千葉県立保健医療大学紀要
Online ISSN : 2433-5533
Print ISSN : 1884-9326
11 巻, 1 号
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原著
  • ─ACLS-5と他の測定方法との相関から─
    岡村 太郎, 宮本 安奈, 成田 悠哉, 坂田 祥子, 松尾 真輔, 佐藤 大介
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_3-1_10
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     目的:日本語版ACLS-5を使用し,MMSE-JとFIMと寝たきり度との関連からACLS-5の測定結果の妥当性を検討する.

     方法:ACLS-5と寝たきり度とFIMとMMSE-Jと相関より関係を確かめる.さらに,MMSEの得点により,認知機能に問題のない健康群(MMSE-J≧28)と問題のある群にわけ,ACLS-5のスコアと性別,年齢を加え,尤度比によるロジスティック解析によりACLS-5の認知機能の健康群の判別的中率をたしかめた.(p<0.05)

     結果:ACLS-5スコアは,寝たきり度(ρ=0.46)とMMSE-J(ρ= 0.54), FIM(ρ= 0.47) と有意に相関が認められた.ロジスティック解析では, ACLS-5スコアは認知機能に問題の有無の判別は有意で,判別的中率は74.5%と良好であった.

     考察:ACLS-5と他の日本で使用する評価の関連から,臨床使用の妥当性が確かめられた.

  • 川城 由紀子, 石井 邦子, 北川 良子, 大滝 千智, 小路 和子, 吉村 園子, 浅野 輝子, 臼井 佐紀, 窪谷 潔
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_11-1_18
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     【目的】産後2週間の母親の心理的健康状態を評価し,助産師による産後2週間健診が心理的健康状態にもたらす効果を検証することを目的とした.【方法】2週間健診を受けた女性を対象に,2016年7月から2017年2月に調査を実施した.心理的健康状態として,育児不安尺度14項目,赤ちゃんへの気持ち質問票(MIBS)10項目,エジンバラ産後うつ評価票(EPDS)10項目を調査し,健診前後で統計学的に比較した.本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て行った.【結果】調査票256部を配布し,健診前後の調査票が揃った170部(回収率:66.4%)を分析対象とした.健診前後でMIBS得点とEPDS得点には差は見られなかったが,初産婦における育児不安尺度の合計得点(P=0.001),下位尺度の 「イライラの状態」(P=0.001),「育児不安徴候」 (P=0.001)では有意な低下がみられた.【結論】助産師による産後2週間健診は,母親の育児不安の軽減に効果があることが考えられた.

報告
  • 西野 郁子, 石川 紀子, 齊藤 千晶, 中山 静和
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_19-1_25
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     食物アレルギーをもつ子どもの親に対する小学校入学に向けた支援を検討するために,親が学校と相談した経験を明らかにすることを目的として調査を行った.対象者は,食物アレルギーのために学校生活において配慮が必要な子ども(小学1年生~3年生)の母親5名であった.母親に対し,小学校入学にあたって学校へ相談した内容とその時期,子どもに向けた関わり,現在の学校生活における学校との連携などについて半構成的面接を行った.

     調査の結果,親は説明資料を作成して学校に提示することや,学校関係者に受け入れられるような姿勢で臨むなどの工夫をしながら入学前の相談を進めていた.また子どもに対し,アレルゲンに接触しないことを自覚し,アレルギー症状が出現しないための行動が取れるような働きかけをしていた.学校関係者に子どもの食物アレルギーの状態について理解が得られ,学校の実状に合わせた要望を提示できるような親への支援が必要である.

  • 田口 智恵美, 佐藤 まゆみ, 三枝 香代子, 浅井 美千代, 大内 美穂子, 小安 麻子, 比田井 理恵, 菅沢 直美
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_27-1_34
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     目的:IABP装着中の患者への看護実践に関するシミュレーション研修を受講したIABP装着中の患者受け持ち未経験のICU看護師の研修の満足度,知識・スキル等の学習度,3か月後の研修の効果を明らかにした.

     方法:経験の浅いICU看護師を対象にIABP装着中の患者への看護実践に関するシミュレーション研修を実施し,アンケート調査と半構成的面接を実施した.

     結果:対象は2名で,研修全体,事前学習資料,デブリーフィング,2度目のシミュレーション,フィードバックについては2名が「大変満足である」と回答し,学習度については,2名が全9項目中「IABP波形」「アラームの原因探索」「IABP装着中の患者への対応」「状態理解」「呼吸・循環観察」「体位変換」等の6項目で知識の深まりやスキルの向上,3か月後は2名が研修効果を実感した.

     考察:事前学習,ファシリテーターの関わり,2度のシミュレーションが重要であった.

  • ─ロジックモデルを用いた在宅療養者支援活動の可視化─
    成 玉恵
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_35-1_43
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     目的:看護職が地域で実践するNPO活動を, ロジックモデルを用いて可視化し活動の実態を明 らかにする.

     方法:NPO2団体の看護職2名を対象に半構成的面接調査を行い,インタビューの逐語録また活動に関連する二次資料からロジックモデルの各要素を抽出し構造化した.

     結果:多職種で構成された職員と特色のある活動体制等4つを共通の〈資源〉とし,団体Ⅰは【あらゆる生活支援による自宅生活の維持】等6つの〈活動〉,その実績と収益の〈アウトプット〉,「障害者が自分に責任をもつ」等の4つの〈アウトカム〉,2つの〈インパクト〉が得られた.団体Ⅱは【利用者への徹底した医療管理】等6つの〈活動〉,その実績と収益の〈アウトプット〉,「精神障害者が自分らしく生きる」等3つの〈アウトカム〉,2つの〈インパクト〉が得られた.

     考察:活動には多様な価値観が機能した独自性という特性があり,地域の精神障害者に大変意義がある活動と言える.

  • 松尾 真輔, 有川 真弓
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_45-1_49
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     日本の作業療法士養成教育において,学生が初めて経験する臨床実習前に不安が募ることが多くみられる.今回の調査では,臨床実習前に障害者モデルを利用した学内検査測定実習を導入し,学生の気分状態や臨床実習適応能力の自己評価にどのような変化があるか,Profile of Mood States 2nd Edition(以下,POMS2),臨床実習適応能力の自己評価尺度(以下,臨床実習適応能力)を実施した.対象は,作業療法専攻学生の研究協力の承諾を得た3年生44名.結果,POMS2は,「総合的気分状態」,「混乱-当惑」,「疲労-無気力」,「緊張-不安」で有意な差を認め,スコアが上昇し,「活気-活力」,「友好」で有意な差を認め,スコアが下降した.臨床実習適応能力は,「総合的な適応能力」で有意な差を認め,スコアが上昇した.今回の調査では,学内検査測定実習を実施し,障害者モデルと関わる経験から,現時点での学生の臨床的スキルを知ることで,気分状態や臨床実習適応能力の変化に繋がる可能性が示唆された.

資料
  • 浅井 美千代, 杉本 知子, 佐藤 まゆみ, 植村 由美子, 佐藤 紀子, 川城 由紀子, 西野 郁子
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_51-1_55
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     目的:県内の中小規模施設で就業する看護職者の看護実践業務を遂行する力を向上させるために受けたい研修とその理由を明らかにする.

     方法:県内の医療施設等に対する郵送調査を2013年度に実施した.調査回答者2,214名のうち,中小規模病院等に就業中で,受けたい研修とその理由に回答した249名を分析対象とし,その回答に関する記述のカテゴリー化を行った.

     結果:受けたい研修として【認知症ケア】が全ての就業場所から抽出され,看護職者は,『世相を反映した問題に直面している』等の理由で研修を受けたいと思っていた.就業場所別では,病院 ・診療所で【救急看護】,訪問看護ステーション・介護保険施設で【ターミナルケア・看取りの看護】が抽出され,いずれも『看護実践能力を高めたい』という理由であった.

     考察:県内看護職者は認知症高齢者対応等を喫緊の課題として認識し,看護実践力を高めるために【認知症ケア】【救急看護】【ターミナルケア・看取りの看護】についての学習を望んでいた.今後はこれらを強化する研修を企画する必要があると考えられた.

第10回共同研究発表会(2019.8.28)
  • 加藤 隆子, 齋藤 直美, 渡辺 純一, 渡辺 尚子
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_57
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     心的外傷(以下 トラウマ)は,生命に危険を伴うか,またはそれに匹敵する強い恐怖もたらす体験がある程度の時間を経て精神障害の原因となる心の傷である.精神科の医療現場おいて,トラウマ体験により苦悩する人と出会ってもそれに気づかないか,大きな問題として捉えられない現状がある.そこには,看護師が支援において何らかの困難さを感じている可能性がある.本研究の目的は,トラウマにより生きにくさを抱えている患者を支援する精神科看護師の体験に着目し,その感情や思考,支援の姿勢,それらに影響している要因を明らかにして,教育ニーズや課題を明確化することである.

    (研究方法)

    研究対象者:精神科病棟に勤務する看護師

    調査方法:半構成インタビューによる質的研究方法.インタビューは一人につき1回40~80分行った.インタビューでは,トラウマにより生きにくさを抱えている患者との関わりについて,印象に残っている場面を取り上げ,感情や思考,行動を中心に語ってもらった.

    分析方法:患者との関わりで生じた感情や思考,行動についての語りを質的に分析しカテゴリー化した.

    (結果)

     対象者は,精神科病棟に勤務する看護師8名であった.看護師は【患者支援の困難感】や患者の【トラウマに触れることへの戸惑い】を抱きながらも,【現在の問題に着目する】という支援をしていた.看護師の感情や思考,支援の姿勢に影響していた要因は【患者要因】【看護師要因】【状況要因】に分けられた.それぞれのなかで,患者の演技的で他罰的な傾向,看護師自身の消極性や自信のなさ,無力感,トラウマを意識した看護経験の乏しさ,限られた入院期間,主治医の方針や臨床でのトラウマに対する認識の希薄さなどは,支援への阻害要因となっていた.これらの影響が強い場合は,看護師には【トラウマの問題を回避する】【淡々と対応する】【関わりを諦める】【患者に変化が見られないことに伴う不快感】が生じ,援助関係は停滞していた.一方,患者の人懐っこい性格傾向,看護師の関わりへの積極性や手応え,問題を一人で抱えない姿勢,スタッフの理解と支援などは,患者支援への促進要因となっていた.これらの影響が強い場合には,看護師には【トラウマのある患者を気にかける】【患者のニーズを満たす】【患者に自覚を促す】【患者の肯定的変化に伴う嬉しさや連帯感】が生じ,援助関係は発展していた.

    (考察)

     援助関係が停滞する要因としては,看護師の自信のなさや無力感だけでなく,トラウマ支援に対して消極的な臨床状況も影響していた.看護師個人だけでなく,病棟や臨床現場全体でもトラウマにまつわる基本的な知識に対する教育ニーズの高さが伺えた.また,限られた入院期間も支援に影響していることから,退院後も支援を継続できるような方策も必要である.援助関係の発展のためには,看護師が意識的に患者と率直な気持ちのやり取りを積み重ねることが必要である.そのような関わりを通して,患者が自らのニーズに気づき,それを満たしていく行動が必要であり,そのために看護師に対する教育支援の必要性が示唆された.

    (倫理規定)

     千葉県立保健医療大学(2018-01)と調査対象施設の倫理審査委員会(156)の承認を得て実施した.調査対象施設と研究対象者には,文書と口頭で研究の目的,方法,守秘義務,研究参加の任意性,途中辞退の権利,辞退した場合でも不利益を被らないこと,研究結果の公表について説明し同意書によって同意を得て実施した.

    (利益相反)

     本論文発表内容に関連して申告すべきCOI状態はない.

  • 中山 静和, 西野 郁子, 石川 紀子
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_58
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     近年,保育現場では「気になる子」の存在が指摘されている.「気になる子」の明確な定義はないが,先行研究において,「対人トラブル」「落ち着きのなさ」「状況への順応性の低さ」「ルール違反」などの特徴を示し,障害の診断は受けていないが特別な支援を要し, 保育者にとって保育が難しいと考えられている子どもとして用いられている.「気になる子」は全国の保育所の90%以上に在籍しているが,「気になる子」への支援が十分でないことが課題とされている.

     本研究では,保育所看護職が認識する「気になる子」への保健活動の実態について調査し,保育所看護職による「気になる子」への保健活動に対する課題を検討することを目的とした.

    (研究方法)

     関東圏内A県の公立・私立保育所に勤務し,「気になる子」に関わったことのある看護職を対象とした.保育所看護職経験年数は,「気になる子」の特徴を理解したうえで保健活動を実践したと考えられる期間を考慮し,6か月以上とした.調査は2018年8月~11月に実施した.対象者の所属する施設内で面接ガイドに沿って1名につき60分程度の半構成的面接調査を実施した.対象者の許可を得て,ICレコーダーを使用し,語りの内容を録音した.面接データから,保育所看護職が「気になる子」への保健活動として実践している具体的な活動内容に関する記述について,活動対象者別に質的帰納的分析を行った.また,共同研究者間で協議を重ね,分析の妥当性の確保に努めた.

    (結果)

     対象者は7名で,全員女性であった.保育所経験年数は1年10か月~20年であり,常勤が5名,非常勤が2名であった.

     分析の結果,保育所看護職における「気になる子」本人への保健活動として,【安全を守る】【心身の健康管理をする】の2つのカテゴリーが抽出された.【安全を守る】では,保育所看護職は,「気になる子」が施設外に飛び出して危険が及ばないように,保育士と連携を取りながら安全の確保をし,1対1で関わりながら「気になる子」を見守っていた.【心身の健康管理をする】では,保育所看護職は「気になる子」が逃げ回る等の行動が見られた際に別室に移動し,短く簡潔な言葉で声を掛け,クールダウンできるための関わりをしていた.また,保育所内の巡回時に「気になる子」を観察しながら関わることや,保護者によって記載された連絡帳・保育士がもつ情報・母親との会話から「気になる子」の健康状態についての情報収集をし,アセスメントに繋げていた.さらに「気になる子」が伝えてくる身体症状に対応しながらコミュニケーションを図り,噛みつきなどの怪我への対応をして健康管理をしていた.

     また,保育士に対する活動では,【保育士との情報共有と支援のアドバイスをする】が抽出された.保育所看護職は,保育士が「気になる子」への支援が実践できるための保育所看護職としての意見や,具体的な支援内容についてのアイデアを伝えていた.また,保護者への活動では,【保護者の相談に乗る】が抽出された.「気になる子」に医療的な配慮の必要性がある場合に,保育所看護職として保護者の相談に乗り,必要時は保護者と保育士の面談に出席していた.しかし,このような保育士および保護者に対する保健活動について述べたのは1名であった.

    (考察)

     今回の研究では,保育所看護職は「気になる子」への保健活動として,危険を伴う行動を取るという特徴に対し安全面の確保しながら,「気になる子」の心身の健康管理を中心に実践していると推測された.一方で,保育士や保護者への支援については十分ではないことが考えられた.今後は,保育士とともに互いの専門性を活かした「気になる子」への組織的な保育・保健活動について検討する必要がある.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施した.(承認番号2018-23)

    (利益相反)

     利益相反に関する開示事項はありません.

  • 海老原 泰代, 岡田 亜紀子, 渡邊 智子, 渡辺 満利子
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_59
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     メタボリックシンドローム(Mets)は2型糖尿病を増加させ(Lorenzo, et al., 2003),心血管疾患者死亡率(Maaria, 2002),癌発症(Gallagher, et al., 2013)をも高めることが報告されている.わが国の糖尿病罹患者は全人口の11.2%を示し(厚生労働省,2013),全世界平均7.9%を上回り(WHO),いまや糖尿病予防は緊急課題であり,効果的な方策が希求されている.厚生労働省は平成20年よりMets対策のため特定健診・保健指導を開始した.

     我々は,これまでに千葉県内某事業所従業員256人(40~60歳)の特定健診結果と食事調査結果を分析し,Mets罹患と「夕食のまとめ食い」「夜遅い食事」等の食生活スタイルに関連がある事を明らかにした.さらに,特定保健指導経験豊富な管理栄養士は,糖尿病の発症予防にはMetsリスク保有者に対し,エネルギーコントロール源である脂質を減らす指導は優先度が低く,体重管理よりも糖質の量・摂り方等の血糖コントロールに重点を置いた支援をしていることがわかった.これらの調査結果をもとに,Metsリスク保有者の糖尿病発症予防を目的としたライフスタイル改善プログラムの一環として,栄養教育教材「健康マネージメント手帳」を開発した.

     本調査では,「健康マネージメント手帳」を用いた食生活改善支援をすることで,Metsリスク因子および血糖コントロールに影響を与える食べ方や栄養素等摂取量などライフスタイル改善の効果について明らかにすることを目的とした.

    (研究方法)

    【対象】特定健診・特定保健指導を実施する千葉県及び千葉県近郊の事業所従業員(年齢20~74歳男女),介入群36人,対照群17人合計53人.

    【内容】Metsリスク保有者である特定保健指導対象者に対し,内臓脂肪型肥満改善を目的とした特定保健指導と並行して本研究で開発した「健康マネージメント手帳」を使った栄養教育プログラムを実施し,ライフスタイル改善の定着を図る.

     介入群:血糖値の上昇を抑えつつ,Metsを改善する食事と身体活動を含むライフスタイルについての教育を行う.実施前後に食事摂取頻度調査票(FFQW82)による食事摂取頻度調査を行い,「健康マネージメント手帳」に基づく食行動改善を提案する.

     対照群:内臓脂肪型肥満改善のための食事と身体活動の教育を実施する.

    【評価方法】介入前後の特定健診結果の喫煙を含むMetsリスク要因および血糖コントロールに影響を与える食べ方や栄養素等摂取量の変化を評価した.

    【解析方法】Mets該当の有無の群間比較はカイ二乗検定,検査値の比較は対応のあるT検定を行った.解析にはIBM SPSS24を使用した.

    (結果)

     1年後の健診結果では,介入群ではMetsリスク因子数が2つ以上のMets該当者数は介入前後とも6人でMetsリスク該当者人数に変化はなかった.Metsリスク因子数が1つの予備群該当者数は24人から20人と4人減少し,該当なしは6人から9人へと3人増加した(p=0.04).対照群ではMets該当者は4人から3人の1人減少,予備群該当者は9人から7人の2人減少,該当なしは3人増加した(p=0.03).両群共に1年後にMetsリスク数の変化による該当者・予備群該当者の有無は有意に変化したが,2群間に有意な差は無かった. 介入前後の血糖値の変化量は介入群1.9 ㎎ /dl, 対照群-1.8 ㎎ /dlおよびHbA1cは0.1 %,0.0%と両群に有意な差は無かった

     Metsリスク数が減少した者は野菜の摂取量が増える,野菜を先に食べる等の食行動改善が見られた.

    (考察)

     ライフスタイル改善指導により,Metsリスク数が有意に変化することが明らかになった.「健康マネージメント手帳」を用いた糖尿病予防の栄養教育プログラムを追加することによる,血糖値等の有意な差はみられなかった.しかし,Metsリスク数が減少した者は,本プログラムで推奨した野菜摂取量の増加など,血糖値改善効果のある食行動を続けていた.本プログラムは糖尿病発症予防のための食行動改善に影響を与えることが示唆された.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:2016-005).

    (利益相反)

     開示すべきCOI関係にある企業等はありません.

  • 吉野 智佳子, 下村 義弘
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_60
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     日常生活を遂行する際,手指機能は重要な要因の一つである.鎌倉1)は手の把持把握を実用的に分類しており,物品の把持把握形態を写真の分析や16mmビデオに記録し,再生時に肉眼的観察によって分析している.その方法では把持把握形態や指関節の運動方向については分析が可能であるが定量的データとしては不十分といえる.芥川2)は深部感覚の影響により握り潰すなどの症状のある頚髄症患者と健常人のピンチ力調整能を定量的に測定しているが,運動と感覚の連関による把持力発揮のコントロール不良は可視化しにくい.今回の研究によって各指の個別性を可視化できれば,患者が自身の把持状態が発揮過剰なのか,把持力不足なのかを理解しやすくなる.また,芥川2)の評価システムはmmHg単位の独自システムであるため,様々な評価場面において比較しにくい現状が考えられる.

     本研究では,感圧測定システムを使用し,健常人のピンチ力調整能を測定することで手の把持把握に関する患者指導への検討を行うことを目的とする.

    (研究方法)

     被験者はリハビリテーション学科学生20名(男性10名,女性10名)で,実験前に実験に関する説明を十分に行い,実験途中での中止を求めてもよい旨説明した.同意書にて全員同意の確認を行った.また,フェイスシートにより過去の活動経験(部活動や趣味活動など)について記載を依頼した.

     椅坐位にて机上での各物品の把持把握を行った.鎌倉1)の分類では大きく分けて握力把握系・中間把握系・精密把握系としており,さらに握力把握系では標準型・鈎型・示指伸展型・伸展型・遠位型,中間把握系では側面把握・三面把握(標準型・亜型Ⅰ・亜型Ⅱ),精密把握系では並列軽屈曲把握・包囲軽屈曲把握・指尖把握・並列伸展把握としている.それぞれの把持把握に対応する物品として,包丁,金槌,うちわ,軽いかばん,編み棒,千枚通し,受け皿,裁ちばさみ,ホッチキス,鍵,鉛筆,フリクション,テーブルスプーン,箸,盃,茶筒,画鋲,輪ゴム,ハンカチを用いて,その把持把握状態を90秒間測定した.測定には感圧測定システム(KS-SYS1A-2:キャノン化成(株)製)を用いた.感圧センサーは拇指・示指・中指・環指・小指の指腹に貼付し,各指基節骨部と手関節部をベルクロにて固定した.

     データ解析は,ピーク値を算出し,課題による把持の違いがみられるかなど各指(母指・示指・中指・環指・小指)について男女別に分析を行った.

    (結果)

     各物品を把持した際の値の平均は,男性・女性の順で, 握力把握系の包丁で拇指103.5・111.1, 示指113.3・155.5,中指163.9・185.9,環指169.3・215,小指92.5・78となり,男女とも中指と環指,小指で高い値となった.中間把握系の鉛筆で拇指226.8・362.8, 示指259・305.3, 中指138.6・266.2, 環指35.5・18.9,小指16.5・4.2となり,拇指・示指・中指・環指で女性の方が高い値となった.精密把握系の盃で拇指196.4・272.7, 示指148.8・162.7, 中指121.8・162.3, 環指66.4・113,小指0・0となり,男女とも拇指・示指・中指で高い値となった.

    (考察)

     握力把握系の物品では,中指と環指,小指にてパワーを発揮する把持を行っていた.特にバドミントン経験者ではよりその傾向が強かった.一方精密把握系の物品では,拇指・示指・中指での把握により把持物を精細に操作できる把持形態となっていた.

     被験者毎の把持状況より,極めて個別性が高く,平均値で結論づけることは妥当ではない.患者に対する指導においては各指の把持状況に応じ,個別性を考慮した指導が必要であると考える.本研究はそのような意味で寄与できると考えられる.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て実施した(申請番号2018-15).本発表内容に関連して申告すべきCOIはない.

  • 東本 恭幸, 長谷川 卓志, 渡邉 智子, 岡田 亜紀子
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_61
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     在宅医療への移行が加速している現在,在宅医療を受ける患者(以下,居宅療養者)の闘病を支える基礎的体力の維持・向上には適切な食事・栄養管理が重要である.介護専門員(ケアマネジャー,以下CM)は医師や看護師と並んで療養上の情報ソースとなる機会が多く1),2),居宅療養者および介護者からの食事・栄養・食品の情報ニーズも高い1)ものの,単独での対応は困難で,管理栄養士との連携も十分ではないという指摘3)がある.

     そこで本研究では,居宅療養者の食事・栄養支援におけるCMや地域包括支援センター(以下,センター)の関わりを明らかにして,在宅栄養管理の向上に向けた管理栄養士とCMとの連携の必要性等について検討することを目的とした.

    (研究方法)

     千葉県内のセンター160施設(2018年5月末時点で登録されていた全施設)の主任介護支援専門員を対象に,郵送法による質問紙調査を行った.調査項目は,センターの施設概要,多職種連携状況,CMと居宅療養者の食事・栄養課題との関わり,研修・セミナー等 開催状況,管理栄養士との連携実績等である.統計解析ではp≦0.05のとき有意と判断した.

    (結果)

     63センターから有効回答(39.4%)が得られた.医療圏別のセンター数と回収数の分布に有意差はなかった(Mann-Whitney’s U test:p=0.84).センターの運営主体は委託が79%を占め,直営(19%)の割合は医療圏による差はなかった(χ2 test:p=0.18).管轄地域の高齢者人口は平均15,200人であり全施設でよく把握されていたが,居宅療養者数を把握しているセンターは7施設(11%)に過ぎなかった.常勤・非常勤を含め管理栄養士を配置しているセンターはなかった.多職種連携が可能なセンターは53施設(84%)で,連携可能な職種として約3/4以上の施設があげたのは医師,理学療法士,看護師であり,管理栄養士をあげた施設は35施設(66%)にとどまった.管理栄養士との連携実績としては,住民対象の行事をあげたセンターが26施設と最も多く,CMの研修での連携をあげたセンターは7施設のみで,専門職対象の栄養関連セミナーの開催実績がないセンターも49施設(78%)と多かった.

     センターが管轄するCM数は3~170人(平均31.7人)で,CMから居宅療養者の食事・栄養課題の相談を受けたセンターは28施設(44%)あり,その内容としては食事量,摂食嚥下,買い物・食材入手に関するものが多かった.ケアプラン策定時に,CMが居宅療養者の食事・栄養を考慮していると評価したセンターは41施設(65%)であった.CMから食事・栄養研修を希望されたセンターは8施設(13%)に過ぎなかったが,CMに栄養の知識が必要と考えるセンターは61施設(97%)に達した.

    (考察)

     地域包括ケアシステムの展開に伴って制度横断的な多面的支援が要求されるようになり,センターでは十分に対応できなかった医療サービス分野を補完する「在宅医療・介護連携支援センター」の設立が急ピッチで進んでいる.介護保険の知識を有する看護師や医療ソーシャルワーカーが常駐し,CMやセンターからの相談を受けるしくみである.CMは居宅療養者の生活を間近で看る存在であり,居宅療養者の様々な栄養課題を解決していくためには,管理栄養士の本来のリソース活用のみならず,CMも含めた多職種の連携が必要であることが示唆された.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の 承認を得て実施した(2018-12).

    (利益相反)

     本研究において申告すべきCOI状態はない.

  • ─ 転倒予測の(AI による)汎用化へ ─
    三和 真人, 雄賀多 聡, 大谷 拓哉, 小川 真司, 高橋 宣成, 真壁 寿, 山口 高史
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_62
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     現在,高齢社会において避けることができないことは運動器系疾患であり,一度不動性を伴う疾病に罹患すると,「健康寿命の短縮」や「寝たきり・要介護」に繋がることが考えられる.2040年以降,本邦の超高齢社会を考える上で,運動器症候群を早期発見,予防するための対策(運動機能評価や介入方法)が必要不可欠である.特に日常生活の礎となるのが移動手段である歩行が最も高次な運動メカニズムある.体重心を前後移動させる推進力に加え,脊柱の柔軟性(左右・上下方向)が存在しないと移動能力としては成立しない.歩行は一定の周期性を持つところであるが,正常な心拍数と同様に,必ずしも規則性があるとは限らない.高齢者の歩行には“不規則性”が存在し,頭部・体幹の左右ブレと歩行のリズムの崩れが一致したとき,転倒のリスクが高まることが考えられる.本研究は,歩行時の効率的な下肢運動機能要因が,転倒・寝たきり予防に繋がる因子になり得るのか否かを分析することとした.

    (研究方法)

     平成29年度よりほぼ週5回,30分以上の散歩を行い,毎週の運動指導士による健康体操を行っていた11名を平成30年度に追跡し,入院その他により計測できなかった2人,死亡1人を除く,追跡可能だった8名を本研究の対象とした.平均年齢75.8±2.5歳(昨年度は74.3±2.5歳),身長159.4±7.4cm,体重54.0±11.3kgと,身長・体重は昨年度と変化がなかった.

     測定課題は,第2仙骨部に歩行システムG-Walk(G-sensor2, BTSBioengineering, Italy)の3次元加速度センサーを貼付し,1辺が15m正方形外周を自己快適歩行速度で6分間歩行するものとした.測定調査は,左右の最大足趾把持力(kg),左右の片脚立位率(%),左右のステップ長(cm),平均歩行速度(m/s),ケーデンス(歩数/分),ストライド長(cm),6分間歩行距離(m),およびロコモ度テストの2ステップ長,台からの片脚・両脚の立ち上がり,アンケートと簡易栄養状態評価(MNA)の13項目とした.統計分析は,平成29年度と本年度の各項目を対応のある比較検定した.なお,有意水準は5%とした.

    (結果)

     足趾把持力は,左13.7±5.2→12.1±2.7kg,右13.7±5.2→12.1±2.7kgと差はなかった.ストライド長は,左186±0.2→164±0.2cmと有意差がみられた(p<0.05).歩行速度は,2.0±0.4→1.8±0.7m/sと差は見られなかった.しかし,ケーデンスは130.3±10.5→135.2±8.7(歩数/分)と有意差こそ勿かれども,わずかに高い傾向が示された.

     一方, ロコモ度をみると, ステップ長1.28±0.1→1.31±0.1と差がなかった.片脚立位,両脚立位を詳細に調べると,片脚立位で30cm台から可能だった2人が1人に減少し,元からできない人が1人から2人に増えていた.また両脚立位も20cmから立ち上がる人が5人から4人に減り,30cm台のできる者が1名増えていた.ロコモ度アンケートおよびMNAについて差はみられなかった.

    (考察)

     運動習慣がある75歳前後の高齢者を1年間追跡し,身体機能に差がなかったが,歩行能力に差が見られた.特にストライド長に有意差があり,加齢に伴って短縮することが考えられる.一方,ケーデンスが増すことで歩行率を上げ,歩行速度を維持する傾向にあることも明らかとなった.その裏付けとしてロコモ度テストの片脚立位,両脚立位で低下している人が増える傾向にあった.

     現在,健康寿命を延ばそうと考え,様々な取組が各所で行われているが,単純に筋力強化,バランス訓練等々を行うこともよいかも知れないが,高齢者個々の能力に見合った運動や理学療法を考慮し,実施することが肝要であると考える.本研究の問題点は,8人と症例数が少ない中での結論を導き出すことは難しく,症例数を3桁単位で集める必要があるものと認識している.

    (倫理規定)

    本研究は本学研究等倫理委員会の承認を得て実施したものである(2018-10).なお,本研究について申告すべきCOIはない.

  • 石井 邦子, 川城 由紀子, 北川 良子, 川村 紀子, 杉本 亜矢子, 青柳 優子, 植竹 貴子
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_63
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     内診は目に見えない膣内の状態を触診のみで把握する高度な技術であるが,触診の手技や診断の適否が可視化できず診断技術の評価が難しい.本研究は様々なキャリア発達段階にある助産師および助産学生による内診シュミレータを使用した内診の診断を分析し,診断技術の発達過程を明らかにすることを目的とする.

    (研究方法)

     対象は分娩介助実習終了後の助産学生,および助産師とし,教育機関または産科医療機関に所属し自発的に研究参加に同意した者とした.調査期間は2018年9月~2019年2月とし,研究協力の承諾が得られた助産師教育機関および産科医療機関にて研究対象候補者に対して文書で研究内容の説明と研究協力の依頼を行った.質問紙にて年齢,分娩介助経験例数,助産師経験月数(助産師のみ),分娩取扱の月数(助産師のみ),内診経験回数(助産学生のみ)を調査した.内診シュミレータは,PROMPT Flex内診トレーナー(日本ライトサービス株式会社)を使用した.陣痛開始前の子宮口未開大の状況から子宮口全開大まで様々な分娩進行の状況を想定し8パターンを設定,研究対象者それぞれが8パターンの内診を実施した.内診手技と診断を口述しながら内診を行い,研究者が内診診断結果(ビショップスコア5項目とその他)を聞き取り診断記録用紙に記入した.ビショップスコア5項目と産瘤・回旋の診断について,8パターン全体の診断一致率とパターン毎の診断一致率を算出,分娩介助例数別の4群で比較した.統計ソフトSPSS.ver23を用いてカイ二乗検定と残差分析を行った.

    (結果)

     助産学生24名(37.5%),助産師40名(62.5%)であった.助産師の分娩介助例数別の人数は99例以下群17名,100~199例以下群9名,200例以上群14名であった.また助産師の年齢は33.9±9.4歳で助産師の経験月数は113.7±104.3か月であった.ビショップスコア5項目のうち,「開大」の診断一致率は分娩介助例数の増加に伴い全体の診断一致率は上昇するが,学生も54.1%と比較的高く有意差はみられなかった.「展退」「硬度」「位置」の診断一致率は有意差が認められ(p=0.001,p=0.000,p=0.000),分娩介助例数が増加するに伴い上昇した.「下降度」の診断一致率は,4群間での有意差が認められたが(p=0.015),200例以上群でも40.9%と低く,分娩介助例数の増加に伴い下降した.パターン別では,「展退」50%以下のパターンおよび,「下降度」-2以下のパターンで分娩介助例数200例以上の群でも診断一致率が低かった.

    (考察)

     「展退」「硬度」「位置」に関する診断は,分娩介助例数が多いほど診断一致率が上昇傾向であることから,経験を重ねるにつれ診断技術が向上していくと考えられる.一方「下降度」について,分娩介助例数の増加に伴い不正確になる傾向は先行研究1)と同様である.学生や分娩経験例数の少ない初心者は,原則に則り坐骨棘から児頭下降度を診断している一方で,分娩経験例数の増加に伴い原則的な診断基準よりも自身の感覚で判断している可能性がある.また子宮口後方で展退50%以下の所見において正確な診断ができていない事実については,分娩進行がまだ進んでいない状況において「展退」は正確に診断していない助産師の存在が推察され,これらの原因を解明する必要がある.

    (倫理規定)

     データ収集が個人の評価を目的としないこと,個人情報が保護されることを十分に説明した.特に助産学生に対しては収集したデータが成績には関係しないことを説明し,当該学生が在籍する教育機関には属さない研究者がデータ収集を実施した.本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て行った.(承認番号2018-09)

    (利益相反)

     本論文発表内容に関連して申告すべきCOI状態はない.

  • 渡邊 智子, 東本 恭幸, 細山田 康恵, 河野 公子, 海老原 泰代, 阿曽 菜美, 岡田 亜紀子, 峰村 貴央, 小川 真, 上野 佳代 ...
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_64
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     千葉県の健康格差分析事業報告書1)をみると,千葉県の健康課題は地域により相違があるが,高齢化率の上昇は各地域で共通している.健康寿命の延伸は千葉県にとっても大きな課題である.そこで,千葉県の高齢者の健康寿命の延伸に寄与することを目的に「ほい大健康プログラム(以下P)」を教員が作成し,学生ボランティアおよびUR都市機構(以下UR)と協働で実施し評価し検討した.

    (研究方法)

     UR 4団地(高洲第一(以下第一),高洲第二(以下第二),千草台(以下千草),あやめ台(以下あやめ))に居住し募集に応じた高齢者を対象とした.Pは,栄養,歯科,理学,運動,カフェ(医療相談等も含む)とし各30分程度実施した.カフェ以外は,1回に2つを組み合わせて実施し,各プログラム実施後2か月半~5か月経過後に再度,それに関するPを実施した.1回目に,属性ID,身体状況等,口腔アンケート,Pに対するアンケート(以下,P評価A)を行い,栄養プログラム実施回(2回)に食習慣調査を実施した.更に4回目に全プログラムに対するアンケートを実施した(P総合A).4回全てのPに参加した参加者には修了書を,それ以外の参加者には参加証を授与した.

    (結果)

     実施場所別の実施日時,P内容,対象者数(男性,女性),教員数,学生数は,以下の通りである(単位:人).第一・第二:6/9(土)栄養・理学,33(9,24),15,12,9/24(月・祝)歯科・運動,22(6,16),12,7,10/28(日):栄養・運動,27(5,22),11,12,12/9(日):歯科・理学,27(6,21),12,23,千草・あやめ:6/30(土)栄養・理学,36(6,30),12,11,9/20(木):歯科・運動,30(7,23),9,8,12/2(日)栄養・理学,31(7,24),12,14,2/21(木):歯科・運動,38(13,25),14,7,延べ人数は,参加者244(59,185),教員97,学生94.修了証書者は31(第一7,第二6,千草12,あやめ6),参加証書者は53(同24,5,7,17)であった.なお,参加者は午前,午後でほぼ半数となるが,スタッフはそのまま対応した.

     P評価Aの結果(平均±S.D(%))を見ると「参加してとても良かった」および「良かった」は99±4,「また参加したい」は95±6,「今後取り組みたいプログラムがある」は59±4,「教えてあげたいプログラムがある」は51±5で,関心のある健康情報は,食事70±4,運動67±5,認知症66±6,生活習慣病予防49±8,歯の健康47±6であった.

     P総合Aの結果をみると,「Pは楽しかった」については,栄養78%,歯科74%,理学92%,運動78%,「カフェに大満足」は69%であった.Pによる生活習慣の変化は,食習慣の見直しを実施53%,コグニサイズの習慣化15%,以前より口腔ケアを意識する68%,大いに運動するようになった43%であった.

    (考察)

     Pの評価が高かったことから,Pが千葉県民の健康づくりに寄与できることが示唆された.評価の高かった理由は,URの担当者の対象者への丁寧な周知と対応,実施日については本チームのメンバーが対象者1名に1名程度と手厚かったこと,昨年度からの継続であるため信頼を得たことも大きいと考えられる.さらに,結果を解析し検討したい.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学倫理審査委員会の承 認(2018-06)得て実施した.

    (利益相反)

     開示すべきCOI関係にある企業等はありません.

  • ─ 歯科衛生士大学生と歯科衛生士専門学校生の比較 ─
    河野 舞, 白井 要, 長澤 敏行
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_65
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     わが国における歯科衛生士国家試験の受験資格は歯科衛生士養成学校で3年以上の修業期間を満了することが必須であり,学校の種類には「専門学校(3年制)」「短期大学(3年制)」「大学(4年制)」がある.歯科衛生士養成学校において卒業までに習得しなければならない必須教育(専門知識および技術の習得)は概ね統一されているものの,教育方法には多くの違いがみられる.教育課程における歯科衛生士学生は,医療職一般のメンタルヘルスの問題に加え,教育現場において実践能力を身につける目的で体験型の学習方法が多く用いられることから,ストレスが多いことが報告されているが,本研究では,大学と専門学校に修業中の歯科衛生士学生のメンタルヘルスの経時的推移を調査し,修業年限におけるメンタルヘルスの違いについて検討することで,効果的な教育計画の整備や教育指導体制におけるひとつの指標として還元される可能性があるかどうか検討を行うことを目的とした.

    (研究方法)

     対象者は2018年度に在籍した某大学および某専門学校の歯科衛生士学生とした.対象者には本研究の目的や守秘義務,回答内容は成績に全く影響しない旨などに関する説明後,質問紙の提出をもって同意が得られたものとした.質問紙による調査方法は自記式アン ケート調査GHQ28(General Health Questionnaire28)による精神健康度とし,調査は無記名で行った.調査時期および回数は前期授業開始時(以下前期),後期授業開始時(以下中期),学年末(以下後期)の3回とした. 統計解析はSPSS. Statistics Ver.25を用い,GHQ28における各評価の2群比較は等分散性の検定後にt検定もしくはMann-Whitneyの検定を,多群比較ではKruskal-Wallisの検定後,Bonferroniの多重比較検定を行い検討した.有意水準は5%未満とした.

    (結果)

     学校別全体のGHQ28因子における得点の平均値を各時期(前期・中期・後期)で比較検討した結果,各時期間に有意差は認められなかった.各学校の学年別に各時期でGHQ28総合得点を比較検討した結果,専門学校では2年生の前期よりも中期において有意な高値を認め,大学では3年生の前期よりも中期に有意な高値を認めた.学校別に学年間でGHQ28総合得点を比較検討した結果,専門学校では有意差を認められなかったが,大学では後期において3年生は1年生と2年生よりも,4年生は2年生よりも有意な高値を認めた.1年生および最終学年(専門学校3年生と大学4年生)で学校別にGHQ28総合得点を比較検討した結果では,1年生の後期で大学よりも専門学校において有意な高値を認め,最終学年の後期では専門学校よりも大学において有意な高値を認めた.

    (考察)

     本研究の結果から,進級するにつれて衛生士学生のストレス状況が増減することは認められず,常に一定のストレスを感じていることが推測された.また,専門学校2年生の前期よりも中期に,大学3年生の前期よりも中期にストレスを感じていることが認められたが,この時期間は両校とも臨床実習が開始される時期であることから,臨床実習はメンタルヘルスを低下させるストレス要因の一つである可能性が示唆された.修業年限におけるメンタルヘルスの違いには一貫性が得られなかったが,本研究の対象者は2校の学生のみであるため,結果を一般化することには注意を要すると思われる.メンタルヘルスには様々な要因が複雑に絡んでいることからも,効果的な教育を行うためにはメンタルヘルスと関連する要因について更なる検討が必要であり,適切な予防的介入教育の必要性も含め,ストレスコーピングについても今後更なる検討が必要と思われる.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県保健医療大学研究等倫理委員会(承認番号2017-40)と北海道医療大学倫理審査委員会(承認番号2016-113)の承認を得て実施した.

    (利益相反)

     演題発表に関連し,開示すべきCOI関係にある企業等はない.

  • 有川 真弓, 松尾 真輔
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_66
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     少子高齢化が進む我が国において,すべての住民が,住み慣れた地域で生活を続けるために地域包括ケアシステムの構築が喫緊の課題となっている1).一部の先駆的な作業療法士は,リハビリテーション専門職としての視点とこれまでの地域支援の経験から,生活の視点で地域の人材資源や環境資源(以下,地域資源)を評価し,支援を行っている.これらの作業療法士が経験から行っている評価の視点を集積し整理することで,地域支援の経験が少ない作業療法士でも簡便に地域資源を評価できるチェックリストを作成できるのではないかと考えた.本研究の目的は,作業療法士が障害種別や年齢に関係なく生活の視点で地域資源を評価できるチェックリストを作成することである.

    (研究方法)

     調査対象者は,先駆的に地域にて就労支援を行っている作業療法士3名であった.対象者が勤務する地域は東北地方1名,北関東地方1名,南関東地方1名であった.

     先行研究を参考に作成したインタビューガイドに沿って面接を実施した.面接内容は,作業療法士が地域支援を行う時のアセスメントの視点,確認するポイント,地域資源の活用方法等であった.人的資源,物理的環境資源,社会的資源に分けて聞き取った.インタビューの所要時間は1名あたり1~2時間程度であった.面接実施前に文書と口頭にて説明し同意を得て行った.

     インタビューはICレコーダーで記録し,機密保持契約を結んだ業者に委託して逐語録にした.データは切片化したのち,類似性に基づき分類,グループ化して,カテゴリーを作成した.

    (結果)

     その結果,①地域の特性と課題,②対象者の生活を支える組織とサービス,③障害者の生活を支える人々,④支援に必要な情報収集,⑤地域での支援に生かす人脈作り,⑥地域力底上げのための啓蒙活動の6つのカテゴリーに分類された.①地域の特性と課題は,「交通手段と移動距離」,「地域の歴史」,「産業特性」,「人口特性」,「地域住民の思考特性」,「地域の課題」「課題に対する取り組み」の7つのサブカテゴリーで構成された.②対象者の生活を支える組織とサービスは,「行政機関」,「障害福祉機関」,「医療機関」,「公的社会保障」,「民間サービス」,「地域住民で構成された団体」,「企業団体」の7つのサブカテゴリーで構成された.③障害者の生活を支える人々は,「医療専門職」,「障害福祉専門職」,「医療障害福祉以外の専門職」,「行政職」,「地域住民で構成された団体の人々」,「企業団体の人々」の6つのサブカテゴリーで構成された.④支援に必要な情報収集は「地域特性に関する情報」と「産業等に特化した情報」の2つのサブカテゴリーで構成された.⑤地域での支援に生かす人脈作りは,「医療・障害福祉専門職との繋がり作り」,「地域住民との繋がり作り」,「各種団体との繋がり作り」の3つのサブカテゴリーで構成された.⑥地域力底上げのための啓蒙活動は,「地域全体の障害理解と障害者との共生を目的にした啓蒙活動」,「地域全体の障害理解と障害者との共生を実現する活動」の2つのカテゴリーで構成された.

    (考察)

     就労支援に携わる作業療法士は,地域全体の特性や課題を把握した上で,障害者支援のために医療障害福祉関連の地域資源だけでなく,企業団体との連携や地域住民を巻き込んだ活動に取り組んでいることが明らかになった.今後は就労支援以外の地域支援を行う作業療法士への聞き取りを進め,地域資源を網羅的に評価できるチェックリストの作成を目指していきたい.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施した.

    (利益相反)

     本研究に関して申告すべきCOI状態はない.

  • 酒巻 裕之, 麻賀 多美代
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_67
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     地域完結型の歯科医療の提供において,口腔健康管理に携わる歯科衛生士は,単独で対象者処置を行うことが増加すると考えられる.歯科治療に関連する医療事故を予防するには,全身的評価を適正に行うために バイタルサインのモニタリングの実施,急変時におけ る一次救命処置(Based life support, BLS)として,自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator, AED)と人工呼吸を含む心肺蘇生(Cardipulmonary Resuscitation, CPR)の取扱い等に習熟していることが重要である.また歯科衛生業務の中では,集中治療室(Intensive Care Unit, ICU)等で気管挿管中の患者の口腔健康管理を実施する.

     そこで,歯科診療で救命救急処置を要する偶発症に対する一次救命処置から二次救命処置,病棟での管理の流れの中で,歯科衛生士ができる処置の習得を目標に,歯科診療室総合実習の課題学習の中でBLS,気管挿管,経口気管内挿管中の口腔健康管理,吸引処置等の一連のシナリオによる演習を行った.その効果について,実習の様子,プレテスト,質問紙調査結果から検討した.

    (研究方法)

     平成30年度「歯科診療室総合実習」を履修する学生22名のうち,研究協力の同意を得られた学生から授業で得られた結果を対象とした.

     歯科診療において救命処置を要するような偶発症に対する救急処置や,ICUでの口腔健康管理の習得を目標に,課題学習の中でBLS,気管挿管患者の口腔健康管理におけるシナリオによる演習を行った.

     演習のシナリオについて,第1回目は一次救命処置としてBLS用シミュレーターでBLS,AED,バッグマスク人工呼吸を行った.BLS用シミュレーターは,人工呼吸では所要時間や換気量,胸骨圧迫ではリズム,圧迫の深さ,圧迫解除の有無が評価できる.次いで研究代表者が気管挿管練習用シミュレーターを用いて,気管内挿管手技を示し,ステップごとに学生が一人ひとり確認した.第2回目はチームCPAの習得を目標に,各学生がそれぞれの手技について習得すること,チームで連携する方法について検討・演習を行った.第3回目は口腔ケア用シミュレーターに気管内挿管された状態を設定し,口腔・咽頭・気管内吸引の演習と口腔・咽頭吸引の相互実習を行った.この演習は22名の学生を4班に分けて行われ,各班が課題学習終了日に客観的能力試験(Objective Structured Clinical Examina- tion, OSCE)形式の評価を行った.

     質問紙調査の調査項目には,学生の自己省察を深める質問項目に回答する欄を設けた1).本演習の効果について,課題学習におけるプレテスト,実習の様子, 課題学習最後の質問紙調査結果から検討した.

    (結果)

     研究対象学生のうち,研究協力の同意を得られた14名の課題学習で得られた結果を対象とした.

     第1回目の演習では,CPRの各手技の確認,練習が中心となった.第3回目にチームCPRの演習を行った.質問紙調査結果から,チームCPR手技の習得ができ,チームワークの重要性協力する意義を理解できた回答があった.不満足な成果として気管挿管では理解が困難であったことが挙げられた.

    (考察)

     歯科治療において起こりうる心肺停止や,ICUおける口腔健康管理に関する吸引処置について,その重要性とチームワークの重要性が確認できる意義ある演習であったと考えられた.

    (倫理規定)

     本研究は本学研究等倫理委員会の承認(2018-30)を得て実施された.研究協力の依頼の説明は科目責任者ではない研究代表者が行った.本研究への協力の同意は対象者の自由意志で決定され,本研究の協力が得られなくても対象者の不利益になることはないこと,集計はその科目成績提出後に行い,集計結果等が成績に反映しない体制であることを説明した.

    (利益相反)

     本研究発表内容に関して申告すべきCOI状態はない.

  • 雄賀多 聡, 島田 美恵子, 麻賀 多美代, 大川 由一, 雨宮 有子, 三宅 理江子, 竹内 弥彦, 岡村 太郎, 松尾 真輔, 中島 一 ...
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_68
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     少子高齢化が諸外国に例を見ないスピードで進行するわが国において,多機関・多職種,地域住民の自助・互助などが連携した地域包括ケアシステムを構築することが喫緊の課題である.しかし,自治体主導の地域包括ケアにおける自助・互助の課題として「関連施設間の不十分な連携」「住民の主体性を重視した意欲の継続への支援不足」(佐藤)や「支援者―被支援者の固定的関係性からの脱却」(松繁)が挙げられている.

     千葉市地域包括ケア推進課の介護予防事業に,シニアリーダー(SL)養成講座がある.要介護認定を受けていない高齢住民が,介護予防の座学と介護予防体操の実技講習を受けた後,地域在住高齢者を対象とした介護予防体操教室を開催する地域在住高齢者の互助活動システムである.一方,本学における地域貢献方針のキーワードとしては,地域高齢者自身の内発的な活力を誘導し,高齢者個人・仲間・地域の活性化につなげる,いわゆる「エンパワメント(湧活)」が,学長より提唱されている.そこで,SL自らによるSL活動の効果検証を,我々が後方支援するような研究計画を立案した.

     本研究の目的は,千葉県立保健医療大学がSL活動の効果をSL自らが検証することへの後方支援手法が,「地域在住高齢者の自助・互助活動を支援する手法」として,本学の社会貢献活動足り得るか検討することである.

    (研究方法)

     千葉市中央区SL代表者10名とともに,SL活動の効果を検証するためのアンケートを作成し,配布方法,回収方法を検討した.アンケートは基本属性と同居人数,介護保険受給状況,健康関連指標(SF-8),SL体操への満足度(4択),要望などの自由記述とした.

     SL(60名)を介し体操教室参加者(573名)を対象にアンケート調査①を実施した.①回収後の基礎集計結果をSL代表者会で報告し,SL代表者を対象としたアンケート調査②(今回の取組が参加者への理解の深まりやSLとしての力量アップに役立ったか等)を実施した.

    (結果)

     調査①:494名(男性11.7% 平均年齢76.5±標準偏差6.3歳 範囲92~50歳)の回答(回収率86.2%).要介護度認定は,要支援1:25名,要支援2:2名,要介護1:1名.22%が単独世帯,31%が夫婦のみ世帯.39名(7.9%)が健康状態を「良くない」と回答.SF-8の身体的健康度は49.3±5.9点,精神的健康度は51.5±5.6点.運動の内容や時間・強度,開催日や開始時刻,指導法や仲間関係など,いずれも95%以上の者が「大変満足・まあ満足」と回答.自由記述は,「教室の継続」を多くが求めた.

     調査②:10名中10名より回答.SLが参加者へのアンケートを作成・回収し今後のSL活動に反映させる今回の手法への満足度は(満足8名,やや満足1名,やや不満1名),参加者への理解が(深まった6名,やや深まった1名,深まらなかった1名),指導力の養成に(役だった3名 まあ役立った3名 あまり役立たない1名),他地域での実施を(ぜひ実施5名 あった方がいい3名 あまりなくてもいい1名).

    (考察)

     アンケート①で,体操教室参加住民の基本特性が明らかになると同時に,アンケート作成・回収を通してSLの自助,SLと参加者間の互助活動に寄与できると考えた.しかし,すべてのSLが今回の手法に肯定的ではなかったことから,質問内容や実施方法にさらなる検討が必要であることが示唆された.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て実施した(2018-29).

    (利益相反)

     開示すべき利益相反はない.

  • 植田 麻実, 杉野 俊子, 荒井 春生, 阿部 恵美佳, 久松 美佐子
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_69
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     英語は国内においても外国人とのコミュニケーションにおいて共通言語とみなされてきた.医療現場も例外ではない.しかし,岩田(2010)によれば,在留外国人のうち英語をかわる人の割合よりも日本語が分かる人の割合の方が高い,という結果もあり,やさしい日本語を共通言語として活用していく動向は看過できない.本研究はこれらに関する文献を集め医療をめざす看護学生のニーズ分析を目的とした.

    (研究方法)

     文献は,震災などの際にどんな言語で情報が発信されてきたのかに関して,医療に特化した英語教育を行なっていく際の課題に関して大別しそれぞれの内容を比較・検討した.

    (結果)

     国際社会,あるいはグローバル化が進む国内で活躍するためには,英語が話せなければ取り残される,といったメッセージは十分なものではない事が判明し,例えば東日本大震災当時,英語と日本語での情報では十分でなく,地域とつながりのある在留外国人たちは地域のNPOからの情報を,また母国からの母語による情報を頼りにしたとの報告もある(Duncan, 2013).また,多文化・多言語化が進む今日,そうした背景を持つ在留外国人が自ら日本に帰属意識を持ちその中で貢献していきたい,と思えるような社会である事が,resilient community,すなわち災害などが起こっても柔軟に対処していける社会である,といった指摘もなされた(Duncan, 2013).

    (考察)

     日本における外国人とのコミュニケーションに特に注目すれば,日本社会がより多言語・多文化に対応するよう,その多様性を内包する社会である事が今後の方向性と考えられる.また,英語よりも日本語の方が理解できる在留外国人の割合が多いという事であれば,日本における共通言語である日本語を,在留外国人にも分かりやすい,いわゆる「やさしい日本語」と捉え,その可能性や普及に関してもより活発な議論が必要である.その時に注意すべきは,Rodriguez(1982)で描かれているような,元来のその人たちが持っている文化や言語に日本語がとってかわるのではなく,元来の彼らの文化・言語を尊重しつつ日本語を付加していく可能性の模索である.医療英語(ESP)の学びそのものも,他言語を持つ人たちとのコミュニケーションには役にたたない,という観点ではなく,日本語以外の言語を持つ人たちとの,職業上におけるコミュニケーションの第一歩ととらえ,英語学修の中で頻繁に挙げられてきた,将来職業で役にたてる,という動機にそくしたものである事を鑑みれば,医療に携わる人と,言語教育に携わる人との今後の連携も必要となってくる.また,これらの課題に加え,多様化する言語に対して,英語ややさしい日本語でカバーできない部分については,鳥飼(2009)の指摘のように医療現場などにおける専門の医療通訳者の養成も急務である.

    (倫理規定)

     無し.

    (利益相反)

     演題発表内容に関連し,主発表者及び発表責任者には開示すべきCOI関係にある企業等は無い.

  • ─ 骨子の立案と研修の実施 ─
    浅井 美千代, 杉本 知子, 西野 郁子, 佐藤 紀子, 河部 房子, 片平 伸子, 北川 良子
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_70
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     看護研究は,看護実践の根拠を明らかにし,実践の質を向上させる上で重要である.しかし,臨床現場で看護実践に従事している看護職者が,看護研究活動を行うには多くの困難があるといわれている.今回,看護研究に対する教育的支援を得ることが困難と推測される中小規模医療施設に勤務し研究指導を担う立場にある看護職者を対象に,研究指導充実のための研修プログラムの開発を目的として本研究を実施した.

    (研究方法)

    1.対象:中小規模医療施設において研究指導を担う立場にある中堅看護師や看護管理職者19名

    2.期間:平成30年6月~平成31年3月

    3.方法

    1)研修プログラムの考案

      研修内容について先行研究等を基に検討し,「テーマ設定」「研究計画立案」「研究倫理」「論文作成・発表方法」を講義した後,グループ討議により研究指導に関する困難さの共有を図るプログラムとした.

    2)研修プログラム評価のための調査票作成

      調査内容は,①基本属性,臨床経験,看護研究に関する経験や施設内環境,②本研修で学びたいこと,③研究や研究指導への意欲,④研修プログラムへの満足度及び意見とし,研修の直前に①②③,直後に③④を調査することとした.

    3)研修プログラム及び調査の実施

      県内の300床未満の病院85施設に研究依頼書を送付して研修(研究)参加者を募集し,本学において研修プログラム及び研修前後の調査を実施した.

    4)データ分析

      調査内容の③については点数化して研修前後の変化を比較検討した.

    (結果)

    1.対象の概要

     対象者は全員女性で,臨床経験年数は平均21.5±5.6年であった.教育背景は看護学校卒が13名で,学生時の研究についての学習経験者は9名であった.

    2.本研修で学びたいこと

     研修で学びたいこととして,【研究実践力の向上】【研究指導力の向上】の2つが挙げられた.

    3.グループワークの討論内容

     臨床で看護研究をする上での悩みとして,【研究のモチベーションを維持することが難しい】【研究がうまく進むように支援することが難しい】,研修参加動機として【指導のコツを知り,聞かれたことにうまくアドバイスしたい】【倫理的配慮について理解したい】などが語られた.

    4.研究や研究指導への意欲

     研究や研究指導に取り組みたいと思う程度について,「全く思わない」を1点,「とてもそう思う」を10点として得点化し,その平均を研修前後で比較した.その結果,研修前に比べ,研修後における平均点の上昇が共に認められた.

    5.研修への満足度

     「この研修に参加してよかったと思う」という設問に19名全員が「とてもそう思う」と答えた.しかし,「研修時間(長さ)の適切さ」では3名が「そう思わない」と答え,自由記述欄に「倫理についてゆっくり聞きたかった」との記述がみられた.

    (考察)

     今回の研修は,研究の基礎的知識の提供に焦点をあて構成した.本研究の対象者の7割が看護専門学校卒者で研究について学習経験がなかったという教育背景が関係し,本研修への高い満足度が得られたと推測する.研修時間の適切さでは,研究倫理についての内容の充実を図ることで満足度が高まると考えられた.また,臨床で研究を進める上での問題を解決する糸口を見出せるよう,【研究指導力の向上】に関する研修内容を検討する必要性が示唆された.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認(申請番号2018-32)を得て実施した.

    (利益相反)

     本研究における利益相反はない.

  • ~煮物等の調理後の食材と煮汁に含まれる食塩量の現状~
    峰村 貴央, 田村 友峰子, 土橋 昇, 河野 公子, 渡邊 智子
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_71
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     日本人の食塩摂取量の減少は,国を挙げて取り組んでいる健康づくりであり,大きな課題である1).日本(和食)の調理では,調味の中心が塩,醤油,味噌等および塩味調味料であり,特に煮物料理や麺類2)は,塩味調味料が多く使用されている.そのたため,これらの料理は食塩摂取量を左右する料理である.さらに,煮物料理や麺類は,喫食時において汁の残食がある場合,実摂取食塩量と献立の食材料から日本食品標準成分表(以下,食品成分表)を用いて計算した食塩量で相違が生じる.

     食塩を測定する方法は,Naイオンを測定する原子吸光度法3)や塩化物イオンを測定する硝酸銀滴定法(モール法)がある4).これらは機器や試薬,ピペット等の実験器具を使用するため,大量調理現場で簡便に実施することは難しい.一方,電気伝導度と食塩濃度に相関があることを利用し簡便に食塩量が測定できるデジタル塩分計が開発されている5)

     本研究では,献立立案で使用する食品成分表から計算する食塩量と,その献立を大量調理しデジタル塩分計を用いた値との相違を検討に,実摂取食塩量を把握する方法(栄養計算方法)を確立することを目的とした.

    (研究方法)

     料理は,大量調理,少量調理を含む16種(主食:2種,主菜:4種,副菜:4種,汁:3種,デザート:3種)とした.各料理を食材別に分け,食材別に分析試料(53試料)とした.

     献立の栄養価計算は,調理による成分損失を考慮する方法を用いて行った.ここで計算した食塩量を「栄養価計算による食塩量(以下,栄・食塩)」とした.塩分計(電気伝導法を利用したデジタル塩分計:ATAGOポケット塩分計PAL-sio)を用いて食塩濃度を測定した.ここで計算した食塩量の平均値を「塩分計で測定した食塩濃度に提供量を乗じて計算した食塩量(以下,計・食塩)」とした.分析した料理を組み合わせて和食献立2種類,洋食献立1種類,中華献立1種類を作成し1食分についても検討した.

    (結果および考察)

     料理では,ちらし寿司のたけのこやしいたけのような煮物料理は,栄養価計算の食塩量が塩分計の食塩量より高い値を示した.これは,煮物料理は大量調理では,余熱が大きいので煮崩れを防ぐためにも8分通りに得たところで消火し,余熱を利用して調理をすることがある.そのため,具材を煮るための調味液がすべて煮含まれることを想定していたが,実際は煮汁が残っていたことが原因である.

     鶏の竜田揚げのような調味液に漬け込む料理は,栄養価計算の食塩量が塩分計の食塩量より低い値を示した.これは,栄養価計算での調味液の付着量の見積もりが不足していたためである.そこで,調味料に漬けこむ調理操作のある料理は,漬け込み前後の調味液重量を測定し,その重量差を付着する調味料する方法で実摂取量に近似させることができる.

     献立1食分の食塩量では,和食献立の主菜を筑前煮に変更した場合は,栄・食塩が4.3g,計・食塩が3.5gであり,栄・食塩が計・食塩より高い値を示した.

     本研究で算出した栄養価計算は,実摂取量に近似させるために調理損失を考慮した調理後の食品の栄養価で栄養計算する方法を用いた.これを調理前の食材で栄養価計算する方法で行った場合は,さらに大きな相違が生じる可能性が分かった.

    (利益相反)

     開示すべきCOI関係にある企業等はありません.

  • 大谷 拓哉, 三和 真人, 竹内 弥彦, 藤尾 公哉
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_72
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     ベッドや布団で寝ている状態から座位に姿勢を変換する動作は起き上がり動作とよばれる.起き上がり動作が困難になると寝たきり状態が余儀なくされるため,この動作の再獲得は人が自立した生活を送る上で重要なテーマとなっている.我々はこれまで,床からの起き上がり動作中の関節運動について報告してきた.ベッドからの起き上がり動作中の関節運動については,西守ら1)が体幹運動について検証しているのみであり,それ以外の関節運動については明らかになっていない.

     そこで本研究では,体幹とともに身体の軸を構成する頭部の運動に着目し,ベッドからの起き上がり動作時の頭部の運動特性を明らかにすることを目的として実験を行った.

    (研究方法)

     対象は本学リハビリテーション学科男子学生16名(年齢20~22歳)とした.被験者には研究の意義・内容を書面及び口頭で説明し,全員から同意書を得た.起き上がり動作は,リハビリテーション用プラットホーム上に寝た姿勢から上体を起こし,右側に両脚をおろして腰掛けた座位姿勢まで変換する動作とした.起き上がる速度は,被験者が快適に遂行できる速度とした.練習として起き上がり動作を1回実施し,その後,本測定として起き上がり動作を1回実施した.動作の記録にはデジタルビデオカメラを4台使用した.撮影した動画をパーソナルコンピュータに取り込み,頭部・体幹に貼付した11個の反射マーカの3次元位置座標を,動画解析ソフトウェア(Frame-DIAS V)を用いて同定した.起き上がり動作開始から終了までを100%とし,5%毎のタイミングにおける頭部および体幹の関節角度を,反射マーカの3次元位置座標より算出した.頭部および体幹の関節角度はそれぞれ,屈伸,側屈,回旋の角度について算出した.

    (結果)

     頭部の屈伸は起き上がり動作開始から25~30%の時点まで屈曲運動を示し(最大屈曲角度29.6°),その後伸展運動に切り替わった.頭部の側屈は25%頃までほぼ中間位を保ち,その後,軽度左側屈運動を示し(最大左側屈角度11.1°),55%から右側屈運動に切り替わり中間位へと戻った.頭部の回旋は35%まで右回旋運動を示し(最大右回旋角度25.6°),その後は左回旋運動を示して中間位へと戻った.体幹の屈伸は65%まで屈曲運動を示し(最大屈曲角度72.1°),その後はわずかに伸展運動を示した.体幹の側屈は20%頃までほぼ中間位を保ち,その後55%まで軽度左側屈運動を示した後(最大左側屈角度11.0°),右側屈運動に切り替わり中間位へと戻った.体幹の回旋は45%まで軽度右回旋運動を示し(最大右回旋角度14.5°),その後は左回旋運動に切り替わり中間位へと戻った.

    (考察)

     起き上がり動作開始時より頭部の屈曲運動と右回旋運動が生じていた.早期からの頭部の屈曲運動は上半身の重心が骨盤方向へ移動することに寄与し,上半身をベッドから持ち上げることを容易にする効果があると考えられる.頭部屈曲と右回旋の最大角度が25~30°であったことから,この程度の関節可動域を確保することが,ベッドからの起き上がり動作を円滑に遂行するための目安になると考えられる.側屈については屈曲や回旋に比べると大きな運動が生じなかった.頭部と体幹の運動を比較すると,屈伸については屈曲から伸展への切り替わりが頭部は体幹に比べ早期に起こるのに対し,側屈と回旋については,左右の運動方向については頭部と体幹で一致しており,運動方向の変化のタイミングについても両者で近似していることが示唆された.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した(申請受付番号:2017-015).

    (利益相反)

     本研究に関連して申告すべきCOI状態はない.

  • 細山田 康恵, 金澤 匠, 阿曽 菜美, 東本 恭幸, 山田 正子
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_73
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     近年,糖質制限食によるダイエットが話題となっている.糖質制限食を実践する過程においてストレスがかかると考えられるが,行動面に及ぼす影響は明らかではない.脂質は脂肪酸組成により,生理効果が異なり,冠動脈心疾患を低減するn-6系脂肪酸,うつ症状改善や高齢者における認知機能の低下を抑制するn-3系脂肪などがある.ストレスには,薬物療法が用いられるが,副作用を伴う場合が多いため,食事療法でストレスを緩和し,精神や行動面に与える影響を明らかにする必要がある.今回は,低糖質食と脂肪酸組成の異なる油脂をラットに摂取し,行動面に与える影響を調べることを目的とした.

    (研究方法)

     Sprague-Dawley系雄ラット5週齢に実験飼料を4週間摂取した.普通食(Normal diet:N)は,AIN-93組成に準じた10%油脂区分の基礎飼料に,n-6系としてリノール酸(Linoleic acid:LA)を多く含有する和光純薬(株)製の大豆油とn-3系としてエイコサペンタエン酸(Eicosapentaenoic acid:EPA)を多く含有するアイドゥ(株)のEPA含有精製魚油加工食品EPA1100を用い,N-LA,N-EPAの2群とした.また,低糖質食は,基礎飼料の30%油脂区分としてエネルギー量を同一にしたデンプン(Cornstarch:C)主体の低糖質食と砂糖(Sucrose:S)主体の低糖質食を設け,普通食と同様の油脂を用い,C-LA,C-EPA,S-LA,S-EPAの4群とした.実験期間終了後の各群における総飼料摂取量,体重増加量,後腹壁脂肪重量の測定を行った.行動観察は,飼料投与後2週と4週目に,高架式十字迷路試験を行い,センターアーム,オープンアーム,クローズアームでの滞在時間,進入回数などを測定した.行動解析は,バイオリサーチセンターのSMART v3.0ビデオ行動解析ソフトウェアプラットフォームを 用いて行った.

     データは,平均±標準誤差で表した.統計処理に は,PASW Statistics 20(日本IBM(株))を用い,一元配置分散分析および多重比較(TukeyあるいはDunnett T3)を行った.検定の結果は,危険率5%および1%未満を有意と判定した.

    (結果)

     普通食のN-LA群とN-EPA群において,総飼料摂取量,体重増加量に差はなかったが,後腹壁脂肪重量では,N-LA群よりN-EPA群で有意(p<0.05)に低値を示した.不安行動の観察では,2週目,4週目ともに差異は認められなかった.低糖質食において,総飼料摂取量,体重増加量,後腹壁脂肪重量では,C-LA群よりC-EPA群で有意(p<0.05)で低値,S-LA群よりS-EPA群で有意(p<0.05)に低値を示した.2週目のクローズアーム滞在時間は,C-LAよりC-EPAとS-EPAで有意(p<0.05)に短かった.また,S-LAよりC-EPAとS-EPAで短い傾向にあった.オープンアーム滞在時間は,群間における差は見られなかった.センター滞在時間は,C-LAよりC-EPAとS-EPAで有意(p<0.05)に長かった.また,S-LAよりS-EPAで長い傾向が見られた.4週目のセンター滞在時間は,C-LAよりC-EPAで長い傾向にあった.また,進入回数に関しては,群間における有意差はみられなかった.行動観察から,糖質の種類による差は見られず,n-6系よりn-3系油脂でクローズアーム滞在時間が短く,センター滞在時間が長いことが明らかとなった.

    (考察)

     普通食では,油脂による不安行動への影響はみられなかったが,糖質制限食では,n-6系よりn-3系油脂でクローズアーム滞在時間が短く,センター滞在時間が長いことから,油脂の質を考慮することで,不安行動が減少し探索行動が増加することが示唆された.また,飼料摂取は,短期間で影響し,エネルギーが同一であれば,糖質の種類による差異はないことが推定された.これらより,n-3系油脂を食事に取り入れることで不安行動を緩和し,うつ症状の改善や認知機能の低下を抑制することが期待される.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学実験指針に基づき,「動物実験研究倫理審査部会」の承認(2018-A05)を得て行った.

    (利益相反)

     本研究に関して,開示すべきCOIはない.

  • 金子 潤, 河野 舞, 島田 美恵子, 荒川 真, 雄賀多 聡
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_74
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     顎口腔機能異常を訴えて来院する患者数は年々増加しており,顎口腔系の不調和の他,多種多様な随伴症状や疲労感,精神的ストレスの徴候を有する症例も多く見受けられる.なかでも,頭頚部から背部にかけての疼痛や凝りは最も頻度の高い症状であり,こうした患者には全身姿勢の不良を呈する者も認められる.近年では,頭部の前方偏位や猫背などの不良姿勢を呈する若年層が増加しているとの報告もあり,生活習慣等による若い頃からの不良姿勢が積み重なることで,咬頭嵌合位が大きな自覚症状もなく徐々に不安定になり,様々な咬合接触の異常(咬合異常)が惹起される可能性が考えられる.不安定な咬頭嵌合位による咬合異常は関連筋群や顎関節の安定した機能に対して負の影響を与え,さらには全身の不定愁訴を誘引する可能性も報告されており,顎口腔機能の改善を主たる目的とした歯科治療を行うためには,全身姿勢が下顎位に及ぼす影響について検討することが重要である.そこで本研究では,若年者における,スパイナルマウス®を用いた脊柱アライメント評価による姿勢分析と,咬合接触状態および咬合力との関係を明らかにすることを目的とした.

    (研究方法)

     対象者は2018年度歯科衛生学科学生のうち研究協力の承諾が得られた学生とした.咬合接触状態と咬合力の測定には,咬合圧測定用感圧フィルム(デンタルプレスケールⅡ®,GC)を用いた.咬頭嵌合位における咬合を確認後,座位の状態において感圧フィルムを最大咬合力で3秒間咬ませ試料採得を行い,その後専用解析装置を用いて咬合接触状態と咬合力を解析した.また,咬合検査前後に対象者へ日常生活に関する質問紙調査(悪習癖・身体症状の有無等)を行った.

     姿勢の測定は,矢状面および正面方向より撮影した安静立位写真撮影と,スパイナルマウス®を用い安静立位における矢状面彎曲の測定を行った.姿勢の良否に関しては,安静立位写真とスパイナルマウス®のデータを本研究チームの研究者がそれぞれ観察し,本研究チームの5名中3名以上が「不良姿勢」と判断した対象者を「不良姿勢群」とし,「良姿勢群」も同様に研究者の判断が一致した者とした.

     統計解析は,SPSS. Statistics Ver.25を用い,良姿勢と不良姿勢における2群比較ではt検定を,脊柱アライメントと咬合力の関連性についてはSpearmanの順位相関を求めた.有意水準は5%以下とした.

    (結果)

     同意が得られた40名のうち22名(良姿勢群11名・不良姿勢群11名)を対象者とした.対象者全体における咬合力の平均値は1138.4±491.5 N,咬合接触面積は 31.9±11.7mm2であった.また仙骨傾斜角は9.6±9.2°,胸椎後弯角は33.8±9.7°,腰椎前弯角は-24.2±10.0°であった.咬合接触面積の平均値において良姿勢群と不良姿勢群の間に有意差は認められなかったが,咬合力において良姿勢群(917.9±334.5 N)と不良姿勢群 (1365.3±555.9 N)の間に有意差が認められた.また,脊柱アライメントと咬合力の関連性では,仙骨傾斜角と咬合力との間に有意な正の相関(r=0.54)が,腰椎前弯角と咬合力との間に有意な負の相関(r=-0.47)が認められた.ブラキシズムの有無と姿勢の良否に関して独立性の検定を行ったところ,カイ二乗値4.545,有意差0.043であり,ブラキシズム(歯ぎしり)と姿勢の良否の間に関連性のあることが認められた.

    (考察)

     本結果より,姿勢の良否と咬合力やブラキシズムには関係があることが示唆された.強い咬合力は歯や歯周組織,歯槽骨の破壊にもつながることから注意が必要とされている.しかし,若年成人女性の咬合力の標準値は文献により大きく異なる(1087~2170 N)ことや,ブラキシズムの原因は解明されておらず,咬合異常が発現に関与しているかどうかも不明であることから,本結果における不良姿勢の咬合力が強いかどうかも含めて,咬合と姿勢の関連性について今後更なる検討が必要であると思われる.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号2018-18).

    (利益相反)

     演題発表に関連し,開示すべきCOI関係にある企 業等はない.

  • 金澤 匠
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_75
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     細胞内タンパク質分解の主要経路であるオートファ ジーは,細胞内において一定量のタンパク質を常に分解し続けることにより細胞の恒常性維持に働いている.オートファジー活性の低下は異常タンパク質の蓄積や細胞のガン化等の原因となる.本研究は,オート ファジー促進作用を有する食品成分の探索を目的とし,動植物性食品に広く存在する色素であるカロテノイド類に着目して,4種類のカロテノイドについて肝臓及び骨格筋におけるオートファジー促進作用を検討した.

    (研究方法)

     試験には6週齢のSD系雄ラットを用いた.投与す るカロテノイドには,カロテン類としてβ -カロテンとリコピン,キサントフィル類としてアスタキサンチンとゼアキサンチンの4種類を用い,50mg/kg体重となるように経口投与した.コントロール群には溶媒として用いた大豆油を同量投与した.肝臓及び骨格筋(腓腹筋)の採取は経口投与から2時間後に行った. 栄養飢餓によるオートファジー誘導の影響を排除するため,経口投与及び臓器採取はラットを絶食させずに 行った.各臓器におけるオートファジー活性の指標として,オートファゴソームマーカータンパク質である LC3とオートファジーの選択的基質であるp62をウェスタンブロット法により検出した.

    (結果)

     LC3はLC3-I(細胞質型)がLC3-II(オートファゴ ソーム膜結合型)に変換されることでオートファジーの開始段階であるオートファゴソーム形成に働く.そのため,オートファジーが活性化されると,オートファゴソーム数の指標であるLC3-II量やLC3-Iから LC3-IIへの変換率を示すLC3-II/total LC3比の増加が見られる.また,p62はオートファジーにより選択的に分解されるため,オートファジーの活性化に伴い減少する.

     カロテン類の投与は,肝臓においてLC3-II/total LC3比を増加させたが,LC3-II量は増加させなかった.腓腹筋では,β -カロテン投与によりLC3-II/total LC3比及びLC3-II量の有意な増加が確認された.一 方,リコピン投与は腓腹筋におけるLC3-II/total LC3 比を増加させたが,LC3-II量は増加させなかった.

     キサントフィル類の投与は,肝臓においてLC3-II/ total LC3比を有意に増加させた.特にゼアキサンチン投与ではLC3-II量の増加も見られた.腓腹筋では,ゼアキサンチン投与によりLC3-II/total LC3比及びLC3-II量の増加が確認された.

     また,p62量は4種類のカロテノイドの内,アスタキサンチンを投与したラットの肝臓でのみ減少が見られたが,それ以外の条件ではコントロール群に対して差は見られなかった.

    (考察)

     今回の結果から,ゼアキサンチンは肝臓及び骨格筋 におけるオートファゴソーム形成に作用し,オートファジー活性を促進すると考えられる.また,β -カ ロテンも骨格筋に対して同様の効果があると考えられる.ただし,両者ともオートファジーの基質である p62の量に差が見られなかったことから,今回のような投与後短時間では,基質タンパク質の分解量には影響しないと考えられる.また,アスタキサンチンは肝臓においてLC3-II量を増加させなかったものの, LC3-II/total LC3比の増加やp62量の減少を引き起こしたことから,ゼアキサンチンと同様に肝臓でのオートファジー活性を促進する可能性がある.

     以上のことから,β-カロテンやゼアキサンチン, アスタキサンチンはラットの肝臓及び骨格筋のオートファジーに対して促進因子として作用することが示さ れた.

    (利益相反)

     本研究の内容に関連して申告すべきCOI状態はない.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学動物実験研究倫理審査部会の承認(2018-A04)を得た上で「千葉県立保健医療大学動物実験等に関する管理規程」に従って行われた.

  • 阿曽 菜美, 東本 恭幸, 渡邊 智子, 細山田 康恵, 小川 真
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_76
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     味覚は個人の食事選択を左右し,ひいては健康状態を左右する重要な生理機能である.特に塩味については,古くから高血圧患者においてその認知閾値が上昇することが示されてきた1).我が国でも,食塩含浸濾紙「ソルセイブ」を用いた研究により,塩味の認知閾値が1.0mg/cm2以上になると高血圧の発症率が約2.5倍になることが報告されている2).また,塩味の認知閾値が0.8mg/cm2以上の者は,0.6mg/cm2の者と比較して高齢であり,薬剤服用者数が多いだけでなく,漬物の摂取頻度が高いという報告もある3).しかし,一般的にソルセイブは食塩含浸量0.6mg/cm2からしか市販されていないため,塩味の認知閾値がより低く保たれている者の特徴については,不明である.塩味の認知閾値がより低く保たれている者の血圧や食・生活習慣を明らかにすることは,高血圧予防の観点からも重要であると考えられる.そこで本研究では,本学とUR都市機構が連携して行う「ほい大健康プログラム」の参加者を対象とし,食塩含浸量の少ないソルセイブを用いて塩味の認知閾値を測定し,血圧や食・生活習慣との関連を明らかにすることを目的とした.

    (研究方法)

     対象者は,「ほい大健康プログラム」に参加した65歳以上の女性43名(76.8±5.2歳)であった.

     塩味の認知閾値の測定には,食塩含浸量0.2,0.4,0.6,0.8,1.0,1.2,1.4,1.6mg/cm2のソルセイブを用いた.低濃度のソルセイブから順にテストし,塩味を感じられた濾紙の食塩含浸量を各対象者の塩味の認知閾値とした.

     年齢,BMI,血圧,罹患歴等のデータは,「ほい大健康プログラム」における計測値および調査用紙を参照した.また,「たまごの大きさで数える食事チェックシート-簡単版-」4)の回答結果より,エネルギー摂取量および食塩摂取量を算出した.さらに,普段の食事の味の濃さと運動習慣について,同チェックシート内の質問項目から評価した.

     塩味の認知閾値が0.2mg/cm2の者(18名)を低閾値群,0.4mg/cm2以上の者(25名)を高閾値群とし,両群を比較した.連続変数の比較にはWilcoxonの2標本の検定,割合の比較にはFisherの正確検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.

    (結果)

     低閾値群と高閾値群の年齢,BMI,収縮期血圧,拡張期血圧,エネルギー摂取量および食塩摂取量について比較したところ,いずれも両群間の有意な差は得られなかった.高血圧症のある対象者は,低閾値群で9名(50%),高閾値群で8名(32%)であり有意な差はなかった.また「コンビニエンスストアのお弁当やファミリーレストランの料理と比べていつものあなたの食事の味はどうですか」という質問に対する回答の割合についても,両群間の有意な差はなかった.一方,「体をよく動かす仕事や運動をしますか」という質問に対し「よくする」と答えた者は低閾値群で11名(61%),高閾値群で5名(20%),「体を動かすことは好きですか」という質問に対し「はい」と答えた者は低閾値群で17名(94%),高閾値群で14名(56%)であり,両群間の回答の割合が有意に異なった.

    (考察)

     塩味の認知閾値がより低く保たれている者とその他の者において,年齢,BMI,血圧,食事摂取状況等を比較した結果,明確な差異は認められなかった.一方で,運動習慣に関する質問に対する回答の割合は両群間で有意に異なり,塩味の認知閾値が低く保たれている者では,好んで体を動かす習慣がある可能性が示唆された.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て実施した(2018-06).

    (利益相反)

     申告すべきCOI状態はない.

  • 鈴木 惠子, 河部 房子
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_77
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     千葉県は人口10万対就業看護師数において全国第46位と低く(厚生労働省,2017),看護職員確保は千葉県の喫緊の課題である.病院の看護職員確保は,職員の採用と定着により成り立つ.看護師確保の課題がある病院への聞き取り調査で,新卒者や常勤の応募が少なく中途採用やパートで補充しているといった採用の困難があることが報告されている(森田ら,2012).看護職員の定着の指標とされる離職率は正規職員を対象に算出している(日本看護協会,2017).この離職率には表れない看護職員確保の困難も含め実態を明らかにする必要がある.

    (研究方法)

     千葉県内の病院286施設を調査対象とし,自記式質問紙を送付し看護管理部門責任者または,それに準じる役職者に回答を依頼した.調査項目は,病院の属性(医療圏,開設者,病床規模等),看護職員採用意向,看護職員採用の困難,看護職員定着の困難,実施している採用活動,実施している定着対策等である.データ分析は,病院属性の記述統計,採用と定着の困難の程度と内容,採用活動・定着対策の単純集計,採用活動・定着対策の有無と採用と定着の困難の関係性をχ2検定や回帰分析を行った.分析にはJMP14.0を使 用した.

    (結果および考察)

     回収数169人(回収率59.0%).回答者属性は,役職が看護部長125人(74.4%),医療圏が千葉47人(28.0%),開設者が医療法人117人(69.2%)総病床数が100~199床61人(36.1%)が最も多かった.

     看護師の採用の困難は,あり121人(71.6%),なし48人(28.4%),定着の困難は,あり69人(40.8%),なし92人(54.4%)であった.採用の困難の内容は,「応募が少ない」86人(50.9%),「採用を辞退される」39人(23.1%)の順に多く,定着の困難の内容は,「仕事についていけない」36人(21.3%),「配属先になじめない」35人(20.7%)の順に多かった.

     実施している採用活動は,「病院ホームページでの看護部紹介」137人(81.1%),「病院ホームページでの採用情報掲載」135人(79.9%),職員からの紹介133人(78.7%)の順に多く,定着対策は「育児介護休職制度」133人(78.7%),「代休と有給休暇の取得促進」129人(76.3%),「看護手順書・マニュアルの整備」126人(74.6%)の順に多かった.

     病院の属性と採用の困難の有無の関係,属性と定着の困難の有無の関係を独立性のχ2検定したところ,開設者ではいずれも国・公立等,医療法人,その他で差があった(採用の困難;p=.001,定着の困難;p=.000).なお,採用の困難,定着の困難ともに医療法人,その他,国・公立等の順困難がある割合が多かった.病床規模では,採用の困難の有無との関係で「199床以下」「200~399床」「400床以上」の3群間で差があり(p=.004),400床未満のほうに困難がある割合が多かった.

     採用活動のうち,「臨地実習の受け入れ」(p=.009)は困難がない方向に,「職業紹介業者の利用」(p=.009)「職員からの紹介」(p=.021)は困難がある方向に関連があり,定着対策のうち,「看護手順書・マニュアルの整備」(p=.043)は困難がない方向に,「夜勤専従勤務の導入」(p=.001)は困難がある方向に関連があった(いずれもロジスティック回帰分析・ステップワイズ法による変数選択実施).

     本研究で千葉県内の病院の7割以上に採用の困難,4割以上に定着の困難があると示唆された.「臨地実習の受け入れ」は病院を知ってもらう機会になり採用の困難の低さと,「看護手順書・マニュアルの整備」はそこでのやり方を示すことから定着の困難の低さとそれぞれ関連があると考えられた.また困難の低さからこれらの活動・対策を実施できるとも言える.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て実施した.(申請番号:2018-33)

    (利益相反)

     本研究における開示すべき利益相反はない.

  • 岡田 亜紀子, 渡邊 智子, 越川 求, 海老原 泰代
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_78
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     平成29年度から「つながる食育推進事業」が展開され1),栄養教諭が中心となって子どもたちを取り巻く食環境の整備にあたれるよう,校内外を問わない食育の実践モデルを構築し,それに取り組むことが求められ,期待されている.

     平成29年度には6,092名の栄養教諭が全国に配置され2),千葉県内の栄養教諭は262名2),全国6位の配置数である一方で,平成28年度に渡邊らがおこなった調査「千葉県の栄養教諭・学校栄養職員の職務および食育の現状と課題」では,栄養教諭等と他の教員との食育についての連携が取りづらいこと,日々忙しく,食育の時間が十分確保できないなどの現状がわかった.

     本研究ではそれら背景要因の詳細の解明および食育に関係する教諭職である養護教諭,給食主任の職務の現状と栄養教諭・学校栄養職員の現状を比較し,千葉県における栄養教諭・学校栄養職員の職務状況や配置数,他教諭との協力体制に関する状況を明らかにすることを目的とする.

    (研究方法)

     千葉県内公立学校101校に勤務する栄養教諭・学校栄養職員,養護教諭,給食主任を対象にした無記名式質問紙調査を郵送にておこなった.職種で異なる設問を含む調査票を用い,所属先の属性,回答者の属性,食育あるいは保健指導に関することの3つの内容で質問票を構成した.

     対象校は,千葉県教育委員会「教育便覧」記載の公立小学校,中学校,義務教育学校,高等学校(定時制),特別支援学校それぞれにおける千葉県「二次保健医療圏」毎の学校数を元に割合を算出し,その割合に基づき合計数が101校になるようExcelソフトデータ分析ツールを用いて無作為抽出した.

     結果は,Excelソフトによる単純集計を実施した.

    (結果)

     各職種からの調査票回収状況は,栄養教諭・学校栄養職員は28%,養護教諭は17%,給食主任は27%であった.

     栄養教諭・学校栄養職員は,管理栄養士46%,栄養士54%であり,栄養教諭免許の種別内訳は,Ⅰ種57%,Ⅱ種21%,なし21%であった.雇用形態は,栄養教諭(常勤)54%,学校栄養職員(常勤)36%,学校栄養職員(非常勤)11%であった.

     栄養教諭・学校栄養職員対象の調査票では,所属する学校で食育に関する授業(以下,食育授業)を実施している時間数は,年間で15.9±13.3(以下,Mean±SD)時間であった.

     養護教諭対象の調査票では,所属する学校で保健指導に関する授業(以下,保健指導)を実施している時間数は4.3±3.2時間であった.

    (考察)

     本調査の回答は,小学校が最も多かった.

     栄養教諭・学校栄養職員の回答において,1学年あたり6.3±6.5時間の食育授業が必要であると感じており,現在実施している食育授業の年間時間数に到達していない.その理由として,「給食・食育に関する業務量が多い」,「児童・生徒と関わる時間が少ない」,「食育を指導する自信・スキルがない」,「他の教職員の食育への理解不足」と回答した者が多かった.

     養護教諭の回答において,1学年あたり2.8±1.3時間の保健指導時間が必要であると感じており,現在実施している保健指導の年間時間数に到達していない.その理由として,「保健指導以外の業務量が多い」,「児童・生徒と関わる時間が少ない」,「食育を指導する自信・スキルがない」と回答した者が多かった.協力体制を含め,今後,さらなる解析を進める.

    (倫理規定)

     本研究は,平成30年度千葉県立保健医療大学研究等倫理審査委員会(承認番号:2018-34)に承認を得て,実施した.

    (利益相反)

     本論文発表内容に関連して申告すべきCOI状態はない.

平成30年度学長裁量研究抄録
  • ─ ロジックモデルを用いたフリーランス活動の構造 ─
    成 玉恵, 越田 美穂子
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_79
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     近年,医療・福祉のニーズ拡大に伴い,看護職による多様な地域貢献活動が報告されるようになった1).しかし,その多くは実践活動報告に留まり活動の内容は不明な点が多い.これまで,活動のアカウンタビリティを高めることを目的に,ロジックモデルを用いて,看護職の地域貢献活動の一つである,NPO活動の可視化に取り組んできた.本研究では,フリーランスとして活動する看護職の地域貢献活動に注目し,ロジックモデルを用いてその活動の構造を明らかにする.

    (研究方法)

     研究参加者:研究者のネットワークサンプリングにより抽出された看護職のうち,研究の同意を得た看護職2名とした.

     調査方法:ロジックモデルの構成要素(資源,活動,アウトプット,アウトカム,インパクト)に関するデータを半構成的面接調査および関係する二次資料から収集した.

     分析方法:調査データから,ロジックモデルの各構成要素の内容を抽出し,その関連性を矢印で示しロジックモデルを生成した.

    (結果)

     研究参加者の属性と活動の概要:参加者Aは40歳代女性,助産師・心理カウンセラーであった.フリーランスとして11年間,地域で子育て相談,女性のからだや産前産後の情報を発信していた.参加者Bは50歳代女性,看護師であった.行政を退職後,フリーランスとして13年間,地域で障害児とその親の居場所を提供する活動をしていた.

     ロジックモデル表:参加者Aに関しては,6の資源,5の活動,8のアウトプット,6のアウトカム,2のインパクトが抽出された.参加者Bに関しては,6の資源,5の活動,8のアウトプット,4のアウトカム,3のインパクトが抽出された.また,AB共通して,資源を投入し活動を実施することで実績と収益を得る事業経営の形態であった.また,これらの事業は参加者の職種の専門性が基盤となっていた.事業を実施した結果,「情報が手軽に入手できる」や「障害児とその親にとって安心できる居場所がある」等,利用者への支援の成果が表れ,それが社会の変化をもたらすインパクトとなっていることが明らかになった.また,Aの活動は,「育児相談をすることで自らが成長できる」といった,参加者自身に対するアウトカムも抽出され,看護者側の成果も表れた.

    (考察)

     本研究により,フリーランスの看護職による地域貢献活動は,ロジックモデルを用いることで,資源・活動・アウトプット・アウトカム・インパクトという各要素で構成され,資源からインパクトまで一定の方向で関係性が連鎖する構造であることがわかった.これはNPO活動でも同じ結果が見られ,今回の研究で,看護職の地域貢献活動は,活動の規模や内容に違いがあっても基本的な構造に大きな違いはないことが示唆された.むしろ,フリーランスの地域貢献活動は,個人の専門的な知識や技術を売りとし,実践可能な範囲の活動を行うことによって,どのような成果を生み出し,どのように社会を変革するのか,またその活動で自分はどのように成長するのか,といった活動の方向性が具体的かつ明確であると考える.今後は,多様な看護の社会貢献活動の一つとして,地域包括ケアシステムにおいてその役割を十分に果たすことが期待される.今後は,プライベートと活動との境界が曖昧であることなど,フリーランス特有の課題を明らかにし,活動形態による特性に考慮した構造の精錬をはかりたいと考える.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て実施した(申請番号No.2018-08).

    (利益相反)

     本研究に係る開示すべき利益相反はない.

  • 杉本 知子, 相馬 由紀子, 上野 佳代, 佐伯 恭子, 高栁 千賀子, 鳥田 美紀代
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_80
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少がすすむ我が国では,中国や東南アジア諸国から看護,あるいは介護業務に従事する労働者(以下,外国人労働者)の受け入れを積極的に行うようになった.2008年には経済連携協定に基づく外国人労働者の受け入れが開始となり,2018年8月の時点で受け入れ人数の累計が5,600人を超えたことが報告されている1)

     日本に入国した外国人労働者の活躍に大きな期待が寄せられる一方で,母国への帰国を希望する者が後を絶たず,医療・介護施設の労働力として定着していない実態も指摘されている2).また,医療・介護施設の労働力の確保が年々困難になっている状況を踏まえると,外国人労働者の定着率の改善に取り組む意義は大きいと考えられる.

     そこで,外国人労働者の定着にむけて医療・介護施設内で行われている取り組みの実態を明らかにすることを目的とした調査を行うことにした.

    (研究方法)

    1.調査方法,対象者,調査期間

     介護保険施設や病院に勤務する日本人看護師,もしくは介護福祉士を対象とした半構成的面接調査を2019年2月~3月に実施した.

    2.分析方法

     面接調査によって収集したデータの全てを逐語記録にした.その上で,外国人労働者の定着に向けて医療・介護施設内で行われている取り組みに関する記述を逐語記録の中から抽出し,カテゴリー化を行った.

    (結果)

    1.調査対象者の属性

    調査対象者は介護保険施設に勤務する介護福祉士5名(男性3名・女性2名),病院に勤務する看護師2名(全員女性)で,専門職としての経験年数は5年以上10年未満が6名を占めた.

    2.外国人労働者の定着に向けた取り組みの実態

    外国人労働者の定着に向けて医療・介護施設内で行われている取り組みとして,【意思疎通の円滑化】【異文化を尊重する態度の涵養】【国家試験受験への対応】【指導体制の整備】【自己肯定感の強化】【仲間意識の醸成】【長期休暇取得の促し】の7カテゴリーが抽出された.

    (考察)

    調査の結果,【異文化を尊重する態度の涵養】【仲間意識の醸成】等のカテゴリーが抽出されたことから,外国人労働者の定着を促すために外国人と日本人の相互理解を基盤とした良好な関係性の構築に取り組んでいることが明らかになった.日本の臨床現場において外国人看護師と協働するには,外国人看護師の母国の文化を理解することが重要3)であること,また,新人看護師の離職には職場の人間関係が影響を与える4)ことが報告されていることから,医療・介護施設で行われている先述の取り組みが外国人労働者の定着率の改善に繋がる可能性があるのではないかと考えられた.

    (倫理規定)

     本研究の実施にあたり,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を受けた(承認番号:2018-035).

    (利益相反)

     研究成果の発表にあたり,開示すべきCOI関係にある企業などはない.

  • 佐伯 恭子, 諏訪 さゆり
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_81
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     認知症の人を対象とした研究は,インフォームド・コンセント(I.C.)の段階など様々な困難があり,ケアする側や介護する側を対象とした研究となりがちである.しかし,看護・介護・リハビリテーション領域において,認知症の人本人の視点での研究の推進は必須である.

     研究において被験者保護の観点は重要であるが,認知症の人は,通常の治療やケアの場面で意思決定できない存在とみなされ意向を尊重されないことがあり,研究においても同様のことが起こる可能性は高いと考えられる.国内にも研究に関する倫理指針は存在するが,指針は基本的な原則の記述となっており,認知症の人を対象とした研究に関する具体的な倫理的配慮については,個々の研究者や各機関設置の倫理審査委員会の判断に任されている現状がある.

     そこで,本研究では,認知症の人を対象とした看護・介護・リハビリテーション領域の研究における倫理的配慮について,現状と課題を明らかにすることを目的とした.

    (研究方法)

     認知症の人を対象とした研究に携わった経験のある研究者と研究倫理審査委員を対象に,半構成的面接調査を実施した.

     インタビューデータを逐語録にしたうえで倫理的配慮に関連する意味内容を抜き出し,内容分析をおこなった.倫理的配慮に関連する意味内容は,ベルモントレポートで示された研究倫理の原則と実際の研究との対応を参考に判断した.

    (結果)

     対象者は,研究者が7名,倫理審査委員が9名であった.研究者の平均経験年数は12.4±6.3年で,看護領域の研究者が5名,リハビリテーション領域の研究者が2名であった.倫理審査委員の平均経験年数は7.0±2.4年であった.

     認知症の人を対象とした看護・介護・リハビリテーション領域の介入研究における倫理的配慮に関する現状と課題として,以下が明らかになった.研究倫理の原則ごとに,カテゴリーを【 】で示す.

    人格の尊重/インフォームド・コンセント:【所属機関の倫理規定に従うことの困難】,【本人の同意やアセントの判断の困難】など

    善行/リスク・ベネフィット評価:【効果評価に使用する認知機能検査実施の困難】,【協力を依頼した施設との認識の相違】など

    正義/対象者選定:【対象となる認知症の人を集めることにおける困難】,【つながりのないフィールドに協力を依頼することの困難】など

     全てに共通していたカテゴリーに,【倫理審査に申請される計画書の中の不備の存在】があった.具体的な内容は,研究内容が異なるにもかかわらず同じ倫理的配慮が記載されていること,研究に伴う利益と不利益が書かれていないこと,高齢者が対象だが認知症が除外基準でなく代諾に関する記載もないこと,などであった.

    (考察)

     本研究では,認知症の人を対象とした研究における倫理的配慮に関する現状として,倫理的妥当性だけでなく科学的合理性に関する課題も明らかとなった.科学的合理性は,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」において研究責任者の責務とされているものである.認知症の人を対象とした研究が倫理的に問題なく行われるためには,倫理審査で承認されればよいということではなく,認知症の人の意向を尊重するI.C.の方法や,対象者へのリスクを最小化するための方法など,研究者が,自身の研究に相応しい倫理的配慮について,具体的かつ十分に検討する必要がある1)

    (倫理規定)

     本研究は,千葉大学大学院看護学研究科倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:29-136).

    (利益相反)

     本研究において,開示すべきCOIは存在しない.

  • :中小規模病院,介護保険施設,訪問看護ステーションの特徴
    佐藤 まゆみ, 浅井 美千代, 杉本 知子, 西野 郁子, 佐藤 紀子, 川城 由紀子, 植村 由美子
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_82
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     本研究は,千葉県の地域包括ケアを支える看護職者の研修ニーズについて,平成25年7月~平成26年2月に千葉県健康福祉部医療整備課の委託を受けて実施した「平成25年度千葉県で働く看護職者の研修ニーズ調査(以下,平成25年度調査とする)」のデータの二次分析により,就業する施設の規模や就業分野における研修ニーズの特徴を明らかにすることを目的に行った.

    (研究方法)

    1.対象:平成25年度調査の対象者のうち,中小規模(200床未満)病院(316名),診療所(245名),訪問看護ステーション(82名),介護保険施設(115名)に所属していた758名

    2.調査内容と方法:①臨床経験年数,従事している業務(看護実践業務,教育業務,管理業務)等の「属性」,②前年度に開催された「看護実践」「教育業務」「管理業務」「自己研鑽」に関する研修の受講状況,③今後,「看護実践業務」を遂行するために受けたいと思う研修とその理由(自由記述形式),④施設外での研修に参加しづらい理由などについて尋ねた質問紙を作成し,郵送法による調査を実施した.

    3.分析方法

    1)質的データの分析:調査内容③の看護実践業務を遂行するために研修を希望する理由の自由記述による回答を質的に分析した.その上で,就業分野等による違いを比較した.

    2)量的データの分析:調査内容④「施設外での研修に参加しづらい理由(全くあてはまらない・あてはまらない=0,あてはまる・とてもあてはまる=1)」について,調査内容②「前年度に開催された研修の受講状況(研修を受けない=0,研修を受けた=1)」との関連を単変量ロジスティック回帰分析により,また,探索的因子分析により検討した.

    (結果)

    1.看護職者が研修を希望する理由

     今後,看護実践業務を遂行するために看護職者が研修を希望する理由として,「よい看護が提供できるよう組織内を改革したい」「実践能力を高めたい」「部署で必要となる知識・技術を得たい」「自身の健康を保ちながら仕事を続けたい」「世相を反映した問題に直面している」「現在の環境では学習ができない」の6つが明らかになった.このうち,「実践能力を高めたい」という理由が最も多く,就業分野による違いはみられなかった.

    2.施設外での研修に参加しづらい理由

     看護実践業務に関する研修では,「どこでどのような研修が行われているのか情報が少なく,うまく参加できない」(OR=0.597,p=0.021)「研修会の内容が明確でないため,参加しづらい」(OR=0.531,p=0.021)の2項目に関連が認められた.しかし,教育業務,管理業務,および自己研鑽のための研修は,全ての項目で関連が認められなかった.

     探索的因子分析の結果,施設外研修に参加しづらい理由として「研修に関する情報を入手しにくく,参加を希望する研修がみつからない」などの3因子が,施設外研修を受ける際に重視する点として「研修参加がもたらす利益と研修内容」などの3因子が抽出された.

    (考察)

     中小規模病院,訪問看護ステーションなどいずれの就業分野でもニーズの高かった「看護実践能力を高めるための研修」を企画すること,広報活動を行うことにより,研修参加が促進され,看護実践の向上を図ることが期待できる.

    (倫理規定)

     平成25年度調査は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て実施した(倫理審査承認番号2013-013).また今回,上記の調査結果の再分析を行うにあたり,千葉県医療整備課からデータ使用の許可を得た.

    (利益相反)

     本研究における利益相反はない.

  • ─ 高齢者虚弱解決法を見出すために ─
    豊島 裕子, 田村 友峰子, 世木 秀明
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_83
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     高齢者の栄養状態維持のために,消化機能の把握とそれに対応した食事の提供が重要と考える.消化機能測定法には種々あるが,侵襲的なものや手技の煩雑なものが多く,現場での活用は十分とは言えない.われわれは胃電図の周波数解析で新しい胃機能評価法を開発したので報告する.

    (研究方法)

     対象は若年健常男性12人(21.7±0.3歳).

     腹壁上の胃を挟む2か所に表面電極ビトロードV(日本光電社製)を貼付し,胃電図センサDL160C(M&SE)で,バイオログDL2000(M&SE)に胃電図をsamplingtime10msecで24時間記録した.記録した胃電図は共同研究者世木が開発したソフトウエアを用い6分ごとに周波数解析した.

     各被験者は12:00にバイオログを装着し24時間後に外した.記録器装着後 昼食,19:00夕食,翌日7:00に朝食を喫食した.記録日の水分摂取はミネラルウォーターを,上限1,500mlで自由摂取とした.各食事は試験食とし,エネルギー(kcal),たんぱく質(g),PFC%,食塩相当量(g)は,朝食450,15.8,15,38,47,1.2,昼食693,23.5,12,46,42,2.9とした.夕食は低塩食1149,40.9,14,45,41,5.1と高塩食1101,34.4,13,49,38,8.9を用意し,対象を2群に分け別々に投与した.

    (結果)

     6分ごとに周波数解析した胃電図の0.03-0.1Hzの周波数帯域と0.1-0.3Hzの周波数帯域のパワー比(P6cpm/P3cpm)を6分ごとにプロットすると,23:00~6:00の時間帯にのみ,周期性の変動が観察された.6:00~23:00の時間帯にはリズムを持った変動は認められなかった.そこで23:00~6:00の波形を再度周波数解析したところ15分に1回と30分に1回の緩やかな2種類のリズムが観察された.

     以上より夜間,胃には3cpmと6cmpの2種類の自律運動が存在し,この2種類の運動は15分に1回と30分に1回の2種類のリズムでその主体性が交替していることが分かった.これらの現象は昼間には認められなかった.

     また,低塩食群では30分に1回のリズム交替は明確であったが,高塩食群では全体にパワーが減少し,消失している被験者もあった.食塩以外の栄養成分と胃電図の間には関連を認めなかった.

     15分に1回のリズム交替は食事の影響を受けなかった.

    (考察)

     これまでの報告1)と同様に,胃電図に3cpmと6cpmの自律運動を確認したが,我々の研究では明確な自律運動は夜間にのみ認められた.

     胃の自律運動にはさらにリズミカルな変動があることを確認し,周期の長いリズムは食事,特に食事中の食塩量の影響を受けることがわかった.塩分の多い夕食は,夜間の胃運動のリズムを減弱させ,消化機能を減弱させることが示唆された.

     また,胃には食事などの外的要因の影響を受けない強固なリズムも存在することが示唆された.

     今回の研究では,高齢被験者を募ることができず,若年者を対象とした基礎的研究となった.今後高齢被験者にご協力いただき高齢群の測定を行いたい.

    (倫理規定)

     千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を受けて行った(2017-3).

    (利益相反)

     報告すべきCOIはない.

  • ─ ほい大ごはんカフェの地域への発展と他学科連携の試み ─
    渡邊 智子, 河野 公子, 田村 友峰子, 梶谷 節子, 麻生 智子, 峰村 貴央
    2020 年 11 巻 1 号 p. 1_84
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     本学の健康診断時に実施している食習慣調査結果をみると,栄養学科では野菜摂取量が多く,歯科衛生学科ではジュースの摂取量が少ないなど学科による食習慣の相違がある.また,学年別の食習慣では,2年および3年次の食習慣の乱れがあることが分かった.

     そこで,平成28年度から,本学では喫食を伴う食育プログラム「ほい大ごはんカフェ(以下,ほい大カフェ):大学生による大学生のためのランチ提供を伴う食育プログラム)」を実施している.提供する大学生は,『ちば食育応援隊(千葉県民の健康を食の面から応援する目的で活動をしている栄養学科の学生が中心の食育ボランティアサークル)』であり,教員が支援している.対象者は,主に本学の男子学生や一人暮らしの学生である.プログラムの内容は,簡単でおいしく健康づくりに役立つ食事の提供と,リーフレットによる食育活動を実施するものである.なお,平成30年度では歯科衛生に関するリーフレットも加え食育活動を行った.

     本研究は,ほい大カフェのPDCAサイクルにつなげる基礎資料や本学学生の食環境の現状評価,千葉県民の健康づくりにつながる可能性を検討することなどを目的に,提供する学生および参加者へのアンケート調査を実施してきた.平成30年度の結果を報告する.

    (研究方法)

     対象者は,ほい大カフェでアンケートに回答した喫食学生計89名(第1回:36名,第2回:29名,第3回:24名)とした.

     まず,ほい大カフェの開催通知は,幕張キャンパスの掲示板及び本学SNSに掲示,掲載したポスターで行った.アンケートは,喫食した学生本人の意思で自由に参加有無を決定できるようにするため,アンケート用紙を提出した時点で,同意が得られたと判断した.また,アンケート実施の強制力が働かないように,喫食者募集のポスターに,アンケート協力のお願いを明記して実施した.アンケートの主な項目は,学科,学年,性別,居住形態,ほい大カフェの満足度,自炊の頻度等とした.

    (結果及び考察)

     学科別割合は,「看護学科」66%,「栄養学科」1%,「歯科衛生学科」8%,「理学療法学専攻」16%,「作業療法学専攻」8%ありで,看護学科の割合が高かった.学年別割合は,「1年生」63%,「2年生」31%,「3年生」4%,「4年生」3%であった.栄養学科の喫食者が少なかったことは,本学の食育のターゲットである栄養学科以外の学生を優先しているためであり,1年生の割合が高くなった背景は,ほい大カフェの開催日時を,男子の学生の割合が多く食育を推進したいリハビリテーション学科(主に仁戸名校舎で就学)の1年生が幕張校舎で受講する日に設定したためである.

     ほい大カフェの満足度の回答割合は,「とても満足」67%,「満足」30%,「普通」3%で,ほとんどの学生が満足したと回答した.ほい大カフェで配布したリーフレットの内容及び喫食時に調理工程や栄養成分等をまとめて映し出したスライドの内容についての回答割合は,「とてもわかりやすい」「わかりやすい」の回答割合を合わせて,共に100%であった.しかし,第2回,第3回で前回のカフェに参加した学生に対し,ほい大カフェのメニューを作ったかを質問したところ,約80%の学生が「いいえ」と回答した.

     自炊に対する考え方の回答割合は,「作るのが面倒」24%,「時間がない」22%,「食材が高い」16%であった.このような自炊に対する考え方があるから,ほい大カフェのメニューを作らないのではないかと考えられた.

     なお,第3回のカフェでは,口腔の健康づくりに関するリーフレットを配布し食事と口腔の健康づくりの関連を周知でき,大学祭では千葉市および千葉市食生活改善推進員にも参加いただき,他職種連携ができた.

    (倫理規定)

     千葉県立保健医療大学の倫理審査委員会の承認(2018-16)を受け実施した.

    (利益相反)

     開示すべきCOIはありません.

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