自然災害科学
Online ISSN : 2434-1037
Print ISSN : 0286-6021
43 巻, 4 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
巻頭言
特集 阪神・淡路大震災の発生から30年を経て
  • 後藤 隆昭
    2025 年43 巻4 号 p. 737-747
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー
    阪神・淡路大震災以降30年間に,日本では大きな被害を受けるたびに経験と教訓を踏まえ災害対応のための法制度や行政組織の見直しを行ってきた。阪神・淡路大震災後は初動対応の迅速化や被災者支援の充実,都市型災害に対処するための復興まちづくり等に重点が置かれ,また東日本大震災後は特例的な復興体制や国土強靱化,公助の限界を補うための官民連携の促進が行われた。近年でも高齢者等多様な災害弱者に対応するためのきめ細かな被災者支援の充実が図られている。
  • 菅野 拓
    2025 年43 巻4 号 p. 749-758
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー
    「ボランティア元年」として注目された1995年の阪神・淡路大震災をきっかけとして,災害ボランティアセンターが制度化された。また,1998年に特定非営利活動促進法が成立し,先進諸外国から相当に遅れてサードセクターが叢生した。災害対応を行うボランティアやサードセクターは「ある地域にたまにしか来ない」という災害の特性から,災害対応以外の分野と異なる制度的発展を遂げた。また,ボランティアやサードセクターの災害対応は,ヒエラルキカルに対応する行政とは異なり,状況に合わせて対応を最適化させる「コーディネーション」を通して実施され,災害のたびにその仕組みを洗練させてきた。
  • 畑山 満則
    2025 年43 巻4 号 p. 759-769
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー
    伊勢湾台風を契機として1961年に制定された災害対策基本法では,「防災」を「災害を未然に防止し,災害が発生した場合における被害の拡大を防ぎ,及び災害の復旧を図ることをいう」と定義している。図1 に示すように災害対策基本法が施行されてから,1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災までは,千人以上の死者・行方不明者を出した災害は発生していない1)。つまり阪神・淡路大震災は,大規模な被害が出た災害において「被害の拡大を防ぐこと」「災害の復旧を図ること」をどのように実現するかについて,大きな課題を与えた災害といえる。特に,情報通信技術(Information Communication Technology:ICT)については,1961年から1995年までに大きな進化を遂げており,阪神・淡路大震災において,その可能性の一端を示している。本稿では,情報処理技術の進展と期待される災害対応への適用の可能性について解説する。
特集 第43回日本自然災害学会学術講演会スペシャルセッション
報告
  • 坂井 華海, 矢ヶ井 那津, 田中 尚人, 竹内 裕希子
    2025 年43 巻4 号 p. 775-787
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー
    熊本地震発災から6年が経過した熊本県では記憶の風化が懸念されている。他方,熊本地震の経験や記憶を継承する取り組みは,各自治体や大学等研究機関で企画・実施されている。この間,被災地域において被災者が震災のことを語る機会と語りの内容に変化はあったのか。本研究は,記憶の継承の手法の一つである語りに着目し,発災から7年が経過し記憶の風化が懸念されている熊本地震の被災地域において,大学が所有する災害に関する資料や研究成果のパネル展示とトークイベントを併せた災害アーカイブ展が被災者に対して語る機会や語りの内容に与えた影響を考察した。その結果,災害アーカイブ展が災害全体を見渡す視座を提供し,災害経験について新たに語る内容を掘り起こす機会を提供していることが明らかになった。
  • 横山 仁, 出世 ゆかり, 下瀬 健一, 鈴木 真一
    2025 年43 巻4 号 p. 789-801
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー
     2022年6月2日1700JST 頃から1900JST 頃に群馬県と埼玉県で激しい降ひょうが発生した。この事例について自治体や報道機関からの情報,学校等へのヒアリング,防災科研が運用する気象リポートシステム「ふるリポ!」等により,降ひょうの特徴と降ひょう被害との関係を調べた。当時,関東地方の上空は-15℃の寒気に覆われていた一方,相当温位が330 K 以上の比較的高い気塊が流入し,大気が不安定な状況にあった。降ひょう域は,群馬県高崎市から埼玉県熊谷市にかけて,北西から南東方向に長さ約70km,幅約17km の範囲であった。また,地上で確認されたひょうの大きさは最大粒径が1cm 未満のものから5cm 以上のものまであった。この降ひょうにより,人的被害(95人),住家・非住家被害(概ね2,325件),農業被害(少なくとも33億9千万円)のほか,車両被害などが発生し甚大な被害となった。人的被害が発生した地域では5cm 以上のひょうが確認されており,住家・非住家被害があった市町では3cm 以上のひょうが確認された。一方,農業被害は3cm 未満での地域でも発生していた。また,自動車のボディーのへこみは, 1cm 以上のひょうが降った地域で確認された。
  • 日野田 圭祐, 竹之内 健介
    2025 年43 巻4 号 p. 803-823
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー
    自治会には加入率低下や役員の担い手不足など課題がある。本研究は,聞き取り調査を通じて,地域の状況を把握すると共に,修正版グラウンデット・セオリー・アプローチを用いて,汁谷川プロジェクトの「その後」に着目し,自治会が主体となる防災活動の継続プロセスと地域への定着につながる取り組みのあり方を検討した。その結果,地域の関わりの希薄化,住民の意識や状況の多様化,責任追及の風潮によって合意形成や地域の活動が困難な状況で,関係者は「割り切り」によって取り組みを進めていた。一方で十分な合意形成ができず,取り組み上のトラブルや否定的な反応が生じた。継続には段階的な展開と負担軽減のための収束,近所の助け合いが必要であり,継続断念の要因には関係者の諦めや不満などが挙げられた。
論文
  • 鎌田 暉, 竹之内 健介
    2025 年43 巻4 号 p. 825-846
    発行日: 2025/02/28
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー
    ソーシャルメディアの普及も著しく進み,現代では個人が撮影したさまざまな大雨映像をよく見るようになった。しかし,その視聴者が水害リスクをどのように感じているのかは不透明である。本研究では,視聴覚条件を変化させた雨動画を利用して,雨動画の撮影条件,視覚条件,音響条件など視聴環境によって生じる視聴覚的刺激が雨感覚を変化させうるのかを調査した。結果,音の大きさ,音の高さ,映像内の明るさ,画面の大きさのそれぞれが雨感覚に影響することが認められた。その中でも音の大きさは雨感覚への影響が大きかった。また,条件により女性の方が男性より強い雨と感じる場合や若年層は刺激に敏感であるなどの特徴が確認された。本研究により,雨の再現性の議論だけでなく,雨動画の視聴を通じて,人間の雨の感覚特性についての議論が可能になることが期待される。
オープンフォーラム
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