デジタルアーカイブ学会誌
Online ISSN : 2432-9770
Print ISSN : 2432-9762
7 巻, s2 号
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第8回研究大会予稿
一般研究発表
セッションA1
  • 松本 淳
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s39-s42
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    新潟大学アニメ・アーカイブ研究センター(ACASiN)は2016年から、アニメ演出家渡部英雄氏から管理・保存を任されたことを契機に、1980年代の作品を中心としたアニメーション原画、絵コンテなどのデジタル化、アーカイブ化を進め、「アニメ中間素材オンライン・データベース(AIMDB)」として閲覧者を限定したオンラインアクセスを提供している。筆者はこのデータベースを用いて進められている科学研究費助成事業基盤研究(B)『「アニメ中間素材」の分析・保存・活用モデルケースの学際的研究』に参加しており、2022年2月にProduction I.Gでアーカイブを推進する山川道子氏と、東映アニメーションでシニアプロデューサーを務める野口光一氏に、本データベースを試用頂いた上で、実務家としての所感を伺った。本稿ではアニメにおけるアーカイブの意義と、ヒアリングから抽出された可能性や課題について述べる。

  • 毛利 仁美, 福田 一史, ジュヒョン シン
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s43-s46
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    国内におけるビデオゲームアーカイブに関連する研究では、その保存や情報組織化といったトピックが活発であるが、展示以外の利用・提供に関する研究は数少ない。そこで本研究では、調査や学術活動の支援に資するゲームアーカイブの検索・提供サービスのあり方、利用を通じたアーカイブの機能について探索的に検討するという目的のもと、立命館大学ゲーム研究センターの所蔵資料を用いたゲームアーカイブの提供サービスを実施した。本発表では、提供サービスにおいて実施された質問票調査やレファレンスカウンターの対応記録等より分析された、ユーザの利用状況や資料探索行動、オンライン目録サービスの評価を報告する。

  • 福田 一史, 北島 顕正, 井上 奈智
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s47-s50
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    近年、多くのボードゲームが制作・頒布されるようになった。しかし、これらゲームは未だ図書館など既存のアーカイブ機関のスコープには入っておらず、すでに多くのゲームが失われつつあり、保存スキームの構築が急務である。本研究では、そのような背景を踏まえ2022年に設立された一般社団法人アナログゲームミュージアム運営委員会による、所蔵品検索システムの開発を軸として、その資料の整理・記述・デジタイズ・アクセス提供といった施策について述べる。 同機関はゲームユーザの集合で成り立つ自律的でグラスルーツ型の組織であるため、低コストな事業推進が一つの命題となる。そのために如何に低コストで効果的なアクセス提供が可能となるか、そのための効率的なフロー構築について集中的に検討と試行をすすめてきた点に特徴がある。 本施策を通じて明らかになったノウハウや課題を整理することで、メディアを介在した地域に限定されないコミュニティのためのアーカイブ構築の方法論への知見を整理する。

  • 二重作 昌満
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s51-s54
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、国民のレジャー活動の推移を検証するレジャー・レクリエーション研究の視点から、円谷プロが約60年に渡り大衆的に発信してきた特撮映像作品(全98作品、全2063話)に焦点を当て、各時代を生きる子ども達がどんな遊びをし、変化する時代背景によって日本の子ども達のレジャー活動はどう多様化していったのか、その変遷について悉皆調査及び作品関連資料の分析による検証を実施した。その結果、約60年に渡り発信されてきた円谷プロの特撮映像作品における子ども達のレジャー活動は変遷を遂げており、当初は複数の子ども達が空き地等で行なう外遊びが主流だったものの、時代の推移と共に空き地や道路といった特定の場所で遊ぶ描写が減少していったほか、教育ママや学習塾による束縛を理由に悩む子ども達、さらには家庭用コンピュータや携帯電話といった新メディアの普及による子ども達のコミュニケーションの変化等が描写されてきたことが確認できた。

セッションB1
  • 前川 道博
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s55-s58
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    dコモンズプロジェクトは地域デジタルコモンズのクラウドサービスとなるd-commons.netを研究開発し、地域資料のデジタルアーカイブ化、地域づくり活動、地域学習などの包摂的な支援に役立ててきた。そこから導き出されたデジタルアーカイブの課題は、(1)オープンプラットフォームの構築、(2)DX社会に対応できる人材育成である。

    本研究では、地域デジタルアーカイブの構築・運営に「地域デジタルコモンズ」モデルをどう適用するかを示す。知識循環の促進には旧来の「デジタルアーカイブ」モデルでは限界があること、当初からオープンプラットフォームを導入することによりどの地域、機関においても誰でも平易に、フラットに、かつ低コストで運営できること、技術革新が進むメディア環境の変化過程においてはなおのこと、オープン性が必要であること、そのプロセスの共有が各地の人材育成の支援策となることを示す。

  • 川嶌 健一, 中村 哲士, 森 伸, 相田 雅人, 小林 智洋, 池畑 木綿子, 坂井 綾子
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s59-s62
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    新石川県立図書館基本構想では、図書の貸出や閲覧機能だけでなく、公文書館機能・生涯学習機能を一体的に備え、石川が誇る多彩な伝統文化などの「石川ならではのコレクション」を収集・活用することを定めている。開館と同時に公開した資料検索サイトSHOSHO ISHIKAWAは、石川県立図書館が所蔵する100万点以上の資料の検索を提供するだけでなく、デジタルコレクションの管理と公開も担う。SHOSHO ISHIKAWAは公共図書館のリソースによって継続的に運用できることを条件として、地域における資料の発見と利活用機会の最大化を図るデジタルアーカイブとして構築した。手法としては、独自のデータセットを活用した検索サービスや、資料のキュレーション等、図書館員自身の手で効率よく運用するためのデータ構造と機能性の実現に加えて、運用上は図書館のリソースに依らない、機械学習を用いた資料のレコメンドなど、デジタル変革の試みを合わせて用いた。本稿ではその実現について報告する。

  • 榎本 千賀子, 櫻澤 孝佑
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s63-s66
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    自治体連携は、小規模自治体がデジタルアーカイブ(以下DA)構築に取り組む上での障壁となるノウハウやリソースの不足を補い、事業の効率性と効果を高める方法と期待される。しかし、自治体連携によるDA構築の事例はまだ少なく、同方法の課題と可能性は十分に検討されていない。そこで本発表では、福島県奥会津地方の広域7町村(柳津町・三島町・金山町・昭和村・只見町・南会津町・檜枝岐村)によるDA構築の試み「奥会津デジタルアーカイブ準備室」の実践紹介を通い、自治体連携型DA構築の検討の出発点としたい。

    全国有数の豪雪地帯という環境と旧南山御蔵入領としての文化・歴史、電源立地としての共通利害で結ばれた7町村によるDA構築は、同地域の文化資源管理全体の基盤整理事業として期待される。しかしその実現には、議論の基盤となる共通認識の醸成、意思決定過程の明確化、作業の徹底した省力化、データ作成・保管環境の整備等の課題が残されている。

  • 佐藤 忠文
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s67-s70
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    自治体広報写真とは「自治体が広報活動のなかで撮影・収集及び管理してきた写真資料全般」である。この写真は主に広報紙制作のために撮影されてきたが,地域社会を継続的かつ組織的に撮影してきたという意味で貴重な写真資料のひとつと考えられる。本研究ではこの自治体広報写真の被写体に注目する。近年,文化情報資源の視点からこれらの写真のデジタルアーカイブ化や二次利用が進められている。しかしこの写真が,どのような特徴を持った写真であるかを明らかにする試みはほとんどない。そこで本研究は,2019年度に発行された福岡県内の自治体広報紙を対象に,その掲載写真の被写体を調査した。調査は広報紙のPDFファイルから写真を入手し,被写体を分析した。その結果,自治体広報写真は「人物を撮る写真」であると示唆され,関連して過半数の写真が肖像権処理の対象になり得ることが示唆された。

セッションC1
  • 田中 駿平, 奥野 拓
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s71-s74
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    デジタルアーカイブには、公開されている資料数が膨大なものがあり、ユーザの興味のある資料を発見することが困難な場合がある。本研究では、公開されている資料を大まかに把握可能にし、興味のある資料の探索を支援することを目的とする。目的を達成するために、資料の画像とメタデータのそれぞれの類似性に基づいて一覧で表示するシステムを構築する。本システムでは、深層学習モデルの一つであるVision Transformerを用いて画像から特徴量を抽出する。そして、主にデータの可視化に用いられるニューラルネットの一つである自己組織化マップで学習を行い、類似する資料が近接するようにタイル状に可視化する。また、タイトルなどのメタデータの類似度を算出し、内容が類似する資料が近接するように並び替え可能にすることで、関連する資料の探索も支援する。

  • 逢坂 裕紀子, 小澤 梓
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s75-s78
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    国際公文書館会議(International Council on Archives)は、1994年にアーカイブズ資料の記述に関する国際標準として、ISAD(G)(General International Standard Archival Description)を公開して以来、これまでにアーカイブズの記述に関する4つの国際標準を策定し、2012年からはそれらを統合した新たなアーカイブズ記述の概念モデルRiC(Records in Contexts)の開発も進められている。

    本報告では、東京大学文書館が所蔵する人事記録カードを対象に、アーカイブズ記述の国際標準に準拠した人名データベースの構築について報告する。同館では、所蔵資料の記述をISAD(G)に準拠して、階層構造からなる目録検索システムを提供している。人名情報については館内レファレンスに用いる簡易的な人名データベースが作成・使用されてきたが、公開と活用に課題があった。今回、将来的に目録検索システムの資料記述とのリンク付けをすることを想定し、団体、個人及び家に関するアーカイブズ典拠レコード記述の国際標準であるISAAR(CPF)(International Standard Archival Authority Record for Corporate Bodies, Persons and Families)に準拠したウェブデータベースのプロトタイプを作成した。

  • 阿達 藍留, 大向 一輝
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s79-s82
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    近年、デジタルアーカイブの役割はデータの共有だけでなく外部のアグリゲータや大規模アーカイブとの連携へと拡大しており、こうした付加機能への要求が増えることで、維持管理のコストが増加している。本研究では、資料に関わる当事者が手軽にデジタルアーカイブを構築・提供するための静的サイト生成ツールであるDAKitに対して、外部連携機能を追加しメタデータ流通の基盤とすることを検討した。具体的には、JPCOARスキーマに準拠した構造化データの出力や、ResourceSyncを利用したハーベスティングに対応する。この仕組みは、他のメタデータスキーマにも容易に適用可能である。

  • 川嶌 健一, 川森 茂樹, 諸井 圭市, バナジ パリス
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s83-s86
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    文化資源の保全と継承、利活用を目的とするデジタルデータアーカイビングの取組みにおいて、複数の主体による情報システム基盤の共同運用やデジタルデータの相互運用には、Webの利用が欠かせない。しかしその際にはデジタルデータの信頼性が課題となる。これに対しては、デジタルデータの「来歴情報」や「不変性情報」の記録と参照によるトレーサビリティの確保で緩和することができる。一方、高い耐改竄性と透明性を実現するブロックチェーン技術を根拠とした、新しいWebのコンセプトであるWeb3が提唱され、実装が始まっている。本稿ではその特徴である「非中央集権」と「トラストレス」の性質に着目し、ブロックチェーン基盤上における「来歴情報」と「不変性情報」の記録による、デジタルデータの信頼性とトレーサビリティの担保について検討する。また2022年3月にACHDA(ASEAN文化遺産デジタルアーカイブ)において実施した、その実践について報告する。

セッションD1
  • 原 翔子
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s87-s90
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    キュレーションにはどのような機能があり、それはどのように検証されるのだろうか。本研究ではまず、「キュレーション」という言葉がどのように人々に受容されてきたのかを把握するために、Ngram viewerを用いて関心の推移から考察する異なる場面における役割を議論した。次に、キュレーターが、キュレーションという行為をどのように捉えているのかを、インタビュー記事を参照しながら論じた。そこからは、デジタル空間と実地におけるそれぞれのキュレーションの特徴が見えた。そして、実地での展覧会はオンライン空間に比べてキュレーターの意図が反映されやすいという前提のもとで、実地での展覧会をオンラインに落とし込んだ時の差分を検証することができれば、キュレーションの効果が可視化されるだろうという示唆を得た。

  • 眞籠 聖, 徳原 直子, 奥村 牧人
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s91-s94
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    令和5年9月、国の分野横断プラットフォーム「ジャパンサーチ」の運営主体である、知的財産戦略本部デジタルアーカイブジャパン推進委員会実務者検討委員会は『「デジタルアーカイブ活動」のためのガイドライン』(以下「ガイドライン」という。)を策定した。ガイドラインは、アーカイブ機関やこれからデジタルアーカイブに関わる活動を始めようとする機関、活用者を含む個人を対象に、平成29年4月策定の『デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン』等を、近年の情報技術の進展やデジタルアーカイブを取り巻く環境の変化を踏まえ改定したものである。国立国会図書館は、ジャパンサーチの運用や連携実務を担当する立場からガイドラインの素案を作成した。本稿では、検討過程に関わってきた立場からガイドラインの目的と内容を概説する。

  • 谷島 貫太
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s95-s98
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    アーカイブをめぐる理論的な言説において、ミシェル・フーコーはもっとも多く言及される思想家の一人だと言える。しかしその言及は、『知の考古学』で展開されている独自のアーカイブ概念や、異質な空間をめぐるヘテロトピア概念、また一部の権力論の周辺に偏っている。本稿では、フーコーの初期、中期、後期に渡る思想の展開を、(潜在的な)アーカイブをめぐる思想の発展として位置付け直す見通しを示すことを試みる。具体的には、初期の言説論を資料の中で語られている事柄に関わる議論として、中期のdispositif(装置)論をアーカイブの施設や制度や関連する諸手続きに関わる議論として、そして後期の自己のテクノロジーをめぐる議論を個人レベルでのアーカイブ実践に関わる議論としてとらえ返していく。以上の作業を通して、フーコーの諸概念を、デジタルアーカイブについて考えるための理論的なツールとしてより有効に使えるようにすることを目指す。

  • 金 甫榮, 高田 百合奈, 山口 温大, 濱津 すみれ, 曹 好, 渡邉 英徳
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s99-s102
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    関東大震災時の企業の被災状況を伝えるデジタルアーカイブ「企業資料から読み解く関東大震災」は、震災の記録を通じて過去の出来事を学び、その経験を現在の防災意識の向上に繋げることを目的として制作された。本研究では、同コンテンツを長期的に運営する上で検討すべき点を把握すべく、その構成要素を分析・評価した。その結果、コンテンツの構成要素を分析・評価することが、1)コンテンツの独創性の把握、2)各構成要素の維持管理に対する責任所在の確認、3)コンテンツ運営におけるリスクの把握に有効であり、コンテンツの持続可能性の向上に寄与することがわかった。

セッションA2
  • 永崎 研宣, 苫米地 等流, 加藤 隆宏, 下田 正弘
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s103-s106
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    本発表では、東京大学総合図書館に所蔵されているサンスクリット写本コレクションの画像データベースの構築に際して実際に行われた作業を報告する。世界的にも極めて貴重な学術資料であるこのコレクションは、既存のモノクロ画像データベースでは十分に用をなさなくなっており、高精細カラー画像と詳細なメタデータに基づく新たなデータベースへと再構成された。これにあたり、作業中及び公開時にはIIIF(International Image Interoperability Framework)を活用することで効率化と利活用性の向上を実現し、メタデータ構築に際してはTEI(Text Encoding Initiative)ガイドラインに準拠した形式で構築することにより、古典籍資料としてのメタデータレベルでの国際的な利活用性に配慮する形での作業が行われた。

  • 中村 覚, 金 甫榮, 南山 泰之
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s107-s110
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、デジタルデータの長期保存に関する課題に焦点を当て、Archivematicaを基盤とする簡易操作アプリケーションの開発を行った。Archivematicaはデジタルデータの長期保存に特化したオープンソースソフトウェアであるが、専門的な知識の必要性、複雑な設定とカスタマイズといった利用障壁がある。この課題に対して、本研究ではArchivematicaの複雑な設定やカスタマイズの部分を自動的に補完するアプリケーションを開発した。さらに利用者からのフィードバックを通じて、本アプリケーションが長期保存に必要な作業の迅速化と作業者の負担軽減に寄与することを確認した。長期保存に関する活動の裾野が広がることが期待される。

  • 林 和弘, 生貝 直人, 北本 朝展, 西岡 千文, 西川 開
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s111-s114
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    デジタルアーカイブは、主に歴史的な資料や文化的な遺産をデジタル形式で保存して公開することを目的とし、主に人文学・社会科学の発展と知識形成にも非常に重要な役割を果たしてきた。その一方、オープンサイエンスの潮流は、論文の公開や研究データの共有にとどまらず、データ駆動型科学に象徴されるような、新しい研究スタイルと、新たな知識形成、および保存の在り方を生みだし、科学と社会そのものを変容しつつある。オープンサイエンスの潮流を踏まえてデジタルアーカイブを再考する上では、これまでのデジタルアーカイブに関わる研究と実践を加速、効率化することに加え、デジタルネイティブな研究スタイルに基づく、あるいは、新しい文化資本形成やインフラ作りを踏まえた知識形成およびデジタルアーカイブの在り方の模索が求められる。

セッションB2
  • 山口 恭正, 坂部 裕美子
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s115-s118
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    本発表では、オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期演奏会の公演記録に関して、データの収集と検討を行う。オーケストラの演奏記録に関する量的な研究は、近年世界中で行われており、日本でも楽団が独自にホームページ上で過去の定期演奏会記録を楽団の軌跡として公開している場合もある。筆者はこれまで、仙台市の楽団と協力してデータベースを作成し、そのレパートリーの多様性を量的に測定するという試みを行ってきた。本研究では、OEKの定期公演に着目し、その傾向やレパートリーの多様性について探索的に検討した。算出したハーフィンダール・ハーシュマン指数から、楽団創設から2000年までのOEKのレパートリーが同時期の地方プロ・オーケストラよりも多様であったことが明らかになった。また、演奏記録のデータ収集に際して民音音楽博物館で行わった資料収集および撮影作業に関して報告する。

  • 木村 文
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s119-s122
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    博物館におけるデジタルアーカイブのポータルサイトは、その開設時には耳目を集めるが、開設後に維持をしていくことについては、学術研究においても注目されにくい。しかし、持続的にデータを公開し続けるためには、その維持における課題を理解する必要がある。そこで本発表は、維持の上でも特に負荷のかかるリニューアルに着目する。リトアニア共和国の博物館のデジタルアーカイブの統合システムであるLIMIS(Lietuvos integrali muziejų informacinė sistema、リトアニア博物館情報統合システムの略)のポータルサイトのリニューアルの事例を対象とする。2023年6月に、LIMISの運営主体であるリトアニア国立美術館リトアニア博物館情報・デジタル化・LIMISセンターでヒアリングを行った。その内容から課題を整理した。アップデートの財源確保のための二重になっている財政上の構造的な課題があった。その中において、国内の各博物館の要望に応えつつ、一般の利用者に使いやすくすることが、リニューアルの要点となっていた。

  • 原田 悦志
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s123-s125
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    神奈川県西部に位置する箱根町は、富士箱根国立公園の中心的位置の1つの座を占め、人口13000人あまりながら、コロナ禍以前の2017年には、2000万人以上が国内外から来訪した、日本を代表する都市近郊型の温泉リゾートである。執筆家であった杉山洋美(1944-2020)は、そこに住む「人」こそが、世界的観光地の魅力の根源ではないかという意図で、亡くなる年に『平成の箱根人-その道からこぼれる煌めきの一片』を著した。また、ビジネスパートナーだった㈱小田急エージェンシーの部長である内田博は、2019年、私費で、『箱根のヒトビトストーリー Hakone oral history』というウエブサイトを立ち上げ、箱根の人々の言葉をデジタルアーカイブ化した。本発表では、個人が残した記録の著籍化、ならびにデジタルアーカイブ化を通し、「人々の記憶と記録を残す」という地域デジタルアーカイブの一例について、考察していきたい。

  • 全 炳徳
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s126-s129
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    1945年8月,米軍は広島と長崎に人類史上初の原子爆弾を落とした。原子爆弾が投下される前後,米軍の写真偵察部隊は広島及び長崎の上空をネガフィルム上に記録し残している。本論では今までその全容が報告されてない,1945年8月10日(長崎に原爆が落とされた翌日)に撮影され保管されているネガフィルム上の航空写真の様子と,その写真の画像処理等について詳述する。ネガフィルムを保管するために作られた特殊フィルム缶(ICE CUBE,以下「アイスキューブ」と記述)に収められた航空写真の画像データはフィルム自体がかなり劣化しているものの,原爆が投下された次の日の長崎の生々しい様子を鮮明に残している。更に,同じアイスキューブの中には今まで一般に公表されてないと推察される広島の被爆地の航空写真(1945年8月11日)も保管されている。本論では新たに確認した広島の被爆地の航空写真の様子を紹介するとともに,長崎や広島の原爆直後の様子を収めた8月10日と8月11日の原爆画像データ処理について,また,デジタルアーカイブとして公開を予定しているシステム全般について報告する。

セッションC2
  • 北本 朝展, 髙橋 彰, 矢野 桂司, 佐藤 弘隆, 河角 直美, 西村 陽子
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s130-s133
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    メモリーグラフは、同一構図撮影を支援するカメラアプリである。同一構図撮影は、今昔写真、ビフォーアフター写真、定点観測写真、聖地巡礼写真、位置証明写真、撮影シミュレーションなど、写真を用いた様々なフィールドワークの基本となる作業である。この作業を支援するため、アプリは以下の機能を備える。第一に、カメラのファインダー上に基準とする写真を半透明で表示し、実世界の景観を写真に合わせて撮影することで、撮影位置と景観変化の両者を同時に記録できる。第二に、写真を参加者で共有できる「共有プロジェクト」を用いてフィールドワークを進めることで、参加者がフィールドワークを振り返りながら議論し考察を深めることができる。本論文ではフィールドワークの例として、京都でのまちづくり活動とシルクロードでの遺跡調査を取り上げ、それらのフィールドワークにおけるメモリーグラフの利用と成果を紹介する。

  • 倪 雪, 飯岡 稚佳子, 渡邉 尚恵, 淺田 なつみ, 白石 明香, 長尾 琢磨, 前川 佳文, 安倍 雅史, 田口 智子
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s134-s137
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    現代美術作品および作家を理解し、評価するためには、作品だけでなく、制作道具や作家活動から生み出された記録といった周辺資料が不可欠である。しかし、博物館における周辺資料の保存に関しては、長期保存が難しい材料が素材として使用されているケースや、年々増え続ける収蔵品の収蔵場所の限界など、様々な問題がある。

    本発表では、博物館における収蔵品の周辺資料を保存するための提案として、発表者らが関わる現代美術作家・日比野克彦のアトリエ保存プロジェクトの事例を紹介する。具体的には、周辺資料の3Dデジタルデータの取得と活用や、クラウドファンディングの支援者とともに実施した資料の分散保存などの取り組みについて報告する。

  • 柊 和佑, 石橋 豊之, 王 昊凡, 柳谷 啓子
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s138-s141
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、空中結像ホログラムを活用して現実世界の空間における3Dデジタルアーカイブコンテンツ向けの閲覧環境の試作を行った。空中結像ホログラムによる表示は、3つの新しい可能性を持っている。第一に、物理的にそこに存在するように見えるコンテンツに、実際に手を挿入することで直接場所を指定することが可能となる。第二に、現実世界の空間とコンテンツとをシームレスに統合し、従来は感じ取りにくかった質感などを感じることが可能となる。第三に、3Dを直接手に取ることにより、従来の2D表示では不可能だった多角的な閲覧や観察が可能になる。本研究は、光学的なホログラム技術を利用することにより、そこに見えながらも触ることがないデータ提示方法を提案するものである。本発表では詳細とともに、実際の試作品と制作時の課題、それらの解決策などについて解説する。

セッションD2
  • 佐野 智也, 外山 勝彦, 駒水 孝裕, 増田 知子
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s142-s145
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    国家・社会制度に関する政策は、法令を通して制度化されるため、日本社会の動きは、法令情報を介して捉えることができる。本研究は、制定・改正などを通じた法令の連続的変遷を把握し、日本の国家・社会運営の長期的変化を調査するための研究基盤の確立を目指すものである。その最初の目標として、明治以降の全法令を検索可能なオープンデータベースシステムの構築を進めているが、現在、明治 19(1886)年から平成 29(2017)年までに公布された法律と勅令のXML文書化を完了し、それらの全文検索が可能なデータベースの構築を終えた。本報告では、既存のデータベースの問題点について述べた上で、構築したデータベースを説明する。

  • 大西 昴
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s146-s149
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    東日本大震災後、その記録や教訓を残し後世へ継承していくことを目的として数多くの災害デジタルアーカイブが構築された。これらの利活用として、小中学校における防災教育などが見受けられるが十分に利用されているとは言い難く、包括的な利活用に関する研究も限られている。

    そのため、本研究では東日本大震災に関する災害デジタルアーカイブの利活用の実態の把握を目指し、アンケート調査とインタビュー調査を実施した。アンケート調査では、災害デジタルアーカイブが震災に関する展示や資料の作成、学校や地域での防災教育や防災イベント等で利活用されていることが明らかとなった。またインタビュー調査を通し、利活用の促進のためにはアーカイブを使いやすくする機能や仕掛けなどが求められることが明らかとなった。

    本稿ではこれらの調査結果に基づき、災害デジタルアーカイブが果たす役割と利活用の促進において必要とされる要素や課題を考察する。

  • 小森 一輝, 城阪 早紀, 八木 智生
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s150-s153
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    本発表は古典教育において、古典本文と絵画資料の比較検討という、デジタルアーカイブコンテンツの活用モデルを提案するものである。従来、デジタルアーカイブの教育活用においては、教育内容とコンテンツとの紐づけが課題となっていたが、発表者らが実践した古典の授業モデルでは、コンテンツと教育内容との紐づけが比較的容易で汎用性があることを示す。さらに、この数年でICT環境が急速に整備されたことにより、学習者が自身の端末でコンテンツを操作したり編集したりと、コンテンツを教材として活用しやすくなった。このようなコンテンツの積極的活用は、学習者のデジタルメディアリテラシーを向上させるだけでなく、学習者が古典に関するコンテンツを享受し、それを発展させていく継承者としての態度や技能を育成するためにも有効であると考える。

  • 大井 将生
    2023 年 7 巻 s2 号 p. s154-s157
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は、Europeanaとの連携を進展するためのcultural heritageの共創的な教育活用のあり方を提示することである。そのために、オランダのEuropeana本部において、日本と欧州双方のデジタル文化資源を活用した教材化ワークショップを実践し、その過程で日本と欧州のデジタルアーカイブ連携について議論を行う。その結果、S×UKILAM(スキラム)連携のスキーマを用いることで日欧の資料を組み合わせた教材が共創できることが明らかになり、ボトムアップな実践が連携の進展に重要であることが示唆された。今後は、Europeanaの理念や力点を置いている活動に注視し、連携に向けたポリティカルな課題をスモールステップな実践で乗り越え、世界中の多様なcultural heritageが日常の学習場面で活用できる基盤形成が望まれる。

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