本稿では,電子線エネルギーフィルターをもちいて得た2次元非弾性散乱分布からフェルミレベル近傍の非占有状態の電子軌道の異方性を解析する手法を紹介する.まず,電子軌道の異方性が非弾性散乱図形にどのように現れるかを,グラファイトの|1s⟩→|π*⟩遷移をともなう非弾性散乱図形を例に挙げて解説し,われわれが行っている部分状態密度解析法を紹介する.この手法では,エネルギー損失を変化させながら取得した一連の内殻励起非弾性散乱図形に対して,励起終状態として可能な電子軌道をもとに計算した散乱図形を基底関数として成分分離を行い,部分EELSスペクトルを取得する.最後に,本手法の応用例として,カーボンナノチューブおよび超伝導物質MgB2におけるσ, π成分の部分EELSスペクトルの取得について,および高温超伝導体Bi2Sr2CaCu2O8におけるdホールの異方性の解析について紹介する.
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