仮説の一種であるといえる.今後は自動車のように中古市場が整備されている財に対して環境規制を導入する場合には,その財の中古市場も注視する必要がある.
森林環境税の必要性判断に係る意思決定プロセスを,住民へのアンケート結果に基づき,共分散構造分析により明らかにするとともに,地域の森林への関心や地域への愛着の水準等の高低が,意思決定プロセスに与える影響の違いを,多母集団同時分析により検証した.結果,①森林環境税制度のしくみ評価,②身近な人の評価,③森林行政への信頼の3つが判断要因になること,②および③よりも①のほうが影響力は大きいことを示した.加えて,高関心群は低関心群に比べて①の影響が相対的に大きくなること,高愛着群は低愛着群に比べて②の影響が相対的に大きく,低愛着群は高愛着群に比べて①の影響が相対的に大きくなることなどを定量的に示した.
本稿では,主に地球温暖化問題への応用を念頭に,社会的割引に関する理論研究の動向をまとめる.問題の基本的な背景を確認した上で,特に不確実性と代替可能性に焦点を当てながら,近年の理論上の発展について統一的な枠組みの下で解説する.また,数値計算と具体例を用いて,理論的な研究成果がどのような政策的合意を持つのかを明らかにする.
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