高精細画像情報による実物資料の展示の代替という意味で始まった「デジタルミュージアム」は、次第に「デジタル技術によるミュージアム的体験・理解の拡張」という概念のもとに、さまざまな実装の試みがなされるようになった。小論では、実空間の再現や展示のゲーム化など、特にコロナ禍以降に増えてきたネット上の実践の手法を概観するとともに、デジタルミュージアムには、リアルミュージアムでは包摂しきれない受容層に対応できる可能性があることを論じる。
展覧会の鑑賞体験はデジタルコレクションの利活用に結びついていない。アンケート調査からは、展覧会鑑賞者のリモートでの鑑賞に対する関心の低さが明らかになっている。本稿では、美術展の鑑賞者を利用者として想定し、デジタルコレクションに対するまなざしを考察した。そして、音楽のストリーミングサービスの例から、キュレーション結果を大量に提示することが有効なのではないかという示唆を得た。展覧会からデジタルコレクションへの動線が見えやすくすることで、経験の全体像およびプロセスそのものに対するイメージがしやすくなると期待される。
『かはくVR』は、国立科学博物館の常設展の3DVR技術で開発されたデジタルツインである。緊急事態宣言によって外出が制限された時期に、当初は、子どもたちがバーチャルに見学できるようにと、広報活動に位置付けて開発された。公開後は、活用の範囲をさまざまに広げ、内容の追加や更新を行った。本稿ではこれらを事例として報告する。博物館の展示活動が、3DVR技術によりアーカイブ化されることは重要であると考えている。
江戸東京博物館公式アプリ「ハイパー江戸博」は、江戸東京博物館の展示や所蔵品を楽しめるモバイル端末向けアプリである。本アプリの開発にあたっては、従来の博物館提供のコンテンツとは一線を画し、デジタルアーカイブ活用の新たな事例を提示するアプローチを模索した。本稿では、アプリの概要と制作の背景、経緯を報告したうえで、デジタルアーカイブの利活用促進という観点から本アプリの意義を考える。デジタル技術を専門とする企業との協働から見えてきたのは、他の分野や業種を巻き込むことで、利活用が活性化する可能性である。
株式会社NTTデータは、デジタルアーカイブ事業を通じて様々なプラットフォームを構築してきた。貴重なコンテンツを保存し公開する、これまでの「蓄積」することの取り組みに加えて、それらをどのように「活用」し、持続可能なプラットフォームとしていくか、という点において、ASEAN(Association of South-East Asian Nations:東南アジア諸国連合)各国やバチカン市国など、海外の事例を中心に報告する。
本稿は、大学の授業で電子教科書をバンドル型ライセンスモデルで利用した実験の報告である。近年、大学の授業は専門書などの教科書に代わり、書籍の一部複製や教員自作スライドを教材とする傾向にある。その場合、著作権法に抵触する懸念と教科書離れによる出版社の収益悪化から、ひいては大学が不利益を被る可能性がある。この問題の対策として、教員希望の複数の電子教科書を利活用できるバンドル型ライセンスモデルを試みた。延べ8つの授業で実験の結果2授業は本採用に至り、利用モデルの可能性が確認できた。
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