FMO-MD法は、フラグメント分子軌道法(FMO)を用いた、第一原理分子動力学法である。今回、FMO-MD法を、水和タンパク質のような、高分子化合物を含んだ分子系に応用するためのアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムは、Dynamic fragmentation (DF) with static fragments (SF) (固定フラグメント存在下での動的フラグメント化、DF/SF法)と名付けた。FMO-MDでは原子核に掛る力をFMO法で計算するが、FMO計算に先立って分子(群)の構造に応じてフラグメントを定義する必要がある。ところがMDでは、分子構造が時々刻々変化するため、フラグメントの再定義が必要となる。この再定義のアルゴリズムがDF法であるが(Komeiji et al., 2010, Chem. Phys. Lett.
484, 380)、従来のDF法では、1分子全体を1フラグメントとみなして良い低分子化合物には有効でも、1分子を複数のフラグメントに分ける必要がある、ポリペプチドのような高分子化合物を扱うことができなかった。今回、DF法を拡張して、あらかじめ指定した固定フラグメントと、再定義可能な動的フラグメントが混在する系を扱うアルゴリズム、DF/SF法を考案し、ABINIT-MPプログラムに実装した。DF/SF法では、たとえば、ペプチドのアミノ酸残基はそれぞれ固定フラグメントに、周囲の水は動的フラグメントに指定して計算する。DF/SF法では、水素の扱いの違いによりいくつかのオプションがあるが、今回、水和(Gly)
2ペプチドを対象に試験的にFMO-MDシミュレーションを行い、それぞれのオプションの安定性を調べた。さらに、その結果に基づいて、DF/SF法の今後の生体高分子への応用について議論した。
抄録全体を表示