千葉県立保健医療大学紀要
Online ISSN : 2433-5533
Print ISSN : 1884-9326
10 巻, 1 号
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総説
  • 小川 真
    2019 年10 巻1 号 p. 1_3-1_9
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     看護系大学学士課程における薬理学教育は,学修すべき内容に比べて講義の割り当て時間数が少ないこと,学生の病態生理学や臨床的知識が十分でない,低学年時に行われていることなど,様々な問題を抱えている.卒業時学生の薬理学的知識が安全な与薬や薬剤管理にたずさわるためには十分でないという報告は多く,医薬品関連事故増加の原因の一つと考えられる.最近公表された看護学教育モデル・コア・カリキュラムにも薬理学教育の目標が記載されたが,医学教育モデル・コア・カリキュラムと共通点が多く,レベルの高い目標となっている.実際のカリキュラムはこの目標を踏まえ各大学で決定することになっており,教育改革の試みもいくつか報告されているが,前述のように困難な状況下ではまず教育内容を厳選し,すべての教育担当者が可能な限り薬理・薬物療法の教育に時間を割いた上で,各大学で継続可能な教育形態を検討していくことが現実的と思われた.

原著
  • 片平 伸子, 塚崎 恵子, 京田 薫
    2019 年10 巻1 号 p. 1_11-1_17
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     目的:看護師が認識する小規模多機能型居宅介護における看護師の活動の必要度と実施状況を明らかにする.

     方法:全国の226施設に質問紙調査を行い,必要度(1.0-5.0)の中央値と実施率を算出し,相関の高い項目を重複項目とみなして除外し,分析した.

     結果:[看護師が主体となって行う活動(12項目)],[家族,他職種,他機関との共同による活動(19項目)],[終末期のケアに関する活動(2項目)]の3カテゴリにおいて全33項目が抽出された.必要度が最も高い項目(5.0)は[看護師が主体となって行う活動]に属する「服薬管理の工夫」「症状,バイタルサインの判断から緊急受診へつなげること」「利用者の健康状態に関する情報収集」「集団感染を予防するための対策」でいずれも実施率90%以上であった.

     結論:予防から緊急受診の判断までを含む看護師主体の活動を中心に家族や他職種と共同して活動している実態が示された.

  • 田口 智恵美, 佐藤 まゆみ, 三枝 香代子
    2019 年10 巻1 号 p. 1_19-1_25
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     目的:救急外来からの緊急入室の準備をするICU熟練看護師の臨床判断を明らかにする.

     方法:A県内の病院のICU看護経験4年以上の5名の看護師を対象に,救急外来からICUへの緊急入室についての連絡を受けてから患者がICUに入室するまでの間の看護師の思考や行動について半構成的面接を行った.聞き取った内容を質的記述的方法により分析した.

     結果:ICU熟練看護師の臨床判断として,以下の9の大カテゴリーが抽出された.<情報を関連づけて患者のクリティカルな状態を推論する><患者になされる集中治療の方向性を推測する><入室後の集中治療管理に対応しうる必要物品を見極める><治療が円滑に行われるよう物品の配置をデザインする>などであった.

     考察:ICU熟練看護師の臨床判断の特徴は,少ない情報を関連づけながら患者のクリティカルな病態を推論し緊急性や重症度を見極める,患者になされる集中治療の方向性を予測する,などであると考える.

  • 川城 由紀子, 石井 邦子, 鳥田 美紀代, 大滝 千智, 川村 紀子
    2019 年10 巻1 号 p. 1_27-1_34
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     医療福祉施設に勤務する40歳以上60歳未満の看護職を対象に,セカンドキャリア(年齢を理由とした退職後に再び看護職として働くこと)における要望と,看護実務経験とセカンドキャリアで希望する業務との関連を明らかにし,キャリア形成支援について検討することを目的に,質問紙調査を行った.

     セカンドキャリア希望あり群1,194名の7割以上が今までの経験や適性を活かした業務を希望し,身体的問題や新しい業務の習得に困難を感じていた.希望する業務では外来スタッフ業務が最も多く,急性期や慢性期病棟スタッフ業務は経験している人数が多いにも関わらず,セカンドキャリアでの希望は少なかった.また,セカンドキャリアで希望するほとんどの業務において,それぞれの業務と同じ経験があることが関連していた.これらのことから,定年前から定年後に希望する看護実務経験ができるような職場でキャリアを積めるような支援の必要性が考えられた.

  • 小澤 桂子, 森 文子, 遠藤 久美, 佐藤 まゆみ, 高山 京子, 川地 香奈子, 佐藤 禮子
    2019 年10 巻1 号 p. 1_35-1_42
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     がん化学療法に伴う貧血症状を的確かつ簡便に評価するためのアセスメントツール開発を目的に研究を実施した.6つの研究協力施設でがん化学療法を受けている患者389名に対し,研究者が作成した11項目の貧血アセスメントツールとFACT-Anemiaを用いて調査を行った.得られたデータから因子分析を行い,「手先や足先が冷たい」を除く10項目から3因子を採択した.構成概念妥当性の検討では,2項目以外の項目の相関係数は0.10~0.59であった.FACT- Anemiaとの基準関連妥当性の検討では,ツールの全体のスコアとFACT-Anemiaのサブスケールスコアとの相関係数は0.80~0.77であった.内的整合性を検討した結果,ピアソンの相関係数は0.48~0.94であった.対象者のうち113名に,1回目の調査の2~3週間後に再現性を確認したところ,各項目のスピアマンの順位相関係数は0.43~0.77,κ係数は0.20~0.44であり,ある程度の再現性があると判断された.これらの結果から信頼性と妥当性は検証された.完成した10項目の貧血アセスメントツールは,項目数の少なさから,患者のセルフモニタリングや日常臨床での活用に適切であると考えられた.

  • 佐藤 紀子, 雨宮 有子, 細谷 紀子, 石川 志麻
    2019 年10 巻1 号 p. 1_43-1_50
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本研究の目的は,新人保健師を対象としたリフレクションに基づく個別支援実践能力を高める学習プログラムを実施し,受講生に生じた気づきや学びを明らかにし,プログラムの効果を検討することである.

     本プログラムは,おおよそ2か月ごとに3回,計9時間の講義とグループワーク,自己学習から構成されたものである.使用したワークシートに記述された内容をデータとし,リフレクションを通してどのような気づきや学びが生じていたのか,内容分析を行った.

     すべてのプログラムに参加できた20名の受講生を分析対象者とした.データより抽出されたリフレクションのコアカテゴリは,【自己を知る必要性への気づき】【周囲の支えの存在の必要性への気づき】【専門職者としての自覚】【支援方法/関係づくりの見直し】【支援の手ごたえの実感】【自己の成長の実感】であった.

     結果より,本プログラムの活用は,新人保健師のリフレクションを促進し,自己に向き合い,支援者として援助の方向性を見直し,周囲の支えを得ながら実践を高める一定の効果があることが確認できた.

報告
  • 大谷 拓哉, 三和 真人, 雄賀多 聡, 竹内 弥彦, 高杉 潤, 藤尾 公哉
    2019 年10 巻1 号 p. 1_51-1_59
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     体幹回旋を伴う床からの起き上がり動作中の関節運動を明らかにすることを本研究の目的とした.対象は21~26歳の健常男性10名とした.起き上がり動作は,床上の仰臥位から体幹を回旋させて起き上がり,長坐位になる動作とした.計測には三次元動作解析システムを用いた.動作開始から終了までを100%として,5%ごとの時点での関節角度を算出した.分析の結果,動作序盤に頭頸部の屈曲と回旋,体幹屈曲と回旋,体幹回旋反対側の肩の屈曲と内転,内旋運動が認められ,体幹の屈曲以外は30~35%頃までにピークを迎えた.体幹回旋側の肘は動作中盤まで屈曲し,その後伸展へと切り替わった.本結果は,床からの起き上がり動作中の関節運動に関するこれまでの文献的記述を支持するものであった.本研究で得られた各関節の運動範囲は,体幹の回旋を伴う床からの起き上がり動作に必要となる関節可動域の一つの目安として活用可能と考えられる.

  • 植田 麻実, 島田 美恵子, 井上 裕光, 越川 求, 神田 みなみ, 小川 真, 長谷川 卓志, 東本 恭幸, 桝本 輝樹, 雄賀多 聡, ...
    2019 年10 巻1 号 p. 1_61-1_71
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     近年,大学における初年次教育への関心が急速に高まる中,学生の学びを最大化とするためには,教員は自らが所属する大学において初年次教育に対して認識を共有する必要がある.そこでこの調査は本学の教員が初年次教育に対してどのような観点を持っており,また,初年次教育の中で学生が身につけていないと考えられる項目は何で,その原因を明らかにし,改善策も共有し初年次教育の学びの最大化へとつなげる事を目的に行った.調査は平成30年に本学専任教員81名に対して無記名の質問紙形式で行った.回答率は53%であった.初年次教育に関する43項目に対して,3件法のアンケートで項目ごとに「非常に重要」「重要」「できれば必要」をそれぞれ3点,2点,1点とし,各研究対象者に1つ選んでもらい,項目ごとの合計点を研究対象者数で割り平均値を算出した.平均値が高く重要度が高いと認識されていたのは,わからない時に質問をする力,講義などで集中して聞く力,コミュニケーション能力,相手の立場に立って考える事ができる能力などであった.また,学生が身につけていない項目の原因としては,学生の資質や高校までの学びとの違いに加え,学修環境に関する記述があり,改善策としては,教員の授業の工夫,学校全体での取り組み,そして地域社会との連携の必要性が指摘された.

  • 荒井 裕介, 海老原 泰代, 岡田 亜紀子, 小山 達也, 石川 みどり, 横山 徹爾, 由田 克士
    2019 年10 巻1 号 p. 1_73-1_79
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本研究は,2015年千葉県県民健康・栄養調査の1日間栄養素摂取量データから県民(30~69歳)の習慣的摂取量分布の推定を試みることを目的とした.また食事摂取基準を活用し,1日間および習慣的摂取量分布から過不足者の割合を算出して比較した.

     2016年11月に県民調査と同じ手法を用いて,千葉県内の70世帯に非連続平日2日間の食事調査を行った.非連続2日間の栄養素摂取量から分布を正規化するための「最良べき数」と個人内変動を調整するための「個人内/個人間分散比」を性別・栄養素別に算出した.これら指標を用いて,Best-Power法により1日間摂取量から習慣的摂取量分布を性別,年齢階級別に推定した.

     1日間摂取量は習慣的摂取量に比べて分布幅が広い傾向にあり,食事摂取基準を用いた評価では多くの栄養素で過小または過大評価する傾向にあった.そのため食事摂取基準を活用した栄養素摂取状態の評価は,習慣的摂取量分布を推定する必要があることが示唆された.

  • 高山 京子, 佐藤 禮子, 森 文子, 小澤 桂子, 佐藤 まゆみ, 遠藤 久美
    2019 年10 巻1 号 p. 1_81-1_88
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     研究目的は,がん化学療法患者の貧血症状を評価する貧血アセスメントツール(記録用紙)を活用した看護ケアが,患者のセルフケアにどのように有用であるかを明らかにすることである.がん化学療法患者に看護ケアを提供する外来看護師を対象とし,対象者は患者の来院時に記録用紙を患者と一緒に確認し,貧血ケア指導ガイドを参考にしながら看護ケアを行った.看護ケア提供終了後に効果を問う質問紙調査を対象者に実施し,その内容を分析した.その結果,記録用紙を患者と一緒に確認することによって,8割以上の対象者は貧血症状を的確に,簡便に,早期に把握することができた.また,患者とコミュニケーションをとる中でより患者の理解を深め,患者の生活に適した看護ケアの提供が可能になったと評価した.以上からツールをもとに作成された記録用紙を活用した看護ケアは,がん化学療法に伴う貧血患者のセルフケア支援において有用であるといえる.

  • 吉野 智佳子, 有川 真弓, 木之瀬 隆
    2019 年10 巻1 号 p. 1_89-1_96
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

     体験用前腕能動仮義手の開発と併せて作成した実習書から,製作や適合判定,実際の義手操作体験を行い,学修の主体者である学生が製作実習でどのような学修が行えたのかを把握するために,質問紙を用いて本校作業療法学専攻所属である体験用仮義手製作の研究に参加した2015年度3年次学生と講義において体験用仮義手製作を行った2016年度3年次学生に対して満足度調査を行った.収集した質問紙について,質問項目別に4件法の回答数をカウントし,記載されたコメントについては自由記述の一覧を作成した.実習の満足度については,「とても満足」「満足」という回答が2015年度の学生では55%,2016年度の学生では80%となり,2016年度の学生で高い満足度が得られていた.これについては講義として時間数が確保されることで操作体験ができる内容が増大したことになり,それによって講義内容に対する満足度が高くなったことが伺われた.

資料
第9回共同研究発表会(2018.8.28)
  • 三宅 理江子, 豊島 裕子, 島田 美恵子
    2019 年10 巻1 号 p. 1_107
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     若年期における冷えの自覚は,その後の妊娠・出産期に非常に大きな影響を及ぼすことが考えられる.本研究では,冷えに関するケアについて検討するにあたり,「若年女性の冷え感は,熱産生が低いために,深部体温は保持されるものの末梢体温が低下し,その自覚症状としてあらわれる.」との仮説を立て,熱産生に着目し検討することと,冷え感の自覚の有無による食後の熱産生の変化を代謝量,抹消血流量・外殻温度から検討ことを目的とした.

    (研究方法)

     冷え感の自覚の有無は「冷え症」調査用問診票(寺澤変法)を用いた.安静時代謝量は,12時間の絶食後,朝に大学に来校し,30分間座位安静を保ったのち,ダグラスバッグ法により呼気を10分間採取した.呼気ガス分析計(アルコシステム,AR-1)を用いて酸素及び二酸化炭素の濃度を分析した.ガスメーター(品川製作所,DC-5)にて換気量を測定した.これらのデータから酸素摂取量と二酸化炭素排出量を算出し,Weirの換算式によりエネルギーに換算して体重あたりの安静時代謝量(kcal/kg/min)を算出した.計測は食前と食後60分に行った.血流量は座位安静を保ち,人差し指に測定器(日本光電,MLV-2301)を取り付け,約2分間測定した.血流量測定の結果から交神経機能と副交感神経機能についても併せて算出した.計測は食前,食後30分,食後60分に行った.外殻温度は座位安静を保ち,手の表面に測定器(カスタム,NIR-01)を1秒程度近づけ測定した.計測は食前,食後30分,食後60分に行った.食事は,朝食として,おにぎり2個(ツナマヨとサケ)とだし巻き玉子,水(適宜)を提供した.エネルギーは525kcalだった.データは,平均±標準偏差で示した.

    (結果)

     対象者は7名だった.冷え感の自覚のあるものが4名(以下,あり群),自覚のないものが3名(以下,なし群)だった.あり群は年齢20.8±0.5歳,身長158.3±3.9cm,体重49.9±1.9kg,体脂肪率25.9±3.8%,除脂肪量36.98±1.13kg,脂肪量12.98±2.32kg,筋肉量34.89±1.04kg,BMI20.0±1.3kg/m2,なし群は年齢20.3±0.6歳,身長162.7±4.3cm,体重59.0±2.9kg,体脂肪率30.6±0.5%,除脂肪量40.93±1.76kg,脂肪量18.07±1.16kg,筋肉量38.52±1.59kg,BMI22.3±0.6kg/m2だった.あり群はなし群に比べ,体重と体脂肪率,除脂肪量,脂肪量,筋肉量,BMIが低い傾向にあった.体重あたりの安静時代謝量は,あり群の食前が0.015±0.001kcal/kg/min,食後が0.017±0.002kcal/kg/min,なし群の食前が0.014±0.000kcal/kg/min 食後が0.016±0.001kcal/kg/minだった.安静時代謝量の食後の増加量は,両群とも0.002±0.001kcal/kg/minだった.血流量と交感神経機能,副交感神経機能,外殻温度からは,冷え感の自覚の有無による違いを見つけることができなかった.

    (考察)

     冷え感の有無により,筋肉量や脂肪量などの体組成に違いがみられ,冷え感には体組成が影響する可能性が示唆された.これは複数の先行研究においても同様の結果が得られている.日本人若年女性12名を対象にした体表面積あたりの安静時代謝量の比較では,冷えの訴えの強いものは弱いものと比べ安静時代謝量が低いと報告されている1).しかし,今回の対象者において同様の結果は得られなかった.今回の食事内容においては,あり群はなし群ともに同程度の熱産生をしていることが示唆された.今後は,対象者数を増やして検討を行いたいと考えている.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会 の承認を得て行った(申請番号2016-031).

  • 有川 真弓, 松尾 真輔
    2019 年10 巻1 号 p. 1_108
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     日本の作業療法養成教育は,学内での講義・演習と学外施設での臨地実習で構成される.臨地実習は,本学では1実習施設に1名の学生を配置している.臨地実習には,対象者の評価,問題点の抽出,目標設定を行い,作業療法計画を立てる実習(3年次通年科目評価実習Ⅰ・Ⅱ,以下評価実習)と,それに加えて作業療法を実施し,再評価を行う実習(4年次通年科目総合実習Ⅰ・Ⅱ,以下総合実習)がある.「評価実習」は,一人で病院等の施設へ行き,現場の作業療法士の指導を受けて対象者と関わる最初の経験となるが,その直前には学生の不安が募る様子が見られる.評価実習前には検査測定に関する講義や学内での・実習,OSCEを意図した学内実技試験を設けているが,いずれも被験者は学生であり,障害のある対象者に直接関わることなく評価実習に出ている.これは付属病院を持たない本学専攻のカリキュラム上の限界であり,学生の不安増大の一因にもなっている.

     県内のある就労移行支援事業所では,作業療法学生の検査測定,ADL評価の実習に障害者を評価モデルとして派遣する事業を行っている.このような外部機関を活用した学内実習教育を取り入れる他の作業療法養成校も増えており,新たな学内実習教育として期待されている.

     本研究の目的は,本学作業療法学専攻において,外部機関を活用し障害者を評価モデルとした学内実習教育を試行し,どのような効果が認められるかを検証することである.

    (研究方法)

     対象は評価実習前後の作業療法学生で,研究の目的・実施期間・方法等を記載したポスターを学内に掲示し,自由意思にて協力を希望した学生に文書と口頭にて研究について説明し, 同意を得た.Profile of Mood States 2nd Edition(以下,POMS2)は「怒り-敵意」「混乱-当惑」「抑うつ-落込み」「疲労-無気力」「緊張-不安」「活気-活力」「友好」の7尺度とネガティブな気分状態を総合的に表す「TMD得点」から気分状態を評価する尺度である.また,作業療法学生の臨床実習適応能力の自己評価尺度(以下,臨床実習適応能力)は「指導者からの学び」「悩みへの対処」「職務の理解」「対象者との協働」の4つの因子で構成される19項目からなる自己評価尺度である.さらに過去の国家試験問題で出題された評価測定に関する知識を問う設問(実技知識)を用い,1)通常授業期間1(①通常1),2)通常授業期間2(②通常2),3)評価実習の前に行った障害者を対象とした学内検査測定実習後(③障害者実技実習後),4)評価実習終了後(④評価実習後)の4回収集し,Wilcoxon順位和検定にて検討した.

    (結果)

     POMS2では,①通常1,②通常2,④評価実習後の間には有意差は認められなかった.②通常2と③障害者実技実習後との比較において,怒り-敵意(P=0.0008),混乱-当惑(P=0.0002),抑うつ-落ち込み(P=0.0002),疲労-無気力(P=0.0028),緊張-不安(P<0.0001)および総合的気分状態(P<0.0001)で③障害者実技実習後が有意に高値となった.

     臨床実習適応能力では,①通常1と②通常2,②通常2と③障害者実技実習後の間には有意差が認められなかった.③障害者実技実習後と④評価実習後,②通常2と④評価実習後の間には,それぞれP=0.0018,P<0.0001で有意に得点が上昇した.またこの2つの期間の比較では4因子すべてに有意差が認められた.実技知識では、関節可動域評価に関する設問が、他の設問より4回とも一番正答数が多い結果となった.

    (考察)

     POMS2で得点が最も高かった③障害者実技実習後は,評価実習の直前の日程であったため,障害者実技実習受講の影響よりも評価実習前の緊張状態が強いことが影響したと考える.臨床実習適応能力については,評価実習を経験することで大きな改善が認められた.今回の実習は,学生が障害者に触れることができた一人当たりの時間は非常に短く,POMS2,臨床実習適応能力,実技知識に関する設問ともに,有意な変化をもたらすほどの経験とはならなかったのではないかと考える.予算の限界もあるが,より効果を得られる方法を検討していきたい.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施した.

  • 金澤 匠
    2019 年10 巻1 号 p. 1_109
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     オートファジーは,体タンパク質分解機構の1つであり細胞内のタンパク質を分解することにより細胞の恒常性維持に働いている.現在までに卵巣摘出後3週間経過した卵巣摘出(OVX)ラットで肝臓におけるオートファジー活性の減少が見られることを学内共同研究において報告している.

     オートファジーは生体内においてアミノ酸や血糖,インスリン,コレステロールなどにより抑制的に調節されている.そこで本研究は,卵巣摘出後の肝臓オートファジー及び血中のオートファジー制御因子の変化を経日的に調べ,卵巣摘出による肝臓オートファジー低下の形成メカニズムの解明を目的として行った.

    (研究方法)

     卵巣摘出手術後1,3,7,14日目のOVXラット及びShamラットから肝臓及び血液を採取し,肝臓中のオートファジー活性と血液中のオートファジー制御因子について測定した.オートファジー関連タンパク質であるLC3は,オートファジーの活性化に伴いLC3-ⅠからLC3-Ⅱへ変換されるため,LC3-Ⅰ及び-Ⅱをウェスタンブロット法で検出し,それらの量をオートファジー活性の指標とした.血中のオートファジー制御因子の変化を調べるために,血糖値,インスリン濃度及び総コレステロール濃度の測定を行った.また,コレステロール合成・吸収マーカーについても測定を行い,卵巣摘出ラットで顕著に見られる血中コレステロール濃度の上昇との関連性についても検討した.

    (結果)

     オートファジー活性の指標となるLC3の量を測定した結果,卵巣摘出手術後1日目では,Shamラットに比べてLC3量は増加した.その後,3日目になると両群の差はなくなり,7及び14日目ではOVXラットでLC3の減少が確認された.従って,OVXラットの肝臓で生じるオートファジー活性の低下は卵巣摘出後1~3日程度では起こらず,7日以上経過した段階で生じることが明らかとなった.

     血糖値は卵巣摘出手術後1,3,7,14日目のいずれにおいても両群間で差はなかった.一方で,OVXラットのインスリン濃度は1日目ではShamラットに比べて低値を示したが,3,7,14日目では逆転し高値を示した.特に7日目ではOVXラットで有意なインスリン値の上昇が確認された.

     血中総コレステロール濃度は3,7,14日目においてOVXラットで高値を示し,卵巣摘出による血中コレステロールの上昇が確認できた.また,14日目においてコレステロール合成・吸収マーカーを測定すると,OVXラットでは合成量に変化はなかったが,コレステロール吸収量がShamラットに比べて増加することが明らかとなった.このことが血中コレステロール濃度を上昇させる要因であると考えられる.

    (考察)

     オートファジー活性と血中のオートファジー制御因子の結果を照らし合わせる.まず,血糖値の関与は確認できなかった.卵巣摘出手術後1日目で見られたオートファジー活性の一過的な増加はインスリン濃度の減少が関係していることが考えられる.オートファジー活性が低下していた7,14日目では,血中のインスリン濃度やコレステロール濃度の増加が確認され,オートファジーの活性低下との間に一定の関係性が確認できた.しかし,インスリン濃度やコレステロール濃度は卵巣摘出後3日目ですでに高値を示すが,その時のオートファジー活性に変化は見られなかった.

     従って,OVXラットで見られる肝オートファジーの低下には,インスリンやコレステロールの増加が影響を及ぼしている可能性が示唆された.しかし,それらの制御因子の変化とオートファジー活性の変化の間にはタイムラグがあり,必ずしも一致しない部分も見られた.さらに,OVXラットではコレステロール吸収量の増加が見られた.このことが血中コレステロール濃度の上昇に関係していると考えられるため,今回の結果から,コレステロール吸収を抑制することでOVXラットの肝オートファジー低下が改善できる可能性も示唆された.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学動物実験研究倫理審査部会の承認(2017-A005)を得た上で,千葉県立保健医療大学動物実験等に関する管理規程に従って行われた.

  • ─ 学習者の視点からのニーズ・アナリシス
    植田 麻実, 神田 みなみ
    2019 年10 巻1 号 p. 1_110
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     本研究の目的は,保健医療英語科目のように,将来職業として医療現場に立った時に役立つ知識や表現の習得を目的としているESPと,より一般的な英語学修であるGeneral English(GE)それぞれに対しての本学(Group2)の学生のやる気の度合いを調査し,また英語以外の言語に対しての彼らの興味についても調査し学習者のニーズを把握する事をその目的とした.なお,調査では,本学とほぼ学力が等しいが,本学のように卒業後の職業がはっきりと決まっていない他校(Group1)との比較も行った.

    (研究方法)

     被験者は本学(Group2)からは2017年度後期に研究代表者・分担者のクラスの英語を履修した学生のうち,本研究の主旨に賛同し協力をしてくれた1,2年生の学生79名であり,他校(Group1)からは66名の参加があった(1,2年生).方法としては,英語へ対しての得意さの度合い,好き嫌いの度合いの自己申告の項目の後,質問紙アンケートとして用意された, 英語学修とその内容に関してのやる気の度合いについ て,17項目に対してLikert Scale(1~5)で答えてもらった.なおQ17に関しては,英語以外の言語に関しての興味やその理由を自由記述するセクションを設けた.

    (結果)

     その結果,本学(Group2)で英語学修の目的として一番Meanが高かったのはQ13の「一般的な英語を海外旅行などで役立てる」(3.61)であり,一方一番低かったのはQ4「SNSなどで英語で自ら書き込みを行う事で英語の習得に役立てる」(1.96)であった.これはGroup1も同じ結果となりQ13が一番高いMean(3.95),Q4が一番低いMean(2.21)となった.ESPに関する4項目については,Q12「専門に関する英語の方が一般的な英語より真剣に取り組める」が唯一二つのグループ間でのt検定の結果,Leveneの検定により,Group2の方が優位に平均値が高かった項目であった(t=0.290).それ以外のESPに関する項目,Q10「専門に関する英語学び,将来自分のキャリアに活かす」,Q11「専門に関する英語を学び,将来人のために活かす」,Q16「英語で書かれた専門書や論文を読んでいる・読んでみたい」に関しては平均値自体には二グループ間で差があったが,t検定の結果,有意差は認められなかった.Q17「英語以外の言語も機会があれば学びたい」に関してはGroup1(「関心がとてもある」,「少しある」,合計42.4%),Group2(「関心がとてもある」,「少しある」,合計43.0%)となり,どちらのグループも被験者の4割強が英語以外の言語の学修に対しても興味を示していた.理由としての自由記述部分では,英語以外の言語に対してはGroup1では大学で外国語の科目として提供されている事をその理由として挙げている被験者が多かった.一方Group2では中国語,フランス語が同一で一番多く,次いで韓国語,手話,ドイツ語,スペイン語であった.学生の声としては,フランス語─国境無き医師団に必要だから,日本手話・中国語─身近にあるから,などがその理由として挙げられていた.英語の得意さ,好きさ加減とESP項目の回答に相関は認められなかった.

    (考察)

     この結果から,将来の職業がはっきりと決まっていないGroup1と比較的将来の職種が決まっているGroup2(本校の学生)とで違いがあったのはQ12「専門に関する英語の方が真剣に取り組める」だけであったが同時にQ12を含め,ESPのいずれの項目と英語の得意さや好き嫌いとにも相関が認められなかった事より,ESPに関しては,このリサーチの被験者たちは,英語科目というよりもむしろ専門の科目として捉えている可能性も示唆される.また,多言語に関しての興味は4割強が示したが翻っては過半数の被験者にとっては英語以外の外国語は興味が無いという事でもあったことから,この結果をどうカリキュラムなどへ反映していくのか,議論の必要性が示され,英語学修では,英語そのものの学修以外のsocioculturalな面も扱い多言語社会に対応していく必要性も示唆されたものとなった.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会 の承認を得て実施した(承認番号2017-18)

  • 海老原 泰代, 岡田 亜紀子, 渡邊 智子, 渡辺 満利子
    2019 年10 巻1 号 p. 1_111
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     メタボリックシンドローム(Mets)は2型糖尿病を増加させ(Lorenzo, et al., 2003),心血管疾患者死亡率(Maaria, 2002),癌発症(Gallagher, et al., 2013)をも高めることが報告されている.わが国の糖尿病罹患者は全人口の11.2%を示し(厚生労働省,2013),全世界平均7.9%を上回り(WHO),いまや糖尿病予防は緊急課題であり,効果的な方策が希求されている.厚生労働省は平成20年よりMets対策のため特定健診・保健指導を開始した.

     我々は,これまでに千葉県内某事業所従業員256人(40~60歳)の特定健診結果と食事調査結果を分析し,Mets罹患と「夕食のまとめ食い」「夜遅い食事」などの食生活スタイルに関連がある事を明らかにした.

     本研究では,Metsリスク保有者に対し,糖尿病発症予防のためのライフスタイル教育プログラムを開発することを目的とし,指導経験の長い管理栄養士が行っている糖尿病発症予防のための指導内容を質的統合法により検討した.

    (研究方法)

    1.対象:特定保健指導に従事した経験があり,かつ本研究の趣旨に同意を得た管理栄養士5人.

    2.データ収集方法:5人の管理栄養士を対象に,「特定保健指導において,血糖値コントロールに効果が見られた食事・生活習慣の改善内容」をテーマに約2時間,スモールグループディスカッション(SGD)を実施した.

    3.分析方法:質的統合法(KJ法)(川喜田二郎,1970)を用いた.第1段階として各人の経験を付箋に記入したラベルを作り,類似したものを集め,グループを編成し表札を作った.第2段階では,それぞれの表札の関係性を図解した.

    (結果)

    1.対象の管理栄養士経験年数の平均は23年,特定保健指導経験年数は6年であった.

    2.第1ステップでは,全体ですべてのラベルは38枚あった.その内,血糖コントロールに関するものは27枚あり,全体の71%を占めた.

     一方,Mets改善のため適正な体重管理についてのラベルは8枚(21%)と少なく,優先度が低い表札に脂質の摂取量に関連する項目が含まれた.また,禁煙管理のラベルがなかった.

     第2ステップの表札では,『食後血糖値を上げ過ぎない食事』,『空腹時血糖値を上げ過ぎない食事』,『体重管理に関わる食・生活習慣』,『脂質・コレステロールのコントロール』の表札が作られ,4つのカテゴリーに分けられた.

    3.上記の結果より,4つのカテゴリーにつながる具体的な食・生活習慣改善のためのアドバイスを抽出し,栄養教育媒体「健康マネジメント手帳」を作成した.

    (考察)

     Metsリスク保有者に対し,エネルギーコントロール源である脂質を減らす指導は優先度が低く,体重管理よりも糖質の量・摂り方等の血糖コントロールに重点を置いた指導を実施していることが明らかとなった.特定保健指導は内臓脂肪蓄積の改善により,Metsリスクが減少することを目的としている.しかし糖尿病発症予防のためには,現在の特定保健指導より踏み込んだ,血糖コントロールの栄養教育のスキルが求められた.そのため,マニュアルとなる栄養教育媒体が必要であることがわかった.

     また,血糖・Metsコントロール共に影響する禁煙管理について,ラベルが作れなかったことから,禁煙管理の重要性を再認識する必要があると示唆された.

     本研究は平成29・30年度継続研究である.これまでの成果により開発した,栄養教育媒体「健康マネジメント手帳」を教材とした,糖尿病発症予防のためのライフスタイル教育プログラムを構築し,平成30年度は介入試験によりプログラムの効果評価を実施する.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の 承認を得た(倫理審査番号:2016-5).

  • 加藤 隆子, 渡辺 尚子, 中村 博文, 小山 均
    2019 年10 巻1 号 p. 1_112
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     青年期は親からの自立,自己の確立,対人関係や職業の選択などを通して,精神的成長がすすむ年代である.その一方で,挫折や対人関係など揺らぎの多く,精神的問題が顕在化する年代でもある.メンタルヘルス上の問題が多いにも関わらず,精神科専門職者に対して援助を求めない傾向にあるといわれている.本研究では,精神科の病院やクリニックに通院中する青年期の患者に対し,初診時の主訴,受診のきっかけや状況,支援ニーズを調査し,メンタルヘルスを支援するための課題と支援のあり方を検討することを目的とした.

    (研究方法)

    1.調査対象者:関東圏内A県の精神科の病院やクリニックに通院する高校卒業後の18歳から29歳で,主治医の許可が得られた患者を対象とした.

    2.調査方法:主治医から許可が得られた患者で,研究の概要を説明し承諾が得られた者に対し無記名自記式の質問紙調査を実施した.質問紙は外来やクリニックに置いた回収ボックスにて回収した.

    3.調査内容:①基本的属性,②初診時の主訴,受診のきっかけや状況,③受診前後の支援ニーズにつて調査を行った.

    4.分析方法:自由記載を除く,数量的データは記述統計によって算出した.自由記載の支援ニーズは,意味内容ごとにコード化,カテゴリー化を行った.

    (結果)

     関東圏内4施設,104名の患者(男性32.7%,女性67.3%)から協力が得られた.平均年齢は24.9(±2.9)歳,初診時の年齢は平均20.6(±4.0)歳であった.居住環境は「家族と同居」77名(74.0%),「一人暮らし」15名(14.4%)であり,仕事や学校の状況は「社会人」48名(46.2%),「学生」12名(11.5%),「主婦」6名(5.8%),「休職」6名(5.8%),「休学」4名(3.8%),であった.初診時の主訴は,回答の多かった順に不安76.9%,対人緊張54.8%,意欲低下54.8%で,疾患名は不安障害39.4%,抑うつ障害29.8%,心的外傷・ストレス関連18.3%であった.受診までの期間は「1週間以内」7名(6.7%),「1か月以内」14名(13.5%),「2 ~ 3 か月」24名(24.0%),「3~6か月」23名(22.1%),「6~12か月」8名(7.7%),「1年以上」28名(26.9%)であった.受診のきっかけとなった問題は順に,仕事35.6%,家族関係32.7%,学校の人間関係29.8%であった.初診時の相談相手は母親55.8%という回答が一番多く,父親25.0%,友人17.3%,誰にも相談しなかった16.3%であった.医療機関につながった方法としてはインターネットで見つけたという回答が50.0%で最も多く,次いで学校からの紹介7.7%,相談機関からの紹介6.7%であった.初めて受診することに悩んだか否かについてはほぼ半数で,そのうち受診を悩んだ理由は自分の偏見38.5%,受診を知られたくない36.5%,周囲の偏見34.6%であった.悩まなかった理由は,早く治したかったという回答が67.3%と一番多かった.

     受診前後の支援ニーズで共通しているのは〈周囲の理解〉〈相談できる場所〉〈職場の環境調整〉〈予防・早期発見できるシステム〉〈精神疾患の理解や知識の普及〉であった.受診前は〈精神疾患に対する知識〉〈制度や支援の情報提供〉〈医療や支援環境の充実〉〈受診しやすい病院環境〉,受診後は〈経済的支援〉〈就労支援〉〈家族への教育支援〉という特徴があった.

    (考察)

     今回の調査により受診までの期間が1年以上かかったり,誰にも相談しなったという受診者の現状が明らかとなり,早期に必要な支援が受けられるための環境が必要である.医療機関につながった方法としてインターネットが半数であり,青年期の特徴といえるが,一方でいまだ偏見により受診行動が阻まれていることもわかった.インターネットを活用した支援の検討をすること,さらに精神疾患の理解や知識の普及を強化していく必要がある.その際に,両親がキーパーソンになる可能性があり本人のほか,親を対象とした予防や早期発見できるシステムの充実が課題である.受診後には就労支援を望む声もあり,療養中から個別性に応じた支援が必要である.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て実施した.(承認番号2017-005)

  • ─ 6分間歩行のフラクタル解析より ─
    三和 真人, 雄賀 多聡, 竹内 弥彦, 大谷 拓哉, 藤尾 公哉, 小川 真司, 真壁 寿
    2019 年10 巻1 号 p. 1_113
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     ヒトの歩行には一定のリズムを刻んでいるようで,実際は刻んでいない.心拍数リズムと同様な非規則性(非周期運動)が存在する.高齢者の歩行の顕著な1つの例を考えると,関節変形,筋萎縮や立位姿勢の異常など様々な転倒要因を包含していることが考えられる.特に体重心を前後移動させる推進力減少に加え,脊柱の柔軟性(左右・上下方向)が低下し,移動能力に必要な運動機能低下が亢進するものと考えられる.本研究は,歩行時の脊柱柔軟性がLocomotor(運搬能力)である下肢運動機能の基で効率的な運動を果たすのか否かを分析して,高齢者の転倒予防に繋げることにある.

     今回の目的は,本研究は歩行時に第7頸椎に貼付した加速度計から左右(Y方向)と垂直(Z方向)の移動距離変化(変動距離)から分析することとした.

    (研究方法)

     対象は,ほぼ週5回,30分以上の散歩を行っている健常高齢者11人(平均73.5±3.6歳),2週間に1度の健康指導体操を受けている方である.

     測定課題は,無線加速度計(Trigno EMG System, Delsys Inc. US)を第7頸椎に貼付し,1辺が10m正方形外周を自己の快適歩行速度で6分間歩行するものとした.Y方向とZ方向のPeak値の時間間隔を算出と,加速度計の基準値時間で積分して頸椎の変動距離の2つを求めた.時間間隔はCSVファイルとして保存し,モノフラクタル解析ソフト(カオス解析プログラム,TAOS研究所,東京)でフーリエ変換(FFT)させた後,自己相似性(フラクタル性)を求めた.またPeak to Peakによる変動距離の平均を求めた. 対照群(Control群)は健常若年者5人(平均20.3±1.3歳)である.採用基準は,両群とも整形外科疾患,神経系疾患のないこととした.高齢者の6分間歩行時の歩行速度を算出し,Control群と比較した.また600歩(通常100歩/分の6倍)前後のY方向とZ方向のPeak値を算出し,Control群の変動距離平均値データと比較した.有意水準を5%とした.

    (結果)

     高齢者群の歩行速度は1.3±0.6m/s,Control群の歩行速度1.6±0.7m/sよりも遅いが,明らかな差はみられなかった.

     歩行時の加速度信号Peak値のモノフラクタル解析では,高齢者群の自己相似性が0.55~0.78と一定のリズムを刻み,Control群と差はみられなかった.

     一方,高齢者群のY方向の変動距離は2.6±0.9cmとKilleen(2017)の約3cmを示した数値とほぼ同様の結果であり,彼らの研究を支持する結果であった1).またControl 群の1.5±0.8cmよりも変動(左右頸椎のぶれ)が大きいことが示された(p<0.05).高齢者群のZ方向の変動距離は,Y方向と逆に,Z方向は1.4±0.5cmで,Control群の2.5±1.1cmより小さかった(p<0.05).

    (考察)

     対照群とControl群で歩行速度に差がないことから,Center of Gravityの安定性の低下がY方向の変動距離を大きくすることの否定される結果となった.しかし,高齢者の歩行速度を高めれば,Z方向の変動距離が大きくなり,転倒が生じる可能性あると考えられる.今回,前後方向(X方向)の計算をしてないが,歩行の不安定性の要因に「歩行速度」が考えられる.つまり,Y方向とZ方向の変動距離がX方向の推進力に関連することが考えられる.今後の課題として,KilleenのMinimum toe clearanceが快適歩行速度では年代別に関係なく,一定であることより,Locomotorの上のPassengerである頭部・体幹と転倒の関係を明らかにする必要があると考える.

    (倫理規定)

     本研究は,研究等倫理審査委員会の承認(2017-1) を得て実施した.

  • 東本 恭幸, 長谷川 卓志, 平尾 由美子, 岡田 亜紀子
    2019 年10 巻1 号 p. 1_114
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     わが国における医療費はすでに40兆円を凌駕し,病院中心の医療から地域完結型の“治し支える医療”へというパラダイムシフトによって,退院後も継続的な医療に依存する居宅患者が増加傾向にある.在宅医療での適切な栄養管理によって居宅患者の基礎的な体力を維持・増大させることはまさに“支える医療”の根幹にかかわるものと考えられる.訪問看護ステーションの利用者41万人余に対する看護内容の分析によれば,栄養・食事指導の割合は16.4%に達する1)ことから,本来管理栄養士が担うべき業務に訪問看護師が対応している現状がうかがえる.そこで本研究は,訪問看護師を対象とした調査から在宅医療における管理栄養士業務の潜在的ニーズを明らかにするとともに,実際に在宅医療に関わる管理栄養士への現状調査からどのような実務上の問題点があるかを抽出することを目的とした.

    (研究方法)

     調査1:平成29年5月31日時点で厚労省情報公開システムに登録された千葉県内の訪問看護事業所339施設の管理者(看護師)を対象として,郵送による質問紙調査を行った.質問内容は,①1か月に訪問する利用者の総数,②利用者の主な疾病・病態,③利用者からの食事・栄養に関する相談件数とその内容,④同相談に対する対応状況などである.

     調査2:在宅医療を担う異なる診療所に勤務する管理栄養士3名に半構成的面接調査を行った.調査内容は,①栄養食事指導の現状,②利用者の性差や年齢層,③利用保険,④利用者の主な疾病・病態,⑤実務上の問題点などである.

    (結果)

     調査1:83施設(24.5%)から回答が得られた.1か月あたりの利用者数は平均81人(10~800人),のべ訪問件数は平均463件(32~3,800件)であった.全施設が利用者からの食事栄養相談を受けたことがあると回答しており,週に2回以上相談を受ける施設が39施設(48.1%)と約半数を占めた.利用者からの相談にその場でいつも即答できると回答した施設は25施設(30.1%)であった.即答できない場合の対応方法としては,同僚看護師に相談41施設(49.4%),インターネットで調べる35施設(42.2%),医師に相談25施設(30.1%)であり,管理栄養士に相談すると答えたのは15施設(18.1%)に過ぎなかった.即答できなかった相談内容については33施設から回答が得られ,嚥下障害への食事指導(12施設)が最も多く,次いで糖尿病の食事指導,糖尿病と他疾患合併の者への食事指導,その他の特定の疾患・状態者への食事指導,食材・栄養に関する知識(それぞれ4施設)などであった.在宅医療における管理栄養士の必要性については,「まったくそう思う」32施設(39.0%),「まあそう思う」44施設(53.7%)と肯定的な回答が多い一方で,「あまりそう思わない」理由として栄養指導よりも利用者の生活を尊重したいとする意見などがみられた.

    調査2:3人の1か月あたりの訪問栄養食事指導ののべ件数はそれぞれ5~6件,20~30件,50件で,いずれも80歳以上の利用者が多く,2~3割が独居で,低栄養状態のがん末期,糖尿病,認知症の利用者が対象となっていた.保険についてはほぼ介護保険による居宅療養管理指導料を算定しており,他職種との連携体制を確立するとともに,個別に電話で応対するなど様々な工夫による支援をおこなっているものの,それらは診療報酬や介護報酬にはつながっていない現状が浮き彫りとなった.

    (考察)

     在宅医療のファーストラインに立つ訪問看護師が居宅患者から栄養・食事相談を受ける機会は多く,多様化する病態を背景とした個別性の高い専門的な栄養相談への返答に窮する場面もあることが本研究で明らかとなった.一方で管理栄養士が在宅医療に関わる上での困難さもあり,居宅患者の生活の尊重を大原則としつつもその栄養・食事管理の充実をはかるためには,管理栄養士が効率的に参画できるシステムの構築と普 及が必要であることが示唆された.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施した(申請受付番号:2017-020).なお開示すべき利益相反はない.

  • 麻賀 多美代, 麻生 智子, 鈴鹿 祐子, 山中 紗都
    2019 年10 巻1 号 p. 1_115
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     スケーラーの基本的把持法は筆記具の把持が基本と なる執筆状変法把持法である.

     先行の歯科衛生学科学生を対象とした研究結果から1),拇指が示指に被さり,握るような持ち方をしている学生が多く,拇指と示指の押圧の小さい学生は前腕回転運動と手指屈伸運動で,第1背側骨間筋(以下FDI)と短母指屈筋(以下FPB)の筋活動量が小さい傾向が認められた.また,正しい持ち方での書字動作のFDIとFPBの筋活動量は日常の持ち方より大きいことから,筆記具を正しく把持することは,拇指と示指を中心に手指の筋肉を強化するトレーニングとなると考えた.

     本研究は,筆記具の正しい把持動作のトレーニングがスケーラーの把持動作(以下,操作)に及ぼす影響について筋電図を用いて検討した.

    (研究方法)

     対象は,某大学歯科衛生学科の学生で研究協力の同意の得られた19名とした.

     被験者に対して筆記具を持っている状態の写真撮影を行い,得られた写真により持ち方を分類した.

     筋電図の測定には,EMGマスターKM-104(メディエリアサポート企業組合)を用い,FDIとFPBに電極を筋線維と平行に添付し,双極誘導にて導出した.

     測定の手順は,基準とする拇指と示指の押圧最大値を測定後,筆記具では日常の持ち方と正しい持ち方でマークシートの塗りつぶし動作(縦方向)を計測,スケーラー(太型・細型)は執筆状変法で把持し,前腕回転運動と手指屈伸運動時の計測を行った.

     筆記具の正しい把持によるトレーニングには正しい指の位置にくぼみがあるプニュグリップ(クツワ株式会社)を装着した筆記具を使用し,使用する期間は2ヵ月間で1日の使用時間は記録をさせた.トレーニング終了時には同様に筋電図測定を行った.得られた筋電図はデータ収録・解析システムML846 PowerLab 4/26(バイオリサーチセンター株式会社)を用い,実効値化(RMS)した.

     統計解析には,IBM SPSS 20.0J for Windowsを使用し,トレーニング前後の比較はWilcoxonの符号付順位検定,各測定値の相関についてはPearsonの相関係数を用いて解析した.

    (結果)

     グリップを装着した筆記具の1日の使用時間は最大4時間,最小30分であり,2ヵ月間の1人あたりの平均使用時間は42分であった.

     19名のうち,拇指が筆記具に正しく触れていない学生は12名(63.2%)であり,12名のRMSは,開始時の押圧最大値の平均がFDIは0.304mV±0.109,FPBは0.156mV±0.164であり,終了時は押圧最大値の平均がFDIは0.362mV±0.148,FPBは0.298mV±0.170であった.トレーニング後は,筆記具の日常と正しい把持動作時のFPBのRMSが有意に増加し,細型スケーラー操作時のFDIも有意に増加した.

     また,細型スケーラーの手指屈伸運動時のFPBの筋活動量が開始前の72.3%から2ヵ月後は51.5%に有意に低下し,太型スケーラーにおいても70.9%から 51.8%に有意に低下した.

     また,FRBでは正しい持ち方の把持動作とスケーラー操作(前腕回転運動)に相関がみられ(r=0.587),正しい持ち方の把持動作とスケーラー操作(手指屈伸運動)に強い相関がみられた(r=0.841).

    (考察)

     トレーニングにより,スケーラー操作で重要である拇指と示指を筆記具に正しく触れて動作を行ったことで,スケーラーを把持して操作するために必要な掌側の凹状,背側の凸状のアーチを保つ筋力の向上に繋がったことが示唆された.

     また,トレーニング前は,拇指と示指の指先で常に力を入れてスケーラーを把持し操作していたため,特にFPBの筋活動量が高かったが,日常的にグリップ付き筆記具を使用したことで,器具が安定する指の位置を理解し,把持や操作時に力を入れる,緩めるなどのメリハリができ,活動量の低下に繋がったことが示唆された.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理審査委員会の承認(2014-051)を得て実施した.

  • ─ 千葉市内地区別比較からみえるもの ─
    島田 美恵子, 岡村 太郎, 松尾 真輔, 雄賀 多聡, 竹内 弥彦, 岡田 亜紀子, 雨宮 有子, 麻賀 多美代, 大川 由一, 中島 一 ...
    2019 年10 巻1 号 p. 1_116
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     急速な高齢社会を迎えているわが国において,「可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続ける」地域包括ケアシステムの構築および自助・互助の住民参画活動が提唱されている.

     社会貢献は,研究・教育とともに,大学に求められる使命の一つである.本研究は,千葉市保健福祉局が養成した「シニアリーダー(介護予防運動推進ボランティア)」を対象とし,地域のニーズおよび本学の地域に対する支援の在り方を検討することを目的とした.

    (研究方法)

     平成29年12月現在,シニアリーダー登録者は503名である.シニアリーダーが主体となり運営する自主活動は市内133箇所,参加延べ人数は68,000名以上である.本研究はシニアリーダー503名に,村山ら1)の先行研究をもとに作成した自記式質問紙を郵送し,無記名での回収とした.調査実施期間は平成29年12月29日から平成30年1月20日とした.主な調査内容はシニアリーダーの性別,年齢,受講時期,居住地域等の基本属性に加え,現在参加しているシニアリーダーの活動状況,リーダー活動で感じていること,サポート環境,本学への要望などである.分析方法は,単純集計及びクロス集計で,居住地域と性別及び年齢,受講時期,シニアリーダーの活動状況などの関連については,カイ二乗検定を用いた.

    (結果)

     男性128名(平均年齢73.4 標準偏差4.8歳),女性190名(70.9±4.4歳),計318名の回答を得た(回収率63.2%).受講後活動に参加したことがないものは52名(16.7%)であり,回答者の活動状況は地区による差がみられた(P=0.016).回答者の78%が「活動にやりがいがある」「活動に楽しいと感じる」と答え,受講時期が早いものほど「やりがい」「楽しさ」を感じている者が多かった(P<0.05).「住民同士のつながりは強い」「地域の活動に参加している住民が多い」に「あまりそう思わない」「思わない」と答えたものに地区別の差はみられず,それぞれ49%,62%であった.「シニアリーダー活動が地域住民に知られていない・あまり知られていない」と答えたものは全体の70%であった.活動に対する自由記述,活動しない理由の自由記述においてのべ133件の回答があり,リーダーが指導する住民への対応やリーダー同志の関係の難しさ,地域施設のサポートを要望すると記載した内容が45件あり,自治会やあんしんケアセンターとの関わりを求めていた.フォローアップ講座開講への要望は設問・自由記述ともに高かった.

    (考察)

     本学の支援として「関係性を調整する役割」が推測された.ひとつは,先行研究と同様に本研究においても明らかになった,経験年数別にリーダーの活動意識に違いがあることへの考慮である1).リーダー養成講座のカリキュラム作成時に工夫が必要であることが示唆された.また,本学による出前講座などのサポートは,指導内容の確認や新たな知見の授受により,リーダーの役割意識を強化できる可能性がある2).地域施設とともに,リーダーの活躍の場を確保しフォローできる体制づくりの構築が望まれた

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の 承認(申請番号2017-036)を得て実施された.

  • 有川 真弓, 松尾 真輔
    2019 年10 巻1 号 p. 1_117
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     作業療法学生が初めて一人で病院等の施設へ行き,現場の作業療法士の指導を受けて対象者と関わる臨床実習(3年次通年科目評価実習Ⅰ・Ⅱ,以下評価実習)の前には,学生の不安が募る様子が見られる.評価実習前には検査測定に関する講義や学内での・実習,OSCEを意図した学内実技試験を設けているが,いずれも被験者は学生であり,障害のある対象者に直接関わることなく評価実習に出ている.これは付属病院を持たない本学専攻のカリキュラム上の限界であり,学生の不安増大の一因にもなっている

     県内のある就労移行支援事業所では,作業療法学生の検査測定,ADL評価の実習に障害者を評価モデルとして派遣する事業を行っている.このような外部機関を活用した学内実習教育を取り入れる他の作業療法養成校も増えており,新たな学内実習教育として期待されている.

     平成28年度の研究で,学生の緊張状態は実技実習の有無にかかわらず評価実習前に高くなること,評価実習を経験することで臨床実習適応能力が高くなったと感じることが分かった.

     本研究の目的は,本学作業療法学専攻において,学内検査測定実習の効果が障害者を対象とした場合と健常者を対象とした場合で異なるのか,健常者と障害者の両者の検査測定実習を受けることでどのような効果があるかを検証することを目的とした.

    (研究方法)

     対象は平成29年度作業療法学専攻3年生のうち,研 究協力の承諾が得られた学生である.Profile of Mood States 2nd Edition(POMS2),作業療法学生の臨床実習適応能力の自己評価尺度(臨床実習適応能力),評価測定に関する知識を問う設問(実技知識)を1)通常授業期間1(①通常1),2)健常者を対象とした学内検査測定実習後(②健常者実技実習後),3)評価実習の前に行った障害者を対象とした学内検査測定実習後(③障害者実技実習後),4)評価実習終了後(④評価実習後)の4回収集し,Wilcoxon順位和検定にて検討した.

    (結果)

     POMS2では,②健常者実技実習後と③障害者実技実習後の総合的気分状態の比較では,P=0.0375で③障害者実技実習後が有意に高値となった.③障害者実技実習後の平成28年度と29年度の比較では,P=0.0137で平成29年度の方が低かった.

     臨床実習適応能力は,②健常者実技実習後と③障害者実技実習後との比較で③障害者実技実習後がP=0.0002で,③障害者実技実習後と④評価実習後の比較で④評価実習後P=0.0066で有意に向上した.

     実技知識の正答率は②健常者実技実習後で14.6%,③障害者実技実習後で35.4%であった.②健常者実技実習後と③障害者実技実習後の正答率は,関節可動域測定問題(以下ROM問題)で,②健常者実技実習後は図式問題が8.3%,文章問題が25.0%の正答率に対し,③障害者実技実習後では図式問題が41.7%,文章問題が70.8%であった.

    (考察)

     学生は評価実習の前である③障害者実技実習後は緊張状態が高いながら,平成29年度の方が③障害者実技実習後の総合的気分状態は有意に低く,健常者実技実習と障害者実技実習の両方を経験することにより緊張状態が緩和されることが考えられた.

     臨床実習適応能力は,②健常者実技実習後よりも③障害者実技実習後が有意に向上し,健常者実技実習では習得できない能力が障害者実技実習で習得できたと学生が感じていることが分かった.

     実技知識では,②健常者実技実習後よりも③障害者実技実習後の正答率が高く,特に実技技能の基礎となるROM問題についての正答率は,筋力検査問題や感覚・反射検査問題と比較しても大きな変化が見られた.今回の研究では実技知識を問う設問として,過去の国家試験問題を使用したが,今後はOSCEを導入し,臨床実践場面に則した状況下で学生の評価を行い,学生の理解が確認できる手法を検討していく必要があるものと考えられた.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理審査委員 会の承認を得て実施した.

  • 大谷 拓哉, 三和 真人, 竹内 弥彦, 太田 恵
    2019 年10 巻1 号 p. 1_118
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     臥位から座位に姿勢を変換する起き上がり動作は,寝具からその外部空間へと移動する際に経由する動作である.この動作が阻害されることは寝たきり状態の誘因となる為,リハビリテーション分野ではこの動作の再獲得は重要なテーマとなっている.McCoyらは,若年健常者のベッド上臥位から立位に姿勢を変換する動作について,右上肢,左上肢,頸部・体幹,下肢の身体4部位の運動パターンを分類している1).McCoyらの研究では,臥位から座位を経由して立位になるまでの動作を対象としている.つまりこの動作の最終姿勢は立位である.ベッドから起き上がる際には,必ずしもすぐに立位になるケースばかりではなく,座位姿勢でいったんとどまるケースもある.この場合は動作の最終姿勢が座位となる.最終姿勢を立位姿勢として実施される起き上がり動作と,最終姿勢を座位姿勢として実施される起き上がり動作では,用いられる身体運動が異なる可能性がある.そこで本研究では,最終姿勢を座位姿勢としたベッドから起き上がり動作を対象とし,その動作パターンが,McCoyらが用いた分類(以下,McCoy分類)にて網羅的に分類可能かどうかを明らかにすることを目的とした.

    (研究方法)

     対象は若年健常者38名(男性15名,女性23名.平均年齢21.7±1.5歳)とした.被験者には研究の内容を十分に説明し,全被験者から同意書を得た.被験者にはベッド上仰臥位から普段行っている方法で起き上がってもらい,ベッド右側の端坐位姿勢を最終姿勢とした.動作回数は1回とし,動作速度は快適速度とした.4台のビデオカメラで撮影し,動画解析ソフトFrame-DIAS Ⅴ(DKH)を用いて動画の同期および解析を実施した.被験者全員の右上肢,左上肢,頸部・体幹,下肢の4部位の運動について,McCoy分類を用いて分類した.

    (結果)

     右上肢は“外転拳上+プッシュ”パターンが最も多く13例(34.2%)であり,“プッシュ”が9例(23.7%),“ベッド端把握”が6例(15.8%)であった.右上肢の10例(26.3%)はMcCoy分類にあてはまらなかった.左上肢は“プッシュ”パターンおよび“拳上+リーチ”パターンが最も多く14例(36.8%)であり,“拳上+プッシュ”が5例(13.2%),“ダブルプッシュ”が2例(5.3%)であった.1例はMcCoy分類にないものであった.頸部・体幹は“体幹回旋”パターンが最も多く16例(42.1%)であり,“前方屈曲”が9例(23.7%),“側臥位”が7例(18.4%),“骨盤先行”が5例(13.2%)であった.1例はMcCoy分類にないものであった.下肢は“左右非対称”パターンが最も多く22例(57.9%)であり,“対称”が7例(18.4%),“非対称(大腿平行)” が6例(15.8%),“非対称(膝伸展)”が2例(5.3%)であった.1例はMcCoy分類にないものであった.

    (考察)

     起き上がり動作時の身体運動については,すべての部位において複数の運動パターンが存在した.右上肢はベッド端をつかまずにベッドを押す方略をとるものが多いことが示唆された.左上肢はベッドを押すものが多いが,ベッド押さずにリーチするものも相当数いることが示唆された.頸部・体幹は体幹を回旋するものが最も多いが,体幹を回旋させず前方にまっすぐ起き上がるパターンや側臥位を経由するパターンもある程度存在することが示唆された.下肢は左右を別々に動かすものが大半を占めるが,一部は左右下肢を同時に動かすことも示唆された.

     それぞれの部位においてMcCoy分類にあてはまらない運動が認められた.特に右上肢については分類不可のものが多かった.右上肢で分類不可であった10例のうち9例は,右上肢でベッドを複数回プッシュする運動パターンであった.これを“ダブルプッシュ”パターンとして追加することで,右上肢の運動パターンをより網羅的に分類することが可能になると考えられる.

    (倫理規定)

     本研究は本学研究等倫理委員会の承認を受けて実施した(申請番号2017-15).

  • ─ 学生評価と教員評価の活用 ─
    酒巻 裕之, 大川 由一, 麻賀 多美代, 金子 潤, 荒川 真, 河野 舞, 鈴鹿 祐子, 山中 紗都
    2019 年10 巻1 号 p. 1_119
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     歯科衛生学科では併設されている歯科診療室において参加型臨床実習(CC)が行われている.歯科診療室の臨床実習では,個々の症例ごとの評価やフィードバックはなかったのが現状であった.CCにおける実践できるパフォーマンス・レベル(A)の評価には,「診療現場における学習者評価(WBA)」が利用される.WBAとして,Mini-Clinical encounter exerciseを参考に作成されたCC Snapshot評価が報告されている1).われわれは,歯科診療室において歯科衛生学科用CC Snapshot評価票を作成した.

     本研究では,歯科衛生学科用CC Snapshot評価の有用性について,平成29年度3年生を対象に,「歯科診療室総合実習」において,歯科衛生学科用CC Snapshot評価を活用して学生が担当した症例ごとに学生の自己評価,教員評価ならびにフィードバックを行い,「臨床実習開始から終了までの学生の到達度の変化」や,「学生の自己評価と教員評価の関連性」に関する情報を得,加えて臨床実習終了後に学生に対してCC Snapshot評価に関する質問紙調査を実施して検討した.

    (研究方法)

    ⅰ) CC Snapshot評価票に関する検討

     平成29年度歯科衛生学科3年生19名のうち,研究協力の同意を得られた者のCC Snapshot評価票の評価結果ならびに質問紙調査結果を研究対象とした.調査期間は平成29年11月~平成30年2月であった.症例を担当した学生は,CC Snapshotにて自己評価を行い,次いで教員からCC Snapshotによる評価とフィードバックを受けた.CC Snapshot評価票は,複写式の評価票で,学生用と本研究集計用とに分けた.集計用の評価票は,学生番号と氏名が複写されず,対照表のない匿名化を行った.5段階評価をスコア化し,検討した2)

    ⅱ) 質問紙調査

     「診療室総合実習」終了時にCC Snapshot評価に関する質問紙調査を実施し,学生の評価から今後のCC Snapshot評価票の活用法について検討した.

    統計処理は,JMP®pro 13.2.1を用いて分散分析を行い,危険率 p<0.05として検討した.

    (結果)

     平成29年度歯科衛生学科3年生19名(100%)ら研究協力の同意を得られた.CC Snapshot評価票に関して,症例数は569症例で,集計・検討できたのは498症例であった.全体で,学生の自己評価は平均2.89076±0.00991,教員の評価平均は2.94831±0.00991で分散分析にて有意差を認めた(p<0.0001).診療内容別では歯周処置において,学生の自己評価(2.88736±0.01901)と教員評価(2.96803±0.01901)間に有意差を認めた(p=0.0030).実習が進むと自己評価ならびに教員の評価に上昇傾向が認められた.

     質問紙調査では,CC Snapshot評価票を用いた教員の評価やフィードバック,自己評価による振り返りは役に立つ結果が得られた.一方,歯科治療後に教員の評価を受けることが困難であったと指摘されていた.

    (考察)

     CC Snapshot評価票を用いることにより,一症例ごとに自己評価,教員評価,フィードバックを行うことができ,学生は次の症例に向けて具体的な目標を立てやすくなっていた.

     歯科治療後のフィーダバックが円滑に行えるようにすることが課題となった.

     以上の結果から,CC Snapshot評価票は活用方法によって,形成的評価に活用できると考えられた.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認(2017-030)を得て行われた.

  • ─ 熟達度診断およびプレイスメントテストとしてのパイロットスタディ
    神田 みなみ, 植田 麻実
    2019 年10 巻1 号 p. 1_120
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     大学の英語教育カリキュラムにおいて,客観的指標を用いて学習目標を設定し,全学レベルあるいは学科,クラスの単位で成果測定を行うことが求められている.本研究では,客観的英語テストVELC Testを用いて,本学学生を対象とした習熟度診断およびプレイスメントテストとしての有効性を検証することを目的とする.

     英語VELC Testは日本人大学生を対象として開発されたテストである(Kumazawa et al., 2015).比較的廉価(受験料864円)で,スコア結果は翌日にeポートフォリオにより受験生ごとに得られる.リスニング(語彙・音声解析・内容把握)とリーディング(語彙・文法と,構文・内容把握)の得点の他に,TOEIC予測スコア,状況別Can Doレベル診断(言語運用能力評価CEFR準拠),そしてスキル別正答率と学習アドバイスが含まれ,学生の英語学習の指標と共に今後の学習の励みとすることが期待されている.本研究では,英語VELC Test振り返りのアンケートも実施した.ただし,アンケートの分析については今後に残している.

    (研究方法)

    1.研究対象者

     2017年前期および後期の研究代表者・分担者の担当する英語科目を履修した1年生・2年生.前期は1年生124名(内,男子学生14名),2年生26名(内,男子学生0名),後期は1年生20名(内,男子学生0名),2年生78名(内,男子学生3名)の合計248名であった.

    2.研究方法

     前期科目あるいは後期科目の最初の授業時にVELC Test(リスニング 約25分,リーディング 約45分)を実施した.さらに,VELC Testの難易度や結果の活用度などについて,4段階のLikert尺度によるアンケートを実施した.VELC Test受験者には研究調査の趣旨を口頭および文書で説明し,文書により同意書・不同意書を回収した.テスト結果提供に同意しなかった2名,アンケート回答提供に同意しなかった3名を除外して分析を行った.

    (結果)

    1.テストの信頼性

     対象者246名の総合点の範囲は350点から648円(M =501.95, SD =50.81), リスニングは340点から710点(M =505.72, SD =57.70),リーディングは346点から637点(M =493.95, SD =57.85)であった.テストのリスニング点とリーディング点の内部一貫法による信頼性を示すクロンバックα係数は0.803であり,充分に高い数値を得られた.

    2.テストの難易度

     本学学生を対象として英語VELC Testを熟達度診断およびプレイスメントテストとして用いるためには,点数が幅広く分布し,適当な難易度である必要がある.そのためにシャピロ・ウィルク検定を用いて正規性分布であるか検証し,一部の学生に難しすぎたり(床面効果),易しすぎたり(天井効果)しないかを調べた.その結果,総合点はシャピロ・ウィルク検定(p>.05) により正規分布しており,歪度は0.031(SE =0.155),尖度0.416(SE =0.309)であった.同様にリーディング点も正規分布しており,歪度は0.017(SE=0.155),尖度-0.206(SE =0.309)であった.ただし,リスニング点は正規分布しておらず,歪度は0.317(SE =0.155),尖度1.275(SE =0.309)であった.

    (考察)

     以上の結果から,VELC Testは本学の学生を対象とした習熟度診断およびプレイスメントテストとして適切であることが示された.ただし,リスニングテスト単独では習熟度別クラス分けに使用するには注意が必要である.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学倫理等審査委員会の承認(承認番号2017-007)を得て実施した.

  • :健常人におけるミラーセラピーの基礎研究
    高杉 潤, 武田 湖太郞, 杉山 聡, 加藤 將暉, 大塚 裕之, 松澤 大輔
    2019 年10 巻1 号 p. 1_121
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     鏡による錯視を利用した治療“ミラーセラピー(MT)”は,切断患者の幻肢痛に対する除痛効果の報告から始まった(Ramachandran et al., 1995).その後,難治性疼痛(複合性局所疼痛症候群)(Moseley, 2004)や脳卒中後の運動麻痺(Sutbeyaz et al., 2007; Yavuzer et al., 2008)に対してもMTの有効性が報告されている.

     MTの効果の神経生理学的根拠としては,鏡に投影された身体の運動観察によって起こる運動錯覚によって,その運動に関連する脳の領域(一次運動野を含む皮質脊髄路)が,活性化することが示されている(Shinoura et al., 2008).

     大塚ら(2014)は,運動肢の鏡像の観察中に,鏡の背後にあるもう一方の手の運動が即時的に誘発された脳卒中片麻痺例を報告している.この報告は,鏡像の運動と同様の動きが麻痺側上肢に見られたとしているが,実際に同期しているのか,定量的には示されていない.

     本研究は健常者を対象とし,鏡像の手指運動の観察によって,鏡の背後の手指に運動が誘発されるのか,その有無や割合,同期性を明らかにすることを目的とした.

    (研究方法)

     【対象】健常成人70名(20歳代,男女各35名)を対象とした.

     【課題と手続き】被験者は安静座位をとり,机上の鏡の箱(ミラーボックス)に両前腕を回内位にて挿入した.鏡に映った手と鏡背後の手の位置が重なるように投影させた後,鏡に映す側の手(運動肢)の示指を屈伸運動(自動および他動)させ,その鏡像を観察した.課題中,動かさないように指示された鏡背後の示指に運動が誘発されるか,検査者は筋電計,加速度計,目視により確認した.検査は,左右手,自動および他動運動の全てを実施し,順番はランダム化した.

     【計測の機器と方法】左右の示指(基節骨部)に3軸加速度計と示指伸筋にワイヤレス筋電計(OE-WES1222,OE-WES1224,追坂電子機器社)を貼付した.サンプリング周波数は1kHzとした.

     【解析方法】加速度は,合成加速度を算出し,フィルタ処理(カットオフ周波数 1-8Hz)を行い,100msの時間幅で積分した.左右示指の合成加速度の時間変化で相互相関関数を算出し,左右示指の運動の同期性を評価した.筋電図は,フィルタ処理(カットオフ周波数 5-250Hz)を行った後,全波整流し,200msの時間幅で積分した.筋電図の有意水準は開始から5-10秒の5秒間の平均+5SDとし,これを越えた場合,筋活動ありとした.

    (結果)

     全被験者70名のうち2名(男女各1名;2.9%)に,左・右手の他動・自動運動ともに鏡背後の示指の運動の誘発が,筋電図,加速度,目視により確認された.誘発されたその運動は,運動肢よりも動きが小さく,概ね80ms以内の範囲で遅延していた.他の68名は,いずれの課題でも鏡背後の示指には運動は誘発されなかった.加速度計にも筋電計にも変化はみられなかった.

    (考察)

     鏡像の運動肢の観察によって,鏡背後の手指に運動が誘発される現象は,健常人において約3%という,極少数の割合で存在することが示された.また,その誘発される運動の特性は,可動範囲は小さく,運動肢に対して80ms以内の範囲で遅延していた.

     鏡像肢の触刺激の観察で生じる体性感覚(referred sensation)は,健常人でも強く誘発される者や全くされない者が存在し,個人因子の影響が示唆されている(Takasugi et al., 2011).運動誘発については,本結果からも,誘発する者と全く誘発しない者が存在することから,個人因子の影響が推察される.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の倫理審査承認後,実施した(承認番号2017-10).

  • :通所・入所・訪問サービス提供者の認識と行動の実態調査
    杉本 知子, 成玉 恵, 佐伯 恭子, 上野 佳代, 鳥田 美紀代, 高栁 千賀子
    2019 年10 巻1 号 p. 1_122
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     ノロウイルスの感染様式は多彩で,経口感染,接触感染,飛沫感染によりウイルスが伝播する.また,ノロウイルスは感染力が極めて強く,しばしば集団感染を引き起こす.近年では,訪問看護師が訪問先で感染したと考えられる事例1)などが報告されている.矢野ら2)は,在宅療養生活を営む要介護高齢者等のノロウイルス感染の大半は,糞便や吐物の処理が不適切であったためにヒトからヒトへとウイルスが伝播したことが原因であろうと推測している.このことを踏まえると,療養者の居宅に赴きサービスを提供する訪問看護師には,ノロウイルス感染の媒介者となるリスクが常に付随していると言える.加えて,療養者の居宅という環境下で感染予防に取り組まなければならない特殊性もあることから,訪問看護師には感染予防に関する高度なスキルの獲得が求められていると考えられる.しかし,訪問看護師を対象としたノロウイルス感染の予防に関する調査自体がほとんど行われておらず,知見の蓄積は不十分な状況にある.そのため,まずは訪問看護師がノロウイルス感染の予防のために実践しているケアの現状を明らかにすることを目的とした実態調査に着手することにした.

    (研究方法)

    関東地方に所在する訪問看護ステーションに勤務中の訪問看護師4名を対象とし,2017年3~6月に半構成的面接調査を実施した.調査では,「在宅療養を営む高齢者のノロウイルス感染の予防のために実践しているケアの現状」を尋ねた.面接内容は調査対象者の許可を得て録音し,その内容の全てを逐語記録にした.その上で,訪問看護師が実践しているケアの内容や,実践しているケアに対する見解を述べた部分を抽出し,それぞれについて帰納的に分類をしてカテゴリーを生成した.

    (結果と考察)

    1.調査対象者の概要:

     対象者は全員女性であり,年齢は50歳代が3名,30歳代が1名であった.職位は管理職が3名,スタッフが1名であり,訪問看護師としての経験年数は15年以上が2名,5年以上10年未満が1名,1年以上3年未満が1名であった.

    2.感染予防のために実践しているケア:

     面接データを分析した結果は,以下のとおりである.なお,抽出されたカテゴリーは【 】で記した.

     訪問看護師は,サービスの提供に際し,【効果的なタイミングで手を洗う】ことを徹底して行っていた.また,【汚物に触れることを想定し必要物品を持ち歩(く)】いたり,【流水による手洗いができなくても手指の衛生を保つ】ように努めていた.そして,【療養者と家族が遂行可能な感染予防のための行動レベルを見極め(る)】ながら【住まいや暮らしの状況にあわせた感染予防方法を提案(する)】したり,【調理や汚物処理の方法を具体的に説明(する)】していた.

    3.実践しているケアに対する見解:

     訪問看護師は,【共用する物品や自分自身が感染の原因になる】ことを実感すると共に,【経験不足であっても単独で訪問している現状に不安を感じ(る)】ていた.さらに,【感染予防をすすめる時にもコスト面を意識せざるを得ない】状況にも直面していた.これらは,滞在時間や訪問回数に制限ある中で単独で療養者の居宅に赴き,各療養者宅の環境や事情に合わせて看護サービスを提供する訪問看護師に特徴的な点であると考えられた.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て実施した.

  • (大学・4年制専門学校の卒業年次生意識調査)
    松尾 真輔, 太田 恵
    2019 年10 巻1 号 p. 1_123
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     近年、理学療法士(以下PT)・作業療法士(以下OT)の教育現場において、セラピストとしての将来像が明確でない学生が多いように感じ、学内では問題とならない学生が臨床実習を契機に顕在化し、セラピストになるための障害要素となることが見受けられる.今回、平成26年度入学時に意識調査を実施した4年制養成校のPT学生とOT学生を対象とし、卒後の進路と専門職になるために必要な行動目標についてどのように考えているかを明らかにするため、学生への進路希望調査と行動目標に対する意識調査を卒業年次となる平成29年度に実施した.

    (研究方法)

     平成29年度におけるPT・OT4年制養成校の臨床実習をすべて終了した卒業年次生を対象とした.協力養成校と対象学生の概略としては、大学3校、専門学校4校計7校321名(大学生209名・専門学校生112名)であった.尚、研究を遂行するに先立って、本学倫理委員会の承認を受け、事前に各養成校教員および対象学生の同意を得た.対象学生へのアンケート調査を行った(無記名自記式質問紙票を使用).調査内容としては、現在希望している卒後の進路に加え、卒後の就職PTまたはOTになるために必要と考えることを優先順位が高い順に自由記載で回答させた.優先順位が最も高い行動目標について、Benjamin Samuel Bloomによる教育目標の分類に従い、認知的目標(知識と思考)・情意的目標(感情と態度)・精神運動的目標(物理的動作)に分類し、百分率にて算出した.

    (結果)

     回答があったPT・OT4年制養成校の321名中、有効回答数315名であった.進路希望の回答結果では、就職希望310名、進学5名であり、就職希望者全体で病院が88.6%となり、医療機関への就職希望者が多かった.必要とされる行動目標の回答結果では、大学、専門学校全体の回答では、認知的目標49.0%、情意的目標24.6%、精神運動的目標26.4%となった.また大学と専門学校別の結果として、大学生の回答では認知的目標51.2%、情意的目標23.2%、精神運動的目標25.6%であり、専門学校生の回答では、認知的目標45.1%、情意的目標27.0%、精神運動的目標27.9%という結果であった.

    (考察)

     大学生には進路希望者がいたが、専門学校生では回答者全員が就職希望者であった.これは大学生の方が学生生活において大学院進学などの情報を得やすい環境であり、選択肢の一つとして考えやすいことが推測された.必要な行動目標の回答結果からは、大学生、専門学校生ともに重要視する行動目標としては、「医学知識」を中心とした認知的目標となり、大学生では、半数を超える回答結果であった.さらに大学生と専門学校生の行動目標の比較では、認知的目標で大学生の方が高い結果となり、情意的目標と精神運動的目標は専門学校生が高い結果となった.しかしながら全体の回答結果において大学、専門学校とも学生が必要と考える各行動目標においては大きな差がなく、情意目標に対する意識が低い傾向にあることが分かった.今回のアンケート調査は卒業年次の学生であり、臨床実習を含めた全てのカリキュラムにおいて、おおよそ単位取得されている学生が対象となった.このため学生自身が課題をクリアしてきたことが想像されたが、今後の調査では、各課題において壁を乗り越えにくい学生の特徴を知ることも大切となることが考えられる.

     卒業年次生は翌年度から臨床現場に赴き、対象者に医療従事者として関わっていくこととなり、各領域の臨床場面において各行動目標が状況に応じて求められる.本校でもこれまで実施してきた調査も踏まえ、今後は学生が問題となる要素に焦点を当て、適切な学生指導につなげていくことが専門職教育として重要であると考えた.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学倫理審査委員会の 承認(申請番号No2014-001)を得て実施した.

平成29年度学長裁量研究抄録
  • ─ 千葉県における在宅看護に関わる団体の調査から ─
    成 玉恵
    2019 年10 巻1 号 p. 1_124
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     千葉県は,高齢者人口の増加率が全国で2番目に高く急激な高齢化が課題となっている.しかし,県内の医療・介護施設数および訪問看護ステーション数は全国平均を下回り,在宅療養者への対応は深刻化している.これまで,在宅看護全体の供給量と種類の充実をはかることを狙いに,在宅看護に関するNPO団体を探索・調査してきた1).その結果,二次資料から8団体の存在が明らかになったが,これらの団体の実態把握には及ばず,在宅看護の提供や看護資源としての可能性については不明であった.以上から,本研究では千葉県内の在宅看護に関するNPO団体の活動内容を明らかにし,地域包括ケアシステム構築に向けた示唆を得ることを目的とする.

    (研究方法)

    研究参加者:先行研究1)で抽出された8つのNPO団体のうち,研究の同意を得た2団体の看護職2名.

    調査方法:半構成的面接調査を行った.

    調査内容:在宅看護活動の現状,活動人数や職種,看護活動の実施で得られる効果と看護活動の継続で社会に貢献したいこと等であった.

    分析方法:団体の活動を可視化するためロジックモデル2)を分析枠組みとした.面接内容は録音,逐語録にし,ロジックモデルの構成要素に関する記述を抽出,演繹的にモデル表を作成した.「アウトカム」に関する記述は帰納的に分類しカテゴリー化した.カテゴリーは意味内容を変えず「アウトカム」の定義に沿って表現した.「インパクト」は「アウトカム」を抽象化し概念的に表現した.

    (結果)

    研究参加者の属性:団体Aは看護師,年齢50歳代,女性,団体理事,訪問看護ステーション所長兼務であった.団体Bは保健師,年齢70歳代,女性,団体理事,多機能型事業所長兼務であった.

    所属団体の概要:A,B共に県内で在宅精神療養者を地域で支援するNPO法人であった.団体Aは職員数16名,年間収益は約8千万円,主な活動はACTプログラムによる精神科訪問看護,精神相談支援事業等であった.団体Bは職員数65名,年間収益は約1億7千万円,活動は多機能型事業(B型福祉事業,グループホーム,訪問看護等)であった.

    ロジックモデル表:「資源」は職員数,職種,活動予算,「活動」は事業,活動内容,「アウトプット」は,年間実績数をそれぞれ記載した.「アウトカム」は団体Aが【障害者が希望を持つ】【障害者が自分の病気に自分の意志で取り組む力をつける】等4つが抽出され,団体Bが【精神障害者が住み慣れた地域や家庭で安心して暮らせる】【精神障害者が自分らしく生きる】等3つが抽出された.「インパクト」は団体Aが【障害者が希望を持ってリカバリーのプロセスを歩む】【リカバリーの大切さを周囲に伝え実現する】等4つが抽出され,団体Bは【市民・専門家・当事者が共に活動して,障害者の自立した地域生活と社会参加を支援する】等2つが抽出された.

    (考察)

     ロジックモデルの作成により2団体の活動内容が明らかになった.特に「アウトカム」は活動の実践内容を概念化することで,在宅看護活動の成果が可視化でき,「インパクト」は2団体共通して,障害者の地域での自立や地域生活,社会参加というキーワードが見られ,地域に貢献していることが明らかになった.以上から,地域の在宅看護活動は地域包括ケアシステムの構築において,看護資源として重要な役割を担うことが示唆された.今回の調査から結果を一般化することは難しいが,今後は多様な看護活動を追いながら,活動内容の評価や構造化を行う予定である.なお本研究の一部は日本地域看護学会第21回学術集会で発表した.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会 の承認を得て実施した(承認番号2018-08).

  • 荒井 裕介, 海老原 泰代, 岡田 亜紀子, 小山 達也, 石川 みどり, 横山 徹爾, 由田 克士
    2019 年10 巻1 号 p. 1_125
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     本研究は,2015年千葉県県民健康・栄養調査の1日間栄養素摂取量データから県民の習慣的摂取量分布の推定を試みることを目的とした.また食事摂取基準を活用し,1日間及び習慣的摂取量分布から過不足者の割合を算出して比較した.

     県民調査は厚生労働省が毎年実施する国民健康・栄養調査の対象者にあわせて,千葉県が独自に抽出した対象者に同様の調査を行い,国と県の調査分をあわせて集計を行っている.2016年度の学内共同研究では,県実施分のデータのみで習慣的摂取量の分布推定を行ったが,今年度は国民健康・栄養調査分のデータを統計法に基づく申請により厚生労働省から提供を受けて,国と県をあわせたデータを用いて推定を行った.

    (研究方法)

     昨年度得た非連続2日間の栄養素摂取量から国立保健医療科学院から提供されているソフトウェア「習慣的摂取量の分布推定(HabitDist ver.1.2)」を使って分布を正規化するための「最良べき数」と個人内変動を調整するための「個人内/個人間分散比」を性別・栄養素別に算出した.この2指標を活用して上記ソフトウェアでBest-Power法により,国民健康・栄養調査分をあわせた平成27年県民調査データ(30-69歳)から習慣的な摂取量の分布を性別に22栄養素について推定した.1日間摂取量及び推定した習慣的摂取量の分布より,不足者の割合は推定平均必要量未満摂取する者,過剰摂取者の割合は耐容上限量以上摂取する者として算出した.同様に目標量に達していない者の割合は,目標量(下限値)未満または(上限値)以上摂取する者の割合を算出した.

    (結果)

     性・年齢階級別の1日間に対する習慣的摂取量の標準偏差比をみると,いずれも1以上となっており,1日間摂取量の分布は習慣的摂取量の分布に比べて,分布幅が広かった.

     推定平均必要量未満の不足者の割合は,1日間摂取量分布は習慣的摂取量分布と比べて,多くの栄養素で過小または過大評価する傾向にあった.

     耐容上限量以上の過剰摂取者は,ビタミンAで1日間摂取量に男性で2名,女性で3名に見られたが,習慣的摂取量ではおらず,過大評価傾向にあった.葉酸では1日間摂取量で30-49歳男性1名が耐容上限量以上の過剰摂取者が見られ,習慣的摂取量においても同じく1名(0.9%)が見られた.

     目標量未満もしくは以上の者の状況は,1日間摂取量と習慣的摂取量を比較すると,習慣的摂取量に割合が高く,1日間摂取量で過小評価傾向にあった.

     食塩相当量,カリウム,食物繊維総量は目標量に達していない割合が高く,年齢階級別にみると男女とも30-49歳の方に高い傾向にあった.エネルギー比率は,いずれも1日間摂取量で過大評価傾向にあった.炭水化物下限値未満者は1日間摂取量と習慣的摂取量でその差が大きい傾向にあった.

    (考察)

     本研究で得られた個人内/個人間分散比は,先行研究と比べて栄養素により大きい場合や,小さい場合もあり,一致はしなかった.これは地域により食べ方が異なることにより,個人内/個人間分散比も異なる傾向にあることが示唆された.習慣的摂取量分布を推定して地域住民の栄養状態を適切に評価するためには,対象とする集団にあわせて個人内/個人間分散比を求める必要があると考えられた.

     1日間摂取量と習慣的摂取量の標準偏差比をみると,いずれも1以上となっており,1日間摂取量の分布幅は広く,日間変動が大きいことが示された.1日間摂取量と推定した習慣的摂取量分布からの過不足者の割合を比較すると,1日間摂取量では多くの栄養素で過小または過大評価する傾向にあった.食事摂取基準を活用した県民の栄養素摂取状態の評価を行う際には,複数日の食事調査を行い,習慣的摂取量の分布を推定する必要があることが示唆された.また食事摂取基準の指標を用いて過不足者の割合を示すことは,県民のハイリスク者を量的に示すことができ,栄養施策の重点項目の検討等の参考になると考える.千葉県の県民調査においても,非連続2日間の食事調査を導入し,習慣的摂取量の分布推定から,食事摂取基準を活用した評価が行われ,県民の栄養改善事業の推進にあたり,科学的根拠として活用できる基礎資料を得ることが望まれる.

    (倫理規定)

     研究実施にあたり研究等倫理委員会の承認(承認 日:平成28年6月20日,番号:2016-06)を得た.

  • 渡邊 智子, 東本 恭幸, 細山田 康恵, 海老原 泰代, 阿曽 菜美, 岡田 亜紀子, 梶谷 節子, 小川 真, 島田 美恵子, 麻生 智 ...
    2019 年10 巻1 号 p. 1_126
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     千葉県の健康課題の1つは高齢化率の上昇である.それに伴う元気な高齢者のための施策として健康づくりプログラムがあるが,内容に相違があり確定したものはない.また,その実施には,学生等の地域のボランティアの活動が期待されている.

     本学学生サークル食育応援隊は,科学的根拠に基づく食育を本学学生および千葉市周辺地域で実施し,一定の評価を得ているが高齢者を対象に活動を行ったことはない.しかし,本学での学びにより高齢者への健康づくり活動の重要性を理解している.

     そこで,本研究は千葉県内の高齢者を対象に「学科を超えて行う健康づくりモデルプログラム(以下,ほい大健康プログラム)」を作成し,学生と共に実施し,高齢者の健康づくりの課題を探索し,「ほい大健康プログラム」を確定するための指標とすることを目的とする.また,これまでと同様に本学学生への「ほい大ごはんカフェ(本学学生のための食事を喫食して学ぶ食育プログラム)を実施し,本学学生の課題を明らかにすることを目的とする.

    (研究方法)

    1.ほい大健康プログラム

     「ほい大健康プログラム(栄養分野,歯科衛生分野,理学分野,運動分野)」を作成し,千葉市内の8つのUR団地(花見川(11/11午前と午後),千草台(12/16午前),あやめ台(12/16午後),高洲第1(2/17午前),高洲第2(2/17午後),花見川(3/6午前と午後)で開催した.各プログラムは教員が実施し,学生が補助を行った.

     基本属性(生年月日,性別,服薬状況,既往歴),身体所見(身長,体重,BMI,血圧,握力,酸素飽和度),食習慣調査(卵の大きさで数える食事チェックシート大人用:以下,FFQ),歯や口に関するアンケート,塩味測定および本プログラムに対するアンケートを行った.FFQは当日(第1回)に実施しこれを現状の食習慣とし,その結果票および食事アドバイス票を1~2か月後に個別に返送する時に新しい食事調査票と返信用封筒を同封し,返送されたFFQ(第2回)を指導後の状況とした.なお,学生ボランテァは教員が募集した.

    2.ほい大ごはんカフェ食育プログラム

     学生ホールで年5回(5/19,6/23,7/21,11/20,12/14)開催し,アンケートによりその評価をした.さらに,大学祭では地域の方を対象に実施した.

    (結果)

    1.ほい大健康プログラム

     参加者数(参加者,教員,学生)は,それぞれ花見川(午前11,10,8,午後11,9,8),千草台(32,11,11),あやめ台(25,11,11),高洲第1(25,13,10),高洲第2(9,13,10),花見川(午前23,11,13,午後 16,11,12),合計は参加者152名,教員(延べ)89名,学生(延べ)83名であった.FFQの回収率は92%,基本属性への質問への回収率は95%であった.これらのデータが回収できたもののみを解析対象とした.男性は女性に比べ,プログラムへの参加率が低く,主食中心の食生活の傾向であり,女性は,健康づくりや食生活への関心が高く,脂質の摂取割合が高かった.FFQに2回参加している者は,良い食習慣を持っていることが分かった.プログラム参加者の本プログラムに対する評価は高かった.

    2.ほい大ごはんカフェ食育プログラム

     学生対象での参加者は,各回23~40名,大学祭での地域の方の参加は77名であった.アンケートでは,全カフェともに90%の参加者が,このカフェに満足し,リーフレットおよびプロジェクターがわかりやすいと回答した.さらに,大学祭では地域の方を対象に実施した.

    (考察)

    1.ほい大健康プログラム

     教員,URスタッフ,学生の連携は回を重ねるごとに強化されプログラムも改良された.学生は地域の高齢者の健康づくりのための専門職の活動に参加することで,専門職の活動の実際を実践的に学ぶことができた.アンケート結果をさらに解析・検討する予定である.

    2.ほい大ごはんカフェ食育プログラム

     参加者募集が昨年度よりも容易になり,千葉県の農林水産部からエコ農産物の提供,千葉市健康支援課・千葉市食生活改善推進員が大学祭への参加(野菜クイズブース)など地域や他職種連携ができた.

    (倫理規定)

     千葉県立保健大学倫理審査委員会で平成29年10月10 日に承認されている(2017-026).

  • 豊島 裕子, 世木 秀明, 南沢 亨
    2019 年10 巻1 号 p. 1_127
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     加齢に伴い各種生理機能は低下し,このことが高齢者の疾病リスクを高め,QOLを低下させる.健康寿命伸延のためには適切なアセスメント法で生理機能を評価し,過不足のない支援を行う事が重要と考える.高齢者生理機能のアセスメント法に関し比較検討したので報告する.

    (研究方法)

     対象:前期高齢者10名,後期高齢者10名,若年健常 対照群10名を対象とした.

     測定方法:①事象関連電位P300;国際10-20電極法 のFz,Cz,Pzを関電極とし聴覚odd-ball課題を用い,Neuropack μで事象関連電位P300を記録し,そのピーク電位とピーク潜時を測定した.②嚥下時の表面筋電図の記録;オトガイ舌骨筋上に表面電極を貼付し,液体飲料・ゼリー状飲料嚥下時の表面筋電図をNeuropack μを用いて記録し,移動平均法でスムージングして得られた波形のピーク電位とピーク潜時を測定した.③ホルター心電計(FM-160,フクダ電子)で記録した心電図のRR間隔を2分ごとに周波数解析し,そのスペクトログラムから交感神経機能(LF/HF),副交感神経機能(HF)の日内変動を求めた. ④アクチグラフによる睡眠評価;腕時計型高感度3次元加速度計を用い,睡眠中の体動をZCM法で測定し,Coleの式を用い睡眠評価を行った.⑤血中指標による栄養状態の評価;アルブミン,プレアルブミン,レチノール結合蛋白,HDL・LDLコレステロールを測定した

     これらの測定値の関連を,SAS Ver9.4を用い,統計 学的に検討した.

    (結果)

     ①事象関連電位P300;潜時は若年者に対し高齢者で有意に延長していた(Fz;345.3±25.0msec,403.9±86.1,p=0.02,Cz;341.1±21.4,403.0±87.6,p=0.02,Pz;340.8±19.0,409.0±82.6,p=0.01)(ttest).Pzにおける潜時=-6.8793×プレアルブミン+585.72と,プレアルブミンが減少するとP300潜時が延長する傾向を認めた(p=0.137)(回帰分析).②嚥下筋電図;ピーク潜時は液体,ゼリー共に若年者に比して高齢者で有意に延長していた(液体;若年1.2±0.4sec,高齢6.1±3.0,p=0.0001ゼリー;1.3±0.4,5.6±3.6,p=0.0006)(t-test).ゼリー飲料嚥下時の振幅は高齢者で有意に低かった(若年149.5±5.5μV,高齢46.6±57.5,p=0.001)(t-test).③自律神経機能の概日リズム;若年者の副交感神経機能(HF)には21:00頃から亢進し4:00頃にピークを迎え,6:00には低値に戻る有意な概日リズムを認めた(二元配置分散分析p=0.001).しかし,前期高齢者・後期高齢者ではこのような概日リズムは消失していた(二元配置分散分析p=0.001).④睡眠評価;高齢者と若年者の間に睡眠時間,中途覚醒回数の有意差は認めなかった(325.9±92.1min,350.2±95.5,NS,12.5±6.6回,12.0±9.2,NS).睡眠潜時と中途覚醒時間は高齢者で有意に延長していた(若年4.4±3.9min, 高齢13.2±9.7,p=0.023,12.5±6.6,45.9±19.9,p=0.05)(t-test).

    (考察)

    ①認知機能の指標P300潜時は高齢者で有意に延長し,栄養状態が低下するほど延長する傾向を認めた.これより高齢者の栄養状態は,その認知機能に何らかの影響を与えることが示唆された.②高齢者は若年者に比して同一のものを嚥下するのに要する時間が有意に長かったことから,嚥下機能の低下と,誤嚥リスク増加を疑わせる所見であった.また,高齢者においてゼリー飲料は嚥下時の筋力が少なくて足りることがわかり,これまで高齢者が誤嚥しにくい飲料形態としてゼリーが推奨されてきたことに一致する結果であった.③若年者に認められる,夜間に亢進する副交感神経機能の概日リズムが高齢者で消失していたことから,高齢者の夜間の身体修復機能・消化吸収機能などの低下が示唆された.これより高齢者の夕食は,消化・吸収されやすい食形態で与えることが重要と考えられた.④アクチグラフ結果より高齢者では入眠潜時が延長し,このため夜間覚醒したら再度眠りにつくまでに時間を要し,これが睡眠満足感を減らし,睡眠の質を低下させる原因と考えた.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の 承認を得て行った(2017-3).

  • 井上 裕光, 神田 みなみ, 植田 麻美
    2019 年10 巻1 号 p. 1_128
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     大学ホームページ(以下HPと略す)は大学の顔であり,従来からも英語圏向けの英文による本学紹介は行われてきた.しかし,これまでは日本語原稿の直訳をそのまま載せているようなものであり,英語圏HPの大学紹介とはかけ離れたものだった.

     本研究の目的は,大学情報発信の一環として,英語圏への情報発信を整備することにあった.そのために,単なる外注や英語教員による下訳+英文校正という方法ではなく,大学としての基本情報の英語での発信を行い続ける方法を開発し,その発信情報のフィードバックを受けることまでを目指した.

    (研究方法)

     情報発信の範囲選択 「ネットワーク委員会でのHP更改作業の中に,英語版HPを盛り込むことを依頼」した上で,「HP構造の中で,本年・来年英語での情報発信を必要とする箇所」の選択を開始した(井上・神田・植田).

     情報収集の方法 年度当初は切り替え予定の大学ホームページ全体に英語ページを作成することを予検討したが,順天堂大学,東京医科歯科大学に倣い英語HPがひとまとめに構成されていると利便性が高いとの結論に達した.その際,オックスフォード大学,ケンブリッジ大学,ハーバード大学など世界的な有名な大学のHPのトップはイメージを打ち出し,視覚的な魅力を追及しており,本学では参考にならないことが確認された.

     検討プロセス 研究協力者(平成国際大学法学部Zidonis准教授,自治医科大学医学部Dilenschneider講師)を得て,現在の大学パンフレットを確認し,「学長挨拶」が大学紹介,「学部長挨拶」が学部カリキュラム紹介とすることが適切で,英文での大学紹介のために重要と指摘された.

     作業プロセス 従来の英語HPは,日本語版をそのまま英訳する方式が多い.しかし,それでは,全文を英語としない以上,魅力的な情報発信としては不備があることが分かった.

     そこで,1)神田によりミシガン大学HP学長挨拶を参考に英語一部下訳,2)植田による英語チェックを経て,3)研究協力者2名によるネイティブチェック,英文の加筆修正,4)大学ホームページにふさわしい格調高い英文への推敲,5)フォーマットの追加等を行い,6)具体的な英文HPの作成に入った.

    (結果)

     3月20日に大学ホームページが切り替えとなり,完成した英語ページが公開された.具体的には,Getting There(アクセス),Message from the President(大学の沿革,設立目的等の学長挨拶,学長紹介), Educational Principles and Goals(教育目的,ディプロマポリシー),Undergraduate Faculty and Departments (学科・専攻ごとの定員, 卒業資格, 進路等), Curriculum and the Message from the Dean(カリキュラム,学部長挨拶,千葉県の保健医療状況)についての英語による情報発信となっている.

    (考察)

     今回の方法開発で,以下のことが判明した.

    1) 英文HPを単なる部分的な日本語英語訳ページにしてはいけない.英語圏への情報発信の一部として,魅力を発信すべきものにする必要がある.

    2)そのためには,英文HP単独でも十分な情報提供を行う必要があり,さらに,単なる無機質な英文ではなく,高等教育機関としての魅力を伝えるような英文(海外のHPでは,学長の肉声に近いような,個性や人柄までが伝わる文章が一般的である)を用意しなければならない.

    3) 従って,単なる日本語HPの部分訳ではなく,英文としてもレトリカルな(格調高い)文章が望ましい.

    4) そのための作業手順として,単なる英文校正ではなく,文章の意訳を含めた再構成も必要で,従来の日本語の英文下訳+校正とは異なるアプローチが必要になる.

     今後,本学に関する情報が英語で発信されることにより,海外の大学との研究交流など国際化が進むことが期待される.

    (本研究は倫理審査に該当せず,倫理審査の申請はおこなっていない)

  • 川村 紀子
    2019 年10 巻1 号 p. 1_129
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

    人はだれでも間違える.しかし間違いを防ぐことはできる(Kohn2000)1).ハインリッヒの法則である1件の重大事故の裏には300件のヒヤリ・ハットがあり,それらを把握し改善を図ることが重大事故予防になる.周産期医療・看護の特徴としては,母体と胎児の命をあずかりどちらにも急変がありうる,予後が悪ければ過誤があったように受け取られやすいなどがあるためリスクマネジメントが難しく2),産科における事故は分娩に関連したものが圧倒的に多いとされている.また周産期看護におけるインシデント・アクシデントレポート提出や活用が十分ではないため事象の伝承による再発防止への取り組みを強化していく必要がある3).そこで本研究の目的は,既存の報告フォーマットを参考に,周産期看護における分娩期ヒヤリ・ハット事例収集のための報告フォーマットを作成することである.

    (研究方法)

    既存の医療事故事例,ヒヤリ・ハット事例,インシデント・アクシデント事例等の報告フォーマットを収集し,報告フォーマットの記載内容の視点を文献検討した.それらを参考に周産期看護における分娩期ヒヤリ・ハット事例報告のフォーマットを作成した.次にその報告フォーマットの妥当性の検討と修正は,母性看護学・助産学3名,看護管理学1名,医療安全に関する専門家1名から意見を聴取し修正した.

    (結果)

    1)既存の報告フォーマットの収集

    ・WHO 有害事象報告システム(MIMPS)

    ・ 日本医療機能評価機構 医療事故情報収集等事業医療事故情報・ヒヤリ・ハット事例

    ・ 日本医療機能評価機構 産科医療補償制度

    原因分析報告書作成にあたっての考え方

    ・ 公益社団法人日本助産師会保健指導部

    ヒヤリハット体験報告書・Good Job報告書

    ・ 5施設の医療事故・ヒヤリハット・インシデント・アクシデント報告書

    2)報告フォーマットの記載内容の視点

    ・ 状況認識モデル(Endsler, 2000)

    知覚→理解→予測

    ・P-mshellモデル(河野,2004)

    P患者,mマネジメント,sソフトウェア,hハードウェア,e環境,l本人,l周りの人

    ・危険予知トレーニングKYT4ラウンド法(住友金属,1973;兵藤・細川2012)状況把握→本質追究→対策樹立→目標設定

    3)周産期看護における分娩期ヒヤリ・ハット事例報告のフォーマットの作成〈項目内容〉

    ・ 当事者の職種,当事者の経験年数,当事者の部署 の配属年数,当事者以外の関連職種

    ・発生時刻(日勤帯,夜間帯:準夜・深夜,時刻)

    ・ 発生場所(分娩室,陣痛室,診察室,病室,廊 下,トイレ,その他)

    ・発生時期(入院前,入院時,入院中,その他)

    ・分娩経過の発生時期(分娩開始前,分娩第1期,分娩第2期,出生時,分娩第3期,分娩第4期,分娩後,その他)

    ・ヒヤリ・ハットの種類(入院に関する電話相談,分娩経過の判断,CTGモニターの判読,助産ケア,処置,薬物,指導内容,情報伝達,その他)

    ・ヒヤリ・ハットの具体的な内容

    ・当事者の判断や予測と対応

    ・発生要因

    ・再発防止策

    ・ 経験から学んだこと,危険予知能力にいかされた こと

    (考察)

    本研究の結果から,周産期看護における分娩期ヒヤリ・ハット事例報告フォーマットを作成した.これを産科医療機関の管理者へ研究協力施設に配属している助産師・看護師に対して,自記式質問紙として分娩期ヒヤリ・ハット事例報告フォーマットを配布するよう依頼予定である.分娩期ヒヤリ・ハット事例の収集により,フォーマットの評価及び分娩期に起こりやすいヒヤリ・ハットを明らかにしたい.

  • 島田 美恵子, 佐藤 紀子, 渡邊 智子, 麻賀 多美代, 竹内 弥彦, 岡村 太郎
    2019 年10 巻1 号 p. 1_130
    発行日: 2019/03/31
    公開日: 2023/03/31
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     「サービスラーニング」は,学生が地域に出向き,学んできた知識・技能を活かしたサービズ活動(ボランティア)を実施することにより,自らの学びの再構築や市民としての責任を感じとる実践教育である.1990年以降,アメリカ各地の大学で実践され,わが国では国際基督教大学が先駆的・体系的に科目を充実させているとの報告がある.サービスラーニングの定義や評価は未だ統一されていないものの,近年,力を入れる大学が増加している(櫻井正成 立命館高等教育研究第7号).

     「健康づくりのプロフェッショナル」育成を目的とする本学の学生は,「生活者としての住民を支援する」考え方や健康支援の手法を学んでいく.健康教育の方法論は,指導・操作型から,人々の自由意思の尊重とエンパワーメント型へと転換している.それは,専門家が判断する「最も望ましい姿」を指導したり強要したりすることではなく,住民自身が自主的で主体的に参加することの大切さと,好ましい健康習慣を維持する大切さを自覚する「支援」である.本研究では,この住民の健康支援を学修している学生に対し,学びを実践的に活かす地域でのフィールドを設定する.

     本研究の目的は,本学でまだ実施されていない,地域に出向く「多学科連携によるサービスラーニングプログラム」を試作し,そのプログラムがもたらす学生の学修状況やプログラム(運営含む)の問題点を明らかにすることである.また,数年後の本学カリキュラム改正において「自由科目」として取り入れられることを目指した.

    (研究方法)

     多学科で構成された学生グループ(支援者 以下学生)に,協力施設の高齢者(被支援者 以下対象者 継続的に健康調査に参加している者)の健康調査の結果をもとに,個別のカンファレンスを実施させた.後日,対象者個々の意識化を促す,グループ形式での健康支援を施した.健康支援の主な内容は,対象者の日ごろの健康意識や健康行動を傾聴することとした.健康支援後の,対象者個々の感想と学生の学び・感想を,自由記述を含めたアンケートで調査した.

    (結果)

     対象者は学生12名(看護学科2年4名 栄養学科3年3名 歯科衛生学科3年2名 理学療法学2年1名 作業療法学3年2名)と高齢者19名(男性11名 平均年齢75.6±4.0歳)であった.高齢者の17名が服薬治療中であった.「対話」は,多学科で構成される学生3名と高齢者5名で構成されるグループ形式とした.事後のアンケートで,学生・高齢者の3名を除き,プログラムは「満足,やや満足できるもの」と答えた.高齢者全員が「話し合いの中で自分にとって役に立つことはあった,ややあった」と答え,学生全員が「今回のプログラムで,対象者への理解が深まった,やや深まった」と答えた.しかし,自由記述において,高齢者は学生からの話を聴きたい要望が多く(6名),学生からは「話すことで意識化させる健康支援と話を聴き引出す医療従事者の姿勢の養成」といったプログラムの目的が把握できていない感想が多かった(6名).高齢者は全員が「このプログラムはぜひあったほうがいい,あった方がいい」と返答したが,学生4名は「あまりなくてもよい」と答えた.

    (考察)

     健康支援の手法とした,「対象者の話を聴く」ことの重要性は,本プロプログラム内のレクチャーのみでは,学生に十分に理解させることができなかった.本プログラムの目的を,学生・教員とも確認理解するために,事前学習にかける時間と工夫が必要であることが示唆された.なお,本研究の取組をもとに,平成31年度より特色科目の自由科目として「社会実習(ボランティア活動)」を設置することとなった.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の 承認(申請番号2017-033)を得て実施された.

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