顕微鏡
Online ISSN : 2434-2386
Print ISSN : 1349-0958
50 巻, 2 号
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特集:単一菌体の時間的・空間的連続観察から得られた新知見と将来展望
  • 山田 博之
    2015 年 50 巻 2 号 p. 80-
    発行日: 2015/08/30
    公開日: 2019/09/03
    ジャーナル フリー
  • 谷口 雄一
    2015 年 50 巻 2 号 p. 81-85
    発行日: 2015/08/30
    公開日: 2019/09/03
    ジャーナル フリー

    1つ1つの細胞で行われる遺伝子発現は確率的であるため,各細胞に存在する遺伝子発現産物の量は,例えゲノムが等しくても不均一となり,さらに時々刻々と変動する.しかしながら,低コピー数のタンパク質の発現や,発現量の微小なばらつき・ゆらぎなどを測定することは,一般的な遺伝子発現の測定手法では感度面において難しい.このため筆者らは,1分子イメージング技術を応用し,1細胞の遺伝子発現の動態を定量的に解析する方法論の開発を進めている.モデル生物である大腸菌(Escherichia coli)を用いて1,018遺伝子に対して網羅的に解析を行ったところ,各細胞のタンパク質発現量の分布はほぼどの遺伝子においてもガンマ分布で記述でき,さらにその形状は転写・翻訳速度による影響を受けて決定されることが分かった.さらに,1細胞内におけるmRNAとタンパク質の発現量を同時に測定した結果,両者の量の間には相関性が無いことが分かった.

  • 若本 祐一
    2015 年 50 巻 2 号 p. 86-91
    発行日: 2015/08/30
    公開日: 2019/09/03
    ジャーナル フリー

    クローン細胞集団内で観察される様々な表現型のばらつきは,多くの場合,置かれた環境での増殖能や死亡率といった個々の細胞の「適応度」と相関を持つ.このとき,注目する表現型の統計的性質を集団計測から正確に見積もることは原理的に不可能となる.細胞状態変化の本来の性質と,さらにそれらの状態と適応度との相関により決定される集団の性質を同時に理解するには,1細胞レベルの動態計測が必須となる.近年このような計測を実現するマイクロ流体デバイスが開発されつつある.本稿ではまず,細胞表現型の集団内多様性が細胞の適応度差と関係する例として「パーシスタンス現象」に着目し,その1細胞解析で得られた知見を紹介する.さらに,遺伝子発現量などの表現型が適応度と相関をもつとき,集団計測で得られる統計量が細胞の性質とずれることを簡単なモデルをもとに議論し,そのような差が,実際の長期1細胞動態計測で確認されつつあることを述べる.

  • 山田 博之
    2015 年 50 巻 2 号 p. 92-97
    発行日: 2015/08/30
    公開日: 2019/09/03
    ジャーナル フリー

    結核菌(Mycobacterium tuberculosis)は,1882年にRobert Kochにより発見された細菌で,かつて世界で最も高い死亡率を記録した感染症,結核の原因菌である.幅約0.4 μm,長さ約4 μmのやや湾曲した普通の桿菌である.1分裂に要する時間が約20時間で,極めて増殖が遅いことが特徴である.これまで,急速凍結置換固定法を用いてより生きた状態に近い結核菌の透過電子顕微鏡像を観察してきたが,今回,細菌を対象としては世界で初めて超薄連続切片観察による「電子顕微鏡レベルにおける実測値に基づく細胞の定量的,三次元的全構造情報」,すなわちストラクトームの解析を試み,興味深いデータを得た.細胞質内のリボソーム密度を既に報告されている真菌のデータと比較するとともに,リボソームを標的とする抗結核薬の耐性機序について考察する.

  • 山口 正視
    2015 年 50 巻 2 号 p. 98-105
    発行日: 2015/08/30
    公開日: 2019/09/03
    ジャーナル フリー

    1932年に電子顕微鏡が発明されて以来,半世紀以上にわたって,細胞構造は,定性的,二次元的にのみ観察されており,定量的,三次元的解析はほとんどなされてこなかった.ストラクトームは,「電子顕微鏡レベルにおける細胞の定量的,三次元的全構造情報」と定義され,ゲノム,プロテオームと並ぶ,重要な概念である.本稿では,酵母サッカロミセス・セレビシエを急速凍結・凍結置換法および連続超薄切片法を用いて,初めて,ストラクトーム解析を行った結果を解説し,その特徴を明らかにする.また,ストラクトーム解析を応用したことによって未知の微生物の発見に至った経緯を紹介する.さらに,近年盛んに行われている連続スライスSEM法との違いについて考察する.

解説
  • 村越 秀治
    2015 年 50 巻 2 号 p. 106-110
    発行日: 2015/08/30
    公開日: 2019/09/03
    ジャーナル フリー

    近年,2光子励起蛍光顕微鏡が普及したことにより,脳組織深部においてもシナプス等の微小構造を高解像度で観察することが可能になった.しかしながら,スパイン内部で起こるシグナル伝達については,タンパク質活性やタンパク質間相互作用を直接観察する方法がなかったため,殆ど明らかにされてこなかった.しかし最近,2光子蛍光寿命イメージング顕微鏡法(2pFLIM)を用いた蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の計測の技術進歩により,スパインや樹状突起内部で起こる様々な生化学反応を画像化し観察することが可能になりつつある.我々はこの方法を用いて,海馬組織中のスパイン内で低分子量Gタンパク質Rho GTPaseの活性化を可視化することに成功した.本稿では2光子蛍光寿命イメージングの原理とシグナル分子活性定量の方法,及び,この方法を用いた海馬スライス神経細胞シナプス内でのCdc42とRhoAの活性化イメージングについて紹介したい.

  • 平田 秋彦, 陳 明偉
    2015 年 50 巻 2 号 p. 111-117
    発行日: 2015/08/30
    公開日: 2019/09/03
    ジャーナル フリー

    これまで非晶質物質の局所構造解析に関して多くの研究がなされてきている.実験的には主に,広範囲から得た回折強度から動径分布関数を求め,配位数や原子間距離を計算することにより,特徴的な短~中範囲秩序構造の存在が議論されてきている.このような大域からの平均構造解析は非晶質物質の理解には欠かせないものであるが,これに加え局所領域からの直接的な構造情報も相補的に必要である.我々は以前からナノ電子回折法に取り組んできていたが,今回はその更なる改良を試みた.具体的には,走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて0.3–0.4 nm径の電子線を準備し,極微小領域からの電子回折を得ることで,非晶質物質,特に非晶質合金の局所構造解析を行った.本解説記事ではこれまで得られた結果について紹介する.

講座
  • 原田 研
    2015 年 50 巻 2 号 p. 118-125
    発行日: 2015/08/30
    公開日: 2019/09/03
    ジャーナル フリー

    磁性体の磁気構造観察は,電子レンズの発する磁場が磁気構造に強く影響してしまうことなどから電子顕微鏡にとって扱いやすい対象ではなく,磁気シールドレンズなどを備えた一部の電子顕微鏡(Lorentz顕微鏡)でのみ実施されることが多かった.しかし,最近,特別な装置を備えない汎用型の透過型電子顕微鏡においてもFoucault像観察が可能となる工夫がなされたり,小角回折法が見直されるなど,磁気構造観察法にも新しい展開が芽生え始めている.本稿では透過型電子顕微鏡を用いた磁性体の観察法として,Lorentz顕微鏡法をその原理と,最近開発された手法を中心に紹介する.

  • 浜中 良隆, 泰山 浩司
    2015 年 50 巻 2 号 p. 126-130
    発行日: 2015/08/30
    公開日: 2019/09/03
    ジャーナル フリー

    昆虫の眼(複眼)で受容された視覚情報はまず,視細胞層(網膜)の真下に位置する第一次視覚中枢(視葉板)で処理される.視葉板はカートリッジと呼ばれる単位構造の繰り返しから成る幾何学的な構造体であり,カートリッジの数は複眼の単位構造(個眼)のそれと等しい.視覚情報はその後,2つのneuropil(視髄と視小葉複合体)を経て脳中枢へと送られる.視葉では数万を越えるニューロンが互いに神経連絡し,回路を形成している.そこでは,動き・色・形・明暗といった視覚情報が順次抽出される.本稿では,神経回路の理解が最も進んでいるキイロショウジョウバエの視葉板に着目し,その超微細構造について概説する.

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