主に軽元素から構成される高分子材料や生物試料などのソフトマテリアルは,そのままでは電子線照射でえられるコントラストが不足するため,重金属を用いた染色が試料作製過程で重要となる.染色には,主に四酸化オスミウムや四酸化ルテニウムが利用されるが,それらが染色できる構造は異なっており,可視化対象にあわせた使い分けが求められる.また,染色用の試薬は,保存方法や利用方法に注意を払う必要があるものが多い.さらに,染色の工程は,気相や液相で行われるが,過剰な染色は構造の大きさを変化させたり,汚染を生じさせたりする.ソフトマテリアルの正しい構造理解には,アーティファクトの少ない適切に染色された試料を観察・解析することが重要である.本稿では,高分子材料と生物試料の染色と観察事例を紹介し,その実施における注意点について述べる.
ソフトマテリアルの電子顕微鏡による微細構造解析には,ソフトマテリアルを薄片あるいは断面にする必要があり,多くの場合,ウルトラミクロトームを用いて,超薄切片,断面試料を作製している.バルク試料の中心部を観察する場合は,試料をそのままウルトラミクロトームで超薄切して,電顕観察が可能であるが,バルク試料の表面,フィルム,繊維などを薄膜化するためには,試料を樹脂で包埋して薄切する必要がある.この包埋樹脂の選択は重要であり,その選択を間違えると,本来とは全く異なった構造「アーティファクト」が出現する.ソフトマテリアルを樹脂で包埋する際には,両者の「強すぎない接着」が重要と考えられ,ソフトマテリアルと包埋樹脂のSP値がポイントとなる.また,薄切においても正常な超薄切が行われないと「アーティファクト」につながることがある.本稿では,包埋と薄切によるアーティファクトの例を示し,その回避方法について述べる.
電子線は試料に様々なダメージをもたらすが,多くの包埋樹脂は照射に伴い数十%の収縮が起こる.この収縮の正確な原理は不明な部分が多いが,グリッド上に張った切片は,電子線照射に伴い主にグリッド平面に垂直な方向に均一に収縮し,水平方向にはほとんど収縮しないことがわかっている.また,その収縮は様々な樹脂において電子線照射開始時に急激に生じ,徐々に安定していく傾向が見られ,その変形は電子線照射量に対して対数関数に近似される特徴が得られる.また試料の冷却により電子線照射量が少ない間はこの変形を抑えることができる.このような特徴を把握することはソフトマテリアルの電子顕微鏡観察時の像解釈や電子線トモグラフィーにおける予備照射量の適正化に重要である.
イオンビームを用いてソフトマテリアルのSEM/TEM用加工適用を実施した事例を纏めて紹介する.従来,ミクロトームなどを用いて物理切削することが主流であるソフトマテリアルに対し,イオンビームを用いることで生じる熱的損傷は,染色固定や冷却などを用いることで軽減可能である.また,硬質材料を含む複合材料や特定部位観察などにおいては,固定や冷却によってBIBやFIBが得意とする断面加工を正しく実施することが可能である.さらにはプラズマFIBの活用により,広範囲かつフラットな断面加工が容易に実施できるようになったことも,ソフトマテリアル観察の用途展開に有効であることを示した.
本稿では走査電子顕微鏡法(SEM)において重要な性能指標の一つである分解能について解説する.前半ではSEMで用いられる主な分解能の定義と評価法について概説する.また,像分解能の国際標準化において開発された像シャープネス評価についても言及する.後半ではSEMの像分解能評価における試料の重要性について述べ,産業技術総合研究所計量標準総合センターで供給している像シャープネス評価用認証標準物質を紹介する.
最近10年間で,脳組織の連続超薄切片電子顕微鏡画像撮影と自動3次元再構築の技術開発が進み,普及しつつある.その最先端技術を使えば,シナプス結合観察が可能な1立方ミリ容積の脳組織の高倍率電子顕微鏡画像データセット撮影や,深層学習セグメンテーションアプリケーションを使ったその自動3次元再構築が可能である.ここでは,当該する4つの連続電顕画像撮影技術開発の概要と最新技術を簡単に紹介する.
走査型トンネル顕微鏡のナノ接合に発生する局在表面プラズモン共鳴を用いた超高感度・超高分解能の極微分光によってナノメートル,さらには原子・分子レベルの顕微分光が近年可能となってきた.本稿では著者のグループが行ってきた走査型トンネル顕微鏡のプラズモニック接合における極微分光の最近の研究と技術について紹介する.
クライオSEM法は,急速凍結により,生物試料を化学固定などすることなしに,直接観察ができる.また,エマルション,スラリー,高含水率のゲル試料なども,液体を含んだまま観察できる有用な手法である.クライオSEMの装置は,通常のSEMに装着して使用するシステムであるが,EDS等ほど一般的でないため,十分理解されていない.本稿では,クライオSEM法の手順とシステムを構成する装置について解説する.
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