市販の超高分解能インレンズ方式冷陰極型電界放射走査型電子顕微鏡(SEM)に組み込める小型走査型プローブ顕微鏡(SPM)(ペンシル型SPMと命名)を開発した.高性能SEMと,3次元走査観察・操作可能なSPMの複合機を利用した研究事例を紹介する.SEM観察しながら,Geが付着したPt-Ir探針先端をWフィラメントヒータ(約1400°C)に接触させ,両者間にGe架橋を形成させた.GeはWフィラメント上でよく濡れ,架橋の中央部は溶融していた.両者を引き離していくと,低温の探針側でGeが固化・結晶化した.融解架橋部が破断するまで引き離すと,先端部に曲率半径50 nm程の突起が形成された.SEM付随のエネルギー分散型X線分析器などで分析したところ,その先端内部にPtが偏析していることがわかった.本手法は,ミクロ・ナノサイズの融解接触による合金化・析出・接合形成過程の解析,微小突起の作製に有望である.
超短パルスレーザーによるポンププローブ法と走査トンネル顕微鏡を融合し,時間・空間両領域で極限的な分解能を持つ顕微鏡の開発を行った.ポンプ光とプローブ光の間の遅延時間の変調にパルスピッキング法を導入し,光励起に伴う熱膨張や変位電流の影響など抑えることにより,STMの空間分解能を保ちながら,超短パルス光のパルス幅からマイクロ秒を越えた幅広い時間領域にわたる現象を可視化できる新しい顕微鏡が実現した.
原子分解能を持ち,しかも化学組成を分析できる顕微鏡は究極の顕微鏡の一つといえる.エネルギー可変のシンクロトロン放射光(SR)による内殻励起を利用した走査トンネル顕微鏡(STM)は,そのような究極の顕微鏡の有力な候補となる可能性を秘めている.我々は,放射光により励起された内殻正孔が電子正孔対消滅を起こす際に生成される二次電子をSTM探針により検出し,その二次元分布を画像化することで,20 nm以下の高分解能で表面の化学組成分析に成功している.現在,信号検出感度を向上させつつ,最先端の光源に対応すべくシステムの改良を進めている.本稿ではこれら改良点を紹介すると共に,今後の展望についても述べる.
表面の電位分布や電荷分布は,多くの物理化学過程を左右する極めて重要な物性である.本論文では,探針・試料間に働く静電気力を検出することにより,探針の仕事関数と試料の仕事関数の差によって生じる接触電位差(CPD)を定量的に測定することができるケルビンプローブフォース顕微鏡(KPFM)の測定原理を述べる.この顕微鏡は,カンチレバーの共振現象を利用し微弱な相互作用力を検出できるダイナミックモードと総称される原子間力顕微鏡(AFM)を基本としている.そこで,探針・試料間相互作用力を高感度に測定する周波数変調(FM)検出法についても述べる.最後に,AFM/KPFMの応用例として,Si(111)表面にエピタキシャル成長された薄膜のCaF1インターフェース層とCaF2バルク層を高い空間分解能で明確に識別した実験結果を紹介する.
走査型プローブ顕微鏡法(SPM)は,歴史は新しいが,光学顕微鏡,電子顕微鏡に比肩する応用の拡がりが期待される高分解能観察手法である.なかでも原子間力顕微鏡(AFM)は絶縁体試料でも導電性コーティングを施すことなくそのまま観察可能であるため,有機分子材料や生体試料などの観察に有望であるという特徴を持つが,空間分解能ではSTMに及ばないとされてきた.近年,周波数変調AFM(FM-AFM)により,超高真空中では原子・分子レベルの分解能での構造観察が可能になった.我々は,大気・ガス雰囲気中や液中などのさまざまな環境下において,金属,半導体,絶縁体,有機材料などの構造・機能物性評価が原子・分子スケールで可能なFM-AFMを開発した.
走査イオン顕微鏡(SIM)(照射イオン種:GaおよびHe)が持つ二次電子(SE)像情報について,走査電子顕微鏡(SEM)と比較しながら解説した.SE像情報の解析にはモンテカルロシミュレーション法を用い,SEを衝突励起する被衝突粒子,すなわち入射イオン,反挑試料原子,および励起SE電子(電子衝突カスケード)の全軌道を追跡した.Ga-SIMでは,SE収率はZ2の増加と共に緩やかなおおむね減少傾向(ただし,周期律に依存した変化が重畳)を示し,SEMと逆傾向にある.He-SIMにおけるSE収率のZ2依存性は,Gaイオン照射と電子照射の中間の特性となり,Z2依存性は弱い.SIM像の材料コントラスト,情報深さ,像分解能,表面形状コントラストに関係するSE収率の入射角依存性,および電圧コントラストに関係するSEの放出エネルギー分布の特性について,SEM像と対比した.
リンパ節などの免疫臓器は高度に組織化された美しい構造を持っている.そこでは,病原体や異常細胞が体内に出現した時,適切な免疫応答が最も効率的におこり,異物を排除してわれわれの体を守ってくれている.本稿では接着分子,細胞分裂や抗体などの機能分子,細胞マーカーと組織骨組み等を特異的に染色する多重免疫染色法を用いて,in situ,切片レベルでtrafficking(免疫細胞の棲み分けと動態)の実態やクラスター形成・増殖性応答などの細胞間相互作用を含む免疫応答の現場を示した.本手法は,現場を見ることにより真実に迫る解析ができるので,多くの未解明の病態究明の糸口を発見する可能性を持っている.
骨組織のリモデリングを担う破骨細胞の機能・形態的極性を決定する接着側細胞膜面の裏打ち構造について,細胞剥離法を用い三次元可視化による形態解析を行った.細胞―細胞外基質間接着(cell-to-matrix adhesion)の場では,アクチン細胞骨格を主体としたポドゾームが膜の裏打ち構造と一体となって空間的ネットワークを構築していた.また膜面に出現する特異なクラスリン被覆シートはタイトな細胞接着と関連して,クラスリン被覆膜がもつ本来のクラスリン依存性エンドサイトーシス以外の機能的役割を示すと考えられる.さらに,最近の接着構造としてのポドゾーム研究展開の現状を紹介するとともに,今後の展望を探る.
CEMOVISは,液体に近いガラス状の氷に細胞や組織等の厚い試料を固定し,そのまま冷却ガス窒素雰囲気中で超薄切片を作製する技術である.樹脂切片のように架橋・脱水・染色を行わないため,それにともなう微細構造の破壊や,構成分子の流出が起きない.尚かつ水和した状態の試料を観察できるので,より生きている状態に近い細胞・組織観察が期待できる.一方で,新しい方法ゆえにアーティファクトに対する検証も続いている.本講座では,CEMOVISの手順と必要な道具,その利点とアーティファクトの詳細,それらを考慮した上でのCEMOVISの利用方法を紹介する.
複雑な結晶構造を持つ結晶中には結晶学的に非等価な同種元素が存在する.材料の物性を正しく理解するためにはこれら同種元素の電子構造の違いを正確に理解することが重要となる.本稿では球面収差補正されたSTEM-EELS法と第一原理計算を併用することで,層状遷移金属酸化物中に存在する結晶学的に非等価な酸素原子や金属原子の電子構造の違いを明らかにした研究結果を紹介する.
真核生物では,細胞分化の誘導やその固定化にDNAのメチル化が重要な役割を果たしており,エピジェネティック制御機構として注目されている.これまで,塩基配列特異的なDNAメチル化部位を細胞単位で検出することは不可能であった.我々は,メチル化の有無で同一塩基配列の切断能力が異なるイソシゾマー性制限酵素を用いた新しい組織化学的手法(HELMET法)を開発し,マウス精巣に応用したのでご紹介する.
多数の標的分子の発現状態をnm空間分解能で同時かつ網羅的に定量計測することを可能とする「アダプティブSEM」技術開発について紹介する.異なる粒径と元素を組み合わせた500種類以上のナノ粒子標識プローブセットを新規開発し,FE-SEM反射電子定量計測を利用して6種類以上の異なる元素の粒子を同時に識別同定することで,サイズと元素の異なるナノ粒子標識セットの空間分布を同時識別計測する技術を開発した.
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