2018年4月にわが国6番目の国立美術館組織として誕生した国立映画アーカイブについて、組織の構造と名称の由来を述べ、映画フィルムの収集に関する“網羅的”な原則とそれを実現するための多年にわたる努力、対象となる自国映画遺産の巨大な量などを論じる。また、映画保存の観点からフィルムアーカイブに相応しい上映番組の在り方や、コレクションの利活用に関して期待されるデジタル・アーカイビングの方向性について分析し、世界のアーカイブ・コミュニティで、復元の倫理を逸脱するものとして問題視されている“スーパーエンハンスメント”についても短く言及する。
いま多くの貴重な記録映画が消失の危機にさらされている。製作会社の倒産により、フィルムの廃棄や散逸がはじまっている。フィルムの劣化も急速に進みつつある。2008年にスタートした記録映画アーカイブ・プロジェクトは、こうした記録映画の収集・保存とその利用・活用を進めてきた。本論では、この記録映画アーカイブ・プロジェクトの10年間の歩みを振り返り、今後の課題と展望を明らかにする。
「映画の復元と保存に関するワークショップ」も2019年には14年目になる。この間に、「アナログ」から「デジタル」へ、映画製作や上映を取り巻く環境も大きく変わってきた。過去に、サイレントからトーキーへ、ナイトレートからアセテートへと、映画の歴史を見ても、規格が変った時に、過去のソフトは失われている。この点を危惧する思いで、ワークショップを提案した。120年以上の歴史を持ち、世界で唯一の共通規格である35mm映画フィルムは膨大な量の映像遺産を残した。それをどのように生かすのか。「ビネガー・シンドローム」、「デジタル・ジレンマ」の問題を抱え、山積する難問は多い。この「ワークショップ」を多くの人たちの情報交換の場と考えている。
新潟大学の研究プロジェクト「にいがた 地域映像アーカイブ」は、地域の町や村と連携しながら、新潟を中心とした地域の生活のなかにある映像を発掘して、整理・保存を行い、デジタル化をし、さらには、その内容を整理、分析し、映像メディアの社会的あり方を考え直し、新たな社会の文化遺産として映像を甦らせるものとして構想された。地域のデジタル映像アーカイブは、デジタル化という現在の大きな社会変容のなかで、機能しなくなった研究状況を打破する装置であり、地域の時間層へのボーリング調査によって、社会変容の基層にあるものが何なのか、デジタル化することによって再帰的に実証し、地域そのものをブーツストラップ(編み上げ直す)するものだ。
欧州は映画発祥の地でもあり、各国に独自の映画アーカイブが存在する。ここでは文献調査と面談により、英国、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、オーストリアの映画アーカイブの歴史と現状についてまとめた。
フィルムアーカイブにおける映画の復元と保存のミッションを、1)ソース(復元の元になるオリジナル素材)の保存 2)ソースの復元 3)複製物の保存 の3点に整理し、アナログ・デジタル両面について論じる。その上で、LTO (Linear Tape-Open)を用い、デジタル・マスター等をオフラインで長期保存する際に生じるマイグレーションの困難を、デジタル・ジレンマの具体例として示し、アナログ保存とデジタル復元のハイブリッドによる当面の解決策を紹介する。
本稿では、2019年6月11日に千代田区立日比谷図書文化館において開催された「アーカイブサミット2018-2019」の概要を報告する。同サミットでは、これまでの成果と課題に関する基調講演、異なるテーマの3つの分科会、有識者・専門家によるラウンドテーブル等が行われ、活発な議論が交わされた。2015年にスタートしたアーカイブサミットは、我が国におけるアーカイブ及びデジタルアーカイブの現状や課題等について議論すると共に、民産学官の関係者を横につないでいく機能を果たしてきた。しかし、デジタルアーカイブ学会の設立等の環境変化に対応し、位置付けを再定義すべき時期に来ている。
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