中枢神経に属する視神経は軸索が損傷を受けると再生できず不可逆的に変性する.軸索の障害は神経細胞死を誘導するが,神経を保護しても障害を受けた軸索を再生させないと視機能の回復には至らない.しかし中枢神経のグリア環境は再生に阻害的に働くため生理的な環境下では再生を誘導できない.そのため神経保護のみならず軸索を保護し再生を促進する治療戦略が必要となる.
網膜の3次元培養は神経細胞死と神経突起再生を同時に評価でき,網膜レベルでの神経保護・再生の治療戦略を確立するための基礎的なエビデンスを提供するシステムである.我々はc-Fosが神経細胞死に必須の因子であり量依存性に神経細胞死を誘導すること,ミトコンドリア依存性・小胞体ストレス依存性の細胞死経路が関与すること,種々の神経栄養因子が神経保護・再生促進作用を有すること,NT-4が最も網膜レベルでの再生促進作用が強かったことを報告した.また,多くの網膜・視神経疾患の病態に関与する終末糖化産物(AGE)を負荷することにより神経細胞死・再生阻害が起きること,AGE誘導神経細胞死にJNKが関与することを示した.JNKは人糖尿病網膜や緑内障眼で活性化が確認されており,人の網膜・視神経疾患と培養網膜で見られる神経細胞死のメカニズムが共通していることが示唆される.このことから,培養で再生促進作用が確認された神経保護因子は人においても有効である可能性を示唆するものである.
In vivoでは中枢神経のグリアを末梢神経のグリアであるシュワン細胞に置換した人工移植片の移植により視神経再生を誘導することができ,最大で18%の再生率を得た.今後は移植ではなく視神経軸索のもとあるtractを再利用する現実的な再生戦略へシフトしていくと思われる.
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