第7巻3号特集「デジタルアーカイブの未来と沖縄」の企画主旨(昨年の大会との連続性)と問題提起、および各論の紹介。
女性の手にイレズミを施し、それが、『女性のあこがれの象徴』だった。そんな普通の日々が、ある日を境に、180°逆転し、悪と化してしまった。入れているものは警察に検挙され、入れていることに恥ずかしさを感じるようになった。1899年(明治32年)に禁止令が発令され、沖縄の女性の手からハジチが消滅した。その沖縄の失われた文化について、デジタルアーカイブの必要性を考える。
党派を超えて沖縄の民衆から愛された政治家、瀬長亀次郎(1907-2001)。彼が残した手記や文書など、膨大な資料の保存・公開活動を行う資料館「不屈館:瀬長亀次郎と民衆資料」の10年にわたる取り組みと「民衆資料」の重要性について、館長・内村千尋(亀次郎の次女)が語る。
沖縄県立図書館では、2018年度からルーツ調査、移民資料の調査・収集、企画展示などの沖縄県系移民に関する事業を実施している。主な事業の対象は、北米や南米にある海外沖縄県人会及び県系人である。デジタルアーカイブを活用した「沖縄県系移民渡航記録データベース」「移民資料収集」の取り組みを紹介し、地理や言語の壁を越えそして過去と現在を繋ぎ、沖縄と世界のウチナーネットワークの再構築を目指す当館の取り組みを紹介する。
沖縄最古の木造劇場の首里劇場の調査報告。建築、演目リストなど様々な専門家を集めて行った。今後はデジタルアーカイブとして公開予定。
デジタル知識の構築や循環を持続的なものにするためには産業化の視点がかかせない。そのためには、DAに関する多様な活動や技術を共有し、さらにはDA産業化に関する活動・課題の鳥瞰図が必要である。このような動機から、2022年度から月1回のペースで開催しているDAショートトークの概要について述べる。
産業とデータ・コンテンツ部会が開催するDAショートトークを開始してから一年が経過する。DAショートトークの特徴は、毎月の定期開催と発表動画のアーカイブ配信である。一年を経て、運営方法については定形化され、準備から開催までスムーズに進めることができるようになってきた。筆者らは、事務局として発表者との連絡やアーカイブ配信、ウェブサイトの運用を担ってきた。本稿では、リモートミーティングを中心とする運営と、既存のウェブツールの利用によって実現したDAショートトーク運営の手法について共有を行う。本稿による運営手法の共有が、デジタルアーカイブ振興に関わる諸活動の一助になることを願う。
デジタルアーカイブ(DA)は公共財的な側面と私的財な側面を持つ混合財であり、関係者のバックグランド・視点も多様である。講演会・議論を通して情報共有と相互理解を熟成するために開催してきたDAショートトークの内容から、テキスト分析の手法でDAの産業化における諸課題を抽出し、二次元マップとして提示することを試みた。この結果を広く公開するため、部会のウェブサイトに掲載して各DAショートトークをマップ上に配置し、さらに発表資料アーカイブへの動線機能も持たせた。DA産業化マップを通じてショートトークが共通の議論のプラットフォームとして活用されることを期待し、その取り組みを報告する。
視聴者の感想を整理することで、DAショートトークの視聴者満足度の高さと、多岐にわたる講演要望からニーズの高さを再確認できた。一方でこれまでの集客方法による参加者拡大の難しさや、アーカイブ公開している動画の活用が少ないという反省点もあり対策を検討・実施していく。さらに、研究者と産業界のコラボレーションを促す施策も取り入れ、新たな活動も開始していくことを計画している。
神戸大学附属図書館震災文庫では、阪神・淡路大震災直後のサンテレビ震災関連映像を、2021年1月から4回にわたって、公開用動画1件、素材映像189件を公開している。公開の障壁となってきた肖像権について、デジタルアーカイブ学会「肖像権ガイドライン」を参考に判別をおこなった。作業は、人文学研究科教員たちが一コマずつ映像を確認し、その後サンテレビ、震災文庫、神戸大学人文学研究科の三者での検討会で協議を経て公開にいたった。阪神・淡路大震災から28年経た。今回の検討の結果、ガイドラインを利用して丁寧にポイント計算していけば、ほとんどの映像の肖像権による壁は越えうることがわかった。今後は、阪神・淡路大震災被災地共通のポイントのあり方を考え、災害アーカイブに適したガイドラインの作成が課題である。
本稿ではデジタルアーカイブ資料の活用を促進する二次利用条件のあり方を提示する。まず、ジャパンサーチとADEACを対象として資料の二次利用条件を調査する。その結果、それぞれ38.9%、57.9%のアーカイブで活用の阻害要因となる条件が設定されていることが確認された。この課題をふまえ、資料公開機関と教員による教材化ワークショップを実践する。その結果、酒田市の事例では、学校利用が制限なく可能な条件に変更された。以上より、1. 多くのアーカイブで活用の阻害要因となる二次利用条件が設定されていること、2. 資料公開機関とユーザが活用を基盤とした連携を行うことで資料のオープン化を推進できる可能性が示唆された。
近年、公立図書館ではサービスの多様化に伴い、デジタルアーカイブへの取組みが加速している。公立図書館では、既に体系的に整理されたコレクションをデジタル化することが一般的である。筆者が所属する静岡県立中央図書館では1998年にデジタル化資料を初めてウェブサイトで公開し、2010年からデジタルアーカイブを提供した。当該デジタルアーカイブの変遷を振り返り、事例報告を行う。また当該事例をもとに、静岡県立中央図書館がデジタルアーカイブを継続した理由を検討する。
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