日本語の研究
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12 巻, 4 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
 
  • 北﨑 勇帆
    2016 年 12 巻 4 号 p. 1-17
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー

    本稿では, 動詞「あり」「す(る)」の命令形を用いて逆接仮定的な構文を作る複合助詞「であれ」「にせよ」「にしろ」について, その形態の歴史的変遷を調査した。「であれ」相当形式は中古に「用言連用形+もあれ」「体言+にもあれ」として発生し, 中世以降, 体言が前接する場合に限って「にてもあれ」「でもあれ」へと姿を変える。「にせよ」「にしろ」相当形式は中世頃に「動詞連用形+もせよ」として発生し, 近世に「にもせよ」「にもしろ」が現れると, 次第に「であれ」相当形式の使用数を上回る。この移行の要因として, 動作についての逆接仮定を示すために補助動詞「す」が採用されたこと, 体言・用言のいずれに対しても同形態で接続できる「にもせよ」「にもしろ」に利便性があったことを論じた。

  • 久保薗 愛
    2016 年 12 巻 4 号 p. 18-34
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー

    18世紀前半の鹿児島方言を反映するロシア資料には,過去否定を表すヂャッタという形式が見られる。この形式と,19世紀以降の過去否定形式を比較したところ,ヂャッタからンジャッタへという変化が認められた。近世半ば以降,本方言では否定とそれ以外の要素を分けて表現する方向に変化したものと思われる。また,表記に使用されるキリル文字の音価及び日本語表記の様相を分析した結果,この形式は否定の連用中止形デ(ヂ)+アッタに由来する可能性が高いことを論じた。

  • ——東京・千葉・埼玉の複数域を対象とした多人数調査結果から——
    林 直樹
    2016 年 12 巻 4 号 p. 35-51
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー

    東京東北部・千葉西部・埼玉東部といった複数域にみられるあいまいアクセントの実態を明らかにするため,下降幅・相対ピークという音響的指標を基に,当該地域話者30人・東京中心部話者7人,計37人を対象とした話者分類を行った。多変量解析手法の一つであるクラスター分析の結果,対象とする話者は三つの群に分類された。本稿では,分類された各群を「明瞭群」「高低差不明瞭群」「型区別不明瞭群」と解釈した。音響的指標を詳細に分析すると,「明瞭群」の下降幅は大きく,相対ピーク位置も型間の距離が大きいことがわかった。一方,二つの「不明瞭群」の高低差は小さく,とりわけ「型区別不明瞭群」は,高低差の小ささに加えて相対ピーク位置の型間の距離が小さいという特徴がみられた。このように分類された各話者群を地図上に付置し,あいまいアクセントの特徴として言及されてきた個人間のゆれを可視化した。最後に,分析によって得られた各群を高低差と下がり目の位置間の距離の程度によって位置づけた上で,当該地域アクセントの変化を,複数の音響的指標が連動する関係として捉え直した。

  • ——「~たり」との関係から——
    神永 正史
    2016 年 12 巻 4 号 p. 52-68
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー

    中古中期の仮名散文における「~てあり」の例文には,変化の結果状態を表すものとして,「(変化)主体+自動詞+てあり」と,「(動作)対象+他動詞+てあり」の形態を示す二つの構文がみられる。この「~てあり」の二つの構文と,「~たり」のもつ同じ二つの構文との比較を試みた。その結果,「~たり」には,主体の自発的変化,動作的変化,因果的変化の結果と,対象変化の結果を表す用法があるが,「~てあり」には,主体の因果的変化の結果を表す用法がないことを明らかにした。「~たり(たる)」は中世後期には衰退していき,その各用法は「~てある」や「~てゐる」に継承されていくが,その継承において,「~てある」や「~てゐる」構文の主語が,動詞「ある(在る)」「ゐる(居る)」の主語の性情による制限と関わるかどうかによって,京阪と東国では異なっていることも示した。この異なりの結果は,現代共通語のテアル,テイルの振る舞いの違いに結びつくのではないかと思われる。

  • 久屋 愛実
    2016 年 12 巻 4 号 p. 69-85
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー

    本研究は,「見かけ上の時間」の概念に基づき,意識調査データから日本人の外来語使用意識の変化を予測する。本稿では,既存語から外来語への交替(「外来語化」)がS字カーブを描いて進行していくと仮定し,生年と性別から外来語化を予測する多変量S字カーブモデルを構築した。外来語化のパターンは,単純増加のS字カーブを描くタイプもあれば,一定まで増加した後10代・20代で若干減少するタイプもあった。後者の最若年層における外来語化率の「低位」は,将来的な脱外来語化を意味するものではないと考えられるため,後者のタイプも前者と共通の単純増加モデルで変化予測が行えるようにした。その際,低位を引き起こす要因を撹乱要因として変数化する手続きが必要であった。この手続きにより,後者のタイプの外来語についても(1)生年のみの効果を抽出できる,(2)変化速度の過小評価を防げる,などのメリットが得られ,より正確な変化予測を行うことができた。

  • ——今昔物語集の「より」「を」——
    松本 昂大
    2016 年 12 巻 4 号 p. 86-102
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー

    本稿では,移動動詞に係る格助詞「より」と「を」が,「起点」と「経路」のどちらを表すかを検討する。「より」「を」を承けるかどうかと,その助詞が「起点」と「経路」のどちらを表すかという観点から,移動動詞をA~D類の4種に分類した。A類の動詞は,「より」「を」を承け,「より」は「起点」と「経路」を表し,「を」は「起点」のみを表す。B類の動詞は「より」,C類の動詞は「を」,D類の動詞は「より」「を」を承け,それらはすべて「起点」のみを表す。D類の「出づ」は「出現」を表す場合は「より」,「出発」を表す場合は「を」と結びつくという傾向が見られ,「出現」はB類,「出発」はC類の動詞と意味的特徴が共通する。以上のことから,助詞の用法は移動動詞の意味的特徴によって決定されるということを主張する。

  • 原田 走一郎
    2016 年 12 巻 4 号 p. 103-117
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー

    南琉球八重山黒島方言には二重有声摩擦音が観察される。本稿は、この二重有声摩擦音について以下のことを述べるものである。

    (1)黒島方言には二重有声摩擦音と単子音の有声摩擦音との音韻的対立を認める

    (2)基底に二重有声摩擦音をたてる必要がある

    (3)二重有声摩擦音の実現には揺れがあるが、それは言語類型論的傾向に合う

    二重音と単子音の有声摩擦音は、複合語の後部要素の先頭にたった場合にふるまいが異なる。具体的には、二重音のほうは無声化することがあるのに対し、単子音のほうは無声化しない。このような形態音韻的差異があるため、これらは音韻的に対立していると考えられる。また、言語内事実(動詞活用と母音同化の例外の除去)と言語類型論的傾向から、二重有声摩擦音を基底にたてるべき理由についても述べた。

  • ——無助詞と「の」と「が」の相互関係——
    金 銀珠
    2016 年 12 巻 4 号 p. 118-134
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/04/03
    ジャーナル フリー

    本稿は中古語の名詞節において主語を表示する「の」と「が」および無助詞の機能の違いを節内の主語,述語,被修飾語の総合的特徴と構造体系の相互関係に注目して明らかにした。中古語の名詞節における主語の表示は「構造の大きさ」と「指示」という二つの指標で条件づけられ,無助詞は節の内部の小さい構造の主語を表示する形態で,「の」は節の構造が拡張されている時の主語を表示する形態として機能している。「が」は「の」と無助詞の中間に位置する。各形態には特異な使用分布が観察されるが,これは本質的には構造の大きさに依拠して現れる相互補い合いの現象である。「が」は前接語を強く「指示」する機能を持ち,これにより主語の表示には「構造の大きさ」とは別の新たな指標が加わる。「が」は前接語に人を指す語を取ることが多かったことが機縁で節内述語が活動述語に偏るようになったと考えられる。

〔書評〕
《資料・情報》
日本語学会2016年度春季大会シンポジウム報告
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