千葉県立保健医療大学紀要
Online ISSN : 2433-5533
Print ISSN : 1884-9326
12 巻, 1 号
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原著
  • 杉本 亜矢子, 川城 由紀子, 石井 邦子, 北川 良子, 川村 紀子, 青柳 優子, 植竹 貴子
    2020 年 12 巻 1 号 p. 1_3-1_10
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本研究の目的は、助産師の内診による診断技術の発達を明らかにすることである。

     助産学生および助産師が内診シミュレータで8パターンの内診を行い、ビショップスコア5 項目の診断とその他観察した内容について調査し、分娩介助例数別(学生群、99 例以下群、100 ~ 199 例群、200例以上群)で比較した。

     対象者は助産学生24 名(37.5%)、助産師40 名 (62.5%) であった。助産師の分娩介助例数別の人数は99 例以下群17 名、100 ~ 199 例群9 名、200 例以上群14名であった。分析の結果、ビショップスコア5項目のうち「展退」「子宮頸部硬度」「子宮口位置」は分娩介助例数が多い群の方が診断一致率は高く、経験を重ねるにつれ診断技術が向上していくと考えられた。一方「児頭下降度」について、分娩介助例数が多い群の方が診断一致率は低いという先行研究と同様の結果となり、その原因を解明する必要があることが示された。

  • 鈴鹿 祐子, 麻生 智子, 河野 舞, 酒巻 裕之, 金子 潤, 荒川 真, 石川 裕子, 麻賀 多美代, 大川 由一
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_11-1_18
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本研究は,成人対象者に対して,歯科専門職が7つの検査項目を用いて口腔機能低下症の評価を実施し,その結果と結果に基づいた口腔機能維持・向上のための個別のアドバイスを行った.また質問紙調査により,対象者の口腔機能低下症の理解や口腔保健行動に与える影響について把握し, 歯科衛生士として口腔機能低下症を予防する啓発方法を検討した.

     対象者は30 名(69.4±9.02 歳)であり,口腔機能低下症と評価された者は4 名(13.3%)であった.検査項目別では,舌口唇運動機能低下10 名(33.3%)が最も多く見られた.口腔保健行動に関する質問紙調査を介入前後で比較すると,「口腔機能低下症を知っている」が36.7%から83.4%に,「オーラルフレイルを知っている」20.0%から50%に増加した.一方,歯周病,う蝕の予防への関心度は減少したことから,対象者は自身の口腔状態を知り口腔機能低下症を認知したと考えられるが,改善が必要な項目も見られ,今後の課題となった.

報告
  • 鈴木 惠子, 河部 房子
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_19-1_25
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     研究目的は,千葉県内の病院の看護職員確保の困難の実態と,現在実施している採用活動・定着促進との関連を明らかにし,看護職員確保に向け,各病院レベルで講じることのできる対策について示唆を得ることである.

     千葉県内286 施設の看護管理者等に質問紙調査を実施した.169 施設の回答(回収率59.0%)のうち,看護師の採用の困難あり116 施設(70.8%),定着の困難あり69施設(40.8%)であった.採用活動のうち「臨地実習の受け入れ」(p= .009)は困難がない方向に関連があり,定着促進のうち「看護手順書・マニュアルの整備」(p= .043)は困難がない方向に関連があった.病院が看護職員確保の困難を軽減するには,採用活動では求職者側が求める情報が効果的に発信できているか,定着促進では看護マニュアルや入職者へのサポート体制が機能しているか,それぞれ見直す必要があることが示唆された.

資料
  • ―当大学の取り組み―
    成田 悠哉, 河原 春奈, 神保 安奈, 牛澤 一樹, 西山 貴裕, 坂田 祥子, 島田 美恵子, 岡村 太郎
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_27-1_31
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     目的:大学教員の指導のもと,病院に勤務する作業療法士がプロボノとして集合住宅在住の高齢者を対象に介護予防教室を実施し,その効果を検証することとした.

     方法:集合住宅在住の高齢者を対象に,作業療法士がプロボノとして介護予防教室を月に1 度,計3 回実施した.介護予防教室では,転倒予防,交通安全,介護・認知症予防をテーマに,グループワーク中心のプログラムを実施した.介入前後にてSF-12 や介護予防チェックリストの変化を比較するために,Wilcoxon 符号順位検定を行った.

     結果:継続参加者は11 名であり,平均年齢は78.4 ±8.3 歳であった.介入前後でSF-12 の日常役割機能(身体)のみ有意に増加する傾向(p = 0.058)を示した.

     結論:プロボノの作業療法士による介護予防教室が,集合住宅在住の高齢者の健康関連QOL の日常役割機能(身体)に影響を及ぼす可能性が示唆された.

  • 石川 紀子, 西野 郁子
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_33-1_37
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     保健医療専門職を目指す学生が在学中に小児医療に関わるボランティア活動を経験することの意義や効果を検討したいと考え,在学中に活動に参加した9名の卒業生を対象に,小児医療に関わるボランティア活動に参加したことで得た経験や学びについて,半構成面接調査を実施した.

     調査の結果,調査対象者は活動を通じて子どもという対象の理解や,子どもとの関わり方を学ぶことができたと共に,小児医療施設の現状や人的環境,家族支援の必要性についても学ぶことができていた.

    現在の医療従事者としての活動に与えている影響として,子どもに積極的に関わることができるようになったこと,家族も対象者として捉える姿勢をもつことができていることが挙げられた.

     活動を通じて,子どもの特徴や家族が置かれている状況について学ぶことができ,医療従事者となった現在の職場での対象者理解の広がりや家族支援にも活かされていると考えられた.

  • 山本 千代
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_39-1_44
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     【目的】臨床看護研究の指導の現状と看護師が求めている研究指導を明らかにするために文献検討を行った.

     【方法】検索誌として医学中央雑誌Web 版を用いた.「臨床看護研究」と「指導」および「支援」をキーワードに選定した20 文献を,臨床看護研究における研究指導の現状,研究を実践する看護師もしくは組織で指導を担う者が求める研究指導という視点から精読し,関連する記述を収集し,類似した内容ごとに整理した.

     【結果・考察】組織の指導者に求めることは,研究指導者の確保であった.外部指導者に求めていることは,研究の専門的知識の指導と組織の指導者育成の支援であった.組織による研究指導には限界があり,外部指導者と協働して研究指導を実施することが求められていた.困難を抱えながらも,看護師が臨床看護研究に取り組める研究指導を継続し,研究実践と成果を蓄積し,研究をする土壌を育むことが,臨床看護研究の推進のためにも重要である.

  • :就業場所とキャリアステージに焦点を当てて
    杉本 知子, 浅井 美千代, 佐藤 まゆみ, 佐藤 紀子, 植村 由美子, 川城 由紀子, 西野 郁子
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_45-1_51
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     平成25年度調査から,千葉県内の中小規模施設で就業する看護師の職場外研修の受講の実態を就業場所,およびキャリアステージ別に明らかにすること,その受講の決定に影響する要因について検討することを本研究の目的とした.

     平成25年度調査に協力し,上述の施設で就業する758名を対象に,職場外研修に参加しづらい理由と職場外研修を受講するにあたり重視する項目についての回答を4件法で求めた.その上で,各項目に該当する程度に基づいて対象者を2群化し,Fisherの正確確率検定を用いて各群の職場外研修受講者の割合を比較した.

     職場外研修の受講者割合を就業場所別にみたところ,診療所と介護保険施設では30%台にとどまることが示されたため,これらの場で就業中の看護師の職場外研修の受講者割合を高めていくことが重要になると考えられた.また,職場外研修の受講者は非受講者と比べて時間を重視する傾向にあり,しかもその傾向は熟練看護師を除くすべての看護師にみられたことから,職場外研修の開催時間に配慮したり,オンライン形式での研修などを導入することにより,受講者の割合が高まるのではないかと考えられた.

  • -国内の文献による検討-
    相馬 由紀子, 上野 佳代, 杉本 知子, 佐伯 恭子, 高栁 千賀子, 鳥田 美紀代
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_53-1_61
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     我が国の病院や介護施設で就労している外国人看護師・介護福祉士候補者の職場定着に向けた支援の実態を明らかにすることを目的とした文献調査を行った.

     分析対象文献の選定は,二つの方法で行った.一つは,「病院&外国人」,または「介護施設&外国人」という2つの検索式を設定し,医中誌web版等のデータベースで該当する文献を抽出する方法である.もう一つは,前述の方法で抽出した文献の文献リストを概観し,「病院」「介護施設」「外国人」のキーワードが含まれている文献を抽出する方法である.これらの方法で抽出した文献のうち,発刊が2008年以降のものに絞り込んだ結果,15文献が分析対象となった.

     病院や介護施設に従事する外国人看護師・介護福祉士候補者の職場定着に向けた支援の実態に関する記述を15文献の中から抜粋し,類似性にそって整理をしたところ,住まいの提供や日本語の習得に関するもののみでなく,宗教・文化の理解や業務の遂行を促すなど,外国人看護師・介護福祉士候補者に対して多面的な支援が行われていることが明らかになった.

  • 細山田 康恵, 東本 恭幸, 河野 公子, 海老原 泰代, 阿曽 菜美, 岡田 亜紀子, 峰村 貴央, 島田 美恵子, 麻賀 多美代, 麻賀 ...
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_63-1_67
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     千葉県の健康課題は,健康課題分析事業報告により,地域により相違があるが,高齢化率の上昇は共通していることがわかる.健康寿命の延伸は千葉県にとっても大きな課題である.そこで本研究では,本学教員が作成した「千葉県立保健医療大学が行う地域のための健康づくりプログラム(以下,ほい大健康プログラム)」を実施し,評価した.満足度において,すべての分野で70%以上の方が「大満足」「,やや満足」と回答しており,ほい大健康プログラムが千葉県民の健康づくりに寄与できることが示唆された.各分野のプログラムによる生活習慣の変化は「,食習慣の見直しを実施」49.2%「,コグニサイズの習慣化」13.8%「,以前より口腔ケアを意識する」64.6%「,大いに運動するようになった」38.5%であった.また「,カフェは学生や先生と話ができたことがよかった」69.2%であった.今回の活動をもとに,教員および学生の他学科連携力・地域貢献力の向上などにも活かしていきたい.

  • 岡田 亜紀子, 東本 恭幸, 河野 公子, 海老原 泰代, 峰村 貴央, 細山田 康恵
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_69-1_75
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本研究の目的は,千葉県立保健医療大学とUR都市機構との連携協定をもとに本学が実施した,地域在住高齢者対象の介護予防プログラム「ほい大健康プログラム」を軸とする「体験型学習プログラム」に参加した学生が得られる学修効果の評価をおこない,よりよいカリキュラム構築に寄与することである.

     無記名・自記式質問紙調査を用いて評価を実施したところ,プログラムへの自身の積極的な参加,対象者の特性理解,対象者に配慮した適切な対応方法の習得,対象者との積極的な交流,仲間と互いに配慮・協力し合う方法の習得に関する設問に,9割を超える学生が肯定的な回答をした.自由記載の設問では,学生は修得した専門知識を活用するだけでなく,プログラム全体の構成など,広い視野を持って気づきを得ていた.

     今後もプログラムには改善を要するものの,ほい大健康プログラムは学修効果の得られる体験型学習プログラムとして捉えることができた.

その他
  • 麻賀 多美代, 麻生 智子, 大川 由一, 鈴鹿 祐子, 酒巻 裕之, 河野 舞, 金子 潤, 荒川 真, 石川 裕子, 島田 美恵子
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_77-1_81
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     現在,本学と平成29年に連携協定を締結している千葉市のUR住宅在住の高齢者を対象に歯科衛生学科が主体となり,多職種連携によるオーラルフレイル予防に向けた介入研究(健康増進プログラムの実施)を行っている.

     健康増進プログラムの実施にあたっては,将来,歯科衛生士を目指す学生が健康増進に関わる専門家としての連携や協働,地域の特性などを学ぶためにボランティアとして参加した.その結果,プログラムに参加した高齢者からはプログラムの内容,居住地域での開催,大学教員や学生と触れ合いが評価され,学生は高齢者の特性を理解し,適切に対応する方法を学び,積極的に高齢者と交流する機会を得ることができた.また,プログラムで企画や運営に係わったことで健康増進にかかわる専門家としての連携や協働の重要性を学ぶことができた.

  • 杉本 健太郎, 植村 由美子, 櫻井 理恵, 増田 恵美, 雨宮 有子, 富樫 恵美子
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_83-1_88
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     千葉県からの要請に基づき,本学看護学科教員10名は,4月20日から5月末まで,交代で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の軽症者向け宿泊療養施設に派遣された.そこでの活動と学び・課題を報告する.

     看護学科看護系教員が配属された現地事務局の「保健医療班」の所掌は,①入所者の健康管理,②医療相談,③PCR関係業務,④スタッフの健康管理,⑤衛生物品の管理とされ,安全で現実的,効率的な活動を模索しながら活動した.

     活動から得た学びは,COVID-19により縮小した入所者の権利を速やかに回復し不安を減弱すること,状況に応じた衛生物品の見直し・確保・確実な感染予防策の実施,スタッフの健康管理と長期的な活動体制づくりの重要性であった.課題は,早期からの組織的な入所者のメンタルヘルスケアと,スタッフのCOVID-19への感染リスクの不安を減弱し社会的スティグマを防止し安心して活動できる状況を整えることであった.

  • 佐藤 紀子, 片平 伸子, 植村 由美子
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_89-1_94
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本学では,千葉県庁からの要請を受けて新型コロナウイルス感染症における支援活動として,看護教員を県内の保健所と軽症者宿泊療養施設に派遣した.本報では,看護学科の教員派遣の体制に焦点をあて,その実際と評価を報告する.

     派遣期間は4 月13 日~ 6 月22 日の約2 か月間で,30 名の看護教員を派遣した.

     学科で整備した体制は,1)教員派遣方針の策定と周知,2)派遣教員の心理的支援体制,3)クラウド上での情報共有,4)派遣教員の負担軽減策であった.

     活動体制の評価としては,学科の方針を早期に周知し,報告会の開催や派遣状況をクラウド上で共有できるようにしたことは,教員の不安や不満の解消の一助になったと考える.一方,心理的抵抗感や自身の家庭・生活との調整,派遣と学内業務との両立等で,葛藤や疲労困憊の状態になった教員もいたことから,個々に抱える事情を吸い上げる体制などには課題が残ったと考えられた.

第11回共同研究発表会(2020.9.7~9.11)
  • 山本 達也, 杉山 淳比古
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_95
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     パーキンソン病(Parkinson’s disease:PD)は動作緩慢を主体とし筋固縮,安静時振戦を主徴とする神経変性疾患であるが,運動症状以外に多彩な非運動症状を呈することがしられており,特に排尿障害は患者のQOL(quality of life)を大きく損なうことが知られている1)

     進行期パーキンソン病では運動合併症に対し脳深 部刺激療法(Deep Brain Stimulation:DBS)が行われ,運動合併症は劇的に改善する.PDの排尿障害は難治性であり薬剤抵抗性のことも多いが,DBSが排尿障害に対し有効であるとの報告が散見されている.PDの排尿障害は中枢神経障害が原因と考えられ,DBSが排尿中枢の働きを変化させることで排尿障害を改善できる可能性が考えられる2)

     PDの難治性排尿障害の治療開発にあたり,DBSが排尿障害を改善させるメカニズムの解明が重要と考えられたため,パーキンソン病モデルラットを作成し検討した.

    (研究方法)

     PDモデルラットは正常ラットにドパミン神経毒である6-hydroxydopamine(6OHDA)を内側前脳束に注入して作成した.

     実験は正常ラット6頭,PDモデルラット6頭を用い実験を行った.実験はウレタン麻酔下で膀胱に内圧測定用のカテーテル,重要な排尿中枢として知られている内側前頭前野(medial prefrontal cortex: mPFC)に細胞外電位記録用電極と細胞外液採取用透析プローブを刺入し,視床下核(subthalamic nucleus: STN)に刺 激電極を刺入して行った.

     STN-DBS刺激前(30分),刺激中(30分),刺激後(30分)でmPFCの細胞外電位測定,細胞外液採取を行い刺激の影響,膀胱内圧との関係を検討した.

    ((結果)

    STN-DBSは正常ラット,PDモデルラットともに膀胱収縮間隔を有意に延長した.STN-DBSはmPFCの細胞外電位の8-13Hzの周波数帯(α波)のパワーを正常ラットでは有意に低下させ,PDモデルラットでは有意に上昇させた.またSTN-DBSにより正常ラットではmPFCのセロトニン,セロトニン代謝産物,ドパミン代謝産物が有意に減少し,PDモデルラットではレボドパ,ドパミン,セロトニンとそれらの代謝産物が有意に減少していた.

    (考察)

     本研究によりラットにおいてSTN-DBSはmPFCのα周波数帯のパワーを変化させることで膀胱収縮間隔を調節している可能性があることが示唆された.またmPFCに豊富に存在するカテコラミンも膀胱収縮間隔の変化に関与している可能性が示唆された.更に正常ラットとPDモデルラットでmPFCのαパワー,カテコラミン濃度の反応性が異なることから正常と病的状態では排尿中枢の働きも異なることが示唆された.これらの結果からSTN-DBSの刺激パラメーターをうまく調節することでmPFCの神経活動を調節し,ヒトにおけるPDの排尿障害も改善できる可能性があると考えられた.

    (倫理規定)

     本実験は国立大学法人千葉大学動物実験規定にもとづく動物実験委員会に承認されて行ったものである(動1-421).

    (利益相反)

     開示すべきCOIはない.

  • ─ 正中神経における分枝による違い ─
    三和 真人, 藤尾 公哉, 江戸 優裕, 雄賀多 聡, 高橋 宣成
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_96
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     近年,診療報酬改定に伴い感覚評価が必須となり,神経伝導検査が用いられている.しかし,手指の伝導速度の正常範囲設定が不可欠であるものの,今日まで正常値を表した論文が見当たらない.特に環指の正中・尺骨神経の感覚神経伝導速度(sensory conduction potential;SCV)や母指の正中・橈骨神経感覚神経伝導速度の潜時差について検討はされてきたが,未だ正中神経の環指と母指の速度乖離について報告はない.

     そこで,本研究は環指と母指の速度から同じ正中神経の乖離の原因を解明することを目的とした.

    (研究方法)

     対象者は21~37歳の健常成人102名(男性82,女性20),平均年齢24.9±3.5歳,被験手は利き手(右94,左8)とした.

     測定は正中神経,尺骨神経,橈骨神経浅枝の感覚神 経活動電位(sensory nerve action potential;SNAP)を 記録し,陰性頂点までの頂点潜時(peak latency)を計測してSCVを算出した.環指と母指のSCV記録はMP関節とPIP関節の間に関電極,DIP関節上に不関電極,手掌中央に接地電極を設置して計測した.

     Robinson1)やLewら2)による手根管症候群の伝導神経検査方法に基づき,刺激部位は関電極から14cm近位部の正中・尺骨神経上とし,0.2msecの矩形波で最大上刺激をそれぞれの神経に加えた.同様に母指に対して関電極から10cm近位部の正中神経と橈骨神経浅枝上に加えた.

     統計分析にはpeak latencyは対応のあるt検定で比較した.各神経のSCVは一元配置分散分析を行い,差の比較はBonferroni検定を用いた.なお,有意水準は5%とした.

    (結果)

     (1)環指SNAPのpeak latencyは尺骨神経3.4±0.6msec,正中神経3.4±0.6msecと差がなかった.母指SNAPの peak latencyは橈骨神経浅枝2.6±0.5msecで,正中神経2.6±0.5msecよりも短かった(p<0.01).

    (2)SCVについては,環指の正中神経SCV41.1±3.8m/s,尺骨神経SCV41.0±4.3m/sと両神経間に差はなかった.母指については正中神経SCVの36.2±4.3m/sと,橈骨神経浅枝SCVの39.4±3.9m/sよりも遅く,優位な差が認められた(p<0.05).

     これらのことから,母指正中神経のSCVは,環指の正中神経,尺骨神経と母指の橈骨神経浅枝のSCVよりも遅かった(p<0.01).

    (考察)

     橈骨神経浅枝のSNAPは母指正中神経のSNAPに比 較してpeak latencyが明らかに短かった.橈骨神経浅枝は皮膚直下を走行しているのに対して,正中神経は橈側手根屈筋や長掌筋の深部で手根管内を走行しているため,潜時差が生じていると考えられる.つまり,髄鞘の損傷による伝導速度遅延や神経ブロックが発生しやすく,遅延を生じる可能性が高いものと考えられる.

     何故に同じ正中神経でも分枝によってSCVがことなるのだろうか.本研究は若年の健常成人を対象としており,母指への正中神経の分枝だけが特異的に障害されるとは考えにくい.

     一般的に,末梢神経は末梢になればなるほど径は細くなり,神経筋接合部のend-plateに近づくにつれて有髄神経においても無髄となる箇所が存在することより,伝導速度の遅延を助長する可能性がある.つまり,SCVが低下する原因の引き金となる非一様性が存在することが考えられた.

    (倫理規定)

     本研究は本学研究等倫理委員会の承認を得て実施したものである(2019-03).なお,本研究について申告すべきCOIはない.

  • 加藤 隆子, 渡辺 純一, 渡辺 尚子, 齋藤 直美
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_97
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     これまで私たちは,精神科病棟に勤務する看護師を対象に,トラウマにより生きにくさを抱えた患者に対する看護支援に関する研究を進めてきた.患者の支援は入院中だけではなく,地域での継続した支援が重要である.そこで本研究では地域で生活しているトラウマにより生きにくさを抱えている人への支援経験のある援助者の体験を明らかにし,課題や教育支援ニーズを検討することを目的とした.

    (研究方法)

    研究対象者:トラウマにより生きにくさを抱えている 人を地域で支援している援助者

    調査期間:2019年6月~2020年3月

    調査方法:半構成インタビューによる質的研究方法.トラウマにより生きにくさを抱えている人を地域で支援している多職種を対象にインタビューを行い,逐語録におこした.インタビューは一人につき1~2回45~90分行った.インタビューでは,トラウマにより生きにくさを抱えている人(以下,利用者)への支援経験について,印象に残っている場面を取り上げ,その時の感情や思考,行動,配慮していたことを中心に語ってもらった.

    分析方法:支援経験に関連した体験について,生じた感情や思考,行動についての語りを質的に分析しカテゴリー化した.

    (結果)

     調査対象施設は,関東と関西圏内の4施設で,研究参加者は10名(看護師4名,作業療法士2名,心理士2名,精神保健福祉士1名,臨床傾聴士1名),女性6名,男性4名,平均年齢は,48.9歳であった.

     分析の結果,多職種に共通して体験している支援として以下のことが明らかになった.援助者は,支援を通して,利用者主体の関係性作りと安心で安全な環境を提供することを心掛けていた.そして,現在の病状の改善に向けた支援,日々の生活を当たり前に送れるよう今を積み重ねることに着目した支援を行っていた.その中で,援助者はトラウマの問題を扱うことの困難感を抱いていた.具体的にはトラウマへの理解が十分ではない場合には,トラウマを扱うことへの恐れや不安を生じていた.また,援助者は利用者対応から生じるストレス,援助者として関わりをふり返る機会が少ないなどの困難も抱いていた.さらに利用者との関わりを通して自己理解が進み,援助者の持ち味を生かした支援を行うことや利用者と適度な距離感を保つこと,独自の専門性の限界を補い合うことで,援助者の体験に変化がみられていた.援助者は利用者の逆境体験やそこからくる生きにくさを知り,利用者への理解が深まり支援の姿勢が変容し,トラウマからの回復を意識化できる支援を行っていた.このような関わりで,援助者は利用者との関係性の深化と手応えを感じていた.

    (考察)

     日々の生活を当たり前に送ることに着目して支援することは,地域で生活を支える援助者の特徴であった.そして,利用者の成育歴など背景への理解や自己理解を深めることは,効果的な支援の姿勢につながっていた.しかしながら,援助者は利用者との関わりの中でトラウマの問題を扱うことへの困難を感じており,トラウマの基本的な理解とともに,介入のタイミングや方法についての教育支援の必要性が示唆された.また,援助者のストレスや自己の関わりをふり返る機会が少ないという結果から,援助者へのサポートシステムの検討が課題である.

    (倫理規定)

     千葉県立保健医療大学の研究等倫理審査委員会(2019-02)の承認を得て実施した.調査対象施設と研究参加者には,文書と口頭で研究の目的,方法,守秘義務,研究参加の任意性,途中辞退の権利,辞退した場合でも不利益を被らないこと,研究結果の公表について説明し同意書によって同意を得て実施した.

    (利益相反)

     発表内容に関連して申告すべきCOI状態はない.

  • 河野 舞, 金子 潤, 島田 美恵子, 荒川 真, 雄賀多 聡
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_98
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     顎口腔系は歯,顎関節,咀嚼筋と頭頚部の筋群および周辺組織によって構成され,協調して働くことにより顎口腔機能が営まれていることから,咬合異常および咬合の変化が,頭位や全身の姿勢に影響を及ぼすことが報告されており,さらに全身の不定愁訴との関連性も示唆されている.近年,生活習慣等により頭部の前方偏位や猫背などの不良姿勢を呈する若年層が増加しているが,若い頃からの不良姿勢が積み重なることで,咬頭嵌合位が大きな自覚症状もなく徐々に不安定になり,様々な咬合異常や咬合の変化が惹起される可能性が考えられる.そこで本研究では,現状における若年者の咬合関係と姿勢との関連を模索することを目的とした.

    (研究方法)

     対象者は2018および2019年度歯科衛生学科学生のうち研究協力の承諾が得られた学生とした.

     咬合関係では,咬合接触面積と咬合力を測定した. 咬合圧測定用感圧フィルム(デンタルプレスケールⅡ ®, GC)を用い,咬頭嵌合位における咬合を確認後,座位の状態において感圧フィルムを最大咬合力で3秒間咬ませ試料採得を行い,その後専用解析装置を用いて咬合接触面積と咬合力を解析した.また,咬合検査前後に質問紙調査(悪習癖・身体症状・顎関節症の有無等)を行った.

     姿勢の測定は,矢状面および正面方向より撮影した安静立位写真撮影と,スパイナルマウス®を用い安静立位における矢状面彎曲の測定を行った.姿勢の良否に関しては,安静立位写真とスパイナルマウス®のデータを本研究チームの研究者がそれぞれ観察し,本研究チームの5名中3名以上が「不良姿勢」と判断した対象者を「不良姿勢群」とし,「良姿勢群」も同様に研究者の判断が一致した者とした.

     統計解析は,SPSS. Statistics Ver.25を用い,良姿勢と不良姿勢における2群比較ではt検定を,脊柱アライメントと咬合力の関連性についてはSpearmanの順位相関を求めた.有意水準は5%以下とした.

    (結果)

     同意が得られた64名のうち28名(良姿勢群15名・不良姿勢群13名)を対象者とした.対象者全体における咬合力の平均値は1089.3±483.2N,咬合接触面積は30.7±11.9mm2であった.また仙骨傾斜角は8.9±8.8°,胸椎後弯角は33.1±9.1°,腰椎前弯角は-23.2±9.0°であった.咬合接触面積において良姿勢群(24.9±9.7mm2)と不良姿勢群(37.4±10.9mm2)の間に,咬合力において良姿勢群(864.7±333.7N)と不良姿勢群(1348.3±509.6N)との間に有意差が認められた.また,スパイナルマウス ®における脊柱アライメントと咬合力と咬合接触面積の関連性では,仙骨傾斜角と咬合力との間に有意な正の相関(r=0.60)が,咬合接触面積との間に有意な正の相関(r=0.50)が認められた.腰椎前弯角と咬合力との間には有意な負の相関(r=-0.55)が,咬合接触面積との間には有意な負の相関(r=-0.50)が認められた.ブラキシズムの有無と姿勢の良否に関して独立性の検定を行ったところ,カイ二乗値5.04,有意差0.03であり,ブラキシズムの有無と姿勢の良否の間に関連性が認められた.

    (考察)

     本結果より,姿勢の良否と咬合接触面積,咬合力,ブラキシズムには関係があることが示唆された.適切な噛みしめは姿勢制御に良い影響を与えるが,ブラキシズムは顎関節や頭頚部の筋群に負の影響を与え,頭位や全身の姿勢に影響を及ぼすことが報告されており,ブラキシズムの有無は姿勢にも影響を及ぼす可能性が示唆された.また,日常生活において過度に強い咬合力は,歯や歯周組織,歯槽骨の破壊にもつながることから注意が必要とされている.しかし若年成人女性の咬合力の標準値は文献により大きく異なる(1087~2170N).本結果における不良姿勢の咬合力が過度に強いのかどうかも含め,咬合と姿勢の関連性について今後更なる検討が必要であると思われる.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号2018-18).

    (利益相反)

     演題発表に関連し,開示すべきCOI関係にある企業等はない.

  • 金澤 匠, 細山田 康恵
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_99
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     体たんぱく質分解機構の1つであるオートファジーは,たんぱく質やオルガネラ(ミトコンドリアなど)を分解することにより細胞の恒常性維持に働いている.また,オートファジーは脂肪分解にも寄与しているため,その活性低下は肝臓での脂肪蓄積の要因にも なる.本研究では,脂肪肝を呈する肥満ラットに対してカロテノイド類(β-カロテン,ゼアキサンチン)を摂取させ,肝臓オートファジー活性及び脂肪蓄積への効果について検討した.

    (研究方法)

     実験には6週齢のZucker fa/faラット(n=12)及びZucker +/+ラット(n=4)を用いた.Zucker fa/faラットはレプチン受容体遺伝子の変異により肥満を呈する.一方,Zucker +/+ラットはZucker fa/faラットで見られる遺伝子変異がない野生型であり,肥満を呈さない.実験では,Zucker fa/faラットを3群(各n=4)に分け,基準食(ND),0.05%β-カロテン添加食(CD),0.05%ゼアキサンチン添加食(ZD)で2週間飼育した.また,Zucker +/+ラットはNDで飼育した.その後,非絶食・麻酔下で肝臓及び血清を採取した.肝臓の分析では,オートファジーマーカーたんぱく質(LC3,ATG5,p62)及び脂肪滴たんぱく質Perilipin2(PLIN2)の測定を行った.LC3とATG5はオートファジーに必須なたんぱく質であり,p62はオートファジーにより選択的に分解されるたんぱく質である.PLIN2は,肝臓での脂肪滴形成に必要なたんぱく質である.

     血清の分析では,ホルモン(インスリン,グルカゴン)濃度,血糖値,抗酸化力(BAPテスト),酸化ストレス度(dROMテスト)の測定を行った.

    (結果)

     Zucker fa/faラットの肝臓では,Zucker +/+ラットに比べてLC3の有意な低下が見られた(p<0.05).さらにZucker fa/faラットを用いた3群間で比較したところ,ZD群でND群に比べてLC3及びATG5の有意な増加が見られた(p<0.05).一方,p62については有意な変化は見られなかった.

     脂肪滴たんぱく質であるPLIN2は,Zucker fa/faラットの肝臓においてZucker +/+ラットに比べて有意に増加した(p<0.05).そしてZD群では,ND群に比べてPLIN2の有意な減少が見られた(p<0.05).

     Zucker fa/faラットではZucker +/+ラットに比べてインスリン濃度,グルカゴン濃度及び血糖値が有意に増加した(p<0.01,p<0.05,p<0.05).そしてZD群ではND群に比べてインスリン濃度及び血糖値の有意な低下が見られ,グルカゴン濃度についても低下する傾向が見られた(p<0.05,p<0.01,p<0.1).

     BAPテスト及びdROMテストの結果,CD群でND群に比べて増加する傾向が見られた(p<0.1).一方でZD群では変化は見られなかった.

    (考察)

     Zucker fa/faラットでは肝臓オートファジーの低下が生じ,その低下はゼアキサンチン摂取により改善した.また,PLIN2の結果から,Zucker fa/faラットにおける脂肪肝がゼアキサンチン摂取により改善する可能性も示された.

     Zucker fa/faラットは高インスリン血症や高血糖を呈しているが,これらの症状もゼアキサンチン摂取により改善した.

     本研究の結果から,ゼアキサンチンは肥満ラットの肝臓オートファジーを促進し,脂肪蓄積を抑制することが示唆された.さらに,ゼアキサンチンによる高インスリン血症や高血糖の改善も確認され,肝臓オートファジーの促進作用への関与が考えられる.そしてこれらの効果はβ-カロテンでは見られなかった.一方で,酸化ストレスや抗酸化力はβ-カロテンでは増加したが,ゼアキサンチンは影響しなかったことから,抗酸化力はゼアキサンチンによる肝臓オートファジーの改善作用には関与していないと考えられる.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学動物実験研究倫理審査部会の承認(2019-A05)を得た上で「千葉県立保健医療大学動物実験等に関する管理規程」に従って行った.

    (利益相反)

     本研究について申告すべきCOI状態はない.

  • ─ 長期縦断調査による解析
    島田 美恵子, 金子 潤, 荒川 真, 河野 舞, 岡村 太郎, 綾部 誠也, 濃野 要
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_100
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     「フレイル」は単に身体機能面のみでなく,社会的・精神的な側面の低下も含む概念と評価であり,しかるべき介入により再び健康な状況にもどる可逆性を示すことに特徴がある.今日,多面的な側面からの介入方法およびエビデンスの蓄積が求められているが,フレイル状態となった高齢者の,回復期リハビリテーションを含む健康状態の変化を,長期に追跡した報告は稀少である.本研究の目的は,長期縦断調査に基づいた生活機能(身体的自立,知的能動性,社会的役割)と体力の加齢変化を把握することで,虚弱(フレイル)高齢者への健康支援介入方法を開発する基礎資料を得ることである.

    (研究方法)

     本研究では,①新潟市高齢者調査1),②千葉県健康調査について解析した.本報告での測定項目は,身体計測,体力(握力・開眼片脚立ち),老研式活動能力指標とした.

     ①我々研究チームは,1998年から,新潟市在住1928年生まれの高齢者600名(1998年当時70歳)に対し,介入を伴わない年1回の健診を20年間継続している.老研式活動能力指標にみる20年間の生活機能および体力の変化を,90歳までの生存・死亡群別に比較検討した.②2011年から,不定期に,千葉県在住の高齢者203名(平均年齢76.6±5.9歳)に対し,年1回の健診と月1回程度の健康教室開催による介入を継続している.対象者の初回調査において,握力が男性28㎏以下,女性18㎏以下をプレフレイル高齢者と選定し,4年後の体力の変化を検討した.

    (結果)

    新潟調査:老研式活動能力指標でみる「社会的役割」は,79歳時おいて,死亡群と比較して生存群が高値であり,また生存群では死亡群と異なり70-79歳までに著しい低下はみられなかった.生存と死亡の,有意な群間の差を示す79歳時の指標は,BMIと「身体的自立」であった.

    千葉調査:2011年~2014年までの健診で,体力測定を受けたものは190名であり,このうち48名が初回から4年後以降も測定を受けていた.初回体力測定で握力が基準を満たさなかった(A群)男性は3名(握力平均値23.1±標準偏差3.2kg平均年齢81.3±4.7歳)女性5名(16.5±3.0kg平均年齢78.2±7.1歳),基準を満たした(B群)男性は16名(37.4±4.8kg平均年齢72.6±5.0歳)女性24名(24.2±3.1kg平均年齢72.7±4.5歳)であった.4年後に基準値を超える変化のあったものは,A群1名B群5名であった.A群の4年後握力の変化は-0.49±1.11kg,B群は-1.34±0.50kgであり,A群の4年後歩行速度の変化は+0.10±0.17m/s,B群は+0.04±0.08m/sであった.群間の変化量に有意な差はみられなかった.

    (考察)

     握力のみを指標としたプレフレイル高齢者の選定であったが,4年間の健康教室参加によりプレフレイルから回復したものは8名中1名であり,悪化したものは40名中5名の同率であった.しかし,プレフレイル・健常の両群とも歩行速度は増加しており,健康教室への継続的な参加は,プレフレイル高齢者においても特に脚力に有効であることが示唆された.今回の調査では,79歳以降の生存・死亡群の比較おいて,社会的役割に有意な差がみられず,「手段的自立」に差がみられた.社会性の,生命維持への影響は身体機能ほど大きくないことが推測された.今後,「フレイル」状態への影響について解析する.

    学会発表

    ・第74回日本体力医学会 2019年9月20日筑波

    ・2020 ACSM’s Annual Meeting Web. 2020 5月

    ・第75回日本体力医学会 2020年9月25日予定

    ・2021 ACSM’s Annual Meeting 予定

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施された(承認番号2019-6).

  • 田口 智恵美, 佐藤 まゆみ
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_101
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     コンフォートには,「楽である」という意味のほか,「体が心地よい」「心が静かである」「つながりを感じている」「今が楽しい」1)という意味が含まれる.また急性期看護領域では「回復がもたらされる」「耐える力をもたらす」などのケアの効果2)といった意味も含む.重症患者は侵襲的治療や日常からの隔離等により全人的苦痛を体験しており,コンフォートに対するニーズは極めて高く,コンフォートの概念を取り入れたクリティカルケアの実施が推奨3)4)されている.しかし一方で,クリティカルケア領域に特徴的なコンフォートケアは明らかにされていない.

     本研究では,ICU熟練看護師が重症患者に対し日頃の実践の中で行っているコンフォートケアの実際を明らかにすることを目的とした.

     なお,本研究では,コンフォートケアとは,上述したコンフォートの意味や効果を期待して看護師が臨床で行う判断と行動とした.

    (研究方法)

     ICU看護経験5年以上の看護師を対象に半構成的面接調査を実施した.収集した全データを逐語録にした後,重症患者に対するコンフォートケアに関する記述を抽出しコードを作成し,同じ意味のコードを集めてカテゴリー化した.

    (結果)

    1.対象者の属性( )内は平均を示す.

     研究参加者は女性8名で,年齢28~50歳(40歳),ICU経験年数6~12年(9年)であった.

    2.ICU熟練看護師によるコンフォートケア

     ICU熟練看護師による重症患者へのコンフォートケアとして,コード157,サブカテゴリー98,カテゴリー24,大カテゴリー8が得られた.大カテゴリー【 】,カテゴリー〈 〉で表す.

     【気力の回復】には〈生きる気力の回復に努める〉〈エネルギーの消耗を調整する〉を含む.【苦痛の緩和】には〈患者が体験している辛さを理解する〉〈納得することで苦痛を伴う処置に耐えられるようにする〉,他2を含む.【安楽の提供】には〈安楽な体位を探索する〉〈快を感じられるケアを意識する〉を含む.【状態悪化の予防】には〈新たな健康障害に警戒する〉〈循環動態の変動を回避する〉,他1を含む.【回復プロセス支援】には,〈状況の理解を促す〉〈患者に無理をさせない回復プロセスを意識する〉〈回復プロセスで生じる困難感の軽減を図る〉,他5を含む.【人と関わりのある日常の維持】には〈自然な日常のコミュニケーションが在る〉〈家族のサポートを得られるよう調整を図る〉を含む.【ICU環境のストレスへの対処】には〈ICUの環境による弊害を軽減し夜間睡眠につとめる〉,他1を含む.【終末期QOL向上への支援】には〈本人が希望する終末期を過ごせるよう支える〉を含む.

    (考察)

     ICU熟練看護師の重症患者に対するコンフォートケアのテーマには【気力の回復】【苦痛の緩和】【人と関わりのある日常の維持】等が含まれ,精神的,身体的,社会的な多方面からケアが行われていることが明らかであり,ICU熟練看護師が全人的に患者をケアしていることを示すと考える.生死に関わる場所だからこそ生きる気力の回復に努め,回避できない苦痛があるからこそ納得して処置を受けられるようにし,社会から隔絶されているからこそ人との関わりを感じられるようにしていると考えられる.これらは重症患者だからこそのコンフォートでない状態への看護師の判断と行動であり,クリティカルケア領域に特徴的なコンフォートケアと考える.

    (倫理規定)

     千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を受けた(承認番号:2019-10).

    (利益相反)

     開示すべきCOIはない.

  • 酒巻 裕之, 麻賀 多美代
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_102
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     医療や福祉を提供する場において,インシデントの発生を予防するとともに,インシデントが発生したら,その影響が最小限となるように対処することが重要である.安全な医療を提供するために,個人の知識や技術をシミュレーション学習と実臨床の学習の中で修得し,その習得した知識や技術を強化・向上させるために生涯にわたって研鑽し続けなければならない 1).また,起りうるリスクを予知して,そのリスクを取り除く対応を学ぶ手法に「危険予知トレーニング(KYT)」がある.

     医療安全教育について,当学科の講義ではインシデント発生時の事象は各歯科診療の偶発症として,またインシデントの影響を最小限にする対処法については救命救急処置等,それぞれ個別の科目で学び,歯科診療室等の臨床実習でもその実際を学ぶことは少ない状況である.

     そこで本研究では,歯科衛生士が医療を受ける対象者に医療安全を考慮した適切な口腔健康管理を行えるようになることを目標に,万能型看護実習モデルを用いた口腔健康管理のロールプレイを行いながらKYT(シミュレーションKYT)を行った.その終了後に学生対象にした質問紙調査結果から本医療安全教育の検証を行った.

    (研究方法)

    令和元年度歯科衛生学科3年生24名のうち,研究協力の同意を得られた者を研究対象とした.「歯科診療室総合実習」の課題学習で,学生を2班に分け,各班2時限(180分間)の演習として行った.対象学生は病院実習やKYTの経験がないことから,1限目に1組4~5名グループで,杉山らが示した危険予知トレーニングテキストからシミュレーションKYTに関連するイラストの1場面を選択した2).進行は担当教員が行い,KYT終了後に成果を発表した.

     次いでシミュレーションKYTは,病棟のベッド上で,血圧,心電図,経皮的動脈血酸素飽和度のモニタリング,静脈内持続点滴中の状況の万能型看護実習モデル「八重」(京都科学,京都)に口腔衛生管理を行うために体位を調整する場面を設定し,KYTを実施した.進行は学生が行い,モデルを動かしながら検討し,検討後に学生間で振返りを行った.演習後の質問紙調査では,学生の自己省察を深める質問項目を設定し,回答を得た2)

    (結果)

     対象者23名(95.8%)から回答を得た.5肢選択式質問項目で,「全く当てはまる」「当てはまる」を肯定的意見とすると,シミュレーションKYTのステップ「現状把握」「本質研究」「対策確立」で91.3%以上,「目標設定」「振返り」で100.0%の肯定的な結果を得た.自己省察では,「シミュレーション上で起こりうるインシデントを表現でき,発生しそうなインシデントについて,またその対応策について考えることができた」などの肯定的な記述がみられた.一方,「自分の最も不満足な成果」では,「実際の症例の体験がない分野で,専門的知識が少なく,想像するのが難しかった」等の記述が見られた.

    (考 察)

     本研究ではSimulate one(シミュレーションで疑似体験をして)において,インシデントを発生する行動をとった際に生じる現象を観察することから,実臨床では未経験の事例においても具体的にReflect one(振返って)を行うことができていた.

     医療の場を設定した万能型看護実習モデルに口腔健康管理を行う際のKYTを実施し,教育効果について,演習後の学生を対象とした質問紙調査結果から検討した.本KYTでは,医療の場の経験がない学生がモデルに対して実際に処置をして生じうるインシデントを確認することができた.またKYTの各段階においてもモデルを前にした検討で検討しやすい肯定的な回答を得たことから,シミュレーションKYTは,学生の知識修得時期に応じて実施により効果的な学びができる可能性があると推測された.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認(2019-19)を得て行われた.

  • ─ 研修の有効性の評価 ─
    浅井 美千代, 杉本 知子, 西野 郁子, 佐藤 紀子, 河部 房子, 片平 伸子, 北川 良子, 富樫 恵美子
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_103
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     看護研究は,看護実践の根拠を明らかにし,実践の質の向上に欠かせないが,臨床現場で働く看護職者が,看護研究活動を行うには多くの困難があるといわれている.

     本研究は,千葉県内の中小規模病院における看護研究指導者の充実を目指して2019年3月に実施した研修効果の持続性と,研修受講者の所属組織内に生じた変化について明らかにすることを目的として行った.

    (研究方法)

    1.対象

     2019年3月の研修受講者で研究の同意が得られた中堅看護師や看護管理職者19名

    2.期間

     2019年4月~2020年3月

    3.データ収集方法

     研修受講6か月後に調査を実施した.

     調査内容は,①研究及び研究指導に取り組みたいと思う程度,②所属施設内における研究の取り組み状況,③研究に関する知識確認テスト,④自由記述とし,調査票を送付した.

    4.データ分析方法

     調査内容①の取り組みたいと思う程度については10件法,③は正答数を得点化(範囲0-10)した.研修直前,直後,研修後6か月の3時点における①③の平均点±1SDを算出し比較検討した.②については,回答者の割合を算出した.

    (結果)

     1)対象の概要

     17名から回答があり,回収率89.5%であった.対象者の臨床経験年数は平均21.2±5.9年であった.

     2)研究の実施と指導に対する関心度

     研究に取り組みたいと思う程度は,受講前5.8±2.7点,受講直後7.6±1.6点,受講6か月後6.0±2.1点,研究指導に取り組みたいと思う程度は,受講前5.6±3.1点,受講直後7.7±1.8点,受講6か月後6.3±2.0点で,受講直後に上昇した平均値が,受講6か月後では低下していた.

     3)所属施設内における研究の取り組み状況

     研修受講終了後に,所属施設内で研修内容に関する伝達講習を実施した者は4名(23.5%),研究を実施している者は5名(29.4%),研究指導を行っている者は9名(56.3%)を占めた.

     4)研究に関する知識獲得状況

     研究に関する知識確認テストは,受講前の平均正答数が6.2±1.7,受講直後8.9±1.1,受講6か月後7.8±1.3で,受講前に比べて受講直後と受講6か月後は高値となっていた.

     5)自由記述内容

     自由記述内容には,「学び直すことで自信につながり指導が少しできるようになってきた」「計画書を見直すことが少しできるようになった」など研修成果を感じていることが挙げられた一方で,「現場ではなかなか時間がとれず難しい」「わからないこと・出来ないことが次々に出てきて研究にとり組むことの道のりの果てしなさに心がくじけそうになる」など研修での学びを現場で活かすことの難しさが挙げられた.

    (考察)

     研究に関する知識獲得状況は受講前に比べて受講直後と受講6か月後は高値となり,研修受講を通して習得した知識が定着したと考えられた.

     しかし,研究実施や研究指導に対する研修受講者の関心は,現場に戻った時の研究活動・研究指導の難しさにより低下する傾向があると推測されるため,研修受講者の関心を維持するための定期的なフォローアップが必要になると考えられた.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認(申請番号2018-32)を得て実施した.

    (利益相反)

     本研究における利益相反はない.

  • 西村 宣子, 富樫 恵美子
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_104
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     超少子高齢化社会に突入し,国民の健康を守る担い手である医療・福祉分野は,深刻な人手不足を迎えている.日本看護協会では,定年退職後の看護師を「プラチナナース」と称し,看護師のセカンドキャリアとして働き続けることを推奨している.厚生労働省においても,人材確保対策として「看護師のセカンドキャリアにおける活躍を図るための職場環境整備」1)が施策されている.先行研究において,看護管理経験のある者にセカンドキャリア希望が多かった(石井ら,2018)と報告があるが,看護管理者がセカンドキャリアにおいてどのように仕事を継続するのかは明らかにされていない.看護師長のセカンドキャリアに関する意識を明らかにすることは,プラチナナース活用に貢献できるものと考え,A県内の一般病院に勤務する看護師長のセカンドキャリアに関する意識を明らかにすることを目的とした.

    (研究方法)

     A県内の一般病院209施設のうち協力の得られた67施設の40歳以上の看護師長440名に自記式質問紙調査を実施した.調査項目は,対象者の属性,勤務継続希望の有無,セカンドキャリアに対する意識(考えた時期・働く場所・希望の職位・雇用形態),活かせる看護管理能力,準備状況等である.分析方法は,質問紙調査の選択項目は,基本統計量を算出し,自由記述欄の「働き続けたい」理由についてはテキストマイニングで分析を行った.

    (結果)

    1.回収数:255名(回収率57.4%).

    2.対象者の属性:年齢40~44才31名(12%),45~69才69名(27%),50~54才71名(28%),55~50歳64名(25%),60~64名20名(8%).師長経験年数は,3年目以内54名(21%),3~5年未満46名(18%),5~7年42名(17%),7年目以上113名(44%).

    3.セカンドキャリアに対する意識:「働き続けたい」110名(43%),「考え中」102名(40%),「働きたくない」40名(16%)であった.働く場所の希望は,「現在の職場」が56名(21.9%),「老人介護保健施設」35名(13.7%),「診療所」30名(11.8%)であった.希望の職位は,「スタッフ」107名(42%),「考えていない」103名(41%),「管理職」34名(13%)であった.セカンドキャリアで活かせる看護管理能力は,「質管理能力」・「人材育成能力」・「危機管理能力」の回答で占めた.セカンドキャリアを「考え始めた時期」については,「無回答」48%,「準備していない」215名(84%)であった.

    4.「働き続けたい」理由のテキストマイニングによるワードの出現頻度では,「働く」・「仕事」・「経済的」が高かった.

    (考察)

     看護師長のセカンドキャリアに対する意識は,「スタッフ」として「働き続ける」ことを希望する人が多かった.また,働き続ける理由のテキストマイニングから「仕事」,「働く」のワードが多かったことから,看護管理者として培われた経験や能力を活かして働くことより,「看護専門職として仕事を継続する」ことに価値をおいていることが示唆された.セカンドキャリアにおいて「現在の職場」で「非正規雇用」として働く希望が多いことに対しては,職場に対する帰属意識と共に,老化を自覚し,体力や認知力の低下から,職場適応に対する不安,責任や時間の拘束による負担からの解放を望んでいることが推察された.また,調査対象者の4割が定年まで10年以上あり,「仕事を継続する」意識は高いが,現場の業務に追われ,セカンドキャリアについて考える時間や,セカンドキャリアに関する情報を得る機会が少ないことが推察でき,雇用者や職能団体などの積極的な情報発信が必要であることが示唆された.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県保健医療大学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施した(2019-08).

    (利益相反)

     本研究における開示すべき利益相反はない.

  • 石川 紀子, 前田 留美, 堂前 有香, 斎藤 千晶
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_105
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     成人系の病棟で勤務し小児が入院する病棟に配属異動となった看護師は,部署異動前の経験が通用しないことや小児看護においては新人と一緒の扱いを受けるということに困難を感じることが報告されている1)が,具体的な内容は明らかにされていない.

     本研究では,小児が入院する病棟に配属異動となった看護師に対して実施されている教育・研修内容や,看護師が経験した困難・教育ニーズを明らかにすることを目的とした.

    (研究方法)

     対象は,A県内で小児が入院する病棟を有する施設の①小児が入院する病棟の師長,②成人系病棟から小児が入院する病棟に配属異動となった看護師,とした.

     調査方法は,無記名自記式の質問紙法で,2019年11月~12月に調査を行った.データ収集は,研究趣旨を記載した文書と質問紙を施設の看護管理者を通じて各対象者に配布し,郵送で回収した.質問紙の記入とポストへの投函をもって研究参加への同意とした.

     調査内容は,小児が入院する病棟の師長に対しては,病棟の概要,部署で行っている配属異動者への教育・研修内容,実施している支援体制について,配属異動となった看護師に対しては,看護職としての経験年数等の背景,配属異動となったことや成人とは異なる小児を対象として看護実践をするうえで経験した困難の内容,小児を対象とした看護実践に必要な知識や技術を養うための教育・研修の内容についてである.

     返送された質問紙の内容について,病棟および個人背景については単純集計による分析,配属異動者への教育の現状や看護師が経験する困難に感じていることについては,質的機能的分析を行った.また,共同研究者間で協議を重ね,分析の妥当性の確保に努めた.

    (結果)

     49施設に質問紙を配布し,14名の病棟師長,25名の看護師から回答を得た.師長の回答より,小児科と他科の混合病棟が6施設,成人系の病棟内に小児の患者が入院している病棟が5施設,その他小児病棟と小児科病棟が1施設ずつからの回答であった.回答した看護師は,看護職としての経験年数は6~10年目が9名で,小児科と他科の混合病棟の所属が17名であった.また小児の医療や看護に携わった経験は異動後が初めてである看護師が14名であった.

     小児が入院する病棟における配属異動者への教育の現状として,異動者を対象とした研修が行われているのは5施設のみで,入院する小児の疾患や治療に関する研修が行われていた.残り9施設では,小児の入院患者数が少ないこと等の理由から研修が実施されていない現状にあった.

     配属異動に伴い看護師が困難を感じることとして,成人とは異なる点滴管理や急変時の対応といった小児特有の看護技術があげられた.また,子ども自身が病気を理解できない年齢層であることに関連し,発達段階に合わせた説明やコミュニケーション,啼泣が続く場合の乳幼児への対応方法についても難しさを感じていた.また回答者が勤務する9割の病棟で家族の付き添いが原則となっていたことから,親の不安やストレスへの対応についても難しさを感じていた.また小児への看護は未経験であっても経験者として見られるため日々の実践の中で不安を感じていること,子どもや家族との関わり方について学べる場が不足していることもあげられた.

    (考察)

     配属異動となった看護師は,各部署に入院してくる子どもの疾患や治療については,施設内の研修や書籍等の活用を通して学ぶ機会は得られていた.一方で,成人とは異なる対象のアセスメント視点や,子どもや家族への対応について相談できる機会や学ぶ場がなく,学習ニーズがあると推察された.

    (倫理規定)

     本研究は本学研究等倫理委員会の承認を受けて実施した(申請番号2019-23).

  • 細山田 康恵, 金澤 匠, 山田 正子
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_106
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     日本での肥満者の増加の背景として,脂肪摂取量の増加により過栄養が大きな要因とされている.生体内において,消費エネルギーに対し摂取エネルギーが過剰になると,余剰分が中性脂肪として体内に貯蔵され肥満になる.肥満はメタボリック症候群の主因子で,この脂質代謝異常を改善するために,唐辛子の辛味成分であるカプサイシン(Capsaicin: CP)に注目した.カプサイシンは,体熱産生亢進や脂質代謝亢進などの生理活性を有しており,肥満予防や酸化ストレスの軽減ができる食品と期待されている.今回,高脂肪食を摂取したラットにおいてCPが,脂肪蓄積量,血清および肝臓脂質濃度などに及ぼす影響を調べることを目的とした.

    (研究方法)

     Sprague-Dawley系雄ラット5週齢を購入し,各群6匹ずつに分け実験飼料で3週間飼育した.実験飼料はAIN-93組成に準じて,油脂区分は対照(Control: C)10%,実験群30%で高脂肪食(High Fat diet: HF)とし,各々の一方に0.3% CP(カプサイシン濃度として0.45mg%)を添加し,油脂はラードを用いた.すなわち,C群,CP群,HF群,HF+CP群の4グループとした.飼料と水は自由摂取とした.カプサイシンは,㈱大津屋商店のカイエンペッパー(原材料名:唐辛子)を購入し,一般財団法人日本分析センターにて,高速液体クロマトグラフ法を用いてカプサイシン量を測定したものを用いた.CPとして,0.15g/100g含有するものを使用した.実験投与終了後,終体量,総飼料摂取量,肝臓重量,後腹壁脂肪重量,睾丸周辺脂肪重量,血清脂質濃度,インスリン,グルカゴン,抗酸化力などの測定を行った.また,肝臓脂質濃度は,クロロホルム:メタノール(2:1)溶液で抽出後,減圧乾固して酵素法キットにより測定を行った.

     データは,平均±標準誤差で表した.統計処理には,PASW Statistics 20(日本IBM㈱)を用い,一元配置分散分析および多重比較(TukeyあるいはDunnettT3)を行った.検定の結果は,危険率5%および1%未満を有意と判定した

    (結果)

     総飼料摂取量は,C群とCP群よりHF+CP群で有意(p<0.01)に低値を示した.終体重は,C群とCP群よりHF群で有意(p<0.01)に高値を示した.肝臓重量は,C群,HF群,HF+CP群よりCP群で有意(p<0.05)に低値を示した.後腹壁脂肪及び睾丸周辺脂肪重量は,C群よりCP群で有意(p<0.05)に低値,HF群よりHF+CP群で有意(p<0.05)に低値を示した.血清トリグリセリド濃度はC群よりHF+CP群で有意(p<0.05)に低値を示し,肝臓トリグリセリド濃度はC群よりHF群とHF+CP群で有意(p<0.01)に高値を示した.血清及び肝臓のコレステロール濃度は群間における差はなかった.インスリン濃度はC群よりHF+CP群で有意(p<0.05)に低値,C群よりHF群で低値を示す傾向にあった.グルカゴン濃度は,CP群よりHF群とHF+CP群で高値を示す傾向にあった.抗酸化力は,HF群よりHF+CP群で有意(p<0.05)に高値を示した.

     (考察)

     高脂肪食にカプサイシンを摂取した際,体脂肪の分解が促進し,脂肪蓄積低下が明らかとなり,肥満の予防に役立つことが示唆された.血清トリグリセリド濃度はC群よりHF+CP群で低値となり,脂質異常症の予防に有用と考える.グルカゴン濃度がCP群よりHF群とHF+CP群で高値を示す傾向にあったのは,脂肪組織のトリグリセリドを分解し,過剰に入ってくるエネルギーを消費したと考える.抗酸化力がHF群よりHF+CP群で高値となり,酸化ストレスの緩和に役立つことが期待される.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学実験指針に基づき,「動物実験研究倫理審査部会」の承認(2019-A06)を得て行った.

    (利益相反)

     本研究に関して,開示すべきCOIはない

  • 吉野 智佳子, 森田 良文
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_107
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     日常生活の中で物品を把持する際は,例えば水の入ったコップを持つ時に水がこぼれぬよう傾けずにコップを把持する時,把持での運動機能と指腹の触圧覚や手指の関節角度の調節という感覚機能をバランスよく用いながら場面に応じて把握力を調整していると考えられる.頚髄症などにより運動機能と感覚機能が低下することで物品を握り潰す1)症状などが報告されており,日常生活で支障をきたしているものの,感覚機能へのリハビリテーションアプローチは運動機能へのアプローチよりも特に難しいのが現状といえる.

     前年度の学内共同研究において,感圧測定システムを利用した実験を実施した結果,各指(拇指・示指・中指・環指・小指)の触圧力のデータから各指の役割分担についてはある程度可視化できたが,総合的な把握力については測定できていなかった.今回,共同研究者が作業療法士と開発した把握力調整能力評価トレーニングデバイスiWakka2)を用いて,感圧測定システムでの測定に加えて総合的な把握(ピンチ)力を測定しiWakkaの測定システムに内包されたグリップマッチング課題により把握(ピンチ)調整能力が開眼と比較して閉眼の影響による触圧覚(表在感覚)と関節角度の調節能(深部感覚)の総合的な感覚機能の変化について検討することを目的とする.

    (研究方法)

     被験者はリハビリテーション学科学生20名(男性9名,女性11名)で,全員右利きであった.実験前に実験に関する説明を十分に行い,実験途中での中止を求めてもよい旨説明した.同意書にて全員同意の確認を行った.

     被験者は椅坐位にて感圧測定システム(KS-SYS1A-2:キャノン化成㈱製)の感圧センサーを拇指・示指・中指・環指の指腹に貼付し,各指基節骨部と手関節部をベルクロにて固定した.課題は利き手にて行った.課題1としてiWakkaのグリップマッチング課題の設定を200gにして,ディスプレイを見ながら50秒間把持して持ち上げる(持ち上げ課題),課題2として,ディスプレイの数値を見ながら120gの把握力で開眼にてiWakkaを50秒間の把握を行った後,把握力が定常状態に到達して開眼で15秒以上経過したことを確認後に閉眼させて35秒間,力を維持させる(把握調整課題)課題を90秒間測定した.なお,課題1の持ち上げ課題では,iWakkaが滑り落ちる危険性が生じたため,400gを維持するよう被験者に指示を行った.

     データ解析は,各課題による把持の違いがみられるかなどグラフ化し,各指(拇指・示指・中指・環指)について定性的分析を行った.

    (結果)

     課題1では,拇指が他指より感圧値が高いタイプが3名,拇指が高いが他指も感圧値が比較的感圧値が見られるタイプが7名,中指が一番高いタイプが5名,環指が一番高いタイプが4名,示指が一番高いタイプが1名であった.課題2では,閉眼後にiWakkaの数値が低下した者が14名,上昇した者が5名,開眼時とほぼ変化のない者が1名であった.

    (考察)

     課題1について,バドミントンやテニスなどの運動経験がある者は握力把握系にて把握しやすく,精密把握系についても過去の経験から何らかの理由で精密把握しやすくなっていることが考えられる.今後過去の活動経験についても照らし合わせ,分析を進めたいと考えている.課題2について,閉眼後は数値が低下する被験者が多く,臨床場面とは相反する結果となった.感覚機能が保たれている健常者と頚髄症などの患者との違いについて今後は臨床場面での測定を行い,検討を行いたい.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理の承認を得て実施した(申請番号 2019-09).

  • 有川 真弓, 松尾 真輔
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_108
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     少子高齢化が進む我が国において,すべての住民が,住み慣れた地域で生活を続けるために地域包括ケアシステムの構築が喫緊の課題となっている.一部の先駆的な作業療法士(以下,OT)は,生活の視点で地域の人材資源や環境資源(以下,地域資源)を評価し,支援を行っている.OTが行う地域資源の評価の視点を集積・整理してチェックリストを作成することで,経験が少ないOTでも簡便に地域資源を評価できると考え,データを蓄積しているところである.昨年の共同研究発表会では就労支援に携わるOTの評価の視点を報告した.今回は高齢者施設で地域支援に携わるOTの評価の視点を収集した.

    (研究方法)

     調査対象者は,地域にて高齢者施設で勤務する入所,通所,訪問に携わるOT 3名であった.対象者が勤務する地域は関東地方1名,四国地方2名であった.

     調査は,先行研究を参考に作成したインタビューガイドに沿って面接を実施した.面接内容は,OTが地域支援を行う時のアセスメントの視点,確認するポイント,地域資源の活用方法等であった.インタビューの所要時間は1名あたり1時間程度であった.面接実施前に文書と口頭にて説明し同意を得て行った.

     インタビューはICレコーダーで記録し,機密保持契約を結んだ業者に委託して逐語録にした.データは切片化したのち,類似性に基づき分類,グループ化して,カテゴリーを作成した.人的資源,物理的環境資源,社会的資源のうち,今回は人的資源に焦点を当てて分析した.

    (結果)

     その結果,高齢者施設で勤務するOTの人的資源に対する評価の視点は,①地域で活用しうる人的資源,②連携している人的資源,③人的資源に関して役立つ観点とスキル,④必要と考える人的資源の4つのカテゴリーに分類された.①地域で活用しうる人的資源は,老人会,ボランティアガイド,民生委員,伝統工芸師などの「地域住民」,対象者のキーパーソン,親族などの「家族」,高齢者福祉課の方,地域包括支援センターの職員などの「行政職・専門職」の3つのサブカテゴリーで構成された.②連携している人的資源は,ケアマネージャー,ヘルパーなどの「高齢福祉専門職」,看護師,薬剤師,保健師などの「その他の医療専門職」,高齢者支援課,防災課などの「行政職」,民生委員,地元の先輩,地域の保育所の子ども,自治会長などの「地域住民」の4つのサブカテゴリーで構成された.③人的資源に関して役立つ観点とスキルは,生活保護や保険関係の相談は直接したほうがスムーズになる,付き合いのある方がいる活動の場は定着しやすい,協力的な人がどこにいるかを確認する,近隣住民との関係性を確認するなどの「必要な観点」,協業するためのコミュニケーションネットワークを作ること,地域や自治体で中心となる人を探すこと,お願いしやすい環境を設定すること,行政職から情報を引き出すことなどの「役立つスキル」の2つのサブカテゴリーで構成された.④必要と考える人的資源は,医療と在宅や福祉のつなぎの役割を担う人,地域コーディネーターなどであった.

    (考察)

     高齢者施設で勤務する地域支援を行うOTは,医療や高齢福祉の専門職や行政職,地域住民,家族等について把握し,対象者と近い関係の中で連携していた.地域で円滑に支援をするための観点やスキルを活用しており,より良い地域支援のためには地域コーディネーターが必要と考えていた.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理審査委員会の承認(2018-21)を得て実施した.

  • 鈴木 亜夕帆, 細山田 康恵, 金澤 匠, 渡邊 智子
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_109
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒 言)

     日本食品標準成分表1)の野菜「生」の試料は,販売されている状態の野菜を洗浄せず,拭いただけの食品である.一方,通常,サラダ等の生野菜は衛生のために洗浄し,給食では,大量調理施設衛生管理マニュアル2)指定の殺菌操作を行う.

     調理操作においては,食品からのビタミンやミネラルの損失3),調理に使用する水に含まれる無機質4)が食品へ移行することも知られている5).殺菌操作では,水に浸漬する操作が含まれているため,このような操作で無機質等の成分が溶出または付着することが想定される.

     そこで,本研究では,常用するこれらの食品の,殺菌操作(洗浄も含む)における主要な成分及び塩素量を明らかにすることを目的とした.

    (研究方法)

     試料は,生野菜として利用されることが多い,きゅうり(丸),ミニトマト(丸),キャベツ(1/2カット),キャベツ(千切り)とした.洗浄は,ボール+ザルに試料を入れ,流水10分→水切りを行った.その後,①洗浄のみ:10分間放置,②水道水:水道水に浸漬10分→流水10分,③200ppm:次亜塩素酸ナトリウム200ppm溶液に浸漬5分→流水10分,④100ppm:次亜塩素酸ナトリウム100ppm溶液に浸漬10分→流水10分の操作を実施した.なお,使用した水は,本学の水道水とした.

     分析は,重量及び水分を常法で,次亜塩素酸ナトリウム(Cl2),カリウム(K),カルシウム(Ca),マグネシウム(Mg)およびアスコルビン酸(VC)はRQフレックスを用いて測定した.

    (結果)

     ①洗浄のみの結果を100%として②③④の数値を比較すると,重量変化率は,きゅうりおよびミニトマトで1%以内の増加,キャベツ1/2とキャベツ千切りは5%程度増加した.水分含有量は,すべての野菜で,±1%程度であった.

     栄養素も同様に成分残存(変化)率を算出して比較すると,Kは,増加:きゅうり②③④24~30%,キャベツ1/2②③④3~7%,減少:ミニトマト①-5%,キャベツ千切り②③④約-30%であった.Caは,増加:キャベツ1/2②③④18~27%,キャベツ千切り②③④17~21%,減少:きゅうり③④約-5%,ミニトマト②③④約-20%であった.Mgは,増加:キャベツ千切り②③約3%,減少:きゅうり③④約-6%,キャベツ1/2③④-3~6%であった.VCは,増加:きゅうり②③④2~6%,キャベツ1/2②④約10%,減少:ミニトマト③④-7~9%,キャベツ千切り③④-5~8%であった.

     Cl2は,きゅうり③で約15%の増加がみられた.きゅうり以外はすべてCl2測定限界以下となった.

    (考察)

     栄養素の増減は,野菜の組織や切り方の相違および水切り(ザルで水を切る)による食品の周囲に付着した溶液量の差等が考えられる.しかし,今回の実験では,次亜塩素酸ナトリウムの使用の有無,濃度の違いによる重量及び成分残存率の差は,特に見られなかった.

     Cl2は,きゅうり以外はすべてCl2測定限界以下となった.しかし,それぞれ消毒操作が終了し水切りをした時点では,特に③のサンプルで他と比べて塩素臭があったことから,サンプル溶液調製の間にCl2が分解され減少したと考えられた.

     以上の結果から,生野菜の栄養成分は野菜の種類や洗浄方法により損失する成分や損失量が異なること,また,付着する水道水から栄養素が増加するととがわかった.また,塩素消毒は,濃度100ppmで消毒後に水切りを丁寧に行うこと,塩素臭が減少するようにすぐに提供をしない工夫をすると,安全で嗜好評価の高い生野菜が提供できるのではないかと考えられた.

  • 山中 紗都, 吉田 直美, 佐藤 まゆみ
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_110
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     終末期における歯科医療の需要が高まり,口腔健康管理の効果や必要性について広く知られ,地域における多職種連携医療の一員として歯科衛生士が在宅歯科医療や緩和ケアに携わる機会が増加している.しかし,終末期の患者に関わり,看取りに遭遇する歯科衛生士の数は多くないため,研究報告はもとより,教育や研修の中で終末期医療や死生観を学ぶ機会も少ない.患者の死を看取ることは,究極の感情労働といわれるが,それぞれの歯科衛生士が独自に対応していると考えられる.本研究では,終末期医療の現場で働く歯科衛生士より,これまでの経験についてインタビューを行い,歯科衛生介入の実際や,患者との別れの経験について,また,終末期における歯科医療に関わる困難や悩み,やりがいについて明らかにすることを目的とした.

    (研究方法)

    1.対象

     担当患者の死を経験したことのある,訪問歯科診療,病院における緩和ケア等に従事する歯科衛生士

    2.方法

     同意を得られた対象者に,歯科衛生介入の内容をはじめ,初めて担当患者が亡くなった時の気持ち,患者の死の経験を積む中での変化,現在の業務において困難と感じることややりがい,患者家族との関わりについて半構造化面接を実施した.

    3.分析方法

     インタビューで得られたデータを質的記述的に分析した.逐語録を作成し,質問項目ごとに,意味内容ごとに区切ってコード化し,類似したコードをまとめ,カテゴリー名を付した.

    (結果)

     訪問歯科診療に従事する7名,総合病院の口腔外科に勤務する1名,合計8名の歯科衛生士より協力を得た.対象者の平均年齢は平均53.0±7.0歳で,終末期における歯科医療に従事している経験年数は6.4±4.8年だった.全ての対象者が過去もしくは現在においても歯科診療所勤務を経験していた.歯科衛生介入の内容は,口腔ケアに留まらず,機能訓練,食事指導,時には患者の死後に口腔清掃を行うエンゼルケアなど多岐に渡った.初めて担当患者が亡くした時の気持ちは,「ショック」「悲しみ」「後悔」などに分類でき,患者の死の経験を積む中で変化したこととして,「死を迎える気持ちの準備ができるようになる」や,「自分が患者へ出来たことへ目を向けられるようになる」などが挙げられた.現在の業務において困難と感じることとしては,患者と患者家族の間における意識の差または,患者および患者家族と介入者である自身の意識の違いによる「介入の難しさ」や「多職種連携」などがあげられた.一方でやりがいとして「介入の効果がでること」や「患者・家族からの感謝の意を述べられること」「穏やかに最期が迎えられる手伝いができる」等が挙げられた.患者家族との関りについては「患者のみならずケアの対象である」ことや「家族の思いを尊重」することを意識していることが分かった.

    (考察)

     終末期に関わる歯科衛生士は患者の死を初めて経験した際にマイナスな感情を抱くことが多いが,経験を重ねる中で患者の死期がある程度予測が出来るようになるため,患者,患者家族,そして自身にとって納得が出来る最期を迎えられるようになるという変化がみられた.一方で,患者の死を受け入れられる様になるまでは,時間を要したり,周りへサポートを求めたりと,それぞれが悩みながら対応していることも聞き取ることができた.

     終末期における歯科医療の需要が高まる今日において,今後歯科衛生介入における技術的側面だけではなく,患者の「死」と向き合うことへの精神的側面へのサポートや教育が必要であることが考えられた.

    (倫理規定)

     研究本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号2018-19).

令和元年度学長裁量研究抄録
  • 三和 真人, 雄賀多 聡, 大谷 拓哉, 藤尾 公哉, 江戸 優裕, 山口 高史
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_111
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     ヒトの歩行は一定の周期性を持って成立することは知られており,歩行周期性の“不規則性”が抑制されている.しかし高齢になるに連れて顕在化し,歩行時の転倒などを発生させると考えられている.これは自己相似性が低下し,歩行の不安定性さ助長するか否かであり,運動の不規則性から研究したものはない.本研究は,歩行時のリズムのズレが転倒リスクを高めるものと仮定し,歩行能力身体機能が転倒要因になるか研究するものである.

    (研究方法)

     測定課題は頸部(第7頸椎)に15gの加速度センサーを貼付し,1辺15mの正方形外周を被験者の快適歩行速度で6分間歩行し,歩行リズムの加速度信号ピーク値を抽出するものである.併せて第2仙椎部に加速度センサーを貼付し,歩行速度(m/s),ストライド長(m),ケーデンス(歩数/分)や歩行距離(m)の歩行能力と,足趾把持力(kg)と片脚立位(sec)の運動機能も併せて測定した.

     対象は平成30年前から週5回,30分以上散歩を行い,運動指導士等の下で運動を行っている高齢者を含め,転倒経験のない平均年齢73.6±4.6歳の43名(男:女=26:17)とした.

     分析方法は歩行における鉛直方向加速度信号のピーク値を距離換算し,ピーク値の時間をモノ・フラクタル解析の分析値(Detrended Fluctuation Analysis; DFA)を行った.仙骨部に貼付した加速度信号ピーク値と床-大腿骨大転子までの下肢長(cm)から,歩行速度(m/s),ストライド長(m),ケーデンス(歩数/分)や歩行距離(m)を算出した.また足趾把持力(kg)と片脚立位(sec)は左右の最大値を測定した.

     DFA,頸部の上下動などから相関を求めた.平成30年でデータ欠損のない33名を追跡した.なお有意水準は5%とした.

    (結果)

     DFA分析値は0.45±0.1(0.29~0.59)と自己相似性があることが認められた.しかし鉛直方向(cm),ストライド長(m),ケーデンス(歩数/分)や歩行距離(m),および足趾把持力(kg)や片脚立位(sec)で左右の最大値との間に関連性は認められなかった.

     第7頸部に貼付した加速度センサーによる鉛直方向の移動距離(cm)は2.9±0.1(1.6~5.0)であった.歩行速度1.7±0.2,ストライド長1.6±0.2,歩行距離495.2±62.1との間で相関が認められた(p<0.01).しかし足趾把持力と片脚立位の運動機能との間に関連はみられなかった.

     追跡調査において,DFAは0.47±0.1から0.45±0.1と数値に差がなかった.鉛直方向の移動距離は2.8±0.7から2.9±0.8,歩行速度は1.74±0.2から1.70±0.2とともに低下は認められなかった.ケーデンスは127.7±9.1から128.7±9.1と差がなかった.ストライド長は1.63±0.2から1.59±0.2,歩行距離は512.8±71.3から495.2±62.1と明らかな差は認められなかったものの,短くなっていた.

    (考察)

     Burkeら1, 2)の研究で歩行リズムを構成する中脳歩行誘発野(mesencephalic locomotor region; MLR)から小脳,大脳基底核,延髄毛様体,そして脊髄の歩行パターン発生器(locomotor Pattern Generator; LPG)が歩行に関与することが知られている.しかし本研究から,歩行リズムの低下をDFAでとらえることの可能性は低いと考えられた.また歩行時の鉛直方向の加速度信号から歩行速度,ストライド長,歩行距離と関連性が高いことが明らかになった.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究倫理委員会の審査を受け,承認されて実施された(承認番号:2018-10).

    (利益相反)

     本研究は,公益財団法人 三井住友海上火災助成研究を受けて行ったものである.

  • 成 玉恵
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_112
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     近年,地域における看護職の活動が注目されている.看護職の地域での活動は「開業ナース」や「起業看護師」等,様々な呼び名があり,活動内容は多種多様で専門性も広範囲に及ぶ.しかし,その定義や概念は未だ存在しない.本研究の目的は,看護職による地域活動に関して,文献検討や事例分析から概念整理を行い,定義化することである.

    (研究方法)

     本概念の分析には,Rodgers&Knafl(2000)のアプローチを使用した.

    データ収集:医中誌,CiNiiWebを用いて「看護師」「開業」「起業」をキーワードに文献を検索した.検索条件は,原著論文,解説とし,座談会は除外した.その結果,37件の文献(原著1件,解説36件)が抽出された.また,2018年度学長裁量研究費にて調査を実施した看護職による地域活動の3事例を追加し,合計40件を対象とした.

    分析方法:文献・事例ごとにコーディングシートを作成し,概念を構成する属性,先行要件,帰結等に関する記述を抽出し分類した.コード化したデータの共通性と相違性を考慮しカテゴリー化した.分析の妥当性確保については,地域看護学の専門家によるスーパーバイズを受けた.

    (結果)

    1.属性

     4つのカテゴリーと12のサブカテゴリーが抽出された.カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを「」で示した.【専門知識と技術を直接届ける】は「必要なときに必要なケアを提供する」「往診医のいない集落で看取りを行う」等で構成された.【医療と生活を結びつける】は「看護の力を生活に応じて直接活かす」「退院後の家族の在り方を考える」等であった.【地域のネットワークを形成する】は「組織の枠を超えて活動する」「多様なスタッフが快適に働く」等であった.【経営力を高める】は「看護に付加価値をつけて対価を得る」「行政書士を味方にする」等であった.

    2.先行要件

     2つのカテゴリーと5のサブカテゴリーが抽出された.【地域での自分らしい生活】は「疾病や障害を抱えながらも在宅で自分らしい生活が維持できる」「最期までいきる力を住み慣れた地域で支える」で構成された.【健康的なまちづくり】は「まちの中に心がほっとできる居場所を作る」「地域で安心して生活ができる」「地域の子育て支援政策に寄与する」で構成された.

    3.帰結

     3つのカテゴリーと9のサブカテゴリーが抽出された.【自己実現する】は「自分のやりたい看護を実現する」「自由に仕事をする」「リスクを背負い生きがいを支援する」で構成された.【地域に根差す】は「地域の看護資源となる」「地域の特性を取り入れる」「地域に貢献する」であった.【看護の機能を広げる】は「したいことをどんどんできるステーションを作る」「理想と考える看護の形を実現する」「得意なこと好きなことに取り組む」であった.

    (考察)

    1.本概念の定義

     Rodgers&Knaflの概念分析の結果,本研究では看護職による地域活動を「自分らしく生活ができる健康的なまちづくりを目指した,看護の専門知識と技術を直接届ける活動」と定義する.活動には医療と生活を結びつけ,地域のネットワークを形成し,経営力を高める活動が含まれる.活動は「したいこと」「理想と考えること」「得意なこと」により看護の機能を多様化し,看護資源として地域に根差す.これら一連の活動は看護師自身の自己実現を叶える場であり,次の活動への原動力になりえると考える.

    2.今後の課題

     本研究の対象となる看護職の関連概念として,「コミュニティナース」「メッセンジャーナース」「ルーラルナース」「暮らしの保健室」等がある.この中には近年,発展してきた概念もあり,それぞれの概念の明確化や体系化はまだ行われていない.今後,地域で活躍する看護職は益々増加すると考える.これらの概念を整理・体系化することで看護職の地域活動に貢献したい.

    (利益相反)

     本研究に係る開示すべき利益相反はない.

  • 雨宮 有子, 佐藤 紀子, 細谷 紀子, 杉本 健太郎, 泰羅 万純
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_113
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     我々は,新人保健師がリフレクション力を身に付けることが現任教育上の重要なニーズであることを見出し1),平成26年から「新任期保健師リフレクション力育成プログラム」(以下プログラム)を実施している.プログラムにおいて効果的なファシリテーションを導くガイド(以下ガイド)が必要と考えガイド案を作成した.今回は,ガイド案を用いて実施したプログラムの効果を検討することを目的とした.

    (研究方法)

    1.先行研究等を基にガイド案を作成した.ガイド案には,a.ファシリテーター自身の教育者・実践者(保健師)としての自己研鑽をベースに,b.ファシリテーター自身のワークショップの事前準備と支援体制整備,c.リフレクションが促進される基本的環境(会場・時間・グループ)の事前整備,d.参加者の目的意識の共有と自助的グループ活動の促進,e.グループ・リフレクション促進のための基本的態度・行動・スキル,f.リフレクション促進のための具体的な進め方・問いかけの6つの柱を立てた.本プログラムは新任期保健師を対象としているため,eの内容として,一般に重視される「主体的参加を支えるコーチング」に加え,「共に行為の意味を考え教訓を見つけるティーチング」も含めた.

    2.地方自治体へ就職後3年未満の保健師を対象に,ガイド案を用いたプログラムを実施した.プログラムでは2か月毎に3回,気になっている個別支援について事前にワークシートに記述した上で,ファシリテーターを含め4~6名でグループ・リフレクションを行った.

    3.1)プログラム参加前後にリフレクションスキルの自己評価(10項目・5件法)とその理由を質問紙調査した.プログラムの全回参加者を分析対象とし評価尺度は得点換算し前後比較した.

    2)ファシリテーションの評価について,質問紙調査(12項目・4件法)を1・2回終了時に行い,3回目終了時にファシリテーターの発言・態度に対する満足度とその理由等を聴取した.

    (結果)

     全回参加者は6名だった.

    1)全回参加者のリフレクションスキルの自己評価の平均得点は「感情をありのままに表現できる」(3.50→4.17),「保健師としての信念・価値を見出せる」(2.83→3.33)で上昇が大きかった.一方,批判的分析や評価に関する項目は横ばいで,理由に「支援の意図や判断に自信がないと説明できない,対象者に役立つ支援だったか判断できない,できないので先輩等に相談する」の記述があった.

    2)ファシリテーションの評価は「話をよく聞いてもらえた」「自分の考えや思いを認めてもらえた」が特に高かった.2回目では「異なる視点を得られた」「次回までにすべきことが分かった」等の評価が上がり,半数の項目で全員が最高評価(とてもそう思う)と回答した.理由に「支援の目的や内容を肯定され・関わりの効果を意味付けられ嬉しかった・自信になった」等があった.一方,「主体的に参加できた」「対話を通して自分の考えを意識化できた」の評価は他より低く,ワークショップの課題として「継続支援しておらずワークシートに書くことがない」等の記述があった.

    (考察)

     プログラムの成果として,リフレクションスキルである「感情表現」「信念・価値の発見」が進み,ファシリテーターによる「肯定」「意味付け」を契機に「承認」「自信」が実感されていた.しかし,新任期は実践的で適切な判断基準の獲得途上であることや継続支援自体の実施が少ない状況もあり,これらの状況を踏まえつつ,批判的分析等を進めるための「自己の考えの意識化」「主体的参加」を促すファシリテーションの強化が課題と考えられた.

    (倫理規定)

     著者の所属機関の研究等倫理委員会の承認を得て行った(2019-18).

    (利益相反)

     開示すべきCOI関連事項はない.

  • 鈴鹿 祐子, 麻生 智子, 河野 舞, 酒巻 裕之, 麻賀 多美代, 大川 由一
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_114
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     2018年4月の診療報酬改定において,「口腔機能低下症」は正式な病名として認められた.口腔機能低下症は,進行すると咀嚼機能不全,摂食嚥下障害によって全身的な健康を損なうと言われている.また,口腔機能低下症の罹患率は,50歳代で約50%との報告があることから,成人期から口腔機能低下症を予防するために,口腔リテラシーの向上を図るアプローチが必要になる.

     そこで本研究は,成人に対して,歯科専門職が口腔機能低下症の評価を実施し,対象者に評価結果と結果に基づいた個別のアドバイスを行うことで,対象者の口腔機能低下症の理解や口腔保健行動に与える影響について把握し,歯科衛生士として口腔機能低下症を予防する啓発方法やサポート方法を検討することを目的とした.

    (研究方法)

     C大学歯科診療室に来院した成人に対し,対象者募集のチラシを配布,併せて歯科診療室の待合室に対象者募集のポスターを掲示し,対象者を募った.調査手順は,研究の説明・同意,質問紙調査,口腔機能低下症についての評価,結果の説明とアドバイスである.その後,結果については書面化し郵送した.評価から1ヶ月後に郵送にて再度,質問紙調査を行った.口腔機能低下症についての評価は,「口腔機能低下症に関する基本的な考え方」(平成30年3月 日本歯科医学会)の診断基準に従い,7項(①口腔衛生状態,②口腔粘膜湿潤度,③咬合力,④舌口唇運動機能,⑤舌圧,⑥咀嚼機能,⑦嚥下機能)について行い3項以上該当する場合に口腔機能低下症と評価した.質問紙調査からは,口腔保健行動に関すること,口腔機能低下症に関すること,要望や感想の回答を得た.

    (結果)

     分析対象は30名(69.4±9.02歳)であり,口腔機能低下症と評価された者は4名(13.3%)であった.検査項目別では,舌口唇運動機能低下10名(33.3%)が最も多く,次に咬合力低下9名(30.0%),低舌圧8名(26.7%)の順であった.介入前の質問紙調査は,「あてはまる」,「少しあてはまる」と回答した割合が高い質問は「歯周病の予防に関心がある」(100%),「日頃,歯や口の健康に関心がある」(100%)であり,次いで「夜,寝る前に歯をみがく」(96.7%),「口の機能について関心がある」(96.7%),「かかりつけ歯科医院がある」(93.3%),であった.介入前後で比較すると,「口腔機能低下症を知っている」が36.7%から83.4%に,「オーラルフレイルを知っている」20.0%から50%に「口を使った体操をしている」は40.0%から50.0%増加した.

     一方,歯周病,う蝕の予防への関心度は減少した.

     対象者の感想には,「口腔についていろいろ(知識不足)気づいた」,「また検査,指導をしてほしい」,「友人達にも話して皆で関心を持った」などが挙げられた一方,「周りの人にもおすすめしているが難しい」もあった.

    (考察)

     本調査の対象者は,日頃より口腔や健康に関心があり,かかりつけ歯科医を持ち,口腔衛生状態が良いことから,比較的,口腔機能低下症と評価された者が少なかったと思われた.

     対象者は自身の口腔状態を知り口腔機能低下症を認知したと考えられ,口腔保健に対する行動変容は見られたものの,改善が必要のある項目もあり,今後の課題となった.

     一方,対象者の感想からは,対象者自身の口腔への気づきや関心,口腔機能低下症を防ぎたいなど前向きな思いがあったことからも,今回の参加は啓発の効果があったことが示唆された.

     今後は口腔機能低下症を理解してもらう啓発方法として集団での教室や指導を取り入れたいと考える.

    (倫理規定)

     対象者に,研究目的と方法ならびに,研究参加への自由意思,個人情報は保護されることなどを口頭ならびに文書を用いて説明した上で同意書への署名を得た.

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認(申請番号2019-12)を得て実施した.

    (利益相反)

     本論文発表内容に関連して申告すべきCOI状態はない.

  • 佐伯 恭子, 諏訪 さゆり
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_115
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     高齢者の増加とともに認知症の人も増えている.認知症の予防や治療のためには薬物療法だけでなく非薬物療法も必要であり,看護・介護・リハビリテーション領域の研究も推進していく必要がある.

     しかし,研究において最も重要な被検者保護の観点でみると,認知症の人は意思決定できないとみなされ意向を尊重されない事態が生じる可能性がある.認知症の人対象の介入研究に関する原著論文43件をもとにした文献研究では,本人がICに関与しなかった可能性のあるものが13件みとめられた1).また,認知症の人を対象とした研究の倫理審査を経験した倫理審査委員へのインタビュー調査では,認知症の人を対象としているにもかかわらず代諾に関する記載がない計画書の存在などが明らかになっている2)

     そこで,本研究では,認知症の人を対象とした看護・介護・リハビリテーション領域の研究における倫理的配慮について,研究倫理に関する基本的な考え方を理解したうえで,その方策を考えることのできるガイドの開発を目指した.

    (研究方法)

    1.ガイド案の作成

     昨年度実施したインタビュー調査(対象者は,研究者,研究倫理審査委員,研究協力者,認知症の人を介護する家族)より,認知症の人を対象とした研究における倫理的配慮に関する実践知を抽出した.その結果,人格の尊重に該当するICに関しては〈意思決定能力の評価〉など7項目,善行に該当するリスク・ベネフィットに関しては〈リスクへの対応策の具体化〉など4項目,正義に該当する対象者選定に関しては〈対象者のリクルート方法の適切性〉など2項目,その他,倫理審査と科学的合理性に関する実践知が明らかになった.これら実践知の要素が含まれるようにガイド案の文章を作成し,研究倫理の三原則を枠組みとしたガイド案を作成した.

    2.インタビュー調査

     作成したガイド案の妥当性及び実用性を高めるため,認知症の人(A氏:アルツハイマー型認知症/B氏:レビー小体型認知症)を対象とした個別インタビューと,専門職および倫理審査委員を対象としたグループインタビュー(研究者1名/研究協力者1名/研究倫理審査委員1名:計3名)を実施した.

    (結果)

     ここでは,ガイド完成までの過程を示す.

     ガイド案を基に,認知症の人(A氏)にインタビューを実施した.A氏からは主に,認知症の人とのコミュニケーションの中で“本人に聞いて確認する”ことの重要性に関する指摘があり,これを反映してガイドVer.1を作成した.次に,ガイドVer.1を基にグループインタビューを実施した.グループインタビューでは主に,活用の際の実用性に関する指摘があり,これを反映してガイドVer.2を作成した.最後に,ガイドVer.2を基に認知症の人(B氏)にインタビューを実施した.B氏からは主に,認知症の人であっても一人の人間として接するのは認知症ではない人と同じであることの指摘があり,これを反映して修正し,ガイドの完成とした.

    (考察)

     本研究で作成したガイドは,研究倫理の三原則に科学的合理性を加えての構成となった.ガイドの内容は,研究が倫理的であるための7要件3)を網羅している.今後,本ガイドの有効性を検証していく必要がある.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉大学大学院看護学研究科倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:31-18).

    (利益相反)

     本研究において開示すべきCOIは存在しない.

  • 麻賀 多美代, 大川 由一, 酒巻 裕之, 河野 舞, 麻生 智子, 鈴鹿 裕子
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_116
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     2012年柏市をフィールドとしたコホート研究(柏スタディ)の結果から,口腔の機能の低下により介護リスクが高まることが示された.この調査によりオーラルフレイルが提唱され,健やかで自立した暮らしを保つには,早期の段階で口腔機能の回復と維持に努める必要性が示された.そして,2018年4月には口腔機能低下症が疾患として認められ,歯科診療所等に就業する歯科衛生士は,口腔機能の検査ととともに口腔機能低下症と診断された患者に対し,適切な口腔機能管理を行い,口腔機能低下の重症化予防,口腔機能の回復を適切に実施することが求められることになった.

     そこで,就業中の歯科衛生士を対象に,口腔機能に関する知識と評価方法を教授し,口腔機能の回復・維持・向上のための機能訓練方法を考え,臨床の場で口腔機能管理を実践できる人材を育成し,オーラルフレイル予防として,地域在住高齢者に対し介護予防を実践できる人材を育成することである.

    (研究方法)

     受講生は千葉県立保健医療大学のホームページに掲載し募集した.

     人材育成プログラムの内容は口腔機能低下症と高齢者の保健事業と介護予防についての講義,そして,口腔機能の検査方法と測定実習,およびオーラルフレイル予防に関するプログラムの作成であった.また,地域在住の高齢者に対するオーラルフレイル予防プログラムを実践する場も設けた.プログラムは全4日間とし,最終日にはプログラムの評価と就業歯科衛生士が求める育成プログラムの内容に関する調査を実施することとした.

    (結果および考察)

     受講生は14名であり,経験年数は卒後1年から35年と幅がひろく,勤務先は歯科医院,病院,保健センター,歯科衛生士養成校などさまざまであった.

     口腔機能低下症に対し,歯科衛生士は口腔機能検査や機能管理,重症化予防,機能回復の実施が求められる.しかし,受講生の業務の現状は,口腔機能に関する業務に従事する機会は少ないことが伺えた.口腔機能測定機器の取り扱いや相互の測定実施は,受講生には意義のある研修になったと考える.今後は診療所等に勤務する歯科衛生士も介護予防に目を向け,高齢者の通いの場へ積極的に参加していくことが必要である.そのため,地域に赴き口腔機能の測定,口腔機能向上のためのプログラムを実践する予定であったが,新型コロナウィルス感染症拡大に伴い,延期の状態である.

    (倫理的配慮)

     本研究は,本学倫理審査委員会の承認(申請番号2019-22)を得て実施した.

    (利益相反)

     発表に関して申告すべきCOIはない.

  • 堀本 佳誉, 佐藤 一成, 大須田 佑亮, 高橋 尚明, 三和 真人
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_117
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     2020年4月1日より施行された理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則の一部を改正では,臨床実習の指導内容について学生が患者に理学療法を実施する場合,「侵襲性のそれほど高くない技術項目は何か」を具体的に示すことが求められた.発達障害理学療法分野の臨床実習において「学生が経験可能な疾患」と各疾患に対する「心身の侵襲性のそれほど高くない行為」を明確にするために,本研究では発達障害理学療法分野の臨床実習の現状を把握することを目的としたアンケート調査を実施した.

    (研究方法)

     対象施設は,日本国内の理学療法士が所属する病院・施設268施設(以下,実習施設)および,理学療法士養成施設258施設(以下,養成校)とした.

     本研究代表者と共同研究者計2名が各々,理学療法診療ガイドライン第1版,平成31年理学療法学教育モデル・コア・カリキュラム,平成28年版理学療法士作業療法士国家試験出題基準の中から,発達障害分野の臨床実習で「学生が経験可能な疾患の候補(以下,疾患の候補)」をリストアップした.

     次に理学療法診療ガイドラインおよび各疾患別のガイドラインをもとに疾患別の「心身の侵襲性のそれほど高くない臨床行為の候補(以下,臨床行為の候補)」をリストアップした.

     実習施設には1を全く経験させていない,5を毎回経験させている,養成校には,1を経験する必要はない,5を必ず経験させてほしいとして,5段階で回答を求めた.

     実習施設と養成校の間での差の検定のためにMann-WhitneyのU検定を用いた.

     無記名調査とし,アンケート調査票の提出をもって,同意とみなすことを研究協力の依頼文に記載した.

    (結果)

     「疾患の候補」のリストの中で,脳性麻痺と重度心身障害児で有意差を認めなかった.

     脳性麻痺と重度心身障害児で,各々の「臨床行為の候補」のリストの中で,両疾患ともに,スタンダードプリコーション,情報収集,フィジカルアセスメント,形態測定,反射検査,筋緊張検査,関節可動域計測,姿勢観察,動作観察,日常生活活動評価,各種発達評価,関節可動域運動,基本動作練習が有意差を認めなかった.

    (考察)

     本研究では,「疾患の候補」のリストの中から,両群間で有意差を認めないかつ,4以上の値となった疾患を抽出し,「疾患の候補」として選択した.また,選択した疾患の「臨床行為の候補」のリストの中から,両群間で有意差を認めないかつ,4以上の値となった疾患を抽出し,「臨床行為の候補」として選択した.

     「学生が経験可能な疾患の候補」として,脳性麻痺,重度心身障害児が選択された.また,両疾患ともに,スタンダードプリコーション,情報収集,フィジカルアセスメント,形態測定,反射検査,筋緊張検査,関節可動域計測,姿勢観察,動作観察,日常生活活動評価,各種発達評価,関節可動域運動,基本動作練習が「心身の侵襲性のそれほど高くない臨床行為の候補」として選択された.

     「心身の侵襲性のそれほど高くない行為の候補」については,2019年10月に公表された「臨床実習において学生が実施可能な基本技術の水準について」と本研究を比較しても内容が合致しているという結果となった.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て実施した(申請番号2019-11)

    (利益相反)

     本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない.

  • 杉本 健太郎, 佐藤 紀子, 雨宮 有子, 細谷 紀子, 泰羅 万純
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_118
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     本研究は,高齢者施設・住宅における感染症の集団発生の実態や,当該施設・住宅および管轄する保健所が行っている感染症対策の現状を調査・分析することにより,医療職配置義務のない高齢者施設・住宅における感染症集団発生及び入居者の重症化を防ぐ方策を検討することを目的とした.

    (研究方法)

     A県に所在する全保健所の過去の感染対策活動記録を,同県感染症担当課の同意を得たうえで閲覧し,集団発生が起きた施設特性(入居者数・職員数等),施設内感染状況(発症者数,日別発症者発生状況,入院者数),保健所対応状況(事案探知日,感染拡大防止のための指導内容)等の情報を収集した.得られたデータから統計的解析を行い,発症者数や,初発患者発生から最終患者発生までの期間等に関連する要因を分析した.

    (結果)

     2017-2019年(約3年間)における県内感染性胃腸炎集団発生事案記録を閲覧することができた.閲覧した集団発生は計195件であり,その主な内訳は,高齢者施設・住宅14件(うち医療職配置義務なし住宅5件)(7.2%),保育園120件(61.5%),小・中学校45件(23.1%),障害者福祉施設9件(4.6%)だった.

     高齢者施設・住宅における集団発生事案14件において,平均入居者数は64.0人(SD:25.3),職員数は58.9人(SD:23.9)であり,発症した入居者数は15.2人(SD:6.9),発症した職員数は5.7人(SD:3.4)だった.

     初発患者発生から保健所探知までの期間は平均6.5日(SD:4.6),初発患者発生から最終患者発生までの期間は平均10.7日(SD:5.5日)だった.

     保健所の指導としては,正しい消毒手順,清潔・不潔区分の明確化,サーベイランスシステム構築等が行われていた.

     発症者数の関連要因として,医療職が配置されている老健・特養に比べ,医療職配置義務のない高齢者向け施設・住宅での発症者数が有意に多かった.また,同施設・住宅において,初発患者発生から保健所探知までの期間と,最終患者発生までの期間に有意な相関がみられた.

    (考察)

     十分なサンプル数を確保できていないものの,得られた結果を踏まえると,医療職配置義務のない高齢者施設・住宅における感染対策の充実とともに,同住宅に感染症対策上の助言・指導する立場である関係機関(診療所,訪問看護等)との連携強化の必要性が示唆される.また,感染症罹患を疑う入居者を把握した際の早急な保健所への報告を促す啓発的な取り組みが必要であると考えられる.

     今後,さらにサンプル数を増やし,医療職配置義務のない高齢者施設・住宅における感染症集団発生の関連要因を精査するとともに,感染症発生および入居者の重症化を防ぐ方策を引き続き検討していく.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:2019-25).

    (利益相反)

     本研究において,開示すべきCOIは存在しない.

  • 増田 恵美, 石井 邦子, 北川 良子
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_119
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     女性は,妊娠や出産によって様々なマイナートラブルが出現しやすく,その一つに腰背部痛がある.腰背部痛は,妊娠初期から妊娠経過と共に増え妊娠後期には80%を超えると報告されている1).また,産褥1ヶ月を経過しても40%以上の褥婦に腰背部痛や骨盤周辺の痛みが残存したと報告している2).産褥期の腰背部痛に対する対処法には,固定帯の使用による骨盤周囲の固定がある.現在,病院や助産院で固定帯を使用して支援されており,その効果は経験的に認められている.しかし,その効果を科学的に実証する研究が行われているとは言い難く,十分に実証されていない.

     本研究の目的は,産後一ヶ月以内の腰背部痛に対して骨盤周囲に固定帯を使用したケアの効果を褥婦がどのように実感しているのかを調査し,実践知を集積することであった.

    (研究方法)

    1.研究対象者

     腰背部痛に対して分娩後から産褥一ヵ月において固定帯を使用していた褥婦を対象とした.

    2.調査期間

     2020年1月~3月に実施した.

    3.調査方法

     インタビューガイドに沿って1名につき30分程度の半構造的面接調査を実施した.研究対象者の許可を得て,ICレコーダーを使用して語りの内容を録音した.面接調査によって収集した全てのデータを逐語録にした.得られたデータから,産後一ヶ月以内の腰背部痛に対して骨盤周囲に固定帯を使用したケアの効果を抽出し,要約して分類した.

    (結果)

    1.調査対象者の属性

     研究対象者は腰背部痛に対して分娩後から産褥一ヵ月において固定帯を使用していた褥婦11名であった.研究対象者が使用していた固定帯の種類は,骨盤ベルトを使用した者が8名,さらしを使用した者が3名であった.

    2.骨盤周囲に固定帯を使用したケアの効果

     産後一ヶ月以内の腰背部痛に対して骨盤周囲に固定帯を使用したケアの効果について,73のコード数が抽出された.【はずすと腰が痛い】【腰が固定され安定している】【腰への負担が少ない】【痛みが軽減する】【動きやすい】【安心感がある】等のカテゴリーに集約された.また,【効果が分からない】というコードも抽出された.

    (考察)

     今回の研究では,固定帯を使用することは腰が固定されて安定し負担が少ないことや,痛みの軽減が図られていたと考える.一方で,効果が分からないという語りの背景には,腰背部痛の発症を懸念して自ら予防的に装着していると考えられた.また,装着することで安心感を抱き,腰背部痛を悪化させないために,継続的に固定帯を使用しているものと推測された.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:2019-27).

     研究対象者には,文書と口頭で研究の目的,方法,守秘義務,研究参加は対象者の自由意思であること,途中辞退の権利について説明し同意書によって同意を得て実施した.

    (利益相反)

     本研究の内容に関連して申告すべきCOI状態はない.

  • 植田 麻実, 荒井 春生, 久松 美佐子, 杉野 敏子, 阿部 恵美佳
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_120
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     英語によるコミュニケーション能力の育成は小学校からの英語教育の義務化により加速されている.しかし一方で「易しい日本語」すなわち,わかりやすい日本語を,母語を英語としない日本在留外国人に対して使う可能性も注目されている.共通言語として何を使用するのが良いのか考察する.

    (研究方法)

     日本における本研究テーマに係る意識について考察をするため関連文献のレビューを行った.また,1年生の英語の授業で,そうした文献の中から英語で書かれたものを用い共通言語として何を使えばよいかグループワークを行った.何語を有効とするかの理由はSPSS Text Analytics for Surveysを使い,使われた語彙の結びつきの度合いを調べた.

    (結果)

     文献では,法務省のHPにあるように,令和元年度末の在留外国人数が293万人におよび前年度からの増加率が過去最高を記録していた.小学校からの英語教育も義務化され,英語はこうした加速するグローバル化社会における共通言語とみなされてきた.

     2011年に発生した東日本大震災では,津波が押し寄せた東北地方の在留外国人の言語は50を超えていたと報告されている(鳥飼,2016).この時には阪神淡路大震災の教訓から,情報伝達は主に日本語にプラスして英語でも行われたが,どちらも母語でない人々は主にSNSを使い母国から母語によって日本でおきている情報を得たと報告されている(Duncan, 2013).一方,易しい日本語の可能性についても研究が進められている(岩田,2010).Duncan(2013)の抜粋を一年生の英語コミュニケーション授業で用い,授業の一環として,コミュニケーションをとる言語についてグループ・ディスカッションを行った.英語を共通言語という学生が半数であったが,易しい日本語や,多言語を自分たちで学ぶ必要性にも言及があった.理由に書かれた語彙からは,英語という単語と世界・言語という単語とのつながりが太い事がわかった.また,易しい日本語という単語にはジェスチャーという単語の結びつきが見られた.非言語コミュニケーションであるジェスチャーを,学生たちは有効なコミュニケーション手段の一つとして日本語の使用と共に挙げていた事が判明した.

    (考察)

     政府の多言語に対しての対応が必要である事に加え,日本社会全体として多言語に対しての理解を進める事の必要性がある一方で,いわゆる縦割りの研究として進められている,英語教育や日本語教育の研究結果共有も求められる.また,学生たちのコミュニケーション観として挙がった非言語コミュニケーションの可能性などの意見や専門家の知識を包括しアウトプットする必要性が示唆された.

    (倫理規定)

     研究は倫理審査を受ける内容は伴わなかった.

    (利益相反)

     開示すべきCOI関係にある企業等はない.

  • 細山田 康恵, 東本 恭幸, 河野 公子, 海老原 泰代, 岡田 亜紀子, 峰村 貴央
    2021 年 12 巻 1 号 p. 1_121
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     本学のカリキュラム変更に伴い,令和元年度の入学生から特色科目に「社会実習(ボランティア活動)」が加わり,2・3・4年生で開講されるが,詳細が決まっていない現状である.そこで,この社会実習の一つとして,本学学生に地域高齢者の方を対象に,体験型学習(昨年までのほい大健康プログラム)を行う.体験型学習への参加が,学生の意識に及ぼす影響を明らかにし,得られた学修効果等を評価し,科目等への活用を考える一助とし,より良いカリキュラム構築に寄与することを目的とする.

    (研究方法)

     体験型学習を2日間で4回実施した.令和元年10月5日(土)午前:①A団地,午後:②B団地と11月2日(土)午前:③C団地,午後:④D団地で行った.テーマは栄養学科「自分の食事を調べてみよう」,歯科衛生学科「おいしく安全に食べる口の環境づくり」,理学療法学専攻「運動と認知トレーニングで認知症を予防しよう」とした.①②では,栄養学科と歯科衛生学科のテーマ,③④では栄養学科と理学療法学専攻のテーマで体験型学習を設定した.参加学生には,事前にオリエンテーションで内容を説明し,プログラム実施後にアンケート調査を行った.無記名式で匿名性を担保した.回収したアンケートの解析IBM SPSS Statistics 26による単純集計を行い,ディプロマ・ポリシーと関連させ,学生の学修効果を検証した.

    (結果および考察)

     参加学生41名の学科専攻内訳は,栄養学科22名,歯科衛生学科4名,理学療法学専攻14名,作業療法学専攻1名で,学年は1年生14名,2年生15名,3年生4名,4年生8名であった.大学入学前に参加しボランティア活動・地域貢献活動は,ないが65.9%となり,ボランティア活動をしてない学生が多いことがわかった.今回参加したきっかけは,学内ポスター46.3%,教員からの誘い36.6%,昨年度までにほい大プログラム参加していた31.7%であった.また,ボランティアに興味があって参加した学生は19.5%,ほい大プログラムに興味があって参加した学生は14.6%に留まった.ボランティアを募集する際に,工夫が必要と考える。「対象者に配慮して適切に対応する方法を学べましたか」について,とてもそう思う,70.7%,そう思う29.3%であったことより,倫理観とプロフェッショナルリズムはほぼ達成できたと考えられる。「これまであなた自身が学んだことを発揮できましたか」について,よくできた29.3%,できた61.0%,あまりできなかった9.8%であった.これは,1年生が学習してない内容があったためと推定される.「今後もボランティア活動・地域貢献活動をしていきたいと思いますか」について,とてもそう思う80.5%,そう思う19.5%となり,生涯にわたる探求心と自己研鑽に繋がると期待される.

    (結論)

     参加した学生のほい大健康プログラムへの関心は高く,社会実習にふさわしい内容で,ディプロマ・ポリシーを達成できることが示唆された.今後,「ほい大健康プログラム」をさらに改良し,千葉県の高齢者の健康寿命の延伸に寄与できるように取り組むことが必要と考える.

    (謝辞)

     本研究を遂行するにあたり,田邊政裕学長,石井邦子学部長,歯科衛生学科の麻賀多美代先生,麻生智子先生,鈴鹿祐子先生,元理学療法学専攻の竹内弥彦先生,UR都市機構の伊藤公晴氏,小川恵丈氏に多大なご協力をいただきましたことに御礼申し上げます.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学倫理審査委員会の承認(2019-16)得て実施した.

    (利益相反)

     開示すべきCOI関係にある企業等はありません.

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