顕微鏡
Online ISSN : 2434-2386
Print ISSN : 1349-0958
53 巻, 2 号
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特集:低次元物質の微細構造を探る
  • 保田 英洋
    2018 年 53 巻 2 号 p. 56-
    発行日: 2018/08/30
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー
  • 森下 茂幸, 向井 雅貴, 沢田 英敬, 林 永昌, 千賀 亮典, 末永 和知
    2018 年 53 巻 2 号 p. 57-61
    発行日: 2018/08/30
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    透過型電子顕微鏡を用いて低次元物質を観察する際には,試料ダメージを抑えるため低い加速電圧が用いられる.しかし,加速電圧が低い場合,幾何収差に加えて色収差の影響が顕著に現れるため原子分解能での観察が難しかった.そこで我々は,高次収差の補正が可能なデルタ型収差補正装置に加え,モノクロメーターを搭載することで,幾何収差および色収差を共に制御し,低加速電圧TEMの分解能向上に取り組んだ.これにより,15–60 kVにおいてグラフェンの炭素原子間隔0.142 nmを分離して観察することに成功した.15 kVでの単層WS2像では,フーリエ変換において波長の10倍以下に対応するスポットも得られた.また,炭素原子鎖を動的に観察することで,広い視野範囲での原子分解能動的観察が可能なことも示した.今後はこの原子分解能低加速電圧TEMを用いることで,種々の低次元物質の構造解析が進むものと期待される.

  • 楠 美智子, 増田 佳穂, 山本 悠太, 乗松 航
    2018 年 53 巻 2 号 p. 62-66
    発行日: 2018/08/30
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    エピタキシャルグラフェンは,炭化珪素(SiC)の熱分解によって半絶縁性の基板上に直接に大面積で高品質に形成可能であることから,通信用高周波トランジスターへの応用が期待される.しかしながら,この手法ゆえに,SiC基板表面のフォノンによりグラフェン内のキャリアが散乱されるという問題が重要な課題として残る.本研究では,このグラフェン/SiC界面構造の改質のため,窒化による新奇周期構造を有する原子層界面構造形成,およびグラフェンの負の熱膨張係数を利用した急冷法によるグラフェンの擬似的自立化の手法の開発を行った.本論文では,特に高分解能電子顕微鏡断面観察による界面構造の直接観察を行うことにより,窒化原子層の界面構造を決定するプロセスを紹介し,グラフェン構造解析における高分解能TEM観察の威力と重要性について述べる.

  • 藤田 大介
    2018 年 53 巻 2 号 p. 67-74
    発行日: 2018/08/30
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    単層の原子層からなる二次元物質が新規な物性や機能性から次世代高性能半導体デバイスの基盤材料として高い関心を集めている.本稿では,二次元物質のなかで特にグラフェンを中心として,単層h-BNナノシートにも触れつつ,特に固溶元素の表面偏析や表面反応などの固体表面を介した創製法について概説する.グラフェンの光学的・電子的特性は,層数,ドーパント,欠陥および基板との結合に依存する.単層,二層,三層グラフェンは異なる電子状態や機能物性を示すため,デバイス応用を見据えた材料研究にはグラフェン層数の特定(膜厚の決定)が不可欠である.そのため,二次元物質,特にグラフェンの層数,原子構造,局所状態密度,化学状態,仕事関数などの構造と物性の微視的計測法が可能なラマン顕微鏡,走査型トンネル顕微鏡,走査型オージェ電子顕微鏡,ヘリウムイオン顕微鏡,ケルビンプローブフォース顕微鏡について実例を交えて紹介する.

  • 小林 慶太, 保田 英洋
    2018 年 53 巻 2 号 p. 75-79
    発行日: 2018/08/30
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    整合電荷密度波(CCDW)相転移により遷移金属ダイカルコゲナイドにあらわれる周期的原子変位はこれまでにも回折学的手法でモデル化されているが,実空間上での直接観察による実証は未だなされていなかった.これをふまえて,我々は高角度環状暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)法によりCCDW相1T-TaSe2を観察することで,これにあらわれる周期的原子変位の実空間直接観察を試みた.その結果,六回対称性を示す周期的な像コントラストが,原子カラムに起因する像コントラストに重畳して結像されることを見出した.この像コントラストは,CCDWにともなう長周期規則構造(LRO)に対応する周期性を持ち,また試料温度の上昇による1T-TaSe2のCCDW相から通常相への相転移にともない消滅する.これらの実験事実に加えて,HAADF-STEM像とマルチスライス法によるシミュレーション像との比較から,HAADF-STEM像の非干渉的な結像機構をふまえて,この像コントラストがCCDWにともなうTa原子の静的な原子変位を可視化していることを明らかとした.これらの結果から,回折学的手法より得られたモデルに等しい周期的原子変位が,実空間においても実験的に観察されることが示された.

解説
  • 佐藤 和久, 保田 英洋
    2018 年 53 巻 2 号 p. 80-84
    発行日: 2018/08/30
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    高エネルギー電子照射下でのCo-Pt合金ナノ粒子におけるL10型規則格子形成過程を,電子直接検出型カメラを用いて高速その場観察した.573 Kにて1 MeV電子照射(ドースレート:8.9 × 1024 e/m2s)により,ナノ粒子内に規則格子が形成され,c軸の配向が2.5 ms間隔で時間変動していることが明らかとなった.動画を解析した結果,573 Kでの拡散係数は3 × 10–17 m2/sであると推測され,この値はバルク合金における外挿値よりも1013倍大きいことが判明した.規則化が観察された温度(573 K)は,速度論的規則化温度(800 K)よりも著しく低い.このような低温での規則格子形成は,高エネルギー電子照射により導入された過剰空孔(熱平衡時の106倍)を介した高速原子拡散に起因すると考えられる.電子直接検出型カメラを用いた時間分解観察は,規則化をはじめ固体反応の素過程を実空間で直接観察する手法として有用である.

  • 仁田 亮
    2018 年 53 巻 2 号 p. 85-91
    発行日: 2018/08/30
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    キネシンスーパーファミリータンパク質は,微小管上を一方向性に動く分子モーターである.その機能は,細胞内物質輸送に留まらず,染色体分裂の牽引,左右軸の決定,シグナル伝達の制御,線毛の長さの調節など多岐に渡っている.私はこれまで,X線結晶構造解析法やクライオ電子顕微鏡構造解析法を用いて,キネシンの多彩な機能を支える分子構造基盤を明らかにして来た.本解説では,微小管のプラス端方向へ順行性に動くKinesin-3,逆行性に動くKinesin-14,微小管を脱重合するKinesin-13,そして順行性に動き,かつ微小管を脱重合するKinesin-8の4種類の機能の異なるキネシンを取り上げ,それぞれの動作を支える構造基盤を概説する.キネシンは,微小管との結合・解離という基本の素過程を維持しながらも,微小管結合面の構造を改変したり,キネシンの動力部位の構造変化を増幅する構造を添加したりするなどして,多様な機能を獲得することができたと考えられる.

講座
  • ―カメラの限界を超える―
    三好 誠司
    2018 年 53 巻 2 号 p. 92-96
    発行日: 2018/08/30
    公開日: 2019/08/01
    ジャーナル フリー

    ベイズの定理で計算される事後確率を用いる推定はベイズ推定と呼ばれる.本稿ではベイズ推定に基づく超解像技術について紹介する.特に,Kanemuraらにより提案された複層ベイズ超解像を中心に解説する.ベイズ超解像では観測画像生成時の平行移動や回転移動を積極的に利用するので,観測画像の画素サイズよりも小さい特徴を復元することが可能である.さらに複層ベイズ超解像では画像の事前確率にラインプロセスを導入することにより,エッジの再現が可能となる.複層ベイズ超解像の数式導出の概要について述べた後,実験結果を示すことにより,その効果を明らかにする.

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