大形船用ディーゼル機関のシリンダライナ, ピストンリングの異常摩耗は, 機関の高出力化, 低質燃料の使用とそれに付随する高アルカリ価シリンダ油の使用などと密接な関連があり, ここ10年来の解決すべき重要課題の一つになっている.筆者らの一人は, さきにシリンダ径110ミリの小形往復動摩擦試験機と小形四サイクル機関による基礎的な研究を行ない, 異常摩耗の発生機構とその防止策について発表した.しかしながら, これらの装置は, 構造や作動条件などいろいろの点で対象の大形ディーゼル機関と異なるため, 実用機関に近い性能, 構造を有する実験機関による研究が重要と考えられる.そのような観点からこの報告は, 大形クロスヘッド機関とほぼ同じ性能を有するシリンダ径190ミリの二サイクル実験機関と, 往復揺動形ピストソリング試験機を使用して行なった異常摩耗の実験的研究をまとめたものである.研究は, 1) 異常摩耗の現象的特徴をは握し, その発生機構を明らかにするための実験と, 2) 異常摩耗の発生を支配するいくつかの要因の影響を調べる実験について行なった.その結果, i) ピストンリング, シリンダライナの異常摩耗は, 初期なじみ期間のか酷なリングの片あたりにより発生するスカッフィングが端緒になり, その結果, 金属母材から堀り出される寸法が大きい硬質摩耗粉による異物摩耗の形態で促進される.ii) 異常摩耗が発生すると, ピストンリングのしゅう動面は平たん化し, 摩耗粉の寸法, しゅう動面の粗さが大きくなるので, これらによって発生の有無を判別できる.iii) 正常摩耗の場合は, 工場試運転の時間範囲でほぼなじみが完了する.iv) 高アルカリ価のシリンダ油は, 低アルカリ価のものより異常摩耗を発生しやすいが, その一つの原因は, 高温での油膜広がり性の欠乏にあると考えられる.V) シリンダライナ面の仕上は, 旋削の方が研削よりもスカッフィングを発生しにくいが, その原因は粗面の保油作用によるものと思われる.Vi) テーパリング, 両テーパリングの使用は, なじみ過程におけるピストンリングの片あたりを緩和する作用があり, スカッフィングの発生防止に有効である.vii) 高出力機関に対する回転ピストン機構の採用は, スカッフィング防止上かなりの効果が期待できる.などの事柄を明らかにすることができた.
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