ノンプロフィット・レビュー
Print ISSN : 1346-4116
17 巻, 1 号
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研究論文
  • ―西欧におけるフィランソロピー研究のシステマティック・レビューと日本のフィランソロピー研究の発展に向けて―
    大西 たまき
    2017 年 17 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/05
    ジャーナル フリー

    日本のフィランソロピーは近年著しい発展を遂げているが,フィランソロピーの概念と定義を包括的に整理した研究はまだ限られている.本論文の主たる目的は,フィランソロピーの定義を理解するための分析フレームワークを示唆し,日本のフィランソロピー研究を促す事にある.そのため研究の進む米国を中心としたフィランソピー研究のシステマティック・レビューを行い,定義を分析した.システマティック・レビューに際しては,近年の主要研究(Daly 2012, Sulek 2010a, 2010b)の他,各種文献データベース(ABI/INFORM, EBSCO, JSTOR)とインディアナ大学のPayton Philanthropic Studies Libraryを用い,フィランソロピー研究者の助言も得た.その結果,西洋のフィランソロピーの様々な定義と関連する社会的,政治的,文化的要因,そして時系軸と理論的観点からの類型化という2つの観点からフィランソロピーという概念がいかに捉えられてきたかを考察すると共に,この類型化と日本のフィランソロピー研究の発展との関連性にも触れる.

  • ―NPOによる政策提言が与えた影響とその源泉―
    小牧 奈津子
    2017 年 17 巻 1 号 p. 11-22
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/05
    ジャーナル フリー

    本稿では,自殺対策基本法制定以降の政策過程を検討し,そこでNPOが与えた影響を明らかにするとともに,その影響力の源泉の導出を試みた.NPO法人ライフリンク代表の清水康之へのインタビューと,2つの諮問機関での議論の分析から,ライフリンクは,遺族とのつながりを通じて自殺の実態に関する貴重な情報を取得するだけでなく,国会議員とのつながりを構築・強化してきたことが明らかとなった.この国会議員との関係性が,ライフリンクの政策提言の影響力を高める源泉として機能したといえる.ただしNPOが政策過程でそうした大きな影響を及ぼすことには,弊害や危険性を指摘する声も少なくない.実際,本稿からも諮問機関での議論をバイパスし,NPOが政策過程に直接,強い影響を与えている様子が浮き彫りになった.この影響を検証・評価するためには,その後の政策過程を含めて更なる検討を行っていくことが必要であろう.

  • ―政府の自立性と逆U字型関係に着目した新しい理論枠組み―
    坂本 治也
    2017 年 17 巻 1 号 p. 23-37
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/05
    ジャーナル フリー

    本稿は,補助金や委託事業収入などの政府からの公的資金収入に財政面で依存することが市民社会組織によるアドボカシーにいかなる影響を及ぼすのかについて,日本の事例を題材に検討を加える.本稿では,「市民社会組織に対する政府の自立性の程度」と「政府への財政的依存がアドボカシーに与える非線形的影響」という2点に着目することにより,新しい理論枠組みを提起したい.独立行政法人経済産業研究所の「平成26年度日本におけるサードセクターの経営実態に関する調査」のデータを用いた定量的分析の結果,1)政府の自立性の高低によって政府への財政的依存がアドボカシーに与える影響の方向性は異なること,2)政府への財政的依存は,ある一定レベルまではアドボカシーに好影響を与えるが,一定レベルを超えると逆にアドボカシーに悪影響を与えるようになる,という逆U字型の影響をアドボカシーに与えること,が明らかとなる.

  • 胡 笳, 田中 勝也, 松岡 俊二
    2017 年 17 巻 1 号 p. 39-48
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/05
    ジャーナル フリー

    本研究は地域活性化につながるNPOの活動水準を,資金力,人材力,連携力と定義した.先行研究で考慮されていなかったNPOの活動水準を規定する地域要因も取り入れ,地域要因と組織要因とを統合して分析するため,内閣府が行ったNPO法人に対するアンケート調査結果(1,079団体)を用い,市町村レベルにおけるNPO活動水準の規定要因に関する実証的分析を行った.分析の結果,組織要因については,活動年数と情報発信の手段数がNPO活動水準に正の効果があり,また,活動の分野数と地理的範囲はNPOの他団体との連携に正の効果があった.活動開始の動機については,事業活動の幅の開拓のような設立者自身の意思で活動を開始したNPOより,行政からの勧奨で活動を開始したNPOの方が規模が大きい.地域要因については,経済基盤要因と政治参加の度合いがNPO活動水準に影響を与えていることが示され,NPO団体の新設立に対して地域条件も考慮する必要があると提示した.

研究ノート
  • ―上場企業のパネルデータを用いた実証分析―
    大浦 真衣
    2017 年 17 巻 1 号 p. 49-62
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/05
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,企業の社会的責任(CSR)と業績の関係を明確にすることで,企業経営におけるCSRの戦略的活用の効果を明示することである.近年日本企業もCSRに対する取り組みを強化しつつあるが,他社が行っているからという横並び意識で,明確な経営的意図がないまま取り組む企業もあり,景気変動による縮小や削減も行われている.しかし,CSRを企業経営ツールとして戦略的に活用すれば,中・長期的に見て業績向上に貢献するのではないか.そこで本稿では,東洋経済新報社が発行する「CSR企業総覧」2007年~2010年の4年分のデータを使用し,CSRと企業の財務パフォーマンス(ROA (Return on asset,総資産利益率),ROE (Return on equity,自己資本利益率))の関係性についてパネルデータ分析を行った.その結果,「年」のショックをコントロールしても,各分野のCSR項目のうち「人材活用」については,財務パフォーマンス(ROA, ROE)と正の関係に,「社会性」については,財務パフォーマンス(ROA)と正の関係にあるとの結果を得た.一方,「環境」「企業統治」の項目は,「年」のショックをコントロールすると,財務パフォーマンス(ROA, ROE)に対し,いずれも有意な結果は得られなかった.

  • ―北海道グリーンファンドの社会変革モデルを事例に―
    加藤 知愛
    2017 年 17 巻 1 号 p. 63-75
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/05
    ジャーナル フリー

    1999年に札幌市に設立され,経営力を強化しながら地域需要型の再生可能エネルギー事業を推進するNPO法人北海道グリーンファンド(以下HGFとする)は,NPOが直面する壁を突破し,事業を通じて地域コミュニティ形成事業に貢献してきた.HGFの事業モデルには,社会変革性,「協働性のネットワーク・プラットフォーム」の形成機能が内在する.HGFは,地域需要型の再生可能エネルギーマーケットを堀り起こし,風力発電エネルギーを供給する.人々は,HGFが提供する風力発電エネルギー(プロダクツ)の購入を通して,「自らの暮らしを創る営み」を選択している.本実践事例は,非営利組織が,複数のセクターに働きかけて形成された,既存の政治・経済システムに新しい地域経済を組み込んでいく地域経営モデルである.HGFによる実践事例は,各地域の自治体が地域経済システムを形成する際に役立つ知見を提供している.

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