千葉県立保健医療大学紀要
Online ISSN : 2433-5533
Print ISSN : 1884-9326
14 巻, 1 号
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原著
  • 細谷 紀子, 佐藤 紀子, 雨宮 有子, 杉本 健太郎, 松浦 めぐみ
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_3-1_11
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本研究の目的は,新任期にリフレクションに基づく個別支援能力向上プログラムに参加した保健師の個別支援の現状を明らかにし,プリセプターとしての役割発揮を視野に入れたフォローアップに関するニーズを検討することである.

     研究参加者は6名であり,リフレクティブな個別支援能力評価指標を用いて自己評価の理由やプログラム参加の影響を個別インタビューにより聴取した.データは質的帰納的に分析した.

     個別支援の現状は「支援の中で生じる感情や考えの表出・客観視」など全員ができているもの,「対象者の状況や支援に関する記述と説明」などできている部分がありつつ自分だけでは不十分なもの,「自己の感情の影響や思い込みの認識」などできている人とそうではない人にわかれるものがあった.

     結果より,リフレクションのスキルのうち「描写」「評価」は日々のOJTにより,「批判的吟味」はOff-JTによるフォローアップの必要があると考えられた.

報告
  • 中山 静和, 石川 紀子, 西野 郁子
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_13-1_18
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

     保育所看護職が認識している「気になる子」への保健活動の実態を明らかにする目的で,保育所看護職7名に面接調査を実施した.分析の結果,保育所看護職が認識している「気になる子」本人への保健活動では【安全を守る】【心身の健康管理をする】の2つのカテゴリー,保育士が行う保育活動への支援では【保育士との意見交換をし,保育活動を支援する】,保護者への保健活動では【保護者の相談に乗る】のそれぞれ1つのカテゴリーが生成された.保育所看護職は,「気になる子」への保健活動の一つとして,安全を守るための活動を実践していた.一方,保育士が行う保育活動への支援について述べたのは1名のみであり,保育士と協働した「気になる子」・家族への保健活動については,連携をしていない現状も示された.

  • 川城 由紀子, 浅井 美千代, 石川 紀子, 佐藤 紀子, 佐伯 恭子
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_19-1_28
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

     研究目的:地域包括ケア病棟の看護師が認識している特有の実践内容,地域包括ケア病棟での看護実践における苦労や困難,地域包括ケア病棟の看護師が認識している必要な実践能力を明らかにした上で,地域包括ケア病棟の看護師に求められる実践能力を検討することとした.

     研究方法:地域包括ケア病棟の看護師を対象とし,半構成的面接法にてデータ収集を行った.得られたデータから,地域包括ケア病棟の看護師が認識している特有の実践内容,苦労・困難,必要な実践能力に関する内容を抽出し,質的帰納的分析を行った.

     結果:対象者は6名であった.特有の実践内容では58コードから8カテゴリに,苦労・困難では48コードから10カテゴリに,必要な実践能力では44コードから4カテゴリに集約された.

     考察:<患者・家族への支援能力><連携調整力><地域包括ケアシステムを維持・発展させるマネジメント力>の3つの側面から成る7つの実践能力が見出された.

  • 春日 広美, 松永 信介, ラウル ブルーヘルマンス, 太田 浩子, 遠山 寛子, 岩田 尚子, 久長 正美
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_29-1_37
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本研究の目的は,ブレンディッド学習においてeラーニングを活用した在宅看護シミュレーションシステムを利用した学生の,利用後の課題にみられたシステムの影響を探索し,システムによる学習効果を考察することである.学生19名の3課題5テーマを質的に分析してシステムの学習のねらいに照らした結果,頻出語は「生活」がどの学習段階でも頻出していた.各課題の記述内容のカテゴリーには,[暮らしに表れる変化を見逃さず早めに対応する][生活に表れる生き方や価値観を理解する][療養者を多面的に捉える方法を身につける][固有の生活を送っている][見えない時間の療養者も把握する]などがあった.時系列での学習パターンは3パターンであった.初期の学習段階においてシステムを利用したことで,「生活」を「観察」して「アセスメント」することをイメージ化し,学習段階が進んだときにそのイメージを複雑かつ具体的に発展させた可能性があった.

  • 櫻井 理恵, 杉本 知子, 相馬 由紀子, 佐伯 恭子
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_39-1_46
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

     目的:介護保険施設において,健康問題を持ちながら,療養生活と仕事を両立している老年期の看護職が,就労継続を可能にする工夫を明らかにする.

     方法:関東圏内の介護保険施設において,何らかの健康問題を持ち,療養生活と仕事を両立している65歳以上の看護職を対象に,半構成的面接法を用いて調査した.調査は同意を得られた4名に行った.

     結果:「健康問題を自覚する老年期の看護職が就労継続を可能にする工夫」について,【気力・体力に合った就業環境の選択】,【自分の強みと弱みを活かした業務調整】,【経験上納得のいく仕事結果の維持】など8つのカテゴリー,23のサブカテゴリー,103のコードが得られた.

     結論:介護保険施設において健康問題を持つ老年期の看護職は,心身の状態や強みと弱みを客観的に捉え,パフォーマンスを最大限発揮できる就労環境を選択することで,資源の最適化をし,納得のいく仕事結果を出すという目標設定を行っていた. 

  • 内海 恵美, 田口 智恵美, 三枝 香代子, 大内 美穂子, 坂本 明子, 真田 知子, 浅井 美千代
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_47-1_53
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

     COVID-19感染拡大の影響を受けて,2020年度成人看護学領域総合実習は学内でシミュレーション実習として行った.この内容について実践報告する.そして履修した卒業生へのアンケートとインタビューから,入職後の臨床の場で,本実習の内容がどのように活かされているか,学内で代替実習としたことによる影響などを調査したので併せて報告する.

     調査の結果,今回の総合実習については,①《複数患者の検温・報告》《多重課題》演習は入職後も活用できる現実的な内容であった,②リフレクションサイクルを意識した演習プログラムでの学びは自律的な学びを引き出した,③今回のシミュレーション実習では模擬患者や看護師からの学びが得られずコミュニケーションに課題が残った,の3点が示された.プログラムの工夫により,学内実習においても経験し得られる学びがあることが確認でき,今後の実習プログラム構築への示唆が得られた.

資料
  • 渡辺 健太郎, 今井 宏美, 河部 房子
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_55-1_59
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本研究の目的は,LearningManagementSystem(LMS)を導入することが看護系大学生の学習活動に与える影響を解明し,導入の有効性について示唆を得ることである.LMSを導入した授業を受講した学生を対象に,学習活動への影響や変化についてweb調査を行い,内容分析を用いて分析した.その結果,LMSの導入よる学習活動への影響を表すカテゴリとして,【1.関連動画・参考書の活用による学習効果の向上】【2.時間・場所に左右されない学習活動】【3.デバイスの使用による学習開始への心的負担軽減と学習効率の向上】【4.学習範囲の明確化による学習効果・効率の向上】【5.自己評価の習慣化】【6.外発的・内発的動機づけによる学習意欲の向上】【7.学習計画立案の容易化】【8.疑問解決の早期化】【9.整然とした学習環境の維持】が明らかになった.LMSの導入は,学習しやすい環境を形成することにより,学習者の主体的な学習活動を促進することが示唆された.

  • 田口 智恵美, 三枝 香代子, 大内 美穂子, 内海 恵美, 坂本 明子, 浅井 美千代
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_61-1_67
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本研究では,2020年度に本学を卒業した新人看護職者が職場で感じた困難を明らかにした.卒業生9名がアンケートに回答し,そのうち3名にアンケートで困難と回答した項目について具体的な内容をインタビュー調査した.

     アンケート調査を単純集計した結果,104項目中,「患者・家族にわかりやすい説明を行い,同意を得る」「複数の患者の看護ケアの優先度を考えて行動する」「決められた業務を時間内に実施できるように調整する」の3項目が9名中7名と困難と感じた割合が高かった.次いで,「患者のニーズを身体・心理・社会的側面から把握する」「看護記録の目的を理解し,看護記録を正確に作成する」など4項目が9名中6名であった.インタビューをまとめた内容には[患者の病状をコロナ禍で面会できない家族に説明できない]とコロナ禍での面会制限に関連した内容が含まれた.

     結果から,コロナ禍による影響により患者・家族とのコミュニケーションに困難をより感じている可能性があることが考察された.また,コロナ禍に関わらず複数の患者の看護ケアや時間内での業務実施などの業務管理に困難を感じている傾向が明らかであった.コロナ禍のような情勢を加味して教育内容を検討することや複数患者受け持ちなど総合的な看護実践能力の向上を目指す科目「総合実習」の充実などが重要であると考える.

  • ―ニーズ調査と実施に向けた検討―
    細山田 康恵, 生魚 薫, 峰村 貴央, 岡田 亜紀子, 鈴木 亜夕帆, 海老原 泰代, 河野 公子, 金澤 匠, 荒井 裕介, 平岡 真実 ...
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_69-1_74
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    [ 目的] 卒業生がリカレント教育にどのようなことを望んでいるのかニーズを把握する.また,生活科学系の国公立大学の取組について調査する.得られたニーズを同窓会へ還元し,必要なリカレント教育ができるようにすることを目的とする.

    [研究方法]卒業生を対象に,WEBを用いた質問紙法でアンケート調査を行った.また,生活科学系の国公立大学におけるリカレント教育の実態をホームページで調べた.

    [ 結果および考察] アンケートの回収率は31% であった.リカレント教育に関心あるが66%おり,医療や食品分野について要望があった.リカレント教育を推進している10大学は,センター等の組織が整備されている.これにより,社会人の学びやリカレント教育をするシステム構築されていると考える.

    [結論] 学科で医療や食品分野の最新の情報を提供することで,管理栄養士としての知識及び技術の向上を図り,千葉県民の健康づくりに貢献でき ることが期待される.

  • 増田 恵美, 石井 邦子, 北川 良子
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_75-1_80
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    【目的】

     褥婦が,産後1ヶ月以内の腰背部痛緩和のための支援としての固定帯を使用するケアを受けて,どのように実感しているのかを明らかにすること.

    【方法】

     産後1ヶ月以内の腰背部痛に対して骨盤周囲に固定帯を使用した褥婦11名に,2020年1月~3月に半構造的面接を行い,逐語録を作成し質的帰納的に分析した.

    【結果】

     腰背部痛緩和のための支援として固定帯を使用するケアの効果は,【痛みが軽減する】【はずすと腰が痛い】【腰が固定されて安定している】【腰への負担が少ない】【動きやすい】【安心感がある】等のカテゴリーに集約された.また,【効果があるのか分からない】というカテゴリーも抽出された.

    【考察】

     固定帯を使用すると腰が固定され安定し負担が少ないことや,痛みの軽減が図られていたと考える.また,安心感を抱き,腰背部痛を悪化させないために,固定帯を継続的に使用している褥婦がいると推測される.

第13回共同研究発表会(2022.9.12~9.16)
  • 山本 達也, 澤井 摂
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_81
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     パーキンソン病は動作緩慢を主体に筋固縮・安静時振戦を呈する神経変性疾患であり,運動症状はドパミン作動薬の投与により軽快するが,根治療法は存在しない進行性の難治性疾患である.

     病理学的にはレビー小体が出現し,その主要構成成分がα -シヌクレインであること,α -シヌクレインが病態に深く関与しており,更に伝播により病変が広がっていくことが想定されている.

     パーキンソン病では大脳基底核神経細胞のabnormal oscillatory activityが病態と深く関与していることが明らかとなっている.

     またパーキンソン病では下部尿路機能障害を高頻度に認め,動物実験によりパーキンソン病の病変主座である黒質も排尿調節に重要であることが明らかになっている.

     近年の研究により,神経活動の上昇とともに細胞外αシヌクレイン濃度が上昇することが示唆されている 1), 2)

     本研究では,まず正常ラットを用いてαシヌクレインが多く発現していると考えられている黒質での細胞外αシヌクレイン濃度を測定し,電気刺激による影響を検討した.

     更にαシヌクレイン濃度と黒質のδ,θ,α,β周波数帯のパワーとの相関関係を検討する

    (研究方法)

    ・実験は正常ラット4頭を用いて行った.実験はウレタン麻酔下で黒質に細胞外液採取用透析プローブを刺入して行った.

    ・タングステン電極付き透析プローブを黒質に刺入し,電気刺激前,刺激中,刺激後(各々90分)で黒質の細胞外電位測定,細胞外液採取を行った.

    ・細胞外液の採取はpush-pull microdialysis 法により行い,α シヌクレイン測定はELISA(Enzyme linked immunosorbent assay)法を用いて行った.

    刺激前,刺激中,刺激後の群間比較は一元配置分散分析 (ANOVA)により行い,事後比較はDunnet法を用いた.相関解析はスピアマンの順位相関係数を用いた.

    (結果)

    1)αシヌクレイン濃度

     刺激前の黒質αシヌクレイン濃度を1として,刺激中,刺激後の比を算出した.刺激中のαシヌクレイン濃度は1.43±0.32,刺激後のαシヌクレイン濃度は2.16±0.48であり,刺激後のαシヌクレイン濃度は刺激前と比較して有意に上昇していた (p=0.043).

    2 )αシヌクレイン濃度と黒質局所電場電位の各周波数帯パワーとの関係

     黒質神経細胞局所電場電位から得られた各周波数帯のパワーとαシヌクレインは弱い負の相関が見られたが,統計学的に有意でなかった.

    (考察)

     パーキンソン病において各周波数帯のパワーと臨床症状の関係が注目されているが,今後の検討で各周波数帯のパワーとαシヌクレインに相関があることが示せれば,αシヌクレインの変動はより直接的にパーキンソン病の臨床症状と関係している可能性がある.

    (倫理規定)

     本実験は国立大学法人千葉大学動物実験規定にもとづく動物実験委員会に承認されて行ったものである(動3-218).

  • 小宮 浩美, 加藤 隆子
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_82
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     2020年度は新型コロナウイルス感染症の感染防止のため,精神看護学実習の多くを学内演習に変更した.本研究は,コロナ禍の精神看護学実習における学生たちの学びを明らかにし,今後の精神看護学の教授方法について検討することを目的とする.

    (研究方法)

     コロナ禍における本学の精神看護学実習は学内演習(8日間),地域リハビリテーション施設での実習(2日間)であった.学内演習では,看護過程演習,ロールプレイ演習,精神看護実践演習,SST(Social Skills Training)などを行った.ロールプレイ演習では,看護過程演習で扱った紙上患者に沿った幻聴動画を作成し,患者役の学生は幻聴音声をスマホで聞きながら行い,患者役と看護学生役の双方を体験した.研究協力に同意が得られた学生の実習記録の記述内容をデータとした.分析はKJ法を参考に行った.

    (結果)

     2週間の実習のうち,ロールプレイ演習(幻聴/うつ状態のある方との関わり),アクティブラーニングを用いた精神看護実践演習,教員が実施するSSTの4つの学内演習の実習記録のうち協力が得られた49名の記録を分析した結果,以下のカテゴリー【 】が抽出された.

    1)幻聴のある患者/うつ状態にある患者とのロールプレイ:学生の学びは,【幻聴が思考や感情に及ぼす影響】【幻聴のある患者への関わり】【うつ状態にある患者の感情を実感】【うつ状態にある患者への関わり】【治療的関係を形成する方法】【信頼関係構築の実感】【患者-看護師関係の特徴】【自己の課題への気づき】などであった.

    2)アクティブラーニングを用いた精神看護実践演習:学生の学びは,【精神科における患者・看護師関係の特徴の理解】【精神症状のある方への専門的な関わり】【自己の看護への内省】【看護師としての基本的な姿勢】【演習についての感想】などであった.

    3)教員が実施するSST:学生の学びは,【悩みの普遍性の実感】【価値観の感じ方,対処方法や能力の普遍性への気づき】【自分一人の視野は実際は意外に狭いという気づき】【他者からの問いかけによる自分の感情・思考・認知に対する新たな気づき】【不明瞭な感情の陰に隠れた感情や思いの気づき】【カタルシスの体験】【グループの凝集性の実感】【グループの凝集性の発展への気づき】【グループの愛他的な行動による自尊心の向上】などであった.

    (考察)

     これまで幻聴動画を用いたバーチャルハルシネーションによる教育では,症状の体験的理解はできるが,看護の役割の理解までには至らない(川村ら,2010)と言われていた.しかし今回,紙上患者の看護過程展開による対象理解と患者役と看護学生役の両方を体験した.これにより,観念的な追体験ができ,幻聴が及ぼす思考や感情への影響だけでなく,具体的なコミュニケーションの方法や看護の役割の理解につながったと考えられる.また,うつ状態の患者の感情を実感したことで,ケアになる関わりについての理解が深まっていた.また学生は,看護学生役を通して自己開示の難しさと共に必要性を感じていた.今後はケアの場において,自己開示の目的や具体的な方法を教授していく必要がある.

     そして,精神看護実践演習ではシナリオをシンプルなものして期待された役を引き受ける(role taker)のではなく,自分が描いた対象像になりきる(role player)ことを求めた.これにより役になりきることで,心的現実性を作り出し,患者と関わる際に生じる看護師の感情の揺らぎや看護師の専心,誠実な自己開示による信頼関係の形成について,学生が体験的に学ぶことができたと考えられる.

     学生は,SSTにより普段の対人関係における悩みへの対処方法を得るだけでなく,カタルシス,自尊心の向上といった癒しにもつながっていた.自己理解が深まるとともに,認知行動療法としてのSSTの効果を知る機会にもなっていた.

     以上のような学習効果はあったと考えるが,学内演習のみでは自己の関わりの有効性の評価や患者-看護師関係の発展につなげることは難しい.臨地実習と並行して行うことで実践力が身につくと考える.

    (倫理規定)

     本研究は,本学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施した(2021-21).なお本研究において,開示すべき利益相反はない.

  • ―若年者と高齢者の比較―
    三和 真人, 堀本 佳誉, 大谷 拓哉, 山本 達也, 真壁 寿
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_83
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     振戦は,手,頭,体幹,声帯で起きる不随意でリズミカルな震えである.振戦には生理的なものと疾病や薬物によって引き起こされる病的なものがある.特に,オリーブ橋小脳萎縮症など多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)は発症初期に生理的なものとの違いは少なく,疾病の進行に伴って徐々に大きな振戦になる.神経難病において発症初期に振戦の生理的と病的の見分けることができれば,早期に治療介入を行える可能性が生まれる.通常,臨床現場では生理的と病的な振戦の分類は経験的に行われているが,定量化することで多系統萎縮症の診断補助になる可能姓があると考えられる.

     本研究の目的は,健常な若年者と中枢姓神経疾患や整形外科疾患のない高齢者の利き手中指の振戦を加速度信号の鉛直成分を用いて比較し,定量化による診断補助に繋げるものである.

    (研究方法)

     研究課題は,利き手中指の伸展位で①指尖保持,②50g負荷,③負荷なし(下垂手)の3課題とし,測定時間1分とする.なお,筋疲労を考慮して各課題間隔を1分設けた.

     対象者は,若年者20名(年齢21.9±3.9歳,身長162±8.5cm,体重54.7±8.1kg),高齢者15名(年齢67.5±11.7歳,身長158.3±7.7cm,体重56.5±9.8kg)で,年齢以外に差はみられなかった.

     加速度計は,中指DIP関節と爪の間に貼付し,鉛直方向の信号を記録した.加速度信号は3次元加速度計(AMA-A-5,共和電業)を用い,サンプリング周波数500Hzで計測してA/D変換後PCに取り込んだ.測定肢位は,イス座位で肘関節90°屈曲,前腕回内位で固定し,手関節より遠位は自由とした.測定項目は,相関消失時間,フラクタル相関積次元(GP法による埋め込み次元),振戦の再現性を表す自己相関性のリアプノフ指数(Sano-Sawada法による)の第1-λとした.

     統計分析は,若年者と高齢者の3課題を測定項目ごとに比較した.有意水準5%とした.

    (結果)

     若年者と高齢者による指尖保持,50g負荷,負荷なしの3課題の比較を測定項目順に示す.相関消失時間は,若年者23.5±25.8,24.9±15.7,17.0±12.2,高齢者22.4±9.4,23.8±20.5,32.8±16.1と負荷なしで高齢者は高値であった(p<0.05).埋め込み次元は,若年者5.5±0.5,5.3±0.4,5.5±0.5,高齢者5.6±0.5,5.3±0.4,5.5±0.5と両者間で3課題に差はなかった.自己相関性のリアプノフ指数の第1- λは,若年者590.2 ± 354.0,635.5 ± 195.5,570.6 ± 309.4,高齢者593.6±382.4,679.2±200.8,608.6±374.0と負荷なしで高齢者は高値であったが,有意差は認められなかった.

     加速度信号の波形を個別に調べると,指尖保持と50g 負荷で振戦がみられた高齢者1名があった.また,5年前に小脳梗塞を発症した高齢者は課題すべてで振戦がみられず,小脳性運動失調症の改善のみられた高齢者があった.

    (考察)

     MSAにおける病的な振戦を抽出して早期の診療補助を検討してきた.負荷なし(下垂手)で若年者と高齢者の間に相関消失時間で差がみられた.高齢者の振戦で相関消失するまで遅延時間が多きこと示している.つまり,振戦周期が長く,振戦が消失しにくいことが考えられる.しかし,フラクタル相関積次元による埋め込み次元に差はなく,時空間における振戦は5次元から6次元に存在することが考えられた.また,振戦の自己相関性リアプノフ指数の第1-λで高齢者の負荷なし(下垂手)が若年者のものよりも大きく,一定の周期を伴った振戦が発生する可能性を示唆しているものと考えられる.

     健常な高齢者15人を含めた36人で加速度信号の測定することにより,振戦を捉えることができ,早期の診療補助として有用であると考えられる.また,小脳梗塞後の振戦の改善から,運動失調症の治療効果判定になり得るものと考えられる.

     今後,対象者数を増やして測定の精度を高めて行き,治療効果などの診療補助として有用性を高めて行きたい.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学倫理審査委員会の承認を得て実施したものである(研究倫理番号2021-09).本研究において開示すべきCOIはない.

  • 大谷 拓哉, 三和 真人, 堀本 佳誉, 江戸 優裕
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_84
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     ベッドからの起き上がり動作は,ベッド上臥位から立ち上がりや歩行へと移行する際に経由する動作である.この動作に関する研究は動作パターンに着目した定性的な研究が多く,動作特性を定量的に検証した研究は意外なほど少ない.

     動作特性を示す定量的要素の一つに関節角度がある.ベッドからの起き上がり動作中の関節角度を検証した先行研究では,計測方法の詳細が記述されていない,関節角度の同定方法が適切でないなどの問題があり,結果の解釈が困難となっている.ヒトの動作中の関節角度の計測手法として現在最も一般的なのは3次元動作解析システムとオイラー回転を用いた手法であり,ベッドからの起き上がり動作ついても,この計測法を用いることが妥当であると考えられる.ベッドからの起き上がり動作中の関節角度の計測に本計測法を適用するに先立ち,まず計測法の信頼性を明らかにする必要がある.

     そこで本研究では,ベッドからの起き上がり動作中の関節角度について,3次元動作解析システムを用いた計測を行い,本計測法の信頼性を明らかにすることを目的とした.

    (研究方法)

     対象は健常若年男性4名(全員20歳)とした.ベッドからの起き上がり動作は,ベッド上仰臥位からベッド右側に両足を下した端座位へと姿勢を変換する動作とした.開始時の臥位姿勢では,両上肢は伸展位,前腕回外位とし手掌を上方に向けた.両下肢は10cm開脚位とした.終了姿勢は端座位となり両手を膝の上に置いた姿勢とした.ベッド上の臥位位置については,身体左右中心がベッド右端から48.5cm の位置にくるようにした.起き上がり方法については被験者の最も起き上がりやすい方法とした.起き上がる速度は被験者の至適速度とした.計測は2回のセッションに分けて実施した.1回のセッションで各被験者は起き上がり動作を3回実施した.関節角度の計測には3次元動作解析システム(Mac3D system)を用いた.赤外線反射マーカを身体の32箇所に貼付し,動作中のマーカ位置情報をサンプリング周波数60Hzで記録した.得られたマーカ位置情報を用いて各セグメント間のなす角度(頸部,体幹,肩,肘,股,膝の各関節角度)を算出した.関節角度は起き上がり動作時間で正規化し,2%毎のタイミングにおける関節角度を分析対象とした.セッション内およびセッション間の信頼性の指標として,within-session error (σw) ,between-session error (σb ) およびその比であるσb / σwを算出した.加えて,関節角度波形のセッション内およびセッション間信頼性の指標として,adjusted Coefficient of Multiple Correlatio(それぞれwCMCおよびbCMC)を算出した.

    (結果)

     σb / σwについては30の運動のうち2つの運動(左膝関節回旋,右股関節回旋)で2を上回った(それぞれ2.40と2.05).それ以外の運動は2未満であった.セッション内の関節角度波形の近似性(wCMC)については,30の運動のうち3つの運動(頸部側屈,体幹側屈,体幹回旋)で0.6未満となった.セッション間の近似性(bCMC)については,30の運動のうち6つの運動で0.6未満となった.

    (考察)

     σb / σwについてはほとんどの運動で信頼性の目安となる2.0未満の数値を示したが,一部,信頼性の低い運動が認められた.関節角度波形の近似性については,セッション内近似性は低くないにも関わらず,セッション間近似性が低いものが散見された.以上の結果は,セッション(測定日)が異なると計測値が変動しうることを示している.本計測法を用いてより信頼性の高い計測結果を得るには,同一日に複数回計測して平均するのみでなく,できれば計測日を変えて計測し,その結果を平均するほうが望ましいと考えられる.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会にて承認された後,実施した(申請受付番号2020-05).本研究において開示すべき利益相反はない.

  • ―若年者を対象として―
    江戸 優裕, 酒井 克也, 成田 悠哉, 松尾 真輔, 堀本 佳誉, 大谷 拓哉, 島田 美恵子, 岡村 太郎, 三和 真人
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_85
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     ロコモティブシンドローム(以下,ロコモ)とは,筋や骨などの運動器の障害により歩行などの移動能力が低下し,要介護となるリスクが高い状態を指す.ロコモの重要な基礎疾患の一つであるサルコペニアは,以前は加齢による骨格筋量の減少として表現されていたが,近年では筋の量だけでなく質の低下も着目されている.これは筋量よりも先に質が低下するためであり,サルコペニアひいてはロコモの予防・改善には筋の量と質の評価が重要である.

     こうした背景から,我々は高齢者のロコモ対策を目的として,歩行能力や筋機能に関する健康調査と健康教室を計画した.本研究は今後の活動に向けたパイロットスタディとして位置づけ,少人数の高齢者を対象とする計画であった.しかし,COVID-19の流行によって高齢者関連団体との調整が困難となり,対象を若年者に変更して実施した.対象者の変更によりパイロットスタディとして十分な検討は困難だったが,将来的な高齢者対象の調査に向けて,①基礎データを得るとともに,②健康調査と健康教室の所要時間やマンパワーなどについて試算した.

    (研究方法)

     対象は本学在籍の若年者26名であり,内訳は男性9名・女性17名,年齢21.5±3.4歳,身長162.0±8.8cm,体重56.0±9.8kg(mean±SD)であった.

     健康調査は,ロコモ,サルコペニア,筋機能に関する項目であり,片側ずつ調べる項目は右を対象とした.ロコモに関しては日本整形外科学会の判定基準に基づく項目を実施した.サルコペニアはAWGS2019の診断基準に基づく項目を実施した(骨格筋量測定は非実施).筋機能は徒手筋力計(モービィMT-100,酒井医療)を用いて等尺性大腿四頭筋筋力を測定し,超音波画像診断装置(SONIMAGE HS2,コニカミノルタ)を用いて大腿直筋(以下,RF)と中間広筋(以下,VI)の筋厚・筋輝度・羽状角・筋束長を測定した(VIの筋輝度は非実施).

     健康教室は,健康調査項目に関する講話と,ロコトレ(ロコモ予防トレーニング)・コグニサイズ(認知症予防エクササイズ)を実施した.

     データ分析は,各調査項目間の相関係数をみた.また,健康調査と健康教室の様子を研究者が観察し,改善点を質的に検討した.なお,今回使用した会場は床面積200m2以上で,スタッフ6名で実施した.

    (結果)

     調査結果をmean±SD/ median(IQR)で示す.

     ロコモに関しては,立ち上がりテストは0(0-2)(0:片脚10cm台~7:両足40cm台で順序尺度化),2ステップ値は1.6±0.1,ロコモ25は0 (0-1.8) 点であり,ロコモ度1と2に1名ずつ該当した.

     サルコペニアに関しては,Calf circumferenceは35.1± 2.5cm,SARC-F は0 (0-0)点,握力は28.0(23.0-35.3)kg,歩行速度は1.5±0.3m/sec,5回椅子起立時間は6.7(5.7-8.4)sec,SPPBは12(12-12)点であり,サルコペニアが疑われる者はいなかった.

     筋機能に関しては,大腿四頭筋筋力は1031(906-1375)kg.cm,RF の筋厚1.4±0.3cm・筋輝度88.4±17.9a.u.・羽状角5.4±1.4deg・筋束長14.2(11.3-17.6)cm,VI の筋厚1.0±0.4cm・羽状角5.1±1.4deg・筋束長11.9±4.0cmであった.

     相関分析の結果,ロコモ関連項目に関しては,2ステップ値とRF筋輝度(r=0.39),ロコモ度と歩行速度(rs=-0.43)に有意な相関が認められた.また,健康調査と健康教室の一連の所要時間は約3時間で,所々で対象者が若干停滞する様子が見られた.

    (考察)

     今回対象となったのは若年者であったが,26名中2名がロコモに該当した.そして,ロコモ関連項目と筋の質的項目との間に相関が認められたことから,筋の質的評価の重要性が改めて強調された.

     本研究を通じて,高齢者を対象として同等(規模・内容・感染症対策など)の健康調査・健康教室を行うには,10名程度のスタッフが必要と試算された.

    (倫理規定)

     対象者には研究内容を説明し,書面で同意を得た.本研究は千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:2021-30).

  • 北川 良子, 川城 由紀子, 川村 紀子, 増田 恵美, 山﨑 麻子, 石井 邦子
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_86
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     令和2年度の千葉県の助産師就業者数は1.497人であり,人口10万人当たりの人数は23.9人と全国ワースト2位で就業人数が少ない現状がある.また就業場所別では病院が800人(53.4%),診療所426人(28.5%)となっており,診療所に就業する人数は病院の約半数である一方で,出産数は全国的に病院と診療所で半数ずつであり,助産師の就業場所の偏在が問題になっている.本学の母性・助産学実習は産科専門病院,産科診療所においても実習を行っており中小規模の周産期医療機関の責任者より,実習指導を担う助産師のキャリア支援を本学に要望する声が上がっている.そこでキャリア支援プログラムを考案するために,中小規模の周産期医療機関に中途採用された助産師のキャリアニーズを質問紙調査により明らかにすることを目的とした.

    (研究方法)

     対象者は中小規模の周産期医療機関に転職し1~2年前後の中堅助産師(臨床経験4年目以上)である.データ収集方法は自記式無記名質問紙調査もしくはFormsを使用した無記名アンケート調査とした.データ収集期間は令和4年1~4月である.調査内容はデモグラフィックデータ(年齢,助産師通算経験年数,家庭環境,現在の職場環境に関する項目)と,臨床経験・就業経験に関する内容(助産師実践能力習熟段階CLoCMiP® レベルⅢ認証制度の用件を参考に助産ケアの経験と,必修研修の受講状況(新生児蘇生法NCPR,分娩期の胎児心拍数陣痛図に関する研修や学術集会参加),基礎教育終了後に就業した施設の種類と配属先・就業期間,転職した施設の種類と配属先・就業期間等である.また転職した理由,転職した結果に関する認識とキャリアに関するニーズ等は自由記述で収集した.分析方法は基本統計量を算出し,自由記述は意味内容を損なわず様にコード化を行い,項目ごとに類似性や異質性に基づきカテゴリ化を行った.

    (結果)

     75の産科診療所および産科を有する200床未満の病院に依頼し,10の施設より承諾が得られた(承諾率13.3%).質問紙の配布数は15部うち10部回収(66.6%).QRコードによる回答は27,回答数は37であった.対象者の平均年齢39.7歳),助産師としての平均通算経験年数は14.6年であった.子どもがいる対象者は31名,介護が必要な家族がいる対象者は7名であった.雇用形態は正規職員20名,パート・短時間勤務17名,勤務形態は夜勤を含む交替勤務18名,日勤のみ19名であった.現在の施設における院内研修の参加人数は27名,.助産師実践能力習熟段階CLoCMiP レベルⅢ(アドバンス助産師)の認定者は9 名であった.

     1回目の転職理由は結婚・出産・転居などの【ライフスタイル変化】の他【助産師としての他の経験値を取得】等であった.現施設への転職理由は【希望する助産ケアの実施】,【仕事への復帰】,【ワークライフバランス(以下WLB)の保持】等であった.現施設を満足と答えた対象者は32名でその理由は【良好な職場環境】,【実践している助産ケアが良い】等であった.今後のキャリア継続については【助産師として希望する活動内容が具体的にある】,【フルタイム・夜勤に復帰する】,【WLBを保つ】等であった.希望するキャリア支援として【助産ケアに活用できる内容の研修】,【資格取得のための支援】,【WLBを保つための支援】がある一方で施設内外問わず【望むキャリア支援はない】という記述が一定数あった.

    (考察)

     中小規模の周産期医療機関に転職し1~2年前後の中堅助産師は,ライフスタイルの変化や希望する助産ケアが実施できる施設に転職し,良好な職場環境下でWLBを保持している現状が明らかになった.勤務時間や夜勤の免除などを受けている一方,いずれは常勤・夜勤の復帰を希望していた.対象者はWLBを保つことに重きが置かれているため,最新の周産期医療に関する研修などのキャリア支援があっても参加できず,CLoCMiP® レベルⅢ認証制度の更新を諦める様子もうかがえ,キャリア支援プログラムはライフスタイルの変化を考慮し長期的な視点で支援する必要性があると考えられる.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会にて承認を受け実施した(2021-33).

  • ―模擬患者への調査-
    川城 由紀子, 石井 邦子, 川村 紀子, 北川 良子, 増田 恵美, 山﨑 麻子
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_87
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     2020年の新型コロナウィルス感染症の感染拡大の影響で看護系教育機関では医療機関における臨地実習の縮小や中止が余儀なくされた.そのため母性看護学の対象である母子と接する機会が減ることにより,学生のコミュニケーション能力への影響が懸念された.そ のため,学内において模擬患者(以下,Simulated Patient:SP と略す)を活用したコミュニケーション能力の習得を目指したプログラムを考案し導入した.本研究では,SPの視点から,プログラムにおける学生のコミュニケーションについて,①できていたこと,②できていなかったことを明らかにし,学生のコミュニケーションの実際を評価することを目的とした.

    (研究方法)

     研究デザインは質的記述的研究デザインとした.研究対象者はプログラムを担当したSPのうち研究参加に同意が得られた者で,調査期間は2021年10月から2022年2月であった.調査方法は,対面あるいはオンラインによる半構成的面接法とし,SPの役割を終えた後2日以内に調査を行った.調査内容は,SPの立場から,コミュニケーションの目標について学生が①できていたことと②できていなかったことを語ってもらった.分析はインタビューデータから逐語録を作成し,それぞれの目標における学生のコミュニケーションの実際を示す文脈を抜き出し,意味内容を損なわずにコード化を行った.目標ごとに類似性や異質性に基づき抽象度を上げカテゴリ化を行った.分析は研究メンバー全員で行い,分析の妥当性を担保した.

     プログラムにおけるコミュニケーションの目標は以下を設定した.

    1.母子に関心と思いやりを持ち,態度に表すことができる.

    2.母子の状態や場に合わせて情報収集することができる.

    3.褥婦の状態に合わせて思いを引き出し,表出に対して傾聴・共感的態度がとれる.

    (結果)

     延べ12名のSPから同意が得られ,調査を行った.インタビュー時間は平均41.5分であった.生成されたカテゴリを「」で示した.目標1について①できていたこと(コード数72)は,「話しやすい雰囲気づくり」「身体や体調に対する配慮」等であり,②できていなかったこと(コード数19)は「羞恥心への配慮不足」「児への関心の欠如」等であった.目標2について,①できていたこと(コード数32)は「現在の心身の状態を考慮した質問」「自然なやりとりの中での情報収集」等であり,②できていなかったこと(コード数20)は,「現在の状況と関連ない質問」「学生本位の質問」等であった.目標3について,①できていたこと(コード数41)は「育児の大変さや苦痛の理解」「育児への思いの受け入れ」「頑張りの承認」等であり,②できていなかったこと(コード数29)は,「先入観を持ったかかわり」「育児への思いの理解が不十分」等であった.

    (考察)

     目標1では,話しやすい雰囲気を持ち相手を思いやる基本的なコミュニケーション能力や医療者として信頼される態度は概ね身についていることが考えられた.一方で実践の場に慣れていないことから,ケア実施に焦りがみられたり,ケアを行うことに集中するあまり,羞恥心に配慮する余裕がないことが考えられた.目標2では,対象母子の心身の状態やその場の状況の理解ができていることにより,対象に合わせた情報収集ができることが考えられた.一方で対象の状態を考慮せず学生が一方的に情報収集している状況もあり,対象の理解を促しながら情報収集の方法を指導する必要性が考えられた.目標3では,学生は対象の苦痛や思いの受け入れ,頑張りやできていることを承認する行動がとれていた.一方で対象の思いをくみ取れず,表面的な対応となる状況も考えられた.

     臨地実習で対象者と接した経験が少ない学生であることから,対象に合わせた情報収集や共感的態度の習得に課題が見いだされた.今後これらを強化できるよう実習プログラムを改善する必要がある.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会にて承認を受け実施した(2021-26).

  • 酒井 克也, 池田 由美, 後藤 圭介, 熊井 健, 渡邊 塁
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_88
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     脳卒中片麻痺患者の上肢運動機能障害に対する効果の高いリハビリテーション手法として,運動イメージ練習が報告されている1).運動イメージとは運動のシミュレーションであり,実際の運動を脳内でイメージすることである.運動イメージ練習は単に運動イメージの繰り返しによって運動イメージ能力が向上する2)が,運動イメージの難易度によって運動関連領域などの脳活動量が異なるのかは明らかではない.本研究の目的は,運動イメージの難易度が一次運動野領域の脳活動量に与える影響を検証することである.

    (研究方法)

     対象は健常成人21名(平均年齢: 22.0 ± 3.0歳)の左上肢であった.

     運動イメージ課題は1. タッピング(120bpm)と2.シークエンスタッピング (120bpm)とし,それぞれ視覚的運動イメージと筋感覚的運動イメージを実施させた(合計4課題).イメージの順番はランダムとした.

     測定は32チャンネルの脳波計(BIOSEMI Active Two System)を使用し,ブロックデザインを用いた.ブロックデザインは安静―課題を繰り返すデザインとし,課題は各条件を5セットずつ実施した.対象者は椅子に腰掛けて,前方のモニターに映し出される指示に従い,運動イメージを行った.脳波の被験者間のチャンネルの統一には10-20法を用い,関心領域は全脳とした.周波数はα(8-13Hz)とβ帯(14-30 Hz)域とした.

     脳波の解析はEEGLABを用いた.各条件の生データをフィルタ処理後,4秒のエポックに区切り,独立成分分析を実施した.その後,関心領域の周波数解析を実施した.

     また,どの程度鮮明にイメージできたかをVisual Analog Scale (VAS)を用いて,各課題後に聴取した.

     統計学的処理について,脳波はEEGLABを用いて比較した.VASはボンフェローニで補正したt検定を用いて比較した.

    (結果)

     VAS(運動イメージの鮮明度)はシークエンスタッピングの視覚的運動イメージはタッピングの視覚的運動イメージよりも鮮明度が有意に低かった(P=0.004).さらに,シークエンスタッピングの筋感覚的運動イメージはタッピングの筋感覚的運動イメージよりも鮮明度が有意に低かった(P = 0.016).

     筋感覚的運動イメージのシークエンスタッピングはタッピングと比較し,α,β帯域ともに左半球の一次運動野領域の活動が低かった.視覚的運動イメージのタッピングとシークエンスタッピングともに,α帯域では一次運動野の興奮性が高かったが,β帯域では左半球の後頭領域が活動した.

    (考察)

     結果より難易度の高い筋感覚的運動イメージのシークエンスタッピングはタッピングと比較しイメージの鮮明度が低く,一次運動野領域の活動が低かった.先行研究では実際の運動が困難なほど難易度が高い運動イメージは一次運動野の興奮性は低く,代償的に他領域が活動することが報告されている3).本研究は先行研究3)を支持するものであった.運動イメージ練習は鮮明に,かつ難易度が高すぎないイメージを用いることが一次運動野の興奮性を高める上で重要であることが示唆された.

    (倫理規定)

     本研究は東京都立大学荒川キャンパス倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:20101).

  • 下田 奏, 成田 奈々子, 髙橋 治男, 河野 公子, 菊池 裕
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_89
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     食品衛生法が改正され,2021年6月から全ての食品等事業者に危害要因分析重要管理点(HACCP)に沿った衛生管理が義務化された1).小規模食品事業者には「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が求められ,それらの実施状況を確認する上で,施設や調理器具等の衛生状態を視覚的に確認する簡易検査が求められている.本研究は市井の食品事業者がHACCPに対応した衛生管理をすることを目的とし,簡易的な環境微生物の測定方法を検討した.

    (研究方法)

    1.施設

     小規模食品加工所として食品加工室A105及び実習食堂A106を想定し,食品加工学実習の実習中と終了後に環境微生物のモニタリングを行った.

     市井の食品事業者社として千葉市内の飲食店1店舗を選定し,営業中と終了後に環境微生物のモニタリングを行った.

    2.モニタリング

    1)空中浮遊微生物数の算出

     エアサンプラー(株式会社アイデック空中浮遊菌サンプラーIDC-500B)を用い,作業中の模擬施設及び喫食中の飲食店で空中浮遊微生物を衝突法で寒天培地に捕集し,吸引空気量1000 L 中の好気性微生物数と真菌(かび,酵母)を測定した.

    2)製造施設の微生物汚染状況の把握

     食品・環境衛生検査用フードスタンプ「ニッスイ」(日水製薬株式会社)を用い,模擬施設の実習終了後の作業台及び飲食店の喫食後の食事用テーブル表面(培地面積10 cm2)の一般細菌数及び真菌数を測定した.

    3)スワブATPふき取りによる汚染状況の把握

     ルシパックpen(キッコーマンバイオケミファ株式会社)を用い,模擬施設の実習終了後の作業台及び飲食店の喫食後の食事用テーブル表面(100 cm2)をふき取り,ルミテスター(キッコーマンバイオケミファ株式会社)でATP量を測定した.

     すべてのデータは,Excelの統計関数を用いて解析した.

    (結果)

    1. 模擬施設

     エアサンプラーを用いた空中浮遊微生物数の測定では,好気性微生物数及び真菌数は作業中と比較して作業後に有意に減少した(p<0.05,n=24).フードスタンプを用いた作業台表面の微生物数の測定では,一般生菌数及び真菌数は0.1%次亜塩素酸ナトリウム溶液による消毒前と比較して消毒後に有意に減少した.ふき取り検査法を用いて測定したATP量は,消毒の前後で有意差はなかったが,残存率は減少していた(p<0.05,n=24).

    2.飲食店

     エアサンプラーを用いた空中浮遊微生物数の測定では,模擬施設での実験と同様の結果が得られた.フードスタンプ及びATPふき取り検査による作業台表面の微生物数の測定においても,模擬施設と同様に,0.1%次亜塩素酸ナトリウム溶液による消毒前と比較して消毒後に有意に減少した(p<0.05,n=9).また,消毒用エタノールによる消毒も,0.1% 次亜塩素酸ナトリウムと同様な結果を得た(p<0.05,n=9).

    (考察)

     模擬施設の測定結果では作業中と作業後で空中浮遊微生物数が有意に減少しており,エアサンプラーを用いた空中浮遊微生物数の有効性が示された.また,フードスタンプ及びATPふき取り検査も消毒後に微生物数が減少しており,作業台等における環境微生物の測定にはいずれの方法も有効であることが示された.飲食店での測定でも模擬施設と同様の結果が得られたことから,飲食店1施設のみの測定だったが,市井の小規模食品加工所でもこれらの方法は有効であると考えられる.

     これらの簡易的な手法は衛生管理に有用で,小規模食品事業者が容易に導入できる.また,簡易検査の結果は視覚的に捉えられ,各施設従業員の衛生管理教育に,説得力がある資料としても活用できる.

     今後は調査する業種及び施設数を増やし,環境微生物を測定する3つの手法の有効性を実証していきたい.

    (利益相反)

     本研究に開示すべき利益相反はない.

  • 田口 智恵美
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_90
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     クリティカルケア看護師は,生命の危機に脅かされ非日常的な治療環境下で全人的苦痛を体験している患者をケアする.そのような臨床状況で看護師が人として情動反応を示すことは自然である.情動は理性だけに任せることのできない重大な局面において前面に出て人間の行動を導き1),初期の問題探索や問題の明確化を容易にしたり臨床状況の理解や行動を方向づけたりするなど,臨床判断に大きな役割を果たして看護行為を導いている2)

     クリティカルケア看護師は実践の語りで情動反応を示す2)ものの,そのような状況下での臨床判断の特徴を明らかにした研究は見当たらず,臨床判断における情動の役割の全容は明らかでない.そこで,本研究では,臨床状況で情動を伴うクリティカルケア看護師の行動の様相を明らかにし,臨床判断における情動の役割を理解する一助とする.

    (研究方法)

     研究対象は2012年~2021年日本クリティカルケア看護学会誌収載の138文献のうち,クリティカルケア看護師の語りをデータとした質的研究とした.それらを精読し,臨床状況で情動を伴うクリティカルケア看護師の行動を含む記述を抜粋し質的帰納的に分析した.

    (結果)

     対象文献は14件であった.分析の結果,76のコードが得られ,51のサブカテゴリー,16のカテゴリー,9の大カテゴリーを抽出した.大カテゴリーを<>,カテゴリーを【 】で示す.

     <ニーズを何とか把握しようとする>には【自分で訴えられない患者のニーズを何とか把握しようとする】【患者の言動に現れた個別のニーズを捉える】【本当の気持ちの表出を促す問いかけをする】が含まれた.<状況理解を促す関わりをする>には【現状を把握できるよう状況を伝える】【患者が見通しを持てるよう情報を提供する】が含まれた.<心身両面から患者の苦痛へのアプローチをする>には【苦痛を緩和することを念頭に置いてケアにのぞむ】【苦痛に耐える患者を精神的に支える】【患者の頑張りをねぎらう】が含まれた.<患者の健康状態の大事を見極め対応する>には【患者の大事には必ず対応することを保障する】【急変に警戒する体勢をとる】【回復に向かうケアを推進する】が含まれた.<患者と家族の関わりを促す>には【患者・家族間の関わりを促す】【患者と家族がともに過ごす時空を整える】が含まれた.<患者・家族の気持ちを医療の指標軸にする>には【提供される医療に患者・家族の意向が反映されるよう行動する】【患者・家族の立場から看護を評価する】が含まれた.<苦痛を連想させない外観に整える>には【傷が残らないようにケアする】【家族がショックを受けない外観に整える】が含まれた.<疲弊する家族に配慮した対応をする>には【家族の心身の疲弊に配慮した対応をする】が含まれた.<最善のケアに必要な力を充足しようとする>には【最善のケアに向け他職種の協力を得ようとする】【よりよい支援のために学習する】が含まれた.

    (考察)

     結臨床状況で情動を伴うクリティカルケア看護師の行動の様相は,患者・家族の苦痛を心身の両面から支え,患者と家族の関わりをよりよいものとし,患者・家族の立場で医療を評価し,最善のケアに向け必要な力を充足しようとするものであった.治療が優先されがちな状況下で,情動は患者・家族の心情を優先する医療へと傾倒させ,患者・家族が最善と思える医療を実現する原動力となる役割を果たすと考える.

    (倫理的配慮)

     データ元となった対象文献の出典を以下に明記する.誌名は全て「日本クリティカルケア看護学会誌」である.[出版年,巻数,号数,ページ]のみ示す.

     [2021,vol.17, p44-51][2020,vol.16, p28-40, p54-64, p65-72][ 2019,vol.15, p44-52, p89-100, p101-111, p134-144 ][2018,vol.14, p77-85] [2016,vol.12, no3, p55-63][2015,vol.11, no.3, p57-65] [2015,vol.11, no.1, p31-40][2013,vol.9, no.1, p48-60] [2012,vol.8, no.1, p29-39] 以上14文献

  • 山中 紗都, 河野 舞
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_91
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     平成28年に実施された,生活のしづらさ等に関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)によると,視覚障害のある人は全国に約31.2万人と推計されている.

     視覚からの情報収集が困難である場合,自身の口腔内状況の観察が困難であるため,口腔内の状態が把握しづらいことはもちろん,変化する自身の口腔内に合った歯口清掃用品の選択・購入にも障害があることが予想される.また,歯科治療が必要になった際にも,歯科医院の選択から移動手段に至るまで,健常者と比較して受診までの準備にも時間を要することが考えられるため,定期的な歯科健診を受け,う蝕・歯周病予防への取り組みがより重要となると考えられる.しかし,視覚障害のある方を対象とした歯科保健行動の実態や,歯科受診に関わる問題についての報告は少ない.そこで,本研究では視覚障害のある方の歯科口腔保健行動の実態を把握し,基礎資料を得ることを目的とした.

    (研究方法)

    調査対象:視覚障害のある成人

    調査方法:Microsoft Formsもしくは電子メールを用いて,歯口清掃習慣,歯口清掃用具の選択・購入について,かかりつけ歯科医の有無,定期歯科受診や歯科保健指導を受けた経験の有無の他,歯科受診の際の希望等をアンケート調査にて回答を得た.

    調査期間:令和3年11~12月

    分析方法:単純集計および,かかりつけ歯科医の有無とその他の項目についての関連についてMann-WhitneyのU検定およびχ2検定を行い,有意水準は5%未満とした.

    (結果)

     104名の対象者から回答を得ることができ,そのうち本研究の対象者となる成人(20歳以上)の対象者103名の回答を分析の対象とした(有効回答率99.0%).アンケート回答者の内訳は男性58名(56.3%),女性45名(43.7%)で,20代10名(9.7%),30代14名(13.6%),40代21名(20.4%),50代26名(25.2%),60代16名(15.5%),70代以上16名(15.5%)となった.そのうち,全盲が55名(53.4%),光覚弁19名(18.4%),手動弁3 名(2.9%),指数弁12名(11.7%),その他(視力0.01以上等)14名(13.6%)であった.

     歯口清掃習慣としては,1日に2回磨くと回答した者が最も多く52名(50.5%)に次いで,3回以上29名(28.2%),1回21名(20.4%)となり,平成28年歯科疾患実態調査の結果(1回18.3%,2回49.8%,3回27.3%)と類似した結果となった.しかし,デンタルフロス(Dental Floss:DF)や歯間ブラシ(Inter Dental Brush:IDB)等の補助清掃用具の使用については,IDBの使用者34名(33.0%),DFの使用者31名(30.1%)と歯科疾患実態調査の「デンタルフロスや歯間ブラシを使って,歯と歯の間を清掃している(39.2%)」と比較すると少ない結果となった.

     歯ブラシ等の歯口清掃用具を自身で購入していたのは68名(66.0%)で,そのうち自分に合っている歯ブラシを購入することが困難な対象者は24名(23.3%)であった.その理由としては,「自分にはどのような歯ブラシが合っているかが不明である」(66.7%),「歯ブラシを購入する際に触れて購入することができない」(50.0%),「現在,市販されている歯ブラシについての情報がない」(37.5%)といった理由があげられた.また,定期的な歯科受診を受けている対象者は59名(57.3%)で,平成28年国民健康・栄養調査結果(52.9%)と比較してやや高い結果となった.

     かかりつけ歯科医の有無については,「ある」86名(83.5%)で,「ない」17名(16.5%)だった.かかりつけ歯科医が「ある」と回答した対象者は「ない」対象者と比較して歯科保健指導を受けたことがあると回答した者が有意に多かったが(p<0.05),歯科受診への抵抗感や歯ブラシ購入の際の困難さについては有意な差は認められなかった.

     歯科受診の際の希望としては,「問診票の代筆」「診療室内の案内」「治療前の説明」「治療中の説明」が多くあげられた.

    (考察)

     視覚障害のある対象者の歯口清掃頻度は健常者と類似している事が明らかになったが,歯口清掃用具の購入や補助清掃用具の使用については,自身に合った歯ブラシに関する知識不足や,視覚障害があることが支障となっている事が推察された.

     一方で,定期歯科受診により自身の口腔環境の維持改善に取り組んでいる対象者が約6割を占め,歯・口腔への関心が高いことが示唆されたため,視覚障害のある対象者への歯口清掃用具の情報提供の充実やその方法について検討を図ることが望まれる.

     今後は,対象者の口腔内観察を踏まえ,さらなる分析を重ねていきたい.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号2021-19).

  • 富樫 恵美子, 西村 宣子
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_92
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     病院で働く看護職の交代制勤務における夜勤の拘束時間は,1回あたり16時間以上の二交代制が多く占めている.その一方,日本看護協会から「夜勤を行わなかった正規雇用の看護職員の割合は13.5%」(2019)との調査結果が報告されており,これは夜勤を行う部署に配属されている看護職員の7人に1人が夜勤を行っていなかったことであり,同時に夜勤者の確保の困難さを表している.

     夜勤の労務管理においては,日本看護協会より「看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」が提言されている.しかし,これからの世代を担う新人看護師が,交代制勤務,とりわけ夜勤に適応していくことは身体的にも精神的にも大きなハードルとなり,離職を考えるトリガーとなりかねないと考えられる.更にコロナ禍において臨床実習の経験を十分に積めなかった世代においては,リアリティショックが大きいと予測できる.これらのことから,全国の約8割を占める中小規模病院のうち,関東圏内において,新人看護師の夜勤導入に向けて看護師長や夜勤指導者の中堅看護師,また,新人看護師がどのような心理的準備やマネジメントを行っているのか実際を明らかにすることを目的とし研究を行った.得られたデータから,今後どのようなマネジメントが新人看護師の夜勤導入に有用であるか,そのことから職場満足や就業継続に繋がり,地域医療を担う中小規模病院の看護の質を保証することを研究意義とする.

    (研究方法)

    1.研究対象者:関東圏内にある300床未満の中小規模病院に勤務する看護師長,夜勤指導看護師(中堅看護師),新人看護師

    2.調査期間:2022年2月~3月

    3.データ収集方法:対象者に半構造化インタビューをリモートにて実施

    4.分析方法:インタビュー内容を逐語録にし,新人看護師,夜勤指導者(中堅看護師),看護師長の夜勤導入におけるマネジメントに関する記述を逐語録の中から抽出し,コード化し分類した.

    (結果)

    1 .調査対象者:新人看護師8名,夜勤指導者6名,看護師長6名

    2.新人看護師の夜勤導入におけるマネジメントの実際

    ①夜勤導入基準:【病棟内で基準を作成している】【看護師長がプリセプターの意見を聞きながら判断する】【看護部で導入時期の目安がある】【日勤で重症患者も受け持てる】【日勤で報告連絡相談ができる】

    ②サポート体制:【夜勤配置人数にプラスしている】【初回は看護助手業務として体験する】【導入前に日勤の変則勤務でならす機会をつくる】【担当人数を段階的に増やす】

    ③振り返り:【夜勤業務終了ごとに行う】【先輩によって機会は異なる】【気になったときはその都度行う】【振り返り基準用紙に沿って行う】

    ④1人立ちの基準:【チームメンバーとして他のメンバーに声掛けができる】【自分の受持ちに責任を持った行動がとれる】【夜勤のチェックリストが全部埋まる】【報告連絡相談ができる】【緊急入院に対応できる】【夜勤メンバーの意見から判断する】

    ⑤新人看護師の準備:【夜勤導入前に先輩から情報収集を行う】【ネットで情報を収集する】【事前に受けたアドバイスに沿い学習する】

    ⑥夜勤指導者の配慮:【新人看護師が声を掛けやすいようにする】【できていることを褒めてから指導する】

    (考察)

     新人看護師の夜勤導入において,病院ごとにその基準は異なり明文化されている施設,指導者層の考えに基づき決めている施設など多様な実態があることがわかった.また,事前の準備において夜勤指導者等のアドバイスをもとに学習を行っていることや,日勤業務で夜勤を想定した指導に対して取り組むなど,双方が効果的に関わっていることが示唆された.また,実際の夜勤時において,指導者は報告連絡相談といったコミュニケーションがとりやすいよう配慮をしていて,ソーシャルサポートとしての対人関係が良好であることで職場適応への良い影響をもたらしていることが考察された.

    (倫理規定)

     本研究の実施にあたり,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て行った.(承認番号:2021-17).

    (利益相反)

     本研究に関して申告すべきCOI 関係にある企業等はありません.

  • 渡辺 健太郎, 河部 房子
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_93
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     近年,多くの大学で初年次教育が行われている.特に,「高校までの受動的な学習から,能動的で自立的,自律的な学習態度への転換を図る」ための内容は,生涯にわたり自律的に学習できる看護職者を養成するため,看護系大学にとって重要である.このような主体的な学習を理論的に説明しようとする概念が,自己調整学習(Self-Regulated Learning以下,SRL)である.SRLとは,学習者がメタ認知,動機づけ,行動において,自分自身の学習過程に能動的に関与することである.

     SRL能力の高い学生は,自己効力感や看護技術における自信や習得度などが高いことが明らかにされている.一方,1年次と4年次におけるSRL能力に差がないことが報告されており,SRL能力は経時的に変化しないため,その向上に向けた介入が必要である.本研究は,看護系大学生の主体的に学ぶ力の向上を支援するために「学び方を学ぶ」活動を実施し,SRL能力に与える効果を解明することを目的とした.

    (研究方法)

     研究デザインには,単一事例実験 ABデザインを採用した.対象者は,本学看護学科2021年度入学生のうち,研究参加への承諾の得られたものとした.

     測定用具として,大学生を対象としたSRL方略尺度1)を用いた.この尺度は,学習における「認知」「動機づけ」「行動」「感情」の調整方略を問う24項目から構成される.各項目に対し,「とてもあてはまる」から「まったくあてはまらない」の5件法により評定を求めた.データ収集方法には,Microsoft Formsを用い,無記名でのweb調査を実施した.

     介入前に1週間あけて3回測定を行い,尺度総得点の安定が確認されたため,これをベースラインとした.介入として,「学習設計マニュアル(北大路書房)」による自己学習を中心に,各章の学習ごとにグループ学習を実施した.グループ学習への参加は任意とし,30分程度で各自の学習内容を共有した.研究者は,ファシリテーターとして参加した.また,各章の学習ごとに同尺度による評定を求めた.

     分析には,web アプリ2)を使用し,Tau-U を用いてベースライン期と介入期の尺度総得点を比較し,効果量を算出した.

    (結果)

     参加者は全員女性で,平均年齢は18.4歳だった.社会人経験や編入学経験はなかった.

     欠損値のない4例を分析対象とし,介入前後の尺度総得点を比較した結果,参加者1(Tau=1.0),参加者2(Tau=0.75),参加者3(Tau=0.5)に得点の増加傾向が見られた.また,参加者1に有意な増加が見られた(p < .05).参加者4(Tau=-0.5)には得点の増加が見られなかった.

    (考察)

     本介入は適度~非常に大きな効果があると評価でき,「学び方を学ぶ」ことは,看護系大学生のSRL能力に一定の影響を及ぼすことが示唆された.初年次教育などに取り入れることにより,自律した学習者の育成につながる可能性がある.

     一方,変化の見られなかった例ではベースライン期の尺度総得点が比較的高く,介入による得点の上昇がみられなかった可能性が考えられる.すでにSRL方略を習得している学習者にとっては,介入の効果が得られないことが示唆された.診断的評価を行い,必要な学習者のみに介入することも有効である.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理審査委員会の承認を受けて実施した(申請番号:2021-03).

    (利益相反)

     本研究における開示すべきCOIはない.

  • 櫻井 理恵, 杉本 知子, 相馬 由紀子, 佐伯 恭子
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_94
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     平成30年度,65歳以上の介護労働者の割合は,全体の1割を超え,令和3年度では7割弱の事業所で 65歳以上の労働者を雇用1)している.高齢者は明らかな疾患がなくても,加齢により,身体機能や認知機能の低下は避けられない.また,生活習慣などの影響から健康問題を抱える者は増加する.

     介護保険施設に勤務する看護・介護職員は,専門職であるがゆえ,年齢が高くなってもそのスキルを活かすことはメリットであり,マンパワーが慢性的に不足している医療・福祉の職場において,現場を支える大きな力である.65歳以上の看護職においても,加齢に伴う心身の機能低下や健康問題から何らかの影響が生じながらも,就労を実現している現状があると考える.そこで本研究は,介護保険施設において,健康問題を持ちながら,療養生活と仕事を両立している老年期の看護職が,就労継続を可能にする工夫を明らかにすることを目的とした.

    (研究方法)

     対象は,関東圏内の介護保険施設において,看護職として就労しており,何らかの健康問題を持ち,療養生活と仕事を両立している65歳以上の者である.半構成的面接法を用いて調査を行った.インタビューで得られた語りを逐語録化し,「健康問題を自覚している老年期の看護職が就労継続を可能にする工夫」について,意味のあるまとまりを1単位として抽出し,コードを作成した.コードの共通性を検討し,サブカテゴリー,カテゴリーを作成した.分析は,研究者間で検討を行い,信頼性と妥当性の確保を行った.

    (結果)

     同意を得られた4名にインタビューを行った.調査は1名につき1回,32~51分であった.4名の内訳は,看護師2名,准看護師2名,60代後半から70代前半で,週4~5日の日勤勤務を行っていた.分析の結果,「健康問題を自覚している老年期の看護職が就労継続を可能にする工夫」には,8つのカテゴリー,23のサブカテゴリー,103のコードが得られた.以下にカテゴリーを【 】,サブカテゴリーを「」で示す.

     老年期の看護職は,現在,仕事を制限するほどの影響は生じていないものの,年齢的に不調をきたしやすいことを考慮し,「日勤中心の勤務への変更」「通勤しやすい職場の選択」など【気力・体力に合った就業環境の選択】をしていた.また,細かい文字を見る,腰部に負担がかかるなど「精神的・肉体的負担の重い業務の回避」をしながら,「自分ができる業務を率先して実施」し,「他スタッフと業務の協力」を行い,【自分の強みと弱みを活かした業務調整】をしていた.【心身の加齢変化の予防】として,「体力維持トレーニングの継続」や「認知機能維持への取り組みの継続」「社会的役割をもつことでの健康維持」があった.すでにある健康問題に対しては,「定期通院による体調悪化の予防」のほか,「日々の自己管理による体調悪化の予防」など,看護師の経験も活かした【体調の維持管理】を行い,【周囲の協力の獲得】もしていた.「働き続ける年齢の目標設定」や,「利用者ケアでの学びをモチベーションとして活用」し,【近い将来を見据えたポジティブな目標設定】を行っていた.「長年の経験が活かせる業務の選択」「納得のいく仕事ができる勤務形態への変更」などを行い【経験上納得のいく仕事結果の維持】をしながらも,「迷惑をかけずに働けるかを自問自答」して「引き際を考慮」し,【納得のいく仕事結果になっているかを自己評価】していた.

    (考察)

     老年期の看護職は,加齢により,以前とは変化した心身の状態の中で,自身の経験から培った看護職としての知識・技術などの強みを,最大限発揮できる状態で就労ができる環境を選択・調整していた.また,その心身の状態や就労環境の中で,納得のいく仕事結果を出すという目標設定を行っていると考えられた.そして,その目標が達成できるための努力を日々行っていることが考えられた.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号2021-02).

     本研究において,申告すべきCOIはない.

令和3年度学長裁量研究抄録
  • 細谷 紀子, 雨宮 有子, 杉本 健太郎, 佐藤 紀子
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_95
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     筆者らは,新任期保健師自らが保健師活動の実践体験を意味づけ成長に変えられるリフレクション力を身に着けることが重要であることを見出し1),リフレクションに基づく個別支援能力向上プログラム(以下プログラム)を開発・実施してきた.プログラム終了時点において一定の効果を確認2)しているが,プログラム終了後のフォローアップ体制が未構築であり効果の継続は確認できていない.また,プリセプターの役割を担う時期に達しているプログラム参加者が新人保健師に対してリフレクションに基づく個別支援能力を育成することができれば,新人保健師とプリセプター保健師とがフィードバックし合うことにより双方にとって有効と考えた.そこで本研究は,新任期にプログラムに参加した保健師のリフレクションに基づく個別支援の現状を明らかにし,プリセプターとしての役割発揮を視野に入れたフォローアップに関するニーズを検討することを目的とした.

    (研究方法)

     2014年~2019年までに実施したプログラム参加者で全回出席した31人のうち,現在も自治体常勤保健師であり,研究協力に同意の得られた者を対象とした.データ収集は個別インタビューにより行い,リフレクティブな個別支援能力評価指標を用いて自己評価の理由やプログラム参加の影響を聴取した.「リフレクションに基づく個別支援の現状」と「プログラム参加による影響」を質的帰納的に分析し,「個別支援の現状」については,その性質から「できている」と「不十分」に分けて整理した.

    (結果)

     研究参加者は6名であり,所属は市町村2名,政令市3名,都道府県1名であった.保健師経験年数は3年1名,5年3名,6年と7年各1名であり,プログラム参加後の経過年数は,2年2名,3年1名,4年2名,6年1名であった.

     リフレクションに基づく個別支援の現状は,180コードから45サブカテゴリ,19カテゴリを生成した.【不安や困り感は日常的に職場で話すことができている】など「支援の中で生じる感情や考えの表出・客観視」,「必要な知識の補充」,「対象の捉え方や支援の方向性の再考」は研究参加者全員ができているという現状であった.「対象者の状況や支援に関する記述と説明」「支援の評価」はできている部分がありつつ,自分だけでは不十分といった現状があった.「自己の感情の影響や思い込みの認識」および「保健師としての信念や価値観の獲得」はできている人とそうではない人にわかれる現状があった.

     プログラムの影響は,59コードから14サブカテゴリ,7カテゴリを生成した.【思考や表現の整理の仕方】【自分の思いを躊躇せずに話すことの大事さ】【自己の考え方の広がり】などの影響が確認された.

    (考察)

     リフレクションスキルのうち「自己への気づき」はプログラム参加後2~6年経過した時点において定着が確認され,プログラム参加者は自分の考えや感情を表出する大事さを理解しているため,リフレクションに基づく個別支援能力を育成するプリセプターとしての役割発揮が期待できると示唆された.また,「描写」「評価」は上司や先輩保健師から日常業務において継続的にフォローアップを得ることが,「批判的吟味」はリフレクションにおける意味の説明や自分自身の価値観を客観視できる体験を含めたOff-JTによるフォローアップが必要と考えられた.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号2021-12).

    (利益相反)

     本研究における開示すべきCOI 関係にある企業等はない.

  • 細山田 康恵, 生魚 薫, 峰村 貴央, 鈴木 亜夕帆, 海老原 泰代, 河野 公子, 金澤 匠, 荒井 裕介, 平岡 真美, 加瀬 政彦, ...
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_96
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     本学が2009年に開学し,栄養学科では,9期生まで219名の卒業生を輩出してきた.開学から10年が経過し卒業生のリカレント教育に対するニーズが高いと考えられる.また,リカレント教育は,本学の重点施策の一つになっており,仕組みづくりは重要な課題でもある.本研究では,卒業生がリカレント教育にどのようなことを望んでいるのかニーズを把握する.さらに,家政系公立大学のリカレント教育の取組について調査し,栄養学科分科会へニーズを還元し,各方面に必要なリカレント教育ができるようにすることを目的とする.

    (研究方法)

     学科卒業生1期生から9期生を対象に,2021年10月~11月にWEBを用いた質問紙法でアンケート調査を実施した.対象者への調査協力依頼は,栄養学科分科会を通じて,E-mailを用いて行うため,参加は本人の自由意思に基づくように配慮した.対象者はQRコードからフォームを入手して,無記名式アンケート方式により,同意した方に回答を送信してもらう方法で実施した.アンケートの内容は,卒業年次,在住都道府県,仕事内容,リカレント教育に望むことと実施方法などについて質問した.回収したアンケート解析は,JMPによる単純集計を行い,卒業生のリカレント教育へのニーズを把握した.また,生活科学系の国公立大学におけるリカレント教育の実態をホームページで調べた.

    (結果および考察)

     アンケート参加卒業生68名の卒業年次の内訳は,1期生3名,2期生1名,3期生4名,4期生5名,5期生7名,6期生13名,7期生8名,8期生11名,9期生16名であった.アンケート結果から,リカレント教育に関心のある卒業生が45名おり,医療分野や食品分野について,遠隔教育のオンデマンド授業で好きな時間・場所で実施の要望が12名,夜間・土日祝日のライブ授業とオンデマンド授業で好きな時間や場所の要望が8名であった.実施期間は,1日で完結あるいは3~5回の分散が13名ずつであった.居住地は千葉県が37名と約54%を占めており,県内に留まっていることが伺えた.勤務先は,公務員が20名と約30%であった.活躍している卒業生のニーズの違いを理解し,最新情報を提供する必要があると考える.生活科学系の国公立大学24校のホームページの調査では10校がリカレント教育を実施していた.事業を推進している大学は,文部科学省が社会人の学び・リカレント教育を重要視して立ち上げた各種の事業に参画して始めたことが伺えた.一方,実施してない大学でも,社会人を聴講生扱いとして大学の正規の授業科目を受講させるなどの取組が見られた.学科として,分科会にニーズを還元し,必要に応じて協力できる体制を検討すべきと考える.

    (結論)

     卒業生のリカレント教育への関心は高いことが明らかとなった.学科として医療や食品分野の最新の情報を遠隔で提供することで,管理栄養士としての知識及び技術の向上を図ることが可能となり,千葉県民の健康づくりに貢献できると考える.また,リカレント教育のプログラムを同窓会の栄養学科分科会と協力して実施することにより,教員と卒業生間のつながりを深めることが期待できる.

    (謝辞)

     本学,栄養学科分科会会長の3期生神原愛子氏(旧姓:千葉)に多大なご協力をいただき,WEBアンケート調査を実施することができましたことに厚く御礼申し上げます.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学倫理審査委員会の承認(2021-11)得て実施した.

    (利益相反)

     開示すべきCOI関係にある企業等はありません.

  • 石川 裕子, 麻賀 多美代, 麻生 智子, 鈴鹿 祐子, 山中 紗都, 大川 由一, 酒巻 裕之
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_97
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     近年,日本では,誰もがいくつになっても学び直し活躍することができる社会の実現に向けて,主に学校教育を終えた後の社会人が大学等の教育機関を利用した教育であるリカレント教育を推進している1).また,さらなる卒後教育の充実や教育プログラムの開発などのシステム作りの必要性を示す研究報告等が行われている2-3)

     本大学歯科衛生学科では,これまでリカレント教育にかかわるプログラムの策定や実践は行われていない.本研究は,リカレント教育プログラム策定のための基礎資料とすることを目的とする.

    (研究方法)

     本研究では,以下の2つを実施した.

    1)R2年度卒業生に対し,2021年10月末に卒後研修の希望調査をMicrosoft Forms(Forms)を使用して実施し,希望がある卒業生に対しメール等で連絡をとり,個別に対応を行った.

    2)本大学同窓会歯科衛生学科分会の協力のもと,分会のメッセンジャーアプリケーション(LINE)に登録している卒業生に対してForms を使用して調査を行った.調査内容は,勤務先,進学の有無,リカレント教育希望の有無,大学への要望(研修・研究支援・就職支援・情報交換・各種相談・資格取得)などであり,分析はリカレント教育の参加と各種要望(研修・研究支援・就職支援・情報交換・各種相談・資格取得)の有無をFisherの正確確率検定,各種要望の有無に影響する事項を多重ロジスティック解析にて行った.

    (結果)

    1)R2年度卒業生(9期生)への卒後研修

     4名から申し込みがあり,来学が可能な3名に対して,歯石除去についての実習指導を2時間/人程度行った.

    2)卒業生の現状とリカレント教育の要望調査

     79名(平均年齢26.9±2.6歳)の回答を得た(回答率37.1%).千葉県内在住者は36名(45.6%)であり,歯科衛生士として勤務している人は61名(77.2%)であった.勤務している人のうち歯科診療所勤務は35名(57.4%)であり,病院勤務は15名(24.6%),県・市町村勤務は8名(13.1%)であった.進学経験有は2名(2.5%)であった.

     リカレント教育については,「内容や開催日等があえば参加する」49名(62.0%),「希望するが今は参加できない」8 名(10.1 %),「希望しない」11 名(13.9%)であった.リカレント教育の参加と各種要望の関係は,研修,情報交換,資格取得,就職支援,各種相談で有意な差がみられた(研修・情報・資格取得 p <0.01, 就職支援,各種相談 p <0.05).さらに,研修支援,研究支援,各種相談では勤務先,就職支援では結婚の有無が影響することが明らかとなった.

    (考察)

     卒後研修では,参加者の質問にじっくり答えることができ,参加者には好評であった.今後も要望があれば行う必要があると考えられた.また,リカレント教育の要望調査では,リカレントプログラム策定時に,情報交換や資格取得を考慮することや,内容により勤務先や結婚の有無を配慮する必要があることが示唆された.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号2021-18).

    (利益相反)

     本研究における開示すべきCOI 関係にある企業等はない.

  • 内海 恵美, 田口 智恵美, 浅井 美千代, 三枝 香代子, 大内 美穂子, 坂本 明子, 真田 知子
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_98
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     本研究の目的は,COVID-19の感染拡大により,医療機関での臨床実習を中止せざるを得なかった本学卒業生を対象に,(1)新人看護師としてどのような困難を抱えているか,(2)学内代替実習(シミュレーション実習)として行われた総合実習が入職後の臨床の場でそのように活かされているか,の二つを調査し,臨床看護教育の内容や方法について検討する基礎資料とすることである.

    (研究方法)

     研究デザインはいずれもアンケートによる量的調査とインタビューによる質的調査である.

     調査(1)は現在病院に勤務する2020年度本学看護学科卒業生を,調査(2)は前述(1)のうち総合実習を成人看護学領域で選択履修した者を対象とした.いずれもMicrosoft teams「2020年度看護学科卒業生」チームにて研究の概要を説明後,依頼文書をメールで送付した.調査(1)では,新人看護職員研修ガイドラインで新人看護職者の到達目標として示された全104項目のうち経験して困難さを感じた項目等,調査(2)では,印象に残っている演習とその理由,入職してから振り返ったり活用できている演習の有無とその理由,学内代替実習となったことの不利益が入職後にあったかどうか,等を調査項目とした.

     いずれも研究協力に同意した対象候補者がアンケートフォームにアクセスし無記名で回答・送信し,この送受信をもって調査に同意が得られたものとした.インタビューは日程調整し対面または遠隔で行い,同意を得て録音した.

    (結果)

     調査(1)では9名から回答が得られ,うち3名の看護師がインタビューに応じた.「複数の患者の看護ケアの優先度を考えて行動する」「決められた業務を時間内に実施できるように調整する」の項目はCOVID-19前の研究*と同様困難を感じる人数の割合が高い.一方,「患者の理解と患者・家族との良好な人間関係の確立」6項目全てにおいて,困難を感じた人数の割合が増え,インタビューでも[患者の病状をコロナ禍で面会できない家族に説明できない]等のCOVID-19に関連した困難の内容が含まれた.

     調査(2)では3名の看護師から回答が得られ,うち1名がインタビューに協力した.全員が,入職後に活用できている演習は《複数患者の検温・報告》《多重課題》であったと回答し,“ 現在の仕事でもほぼ同じことをしているから” 等,実践的な内容であったと評価した.インタビューでは「優先順位の考え方」「重要度と緊急度」について,実習での学びを臨床で活用している一方で,学生同士で患者役-看護師の演習をしていたため,入職後は本当の患者とのコミュニケーションに戸惑いが生じていたと述べた.

    (考察)

     調査(1)においては,COVID-19の影響により患者・家族とのコミュニケーションに困難をより感じている可能性があることが示された.また,COVID-19に関わらず,複数の患者の看護ケアや時間内での業務実施などの業務管理に困難を感じている傾向が明らかとなった.

     調査(2)では,シミュレーション実習は入職後も活用できる現実的な内容であり,リフレクションサイクルを意識した演習構成は自律的な学びを引き出した一方で,模擬患者や看護師からの学びが得られず,患者に対するコミュニケーション能力の育成が課題となったことが示された.

     以上から,社会情勢を加味して教育内容を検討する必要性,および患者・家族へのコミュニケーション能力の獲得機会を担保しつつ,実践的な学修が望ましいことが示唆された.

    (倫理規定)

     研究者が所属する大学の研究等倫理審査委員会の倫理審査の承認を受けた(申請番号2021-14).

    (利益相反)

     本研究内容に申告すべきCOI状態はない.

  • -地域包括ケア病棟に勤務する看護師に焦点を当てて-
    川城 由紀子, 浅井 美千代, 石川 紀子, 佐藤 紀子, 佐伯 恭子
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_99
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     2014年の診療報酬改定を受けて全国に地域包括ケア病棟が作られるようになった.そこに勤務する看護師には今までにない専門性や実践における能力が求められていると考えられる.

     地域包括ケア病棟の看護師が認識している特有の実践内容,地域包括ケア病棟での看護実践における苦労や困難,地域包括ケア病棟の看護師が認識している必要な実践能力を明らかにした上で,地域包括ケア病棟の看護師に求められる実践能力を検討することを研究目的とした.

    (研究方法)

    1.研究対象者

     2021年6月に地域医療情報システム(日本医師会)を用いて検索し,A県内にあり地域包括ケア病棟が設置されて3年以上の総合病院30施設に研究依頼を行った.データに偏りが生じないようにするため,研究対象者は1施設につき2名程度とし依頼した.そのうち6施設から研究協力の同意が得られた.研究対象者は,A県内で地域包括ケア病棟に勤務して2年以上の看護師であり,地域包括ケア病棟での実践について現状をよく理解していると病棟師長が判断し,本研究協力に同意が得られた者とした.

    2.データ収集期間

     2021年11月~12月

    3.調査方法および調査内容

     半構成的面接法とし,対面あるいはオンラインによる調査を実施した.面接は面接ガイドを基に行い,対象者の許可のもとICレコーダーで録音した.調査内容は,基礎的情報(看護職の経験年数,看護職の経験内容,地域包括ケア病棟の経験年数),地域包括ケア病棟の看護師が認識している特有の実践内容,地域包括ケア病棟での看護実践における苦労・困難,地域包括ケア病棟の看護師が認識している必要な実践能力とした.

    4.分析方法

     面接内容から逐語録を作成した.逐語録の中から,特有の実践内容,苦労・困難,実践能力に関する文脈をそれぞれ抜き出し,抜き出されたものの意味内容を損なわずにコード化を行った.得られたコードについて,類似性と異質性に基づき分類しカテゴリ化を行い,質的帰納的に分析を行った.データの抽出・分析の過程では共同研究者間で検討を繰り返し行い,真実性の確保に努めた.

    5.倫理的配慮

    研究の趣旨,研究参加における任意性・安全性の保障,不参加や同意撤回による不利益を受けないこと等について十分説明し,署名を以て同意を得た.

    (結果)

    1.対象者の概要

     研究対象者6名の看護師の経験年数は2年9か月から30年であり,地域包括ケア病棟での勤務経験は2年半から3年9か月であった.

    2.地域包括ケア病棟での看護について

     特有の実践内容では58コードが抽出され8カテゴリに,苦労・困難では48コードが抽出され10カテゴリに,看護師が認識している必要な実践能力では44コードが抽出され4カテゴリに集約された.

    (考察)

     地域包括ケア病棟の看護師に求められる実践能力として,<患者・家族への支援能力><連携調整力><地域包括ケアシステムを維持・発展させるマネジメント力>の3つの側面から成る,【経過から今後の身体状態の見通しを立て,かかわる力】【退院後を見据え,患者・家族のニーズを見出す力】【患者・家族の望む生活に向けて調整する力】【患者・家族の状況に合わせて,退院に向けて多職種と連携し調整する力】【患者・家族に合った制度やサービスを理解し調整する力】【地域包括ケア病棟の機能を維持していく力】【社会資源の不足や制度の改善の必要性を発信していく力】の7つの実践能力が見い出された.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号2021-16)

    (利益相反)

     本発表内容に関して申告すべきCOI状態はない.

  • 佐伯 恭子, 諏訪 さゆり
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_100
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     2025年の我が国の認知症者数は約700万人,軽度認知障害者は400万人に上ると推計されており,認知症の予防やケアに関する研究を推進していく必要がある.特に,認知症の人本人を対象とした研究の推進が求められている1)が,認知症の人は意思決定能力が無いとみなされ意向を尊重されないことがある.研究においてインフォームド・コンセントを与える能力は,対象者への負担や予測されるリスクとベネフィットとの関係で異なるのであり,認知症だから意思決定能力がないと言い切ることはできない.また,研究は治療とは異なり,本人への利益ではなく将来の患者にとっての利益すなわち社会貢献の側面があり,代諾により研究対象者になることは,他者により社会貢献を強制されていることになる2)

     これらを背景に,本研究の前段階で,認知症の人本人の意向を尊重し,認知症の人が安全に安心して研究に参加できることを目指し,「認知症の人を対象とした看護・介護・リハビリテーション領域の研究における倫理的配慮のためのガイド(以下,ガイド)」を開発した3).本研究では,このガイドをさらに洗練させることを目的にグループインタビューを実施することとした.

    (研究方法)

    1.データ収集方法

     本研究の前段階で作成したガイドに関する意見を求めるグループインタビューを実施した.対象者は,①生命倫理研究者(研究倫理審査委員経験有る者),②認知症の人を対象とした研究を実施・公表した経験のある研究者とし,①②併せて3名の構成で,異なる対象者で2回,いずれもオンラインで実施した.

    2.分析方法

     グループインタビューで得られたデータを逐語録にし,逐語録から,ガイド記載内容の中で分かりにくい部分,加筆や修正が必要な部分に関する語りを抜き出した.抜き出した語りを基に“ 研究者が,認知症の人を対象とした研究を計画,実施するために必要な倫理的配慮を考え実践できる” ようにガイドの修正をおこなった.

    (結果)

    1.対象者の概要

     対象者は6名で,生命倫理研究者2名,リハビリテーション領域の研究者2名,看護領域の研究者2名であった.

    2.ガイドの洗練

     得られた意見は,文章表記に関するもの(誤解を招く表現,使用している言葉の吟味,用語の使用),体裁に関するもの(文字の量,図表挿入の提案),ガイドの構成に関するもの(研究倫理3原則の説明や基本方針の追記,章立ての順序の再考,参考文献の追記)であった.また,全体を通して,ガイドであるからこそ内容の重みを考慮することの指摘があった.研究者からは,認知症の人が対象となる研究の計画・実施における留意点や重要事項に関する具体的な提案があった.

     これらの意見,提案をもとに,ガイドの修正をおこなった.

    (考察)

     本ガイドは,認知症の人本人からインフォームド・コンセントを得ることを目指し,研究に伴い発生する可能性のあるリスクの具体的な想定およびその最小化について検討する必要性があることや,本人への説明方法を十分検討することを強調したものである.今後は,本ガイドの活用に向けて取り組む必要がある.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て実施した.(承認番号2021-27)

    (利益相反)

     本研究において開示すべきCOIは存在しない.

  • 酒巻 裕之, 麻賀 多美代, 麻生 智子, 鈴鹿 祐子, 山中 紗都, 石川 裕子
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_101
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     令和2年の千葉県における高齢化率は27.0 % であり,歯科診療では医科疾患に罹患し服薬している高齢者の受診が多く,その情報をふまえて安全な歯科治療を行う必要がある.「高齢者の医薬品適正使用指針(各論編 療養環境別,2019年)」では,ポリファーマシーに対する多職種連携における歯科衛生士の役割は「口腔内環境や嚥下機能を確認し,薬剤を内服できるかどうか(剤形,服用方法),また薬物有害事象としての嚥下機能低下等の確認」と示されている.

     千葉県立保健医療大学歯科衛生士研修会は,歯科衛生士の人材育成として,令和元年度から歯科衛生学科主催で開催している.第3回目の研修会として,医科疾患を有する高齢者の歯科診療補助に携わる歯科衛生士の人材育成を目的に2021年11月から4回開催した.

     本研究では,研修会終了後に研修会の評価ならびに今後の希望テーマや要望等を明らかにする目的で質問紙調査を行った.質問紙調査結果から,今回実施した歯科衛生士研修会の振返りと,今後開催する研修会の在り方について検討した.

    (研究方法)

     研修会は,千葉県歯科衛生士会と千葉県立保健医療大学歯科衛生学科同窓会の協力を得て募集し(38名の参加者),計4回の研修会を開催した.研修会の内容は以下のとおりである.

     第1回(2021年11月)「高齢者の歯科医療と摂食嚥下機能について」は,歯科医師(障害者歯科専門医)による高齢者歯科医療と高齢者の摂食嚥下機能の特徴についての講義

     第2回(2021年12月)「歯科診療と薬剤,嚥下機能と医薬品との関連について」は,管理薬剤師による高齢者におけるポリファーマシーと嚥下機能と薬剤の関連についての講義

     第3回(2022年1月)「病院歯科口腔外科における高齢者の歯科治療について ―歯科衛生士の役割―」は,病院歯科勤務歯科衛生士による高齢者に特化した病院歯科口腔外科における歯科診療補助と歯科衛生士の役割についての講義

     第4回(2022年2月)「訪問診療における高齢者歯科診療について ―歯科衛生士の役割―」は,訪問診療所勤務歯科衛生士による高齢者の訪問歯科診療における歯科衛生士の役割についての講義

     第4回目の研修会終了後に,参加者に対して郵送法による無記名,一部自記式多肢選択式質問紙調査を行った.質問紙調査項目は,年齢,勤務状況,研修会全体の満足度,研修会前後の振返り,今後の研修会で希望するテーマ,研修会に対する要望について調査した.

    (結果)

     本研修会はWeb 開催で実施し,各研修会の参加者数は23~26名であった.

     質問紙調査では16名の回答を得た.本研修会全体の満足度は「とても満足」10名(62.5 %),「やや満足」4名(25.0 %)であった.研修会前後の変化について,「高齢者歯科医療の特徴」「高齢者の嚥下機能の特徴」「嚥下機能を低下する医薬品」「嚥下機能を改善する医薬品」「高齢者の医薬品適正使用に係る歯科衛生士の役割」の項目,特に後者2項目で研修会後の理解度が向上していた.また回答者すべてが次回の研修会への参加を希望していた.

     本研究は千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認(2021-22)を得て実施した.

    (考察)

     医科疾患を有する高齢者は複数の薬剤を服用していることが多い.本研修会では,歯科医師の講演で高齢者の摂食嚥下機能の特徴が述べられ,管理薬剤師から摂食嚥下機能に影響する薬剤について講義があり,高齢者に特化した病院歯科口腔外科部や訪問診療所に勤務の歯科衛生士から高齢者歯科医療の実践について解説された.質問紙調査から,「高齢者の嚥下機能の特徴」「嚥下機能に影響を及ぼす医薬品」の項目で,研修会により理解度が向上し,歯科治療に来院する高齢者の嚥下機能の問題を内服状況からも考えるきっかけとなったことが推察された.本研究の実施で,高齢者の医薬品適正使用に係る歯科衛生士の役割に関する情報を提供できたと考えられた.

    (利益相反)

     本研究に関連し開示すべき利益相反関係にある企業などははい.

  • 大川 由一, 細山田 康恵, 麻生 智子, 大内 美穂子, 室井 大佑, 松尾 真輔, 佐久間 貴士, 細谷 紀子, 佐伯 恭子, 成 玉恵 ...
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_102
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     2020年現在,千葉県の総人口に占める高齢者の比率は27.0%であるが,2020年から2040年までの75歳以上高齢者人口の増加数は全国第6位となることが見込まれている.生涯現役社会を実現するために,千葉県独自の「介護予防活動普及展開事業」の実践は,住民および医療従事者において喫緊の課題である.本研究は,「介護予防」に焦点化して作成した「新・ほい大健康プログラム」を実施し,地域住民が介護予防のための生活習慣を獲得,継続することをめざした多職種連携プログラムの評価を目的とした.

    (研究方法)

     対象は千葉市内UR真砂第一団地において「新・ほい大健康プログラム」の案内チラシを見て自発的にプログラム参加を申し出て,かつ研究協力に同意した者とした.当初の計画では2021年9月4日,10月2日,10月30日に,①質問紙法による介護予防度,生活習慣改善の継続状況,プログラム評価(満足度,理解度,生活習慣改善の実践・継続の程度),②身体計測,③生活習慣改善の実践や継続状況とプログラム評価の実施を予定していたが,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかわる緊急事態宣言の発出ならびに本学の活動指針「警戒レベル4」の状況により中止となった.その後,緊急事態宣言の解除ならびに警戒レベルの緩和により,11月13日に地域住民を対象に代替プログラムによる運動指導と保健指導を実施した.プログラム終了後に参加者から感想を聴取した.

    (結果)

     代替プログラムは,住民7名(男性2名,女性5名)を対象に実施した.はじめに「今あるあなたの力を保ち育てるために(看護プログラム)」というテーマでロコモシンドローム予防のための運動指導とCOVID-19感染予防対策のための保健指導を行った.運動指導では,片脚立ち,スクワット,骨盤底筋運動,腹部脂肪減少運動を実践した.また,感染予防対策として,体温の測り方と正しい手洗いの方法について指導を行った.次に,「コロナ禍で大切にしたいお口の健康(歯科衛生プログラム)」として誤嚥性肺炎やオーラルフレイル予防について実技とともに保健指導を実施した.主な内容は,マスク着用によるお口の変化,歯磨きの方法,舌の清掃,入れ歯の清掃,お口の機能を守るトレーニング,活舌をよくするトレーニングであった.プログラム実施後の感想では,「学生さんに参加していただきたい(理由:孫と同じ世代と話しがしたい)」「歯科衛生と看護のプログラムでしたので,女性の方から栄養についてもお話ししていただきたい(理由:高齢男性は,自炊ではなく惣菜の購入が多いため,注意してほしい.また,学生さんの参加があれば,プログラムに誘いやすい)」,「プログラム内容に関しては,満足度が高く,参加して良かった」などの意見があった.

    (考察)

     「介護予防」に焦点化した「新・ほい大健康プログラム」は,地域住民の生活習慣の改善のみならず,健康に関する意識の向上,住民同士のネットワーク構築や街づくりにも波及することをめざしており,継続的に実施することで,そのための基礎資料を提示できるものと考えている.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号2021-07).

    (利益相反)

     本研究における開示すべきCOI 関係にある企業等はない.

  • 麻賀 多美代, 佐藤 紀子, 細山田 康恵, 岡村 太郎, 大川 由一
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_103
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     本学に併設されている歯科診療室は,地域住民のかかりつけ歯科診療所としての役割を担っており,その患者の多くは65歳以上の高齢者である.

     新型コロナウイルス感染症の影響により,高齢者の健康を損ねることが懸念されていることから,本学の社会貢献事業として,歯科診療室を活用した多職種連携による健康教室を実施した.本研究では,各プログラムに対する参加者の反応を調べ,歯科診療室を活用した健康増進プログラムの効果を検討することを目的とした.

    (研究方法)

     参加者募集は歯科診療室内のポスター掲示,本学ホームページ掲載により行った.健康教室は2021年11月から翌年2月まで計4回実施し,各回の担当は,第1回歯科衛生学科,第2回栄養学科,第3回リハビリテーション学科(作業療法学専攻,理学療法学専攻),第4回看護学科とした.

     参加者には健康教室終了時に健康教室についての質問紙調査を実施した.調査では各学科専攻で実施したプログラム内容について,「良かった項目」等の回答(複数回答を含む)を依頼した.

    (結果および考察)

     健康教室の参加者は男性3名,女性10名の計13名で,平均年齢は76.9歳であった.参加回数は4回75% ,3回8.3% ,2回16.7%で,質問紙調査の回答件数は,第1回11件,第2回12件,第31回11件,第4回12件であった.

     歯科衛生学科のプログラムでは,口腔機能の測定,オーラルフレイル予防に関する講話および口腔体操を行った.質問紙調査で参加者が良かったと回答した項目は,口腔機能測定の測定ができたこと(100%),オーラルフレイル予防が学べたこと(91%)であった.

     栄養学科のプログラムでは,「はつらつ生活のための食事について」の講話と絵カードを用いて昨日の食事内容について確認を行った.良かったと回答した項目では,食事内容の確認により食事を考える機会になった(83.3%)が最も多かった.

     作業療法専攻のプログラムでは,「転倒予防について」の講話と低価格で揃えられる転倒予防に繋がる商品の紹介を行った.良かった項目は,転倒予防のための注意点(45.5%),居住する周辺環境を考える機会になった(45.5%)であった.

     理学療法専攻のプログラムでは,「いつまでも自分の足で歩きましょう」をテーマにロコモ度測定とロコモ予防トレーニングを行った.良かった項目は,ロコモ度測定ができたこと(100%),ロコモ予防に関する講義(81.8%)であった.

     看護学科のプログラムでは,「セルフケアでフレイルを予防しよう」をテーマに講話と日常の健康管理について参加者同士で情報交換を行った.良かった項目は,誤嚥性肺炎について学べたこと(83.3%),参加者と話す機会ができたこと(66.8%)であった.

     調査結果より,自分の今の口腔機能や身体機能の状態を知ること,自分自身の生活を振り返る内容,参加者同士の情報交換などが,満足度が高く主体的に学べる内容であったといえる.これらの結果を,今後の歯科診療室を活用した健康増進プログラムの企画に反映させていきたい.

    (倫理的配慮)

     本研究は,本学倫理審査委員会の承認(申請番号2021-24)を得て実施した.

    (利益相反)

     発表に関して申告すべきCOIはない.

    (謝辞)

     本研究を遂行するにあたり,ご協力いただきました,元栄養学科河野公子先生,リハビリテーション学科理学療法専攻江戸優裕先生,同作業療法学専攻成田悠哉先生,そして,歯科衛生学科の先生方に深く感謝申し上げます.

令和2年度学長裁量研究抄録
  • 酒巻 裕之, 麻賀 多美代, 荒川 真, 麻生 智子, 鈴鹿 祐子, 岡村 太郎
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_104
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     糖尿病と歯周病の診療における共通点は,両者とも治癒しない慢性疾患で自覚症状に乏しく受診に至らなかったり,受診が継続しなかったりすることである.糖尿病診療ではコーチングが導入されているが,歯科領域ではコーチングに関する報告は少ない.

     われわれは,歯科医療の現場の歯科衛生士を対象に,歯科保健指導においてコーチング手法を活用することを目標とし,第2回千葉県立保健医療大学歯科衛生士研修会(以下,研修会)を実施した.本研究では,研修会終了後に研修会の評価ならびに今後の希望テーマや要望等を明らかにする目的で質問紙調査を行った.質問紙調査結果から,今回実施した歯科衛生士研修会の振返りと,今後開催する研修会の在り方について検討した.

    (研究方法)

     研修会は,千葉県歯科衛生士会と千葉県立保健医療大学歯科衛生学科同窓会の協力を得て参加者を募集し(32名の参加者),令和3年2~5月に計4回の研修会を実施した.

     第1回目「糖尿病に関する知識」医師(糖尿病専門医,コーチングインストラクター)により,糖尿病の病態や治療法について

     第2回目「コーチングについて」第1回と同一講師によりコーチングの概要,慢性疾患へのコーチングの活用について

     第3回目「歯周病に関する知識」歯科医師(歯周治療担当)により,日本歯周病学会のガイドラインを基に歯周病の特徴について

     第4回目「行動から認知度を把握する方法」作業療法士(作業療法士養成校教員)により,歯磨き中の対象者の様子からその対象者の認知レベルに合わせた歯科保健指導法についてであった.

     以上の研修会終了後に,参加者に対して郵送法による無記名,一部記入式多肢選択式質問紙調査を行った.質問紙調査項目は,年齢,勤務状況,研修会全体の満足度,各項目の満足度,次回以降の研修会で希望するテーマ,研修会に対する要望とした.

     本研究は千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認(2020-13)を得て実施した.

    (結果)

     令和2年度の本研修会は当初,対面の研修会として,血糖値の簡易測定等の演習やコーチングのロールプレイ等を計画していた.しかし,新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況からWeb 開催に変更し,演習やロールプレイを中止した.

     研修会後に実施した質問紙調査の対象は24名で19名(79.2 %)から回答を得た.主な調査結果について研修会の全体的満足度は「とても満足」13名(68.4%),「やや満足」6名(31.5%)で,理由は参加しやすい時間帯だった,興味のあるコーチングについて学ぶことができた等であった.希望するテーマは高齢者歯科,全身疾患,摂食嚥下機能,多職種連携等が挙げられた.

    (考察)

     歯科衛生学科では大学の社会貢献の一つに,歯科衛生士の人材育成として,令和元年度から勤務する歯科衛生士を対象に研修会を開催している.令和2年度の研修会は,新型コロナウイルス感染症の感染状況により,演習を含む対面形式からWeb 研修会に変更し,3か月遅れで実施することができた.研修会を継続して対象者がより有意義な情報を得るために,質問紙調査結果から研修会の在り方について検討したところ,Web による研修は新型コロナ感染症に対する感染に対して安全であり,内容については,コーチングについて興味ある内容で,歯周病患者等の歯科保健指導や教育に活用でき,有意義な研修会であったと推察された.参加歯科衛生士が臨床の場で実際にコーチングを活用して歯科保健指導を実践することを望むものである.

     今後開催する研修会については,参加者の要望をふまえて,参加者が参加しやすいように日程調整をし,高齢者歯科医療等,順序性を有するテーマで研修会を実施する所存である.

    (利益相反)

    本研究に関連し開示すべき利益相反関係にある企業などははい.

  • -批判的分析に資する「自己の考えの意識化」を意図するガイド項目の使用状況と影響-
    雨宮 有子, 佐藤 紀子, 細谷 紀子, 杉本 健太郎
    2023 年 14 巻 1 号 p. 1_105
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/22
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     我々は,新人保健師がリフレクション力を身に付けることが現任教育上の重要なニーズであることを見出し,2014年から「新任期保健師リフレクション力育成プログラム」(以下プログラム)を実施してきた.2019年には,プログラムにおいて効果的なファシリテーションを導くガイド(以下ガイド)案を,先行研究を基に作成し導入した結果,リフレクションに必要なスキルの一つである「批判的分析」を進めるための「自己の考えの意識化」が課題と考えられた.ここでは,批判的分析に資する「自己の考えの意識化」を意図するガイド案項目の使用状況と,その影響を明らかにしガイド案改良への示唆を得る.

    (研究方法)

    1.プログラム内容:地方自治体へ就職後3年未満の保健師を対象に,ガイド案を用いたプログラムを実施した.プログラムでは2か月毎に3回,気になっている個別支援について事前にワークシートに記述した上で,ファシリテーターを含め4~6名でグループ・リフレクションを行った.

    2.ガイド案:6つの柱で構成した.その内1つを「リフレクション促進のための具体的な進め方・問いかけ」として,批判的分析を促進するための項目5つを位置づけた.その中に,自己の考えの意識化を意図する項目「何が,このような影響や状況を起こしたと思いますか」(以下,考え意識化項目)を含めた.ガイド案はグループ・リフレクションで使用することとし,「リフレクション促進のための具体的な進め方・問いかけ」の部分は初回に参加者にも共有し活用を促した.なお,「考え意識化項目」は,参加者が事前に記述するワークシートの項目に含まれている.

    3.データ収集・分析:全回参加者のグループ・リフレクション内容の逐語録とワークシートにおいて,ファシリテーターが「考え意識化項目」を使用したと認識した部分及び参加者が自己の考えを意識化した部分を担当したファシリテーター自身が抽出した.そして,そこに至るプロセスを踏まえ「考え意識化項目」の使用状況と影響として整理した.

    (結果)

    1.「考え意識化項目」の使用回数

     ファシリテーターが「考え意識化項目」を使用したと認識した対象は,全回参加者6名の内5名だった.使用回数はファシリテーターにより1回から6回まで差があった.全体として回を追うごとに使用回数が増えていた.

    2.「考え意識化項目」の使用状況と影響

     自己の考えを意識化した部分があった参加者は5名だった.参加者aは初回事前課題ワークシートに記載があった.参加者a・d・e・fは2又は3回目の事前課題ワークシートに記載があった.

     グループワークにおいて参加者が自己の考えを意識化した部分では,それに先行してファシリテーターが「考え意識化項目」を用いた発言と共に,参加者が発言した内容に関するティーチング(アセスメント視点や内容,具体的方法,状況判断等),意味づけ,又は参加者の変化・成長への承認・称賛を行っていた.また,状態や行為のみの発言に対し,その理由やそこからの学びを質問していた.「考え意識化項目」を意図しないティーチングも含まれた.

     一方で,ファシリテーターが「考え意識化項目」を使用したと認識していても,上段のティーチングや称賛等を行わず,参加者が発言していないことに関するファシリテーターの考えを単に述べている場合又はガイド項目をそのまま発言した場合には,参加者が考えを意識化した部分はなかった.

    (考察)

     「自己の考えの意識化」を促進するために,グループ・リフレクションにおいて,ティーチングや称賛・承認等を先行させながら「考え意識化項目」を使用する機会を増やすことが必要と考えられた.ワークシートにおける「考え意識化項目」と合わせて効果を狙うことも有効と考えられた.これらの視点を包含したガイド案への改良が必要である.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(2019-18).

     (利益相反)

     開示すべきCOI関係にある企業等はありません.

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