自然災害科学
Online ISSN : 2434-1037
Print ISSN : 0286-6021
43 巻, S11 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
報告
  • 豊田 将也, 下山 雄大, 加藤 茂
    2024 年43 巻S11 号 p. 1-12
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,愛知県東三河地方の地域鉄道である豊橋鉄道における運行障害発生確率を算定することを目的に,過去の渥美線と市電における運行障害と台風データを組み合わせて解析した。さらにその解析結果を用いて,豊橋市に台風が襲来する前24時間時点において計画運休確率を算出するための推定式を構築した。構築した推定式は,雨起因による警戒基準超過確率の精度は61.3%,風起因による警戒基準超過確率の精度78.5%であった。また運休基準超過確率の精度は雨起因で58.2%,風起因で75.7%であった。雨起因による運行障害に対しては,推定結果に大きなばらつきがあり,使用したパラメータのみでは現象を捉えるのに不十分であることが示唆された。今後は暴風域半径などの新たなパラメータを追加することで,より精度の高い推定式の構築が可能になると考えられる。
  • 伊勢 正
    2024 年43 巻S11 号 p. 13-29
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
     本論文では,防災情報システムが十分に機能しない要因の一つとして,基礎自治体における入力作業員の不足に着目し,これを補うための実動機関からの情報共有について言及する。これまで,実動機関(消防,警察,自衛隊,海上保安庁)が把握した情報は,印刷物等により,都道府県や基礎自治体に個別に共有されてきた。このため,各自治体では,実動機関から得られた情報を,改めて防災情報システムに入力し直す必要がある。こうした状況を改善することを目的に,愛知県の防災訓練において実証実験を実施した。SIP4D(基盤的防災情報流通ネットワーク)に連接されている防災情報システムを各実動機関に提供し,防災情報システムにより情報共有する効果を検証した結果,実動機関からの直接的な情報共有の有効性,および課題が明らかになった。さらに,令和6 年能登半島地震において,上記の実証実験に用いたシステムを実動機関に提供し,その有効性を実証することができた。
  • 國澤 瑞樹, 飛田 哲男
    2024 年43 巻S11 号 p. 31-43
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
     2023年2 月6 日,トルコ南東部においてMw7.8,Mw7.5の地震が発生した。東アナトリア断層上に位置するGolbasi では,液状化による建物の沈下や傾斜などの深刻な被害が発生した。液状化による建物の不同沈下は去の地震においても報告されており,近接する建物の荷重による影響が指摘されている。本研究では,Golbasi を対象として浅い基礎を有する建物が近接している場合の不同沈下挙動について考察する。また,建物の基礎の根入れ深さや重量の変化についても検討した。検討の結果,隣接する建物の距離が近いと, 2 棟の荷重による地盤内応力が干渉することで,内側の沈下量が外側よりも大きくなるため建物が内側に向かって傾斜し, 2棟間距離が大きくなると相互干渉は小さくなるため傾斜角も小さくなる結果となった。
  • 田中 佑哉, 小柴 大樹, 宮本 尚輝, 照本 清峰
    2024 年43 巻S11 号 p. 45-59
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,想定される南海トラフ地震による激甚被災地域の地域住民を対象として,災害発生後の支援物資の調達と物資需要の認識を明らかにすることを目的とする。支援物資の対応に関する地域住民の期間の感覚を把握するとともに,属性間の物資需要の違いにも着目して分析する。南海トラフ地震による大規模災害への備えに関する住民の方々の考えを把握することをねらいとして,質問紙調査を実施した。調査対象地域は和歌山県印南町切目地域内にある南海トラフ巨大地震の浸水予想範囲に含まれる地区であり,同地区に居住する全世帯を対象にしている。調査票は印南町役場から各地区の区長を通じて全世帯に配布し,郵送によって回収した。調査実施期間は2023年10月27日から11月28日である。質問紙調査票の配布数は674票であり,有効回答数は238票(有効回答率35.3%)であった。本研究の成果として,物資の需要については食料に次いで携帯トイレ・簡易トイレ,トイレットペーパーが続いておりトイレに関連する需要は高いこと,世帯属性として通院の有無の比較では,大人用おむつと食事用の用具の項目で,通院の必要性の高い属性で需要の割合が高いこと等が示された。
  • 中丸 和, 伊藤 駿
    2024 年43 巻S11 号 p. 61-72
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
    本稿は,学齢期の子どもとその家庭が災害時に直面する困難を明らかにすることを目的とし,被災地域に住む保護者に対して特に災害直後に関して実施したインタビュー調査のデータを分析した。その結果,発災後は保護者と子どもの距離が接近したり,子どもの居場所がなくなったりすることによる困難が生じていた。具体的には,保護者は精神的負担の増加のほか復旧作業の進行に困難を感じていたことに加えて,子どもは遊ぶ権利が侵害されていた。また,保護者が子どもと長時間ともに過ごさざるを得ない状況となることは,保護者が子どもと余裕をもって接する時間を創ることも難しくしていた。最後にそうした困難を軽減するための支援方策として,子どもの居場所に着目して考察を行なった。子どもが保護者の手から離れることができる託児機能や,周囲の目を気にすることなどによる制限がない遊び場の機能が災害時の子どもの居場所には求められることを指摘した。
  • ラーオスンタラー アンパン, パッタヤーウィ ナップラウィー, 大橋 匠
    2024 年43 巻S11 号 p. 73-86
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,日本在住タイ人の防災アプリダウンロード行動の要因を,構築主義的グラウンデッド・セオリーアプローチを用いて質的に探究したものである。在住タイ人10名に対する半構造化インタビューを通じて,防災アプリ採用行動のプロセスを詳細に分析した。分析の結果,在住タイ人の防災アプリ採用が,個人の災害意識や自己効力感だけでなく,コ ミュニティ内の相互作用や社会的影響によって促進されることが明らかになった。特に,防災教育や災害経験,コミュニティや職場の役割が重要であり,タイ人コミュニティの特性が防災情報の受容や行動に影響を与えていることが示された。また,ソーシャルメディアのインフルエンサーや企業の規制など,外部の影響がダウンロード行動を駆動する可能性が示唆された。さらに,日本語能力の向上に伴い多言語防災アプリへの依存度が低下する傾向が確認された一方で,個人の属性や言語的バリアが防災情報へのアクセスや理解に影響を及ぼすことも明らかになった。これらの知見は,災害準備の社会的認知的モデルを在住外国人の防災行動の文脈で発展させたものである。本研究は,在住タイ人の防災アプリ採用行動を多面的に理解するための理論的基盤を提供すると同時に,アプリ普及に向けた実践的示唆を与えるものである。今後の展望としては,他の外国人コミュニティでの検証,アプリの継続的な使用や実際の災害時の活用の検討,属性による差異の分析,非採用者の行動原理のさらなる解明などが挙げられる。本研究の知見を基盤として,在住外国人の防災情報へのアクセス改善と,より安全な社会の実現に向けた包括的な防災対策の構築が求められる。
  • 紅谷 昇平, 折橋 祐希, 柴原 洋平
    2024 年43 巻S11 号 p. 87-100
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
    突然発生する災害時,自治体が災害対策本部を速やかに設置し,効果的に対応するためには,平時からの訓練が重要である。しかしながら,訓練の企画・実施に求められる専門知識やマンパワーの不足により,災害対策本部の運営訓練が実施されていない自治体も多い。本稿では,大学と自治体が連携し,水害を想定した災害対策本部運営訓練を実施した丹波市の事例を紹介する。本事例の訓練の企画から実施に至るプロセスや体制,状況付与作成や訓練ルール,訓練評価手法等は,災害対策本部運営訓練を計画する他の自治体にとって貴重な参考資料になる。
  • 渡邉 勇, 佐藤 翔輔, 今村 文彦
    2024 年43 巻S11 号 p. 101-112
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
    東日本大震災の被災地では,多様な主体により多様な内容・方法で震災伝承の取り組みが行われている。本研究は,来訪者の特性に応じた効果的な被災地訪問学習を明らかにするために,来訪者の防災力と訪問目的によって来訪者を4 つにセグメント化し,防災行動変容に効果的な学習内容・体験内容を明らかにすることを目的として,質問紙調査および分析を行った。その結果, 1 )震災遺構の内部や震災前の町並みが更地になっている様子の見学と,語り部・ガイドの話を聞くことが多くのセグメントで共通して効果が高いこと, 2 )訪問前の防災力が低く震災学習を目的としていない来訪者では被災地の人々との交流が最も効果が高いことなどが明らかになった。
  • 佐藤 史弥, 孫 鵬飛, 秦 康範
    2024 年43 巻S11 号 p. 113-126
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
     本稿では,富士山噴火に伴う溶岩流からの徒歩避難に関する基礎的検討として, 1 .噴火後の時間経過毎の溶岩流の曝露人口の試算, 2 .溶岩流からの徒歩避難の安全性評価手法の構築,3 .構築した評価手法に基づく避難シミュレーションを行った。これらの分析結果に基づき溶岩流から徒歩で安全に避難するための方策について考察した。分析の結果,噴火から3 時間経過した時点での曝露人口は,最大で約2,000人となった。また,避難困難人口は避難開始時間が75分の場合に,最大で約800人発生する結果となった。一方で,避難開始時間が45分の場合は,75分のケースに比べて避難困難者が少なくなった。このことから,溶岩流から徒歩による安全な避難を実施するためには,避難開始時間を短縮することが重要であることが示された。
論文
  • 梶川 勇樹, 田中 基, 黒岩 正光
    2024 年43 巻S11 号 p. 127-140
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,津波の海岸堤防越流に伴い発生する裏法尻での局所洗掘現象に対し,従来著者らが河川分野で開発を進めてきた堰下流部における局所洗掘現象を対象とした数値解析モデルの適用性と,掃流砂に対する平衡および非平衡流砂モデルの違いが当該現象の再現性に及ぼす影響について検討した。その結果,本解析モデルは堤防越流流れおよび流況の移行を繰り返しながら洗掘が進行する様子を良好に再現できることを示した。また,平衡流砂モデルでは法尻直下に深掘れが発生するのに対し,非平衡流砂モデルでは実験同様の基礎工上面から延びる滑らかな洗掘孔形状を再現できることが分かった。さらに,越流水深が大きく,浮遊砂が卓越する場合の当該洗掘現象の再現には,浮遊砂浮上量式にかかる係数が大きく影響していることも明らかにされた。
  • 石原 凌河, 北村 泉帆
    2024 年43 巻S11 号 p. 141-155
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,学校防災教育における手紙を媒体とした防災教育実践について報告するととも に,読み手に防災教育の学びを伝達する意義と,手紙を媒介とした防災の取り組みを実践する 意義について考察した。その結果,児童が書いた手紙には,防災教育出前授業で学習した内容 だけではなく,災害時にも児童が主体的に行動しようとする意志や,手紙の読み手への防災対 策を呼びかけようとするメッセージが含まれていることが示唆された。防災教育出前授業が実 施され,児童が授業でどのようなことを考えたのかという程度は手紙を媒介にして読み手に伝 えられる可能性が高いことと,手紙を通じて書き手から防災への呼びかけが行われることで, 読み手の日常的な防災・減災に関する心構えや取り組みを内省・再考する機会につながること が推察された。
  • 富澤 周, 関谷 直也
    2024 年43 巻S11 号 p. 157-177
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
    活動火山対策特別措置法における火山防災協議会の前身となったのは,昭和42年に熊本県の阿蘇山周辺に設置された阿蘇火山防災会議協議会である。同協議会は,防災計画の中で測候所の情報に対応した立入規制の判断基準を定め,現在の火山防災協議会を中心とする火山災害対策の原型となった。本研究は,阿蘇山周辺において地方公共団体を中心とした協議会の枠組みの形成過程に着目し,火山情報に対応した立入規制基準を予め定める火山災害対策がどのように形作られたのかを明らかにすることを目的とする。その結果,度重なる火山災害の発生を受けて対応を検討する中で,山上に関わる関係機関が協議会という場で相互に対立・衝突し,対策の強化に至ったことが分かった。
  • 埜﨑 信佑, 鈴木 善晴, 西山 浩司, 相馬 一義
    2024 年43 巻S11 号 p. 179-191
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,複数の実施条件を考慮したSCALE-RM による豪雨抑制シーディングに関する数値実験を実施した。シーディング実施時間や高度,領域等において様々な条件下での豪雨抑制効果について評価を行い,WRF を用いた先行研究とのシーディングによる豪雨抑制効果の比較を行った。その結果,シーディングの実施によって最大積算および時間最大降水量が減少し,ピーク時の抑制効果が確認できた。特に2段階でシーディングを実施したケースで最も大きな抑制効果を得ることができ,抑制メカニズムの解析を行った結果,上昇流の弱化と霰の成長抑制という2つの異なるメカニズムが組み合わさることで豪雨抑制効果が高まることが確認された。また,それらの抑制効果は,WRF を用いた先行研究の結果と概ね一致しており,シーディングによる豪雨抑制効果の信頼性に寄与する結果が得られた。
  • 佐野 遼佑, 鈴木 善晴, 西山 浩司, 相馬 一義
    2024 年43 巻S11 号 p. 193-206
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,線状対流系豪雨に対するPinpoint Seeding の有効性について検討するため,領域気象モデルWRF を用いて複数の実施条件における降水抑制効果に関する数値実験を行った。シーディング手法や実施条件の違いによる抑制効果の差異について検討を行った結果,上昇気流の強いグリッドを抽出しそのグリッドのみにピンポイントに実施することで最大積算降水量が約16.5%抑制されることや,シーディングの継続時間や実施高度が抑制効果に与える影響を明らかにした。また,シーディングによって氷晶や雪が成長することで過冷却水滴が減少し霰の成長が抑えられるオーバーシーディングにより降水が抑制されるメカニズムを確認した。
  • 高田 歩武, 髙木 朗義
    2024 年43 巻S11 号 p. 207-221
    発行日: 2024/10/15
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
    これまで住民避難行動に対して多様な視点から分析が行われているが,豪雨災害による犠牲者は後を絶たず,住民避難に関する課題は依然として解決しているとは言い難い。筆者らは新たな試みとして,XAI(説明可能なAI)を用いて住民避難行動の要因分析を行っているが,行動モデルの推定精度などに課題を残している。また,これまでの住民避難行動分析では,ある一要因が避難行動に影響を与えるのかどうかを明らかにすることが多い。本研究では,アンケート調査データを画像データに変換し,畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて住民避難行動モデルを構築することで,予測精度を向上させた。また,画像認識技術におけるXAI の一手法であるGrad-CAM を用いることにより,豪雨災害時における住民避難行動の要因分析を試みた。その結果,信頼している人からの避難情報の取得という取得手段,防災に関する情報の深い理解,非常用持出品の準備や家族との話し合いという災害前の準備にあたる要因の組み合わせが災害時に避難行動に影響を与える要因として明らかとなった。
feedback
Top