実験社会心理学研究
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58 巻, 2 号
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原著論文
  • 李 旉昕, 宮本 匠, 矢守 克也
    原稿種別: 原著論文
    2019 年 58 巻 2 号 p. 81-94
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/26
    [早期公開] 公開日: 2018/09/19
    ジャーナル フリー

    災害復興に関する課題として,復興に対する支援が十分に提供されるために,かえって復興の当事者たるべき被災地住民から「主体性」を奪ってしまう課題を指摘できる。支援者と被災住民の間に〈支援強化と主体性喪失の悪循環〉が生じてしまうという課題である。ここで「主体性」とは,当事者が抱える問題や悩みを外部者が同定するのではなく,当事者が自ら問い,言語化し,解決しようとする態度のことである。本研究では,東日本大震災の被災地である茨城県大洗町において,「クロスロード:大洗編」という名称の防災学習ツールを被災地住民が自ら制作することを筆者らが支援することを中心としたアクションリサーチを通して,この悪循環を解消することを試み,浦河べてるの家が推進する「当事者研究」の視点から考察した。第1に,「クロスロード」を作成する作業を通じて,一方に,〈問題〉について「主体的に」考える被災地住民が生まれ,他方に,当事者とは切り離された客体的な対象としての〈問題〉が対象化されている。第2に,「クロスロード」として表現された〈問題〉は,多くの人が共有しうる,より公共的な〈問題〉として再定位される。最後に,一連のプロセスに外部の支援者である筆者らが果たした役割と課題について考察した。

資料論文
  • 笠置 遊, 大坊 郁夫
    原稿種別: 資料論文
    2019 年 58 巻 2 号 p. 95-104
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/26
    [早期公開] 公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,複数観衆問題に直面したとき,どの観衆に対しても呈示することのできる共通特性について自己呈示を行うことが,呈示者の個人内適応と対人適応に与える影響を検討することであった。参加者76名を対象に,複数観衆問題の生起と共通特性の自己呈示の有無を操作したスピーチ実験を行い,参加者の状態自尊感情の変化(個人内適応)を検討した。さらに,5名の評定者に参加者のスピーチ映像を呈示し,参加者の印象(対人適応)を評定させた。その結果,複数観衆状況で共通特性の自己呈示を行わなかった参加者は,実験前と比較し実験後における状態自尊感情が他の条件の参加者よりも低下し,印象評価もネガティブであった。一方,複数観衆状況で共通特性の自己呈示を行った参加者と統制条件の参加者の状態自尊感情の変化量及び印象評価に有意差は見られなかった。最後に,複数観衆問題の解決法として共通特性の自己呈示がいかなる有効性をもつのかについて議論した。

Short Note
  • Takuhiko Deguchi
    原稿種別: Short Note
    2019 年 58 巻 2 号 p. 105-110
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/26
    [早期公開] 公開日: 2018/07/21
    ジャーナル フリー
    電子付録

    A questionnaire and a computer simulation were used to investigate the validity of a critical mass model of rule-breaking behavior with local interaction. In this model, individuals were only able to perceive some of their neighbors’ behavior. The questionnaire assessed attitudes toward and the frequency of rule-breaking behavior, and 887 valid responses were obtained from Japanese junior high school students. Computer simulations based on cellular automata were conducted using the questionnaire data. The outputs of the simulations including local interactions showed strong positive correlations with the rule-breaking frequencies obtained with the questionnaire. These findings imply that models taking the limits of perception into account could be useful for describing real micro-macro relationships.

  • Mizuka Ohtaka, Kaori Karasawa
    原稿種別: Short Note
    2019 年 58 巻 2 号 p. 111-115
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/26
    [早期公開] 公開日: 2018/07/10
    ジャーナル フリー
    電子付録

    Although previous studies have verified that perspective-taking differs according to the individuals involved and their relationships, the balance between individual and relationship effects remains unclear. Thus, we examined perspective-taking in families based on the social relations model (Kenny, Kashy, & Cook, 2006). We conducted a triadic survey of 380 undergraduates and their fathers and mothers. We analyzed the triadic responses of the 166 families in which all three members completed the survey. It was found that perspective-taking in families is affected by the family itself, each actor, fathers as partners and all dyadic relationships. The relative contributions of individual effects and relationship effects differed between parent-child relationships and marital relationships. We discuss the implications of our findings for enhancing perspective-taking.

特集論文  異分野×グループ・ダイナミックスのインタフェイス
原著論文
  • 藤原 健, 伊藤 雄一, 高嶋 和毅, 續 毅海, 増山 昌樹, 尾上 孝雄
    原稿種別: 原著論文
    2019 年 58 巻 2 号 p. 122-134
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/26
    [早期公開] 公開日: 2018/09/08
    ジャーナル フリー

    本研究は,演奏者の重心・重量を用いた演奏連携度の評価を通じて,小集団相互作用における動態をシンクロニーの視点から明らかにすることを目的とする。そのために,プロの演奏者によるコンサート時の合奏場面を対象に情報科学技術を用いて演奏連携度を算出し,これを社会心理学的手法により評価した。具体的には,椅子型センシングデバイスを用いて演奏者の重心移動・重量変化を取得することで身体全体の動きを時系列データとして検出し,短時間フーリエ変換を適用することで時系列振幅スペクトルデータを得た。これについて全演奏者の時系列スペクトルデータを乗算することで演奏連携度を算出した。この演奏連携度についてサロゲート法を用いることで,演奏者間に偶然以上の連携が生じていたことを明らかにした。さらに,コンサート時に取得していた音源を一般の大学生に提示した結果,一部の楽曲において演奏連携度の高い演奏が肯定的な評価を得ることを確認した。行動の同時性や同期性を扱うシンクロニー研究の多くは二者間の相互作用を対象としたものが多い中で,情報科学の技術を導入することで小集団における相互作用ダイナミックスが精緻に測定・検討可能になった点は異分野協同における成果であるといえる。

  • 杉山 高志, 矢守 克也
    原稿種別: 原著論文
    2019 年 58 巻 2 号 p. 135-146
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/26
    [早期公開] 公開日: 2018/06/26
    ジャーナル フリー

    本研究では,東日本大震災の発生以降,日本社会が直面する最大の防災課題として位置づけられた津波からの避難行動を研究対象として,以下のことを示した。まず,避難訓練を支援するために開発したスマートフォンアプリ「逃げトレ」について紹介した。次に,「逃げトレ」が,避難行動の分析・改善の鍵を握る人間系(避難行動)と自然系(津波挙動)との相互関係を,実際に避難する当事者に対して可視化するためのインタラクション表現ツールであることを示した。その上で,「逃げトレ」の効果性,とりわけ,これまでの避難対策や手法―たとえば,ハザードマップや従来型の集団一斉訓練など―に対する優位性を,「コミットメント」(特定のシナリオを絶対視し,そこに没入する傾向性)と「コンティンジェンシー」(それを相対視し,そこから離脱する傾向性)を鍵概念として明らかにした。最後に,人間科学と自然科学の性質のちがいにも言及しながら,「逃げトレ」が担保する「コミットメント」と「コンティンジェンシー」の相乗作用は,「想定外」に対する対応原理としても重要であることを指摘した。

  • 宮﨑 友里
    原稿種別: 原著論文
    2019 年 58 巻 2 号 p. 147-160
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/26
    [早期公開] 公開日: 2019/02/23
    ジャーナル フリー

    本稿は,地方自治体の行動原理について,社会心理学の理論を適用することの有用性を探るものである。これまで,政治社会学や政治心理学において,国家から個人に至るまで政治主体の心理性は繰り返し確認されてきた。しかしながら,政治主体を地方自治体に限定した場合,心理性の検討は極めて限定的であったと言えるだろう。地方自治体は各種の政策形成に取り組んでいるが,その中でも経済的利潤の増大を目的としているとは捉えがたい観光政策が散見される現状は注目に値する。そこで本稿では,地方自治体を自律した行為主体と措定し,その政策形成過程に対して,集団一般の行動原理について心理的側面から説明してきた社会的アイデンティティ理論の観点を導入して解釈する。注目する点は,地方自治体としての集団概念と,観光資源活用の関連である。本稿では,水俣市を事例として,水俣病を用いた来訪者誘致に至る過程について,水俣市の集団概念に注目しながら追跡する。事例分析の結果は,水俣市において水俣病経験が先進的経験として肯定的に意味づけられた時,水俣病を用いた来訪者誘致への取り組みが進展した,というものである。

展望
  • 須山 巨基, 山田 順子, 瀧本 彩加
    原稿種別: 展望
    2019 年 58 巻 2 号 p. 161-170
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/26
    [早期公開] 公開日: 2018/11/07
    ジャーナル フリー

    集団力学研究とは,実験・調査・モデリングを通じて,個体が集合的に作り出す複雑な社会現象を定量的に検証する研究群の総称である。社会心理学における集団力学研究は,1940年代から隆盛するも徐々に研究の主流から外れていった。一方,生物学では,近年の新しいデータ収集法や分析方法の発達により集団力学研究が盛んに行われるようになり,再び集団力学研究が脚光を浴び始めている。本稿ではまず,社会心理学と生物学のそれぞれにおける集団力学研究の歴史を概観する。続いて,社会心理学において高い関心が寄せられてきた同調と文化拡散に注目し,これらのトピックに関して生物学が新たな集団力学的な手法を用いてどのような知見を見出したのか紹介する。最後に,生物学における集団力学研究の社会心理学への援用可能性とその便益性を示し,社会心理学と生物学の融合による集団力学研究の展望を論じる。

  • 香川 秀太
    原稿種別: 展望
    2019 年 58 巻 2 号 p. 171-187
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/26
    [早期公開] 公開日: 2018/12/14
    ジャーナル フリー

    本稿では,これまでの経済中心の資本主義社会ないし新自由主義に代わり構想され,出現しつつある「未来の社会構造」に関する哲学的諸議論(とりわけ,柄谷行人の交換論とHardt & Negriのマルチチュード)に着目し,それらと心理学的フィールド研究,ないしヴィゴツキー派心理学の活動理論との発展的な接合を試み,ポスト社会構成主義(ないしポスト活動理論)への道筋を探る。具体的には,第一に,Scribnerによる「歴史の四層構造モデル」を用いて従来の活動理論研究の限界を指摘し,各々の共同体や個人史レベルの議論だけでなく,社会構造の世界史に着目した議論の必要性を論じる。第二に,活動理論家Engeströmによる「生産様式の世界史」の議論の限界を指摘し,それを乗り越えうるものとして,柄谷の交換様式の世界史の理論を取り上げる。第三に,「次の社会」の萌芽的な事例として,相模原市藤野周辺地域での,資本制の価値観を乗り越えうる諸活動に着目する。第四に,事例をふまえて,従来の交換論や贈与論が,「独立した自己と他者」の間の「有体物・無体物の行き来」という移送(トランスファー)の言説に依拠してきたことを指摘し,この「移送的交換」では「次の社会構造」の展開が困難なことを指摘する。そして最後に,移送的交換がもたらす,「財の獲得か贈与か」の二元論を越える概念として,「創造的交歓(creative intercourse)」を提案する。

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