本稿の目的は,南琉球宮古語新城(あらぐすく)方言の再帰代名詞の使用規則を記述することである。南琉球語において,同一方言内に再帰代名詞が2形式以上存在することが先行研究によって指摘されてきたが,本稿で扱う宮古語新城方言に関しては記述が乏しく,どのような形式が見られ,それらの使い分けがどうなっているのかについて不明な点が多い。本稿では,現地調査の結果,再帰代名詞としてuna,duu,naraの3形式が見られることを示した上で,これらの使い分けについて,3つの要因,すなわち(A)配分的複数性(「それぞれ,めいめい」),(B)先行詞の人称,(C)再帰代名詞の格,が関わっていることを示す。unaは配分的複数の意味のみ表し,かつ属格をとる場合にのみ用いられる。一方,naraは3人称専用で,それがとる格に制限がある。duuは配分的意味,人称,格のいずれに関しても制限なく全ての環境において使用可能である。
中世語・近世語の資料におけるガ・ホドニ・カラ・ケレド(モ)・シ節に,現代語には認められない,意志を表すものと解されるウ類が生起する例がある。本稿では,基本形との比較や異時代間の資料の対照に基づきつつ,これらのウ類が当代において確かに意志の意を有していたことを示し,その歴史に以下の3段階を想定した。
I 中世後期においては,従属節末で(意志・推量を含む)不確定的な非現実事態を表す場合に,ウが一般的に生起した。
II 近世には,従属節末でのウによる非現実事態の標示は衰退し始めるが,意志は基本形と併用されつつも,推量と同様引き続き従属節末で有標的に表すことができた。
III 近代に至ると,意志のウは従属節末での生起が容認されなくなり,主節末専用の形式となった。