前回の実験と同様に, Lerner-Simmonsパラダイムで見出されたderogation現象の正当世界仮説に基づく解釈の妥当性が検討された.
被験者は49名の男子大学生で, 対連合学習実験の場面を収録したと称されるテープを聴いたが, 前回の実験とは異なり, エラーとショックとの対応関係の有無を顕在化させるために, 観察者にSPの反応の正誤を逐次チェックさせた. また, 学習実験場面で生じたderogationが後の評定にどのような効果を及ぼすかも調べることにした.
仮説は次の通りである. 1) RS条件ではSPのde-rogationが生じるが, C条件とES条件ではSPのde-rogationは生じないだろう. 2) RS条件では正当世界信念の強い者は弱い者よりもSPをderogateする程度は大きいが, C条件とES条件では信念の強さは関係ないであろう.
仮説1, 2は支持され, 以下に示すような傾向が見出された.
(1) SPのderogationは生じなかったES条件では, エラーとショックとが一対一的対応をしているために, ショックは学習を促進するポジティブなものとして知覚され, 実験事態のポジティブな評価を伴っており, したがって, 不当性の知覚自体が最初から生じていないことが明らかになった. これは, SPの相対印象値は観察者の正当世界信念の強さと無関係であることによっても裏付けられる.
(2) SPのderogationが生じたRS条件では, エラーとショックとの対応関係の欠如ゆえに, ショックは学習妨害的であると知覚され, 実験事態のネガティブな評価を伴っており, この条件のSPは, Lernerが主張するように, 不当性解消のためにderogateされたと言える. これは正当世界信念の強い者ほど, SPをよりderogateする傾向があったことによっても裏付けられる.
(3) RS条件でのderogationに関するさまざまな代替説明-「SPの行動-derogation」仮説, 「加害者意識-derogation」仮説, 「共感-同情」仮説-について検討したが, いずれも妥当であるとは言えず, 正当世界仮説による説明が最も有力であることが明らかになった.
(4) SPのderogationがその後の事態に及ぼす効果については, Lernerの仮説とは逆の傾向, すなわち, RS条件ではderogateしたSPを補償しようとする傾向があることが見出された.
以上の結果を通じて, Lerner-Simmonsパラダイムでは, SPが不当な事態におかれ, 事態全体の認知を歪曲することによって正当性を回復できない時には, SPのderogationが大きく生じることが明らかになった. また, Lerner-Simmonsパラダイムでのoutcomeと「行為+人格的価値」との対応は二つのレベルで考えられ, さらに, 学習に対するショックの効果性についての知覚や, outcomeに対する統制力の要因が, 不当性の知覚に関与していることが示唆された.
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