自然災害科学
Online ISSN : 2434-1037
Print ISSN : 0286-6021
43 巻, 1 号
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巻頭言
特集
速報
  • 豊田 将也, 皆見 怜央, 春山 和輝, 池田 拓史, 下山 雄大, 長内 悠真, 松田 達也, 加藤 茂
    2024 年43 巻1 号 p. 19-27
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/11/14
    ジャーナル フリー
    本報告は令和5年6月2日に愛知県東三河地方において発生した大雨災害に関する調査報告である。アメダス豊橋における24時間の積算降水量は418mmとなり,統計史上最大の降水となった。豊橋市では線状降水帯情報が発表された14時過ぎから雨が強まり,16時半頃に2本の二級河川が氾濫したことで,周辺地域に浸水被害が発生した。6 月3 ・4 日に実施した現地調査により,推定浸水範囲は,柳生川では約5.5 ha,梅田川では約50haとなることが明らかとなった。また柳生川では,周囲よりも地盤高が低い地域に水が流れ込んだことで,最大浸水深は84cmに達していたことがわかった。河川堤防に関する調査の結果,堤体の損傷等は見受けられず,堤防による被害軽減効果が大きかったことが推測された。
報告
  • 牛山 素行
    2024 年43 巻1 号 p. 29-45
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/11/14
    ジャーナル フリー
    2021年7月3日に静岡県熱海市の逢初川で土石流が発生し,死者・行方不明者27人の人的被害が生じた。この被害は, 1箇所で発生した土砂災害による犠牲者数としては1982年以降で最大となった。同程度の犠牲者が生じた5つの土砂災害事例と比較したところ,逢初川の斜面勾配は他の事例と同程度で,流出土砂量も他の事例に比べ特に多くはなかった。逢初川では,他の事例に比べ急勾配が長く続いているところに家屋が密集していた。これが多くの人的被害を 発生させた要因として考えられる。一方逢初川では,倒壊した家屋数に対する犠牲者数は少なかった。この背景としては次のようなことが考えられる。1 )避難の呼びかけが始まっていたこと, 2 )昼間だったので人々が行動しやすかったこと, 3 )昼間だったので外出していた人もいたこと, 4 )人が住んでいない家屋が一定数あったこと。
  • 松原 悠, 矢守 克也
    2024 年43 巻1 号 p. 47-57
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/11/14
    ジャーナル フリー
    本報告は,大規模災害からの復旧・復興期に「何を」「いつごろ」実施すべきかに関する人々の時間感覚である「発災からのタイムライン(Post-Disaster Timelines,以下PDTs と略記)」について,愛知県において実施された先行研究の成果を踏まえて,同様の調査を日本国内の他地域(三重県と高知県)においても実施し,愛知・三重・高知の3 県のPDTs の比較分析を行ったものである。その結果,愛知県においては,三重県や高知県と比べて災害発生後の様々な社会活動が,全般的により早期に実施すべきとされることがわかった。また,愛知県においては他県と比べて住民の属性によるPDTs の差が大きいことも明らかとなった。この理由としては,愛知県の産業構造が日本経済全体と密に結びついていることが影響していることが示唆された。3県を比較した際には,地理的に隣接している愛知県と三重県のPDTs が似ているのではなく,むしろ,三重県と高知県のPDTs が似ていることがわかった。以上は,複数の都道府県にわたるような広域災害の発生時に,各都道府県のPDTs の特徴を考慮しながら復旧・復興プロセスを進めていく必要性を示唆するものである。
  • 中村 智行
    2024 年43 巻1 号 p. 59-74
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/11/14
    ジャーナル フリー
    青森県風間浦村では,2021年8月の豪雨により,土砂災害の可能性が非常に高くなったことから全域に「避難指示」を発表した。この事例では,人的被害は発生しなかったが,致命的な災害が十分に考えられたことから,全世帯を対象としたアンケート調査等を実施し,避難行動の特徴を明らかにするとともに,土砂災害に対する潜在的な人的被害の可能性を検討した。その結果,住民のとった行動は, 4つのタイプに分類することができた。特に,「下風呂地区」では,今後も土砂災害の可能性が非常に高くなったとしても, 3分の1近くの住民が立退き避難しない可能性が高い。そのため,土砂災害に対する人的被害の可能性は「非常に高い」と評価された。今後は,住民の経験バイアスを取り除く防災教育が急務である。
  • 保田 真理, 邑本 俊亮, 齋藤 玲
    2024 年43 巻1 号 p. 75-86
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/11/14
    ジャーナル フリー
    保田他(2021)は,防災出前授業の効果の持続性は,沿岸部の小学校で限定的に認められることを報告しているが,県の違い(福島・宮城)については分析されていなかった。本研究では,両県の違いを明確にするために,保田他(2021)のデータの再分析を行った。その結果,授業前の児童の防災意識は内陸部よりも沿岸部で高く,福島沿岸では防災学習意欲や学習内容を家族に伝えたい気持ちが,宮城沿岸では災害時の避難行動に関する意識や自信が高かった。福島沿岸では自然災害発生リスク評価が授業後から1 か月後にかけてさらに上昇し,宮城沿岸では防災意識の多くの側面が1 か月後にも持続していた。授業後に家庭でなされた話し合いや防災行動の数も沿岸部の方が内陸部よりも多かった。
  • 山本 晴彦, 古場 杏奈
    2024 年43 巻1 号 p. 87-124
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/11/14
    ジャーナル フリー
    2022年9月23日夜遅くから24日明け方にかけて,静岡県中部では猛烈な雨となり,静岡(地方気象台)では最大12時間降水量が404.5mm となり,観測史上第1 位の記録を更新した。また,最大24時間降水量も1974年の七夕豪雨により観測され508.0mmに次ぐ第2 位の記録(416.5mm)となった。本豪雨により,静岡市の清水区では巴川と支流で外水・内水氾濫が発生し,市内での浸水被害は5 千棟弱に達した。筆者らが実施した約1,150か所の浸水深の調査に基づいて作成した浸水深図から,洪水浸水想定区域図(計画規模)と浸水範囲がほぼ一致した。鳥坂・大内,渋川の地区では最大で250cm 弱の浸水深を記録したが,1974年の浸水深を下回った。その一方で,大内,堀込,上の地区では両者の差異が10cm 前後で,七夕豪雨に近い浸水深に見舞われていた。
論文
  • 伊藤 圭祐, 牧 紀男, 立木 茂雄, 佐藤 翔輔, 松川 杏寧
    2024 年43 巻1 号 p. 125-136
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/11/14
    ジャーナル フリー
    本研究では,復興事業区域に自力再建する被災者について,行政が実施する復興事業を利用して自力再建する人には,類型Ⅰ:復興魅惑型,類型Ⅱ:高齢-健康不安型,類型Ⅲ:地域愛着型,類型Ⅳ:充実した人間関係という4 つのグループに分けることができることを明らかにした。また,類型Ⅰおよび類型Ⅲが復興事業区域に自力再建する被災者の約86%を占めている。類型Ⅰは,復興事業の進め方によっては,元々土地区画整理事業や防災集団移転促進事業が実施された地区に居住していたにも関わらず,こういった事業を利用せず別の地域で自力再建した層を取り込むことができることの可能性を示している。類型Ⅱは「こころとからだの健康」が,類型Ⅳでは「人とのつながりの豊かさ」が突出していた。
  • 和泉 征良, 中西 一宏, 久保 裕基, 永谷 言, 小島 裕之, 角 哲也
    2024 年43 巻1 号 p. 137-153
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/11/14
    ジャーナル フリー
    近年,日本国内では,計画規模を上回る洪水の発生頻度が増加傾向にあり,増大する災害外力への対応が逼迫した課題である。本研究では,全国一級水系を対象に水系内を細区分したサブ流域を設定したうえで,サブ流域単位毎に,治水施設としてダムのみでなく,農業用ダム,既存の遊水地・ため池,水田貯留を考慮した既存貯留能力を算定し,これに基づき水系全体の貯留能力を評価した。その結果,複数の仮定条件下ではあるものの,流域治水対策による貯留能力を相当雨量評価で整理し,全国マップを作成することにより,国内の水系を同一尺度で評価することを可能とした。今後,本研究で作成した全国マップが新規ダムサイト候補地の選定等,数多くのシーンで活用されることを期待する。
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