日本語の研究
Online ISSN : 2189-5732
Print ISSN : 1349-5119
14 巻, 4 号
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山口明穂先生追悼特集
 
  • ──視点がない授受動詞の謙譲語──
    荻野 千砂子
    2018 年 14 巻 4 号 p. 14-30
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2019/06/01
    ジャーナル フリー

    南琉球石垣市宮良方言のujoohuNは共通語の「差し上げる」に相当する。しかし共通語と異なり一人称寄り視点や人称制約がなく,敬語上のⅠ人称がない。補語を高く位置づける謙譲語の機能を持つが,上位者主語の場合,主語を軽度に高める「主語恭敬機能」も持ち,「上位者主語=上位者補語」で使用できる。また「授与方向優先の機能」を持ち,補語が話し手より下位者でも「主語<補語」で使用できる。一人称の位置は序列の中で固定されるため「下位者主語,上位者補語」で一人称(複数)補語が許容される時がある。また尊敬語ooruN(なさる)を下接した二方面敬語ujooh-ooruN(謙譲語+尊敬語)が上位者主語で用いられ,「主語≦補語」「主語>補語」で使用可能だが「主語>補語」では主語を補語より高く位置づける。「上位者主語,下位者補語」で一人称(複数)補語が許容される時がある。上位者へ優先的に敬語を用いる「上位者優先のルール」があるためである。

  • 簡 月真
    2018 年 14 巻 4 号 p. 31-47
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2019/06/01
    ジャーナル フリー

    本稿では,台湾で使われている宜蘭クレオールの人称代名詞について,東岳村で得たデータをもとに,体系を記述し,その変化のプロセスを明らかにした。宜蘭クレオールの人称代名詞は基本的に上層言語の日本語の形式に由来するが,その多くはくだけた形式由来であり,植民地の社会的構造を反映していることが推測される。数の区別はあるが,自立形式と拘束形式の区別や格,スタイルによる区別はない。一人称に包括的複数と除外的複数の区別があり,それは基層言語のアタヤル語の用法を受け継いていると考えられる。また,一人称単数形の属格および与格には傍層言語の閩南語の形式が取り込まれていること,接尾辞-taciが複数マーカーとして規則的に用いられていること,短縮形が多くみられることが指摘できる。なお,世代間の変異から,人称代名詞の変化のプロセスを突き止めることができた。

  • ──発音注記に着目して──
    竹村 明日香, 宇野 和, 池田 來未
    2018 年 14 巻 4 号 p. 48-64
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2019/06/01
    ジャーナル フリー

    室町後期から江戸期にかけて作られた謡伝書にはしばしば五十音図が掲載されており,行段それぞれに謡曲独自の発音注記が付されている。本稿ではそれらの発音注記を精査し,おおよそ二系統に大別できることを明らかにした。一つは悉曇学の影響が強い系統で,行を「口喉舌唇」,段を「上音/中音/下音」の対立で捉えるものである。もう一つは,室町後期以降に権威のあった『塵芥抄』系伝書の系統であり,行を「喉舌歯腮鼻唇」,段を「ひらく/ほそむ/すぼむ」の対立で捉えるものである。『塵芥抄』系伝書の五十音図とその発音注記は,近世の謡伝書や学問書には直接引用されていないものの,処々にその影響を窺わせる記述が見られる。タ行の調音に「腮」を用いて説明している点等は『蜆縮涼鼓集』の記述とも共通しており,近世期における日本語音の把握には,『塵芥抄』系伝書の影響が少なからずあったと考えられる。

〔書評〕
《資料・情報》
日本語学会2018年度春季大会シンポジウム報告
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