資料をデジタル化してインターネット上で公開する際には、著作権をはじめ様々な権利の処理を考える必要がある。中でも著作権法に関しては、近年においてもデジタルアーカイブに関連する法改正が続いている。本稿では、著作権等の権利がデジタルアーカイブにどう関わるかを簡単に眺めたうえで、本特集に収めた各論考を紹介して導入に代える。
著作権法の令和5年改正では、過去の作品や一般の方が創作したコンテンツ等の円滑な利用を図るため、集中管理がされておらず、その利用可否に係る著作権者等の意思が明確でない著作物等を対象とする新たな裁定制度が創設された。この制度はデジタルアーカイブと密接に関係するものであり、利用することが可能な場面として、文化庁においても「過去の作品をデジタルアーカイブにする際に、一部の著作権者が不明であることや連絡がつかないことなどにより、権利処理ができない場合」を第一に挙げている。本稿では、著作権法の令和5年改正の沿革と、新たな裁定制度の概要・課題等について紹介する。
デジタルアーカイブ学会・法制度部会の法律相談プロジェクトチームにて実際に学会員から相談を受けた様々な事例を元に、デジタルアーカイブに携わる多くの方々が現場で直面しやすい問題・論点について、Q&A形式で解説する。テーマとしては、資料の著作物性や、保護期間、資料を撮影したデータの権利、所有権と著作権との区別、遺族との関係、映像資料の取扱いなどを取り上げる。
本論は、MLA(博物館、図書館、文書館)のうち、特に博物館のデジタルアーカイブ(以下「DA」という)に関し、国際的な著作権制度の対応状況を概観することを目的とする。まず、著作権関連条約の種類と内容を概観した後、DAが著作権と著作物を享受する権利という双方の人権の中での取組みの中に位置付けられることを明らかにし、WIPOにおけるMLAと知的財産に関する取組みも取り上げる。次に、欧米の著作権制度を中心に博物館のDAがどの程度可能となっているか検討し、我が国の現行制度との若干の比較検討を最後に行った。その結果、我が国の著作権制度は、MLAがDAを比較的実施しやすい環境にあることが明らかになった。
図書館におけるデジタルアーカイブへの関心は急速に高まっている。著作権法の令和3年改正の施行により、国立国会図書館による入手困難資料の個人向け送信、および図書館等による図書館資料の公衆送信が始まった。本稿では、施行を踏まえた図書館におけるデジタルアーカイブの法制度について述べる。
本稿は18〜20世紀ヨーロッパ歌劇場における上演傾向研究の一環として、フィールドワークと文献による興行情報の調査結果をデータ化・蓄積するにあたっての諸問題を提示する。具体的には、ポスターや年鑑からデータを抽出・統合する際、資料の選択、視覚的側面の配慮、項目や備考欄情報の取捨選択、上演言語の特定、作品の改変による紐付けが困難な場合がある。とりわけ、各資料の掲載項目自体が、地域や時代固有の価値観を色濃く反映していることから、それらの価値観の保持は統一的なフォーム作成の意図と相反することがある。様々な資料の比較から得られたこれらの知見を共有することは、データベース作成への新たな視座を提供するものであろう。
本稿では、同一テーマの下で企画された複数の展覧会の構成を共起ネットワークによって可視化し、その比較によって、キュレーションが鑑賞者に異なる視点を与えることを明らかにした。具体的には、河鍋暁斎をテーマとする3つの展覧会を対象とした。分析対象となった日本画や浮世絵は、描かれているモチーフが作品名に反映されているため、計量テキスト分析が可能である。実地での鑑賞を検討する際の情報収集や、鑑賞後に展覧会を振り返る際に、本稿の手法は有用である。また、全体像として共起図を提示しておくことで、さらに多角的な鑑賞視点が期待できる。本稿の成果はキュレーション機能を持つデジタルコレクションに対して大いに有用であると期待される。
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