-
エジプト、アレクサンドリアのソハーグ県出身者を事例として
岡戸 真幸
p.
65
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本発表は、上エジプトのソハーグ県に出自を持つアレクサンドリアへの移住者やその子孫が、同地で行われ、同郷出身者が催す葬儀に参列する事例を分析し、彼らが都市に移住した後にどのようにお互いの人間関係を取り結んでいるかを考察する。エジプトで、葬儀がどのように行われ、同郷出身者がそれをどう位置づけているかを明確にする。また、葬儀が、会葬者同士の交流の場ともなり、死者への哀悼の場以上の意味を持つことを示す。
抄録全体を表示
-
日韓の代理出産にみる家族主義の比較研究
渕上 恭子
p.
66
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
生殖技術のあり方が問われる中、商業的代理出産に対する法規制が求められる一方で、親族間の無償の代理出産は容認される向きがある。そうした傾向は韓国や日本でもみられるが、韓国で親族間代理出産の担い手が不妊女性の義理の姉妹となっているのに対し、日本では実母となっている。本報告で両国の親族間代理出産の背景にある父権制的/母権制的家族主義の伝統に焦点を当て、日韓の代理出産をめぐる論点を比較検討したい。
抄録全体を表示
-
アラスカ州バロー村の事例
岸上 伸啓
p.
67
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
アメリカ合衆国アラスカ州北西部に住む先住民イヌピアックは、先住民生存捕鯨を実施している。彼らは、春季の捕鯨が終了すると、捕鯨に成功したボート・グループは、アプガウティと呼ばれるボートを陸に揚げる祭りを行っている。この報告では、2009年6月に実施されたバロー村での祭りを事例として、準備や食物分配について報告し、この祭りのもつ社会経済的な効果について検討を加える。
抄録全体を表示
-
パプアニューギニア・テワーダにおけるウナギ漁の事例から
田所 聖志
p.
68
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本発表では、パプアニューギニアの農耕民テワーダにおけるウナギ漁の民族誌を取りあげ、漁法をめぐる語りから、獲物である魚へも人間性(humanity)が拡げられていることを示し、人間と魚とが連続性をもった存在と見なされていることを明らかにする。そして、私たちにとっては、魚は人間をとりまく生態環境の一部である一方、テワーダの視点に従えば、魚と人間を切り離し、自然と社会を分断して概念化できないと指摘する。
抄録全体を表示
-
存在論からのアプローチ
近藤 祉秋
p.
69
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
現在、文化人類学と関係領域に属する一部の研究者の間で、自然と社会という二元論が批判され始めるようになって久しい。しかし、動物と人間の関係を考える際に、このような二元論に基づかない研究をいかに進めるかについては、コンセンサスがとれていないのが現状である。本発表では、「存在論」概念を利用した先行研究をもとに、いかにして自然と社会の二元論に基づかないような動物-人間関係の研究が可能であるか、検討したい。
抄録全体を表示
-
メディアをめぐる生活史という視座
田中 正隆
p.
70
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本報告は民主化以降のベナンにおけるメディア、とくにラジオ放送の現状を紹介し、社会情勢について考察する。半世紀のあいだに実に100倍にも浸透したラジオをとおしてアフリカ文化は幅広く放送され、また放送文化からアフリカはさまざまな影響をうけてきた。だが、地域社会での調査に基づいたメディア研究は、十分な蓄積があるとはいえない。本報告はとくにジャーナリストの生活史からメディアの抱える問題を明らかにする。
抄録全体を表示
-
中国におけるプロテスタント教会の事例から
村上 志保
p.
71
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本発表では、中国におけるプロテスタント教会を対象とし、信仰とそれを取り巻く政治的、社会的環境の相互関係について論じる。特に、あるべき信仰の姿勢を示す「属霊」をキーワードとし、国家と教会、宗教政策によって区分される公認教会と非公認教会といった制度的関係性の中で信仰はいかに語られるのか、さらに経済発展や都市化などの社会環境の変化という新たな文脈の中で信仰はいかに位置づけられてゆくのかを論じる。
抄録全体を表示
-
高野 さやか
p.
72
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本発表では、インドネシアの地方裁判所を対象に、国際的な法整備支援の一環として導入されたADR(裁判外紛争処理)と、それに対する反応について論じる。ADRの広がりにともなって慣習法を再評価する動きがあることを指摘したうえで、インドネシアにおいて慣習法の訳語として一般的に使われているアダットの多義性について述べ、地裁における日常的業務から、当事者が「裁かれる」過程についても触れたい。
抄録全体を表示
-
アフリカ系アメリカ人による社会運動の境界をめぐって
小池 郁子
p.
73
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本発表の目的は、アフリカ系アメリカ人の社会運動である、オリシャ崇拝運動を複数の文化が接触している領域として捉え直し、そこで民族、宗教、思想がどのように交錯しているのかを明らかにすることである。具体的には、オリシャ崇拝と呼ばれる宗教実践が、サンテリア(キューバのアフリカ系宗教)とどのような位置関係にあるのか、さらに、崇拝者は必要に応じて二つの実践の関係をいかに変化させようと試みているのかを考察する。
抄録全体を表示
-
欧州長距離歩道トレッキングあるいはサンティアゴへの徒歩巡礼を中心に
土井 清美
p.
75
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
余暇活動には、スポーツ等、時として真剣に営まれるアクティビティも含まれる。本発表では、欧州長距離歩道European long-distance pathsまたはサンティアゴ巡礼路El Camino de Santiagoでのトレッキング/徒歩巡礼をこれらのアクティビティの延長線上に位置づけ、秩序や宗教的なイデオロギーの身体化とは異なる「徳性のようなもの」がそこで生成される様相を事例を通して検討する。
抄録全体を表示
-
科学的合理性を揺るがす
春日 匠
p.
76
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
文化人類学が「科学」を対象にする機会が増えてきたと言える。重要な論点は、科学技術が依拠してきた普遍性、合理性の再編成を迫るという点である。これは、理論面と民主的な政策決定という実践面の双方から非常に重要である。ここでは、まず遺伝子組換え作物をめぐる議論を振り返り、ローカルな局面で「作動する科学」について検討する。次に、参加型民主制という文脈において、人類学がどのように応用性を持つか検討する。
抄録全体を表示
-
英国陸軍・退役グルカ兵の市民権取得をめぐる論争についての分析
上杉 妙子
p.
77
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本発表は英軍を退役したネパール人兵士(グルカ兵)の英国市民権取得をめぐる論争を分析することにより、移動の時代の市民権と軍務の関わりについて考える。移動の時代の市民社会は、コアとなる市民の周りを市民権取得の候補者が幾層にもわたってとりまくという玉葱型の構造をなしている。候補者に優先順位をつける際には、軍務という、ネオ・リベラルな政策やコスモポリタン的な議論の中で忘れられがちな要素が、顕在化する。
抄録全体を表示
-
ダゴンバ人社会のシアナッツ収穫の事例より
友松 夕香
p.
78
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
地域社会で重要な樹木資源には、所有や分配のあり方を規定する制度が存在する場合がある。本報告では、ガーナ北部ダゴンバ人集落の女性の間でみられるシアナッツの収穫権を再分配する慣行に着目する。収穫権利が再分配される背景や条件を、資源量、控除性、分配規範、投下労働の原則、土着樹木への文化的信仰、排除性、シアナッツおよび収穫の生態的特性から考察する。
抄録全体を表示
-
米国南西部先住民ズニによる”Creating Collaborative Catalog”プロジェクト
伊藤 敦規
p.
79
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本発表の目的は、現代アメリカ南西部先住民ズニによる、民族学博物館収蔵資料の管理情報共有に向けたプロジェクトの概要報告にある。ズニ関連資料の交渉窓口を担うズニ博物館は、現在『協働カタログ制作プロジェクト』を展開中である。これは、一部の農耕技術やアート制作の技術といった、失われつつある彼らの伝統的知識を、米国内外の民族学博物館が収蔵する資料を用いて若い世代に伝えていく機会を確保することにある。
抄録全体を表示
-
身分としてのカーストから職能としてのカーストへ
中川 加奈子
p.
80
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本発表では、ネパールのカースト制度のもとで、主に家畜の屠殺解体・食肉販売を請け負ってきたカドギ(Khadgi)を対象に、ネパールの民主化・近代化がすすむ中、カドギ社会がどのように変容してきたのか、また、近年の情勢の変化をカドギ自身はどのように解釈し交渉を図ってきたのか、その過程を明らかにすることを目的とする。
抄録全体を表示
-
個体性、日常性、持続性
チムディン シンジルト
p.
82
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本発表は、[1]牧畜民社会である青海省河南蒙旗で展開するツェタルという家畜を聖別する現象を概観、[2]当現象にみられる個体性、日常性、持続性といった特徴を抽出、[3]こうした特徴をツェタルに類似すると考えられる中国や日本の放生と比較することで、[4]牧畜民社会における自然と人間の関係の輪郭を浮き彫りにしようする試みである。
抄録全体を表示
-
統治と選択
松尾 瑞穂
p.
83
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本発表は、統計学やセンサスの発達と密接に関連して誕生した「人口」というものが、社会や経済の発展にとっての主要なリスクとして、統治および管理の対象となる過程を取り上げる。そのうえで、国際社会や政府がリスクとして捉えていく全体としての「人口」と、産児制限を実施し、自らの子どもの数を選択、決定していく人びとの世帯戦略との間に見出されるリスクをめぐる認知の齟齬や接合を論じるものである。
抄録全体を表示
-
カンボジア・コンポントム州AS孤児院生の生きる親子の観念と実際
西田 季里
p.
84
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本発表は、カンボジアの公立孤児院で生活する孤児院生を対象に、2007年5月~10月に行った観察調査をもとに、孤児院生を取り巻く「親」たち(呼び方に「親」がつく他者たち、「親」という社会的関係で結びつけられる他者たち)と、孤児院生との間に観察される相互作用および、孤児院生たちが持つ親子の観念との齟齬及びそのズレに注目する。
抄録全体を表示
-
ソロモン諸島マライタ島北部の「海の民」ラウとその人工島居住の事例に即して
里見 龍樹
p.
85
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
非単系的親族組織の下での居住地や集団帰属の柔軟性・流動性が指摘されてきたメラネシア地域の研究史において、移住という問題は独自の位置を占めてきた。本報告では、人工島と呼ばれる特徴的な居住形態をもち、今日の社会動態を潜在的・顕在的ないくつもの意味での移住者として生きているソロモン諸島マライタ島北部の「海の民」ラウを事例に、メラネシアにおける過去・現在の移住の問題を検討する。
抄録全体を表示
-
日光山輪王寺の秘曲舞
長島 節五
p.
86
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
この舞は自覚大師円仁が唐から招来した秘曲舞と伝えられている。諸仏諸神の供養のために舞を奉り、天下泰平、国土安穏、延年長寿を希う神仏のために舞う舞である。
抄録全体を表示
-
下茂 英輔
p.
87
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本発表では、ポストエスニックなアイデンティティを持つカナダにおける日本人移住者に焦点を当て、「日本人性(Japaneseness)」が持つ意味、その活用の技法について報告する。事例として、ある日本人芸術家を取り上げ、彼の活動を「資源」という側面から検証する。考察の結果、エスニシティの資源化の過程において、「白人性(Whiteness)」の獲得及び「代替エスニック資源」が重要な要素であることが明らかとなった。
抄録全体を表示
-
余 志清
p.
88
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
中国貴州省貴陽市周辺に居住しているプイ族の間に、自分の祖先が「江西省吉安府朱市巷から来た」という「祖先移住伝説」が広く伝わっている。一方では、人が死んだら、自民族の祖先のいるところへ帰るという観念が葬送儀礼の多くの場面で強調されている。この祖先のいるところは、江西省ではなく、自民族の発祥地である。本発表は、プイ族の重層的な祖先観念とその発生背景について考察し、その意味について検討していく。
抄録全体を表示
-
大川 謙作
p.
89
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本発表はチベット仏教とチベット族、漢族をめぐる複雑な相互作用を歴史的に振りかえることで近現代中国におけるチベット仏教の位相を再考するためのごく予備的な試みである。具体的にはチベット仏教がチベットにおけるナショナリズムの凝集力となっているという広く共有されている認識を具体的な歴史過程から再考し、こうした単純な図式から抜け落ちるものを歴史的に拾い上げていく作業を行うものである。
抄録全体を表示
-
深田 淳太郎
p.
90
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
トーライ人は貝殻貨幣タブを、モノの売買、婚資の支払など多様な用途で使う。だが、タブがロロイという形態になると、彼らはそれを使えなくなる。モノも買えず、婚資も支払えない。ロロイはただ持ち続けるだけの貨幣である。トーライ人は勤勉・倹約に努め、その使えない貨幣を大きくすることに力を尽くし、そして、それを使わないままに死んでいく。本発表ではこの使えない貨幣とトーライ人の一生涯の関係について考察する。
抄録全体を表示
-
松村 直樹
p.
91
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
バングラデシュでは、地下水砒素汚染が住民の生活を脅かす大きな問題となっており、全国で約3500万人が砒素曝露のリスク下にあると試算されている。しかしこの問題も、誰の視点から見るかという立ち位置によって問題の現れ方や捉え方が大きく異なる。本報告では国際協力支援側と当事者間とのリスク認識のずれに焦点を当て、特に砒素汚染村の住民や村医らの語りの分析を通じて、住民の日常生活にとっての砒素汚染問題とは何かについて明らかにすることを試みる。
抄録全体を表示
-
寧夏回族自治区銀川市における宗教政策と清真寺
澤井 充生
p.
92
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本発表では、中国共産党政権下の宗教の具体的諸相を民族誌的資料にもとづいて記述し、宗教をいとなむ人々が自分たちの理想社会の実現にむけて中国共産党との力関係を調整する過程を分析する。具体例として、寧夏回族自治区における宗教管理機構と清真寺(モスク)がくりひろげる政治学(ポリティクス)に焦点をあわせ、中国共産党政権下に生きるムスリムの姿を描写し、中国の「国家・宗教関係」を再考する。
抄録全体を表示
-
―延辺で使用されている教科書を事例に―
尹 紅花
p.
93
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
中国の少数民族は、社会から漢族に近い漢語の知識が求められている。そのために試行錯誤しながら、様々な改革が行われた。漢語問題は、少数民族にとって避けることのできない深刻な死活問題でもある。本発表は、中国朝鮮族の漢語教育を、延辺自治州を事例にして、現在使用されている教科書を中心に分析したものである。その内容には、朝鮮語と漢語の時間割の変化、漢語教育の目標の変化、漢語検定方法の変化に関する分析がある。
抄録全体を表示
-
コミュニティ・ジャスティスを中心に
久保 秀雄
p.
94
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
法学と人類学は多くの接点をもつ。とりわけオルタナティブ・ジャスティスは、人類学の影響を受けて法学で注目を集め、今や世界のさまざまな地域に普及している。本報告では、そうしたオルタナティブ・ジャスティスの原点であるコミュニティ・ジャスティスを取り上げる。そして、コミュニティ・ジャスティスをめぐって人類学が法学にどのような影響を与え、その後どのように政策的に活用されていったのかを明らかにする。
抄録全体を表示
-
中国雲南省大理ぺー族自治州鶴慶県における民族観光村の事例
雨森 直也
p.
95
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本発表では、観光開発以前から作られてきたペー族の工芸品である銀加工品が、観光開発にともなってブランド化してきたが、それは、長年にわたって作られてきた歴史にもとづいた技術の高さを表したものである。しかし、それは村としての意識の強さを表す一方で、民族としての意識の低さの双方を表していることを議論する。
抄録全体を表示
-
ポスト社会主義スロヴァキア村落を事例として
神原 ゆうこ
p.
96
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本報告では中欧の旧社会主義国の一つであるスロヴァキアの村落地域における「自治」を事例として取り挙げる。この「自治」とは地方分権化によって村落に与えられた「自治」のことであり、体制転換以降、厳しい経済状況下にある村落において、経済問題と直結して、人々の市場経済への適応能力を問うものであった。この「自治」が人々の間に亀裂をもたらす一方で、新たな制度として土地に根付く過程を考察する。
抄録全体を表示
-
法学から人類学への問いかけ
河村 有教
p.
97
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
人類学におけるそれぞれの社会の犯罪という現象及び犯罪解決のあり方に関する研究は、その社会の文脈で語られるにとどまり、法学で議論されている「修復的司法論」との関係がはっきりしない。法学者が語る修復的司法の意義を人類学者はどのように考えるのか。それは、ADRについて人類学者がどのように考えるのかという問いにも重なる。修復的司法とそれぞれの社会における犯罪解決のあり方との関係(「オルタナティブ」)についてどのように考えるのか法学の立場から検討する。
抄録全体を表示
-
ケニア・エンブ社会の動態とマウマウ戦争
松岡 陽子
p.
98
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
ケニア・エンブ社会では近年、多くの男性が家族を扶養することを放棄し、その結果シングルマザーが増大している。これらを調停する機関や権威は今では見当たらず、社会の土台をなす家族が現在揺れ動いている。このような状況を生みだした背景として、半世紀前のマウマウ戦争と土地改革があげられるが、本発表では婚姻状況を手掛かりに、歴史が既存文化を破壊し、歪な形で現在のエンブ社会が構築されたその過程を追究する。
抄録全体を表示
-
メノナイトとアフリカ
石田 慎一郎
p.
99
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
ケニアの事例をもとに、オルタナティブ・ジャスティスの実践とメノナイトの平和思想との関係に注目する。両者の関係については、修復的司法や紛争転換論についてメノナイト知識人が提唱者と認知されていることなどが注目される。だが、本発表では、メノナイトの思想が、一貫性のあるかたちでオルタナティブ・ジャスティスの世界的動向に反映されているとは考えない。両者の接点を〈布教〉ではなく〈合流〉によるものととらえる。
抄録全体を表示
-
米国黒人ペンテコステ派教会の憑依トランスダンスの事例より
野澤 豊一
p.
100
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
米国の黒人教会における憑依トランスダンスは、それまではかなり多様だったものが、比較的近年になってある傾向のもとに収斂してきているようにみえる。本発表では、新旧両タイプのダンスの表現様式(これについては映像を用いる)とその大まかな分布を報告し、新タイプのダンスの特徴についてまとめる。その上で、「黒人的」とされる現在の表現様式がいかに進化し広まったかについての過程を、仮説的に述べる。
抄録全体を表示
-
ペルー・クスコの都市部におけるクランデーロの事例から
岡本 年正
p.
101
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
ペルー・クスコの都市部では、あいまいな憑依が存在する。ここでは暗闇の中でクランデーロが憑依され、その場にいる人々にはその憑依は見えない。あまりにあいまいな憑依であるが、真偽は問われず成立している。そこでは被憑依者とそれに参加する人々のそれぞれの内に憑き物が作り出され、憑依に対する認識にズレが生じているといえる。それによりこの憑依のあいまい性、そして憑依そのものが成立しているということを検討する。
抄録全体を表示
-
その反サンスクリット的な変容をめぐって
澁谷 俊樹
p.
102
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
カルカッタの神像制作地を調査してきた結果、神々の年中儀礼における神像に、様々な変異が見出されることが確認された。神像の変異の大部分は、「サンスクリット化」と「近代化」によって特徴付けられる。しかしながら、秋季のカーリー女神祭祀の間、ある地区の商人組合が組織する複数の仮設寺院において、上述とは相反する傾向を示すコミュニティが数多く見出された。報告では、その特異性について、サンスクリット化の議論との対比において証明する。
抄録全体を表示
-
―トランシルヴァニアにおけるジプシー音楽の引き起こす経験について―
林 美鈴
p.
103
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本発表はルーマニア、トランシルヴァニア地方のジプシーミュージシャンを軸に彼らと彼らの音楽を支持する人々を中心とした人間関係や社会状況についての現地調査に基づいたものである。パフォーマンス時やその前後における人間関係に注目しながら、そこで生じる音楽の作用を考察することで、音楽と人間の関係性について検討する。
抄録全体を表示
-
針塚 瑞樹
p.
105
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
なぜ、子どもは人類学の研究対象として、正面から取り上げられてこなかったのだろうか。この問いは、人類学が自明なものとして想定してきた文化の担い手について再考を促すという意味で、人類学に新たな気づきをもたらす問いであると考える。本報告の目的は、「子ども期」の本質性と異質性を考究する「子ども研究としての人類学」を考えることによりもたらされる、子ども研究と人類学の拡張可能性について検討することである。
抄録全体を表示
-
片岡 樹
p.
106
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本報告では、キリスト教神学の分野におけるいくつかの論争に着目することで、それが我々の考える以上に人類学の問題意識に接近していること、またそれらのいくつかは、今日の人類学による宗教論を考える上で示唆的なヒントを含んでいることを示し、そのヒントをどう活かしていくことができるかを考える。ここでは主に、宗教多元主義論争と土着化神学論争をとりあげ、それと人類学の問題系との平行関係を考えることにする。
抄録全体を表示
-
合気柔術と琉球古流空手を事例として
原尻 英樹
p.
107
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
合気柔術及び古流空手ともども丹田を中心としたところで、球体あるいは螺旋形の動きをおこし、その波動を自らの末端まで伝え、それを相手に伝えることで技にしていることがわかる。研究方法の第一前提は、操作的に近代的身体と前近代的身体を分けることである。次に、研究者自らが技の修得をする必要がある。また、これまでの代表的な身体論研究における研究方法についての問題点とその克服方法についても考察する。
抄録全体を表示
-
本夫殺害事件報道について
大石 和世
p.
108
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本発表では、植民地朝鮮において、公共圏から排除された人々をも包摂するような公共性の様相について検討する。検討の対象は1920年代から30年代にかけて多発した夫殺し報道である。その中でも、1924年に世間の注目を集めた本夫殺害美人K事件を中心に取り上げる。このK事件を分析し、近代的メディアである司法制度と新聞がどのようにして民衆的な祝祭へと転化していったのか、その成立条件とは何かについて検討したい。
抄録全体を表示
-
ニューギニア高地の調停と村落裁判の事例から
深川 宏樹
p.
109
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本発表では、パプアニューギニア高地エンガ州における調停と村落裁判の事例の対比から、もめごとを処理する過程で当事者の怒りがいかにコントロールされるかを検討する。人々は調停が社会関係を修復し、村落裁判が社会関係を悪化させると語る。2つのもめごとの処理の方法では、怒りの表現の仕方や取り扱い方が対照的である。調停は怒りを解放し解消するのに対して、村落裁判は怒りを抑圧し、蓄積、増幅させるのである。
抄録全体を表示
-
マレーシアにおける商業植林と在地コミュニティの環境史
加藤 裕美
p.
110
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
近年、地球温暖化が深刻になるにつれて、石油に代わるバイオ燃料としてアブラヤシが注目されている。マレーシアでは1990年代初頭よりプランテーション化が進み、と森林資源に依拠してきた在地コミュニティへの影響が問題視されている。本研究では、プランテーションに隣接するコミュニティを対象に、人々の生業経済や社会関係を分析することにより、在地社会とプランテーション進出の相関について理解することを目的とする。
抄録全体を表示
-
ウランバートル市ゲル地区の街路改善プロジェクトから
滝口 良
p.
111
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
モンゴル国ウランバートル市の周辺部に広がるゲル地区における土地利用管理と地域住民の関係を主題とする。社会主義体制崩壊後、ウランバートル市は急速な人口集中により無秩序な土地利用が拡大してきた。本調査は、こうした土地利用を改善するために現在実施されている二つのプロジェクトを調査し、ウランバートル市における土地利用と地域住民との関係を明らかにすることを目的とする。
抄録全体を表示
-
「文化遺産」化の過程と観光資源化
田中 英資
p.
112
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本論文は、考古遺跡やそこからの出土品の「文化遺産(heritage)」化と観光化の関係について検討する。特に、文化遺産としての意義と観光が、国家や考古学者、地元の人々など、そうした遺産の扱いに利害関心を持つ集団の交渉の中でどのように結びついてくるのか、そのなかで文化遺産のどのような価値が強調されているのかについて考察する。
抄録全体を表示
-
1990年から20年間の保健室を事例に
久保 千恵子
p.
113
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
現代の保健室は、子どもであふれている場である。教室ではなく、保健室にやってくる子どもたちを通して、社会が見えてくるのではと考え、今の保健室を読み解くことにした。「無視されるのが嫌」や「普通に勉強が分かるようになりたい」という子どもの言葉、「安心して家に帰したい」という養護教諭の言葉から、子どもの置かれている状況が見え、学校や社会の問題を考察した。
抄録全体を表示
-
カンボジア、ラオ村落社会における「伝える」行為の事例から
山崎 寿美子
p.
115
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
カンボジアのラオ村落においては、「親愛し合う」と表現される人間関係の調和が強調される。人々は具体的行為によって相手との社会的距離を測る。本発表では、世帯の儀礼に招待するための「伝える」行為に着目し、その場面で二者関係の状態が可視化される過程を明らかにする。その際、予測可能性と意図に留意すると、儀礼への招待が、二者関係の調和を再生産すると同時に、動揺や新たな関係を生み出す起点ともなることを指摘する。
抄録全体を表示
-
真崎 克彦
p.
116
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
「開発の人類学」は開発実務の「役に立たない」と考えられがちである。しかし、実務者は、開発主義の陥穽について考えたことがないわけではないし、それが全く気にならないわけでもないので、実際には開発言説に行為遂行的に応じることがある。その意味で、開発の是非を根本から問う「開発の人類学」は実務者の「役に立つ」こともあり、オルターティブな開発像を再構築しなければ文化人類学は「役に立たない」とは限らない。
抄録全体を表示
-
臓器の経済的調整をめぐって
山崎 吾郎
p.
117
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本発表では、臓器のやり取りやその配分の方法に着目しながら、経済的に調整された医療行為が、人間の身体にいかなる価値を見出そうとしているのかを取り上げる。そして、売買や贈与といった古典的なカテゴリーが、生経済(バイオエコノミー)と呼ばれる新たな経済領域の中で、独自に再編されて組み込まれていく様子をとらえる。
抄録全体を表示
-
北部タイ・HIV/AIDS感染者の身体構築と空間利用をめぐって
日野 智豪
p.
118
発行日: 2010年
公開日: 2010/12/20
会議録・要旨集
フリー
本発表ではチェンマイ県メーオン郡立病院で2004年7月より開始されたHIV/AIDS感染者に対する鍼灸治療プロジェクトを事例として取りあげ、「医療者―病者」間関係を手がかりに感染者の鍼灸治療に対する受容と拒絶、医療者のHIV/AIDS治療への取り組みという双方から検討することで、HIV/AIDS治療における鍼灸治療の位置づけを明らかにする。
抄録全体を表示