軟鋼或は純鐵の裸棒を以つて電弧熔接を行へば棒と母材は頻繁に規則正しく周期的な接触短絡を繰返す.然るに一般の非鐵金属は固よりの事,炭素含有量の多い鋼に於てすらこの様な周期的な短絡は起らず,軟鋼に於てもこれに有効な被覆を施して遮蔽電弧とすればこの傾向は著しく減殺されてしまふ.
以上の事実より考へて,熔接時に棒端と母材とが周期的な短絡を行ふのは鋼特有の現象であると同時に,其の原因としては空気中の窒素或は酸素の存在が重大な役割を演じて居る事が想像される.
この点を実験的に明かにする為に電弧雰囲気を自由に変じ得る如き気密器中にて鐵電弧を点じ,電極先端の運動状態を高速度活動写真並に電磁オシログラフにより観察研究した.
其の結果次の事実を明かたする事が出来た.
(1)低圧空気中にては気圧10mm Hg程度迄は周期的短絡は発生する.
(2)1気圧のN2-O2混合気中にては或る範囲の混合割合に於てのみ周期的短絡が發生し得るのであるが,純N2或は純O2中に於ては共に斯様な短絡は全くおこらない.
(3)H2,Cl2等とN2との混合氣中では周期的短絡は全くおこらない.
(4)然るにH2,Cl2等とO2との混合氣中では混合比率さへ適當ならば,空氣中と同様な周期的短絡を生ずる.
以上の事實より次の如き結論を下し得る.即ち鐵電弧の周期的短絡は空氣中のO2の存在に基づく,但し,O2 100%にては却つて周期的短絡を起し得ない。即ち空中のN2はO2と混じて02を薄める媒質としてのみ意義がある.從つて空氣中のNZは周期的短絡に必要不可缺の要素ではなく,H2,Cl2等の他の瓦斯によりても之れと同じ役割を代行せしめる事が出來る.
O2の存在と周期的短絡と,壺の生成との間の關係に就いても興昧ある問題が殘されて居るが,之れは次の機會に譲る事とする.
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