本稿では管理論的観点から日本の化学物質政策の政策過程を分析することにより,環境リスク規制における政策手段の特徴と課題を明らかにした.具体的には,Christopher C. Hoodのコントロール論に依拠した分析枠組みを用いることで,化学物質政策の政策手段の異時点間比較分析を行った.そして,行政の政策的意図として表れた政策手段の特徴が,直接的手法への柔軟なコントロールの組み込み,および被規制主体をネットワーク化して自己規制を促すことによる情報的手段の利用であることを示した.さらに柔軟なコントロールが不十分になりうる原因として,利害関係者の負担回避や化学物質規制の専門性の高さの存在を示した.