実験社会心理学研究
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46 巻, 2 号
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原著論文
  • 八ッ塚 一郎
    2007 年 46 巻 2 号 p. 103-119
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/05
    ジャーナル フリー
    日本社会における「ボランティア」と「NPO」の普及・興隆という現象を,社会的現実の生成と変容のプロセスとみなし,社会的表象論に依拠してその機制を検討した。各々の語を含む新聞記事の量の経年的変化を検討したところ,いずれの語も記事量を増大させていた。さらに,各々の語について,助詞を付して用いられる比率を算出する「助詞分析」を試みた。ボランティアは,阪神大震災以前には高かった主語としての用法の比率を,震災後には相対的に低下させていた。一方,NPOでは,主語としての使用比率は一貫して高かった。このことから,NPOは,生成の渦中にあるものの,社会的現実としては未だ単調であり,生活世界にとって疎遠であることが示唆された。それに対しボランティアは,震災を契機にその多層性を確立し,豊かな意味をもつ社会的現実として,生活世界の細部へと浸透しつつある。このことは記事内容に関する分析によっても支持された。2つの社会的現実について今後の変容可能性を展望するとともに,新聞記事を活用した分析技法について,社会的表象論に基づく展開の方向性を考察した。
  • 森尾 博昭, 山口 勧
    2007 年 46 巻 2 号 p. 120-132
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/05
    ジャーナル フリー
    自尊心と様々な情動や行動,認知との関連性は従来,その高低を中心として議論されてきたが,その他の属性を検討することにより,より包括的にその影響を検討することができる。本研究は,自己評価が外部からの情報なしに,内発的に揺れ動く時,その変動の程度を『自己概念の力動性』と定義し,この力動性が自尊心と様々な情動や行動,認知の関連性の理解に重要な役割を果たす,と提唱する。本研究では,力動性を測定するための手続きとしてマウス・パラダイムと呼ばれる手法を用いた。大学生56名を対象とした準実験の結果,ローゼンバーグの尺度で測られた自尊心得点が,ナルシシズム傾向へと与える影響に対し,自己概念の力動性が調節変数として働くことが実証された。高い自尊心はナルシシズム傾向へと結びつくのは,自己概念の力動性が高い場合,すなわち内在的に自己評価が不安定な場合のみであった。自己概念の力動性が低い場合,すなわち自己評価が内在的に安定している場合は,高い自尊心はナルシシズム傾向に影響を及ぼさなかった。本研究の結果は,自尊心の関連性を考慮する場合に,自己概念の力動性という動的な性質を考慮することが重要であることを示している。
資料論文
  • 日向野 智子, 小口 孝司
    2007 年 46 巻 2 号 p. 133-142
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/05
    ジャーナル フリー
    本研究では,児童が学級集団の中で,友だちの行いを注意しなければならない場面で覚える対面苦手意識(対人場面におけるわずらわしさや不快感,懸念を特徴とする)を取り上げた。本研究の主たる目的は,ソシオメトリック地位により,児童の対面苦手意識が異なるのかを検討することであった。小学校4年生から6年生の児童(男子102名,女子96名)が,児童用対面苦手意識尺度(注意場面版),肯定的ソシオメトリック指名法,パーソナリティ尺度から成る調査票に回答した。ソシオメトリック・テストの肯定的指名件数から,児童の学級集団内地位(スター群,平均群,孤立群)を定めた。分析の結果,スター群は孤立群よりも,児童用対面苦手意識尺度のわずらわしさ得点が有意に低かった。さらに,対面苦手意識は,シャイネスや公的自己意識との間に有意な正の相関があった。
特集論文 対話のグループ・ダイナミックス
原著論文
  • 朴 東燮, 茂呂 雄二
    2007 年 46 巻 2 号 p. 146-161
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/05
    ジャーナル フリー
    この論文では,バフチンの対話概念の適用可能性を議論した。まず,バフチンの対話性の概念を概説した。次に,学習発達に関する研究領域の動向を概観して,学習を社会過程と見なす方向に動いていることを確認した。この領域における理論的問題の二つの焦点が,状況の対話組織化と,言語実践のレパートリーのアイディアにあることを特定した。そして,この二つの理論的問題を考える上で,対話性の概念が有効であることを,子どもの相互行為データを用いて例証した。
  • 森下 雅子
    2007 年 46 巻 2 号 p. 162-172
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/05
    ジャーナル フリー
    本稿では,「共振」という概念を用い,フィールドワークが何を意味するのかということを探究する。ここでの「共振」とは,調査者とフィールドとの間に成立していると観察される相互関係を指す。それは必ずしも同調ではなく,むしろ多層・多面的に共同構築される現実の政治的な現れ方であり,葛藤・軋轢を経て相互の変容をもたらしたり,あるいはそれらが背景となり現実をつくったりする。  本稿ではこの概念を利用し,地域の日本語支援現場における筆者自身の体験に基づきながら,(a)フィールドワークの再定義,(b)フィールドワークの過程における自身の変容,(c)フィールドエントリーを通じて見えてきた種々の境界,さらに,(d)フィールドにおける行為者のポジションとその変化に伴う「共振」,について議論する。その上で,フィールドワークというのは集合的な学習経験であり,そのプロセスの中で学習を阻む特定の問題を協働で可視化しているのだということを,事例報告を交えながら示す。
  • 田垣 正晋
    2007 年 46 巻 2 号 p. 173-184
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/05
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,障害者施策における住民会議のあり方を検討すること,および,その過程を通じて,アクションリサーチにおいて研究者はいかにフィールドと関わるべきかについて方法論的に検討することである。本研究でとりあげた事例は,ある地方都市の障害者施策推進に関する住民会議であり,筆者は住民会議の運営において中心的な役割を果たした。筆者の会議への関わりを,筆者の発言,提出資料,メールから時系列的に再構成した。住民会議の当初目標は,結果的には達成されなかった。その主な原因は,活動の目標が共有されなかったこと,文書資料の準備不足,市職員,座長,筆者の打ち合わせの不足であった。この過程をアクションリサーチの方法論の問題として検討した結果,当事者,すなわち,住民会議のメンバーのセンスメーキングを促すようなセンスメーキングを研究者が行うことが重要であるとわかった。例えば,メンバー間をコーディネートすること,住民会議の場で自明視されていたり,人々がうまく言葉にできなかったりする現象を研究者が言語化することである。また,得られた知見の文脈を同定し,他の事例への転用可能性を高めるために,研究範囲と期間(ローカリティ)を限定することも重要であることが示唆された。さらに,このためには,研究者とフィールドとのコンタクトの記録を保存して,フィールドワークの文脈を明示化することが重要との知見が得られた。
  • 高野 尚子, 渥美 公秀
    2007 年 46 巻 2 号 p. 185-197
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/05
    ジャーナル フリー
    本研究は,阪神・淡路大震災記念,人と防災未来センターをフィールドに,公的な施設での語り部による阪神・淡路大震災の伝承と聞き手の応答について考察したものである。筆者らはこれまで人と防災未来センターでフィールドワークを行い,語り部と聞き手の対話を理論的に検討してきた。そして,その中で,語り部活動の現場では,聞き手が震災の語り部という役割に期待する「震災なるもの」の語りとは異なる語りが聞かれることがあり,また語り部にとっても聞き手に期待する反応が得られないことがあるということがわかった。本研究では,こうした対話のズレが見えるとき,それを「対話の綻び」と称することとし,その例を紹介する。ここでの「対話の綻び」とは,語り部の語りの中で,公的な震災のストーリーと私的な体験との間のズレが露呈することにより,語り部と聞き手の双方にとって互いが期待する反応を得られないことをあらわす。無論,語りは本来,公―私の軸のみに限定されるものではないが,ここでは公的なストーリーを発信する人と防災未来センターにおける,ボランティアの私的な語りに注目しているので,公―私に関わるものに注目した。その結果,対話の綻びは,震災を伝える障害となっているのではなく,聞き手に「震災が自分に起こりうるかもしれない」という偶有性を喚起する可能性があることを述べた。さらに,実践的な提言として,綻びを顕示し,偶有性を高め,伝達を促進する役割を担う媒介者(mediator)の導入の意義についても考察した。
  • 矢守 克也
    2007 年 46 巻 2 号 p. 198-210
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/05
    ジャーナル フリー
    本論文は,環境,医療,防災,福祉,土木など多くの分野で,専門家と非専門家(一般の人びと)との間の「対話」が重要視されている現状を踏まえ,新たな対話形態として「終わらない対話」というあり方を提示しようとするものである。まず,「終わらない対話」を実現しようとした具体的な試みとして,矢守・吉川・網代(2005)が開発した「クロスロード」と呼ばれるゲーミング技法について紹介した。次に,歴史的な意味でも論理的な意味でも,「終わらない対話」に先行する対話形式として位置づけることができる「真理へと至る対話」,「合意へと至る対話」の2つに言及し,これら2つの対話形式との異同を通じて「終わらない対話」の性質を明確化した。さらに,「クロスロード」を活用した防災実践活動における対話の特徴をルーマンのリスク論に依拠して考察し,「クロスロード」が「終わらない対話」に結びつく根拠を理論的に示した。最後に,「クロスロード」は,「終わらない対話」のみならず,上述の3つの対話形式をすべて包含した重層的な対話メディアであり,専門家と非専門家との対話には,今後,こうした重層的なメディアやアプローチが不可欠であることを指摘した。
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